目次
はじめに
著:額賀澪
¥891 (2024/07/03 14:41時点 | Amazon調べ)
ポチップ
この記事で伝えたいこと
「普通」を諦めてもいい。その方が、自分の価値観をより強く理解できる。
「普通」に合わせられないからこそ、メッチャ考えることになるんですよね
この記事の3つの要点
- 「普通」から外れてしまうことは全然悪いことじゃない
- 「普通」から外れるからこそ、思考力や言語化力が高まる
- 「普通」から外れる苦悩を描く物語の核心部分には触れていません(すいません)
子どもの頃にこういうことを教えてくれる大人がいたら良かったなって思います
この記事で取り上げる本
「君はレフティ」(額賀澪)
自己紹介記事
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子どもの頃から、周りと感覚が合わなくて凄く苦労しました。周りの人たちが笑っている理由が理解できないまま、なんとなく予想して笑っていたこともあるし、みんなが当たり前だと感じることに違和感を抱くことがどうにも多かったです。
学校では、はみ出し者ではなく、従順な人間が評価されるでしょう。だから私は、はみ出している部分を上手く隠して、なんとなく従順なフリをしながらやり過ごしていました。
大人になる中で、こんな風に考えるようになります。私だけクジラなんじゃないか、と。周りのみんなは魚で、だからずっと水中で泳いでいられます。でも私は哺乳類だから、呼吸するために時々海面に顔を出さなきゃいけません。同じように海の中で生きているのに、なんで自分だけ、というような感覚です。
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周りに合わせようとして海面から顔を出すのを止めたら窒息してしまいます。でも、周りと違うという風に思われたくないから、できるだけ海面から顔は出したくない。そういうせめぎ合いをずっと続けながら子ども時代を過ごしていました。
小中高時代もきっと、周りにいたんだろうけど、あんまり出会えた記憶がない
でも、このままの状態は続かないと、どこかで思っていたはずです。やっぱり辛かった。魚のフリをするのが大変でした。クジラは魚じゃないから、どうやったって魚と同じにはできない。このままずっと、魚のフリをして、魚から外れないように生きていくなんて無理だと分かっていたと思います。
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だから私は、「普通」から外れることにしました。具体的には、大学を中退し、就職活動をせず、引きこもり、自分がそれまで積み上げてきたと思うすべてのものを一旦リセットしました。
そういえば今さらだけど、「普通」って言い方はあんまり好きじゃないのよね
まあでも、「普通」って言い方じゃないと上手く伝わらないニュアンスもあるし
「普通」から外れてみて良かったこと
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私は未だに、「普通」から脱落するというその判断を後悔していません。「普通」から外れるのをもっと先送りにしていたら、私はもっと大きなダメージを負っていたかもしれません。私の中では、ギリギリこのタイミングしかない、というところで決断できたと考えています。
「普通」から外れてしばらくは、もの凄く不安でした。私に何か才能らしい才能があれば、その道で一旗揚げようと思えたかもしれません。しかし、私にはそんなものはありませんでした。自分が社会の中で生きていくイメージができないまま、恐る恐る前に足を踏み出しつつ、どうにかこうにか生活をそれなりに成立させられています。
そして、とりあえずの不安から脱することができたからこそ、「普通」から外れたことの良さも見えてくるようになりました。
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「普通」という言葉を私は「多数派」と同じような意味で使っています。だから「普通」であるということは、同じような価値観を持った人間が周りにたくさんいる、ということです。これはある意味では羨ましい。私は、似たような価値観を持つ人間を探すのが本当に大変で、大体の人間に対して違和感の方が強く感じられてしまいます。そういう意味でも生きていくがしんどいと感じます。
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ただ、「普通」から外れたことで、「普通」の中にいる怖さも同じ部分にある、と感じました。
周りに似たような価値観の人が多いと、「何故自分がその価値観を持っているのか」について思い巡らす機会は非常に少ないでしょう。これは要するに、「自分の持っている価値観を下支えする思考が存在しない」ということです。
このことを、怖いとは感じないでしょうか? 世間の「普通」が何らかの理由で大きく変動してしまえば、自分が信じる(信じているという意識を持たないままで信じている)価値観の根拠が失われてしまいます。
コロナウイルスはまさに、それまでの「普通」から「ニューノーマルと呼ばれる普通」への移行を否応無しに進めましたが、これによって、自分が持っていた価値観に揺らぎが生じたという人も世の中に結構いるのではないかと感じています。
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人間にペットとして飼われると、野生で生きられなくなる、みたいな感じかな?
一方で、「普通」から外れて生きていると、自分がどうしてその「普通から外れた価値観」を持つようになったのか考えるようになります。答えが出るかどうかは問題ではありません。自分がどうして世間からズレてしまうのか、何かきっかけがあったのか、「普通」からズレてしまうことへの対処はどうすべきか、などなど、「普通」から外れると考えることがたくさんあります。
そして、そういう思考を積み重ねることで、自分が持っている価値観の全体像を理解しやすくなったり、どこかに故障が起こった場合に対処しやすくなる、と私は考えているのです。
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そして、この思考のフィードバックが、「個性」を生むとも考えています。私が他人に対して魅力を感じるのは、概ねこういう、価値観を下支えしている思考の部分です。「普通」から外れた人は、思考を繰り返すことで言葉に対しても鋭敏になっていくので、その点も魅力的に感じます。
「普通」から外れることを恐れない
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子どもの頃は、「普通」に合わせられず、周りの人に馴染めなかった自分のことをダメだと感じる機会が多くありました。今も、そう感じて苦しんでいる人はたくさんいるでしょう。
確かに、「普通」の中にいられる方が楽です。私も、「普通」の側にいられたら良かったのにと今でも考えることがあります。ただ、「普通」から外れ、自分の価値観を下支えするために思考を重ねたことで、「普通」に居続ける怖さも感じられるようになりました。
「普通」から外れた自分を、間違っているとか劣っているとか感じてしまうことがあるだろうと思います。でも、そう考えていても何も良いことはありません。
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そうではなく、自分が何故そう感じてしまうのかを突き詰めてみましょう。答えが見つかる必要はありません。「考える」というプロセスそのものが重要だと私は考えています。「普通」に馴染めないことは、その思考プロセスを否応無しに経験できる良い機会だ、と捉えてみるのはいかがでしょうか?
