目次
はじめに
この記事で取り上げる映画

「拳と祈り 袴田巌の生涯」公式HP
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
今どこで観れるのか?
公式HPの劇場情報をご覧ください
この記事の3つの要点
- 本作『拳と祈り』の監督・笠井千晶は何故、マスコミ関係者として唯一、「前代未聞の事態」をカメラに収めることが出来たのか?
- 長年の勾留生活により精神を病んでしまった袴田巌を追うことの難しさと、姉・秀子のユニークな関わり方
- 「捜査機関による捏造」にまで踏み込んだ画期的な判決と、カナダ・トロントとの意外な繋がり
有名な刑事事件の中でも数多く”特異点”が存在する事案であり、日本の司法史に残る事件だと思う
自己紹介記事
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しかし、そういう事件そのものの話をする前にまず、「監督・笠井千晶と袴田巌の姉・袴田秀子の出会い」の話から始めることにしよう。どうしてなのかはこの記事を読み進めてもらえば分かると思うが、とても重要なポイントなのである。ちなみに、ここからしばらくの間、初日舞台挨拶の中で袴田秀子が語っていた話について書いていく。作中で説明されることではないので注意してほしい。
笠井千晶は元々、報道記者として静岡放送でドキュメンタリー番組の制作に関わっており、その頃に袴田秀子と出会った。もちろん、袴田巌がまだ死刑囚として収監されている時期のことであり、笠井千晶が「袴田巌からの手紙を見せてほしい」と頼んだことが出会いのきっかけである。
その後彼女は転勤のため、袴田秀子が住む浜松市へと移り住むことになった。その話を、既に仲良く付き合っていた袴田秀子にしたところ、「家賃は安くするから、私のアパートに住んだらいいよ」と言われたのだという(同居ではなく、彼女が所有していた部屋に、ということ)。そんなこともあり、2人はより親密になっていったのである。
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そしてそれ故に笠井千晶は、彼女にしか不可能だった撮影が出来た。袴田秀子と行動を共にしていたからこそ、「あの日あの場所」にカメラを持った状態で立ち会えたというわけだ。
「あの日」というのは、2014年3月27日のことを指している。そしてこの日は、袴田事件においてエポックメイキングと言っていい1日となった。というのも、「まさにこの日に袴田事件の再審が決定した」からだ。
「再審」というのは「裁判のやり直し」みたいなものなのだが、日本において「再審」は「開かずの扉」とも呼ばれている。まず認められることがないからだ。特に、死刑が確定している事案であればなおさらである。だからこそ、「再審の扉が開いた」というだけでも非常に大きな出来事だと言えるのだ。
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しかしこの日の展開は「再審決定」だけではなかった。この後、日本の司法史において恐らく前代未聞だろう事態が進行していくのだ。私は映画を観る前の時点で、「2014年3月27日にそれが起こったことは知らなかったが、事実自体は知っている」という状態だった。しかし舞台挨拶での説明を聞いてようやく、その「事実」の凄まじさが理解できたように思う。袴田事件は本当に、様々な場面で特異的な展開を見せた事件なのだと改めて実感させられた。
さて繰り返しになるが、「再審」というのは基本的に、単に「裁判をやり直します」という話に過ぎない。再審が決まったからと言って袴田巌の無罪が確定するわけではないし、死刑囚であることに変わりはないのである。そのことをきちんと理解した上で以下の文章を読んでほしい。
その日、袴田秀子や弁護団は「再審決定」に沸き立っていた。1966年の事件発生から2014年の再審決定まででさえ既に48年の月日が経っており、恐らくだが、袴田事件に関わる者は「再審の扉が開くことはないだろう」と考えていたのではないかと思う。もちろん皆、再審開始のために本気で活動しているわけだが、努力に比例して成果が出るような話ではない。「死刑確定囚の再審決定事例」があまりにも少なすぎることもあり、心のどこかに「無理かもしれない」という気持ちはあったはずだと思う。だからこそ、「再審の扉が開いた」というだけで、相当な驚きだったのだろう。
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ちなみに舞台挨拶では、再審決定後に、その事実を拘置所にいる袴田巌に伝えた際の様子にも触れられていた。袴田巌はなんと、「再審はもう終わっている。あなたたちは訳の分からないことを言っているから帰ってくれ」「私はここにいて何も困っていない」みたいなことを言い出したのだという。実は、袴田巌は長期間に渡り「死刑囚」として収監されていたため、「拘禁反応」と診断が下るほど精神に異常を来してしまっていたのだ。定期的に面会を続けていた袴田秀子は以前からその変化に気づいていたそうで、再審決定の日も結局、袴田巌は訳の分からないことを言って支援者たちを困惑させたのである。
