目次
はじめに
著:マリー・ソー, 著:キャロル・チャウ, 監訳:林 路美代, 監訳:林 民子
¥51 (2024/07/03 17:01時点 | Amazon調べ)
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この記事で伝えたいこと
「お金」ではなく「社会問題の解決」に仕事の意義を見出す人生に憧れる
私の中にも、そういう生き方をしたいという感覚がずっとあります
この記事の3つの要点
- チベットと中国の島を結びつけ、フェアトレードによって社会問題を解決した2人の若き女性の奮闘
- 彼女たちの生き様が示す、「お金」では満たすことができない「生きがい」
- 「どう働くか」は「どう生きるか」に直結する大きな課題
コロナ禍で働き方・生き方を考え直した人も多いでしょうし、「社会起業家」という生き方は1つの選択肢だと思います
この記事で取り上げる本
著:マリー・ソー, 著:キャロル・チャウ, 翻訳:林路美代, 翻訳:林民子
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自己紹介記事
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本書の著者であるマリー・ソーとキャロル・チャウの2人は、ビジネスによって社会問題を解決する社会起業家です。まずは、そんな彼女たちが生み出したビジネスの紹介をしていきましょう。
2人が立ち上げた「SHOKAY(ショーケイ)」というブランドでは、「ヤクの毛」を使ったファッションアイテムを制作・販売しています。それまで「ヤクの毛」という素材はファッションの世界ではあまり注目されたことがなく、そういう点でも注目されるブランドだそうです。
SHOKAY
SHOKAY
チベット語で「ヤクの柔らかい毛」という意味のSHOKAYは、世界で初めて「ヤク」という素材にフォーカスしたマテリアルブランドです。
ファッションには疎いから、このブランドが日本でどういう評価がされているか知らないけど
日本語のページもあるから、ちゃんと売れてるんだろうなとは思うけどね
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しかしより重要なことは、このブランドが社会問題を解決するということです。どういうことでしょうか?
まず、素材となるヤクの毛は、ヤクを放牧させて育てているチベット人から仕入れています。また、縫製を担うのは、崇明島という上海沖にある中国で3番目に大きい島の女性たちです。どちらも、貧困の問題に苦しんでいました。特に崇明島の女性たちは、驚異的な編み物の才能を持つにも拘わらず、それに見合ったお金を手にすることが出来ないでいたのです。
そこで彼女たちはまず、チベット人からヤクの毛を仕入れ、崇明島の女性たちに縫製を託すことで現金収入をもたらしました。そしてさらに、そうやって生み出された質が高くオシャレな製品を、その背景にあるストーリーと共に売り出すことで高い付加価値をつけることに成功します。今では「フェアトレード」という言葉が一般的になりつつあると思いますが、可能な限り安く仕入れて安く売るのではなく、適切な値段で仕入れて適切な値段で売るという形でビジネスがきちんと回っていくようにしているのです。
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私は、フェアトレードの意義は十分理解しているつもりだけど、やっぱり安いものを買っちゃうんだなぁ
金銭的に「余裕」を感じる生活をしてないと、正直、日常の中に「フェアトレード製品」を組み込むのは難しい
彼女たちは、地理的に大きく離れたチベットと崇明島を結びつけました。そこに住む人たち自身の努力だけではなかなか関われなかったでしょう。そして、まさに「Win-Winの関係」を生み出したというわけです。
ちょっと脱線しますが、彼女たちの話から、以前読んだ『詩羽のいる街』(山本弘)という本のことを思い出しました。
著:山本 弘, イラスト:徒花 スクモ
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この物語には詩羽という女の子が登場するのですが、彼女は家もお金も持たずに生活をしています。別にパパ活をしているみたいなことではありません。ではどうやって生活を成り立たせているのでしょうか?