まあ、「普通」側にいられないことで、生きづらいってことには変わりないんだけど
額賀澪『君はレフティ』の内容紹介
ここで改めて本の内容を紹介します。
著:額賀澪
¥891 (2021/05/16 09:14時点 | Amazon調べ)
ポチップ
その事故は、夏休み中の8月11日に起こった。古谷野真樹は沖浦という大きな湖に架かる橋を渡っている時に転落する。それによって彼は、全生活史健忘という、過去の経験は忘れているが知識は覚えているという記憶障害を負うことになってしまう。
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古谷野はクラスメートのほとんどを忘れてしまったが、夏休みが明ける前に会った2人のことは認識できた。生駒桂佑と春日まどかは共に写真部のメンバーであり、古谷野も入れて3人だけの部活だという。記憶を失う以前は、よくこの3人で会っていたようだが、どんな関係だったのか、どんな会話を交わしていたのかなど、古谷野は何も覚えていなかった。しかし2人は、恐らく記憶を失う前と変わらないだろう接し方をしてくれる。そのお陰もあって、どうにか2学期をスタートさせることができた。
10月上旬に行われる雄翔祭という学園祭の準備で、高校は慌ただしくなり始めていた。古谷野がいる2年5組は教室内で縁日を、そして写真部も展示を行うということで、準備に大忙しだ。
そんな中、校内で不思議な出来事が起こるようになる。「7.6」あるいは「7・6」という数字が、あちこちに書かれるようになったのだ。体育館の壁にチョークで書かれたり、黒板に書いてあったりと、様々な場所で見つかった。
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やがて古谷野は、この数字が自分に向けられたメッセージなのではないかと考えるようになる。彼は様々な人間と関わる中で、失われた記憶を少しずつ取り戻していく。そして、記憶を失う前の自分がどんな人間だったのだろうかと考え、比較するようになっていく。生駒も春日も、自分のことを本当はどんな風に見ているのだろうか? 過去の自分について考えることが増えてきた古谷野は、やがて数字の落書き事件の犯人を指摘するが……。
額賀澪『君はレフティ』の感想
上記の内容紹介を読んだだけでは、この物語がどのように「普通から外れる」と関係するのか分からないでしょう。しかし、それは書けません。作品の核になる部分であり、大きなネタバレになってしまうからです。なので、非常にフワッとした話に終止するしかなくなるのですが、ご了承ください。
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読んでもらえば分かるのですが、とにかくこの「記憶を失う」という設定を非常に絶妙に使っているというのが一番強い印象です。
古谷野にとっては、「記憶を失った後の世界をどう生きるか」という物語になります。上記の内容紹介は、そこだけを切り取ったものです。しかし、ただそれだけの話ではありません。実は、「古谷野が記憶を失った」という事実は、彼の周囲の人間に対しても非常に大きな影響を与えることになりました。
古谷野にとって記憶を失ったという事実は「結果」なのですが、別の人物にとっては「きっかけ」あるいは「新たな始まり」とでもいうようなものでした。そして、記憶を失った古谷野には、それらに関する状況全般が分からない(当然、読者もそれが分からない)という点が、本書を非常にミステリ的にしています。
物語は、誰かが誰かを思う気持ちが様々なグラデーションで描かれ展開していきます。記憶を失ったことを中心として、絶妙なすれ違いが何度も繰り返されながら、元の場所へと戻っていきます。足踏みや遠回りや喪失などがありながらも、最終的には「少し前進」みたいな形で終わっていると言えるでしょう。
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物語は最終的に、
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物語を読み終わったらきっと考えてしまうことでしょう。古谷野が記憶を失う前と後では、どちらの方が良かっただろうか、と。どちらにしても、苦しさと温かさがあります。簡単に結論が出る問いではないでしょう。
個人的には、古谷野が記憶を失って良かった、と考えたいなと思います。関わった人間全員が少しずつ苦いものを飲み込んだからこそ、結束感みたいなものが強くなっていると感じるからです。どちらにせよ苦しさがあるのであれば、その結束感みたいなものに希望を見出したいと思います。
額賀澪はこういう、一筋縄ではいかない感情の絡まりみたいなものを上手く描くなぁ、と思っています
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小学館
¥891 (2022/02/03 23:30時点 | Amazon調べ)
ポチップ
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最後に
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ルシルナ
多様性・ダイバーシティ【本・映画の感想】 | ルシルナ
私は、子どもの頃から周囲と馴染めなかったり、当たり前の感覚に違和感を覚えることが多かったこともあり、ダイバーシティが社会環境に実装されることを常に望んでいます。…
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ルシルナは、4000冊以上の本と500本以上の映画をベースに、生き方や教養について書いていきます。ルシルナでは36個のタグを用意しており、興味・関心から記事を選びやすく…
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