しかし、袴田秀子はかなりパワフルな人で(本作の舞台挨拶登壇時はなんと、91歳だったそうだが、とても90代とは思えない佇まい・喋り方だった)、弟のそんな様子を大して気にも留めず、「また明日説得すればいいや」ぐらいに考えていたそうだ。だからその日は、もう帰ろうと思っていたのだが、その時拘置所の職員から呼び止められ、再び建物内に入るように促されたのだという。しかしこの時点ではまだ、何が起こるか誰も分かっていなかった。
職員はまず、「お金を返す」と言ったそうだ。それは、これまで彼女が拘置所にいる弟に渡し続けてきたお金であり、事情は分からないものの「返してくれるならもらっておこう」ぐらいの感覚で受け取ったという。さらにその後、「ダンボールが11箱あるのだが、着払いで送っても大丈夫か?」と別の職員に確認された。この時も、「11箱も何があるんだ」と思ったのだが、「着払いでも何でも送ってくれ」と答えたそうだ。
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さて、袴田事件について未来視点でこの日の出来事を追っている我々には、ここまで書けばこの後何が起こるのかは容易に想像出来るだろう。しかし当時は、袴田秀子も弁護団も、その後の展開をまったく想像出来ずにいた。なにせ、それは普通ならあり得ないことだからだ。なんと、「再審が決まった日」に袴田巌は釈放されたのである。
何度も繰り返すが、釈放された時点で袴田巌は「死刑囚」のままだった。だから恐らくだが、袴田巌は「『死刑囚』という立場のままシャバに出てきた最初の人間」ではないかと思う。前代未聞だし、こんなこと誰も予想出来なかった。死刑囚を釈放するなど、聞いたことがない。
ただ、変な言い方をするが、「死刑囚だからこそこの対応が出来た」とも言えるだろう。というわけで、ここで少し死刑囚の話をしようと思うが、そもそも死刑囚は「刑務所」ではなく「拘置所」に収容されている。「拘置所」というのは主に「判決が出ていない刑事被告人」「取り調べ中の容疑者」が勾留さていれる場所だ。ではどうしてそんな場所に死刑囚がいるのか。それは、「死刑囚にとっては『死刑の執行』こそが刑罰であり、その日を待つまでの期間は刑罰とは見なされない」からだ。一方「刑務所」の場合は、「そこに勾留されていること自体が刑罰」である。だから、例えば「無期懲役刑囚の再審」が決まったとしても、「無罪」が確定するまでは「刑の執行」は止まらないため、刑務所からは出られない。しかし、「死刑囚の再審」が決まった場合は、「拘置所に収容されていること自体は刑罰ではない」ので釈放する余地がある、というわけだ。しかし理屈はそうだとしても、あまりに異例の事態に、関係者は皆驚かされたのである。
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そして驚いたのはマスコミも同じだっただろう。マスコミの動きについては詳しい説明はなかったが(袴田秀子がマスコミの動きを追っていたはずはないので当然だ)、マスコミは恐らく、「再審決定」の一報が入った時点で現場を離れ社に戻ったはずだ。現場に残ったところで、普通はそれ以上状況が進展することなどあり得ないからである。
そのため、「死刑囚・袴田巌の釈放」という前代未聞の展開に立ち会えたマスコミ関係者は、「袴田秀子と昔から仲良くしていた笠井千晶」だけだったのだ。もちろん彼女は、2014年3月27日に釈放された袴田巌の姿をカメラに収めている。というか、関係者らと同じ車に乗って移動し、さらに同じホテルに宿泊してもいるのだ。というのも、袴田巌は40~50年ぶりに車に乗ったため車酔いが激しく、当初は静岡まで帰る予定だったのを変更して東京に泊まることになったからである。
再審決定後に死刑囚が釈放されたことも前代未聞なら、関係者の家族と元々親しかったお陰で釈放後の様子をカメラに収められたこともまた奇跡的だろう。だから本作においてはとにかく、「笠井千晶が2014年3月27日以前から袴田秀子と親しかった」という要素が決定的に重要であり、本作『拳と祈り』における最大の特異点と言っていいと思う。「家族のことを撮影する」とかでもない限り、ドキュメンタリー映画というのは基本的に「興味深い取材対象の存在を知ってから密着を始める」みたいなパターンが多いはずだが、笠井千晶がそういうスタンスで袴田事件と関わっていたら「釈放直後の映像」を撮ることは出来なかった。まあ、運と言えば運ではあるが、様々な要因が重なって凄い現場に立ち会うことになったというわけだ。
