目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:原菜乃華, 出演:松村北斗, 出演:深津絵里, 出演:染谷将太, 出演:伊藤沙莉, 出演:花瀬琴音, 出演:花澤香菜, 出演:神木隆之介, 出演:松本白鸚, Writer:新海誠, 監督:新海誠
¥2,500 (2023/10/11 20:52時点 | Amazon調べ)
ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
この記事で伝えたいこと
「人智を超えた何か」を受け入れられない時、この物語が少し、世界の余白を広げてくれるかもしれません
しんどい世の中を生き延びるためなら、現実の解釈を都合よく歪曲するぐらい全然良いと思っています
この記事の3つの要点
- 「非科学的だが、否定しきれない存在」をリアルに描き出すことで、現実の捉え方の可能性が広がる
- 辛い現実をそのまま受け止めるのではなく、自分が生き延びるために都合よく歪曲すればいい
- ロードムービー的な展開の中で出会う人々と、その関わりの中で生まれる鈴芽の変化がとても良い
宗像草太を演じた松村北斗が凄く上手くて、個人的にはとても驚きました
自己紹介記事
あわせて読みたい
ルシルナの入り口的記事をまとめました(プロフィールやオススメの記事)
当ブログ「ルシルナ」では、本と映画の感想を書いています。そしてこの記事では、「管理者・犀川後藤のプロフィール」や「オススメの本・映画のまとめ記事」、あるいは「オススメ記事の紹介」などについてまとめました。ブログ内を周遊する参考にして下さい。
あわせて読みたい
【全作品読了・視聴済】私が「読んできた本」「観てきた映画」を色んな切り口で分類しました
この記事では、「今まで私が『読んできた本』『観てきた映画』を様々に分類した記事」を一覧にしてまとめました。私が面白いと感じた作品だけをリストアップしていますので、是非本・映画選びの参考にして下さい。
どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
新海誠『すずめの戸締まり』は、様々な「辛さ」の中で生きざるを得ない私たちに、「気持ちの逃げ道」を与えてくれる作品
あわせて読みたい
【感想】映画『竜とそばかすの姫』が描く「あまりに批判が容易な世界」と「誰かを助けることの難しさ」
SNSの登場によって「批判が容易な社会」になったことで、批判を恐れてポジティブな言葉を口にしにくくなってしまった。そんな世の中で私は、「理想論だ」と言われても「誰かを助けたい」と発信する側の人間でいたいと、『竜とそばかすの姫』を観て改めて感じさせられた
とても素敵な作品でした。やっぱり上手いなぁ、と思います。
とはいえ、初期の作品は観てないから、せめて『秒速5センチメートル』ぐらいは観たい
「古代神話的な世界の捉え方」を「現代的な設定」の中に組み込んだ構成が素晴らしい
あわせて読みたい
【人生】どう生きるべきかは、どう死にたいかから考える。死ぬ直前まで役割がある「理想郷」を描く:『…
「近隣の村から『姥捨て』と非難される理想郷」を描き出す『でんでら国』は、「死ぬ直前まで、コミュニティの中で役割が存在する」という世界で展開される物語。「お金があっても決して豊かとは言えない」という感覚が少しずつ広まる中で、「本当の豊かさ」とは何かを考える
とても上手いなぁと感じたのは、神話的と言っていい設定を、現代を舞台にしたラブコメ作品に組み込んでいることです。
映画には、「ミミズ」と呼ばれる存在が出てきます。これは、「地下世界で蠢いている、普通の人間には見ることが出来ない存在」です。「うしろ戸」と呼ばれる扉を通って時々地表に現れ、そのまま空高くまで細長く伸び、伸び切った身体が地面に落下することで大地震が引き起こされます。私たちは地震を「大陸プレートの重なりがなんちゃら」みたいなことで理解していますが、『すずめの戸締まり』の世界ではそうではなく、「地震が起こるのは、ミミズの身体が地面に落下するから」なのです。
さて、「うしろ戸」は、「人の生活が消えた廃墟」に現れるとされています。人々のかつての生活や記憶が失われてしまったことで淀んでいるような場所に出来るというわけです。
このように『すずめの戸締まり』においては、「大地震は単なる自然災害ではなく、『社会の荒廃』と密接に関係した現象である」と示唆されています。
あわせて読みたい
【あらすじ】原爆を作った人の後悔・葛藤を描く映画『オッペンハイマー』のための予習と評価(クリスト…
クリストファー・ノーラン監督作品『オッペンハイマー』は、原爆開発を主導した人物の葛藤・苦悩を複雑に描き出す作品だ。人間が持つ「多面性」を様々な方向から捉えようとする作品であり、受け取り方は人それぞれ異なるだろう。鑑賞前に知っておいた方がいい知識についてまとめたので、参考にしてほしい
こういう捉え方は容易に、「『社会の荒廃』を止めれば大地震も無くせる」みたいな発想に行き着いちゃうから、それはそれで危険なんだけど
「自然災害は受け入れざるを得ないもの」と捉えておく方が、現実の生活においてはいいだろうね
外国ではどうなのか分かりませんが、少なくとも日本では、このような考え方は割と自然だと言えるでしょう。地震を例に取っても、「ナマズが怒ると地震が発生する」みたいな話を聞いたことがある人は多いと思います。「妖怪」も同じような存在であり、「科学技術が発達していなかった時代に、人智を超えていると感じられる現象を、何らかの形で説明しようとする発想」は、古くからある様々なものに散見されるでしょう。
そしてこのような考え方は、私たちも持っているはずです。今は科学がかなり浸透している時代なので、科学的ではないものは概ねオカルティックなものとして扱われますが、それでも、占いや超能力を信じたいと思っている人はまだまだたくさんいるでしょう。また。大谷翔平がゴミ拾いをする様子から改めて話題になりましたが、いわゆる「陰徳を積む」みたいな行為も、「巡り巡って、人智を超えた何かが起こるかもしれない」という期待の現れだと言っていいと思います。
ただやはり、現代は科学がかなり席巻している時代なので、古代神話的な物事の捉え方が入り込む隙間は大分狭くなってしまっていると言えるでしょう。しかし『すずめの戸締まり』は、現代を舞台にしながら、古代神話的な発想を上手く組み込んだ物語を構築しており、その点がまず非常に上手いと感じました。
あわせて読みたい
【奇跡】鈴木敏夫が2人の天才、高畑勲と宮崎駿を語る。ジブリの誕生から驚きの創作秘話まで:『天才の思…
徳間書店から成り行きでジブリ入りすることになったプロデューサー・鈴木敏夫が、宮崎駿・高畑勲という2人の天才と共に作り上げたジブリ作品とその背景を語り尽くす『天才の思考 高畑勲と宮崎駿』。日本のアニメ界のトップランナーたちの軌跡の奇跡を知る