単行本の発売が2008年なんだけど、まさに今の時代にピッタリ合いそうな設定だよね
時代がこの小説に追いついたっていうか、詩羽のように生きられる環境ってマジで揃ってる感じする
彼女は、「状況と状況のマッチング」を行って生活しているのです。
詩羽が住む街に例えば、ある問題を抱える人(Aさん)が住んでいるとしましょう。その問題は「X」というモノが手に入れば解決するのですが、Aさんは「X」を入手する手段を持っていません。一方、同じ街に住む人(Bさん)が、「X」の処分に困っているとします。AさんとBさんは面識がなく、お互いの受給のバランスが合致していることを知りません。
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そこで詩羽の登場です。彼女は街のあらゆる情報にアンテナを張り、誰の状況と誰の状況をマッチングさせればWin-Winになれるのかを常に考えています。そして、そのマッチングの報酬として、お金ではなく寝床や食事を提供してもらう、というスタイルで彼女は生活をしているわけです。
本書の著者2人のビジネスは、まさにこの『詩羽のいる街』の規模を大きくしたような話でしょう。私の知らないところでこのような”マッチング”は様々なところで行われているのだろうと思います。
要らないモノを無料であげる「ジモティー」も、似たような発想だしね
お金を介在させないで「状況のマッチング」を行うってサービスは色々あるだろうし、これからも増えそうな気がする
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彼女たちが「社会問題を解決するためのブランド」を立ち上げるまでの経緯
それでは、彼女たちが「SHOKAY」の立ち上げに至るまでの流れについて書いていきましょう。
2人とも子どもの頃から、困っている人を見ると放っておけないとか、高校生の頃に奇抜なアイデアで震災募金を集めるなど、利他的に行動する素質のある人だったようです。ただどちらも、世界の貧困問題について知識も興味も持っていなかったといいます。
関心を持つようになったのは、ハーバード大学ケネディスクールでのことでした。2人はここで出会います。ハーバード大学でその名がよく知られているのは「ビジネススクール」の方でしょう。こちらは経営者やビジネスマンの育成を目的としています。一方の「ケネディスクール」は、NPO・NGOで社会問題の解決ができる人材の育成を目的としているというわけです。
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ケネディスクールは、入学の必須条件に「一般企業での実務経験」が含まれていることもあり、そもそも学生の年齢層が高いといいます。そんな環境で彼女たちは、最年少と言える存在でした。そんなこともあってお互いのことを認識するようになり、さらに同じ志を抱いていると分かったことで、仲良くなっていきます。
入学の条件に「一般企業での実務経験」がある学校なんてあるんだね
彼女たちに共通していた志というのは、
金持ちになるより、社会問題を解決して生きがいを感じたい
です。ケネディスクールに入学するぐらいだから、そもそもそこにいる学生は皆それに近い気持ちを持っているのでしょうが、彼女たちはその感覚がかなり合ったということでしょう。例えばキャロルは、ペルーでボランティアをした際の経験を踏まえて、こんな風に書いています。
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高額な給料をもらい、毎晩豪華なレストランで美味しいディナーを食べられる生活より、たとえペルーの山奥で質素な夕食しか食べられなかったとしても、困っている人たちに喜んでもらえる仕事がしたい。そのほうが、私にとって何倍も意味あることだと確信したのです
後で触れますが、私もこのような感覚はとてもよく理解できます。自分の生活がそれなりに成り立ってさえいれば、それ以上の何かを強く望む気持ちがほとんどありません。私の場合は彼女たちのように実践するのはなかなか難しいのですが、感覚としてはとてもよく理解できます。
人生についてあれこれ考えてみることあるけど、やっぱり最終的に「自分が望むものはお金では手に入らんなぁ」って思う
どっちかって言えば、「お金で手に入ること」に関心を持てる人生の方が、ある意味ラクだったかなって気もするけどね
そんな2人は、ケネディスクールでのコンテストに「移動映画」というアイデアで応募し、見事1位を獲得します。その時に得た賞金で、実際に貧困地域に移動映画を提供するアイデアを実行に移そうとしました。しかし、既に似たようなことをやっている人がいて、さらにそれがあまり上手く行っていないことを知ることになります。