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ちなみに笠井千晶は、釈放された日のホテルで姉弟が一緒に並んで寝ている姿を見て、「今日撮った映像は自分で作品に仕上げて必ず世に問う」と決意したという。本作『拳と祈り』の公開は2024年で、2014年から数えても取材期間は10年に及ぶ。制作期間が長くなることが多いだろうドキュメンタリーにおいても、10年というのはかなりの年月だと思うが、そんな長期の密着をやり遂げられたのも、この決意あってのことだったのだろうと感じさせられた。
本作『拳と祈り』は、「袴田事件」がテーマじゃなかったら成り立っていないと思う
さて、ここまで書いてきた通り、本作で扱われる「袴田事件」には特異な点がいくつもあるわけだが、「ドキュメンタリー映画を撮る」という点においても普通とは異なる部分があった。それが、先ほども少し触れた「『拘禁反応』によって袴田巌の精神が悪化している」という事実である。
私は好きでドキュメンタリー映画を結構観るのだが、普通は「対象となる人」や「対象となる状況(事件など)に関わっている人」に焦点を当てるというのが一般的だと思う。つまりいずれにしても「人」が中心になるというわけだ。特に袴田事件においては、「袴田巌」という人物こそ最大の中心点である。セオリー通りであれば、彼に焦点を当てることになるはずだ。
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しかし正直なところ、それだとドキュメンタリーとしてはちょっと成立しない。もちろん、彼にカメラを向けていれば「どんな行動をしているのか」は記録できる。しかし、袴田巌はほとんど喋らないし、喋ったとしても支離滅裂なことを言うことばかり口にするので、思考も感情も見えてはこない。だから、中心にいる人物なのに全然掘り下げられないのだ。
もちろんドキュメンタリー映画には、故人を対象にしたものも存在する。しかしその場合は、観る側も「本人は既に亡くなっている」のだと理解しているし、その上で、その故人と関わった様々な人たちの証言などから人物像が浮かび上がれば作品としては成立するだろう。しかし袴田巌の場合は、幸いなことにまだ生きているし(正直なところ、拘置所で亡くなっていてもおかしくはなかった)、そうであれば観る側も、「生きている姿を見たいし、何を考えているのか知りたい」と考えるはずだ。だから袴田巌にカメラを向けたくなるのだが、そうしたところで「袴田巌その人」は見えてこないのである。
これが、「袴田巌を被写体にすること」の避けがたい欠点だと私には感じられた。もちろん、より俯瞰的な視点で捉えれば、「彼をそういう状態に追い込んだ警察・検察・裁判所の酷さ」みたいなものを浮き彫りにしていると言えるだろうし、それはもちろん重要なポイントだと思う。ただやはり、作品の中心点が袴田巌にあることは揺るがないし、そしてだからこそ、「ドキュメンタリー映画」としてはどうしても弱くなってしまう気がした。
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だから、凄く変な言い方だと自覚しているが、「本作のテーマが『袴田事件』で良かった」と私は思う。というのも「袴田事件」は、刑事事件として知名度が高く、それに比例して関心度も高いはずだからだ。「冤罪事件」と言われたら真っ先に名前が挙がる事件だと思うし、SNSではどうか知らないが、テレビなどでは度々報じられたり特集が組まれたりもする。そしてそういう「知名度の高い事件」を扱っているという点こそが、本作を「多くの人に観てもらい得るドキュメンタリー映画」として成立させていたように思う。
さらに言えば本作は、再審での無罪判決が出る前に劇場公開が決定している。ドキュメンタリーの場合は普通、「最終的な帰結まで組み込んで作品にする」というのがセオリーのはずだが、本作ではそうはせず、恐らく「『再審の判決が出る日』が決まった時点で映画の公開日も決めた」のではないかと思う。そう考えなければ、無罪判決が出た直後の公開日設定など不可能だったはずだ。
じゃあどうしてそんなやり方が可能だったのかと言えば、やはり「どんな判決が出ようと、袴田事件は大きく報道される」ことがはっきりしていたからだろう。つまり、「判決を報じるニュースによって、映画公開の情報も広まりやすくなる」と考えたのだと思う。そういう戦略が成り立つのは、「判決が出たら必ずニュースで大きく取り上げられる」と確信出来るほど事件自体が有名だからであり、だからこそ、「再審判決の様子」を映画に組み込まずに上映することも可能だったのである。