『エヴァンゲリオン』辺りから、アニメにも哲学・思想的な背景がガッツリ組み込まれるようになった印象がある
鈴木敏夫も『もののけ姫』を作る時に、「アニメにも哲学が必要だ」って考えたらしいしね
私は基本的に「科学」を信じているので、そのスタンスに沿うなら、「ミミズの身体が地面に落ちたら地震が起きる」なんて話は当然「あり得ない」と感じます。しかし同時に、科学的なスタンスに立つのであれば、「ミミズの存在を決して否定は出来ない」とも考えるのです。科学的に正しいスタンスというのは、確実に判明した事実以外は否定しないことを意味します。地下に「ミミズ」はいるかもしれないし、どこかの廃墟には「うしろ戸」があるかもしれません。「感覚的には『あり得ない』が、しかし『完全には否定しきれない』」という絶妙な設定がなされているというわけです。だからこそ、「現代」を舞台にしながら、古代神話的な設定が上手く機能しているのだと思います。
東日本大震災後を生きる私たちに、ちょっとした「逃げ道」を与えてくれる作品
あわせて読みたい
【勇敢】日本を救った吉田昌郎と、福島第一原発事故に死を賭して立ち向かった者たちの極限を知る:『死…
日本は、死を覚悟して福島第一原発に残った「Fukushima50」に救われた。東京を含めた東日本が壊滅してもおかしくなかった大災害において、現場の人間が何を考えどう行動したのかを、『死の淵を見た男』をベースに書く。全日本人必読の書
作中ではっきりと明示されるわけではありませんが、本作では間違いなく「東日本大震災」が描かれています。主人公・鈴芽の故郷の設定や日記に書かれた「3月11日」という日付、そして叔母の環が鈴芽を引き取ってから12年の歳月が流れたことなど、様々な要素が、この物語の起点が「東日本大震災」にあることを示唆していると言えるでしょう。
やはり、創作を生業とする人にとって、東日本大震災は良くも悪くも避けては通れないものなんだろうなって思う
特に、コロナ禍でもそうだったけど、「エンタメは不要不急」って言われることが多いから、余計に「エンタメに何が出来るのか」を考えるんだろうね
私は幸運にも、東日本大震災によるあらゆる意味での被害を回避できたと言っていいと思います。もちろん、多少の不便さを感じることはありましたが、それは「被害」と呼べるほど大したものではありませんでした。しかしやはり、多くの人があの震災で様々な被害に遭い、多くのものを失ってしまったでしょう。そしてそういう人たちは、頭のどこかで「何かのせいにしたい」みたいに考えてしまうのではないかと思います。「地震だったから仕方ない」ではなく、「◯◯だったから地震が起こったんだ」と、「より上位の原因を突き止めて責め立てたい」みたいな気分になってしまった人もいるはずです。
そして『すずめの戸締まり』は、そういう人たちに対して、微かな「逃げ道」みたいなものを与えてくれる作品と言えるのではないかと感じました。
あわせて読みたい
【実話】権力の濫用を監視するマスコミが「教会の暗部」を暴く映画『スポットライト』が現代社会を斬る
地方紙である「ボストン・グローブ紙」は、数多くの神父が長年に渡り子どもに対して性的虐待を行い、その事実を教会全体で隠蔽していたという衝撃の事実を明らかにした。彼らの奮闘の実話を映画化した『スポットライト』から、「権力の監視」の重要性を改めて理解する
もちろん、『すずめの戸締まり』というアニメ作品がその役割をすべて担えるなんて思ってはいないんだけど
でも、「エンタメに何が出来るか」っていう問いに対するある種の答えとは言えるかもしれないね
もちろん、『すずめの戸締まり』を観たところで、「地震はミミズが起こしていたんだ」などと考えを改める人はいないでしょう。しかし、そんな設定の物語に触れることで、頭のどこか片隅に、「もしかしたら……」という思考が残るかもしれません。それは、辛い経験をした人にとっては、ある種の「逃げ道」のようなものになるでしょう。地震が原因の「辛さ」をすべて引き受ける代わりに、「ミミズのせいなんだ」という思考に「逃げる」ことで、少しだけ心が軽くなるかもしれません。
そしてそれは決して地震に限る話ではないはずです。世の中には様々な理由から「しんどさ」を抱えて生きざるを得ない人がたくさんいます。「しんどさ」の原因がちゃんとは理解できていない状態も当然辛いわけですが、「原因ははっきりと分かっているが、それを原因だと思いたくない」みたいなこともあるでしょう。例えば、「母親から虐待を受けているが、母親のことを嫌いになりたくない」みたいな状況です。
そういう場合に、「ミミズのような、今の自分には見えていない『何か』がすべて悪いんだ」みたいに考える余白が存在することは、あまりに辛すぎる現実を生きていく上で助けになるかもしれません。現実を正しく認識することよりも、どうにか生き延びることの方が大事だと私は考えています。なので、「他人に大きな迷惑を掛けない範囲で現実を歪曲する」ことで生きやすくなるのであれば、その方が絶対にいいはずです。
あわせて読みたい
【あらすじ】映画『千年女優』(今敏)はシンプルな物語を驚愕の演出で味付けした天才的アニメ作品
今敏監督の映画『千年女優』は、ちょっとびっくりするほど凄まじく面白い作品だった。観ればスッと理解できるのに言葉で説明すると難解になってしまう「テクニカルな構成」に感心させられつつ、そんな構成に下支えされた「物語の感性的な部分」がストレートに胸を打つ、シンプルながら力強い作品だ
まあ、辛すぎるなら、必ずしも生きてなきゃいけないなんて思ってはいないんだけど
死んじゃう方が楽な状況ってあるしね。まあでも、どうにかなるなら、現実ぐらい捻じ曲げればいいと思う
私自身は今そのような辛い状況に置かれているわけではありませんが、20代の頃は自殺を考えたこともあります。また、人生の様々なタイミングで、色んな「しんどさ」を抱える人に出会ってもきました。そういう人に対して直接的にしてあげられることは決して多くないのですが、常に「どうにか辛さから逃れて穏やかに生きてほしい」と願っています。
だからこそ、「クソみたいな現実は1ミリも変わらないかもしれないけれど、その日その日をなんとか生き延びるための『逃げ道』は、必要な人のところに用意されていてほしい」と考えているのです。『すずめの戸締まり』にも、そんな祈りが込められているような気がして、「エンタメで救いを」という本気度みたいなものを感じさせられました。
あわせて読みたい
【衝撃】卯月妙子『人間仮免中』、とんでもないコミックエッセイだわ。統合失調症との壮絶な闘いの日々
小学5年生から統合失調症を患い、社会の中でもがき苦しみながら生きる卯月妙子のコミックエッセイ『人間仮免中』はとんでもない衝撃作。周りにいる人とのぶっ飛んだ人間関係や、歩道橋から飛び降り自殺未遂を図り顔面がぐちゃぐちゃになって以降の壮絶な日々も赤裸々に描く
