目次
はじめに
この記事で取り上げる本
著:加藤一二三, 著:渡辺明
¥1,463 (2022/09/12 20:59時点 | Amazon調べ)
ポチップ
この本をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- 藤井聡太も話題の1つとして取り上げられるが、決して作品のメインではない
- AIの台頭がもたらした、「勝敗を決する決定的要因」の変化とは?
- 「答えを知れるメリット」と「考える力が奪われるデメリット」のどちらを重視するか?
渡辺明の冷静な分析・指摘が光る、将棋初心者でも面白く読める一冊
自己紹介記事
あわせて読みたい
ルシルナの入り口的記事をまとめました(プロフィールやオススメの記事)
当ブログ「ルシルナ」では、本と映画の感想を書いています。そしてこの記事では、「管理者・犀川後藤のプロフィール」や「オススメの本・映画のまとめ記事」、あるいは「オススメ記事の紹介」などについてまとめました。ブログ内を周遊する参考にして下さい。
あわせて読みたい
【全作品読了・視聴済】私が「読んできた本」「観てきた映画」を色んな切り口で分類しました
この記事では、「今まで私が『読んできた本』『観てきた映画』を様々に分類した記事」を一覧にしてまとめました。私が面白いと感じた作品だけをリストアップしていますので、是非本・映画選びの参考にして下さい。
どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
長い伝統を持つ将棋界を、AIはどう変えたのか?トップランナーの加藤一二三、渡辺明の2人が語り尽くした『天才の考え方』
本書の、副題は「藤井聡太とは何者か?」だが、決して藤井聡太に関する本ではない。藤井聡太についても触れられはするが、あくまでも話題の一部という扱いだ。本書は共に「天才」として世間的にも知られているだろう2人の棋士、加藤一二三と渡辺明が、「将棋」をテーマに様々な話題について語り合う作品である。大雑把に言えば、加藤一二三が昔の将棋界を、渡辺明が現代将棋を語っていると考えればいいだろう。
あわせて読みたい
【改革】AIは将棋をどう変えた?羽生善治・渡辺明ら11人の現役棋士が語る将棋の未来:『不屈の棋士』(…
既に将棋AIの実力はプロ棋士を越えたとも言われる。しかし、「棋力が強いかどうか」だけでは将棋AIの良し悪しは判断できない。11人の現役棋士が登場する『不屈の棋士』をベースに、「AIは将棋界をどう変えたのか?」について語る
話題は多岐に渡るが、その中でも「AIが将棋界にもたらした変化」に関する話に私は一番惹かれた。そこでこの記事では、その点に絞って内容に触れていきたいと思う。
AIによる変化を、渡辺明はどのように表現しているか?
AIによる変化を一番分かりやすく表現しているのは、渡辺明のこの発言だろう。
大山十五世名人や加藤九段たちの時代、米長永世棋聖や中原十六世名人の時代、羽生世代と、将棋は変わってきている。ただし、これまでは、変化の幅がそれほど大きくはなかった。
たとえば1979年から1999年までの二十年の変化の幅と、1999年から2019年までの二十年の変化の幅は、くらべられないほど後者のほうが大きい。
1979年から1999年までを中心に戦ってきていた人はそんなことはないと言うかもしれないが、私の感覚でいえば、そういうことになる。(渡辺明)
あわせて読みたい
【驚嘆】この物語は「AIの危険性」を指摘しているのか?「完璧な予知能力」を手にした人類の過ち:『預…
完璧な未来予知を行えるロボットを開発し、地震予知のため”だけ”に使おうとしている科学者の自制を無視して、その能力が解放されてしまう世界を描くコミック『預言者ピッピ』から、「未来が分からないからこそ今を生きる価値が生まれるのではないか」などについて考える