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すべて結果論でしかないのだが、「『袴田事件』だったからこそ、本作『拳と祈り』は世に出た」と考えていいはずなので、そういう意味でも笠井千晶は運を引き寄せたみたいに言えるかもしれない。
本当に、多くの偶発的な要素が重なってドキュメンタリー映画として成立した作品なのだと思う。
「捜査機関による捏造」を認めた画期的な判決
それではもう少し、本作『拳と祈り』では描かれていない話に触れておくことにしよう。本作公開直前に出た再審での無罪判決についてである。
関係者がどんな心持ちで当日を迎えたのか、つまり「無罪判決は出ないだろう」と考えていたのか、あるいは「間違いなく無罪判決だろう」と思っていたのかは分からないが、私としては「袴田巌は明らかに無罪だろう」と考えていたので、無罪判決自体にはさほど驚かなかった。「やっとか」と感じたほどである。しかしその判決内容にはかなり驚かされた。テレビのニュース番組で見たのだったと思うが、「最大の証拠とされた『5点の衣類』は、捜査機関による捏造である可能性が極めて高い」と指摘されていたからだ。私は別に刑事裁判に詳しいわけではないので、裁判所が「捜査機関による捏造」に言及したケースが過去にもあったのかどうか知らないが、私はこの判決を知って「こんなこと言って大丈夫だろうか」と感じた。
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もちろん、「司法の独立」的な意味で言えば、裁判所が「警察・検察の違法性」について指摘することはとても健全で素晴らしいことだと思う。だから、そういう部分に対して心配の気持ちを抱いていたのではない。そうではなく、「そんな言い方をしたら、検察としても控訴せざるを得なくなるのではないか」と考えていたのである。
というのも、2024年9月26日に無罪判決が出た再審裁判は、最高裁判所ではなく静岡地方裁判所で行われていたからだ。最高裁判所で判決が出ればそれが最終的な決定となるが、地方裁判所や高等裁判所での審理の場合は、原告・被告共に控訴する権利がある。つまり、9月26日に出た無罪判決に対して検察は「判決を不服とした控訴」を行使する権利を有していたのだ。この時の判決は、最終的に10月9日に確定したのだが、これは要するに、「期限までに警察が控訴しなかった」ことを意味している。そんな風にして本件は、最終的な無罪確定に至ったというわけだ。
しかし検察としては難しい判断だっただろう。判決の中で「捜査機関による捏造」について言及されていたということは、「控訴しない=『捜査機関による捏造』を認めること」になってしまうからだ。それは検察としても受け入れがたいだろう。実際には、検察は判決確定後に「判決には重大な事実誤認があるが、刑事訴訟法が定める理由が見当たらないので特別抗告は行わないことに決めた」という主旨のコメントを出していたが、なかなか苦しい説明に感じられる。ただ検察としても、体面を保ちつつ事態を決着させるにはこうするしかなかったのだろう。本当に、検察が控訴しなくて良かったなと思う。
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しかしそれにしても、「捜査機関による捏造」に言及したことにはやはり驚かされた。弁護士など関係者がどんな予想をしていたのかは分からないが、「まさかそこまで踏み込んだ判決になるとは」と驚いたんじゃないだろうか。そしてその判決内容ゆえに「袴田事件」は改めて注目を集めることになり、そしてだからこそ本作『拳と祈り』は「多くの人に観てもらい得るドキュメンタリー映画」として成立しているのだと思う。
こんな風に書くと、本作をあまり褒めていないように感じられるかもしれないが、決してそんなことはない。「まともには喋れない袴田巌」はドキュメンタリー映画の中心点としてはどうしたって向いていないし、そんな存在を「多くの人に観てもらい得るドキュメンタリー映画」に昇華した監督・笠井千晶の運や手腕は素晴らしいものがあると思う。色んな要素が絡まりあって、「唯一無二」と言える作品に仕上がっているというわけだ。
姉・袴田秀子による袴田巌の扱い方が実に興味深い
そんなわけで、ようやくちゃんと本作『拳と祈り』の内容に触れられる状態になった。本作は、先述した「死刑囚のまま釈放された2014年3月27日」以降の袴田巌の日常生活を追いかけつつ、「事件や裁判の経緯」「ボクサー・袴田巌の生涯」なども掘り下げていく作品である。
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ただこれは、言うのは簡単だが実際には相当難しいだろう。そもそも袴田巌は、1966年に逮捕されてから2014年に釈放されるまで、48年間も社会から遠ざけられていたのだ。まさに「浦島太郎」みたいな状態と言っていいだろう。