映画『すずめの戸締まり』の内容紹介
主人公は、叔母の環と九州で2人暮らしをしている高校生の鈴芽。母親は4歳の時に亡くなった。鈴芽は今も、どこにあるのか分からないだだっ広い平原の中、死んだはずの母親と向き合って話している夢を時々見る。そして彼女にはそれが、かつて自分の身に実際に起こった出来事であるかのように感じられてしまうのだ。
いつものように自転車で登校中、鈴芽は向かい側から歩いてくる壮麗な男性に目を留めた。すれ違いざま、「この辺りに廃墟はない?」と聞かれたので、山奥にある廃墟となった町のことを教える。そのまま学校へと向かったのだが、先程の男性のことがどうにも気になって、鈴芽も後を追うように廃墟へと向かった。
先に向かったはずの男性とは会えなかったが、そこで彼女は廃墟の中に不自然に鎮座する扉に目を留める。その扉を開けてみるとなんと、時々夢で見る世界が広がっていたのだ。しかし、何度扉を潜ろうとしても、扉が置かれている廃墟に出るだけで、目の前に見えている不思議な世界には行くことが出来ない。
あわせて読みたい
【驚嘆】この物語は「AIの危険性」を指摘しているのか?「完璧な予知能力」を手にした人類の過ち:『預…
完璧な未来予知を行えるロボットを開発し、地震予知のため”だけ”に使おうとしている科学者の自制を無視して、その能力が解放されてしまう世界を描くコミック『預言者ピッピ』から、「未来が分からないからこそ今を生きる価値が生まれるのではないか」などについて考える
その後普通に登校した鈴芽は、突然鳴り響いた緊急地震速報にクラスメイトたちと共に驚いた後、窓から信じがたい光景を目にすることになる。初めは、山火事のように見えた。しかしそれは次第に大きくなり、正体不明の何かが天高くその姿を伸ばしていく。その異形に恐れおののく鈴芽だったが、さらなる衝撃が待っていた。なんと、自分以外のクラスメイトは、あの異形が見えていないようなのだ。そのことを理解した鈴芽は、すぐさま学校を飛び出し、異形の震源地だろう廃墟へと向かう。
すると、先ほど潜ろうとした扉から異形が飛び出しており、さらにその扉を朝すれ違った青年が必死に閉めようとしていた。鈴芽もすぐに加勢し、どうにか扉を閉じることに成功する。しかしその頃には、異形は既に地表へと落下しており、一帯に大地震を引き起こしていた。
怪我の応急処置をしようと、青年を家まで案内する。宗像草太と名乗った青年の手当てをしていると、そこに一匹の猫がやってきた。あまりにも痩せ細っているので餌をやると、その猫は突然喋り始める。そして次の瞬間、草太は猫の呪いによって、鈴芽の部屋にあった小さな椅子に閉じ込められてしまった。その椅子は脚が1本欠けているが、母が作ってくれた大事な形見である。
猫は逃げる。それを3本脚の椅子になってしまった草太が追う。そしてそんな2人をさらに鈴芽が追いかける。状況がさっぱり飲み込めないまま、鈴芽は日本全国を巡る旅に連れ出されることになり……。
あわせて読みたい
【感想】湯浅政明監督アニメ映画『犬王』は、実在した能楽師を”異形”として描くスペクタクル平家物語
観るつもりなし、期待値ゼロ、事前情報ほぼ皆無の状態で観た映画『犬王』(湯浅政明監督)はあまりにも凄まじく、私はこんなとんでもない傑作を見逃すところだったのかと驚愕させられた。原作の古川日出男が紡ぐ狂気の世界観に、リアルな「ライブ感」が加わった、素晴らしすぎる「音楽映画」
映画『すずめの戸締まり』の感想
物語の設定や展開はかなりシリアスと言えるでしょうが、一方でコミカルなシーンもかなり多く、全体としては重くなりすぎていないところが良かったです。映画館で観た際、近くに小学生ぐらいの男の子が座っていましたが、映画を観終えた後で父親らしき人物に「面白かった」と言っていました。子供でもちゃんと楽しめる、全体のバランスがとても良い作品だと思います。
あわせて読みたい
【伝説】映画『ミスター・ムーンライト』が描くビートルズ武道館公演までの軌跡と日本音楽への影響
ザ・ビートルズの武道館公演が行われるまでの軌跡を描き出したドキュメンタリー映画『ミスター・ムーンライト』は、その登場の衝撃について語る多数の著名人が登場する豪華な作品だ。ザ・ビートルズがまったく知られていなかった頃から、伝説の武道館公演に至るまでの驚くべきエピソードが詰まった1作
テーマを全力で押し出そうとして、逆に子どもが近寄りがたい作品になっちゃうのは、ちょっともったいないしね
『すずめの戸締まり』は特に、若い世代に届いてほしいメッセージが満載な気がするから、絶妙なバランスだったって感じかな
物語の核となるのは、「閉じ師」を名乗る宗像草太の「戸締まり」と「呪いからの解放」であり、さらにそこに民俗学的な発想が加わって、シンプルながら奥行きのある展開になっていると感じました。さらに、鈴芽と草太のラブコメ的な要素も組み込まれており、それが最終的に「鈴芽が母を喪った時の記憶」に繋がっていくという構成もとても良いと思います。『天気の子』のようなシンプルさに加えて、『君の名は。』のような「時間の使い方の上手さ」もあるという印象です。
「戸締まり」の話であり「ラブコメ」でもあるのですが、この作品はそれ以上に「ロードムービー」的な要素が物語を強く駆動していると感じました。草太に呪いをかけた猫は、後に「ダイジン」と呼ばれるようになるのですが、2人はその「ダイジン」を追いかける形で九州から愛媛、神戸、東京と行き当たりばったりの旅をすることになります。そしてその過程で出会う人々がとても魅力的で、それもまた物語の良さに繋がっていると感じました。
愛媛で出会った女子高生や、神戸で知り合ったシングルマザー、そして東京から長く関わることになる大学生など、「鈴芽の道中を手助けする」という役回りを担う人物たちは、同時に、「『あなたには価値がある』と鈴芽に気づかせる」みたいな役割も果たしています。そしてだからこそ、鈴芽は、環からの矢のような連絡を無視してでも、草太との旅に突き進んでいこうとするのだと感じました。
あわせて読みたい
【天才】タランティーノ作品ほぼ未見で観た面白ドキュメンタリー。映画に愛された映画オタクのリアル
『パルプ・フィクション』しか監督作品を観たことがないまま、本作『クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男』を観たが、とても面白いドキュメンタリー映画だった。とにかく「撮影現場に笑いが絶えない」ようで、そんな魅力的なモノづくりに関わる者たちの証言から、天才の姿が浮かび上がる
ホントに、道中で出会う人たちがなんか良い感じだよね
「単なる善人」ってわけではない、独特の魅力を放つ人物像が、凄くよかった