将棋研究のレベルが大きく変わったと、渡辺明は実感しているそうだ。そしてそれらは、「戦法の流行」「新手への対策」などから感じ取れるという。
だが、現在の将棋界では、戦法の流行も一週間くらいの単位で変わっていくことが珍しくない。「先週まではこういう指し方が目立っていたのに今週は減ったよね」といった変化が頻繁になっているのだ。(渡辺明)
新手が生まれた日のうちに対策がとられるケースさえ珍しくはない。
そのため、新手の概念も変わってきた。
以前であれば、それまでの定跡とは異なった新手を思いつけば、その手は生き残っていくことが前提になっていた。しかしいまは、新手が生き残るなどとは誰も思っていない。
自分が編みだした新手に対して思い入れを持ちにくくなっているのは確かだ。(渡辺明)
特に「新手」に対するこの感覚は印象的だった。
あわせて読みたい
【諦め】「人間が創作すること」に意味はあるか?AI社会で問われる、「創作の悩み」以前の問題:『電気…
AIが個人の好みに合わせて作曲してくれる世界に、「作曲家」の存在価値はあるだろうか?我々がもうすぐ経験するだろう近未来を描く『電気じかけのクジラは歌う』をベースに、「創作の世界に足を踏み入れるべきか」という問いに直面せざるを得ない現実を考える
私自身、さほど将棋に詳しいわけではないのだが、私よりもさらに詳しくない方向けに、少し「新手」の説明をしておこうと思う。
将棋には「定跡」と呼ばれる、「このような状況ではこう指すべし」という指針となる教えが大昔から連綿と受け継がれている。しかし時に、その「定跡」を覆したり、あるいは誰も想像さえしなかったような展開がもたらされたりするような手が生まれることがあるのだ。これが「新手」である。
かつては、対局中に「新手」が登場すると、その対策を講じるのにかなり時間が掛かった。だから、「新手」は少なくとも一定期間はその強さを発揮でき、結果として「生き残る」ことになるというわけだ。
しかし現代では、「新手」が生み出されたとしても、AIによる解析がすぐに行われ、対策がすぐに見つかってしまう。寿命がもの凄く短くなっているのである。そして、そのような変化について渡辺明は指摘しているというわけだ。
これらの文章だけでも、AIがいかに将棋界を変えたのか理解できるだろう。
「羽生世代」がタイトル戦に出られなくなっている理由
さて、AIによる変化に絡めて、本書では「羽生世代がタイトル戦に出られなくなっている」という話が展開される。「羽生世代」も、将棋ファンにはお馴染みの呼称だろうが、知らない人のために説明しておこう。
あわせて読みたい
【革新】天才マルタン・マルジェラの現在。顔出しNGでデザイナーの頂点に立った男の”素声”:映画『マル…
「マルタン・マルジェラ」というデザイナーもそのブランドのことも私は知らなかったが、そんなファッション音痴でも興味深く観ることができた映画『マルジェラが語る”マルタン・マルジェラ”』は、生涯顔出しせずにトップに上り詰めた天才の来歴と現在地が語られる
誰もが知っているだろう天才棋士・羽生善治を筆頭に、彼と同時代に活躍した棋士のことをまとめて「羽生世代」と呼ぶことがある。規格外に強かったからだ。私も決して詳しいわけではないが、佐藤康光・森内俊之・深浦康市などが「羽生世代」として名前が上がることが多いだろう。
私の知る限り、棋士をまとめて括る呼称として、「羽生世代」ほどよく知られたものは他に存在しないように思う。いかに「羽生世代」が別格の存在だったかが分かるだろう。
世代としてこれほど早く台頭してきた例は、それ以前にもそれ以後にもない。(渡辺明)
はじめてタイトルを手にすることによって注目される棋士もいなくはないが、有望な棋士は、それ以前の段階で「この人はいずれタイトルを取るのではないか」と注目される場合が多い。そういう棋士は世代ごとに現れてくるものであり、世代ごとの強さはフラットに近いといえる。AI世代になったからといって、手がつけられないほど強い人がいきなり何人も現れ、タイトル戦を席巻するわけではない。