しかも彼は、「拘禁反応」によって精神がかなりやられてしまっている。例えば、袴田巌は自分のことを「神」だと思っていると袴田秀子が語っていた。彼は拘置所で洗礼を受けてカトリック信徒になったそうである(だからといって「神」になれるわけではないと思うが)。そして脈絡なく、「自分は神として生きなければならない」「私は死なないことになっている」みたいな支離滅裂なことを口にしたりするのだ。そんな状態の人間を「自由」にさせておくことは、かなり不安ではないかと思う。
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それでも袴田秀子は、弟の行動を制約しようとはしないのである。舞台挨拶の中で彼女は、「最初こそ、支援者の人に失礼な物言いをしたら叱っていたが、それもすぐに止めた」と話していた。好きなように生きさせようと振り切ったのだ。ある時、22時半を過ぎても家に戻って来なかったそうだが、「まあどこかで野宿でもしてるだろう」と考え何もしなかったという。あるいは、ランニングの途中で階段から転げ落ち1ヶ月入院した後でさえ、彼のやりたいようにさせていたのだ。
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ただ、「いつも笑っている」というスタンスに変わったのは、2014年3月27日以降なのだそうだ。再審が決まるまでは、会合の場でも常に険しい顔をしていたと話していたし、その点に関しては、古くから関わりのある笠井千晶も賛同していた。まあ、「弟が死刑囚」という境遇にいれば、そんな風になるのも当然だろう。しかし再審と釈放が決まって以降は一転、「どんなことが起こってもずっと笑っている」みたいなスタンスに変わったのだそうだ。
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恐らく「無理して笑っている」なんてことはないような気がするのだが、まあそれは私の勝手な想像に過ぎない。いずれにせよ、袴田秀子にも是非、穏やかに生きてほしいものだなと思う。
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さて、そんな感じで博多にも連れて行ったわけだが、博多には実は、1審で袴田巌に死刑判決を下した裁判官・熊本典道が入院する病院があった。彼は裁判を担当していた当時から「袴田巌は無実」だと思っていたのだが、合議の結果2対1で死刑判決が決まってしまったのだ。そして主任だったこともあり、彼は自らの意見に反して死刑判決文を作成しなければならなくなったのである。
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その後、恐らく裁判官を退任してからの話だと思うが、熊本典道は2007年に東京拘置所の前まで足を運んで袴田巌との面会を求めたものの、本人が断ったため実現しなかった。ただ袴田巌が、「1審判決を書いた裁判官だから会わなかった」のかどうかは分からない。というのも、また別の時期の話ではあるのだが、袴田秀子が舞台挨拶の中で、「再審が決まるまでの3年間ぐらいは、自分も面会を拒絶されていた」みたいなことを言っていたのである。単に「誰とも会いたくなかった」みたいなモードだったのかもしれない。
熊本典道は死刑判決を書いたことをその後もずっと後悔し続けてきたそうで、東京拘置所の前で集まった報道陣に向けて、「袴田さんの顔が浮かばない日はほとんどありません」も語っていた。また、熊本典道もカトリックに入信したという。そしてこの点について、博多の病院で彼の世話をしていた島内和子が、「袴田巌がカトリックに入信したと知って彼も信徒になった。死後に同じ場所に行って謝るつもりでいる」と話していたのが印象的だった。
そして袴田秀子は、そんな”因縁”の相手がいる博多まで、ローマだと偽って袴田巌を連れて行ったのである。2人の再会は、1審での死刑判決以来実に半世紀ぶりのことだった。熊本典道はほとんど喋れず意識も朦朧としていたが、しかし病室にやってきた袴田巌をちゃんと認識し、聞き取りにくかったが「わるかった」と口にしたのである。
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また、この再会後に監督が袴田巌に、「この前誰に会ったんでしたっけ?」と聞いたところ、病室で会ったのが「1審の判決を書いた裁判官」であることを認識していた。もちろん、袴田巌が何を考えているかを推し量るのは困難なので、袴田巌にとってこの再会がどんな意味を持っていたのかは分からない。ただ、少なくとも熊本典道にとっては大きな価値を持つ再会だったと言っていいだろう。
さて、本作にはなんと、カナダ・トロントでの取材映像も含まれている。しかし、袴田事件とトロントはどのように関係してくるのだろうか?