また、鈴芽を心配する叔母・環との関係もとても素敵だと言えるでしょう。2人の関係性は、ある場面において凄まじく緊張感を帯びたものになります。それはまさに、震災という人智を超えたものによる不可抗力そのものであり、その際のやり取りから、お互いに「どうにもならなかった」と感じていることが理解できるわけです。そして、そんな緊張感に満ちた瞬間を越えた後の、ある種の「解放感」に包まれたような雰囲気がとても印象的でした。あくまでも結果オーライだとはいえ、鈴芽の逃避行が、長年モヤモヤしたものを抱え続けた叔母と姪の関係に新たな風を吹き込んだような感じがします。この道中における2人の関係性の変化もとても素敵だというわけです。
あわせて読みたい
【母娘】よしながふみ『愛すべき娘たち』で描かれる「女であることの呪い」に男の私には圧倒されるばかりだ
「女であること」は、「男であること」と比べて遥かに「窮屈さ」に満ちている。母として、娘として、妻として、働く者として、彼女たちは社会の中で常に闘いを強いられてきた。よしながふみ『愛すべき娘たち』は、そんな女性の「ややこしさ」を繊細に描き出すコミック
また、鈴芽と草太の物語は、もちろん「ラブコメ」と括られるものなのですが、片方の見た目が「椅子」であるという点がかなり良かったと感じました。40歳のおじさんとしては、「ザ・ラブコメ」みたいな作品を観るのがなかなかしんどくなりつつありますが、ラブコメの一方が「椅子」という設定は、その特有の「気恥ずかしさ」みたいなものをかなり薄れさせてくれる感じがして、おじさんとしてもかなり観やすかったです。それに、一方が「椅子」だからこそ、2人の関係性をシンプルに「会話」から判断できる雰囲気もあって、そのような設定であることで、どの年代の人も観やすい作品に仕上がっているのではないかと思います。
まあでもやっぱり、「作品の質を落とさずに、どうやって全年齢的に作品を届けるか」は、あらゆるクリエイターが目指してるんじゃないかって気はする
さて、作中のセリフで印象に残っているのは、草太がある場面で口にした、
大事な仕事は人から見えない方がいいんだ。
です。このセリフについては、入場特典でもらった「新海誠本」の中で、草太役を演じた松村北斗も言及していました。どうしても「目立つ仕事」ばかりに注目が集まりがちな時代ですが、その陰で無数の人々が「見えない仕事」をしているわけで、そういうことに改めて目を向けさせてくれるセリフだったと思います。
あわせて読みたい
【衝撃】「仕事の意味」とは?天才・野崎まどが『タイタン』で描く「仕事をしなくていい世界」の危機
「仕事が存在しない世界」は果たして人間にとって楽園なのか?万能のAIが人間の仕事をすべて肩代わりしてくれる世界を野崎まどが描く『タイタン』。その壮大な世界観を通じて、現代を照射する「仕事に関する思索」が多数登場する、エンタメ作品としてもド級に面白い傑作SF小説
また、草太の友人である芹澤が、
あいつは、自分の扱いが雑なんだよ。腹が立つ。
という形で草太を表現していたのも印象的でした。このセリフ1つで、草太と芹澤それぞれのキャラクターとその関係性が一発で理解できる感じがあって、この辺りの人物描写もさすがだなと思います。
あわせて読みたい
【感想】映画『キリエのうた』(岩井俊二)はアイナ・ジ・エンドに圧倒されっ放しの3時間だった(出演:…
映画『キリエのうた』(岩井俊二監督)では、とにかくアイナ・ジ・エンドに圧倒されてしまった。歌声はもちろんのことながら、ただそこにいるだけで場を支配するような存在感も凄まじい。全編に渡り「『仕方ないこと』はどうしようもなく起こるんだ」というメッセージに溢れた、とても力強い作品だ
出演:原菜乃華, 出演:松村北斗, 出演:深津絵里, 出演:染谷将太, 出演:伊藤沙莉, 出演:花瀬琴音, 出演:花澤香菜, 出演:神木隆之介, 出演:松本白鸚, Writer:新海誠, 監督:新海誠
¥2,500 (2023/10/11 21:02時点 | Amazon調べ)
ポチップ
あわせて読みたい
【全作品視聴済】私が観てきた映画(フィクション)を色んな切り口で分類しました
この記事では、「今まで私が観てきた映画(フィクション)を様々に分類した記事」を一覧にしてまとめました。私が面白いと感じた作品だけをリストアップしていますので、是非映画選びの参考にして下さい。
最後に
あわせて読みたい
【幸福】「死の克服」は「生の充実」となり得るか?映画『HUMAN LOST 人間失格』が描く超管理社会
アニメ映画『HUMAN LOST 人間失格』では、「死の克服」と「管理社会」が分かちがたく結びついた世界が描かれる。私たちは既に「緩やかな管理社会」を生きているが、この映画ほどの管理社会を果たして許容できるだろうか?そしてあなたは、「死」を克服したいと願うだろうか?
アニメをよく観るわけではないので、あくまでも素人の意見ですが、声を演じた役者たちがとても上手かったです。まずそもそも、初めて『すずめの戸締まり』の予告映像を映画館で観た時に、松村北斗の上手さに驚かされました。たぶん、初めて声優に挑戦した作品のはずです。それもあって、個人的にちょっとビックリしてしまいました。また、深津絵里、染谷将太、伊藤沙莉など、普段声優の仕事をしている印象があまりない役者が参加している作品でもあります。そして皆さん上手だったのでさすがだなと思いました。特に伊藤沙莉は素晴らしかったです。映画を観ながら、「この声、絶対に知ってる人だけど誰だっけ?」と思っていたのですが、エンドロールで「伊藤沙莉」の名前を見て「それだ!」と感じました。
ストーリーも演技もとても素敵で、微かだけれど確かな希望を与えてくれるような作品だと思います。
あわせて読みたい
Kindle本出版しました!「それってホントに『コミュ力』が高いって言えるの?」と疑問を感じている方に…
私は、「コミュ力が高い人」に関するよくある主張に、どうも違和感を覚えてしまうことが多くあります。そしてその一番大きな理由が、「『コミュ力が高い人』って、ただ『想像力がない』だけではないか?」と感じてしまう点にあると言っていいでしょう。出版したKindle本は、「ネガティブには見えないネガティブな人」(隠れネガティブ)を取り上げながら、「『コミュ力』って何だっけ?」と考え直してもらえる内容に仕上げたつもりです。
次のオススメの記事
あわせて読みたい
【狂気】押見修造デザインの「ちーちゃん」(映画『毒娘』)は「『正しさ』によって歪む何か」の象徴だ…
映画『毒娘』は、押見修造デザインの「ちーちゃん」の存在感が圧倒的であることは確かなのだが、しかし観ていくと、「決して『ちーちゃん』がメインなわけではない」ということに気づくだろう。本作は、全体として「『正しさ』によって歪む何か」を描き出そうとする物語であり、私たちが生きる社会のリアルを抉り出す作品である