その意味ではやはり羽生世代は特別だった。(渡辺明)
あわせて読みたい
【天才】『三島由紀夫vs東大全共闘』後に「伝説の討論」と呼ばれる天才のバトルを記録した驚異の映像
1969年5月13日、三島由紀夫と1000人の東大全共闘の討論が行われた。TBSだけが撮影していたフィルムを元に構成された映画「三島由紀夫vs東大全共闘」は、知的興奮に満ち溢れている。切腹の一年半前の討論から、三島由紀夫が考えていたことと、そのスタンスを学ぶ
渡辺明もこのように、「世代のまとまりとして異次元の強さを誇っていた」と語っている。以前読んだ本には、「それまであまり行われていなかった序盤の研究を羽生世代が積極的に行い、序盤の研究をしていない先輩棋士たちを一気に引き離した」みたいなことが書かれていた。羽生以前・羽生以後と言っていいほどに、将棋研究のレベルが変わったということなのだろう。
さてそんな最強を誇った「羽生世代」の棋士たちが、タイトル戦に出られなくなっているという。
羽生九段に限らず、いわゆる「羽生世代」は長くタイトル戦を席巻してきたが、2019年には羽生世代の棋士はひとりもタイトル戦に出場できなかった。そうなったのは、羽生九段が初タイトルとして竜王位を獲得した1989年以来のことになる。こうした状況からいっても、将棋界は「新しい時代」を迎えつつあるといえるのかもしれない。(渡辺明)
あわせて読みたい
【あらすじ】天才とは「分かりやすい才能」ではない。前進するのに躊躇する暗闇で直進できる勇気のこと…
ピアノのコンクールを舞台に描く『蜜蜂と遠雷』は、「天才とは何か?」と問いかける。既存の「枠組み」をいとも簡単に越えていく者こそが「天才」だと私は思うが、「枠組み」を安易に設定することの是非についても刃を突きつける作品だ。小説と映画の感想を一緒に書く
そしてこの背景にAIの影響があると渡辺明は語る。より正確に表現すれば、「『事前の情報処理』の重要さ」が変化したことが大きいのだそうだ。
それだけ事前の情報処理能力に左右される部分が大きくなっているのだ。
もちろん、そうはいっても、いざ対局に臨めば、対人で発揮される本人の実力が問われるのは、昔も今も変わらない。
ただし、二つの力が持つ意味の比率は変わってきている。昭和はもちろん、平成の半ばくらいまでなら、対局場に入ってからの実力が八割、九割といった意味を持っていたのではないかと思う。事前の情報処理能力が持つ意味は、一割、二割程度だったということだ。それがいまは四割、五割といったところまできている。人によっては五割を超えたと言うかもしれない。
それだけ重要な事前の準備をおろそかにしていては、結果は望めなくなっている。事前準備の段階から勝負は始まっていて、その時点で勝敗が決してしまう場合もないとはいえない。(渡辺明)
先程触れた通り、「戦法の流行」や「新手への対策」がAIの登場によって驚くべきスピードで変化している。これはつまり、「知っているか否か」が大きく戦況を左右するとも言えるだろう。対局中に現れた新手に対して、「どのような対策が見つかったのか」という知識がなければ対応は出来ない。実力が無ければ勝てないことに変わりはないが、しかし、「いかに情報収集するか」も勝敗を大きく左右する時代になった、というわけだ。
あわせて読みたい
【妄執】チェス史上における天才ボビー・フィッシャーを描く映画。冷戦下の米ソ対立が盤上でも:映画『…
「500年に一度の天才」などと評され、一介のチェスプレーヤーでありながら世界的な名声を獲得するに至ったアメリカ人のボビー・フィッシャー。彼の生涯を描く映画『完全なるチェックメイト』から、今でも「伝説」と語り継がれる対局と、冷戦下ゆえの激動を知る