実は、まさに奇遇としか言いようがないのだが、袴田巌が逮捕された1966年に、ルービン・“ハリケーン”・カーターというボクサーが殺人罪で逮捕され、終身刑が言い渡されたのだが、その後19年の収監の後、彼もまた1988年に無罪を勝ち取ったのである。そして袴田巌はそんなルービンに拘置所から手紙を送ったことがあるのだ。「同じ年に殺人罪で逮捕されたボクサーが、その後無罪を勝ち取る」というのはあまりに偶然が重なりすぎていると感じないだろうか。
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ちなみにルービンは、出所後にWBCからチャンピオンベルトを授与されたそうだ。彼は、「リング外でチャンピオンベルトをもらったのは、今のところ自分だけだ」と語っていた。そして袴田巌もまた、WBCからチャンピオンベルトを授与されていたのである。しかし袴田巌への授与はルービンのものとは少し状況が違っていた。ルービンは出所した時点で無罪が確定していたわけだが、袴田巌がチャンピオンベルトを受け取った時はまだ「死刑囚」だったからだ。「死刑囚という立場のままチャンピオンベルトの授与が決まった」という事実にはかなり驚かされてしまった。
海の向こうとの奇遇も含め、本当にあらゆる特異点を持ってるなと改めて感じさせられた事件である。
「冤罪」に対しての私自身の考え方
それでは最後に少し、「冤罪」に対して私がどのような考えを持っているのかについて簡単に触れて終わりにしようと思う。
まず私は、「事件捜査」に限った話ではないのだが、「人間の行動にはミスがつきものだ」と考えている。だから「ミスをするな」みたいな批判は無意味だし、逆効果であるとさえ思う。そうではなく、私は「『ミスが起こること』を前提としてシステムを構築すべき」だと考えているのである。
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しかし、現実の多くの場面でそのようにはなっていない。例えば「袴田事件」においては、「再審」に関するある問題点が改めて浮き彫りにされた。それは、「再審において、検察側が持つ証拠を開示する義務が無いこと」だ。再審を請求する際は絶対に、「それまでに示されていなかった新たな証拠」が必要とされるのだが、しかし当然のことながら、刑事事件の証拠はほとんど検察が保管している。そんな状態で「新たな証拠」を探し出すことは非常に困難だと想像できるだろう。再審に関する法律の条文は大正時代に作られたまま変わっていないとのことで、やはり現代の感覚に合わせてアップデートすべきだと思う。
さらに日本の場合、「取り調べ」にも問題が多いとされている。昔ほどではないかもしれないが、今もやはり「強引な取り調べで自白を強要する」みたいなやり方がまかり通っている部分もあるという。現在は取り調べの録画が義務づけられているそうだが、その対象となる事件は全体の3%程度であり、今もそのほとんどが「録画されない取り調べ」のままである。「取り調べの録画」は世界的な潮流であり、日本も変わるべきなのだが、なかなかそうはなっていない。
このように、司法の世界では様々な場面で「『ミスが起こること』を前提としたシステム」が存在していないのである。
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またそもそもだが、何らかの理由で「司法側のミス」だろう状況が発覚した場合に、司法側がそのミスを認めないことが多いのも問題だと思う。警察や検察は恐らく、「司法の信頼を揺るがせにしないため」みたいな理由でミスを認めないのだと思うが、私にはその理屈は奇妙なものに感じられる。「ミスが無い組織」などそもそもあり得ない。だから、「ミスが報告されない状況」は単に、「ミスを隠蔽しているのではないか」という疑惑に繋がるだけだと思うからだ。
とはいえ「袴田事件」においては、「再審決定と同時に死刑囚を釈放する」という前代未聞の展開となったわけで、そのような変化は、「これから何かが変わっていくかもしれない」という予感を抱かせもするだろう。司法の原則は「疑わしきは罰せず」なのだから、その大原則に則った”まともな”司法が実現することを祈っている。
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最後に
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本作を観ながら感じていたのは、「袴田巌にはとにかく穏やかに生きていてほしい」ということだけだった。「拘禁反応」のせいでとても「穏やか」だなんて言えない状態かもしれないが、何にせよ「生きていることに『歓び』が感じられるような人生」だと良いなと思っている。
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