あわせて読みたい
【狂気】群青いろ制作『雨降って、ジ・エンド。』は、主演の古川琴音が成立させている映画だ
映画『雨降って、ジ・エンド。』は、冒頭からしばらくの間「若い女性とオジサンのちょっと変わった関係」を描く物語なのですが、後半のある時点から「共感を一切排除する」かのごとき展開になる物語です。色んな意味で「普通なら成立し得ない物語」だと思うのですが、古川琴音の演技などのお陰で、絶妙な形で素敵な作品に仕上がっています
あわせて読みたい
【あらすじ】映画『52ヘルツのクジラたち』の「無音で叫ぶ人」と「耳を澄ます人」の絶妙な響鳴(原作:…
映画『52ヘルツのクジラたち』は、「現代的な問題のごった煮」と感じられてしまうような”過剰さ”に溢れてはいますが、タイトルが作品全体を絶妙に上手くまとめていて良かったなと思います。主演の杉咲花がやはり見事で、身体の内側から「不幸」が滲み出ているような演技には圧倒されてしまいました
あわせて読みたい
【幻惑】映画『フォロウィング』の衝撃。初監督作から天才だよ、クリストファー・ノーラン
クリストファー・ノーランのデビュー作であり、多数の賞を受賞し世界に衝撃を与えた映画『フォロウィング』には、私も驚かされてしまった。冒頭からしばらくの間「何が描かれているのかさっぱり理解できない」という状態だったのに、ある瞬間一気に視界が晴れたように状況が理解できたのだ。脚本の力がとにかく圧倒的だった
あわせて読みたい
【実話】さかなクンの若い頃を描く映画『さかなのこ』(沖田修一)は子育ての悩みを吹き飛ばす快作(主…
映画『さかなのこ』は、兎にも角にものん(能年玲奈)を主演に据えたことが圧倒的に正解すぎる作品でした。性別が違うのに、「さかなクンを演じられるのはのんしかいない!」と感じさせるほどのハマり役で、この配役を考えた人は天才だと思います。「母親からの全肯定」を濃密に描き出す、子どもと関わるすべての人に観てほしい作品です
あわせて読みたい
【衝撃】広末涼子映画デビュー作『20世紀ノスタルジア』は、「広末が異常にカワイイ」だけじゃない作品
広末涼子の映画デビュー・初主演作として知られる『20世紀ノスタルジア』は、まず何よりも「広末涼子の可愛さ」に圧倒される作品だ。しかし、決してそれだけではない。初めは「奇妙な設定」ぐらいにしか思っていなかった「宇宙人に憑依されている」という要素が、物語全体を実に上手くまとめている映画だと感じた
あわせて読みたい
【感想】アニメ映画『パーフェクトブルー』(今敏監督)は、現実と妄想が混在する構成が少し怖い
本作で監督デビューを果たした今敏のアニメ映画『パーフェクトブルー』は、とにかくメチャクチャ面白かった。現実と虚構の境界を絶妙に壊しつつ、最終的にはリアリティのある着地を見せる展開で、25年以上も前の作品だなんて信じられない。今でも十分通用するだろうし、81分とは思えない濃密さに溢れた見事な作品である
あわせて読みたい
【あらすじ】声優の幾田りらとあのちゃんが超絶良い!アニメ映画『デデデデ』はビビるほど面白い!:『…
幾田りらとあのちゃんが声優を務めた映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』は、とにかく最高の物語だった。浅野いにおらしいポップさと残酷さを兼ね備えつつ、「終わってしまった世界でそれでも生きていく」という王道的展開を背景に、門出・おんたんという女子高生のぶっ飛んだ関係性が描かれる物語が見事すぎる
あわせて読みたい
【評価】映画『ゴジラ-1.0』(山崎貴監督)は面白い!迫力満点の映像と絶妙な人間ドラマ(米アカデミー…
米アカデミー賞で視覚効果賞を受賞した映画『ゴジラ-1.0』(山崎貴監督)は、もちろんそのVFXに圧倒される物語なのだが、「人間ドラマ」をきちんと描いていることも印象的だった。「終戦直後を舞台にする」という、ゴジラを描くには様々な意味でハードルのある設定を見事に活かした、とても見事な作品だ
あわせて読みたい
【あらすじ】原爆を作った人の後悔・葛藤を描く映画『オッペンハイマー』のための予習と評価(クリスト…
クリストファー・ノーラン監督作品『オッペンハイマー』は、原爆開発を主導した人物の葛藤・苦悩を複雑に描き出す作品だ。人間が持つ「多面性」を様々な方向から捉えようとする作品であり、受け取り方は人それぞれ異なるだろう。鑑賞前に知っておいた方がいい知識についてまとめたので、参考にしてほしい
あわせて読みたい
【あらすじ】映画『レザボア・ドッグス』(タランティーノ監督)はとにかく驚異的に脚本が面白い!
クエンティン・タランティーノ初の長編監督作『レザボア・ドッグス』は、のけぞるほど面白い映画だった。低予算という制約を逆手に取った「会話劇」の構成・展開があまりにも絶妙で、舞台がほぼ固定されているにも拘らずストーリーが面白すぎる。天才はやはり、デビュー作から天才だったのだなと実感させられた
あわせて読みたい
【感想】映画『ローマの休日』はアン王女を演じるオードリー・ヘプバーンの美しさが際立つ名作
オードリー・ヘプバーン主演映画『ローマの休日』には驚かされた。現代の視点で観ても十分に通用する作品だからだ。まさに「不朽の名作」と言っていいだろう。シンプルな設定と王道の展開、そしてオードリー・ヘプバーンの時代を超える美しさが相まって、普通ならまずあり得ない見事なコラボレーションが見事に実現している
あわせて読みたい
【考察】A24のホラー映画『TALK TO ME』が描くのは、「薄く広がった人間関係」に悩む若者のリアルだ
「A24のホラー映画史上、北米最高興収」と謳われる『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』は、一見「とても分かりやすいホラー映画」である。しかし真のテーマは「SNS過剰社会における人間関係の困難さ」なのだと思う。結果としてSNSが人と人との距離を遠ざけてしまっている現実を、ホラー映画のスタイルに落とし込んだ怪作
あわせて読みたい
【あらすじ】映画『千年女優』(今敏)はシンプルな物語を驚愕の演出で味付けした天才的アニメ作品
今敏監督の映画『千年女優』は、ちょっとびっくりするほど凄まじく面白い作品だった。観ればスッと理解できるのに言葉で説明すると難解になってしまう「テクニカルな構成」に感心させられつつ、そんな構成に下支えされた「物語の感性的な部分」がストレートに胸を打つ、シンプルながら力強い作品だ
あわせて読みたい
【抵抗】映画『熊は、いない』は、映画製作を禁じられた映画監督ジャファル・パナヒの執念の結晶だ
映画『熊は、いない』は、「イラン当局から映画製作を20年間も禁じられながら、その後も作品を生み出し続けるジャファル・パナヒ監督」の手によるもので、彼は本作公開後に収監させられてしまった。パナヒ監督が「本人役」として出演する、「ドキュメンタリーとフィクションのあわい」を縫うような異様な作品だ