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しかしこの時の行動は決して無駄ではありませんでした。気持ちを切り替えた彼女たちは、自分たちが何をすべきかを考えるために調査を始めます。そしてその過程で、中国国内では知らない者はいないという有名な冒険家から、それまで聞いたこともなかった「ヤク」という動物の情報を耳にしました。ここから彼女たちの物語が一気に加速していくのです。
とはいえ、簡単に進んだわけではありません。文化も習慣もまったく違う相手のところへ、まだ20代の若者が乗り込んでいき、「あなたたちのためになるから」と言って交渉を進めようとしても、当然、誰も話を聞いてくれませんでした。しかし彼女たちは、そんな度重なる問題にもめげずに突っ走り、たった3年という短い期間で、世界的に広く認知されるブランドを立ち上げたのです。本書では、そんな2人の奮闘の軌跡が描かれています。
アメリカの若者が、チベットと中国で交渉するんだから、それだけでハードだよね
でも、知らないからこそ突き進めたってのもきっとあるだろうなぁ
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「お金」以外を「豊かさ」だと捉える人生について
本書には、彼女たちが立ち上げた「SHOKAY」が社会にどんなインパクトを与えたのかについて、以下の4つにまとめて示しています。
- 収入の安定
- 伝統的なライフスタイルや文化の保護
- 環境の持続可能な利用法の促進
- 地域開発
そしてここには、「自分がお金を稼ぐ」というだけではない、仕事に対する意義が詰まっていると感じます。
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結局私は、「お金のため」にガツガツやりきれないんだよね
最近「ブルシット・ジョブ」という言葉を耳にする機会があります。ざっくり訳すと「クソどうでもいい仕事」となるそうです。「会社の中で高給を得ている人ほど、本質的には『クソどうでもいい仕事』をしており、コロナ禍でリモートワークが導入されたことでそのことに気付かされた人が多くいた」というような記事も読んだことがあります。
「お金さえもらえれば仕事なんかなんでもいい」という感覚も分かりますし、私も結局のところ、「固定給がもらえるから」というだけの理由で仕事をしています。ただ、どのみち働かなければならないのだとしたら、やはり「仕事における充実」を求めてしまいたくもなるでしょう。
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世界的にもそのような動きがあるそうです。
2010年発売の本書の記述は、既に情報としては古いとは思いますが、本書ではこんな風に書かれています。彼女たちがケネディスクールに在籍していた2004年から2006年にかけては、ケネディスクールを卒業後に社会起業家になる人は全体の2%程度しかいなかった、と。しかし、リーマンショックをきっかけに、社会に強いインパクトを与える「社会起業家」の存在が注目されるようになります。それ以降、「チェンジメーカー」や「ソーシャル・アントレプレナー」などの呼び方が定着するぐらい、「社会起業家」の存在感は増してきているのだそうです。
生まれてからずっとモノが溢れてて、「欠乏」や「飢え」みたいな経験を経ていない世代だからってのもあるだろうね
結局、「モノやサービスを享受し続けても幸せにはなれない」って感覚に変わってきてる気がする
また、「欧米の若者の人気就職先ランキングにNPO・NGOがランクインしている」「日本でも社会課題に取り組みたいと考える人はいるが、NPOの絶対数が足りない」などの記事も見つけました。
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著:マリー・ソー, 著:キャロル・チャウ, 翻訳:林路美代, 翻訳:林民子
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今では「社会起業家」という言葉は当たり前に通じると思いますが、彼女たちが「SHOKAY」立ち上げに奮闘していた頃は、まだ世界的にもそのような存在が広く知られていたわけではなかったようです。若くても、経験やお金がなくても、情熱と学んできた学問を融合させて突き進めばこれほど大きなことを成し遂げられるのだという1つの可能性として、彼女たちの奮闘を知ってみてはいかがでしょうか。
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