そして渡辺明は、「昔から活躍してきた『羽生世代』にはやはり、『対局場での勝負』というスタイルへのこだわりがあるのではないか」と考えているのである。もちろん、情報収集を怠っているなんてことはないだろう。そうではなく、「向き合ってから勝負は始まる」というポリシーのようなものが、タイトル戦への出場機会減少という結果に繋がっている可能性について指摘しているのだ。
スポーツの分野でも、様々なテクノロジーの進化によって「データ分析」が欠かせなくなったはずだが、将棋も同じなのである。どんな世界でも当然「若い世代の台頭」は起こる。しかし将棋の場合、さらに「AI研究との親和性」という要素が加わってくるので、余計ややこしくなるというわけだ。
昭和の将棋は研究されなくなっている
AIが登場する以前の将棋研究と言えば、「過去の対局の棋譜を並べること」が主流だった。しかし今はもう、そのやり方が廃れてしまっているという。
あわせて読みたい
【革命】電子音楽誕生の陰に女性あり。楽器ではなく機械での作曲に挑んだ者たちを描く映画:『ショック…
現代では当たり前の「電子音楽」。その黎明期には、既存の音楽界から排除されていた女性が多く活躍した。1978年、パリに住む1人の女性が「電子音楽」の革命の扉をまさに開こうとしている、その1日を追う映画『ショック・ド・フューチャー』が描き出す「創作の熱狂」
私が十代の頃などは加藤一二三九段の対局をはじめ、昭和の将棋の棋譜を見て、それを盤上に再現しながら頭をひねっていたものだ。しかし、AI世代の棋士の多くは、昭和の将棋を研究したことなどないのではないかと想像される。個人差があることなので一概には言い切れないが、昭和の棋譜どころか、近年のものでもプロ同士の対局で残された棋譜を振り返ることも少ないのではないかと思う。いまは最新の戦術解析など、やることが多くなりすぎているので、復習のための時間がとれなくなっているからだ。
世代が異なれば、研究の方法が違ってくるのは当然といえる。私が十代の頃に優秀な将棋ソフトがあったなら、やはりそれを使って勉強していたはずだ。(渡辺明)
この点に関してはやはり、長く棋士を続けてきた加藤一二三の話が興味深く感じられるだろう。彼はまず、「棋譜を残せること」こそが将棋の醍醐味だと語っている。
あわせて読みたい
【教育】映画化に『3月のライオン』のモデルと話題の村山聖。その師匠である森信雄が語る「育て方」論:…
自身は決して強い棋士ではないが、棋界で最も多くの弟子を育てた森信雄。「村山聖の師匠」として有名な彼の「師匠としてのあり方」を描く『一門 ”冴えん師匠”がなぜ強い棋士を育てられたのか?』から、教育することの難しさと、その秘訣を学ぶ
棋譜を残せる、というのは将棋のすばらしさの一つだ。
いまの人たちは、将棋ソフトなどを使って最新の情報にこだわっているが、それだけで将棋は強くなれない。
これまでに私は、百年、二百年経っても色褪せない将棋を指してきた。その自負がある。
バッハやモーツァルト、ベートーベンらが残した曲がいまなお愛され、世界中で演奏されていることとも意味合いは変わらない。
過去があってこそ現在があり、未来がつくられる。
そのつながりは決して絶たれない。
そんな系譜の中で自分の足跡を残せるのが棋士である。
すばらしい仕事だ。(加藤一二三)
さて、これは割と「感傷的」と言っていい話だと思う。しかし、「昭和の棋譜を研究しないこと」に関する、こんな具体的なマイナス事例も紹介している。次の話は、2019年11月の王将戦リーグ最終局における藤井聡太の対局について語ったものだ。
この対局で藤井七段は新しい型に持ち込んだつもりだったのかもしれないが、実際は過去に私も指したことがある型だった。
あまり出ない型でもあり、藤井七段はそういう展開になったときの棋譜を見たことがなかったのだろう。いくら意識的に過去の棋譜を見ているといっても、すべての棋譜を見渡すのは不可能なので仕方がない。しかし、この対局以前に私が闘っていた棋譜を見ていたならどうだっただろうか……。(加藤一二三)
あわせて読みたい