あわせて読みたい
【あらすじ】映画『アンダーカレント』(今泉力哉)は、失踪をテーマに「分かり合えなさ」を描く
映画『アンダーカレント』において私は、恐らく多くの人が「受け入れがたい」と感じるだろう人物に共感させられてしまった。また本作は、「他者を理解すること」についての葛藤が深掘りされる作品でもある。そのため、私が普段から抱いている「『他者のホントウ』を知りたい」という感覚も強く刺激された
あわせて読みたい
【感想】映画『キリエのうた』(岩井俊二)はアイナ・ジ・エンドに圧倒されっ放しの3時間だった(出演:…
映画『キリエのうた』(岩井俊二監督)では、とにかくアイナ・ジ・エンドに圧倒されてしまった。歌声はもちろんのことながら、ただそこにいるだけで場を支配するような存在感も凄まじい。全編に渡り「『仕方ないこと』はどうしようもなく起こるんだ」というメッセージに溢れた、とても力強い作品だ
あわせて読みたい
【伝説】映画『ミスター・ムーンライト』が描くビートルズ武道館公演までの軌跡と日本音楽への影響
ザ・ビートルズの武道館公演が行われるまでの軌跡を描き出したドキュメンタリー映画『ミスター・ムーンライト』は、その登場の衝撃について語る多数の著名人が登場する豪華な作品だ。ザ・ビートルズがまったく知られていなかった頃から、伝説の武道館公演に至るまでの驚くべきエピソードが詰まった1作
あわせて読みたい
【天才】タランティーノ作品ほぼ未見で観た面白ドキュメンタリー。映画に愛された映画オタクのリアル
『パルプ・フィクション』しか監督作品を観たことがないまま、本作『クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男』を観たが、とても面白いドキュメンタリー映画だった。とにかく「撮影現場に笑いが絶えない」ようで、そんな魅力的なモノづくりに関わる者たちの証言から、天才の姿が浮かび上がる
あわせて読みたい
【爆笑】ダースレイダー✕プチ鹿島が大暴れ!映画『センキョナンデス』流、選挙の楽しみ方と選び方
東大中退ラッパー・ダースレイダーと新聞14紙購読の時事芸人・プチ鹿島が、選挙戦を縦横無尽に駆け回る様を映し出す映画『劇場版 センキョナンデス』は、なかなか関わろうとは思えない「選挙」の捉え方が変わる作品だ。「フェスのように選挙を楽しめばいい」というスタンスが明快な爆笑作
あわせて読みたい
【居場所】菊地凛子主演映画『658km、陽子の旅』(熊切和嘉)は、引きこもりロードムービーの傑作
映画『658km、陽子の旅』は、主演の菊地凛子の存在感が圧倒的だった。夢破れて長年引きこもり続けている女性が、否応なしにヒッチハイクで弘前を目指さなければならなくなるロードムービーであり、他人や社会と関わることへの葛藤に塗れた主人公の変化が、とても「勇敢」なものに映る
あわせて読みたい
【感想】どんな話かわからない?難しい?ジブリ映画『君たちはどう生きるか』の考察・解説は必要?(監…
宮崎駿最新作であるジブリ映画『君たちはどう生きるか』は、宮崎アニメらしいファンタジックな要素を全開に詰め込みつつ、「生と死」「創造」についても考えさせる作品だ。さらに、「自分の頭の中から生み出されたものこそ『正解』」という、創造物と向き合う際の姿勢についても問うているように思う
あわせて読みたい
【あらすじ】大泉洋主演映画『月の満ち欠け』は「生まれ変わり」の可能性をリアルに描く超面白い作品
あなたは「生まれ変わり」を信じるだろうか? 私はまったく信じないが、その可能性を魅力的な要素を様々に散りばめて仄めかす映画『月の満ち欠け』を観れば、「生まれ変わり」の存在を信じていようがいまいが、「相手を想う気持ち」を強く抱く者たちの人間模様が素敵だと感じるだろう
あわせて読みたい
【感想】実業之日本社『少女の友』をモデルに伊吹有喜『彼方の友へ』が描く、出版に懸ける戦時下の人々
実業之日本社の伝説の少女雑誌「少女の友」をモデルに、戦時下で出版に懸ける人々を描く『彼方の友へ』(伊吹有喜)。「戦争そのもの」を描くのではなく、「『日常』を喪失させるもの」として「戦争」を描く小説であり、どうしても遠い存在に感じてしまう「戦争」の捉え方が変わる1冊
あわせて読みたい
【おすすめ】柚月裕子『慈雨』は、「守るべきもの」と「過去の過ち」の狭間の葛藤から「正義」を考える小説
柚月裕子の小説『慈雨』は、「文庫X」として知られる『殺人犯はそこにいる』で扱われている事件を下敷きにしていると思われる。主人公の元刑事が「16年前に犯してしまったかもしれない過ち」について抱き続けている葛藤にいかに向き合い、どう決断し行動に移すのかの物語
あわせて読みたい
【あらすじ】映画『夕方のおともだち』は、「私はこう」という宣言からしか始まらない関係性の”純度”を描く
「こんな田舎にはもったいないほどのドM」と評された男が主人公の映画『夕方のおともだち』は、SM嬢と真性ドMの関わりを通じて、「宣言から始まる関係」の難しさを描き出す。「普通の世界」に息苦しさを感じ、どうしても馴染めないと思っている人に刺さるだろう作品
あわせて読みたい
【感想】映画『君が世界のはじまり』は、「伝わらない」「分かったフリをしたくない」の感情が濃密
「キラキラした青春学園モノ」かと思っていた映画『君が世界のはじまり』は、「そこはかとない鬱屈」に覆われた、とても私好みの映画だった。自分の決断だけではどうにもならない「現実」を前に、様々な葛藤渦巻く若者たちの「諦念」を丁寧に描き出す素晴らしい物語
あわせて読みたい
【違和感】平田オリザ『わかりあえないことから』は「コミュニケーション苦手」問題を新たな視点で捉え…
「コミュニケーションが苦手」なのは、テクニックの問題ではない!?『わかりあえないことから』は、学校でのコミュニケーション教育に携わる演劇人・平田オリザが抱いた違和感を起点に、「コミュニケーション教育」が抱える問題と、私たち日本人が進むべき道を示す1冊
あわせて読みたい
【思考】戸田真琴、経験も文章もとんでもない。「人生どうしたらいい?」と悩む時に読みたい救いの1冊:…
「AV女優のエッセイ」と聞くと、なかなか手が伸びにくいかもしれないが、戸田真琴『あなたの孤独は美しい』の、あらゆる先入観を吹っ飛ばすほどの文章力には圧倒されるだろう。凄まじい経験と、普通ではない思考を経てAV女優に至った彼女の「生きる指針」は、多くの人の支えになるはずだ
あわせて読みたい
【欠落】映画『オードリー・ヘプバーン』が映し出す大スターの生き方。晩年に至るまで生涯抱いた悲しみ…
映画『オードリー・ヘプバーン』は、世界的大スターの知られざる素顔を切り取るドキュメンタリーだ。戦争による壮絶な飢え、父親の失踪、消えぬ孤独感、偶然がもたらした映画『ローマの休日』のオーディション、ユニセフでの活動など、様々な証言を元に稀代の天才を描き出す
あわせて読みたい
【純愛】映画『ぼくのエリ』の衝撃。「生き延びるために必要なもの」を貪欲に求める狂気と悲哀、そして恋
名作と名高い映画『ぼくのエリ』は、「生き延びるために必要なもの」が「他者を滅ぼしてしまうこと」であるという絶望を抱えながら、それでも生きることを選ぶ者たちの葛藤が描かれる。「純愛」と呼んでいいのか悩んでしまう2人の関係性と、予想もつかない展開に、感動させられる
あわせて読みたい
【あらすじ】映画化の小説『僕は、線を描く』。才能・センスではない「芸術の本質」に砥上裕將が迫る
「水墨画」という、多くの人にとって馴染みが無いだろう芸術を題材に据えた小説『線は、僕を描く』は、青春の葛藤と創作の苦悩を描き出す作品だ。「未経験のど素人である主人公が、巨匠の孫娘と勝負する」という、普通ならあり得ない展開をリアルに感じさせる設定が見事
あわせて読みたい
【選択】特異な疑似家族を描く韓国映画『声もなく』の、「家族とは?」の本質を考えさせる深淵さ
喋れない男が、誘拐した女の子をしばらく匿い、疑似家族のような関係を築く韓国映画『声もなく』は、「映画の中で描かれていない部分」が最も印象に残る作品だ。「誘拐犯」と「被害者」のあり得ない関係性に、不自然さをまったく抱かせない設定・展開の妙が見事な映画
あわせて読みたい
【感涙】映画『彼女が好きなものは』の衝撃。偏見・無関心・他人事の世界から”脱する勇気”をどう持つか
涙腺がぶっ壊れたのかと思ったほど泣かされた映画『彼女が好きなものは』について、作品の核となる「ある事実」に一切触れずに書いた「ネタバレなし」の感想です。「ただし摩擦はゼロとする」の世界で息苦しさを感じているすべての人に届く「普遍性」を体感してください
あわせて読みたい
【衝撃】映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』凄い。ラストの衝撃、ビョークの演技、”愛”とは呼びたくな…
言わずとしれた名作映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』を、ほぼ予備知識ゼロのまま劇場で観た。とんでもない映画だった。苦手なミュージカルシーンが効果的だと感じられたこと、「最低最悪のラストは回避できたはずだ」という想い、そして「セルマのような人こそ報われてほしい」という祈り
あわせて読みたい
【感想】綿矢りさ原作の映画『ひらいて』は、溢れる”狂気”を山田杏奈の”見た目”が絶妙に中和する
「片想いの相手には近づけないから、その恋人を”奪おう”」と考える主人公・木村愛の「狂気」を描く、綿矢りさ原作の映画『ひらいて』。木村愛を演じる山田杏奈の「顔」が、木村愛の狂気を絶妙に中和する見事な配役により、「狂気の境界線」をあっさり飛び越える木村愛がリアルに立ち上がる
あわせて読みたい
【苦しい】恋愛で寂しさは埋まらない。恋に悩む女性に「心の穴」を自覚させ、自己肯定感を高めるための…
「どうして恋愛が上手くいかないのか?」を起点にして、「女性として生きることの苦しさ」の正体を「心の穴」という言葉で説明する『なぜあなたは「愛してくれない人」を好きになるのか』はオススメ。「著者がAV監督」という情報に臆せず是非手を伸ばしてほしい
あわせて読みたい
【感想】映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』は、「リアル」と「漫画」の境界の消失が絶妙
映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』は、「マンガ家夫婦の不倫」という設定を非常に上手く活かしながら、「何がホントで何かウソなのかはっきりしないドキドキ感」を味わわせてくれる作品だ。黒木華・柄本佑の演技も絶妙で、良い映画を観たなぁと感じました
あわせて読みたい
【喪失】家族とうまくいかない人、そして、家族に幻想を抱いてしまう人。家族ってなんてめんどくさいの…
「福島中央テレビ開局50周年記念作品」である映画『浜の朝日の嘘つきどもと』は、福島県に実在した映画館「朝日座」を舞台に、住民が抱く「希望(幻想)」が描かれる。震災・コロナによってありとあらゆるものが失われていく世の中で、私たちはどう生きるべきか
あわせて読みたい
【あらすじ】映画『流浪の月』を観て感じた、「『見て分かること』にしか反応できない世界」への気持ち悪さ
私は「見て分かること」に”しか”反応できない世界に日々苛立ちを覚えている。そういう社会だからこそ、映画『流浪の月』で描かれる文と更紗の関係も「気持ち悪い」と断罪されるのだ。私はむしろ、どうしようもなく文と更紗の関係を「羨ましい」と感じてしまう。
あわせて読みたい
【感想】映画『竜とそばかすの姫』が描く「あまりに批判が容易な世界」と「誰かを助けることの難しさ」
SNSの登場によって「批判が容易な社会」になったことで、批判を恐れてポジティブな言葉を口にしにくくなってしまった。そんな世の中で私は、「理想論だ」と言われても「誰かを助けたい」と発信する側の人間でいたいと、『竜とそばかすの姫』を観て改めて感じさせられた
あわせて読みたい
【正義】復讐なんかに意味はない。それでも「この復讐は正しいかもしれない」と思わされる映画:『プロ…
私は基本的に「復讐」を許容できないが、『プロミシング・ヤング・ウーマン』の主人公キャシーの行動は正当化したい。法を犯す明らかにイカれた言動なのだが、その動機は一考の余地がある。何も考えずキャシーを非難していると、矢が自分の方に飛んでくる、恐ろしい作品
あわせて読みたい
【考察】『うみべの女の子』が伝えたいことを全力で解説。「関係性の名前」を手放し、”裸”で対峙する勇敢さ
ともすれば「エロ本」としか思えない浅野いにおの原作マンガを、その空気感も含めて忠実に映像化した映画『うみべの女の子』。本作が一体何を伝えたかったのかを、必死に考察し全力で解説する。中学生がセックスから関係性をスタートさせることで、友達でも恋人でもない「名前の付かない関係性」となり、行き止まってしまう感じがリアル
あわせて読みたい
【死】映画『湯を沸かすほどの熱い愛』に号泣。「家族とは?」を問う物語と、タイトル通りのラストが見事
「死は特別なもの」と捉えてしまうが故に「日常感」が失われ、普段の生活から「排除」されているように感じてしまうのは私だけではないはずだ。『湯を沸かすほどの熱い愛』は、「死を日常に組み込む」ことを当たり前に許容する「家族」が、「家族」の枠組みを問い直す映画である
あわせて読みたい
【家族】映画『そして父になる』が問う「子どもの親である」、そして「親の子どもである」の意味とは?