【青春】二宮和也で映画化もされた『赤めだか』。天才・立川談志を弟子・談春が描く衝撃爆笑自伝エッセイ
「落語協会」を飛び出し、新たに「落語立川流」を創設した立川談志と、そんな立川談志に弟子入りした立川談春。「師匠」と「弟子」という関係で過ごした”ぶっ飛んだ日々”を描く立川談春のエッセイ『赤めだか』は、立川談志の異端さに振り回された立川談春の成長譚が面白い
「たられば」の話をしても仕方ないが、藤井聡太の敗戦で終わったこの対局で、もし勝っていれば、「史上最年少でのタイトル挑戦権獲得」となっていたそうだ。加藤一二三の発言は、その残念さを滲ませたものだと受け取るべきだろう。ちなみに、この対局に勝っていた場合の次局の対戦相手は渡辺明だった。
さて、誤解を問いておく必要があるだろうが、「藤井聡太は過去の棋譜の研究を行うタイプの棋士だ」と加藤一二三は語っている。渡辺明も、
藤井七段の場合、年齢のわりにはAIの導入が比較的遅かったようだ。
聞いたところによれば、将棋ソフトを活用するようになったのはプロになる直前の三段リーグか、プロになってからだという。(渡辺明)
と言っている。基本的に過去の棋譜を研究しているという藤井聡太でさえ取りこぼしてしまうのが、「AI研究が当たり前になった現代将棋」の難しさなのだろう。
あわせて読みたい
【革新】映画音楽における唯一のルールは「ルールなど無い」だ。”異次元の音”を生み出す天才を追う:映…
「無声映画」から始まった映画業界で、音楽の重要性はいかに認識されたのか?『JAWS』の印象的な音楽を生み出した天才は、映画音楽に何をもたらしたのか?様々な映画の実際の映像を組み込みながら、「映画音楽」の世界を深堀りする映画『すばらしき映画音楽たち』で、異才たちの「創作」に触れる
AIがもたらした「棋士」の変化
さてこのように、AIの台頭は将棋界を大きく変化させた。さらにここからは、「AIが棋士の内面をいかに変化させたか」について触れていきたいと思う。
AIで学ぶのとアナログで学ぶのとをくらべて、何が違うかといえば、そこに「解」があるかないかだ。その差はきわめて大きい。(渡辺明)
渡辺明はこのように主張している。これはかなり重要な指摘だと言えるだろう。というのも、AIが登場する以前の将棋研究では、「これが正解だ」と断言することなど誰にも出来なかったからだ。「これが正しいに違いない」というところまでたどり着いても、そのやり方が後々ひっくり返され、棋士たちは改めて思考を巡らせていく。そのようなやり方で「将棋」というものを発展させてきたはずだ。
あわせて読みたい
【思考】「”考える”とはどういうことか」を”考える”のは難しい。だからこの1冊をガイドに”考えて”みよう…
私たちは普段、当たり前のように「考える」ことをしている。しかし、それがどんな行為で、どのように行っているのかを、きちんと捉えて説明することは難しい。「はじめて考えるときのように」は、横書き・イラスト付きの平易な文章で、「考えるという行為」の本質に迫り、上達のために必要な要素を伝える
この点を踏まえた上で渡辺明は、「考えることを放棄していいのか?」という問いを投げかける。
AIが将棋に何をもたらしたかということについては、人によって考え方がまったく異なる部分であり、簡単に語るのは難しい。
進化と取る人もいるかもしれないが、「研究するのがラクになっただけ」と考える人も少なくないだろう。それがいいのか悪いのかも、個人の価値観次第だ。
我々棋士では簡単に答えを出せないようなことでもAIは解を出す。その解がすぐに出ることを良しとするかしないかだ。
これまでがそうだったように、AIが出す解に頼らず、自分で答えを見つけようとして、一日でも二日でも一週間でもそれを考え続けることに意義を感じる人もいるだろう。一方、AIが解を出してくれるのなら、悩む必要はなくなるので、勉強が進めやすいと考える人もいる。そこではやはり「考えることを放棄していいのか?」という最初の議論に戻ることになる。(渡辺明)