「血の繋がり」だけが家族なのか?「将来の幸せ」を与えることが子育てなのか?実際に起こった「赤ちゃんの取り違え事件」に着想を得て、苦悩する家族を是枝裕和が描く映画『そして父になる』から、「家族とは何か?」「子育てや幸せとどう向き合うべきか?」を考える
あわせて読みたい
【おすすめ】濱口竜介監督の映画『親密さ』は、「映像」よりも「言葉」が前面に来る衝撃の4時間だった
専門学校の卒業制作として濱口竜介が撮った映画『親密さ』は、2時間10分の劇中劇を組み込んだ意欲作。「映像」でありながら「言葉の力」が前面に押し出される作品で、映画や劇中劇の随所で放たれる「言葉」に圧倒される。4時間と非常に長いが、観て良かった
あわせて読みたい
【矛盾】その”誹謗中傷”は真っ当か?映画『万引き家族』から、日本社会の「善悪の判断基準」を考える
どんな理由があれ、法を犯した者は罰せられるべきだと思っている。しかしそれは、善悪の判断とは関係ない。映画『万引き家族』(是枝裕和監督)から、「国民の気分」によって「善悪」が決まる社会の是非と、「善悪の判断を保留する勇気」を持つ生き方について考える
あわせて読みたい
【実話】障害者との接し方を考えさせる映画『こんな夜更けにバナナかよ』から”対等な関係”の大事さを知る
「障害者だから◯◯だ」という決まりきった捉え方をどうしてもしてしまいがちですが、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』の主人公・鹿野靖明の生き様を知れば、少しは考え方が変わるかもしれません。筋ジストロフィーのまま病院・家族から離れて“自活”する決断をした驚異の人生
あわせて読みたい
【レッテル】コミュニケーションで大事なのは、肩書や立場を外して、相手を”その人”として見ることだ:…
私は、それがポジティブなものであれ、「レッテル」で見られることは嫌いです。主人公の1人、障害を持つ大富豪もまたそんなタイプ。傍若無人な元犯罪者デルとの出会いでフィリップが変わっていく『THE UPSIDE 最強のふたり』からコミュニケーションを学ぶ
あわせて読みたい
【狂気】「当たり前の日常」は全然当たり前じゃない。記憶が喪われる中で”日常”を生きることのリアル:…
私たちは普段、「記憶が当たり前に継続していること」に疑問も驚きも感じないが、「短期記憶を継続できない」という記憶障害を抱える登場人物の日常を描き出す『静かな雨』は、「記憶こそが日常を生み出している」と突きつけ、「当たり前の日常は当たり前じゃない」と示唆する
あわせて読みたい
【助けて】息苦しい世の中に生きていて、人知れず「傷」を抱えていることを誰か知ってほしいのです:『…
元気で明るくて楽しそうな人ほど「傷」を抱えている。そんな人をたくさん見てきた。様々な理由から「傷」を表に出せない人がいる世の中で、『包帯クラブ』が提示する「見えない傷に包帯を巻く」という具体的な行動は、気休め以上の効果をもたらすかもしれない
あわせて読みたい
【感想】「献身」こそがしんどくてつらい。映画『劇場』(又吉直樹原作)が抉る「信頼されること」の甘…
自信が持てない時、たった1人でも自分を肯定してくれる人がいてくれるだけで前に進めることがある。しかしその一方で、揺るぎない信頼に追い詰められてしまうこともある。映画『劇場』から、信じてくれる人に辛く当たってしまう歪んだ心の動きを知る
あわせて読みたい
【映画】『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 劇場版』で号泣し続けた私はTVアニメを観ていない
TVアニメは観ていない、というかその存在さえ知らず、物語や登場人物の設定も何も知らないまま観に行った映画『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 劇場版』に、私は大号泣した。「悪意のない物語」は基本的に好きではないが、この作品は驚くほど私に突き刺さった
あわせて読みたい
【排除】「分かり合えない相手」だけが「間違い」か?想像力の欠如が生む「無理解」と「対立」:映画『…
「共感」が強すぎる世の中では、自然と「想像力」が失われてしまう。そうならないようにと意識して踏ん張らなければ、他人の価値観を正しく認めることができない人間になってしまうだろう。映画『ミセス・ノイズィ』から、多様な価値観を排除しない生き方を考える
あわせて読みたい
【自由】幸せは比較してたら分からない。他人ではなく自分の中に「幸せの基準」を持つ生き方:『神さま…
「世間的な幸せ」を追うのではなく、自分がどうだったら「幸せ」だと感じられるのかを考えなければいけない。『神さまたちの遊ぶ庭』をベースに、他人と比較せずに「幸せ」の基準を自分の内側に持ち、その背中で子どもに「自由」を伝える生き方を学ぶ
あわせて読みたい
【あらすじ】「愛されたい」「必要とされたい」はこんなに難しい。藤崎彩織が描く「ままならない関係性…
好きな人の隣にいたい。そんなシンプルな願いこそ、一番難しい。誰かの特別になるために「異性」であることを諦め、でも「異性」として見られないことに苦しさを覚えてしまう。藤崎彩織『ふたご』が描き出す、名前がつかない切実な関係性
あわせて読みたい
【考察】世の中は理不尽だ。平凡な奴らがのさばる中で、”特別な私の美しい世界”を守る生き方:『オーダ…
自分以外は凡人、と考える主人公の少女はとてもイタい。しかし、世間の価値観と折り合わないなら、自分の美しい世界を守るために闘うしかない。中二病の少女が奮闘する『オーダーメイド殺人クラブ』をベースに、理解されない世界をどう生きるかについて考察する
あわせて読みたい
【覚悟】人生しんどい。その場の”空気”から敢えて外れる3人の中学生の処世術から生き方を学ぶ:『私を知…
空気を読んで摩擦を減らす方が、集団の中では大体穏やかにいられます。この記事では、様々な理由からそんな選択をしない/できない、『私を知らないで』に登場する中学生の生き方から、厳しい現実といかにして向き合うかというスタンスを学びます
あわせて読みたい
【感想】人間関係って難しい。友達・恋人・家族になるよりも「あなた」のまま関わることに価値がある:…
誰かとの関係性には大抵、「友達」「恋人」「家族」のような名前がついてしまうし、そうなればその名前に縛られてしまいます。「名前がつかない関係性の奇跡」と「誰かを想う強い気持ちの表し方」について、『君の膵臓をたべたい』をベースに書いていきます
あわせて読みたい
【肯定】価値観の違いは受け入れられなくていい。「普通」に馴染めないからこそ見える世界:『君はレフ…
子どもの頃、周りと馴染めない感覚がとても強くて苦労しました。ただし、「普通」から意識的に外れる決断をしたことで、自分が持っている価値観を言葉で下支えすることができたとも感じています。「普通」に馴染めず、自分がダメだと感じてしまう人へ。
ルシルナ
どう生きるべきか・どうしたらいい【本・映画の感想】 | ルシルナ
どんな人生を歩みたいか、多くの人が考えながら生きていると思います。私は自分自身も穏やかに、そして周囲の人や社会にとっても何か貢献できたらいいなと、思っています。…
ルシルナ
記事検索(カテゴリー・タグ一覧) | ルシルナ
ルシルナは、4000冊以上の本と500本以上の映画をベースに、生き方や教養について書いていきます。ルシルナでは36個のタグを用意しており、興味・関心から記事を選びやすく…
コメント