あわせて読みたい
【抽象】「思考力がない」と嘆く人に。研究者で小説家の森博嗣が語る「客観的に考える」ために大事なこ…
世の中にはあまりに「具体的な情報」が溢れているために、「客観的、抽象的な思考」をする機会が少ない。そんな時代に、いかに思考力を育てていくべきか。森博嗣が『人間はいろいろな問題についてどう考えていけば良いのか』を通じて伝える「情報との接し方」「頭の使い方」
学校の勉強などにおいても同じことが言えるだろう。「答えを知ること」と「答えを思考によって導き出すこと」は、最終的な状態は同じだが、そこに至るまでの過程に大きな違いが存在する。そして、「考えなくても答えを知れる」ことに価値を見出すのか、「自分の頭で考えて答えに辿り着く」ことに価値を見出すかで、AI研究の捉え方はまったく変わってくる、というわけだ。
私は個人的に、「考える力を失ったら人間はおしまいだ」と思っているので、「考える過程」を大事にしたい。しかし棋士の場合は「勝敗」を無視できない。過程はどうあれ、勝てなければ意味がない世界で闘っているだ。つまり、渡辺明の問いは「勝つために、考えることを放棄していいのか?」「考えることを放棄し勝てるのか?」と捉えるべきなのである。
加藤一二三の有名な対局として、7時間も長考したものが知られている。1968年、第七期十段戦の第四局、彼は7時間考えた末に「4四銀」という手を指し勝利した。
あわせて読みたい
【映画】『キャスティング・ディレクター』の歴史を作り、ハリウッド映画俳優の運命を変えた女性の奮闘
映画『キャスティング・ディレクター』は、ハリウッドで伝説とされるマリオン・ドハティを描き出すドキュメンタリー。「神業」「芸術」とも評される配役を行ってきたにも拘わらず、長く評価されずにいた彼女の不遇の歴史や、再び「キャスティングの暗黒期」に入ってしまった現在のハリウッドなどを切り取っていく
渡辺明は「長考」について、
私個人は、長考するときは、いくつか思いついた手のどれを選ぶかに時間をかける場合が多くなりますね。(渡辺明)
と言うのだが、7時間の長考について問われた加藤一二三はこんな風に答えている。
正確に言うと、あれは着手する二十分ぐらい前に見つけたんです。それまでは思い浮かべられなかったですね。どうしてそれだけ考えたかといえば、「何かいい手があるはずだ」というふうに思えていたからなんです。(加藤一二三)
あわせて読みたい
【思考】『翔太と猫のインサイトの夏休み』は、中学生と猫の対話から「自分の頭で考える」を学べる良書
「中学生の翔太」と「猫のインサイト」が「答えの出ない問い」について対話する『翔太と猫のインサイトの夏休み』は、「哲学」の違う側面を見せてくれる。過去の哲学者・思想家の考えを知ることが「哲学」なのではなく、「自分の頭で考えること」こそ「哲学」の本質だと理解する
時代が違うと言えばそれまでかもしれないが、加藤一二三のこの主張は、「自らの頭で考えること」の重要性を改めて指摘するものであるように感じられた。
「自分の頭で考える」ということに関して、渡辺明は様々な指摘を行っている。
だがいまは、AIが勝負前から「序盤戦の解」を出している。
その解を知っていれば、相手が実績ではとてもかなわない先輩であっても臆することがない。そのためなのか、最近の若い棋士は、伸び伸びと戦っているような印象を受ける。序盤戦から長考するような棋士は減り、ある種、機械的に序盤を進めていくのだ。(渡辺明)
「知っているという状態」が、「強気で臨む」というメンタルに影響しているという指摘は非常に興味深いと感じた。それが良いことなのかどうか、私にはうまく判断できないが。
あわせて読みたい
【感想】努力では才能に勝てないのか?どうしても辿り着きたい地点まで迷いながらも突き進むために:『…
どうしても辿り着きたい場所があっても、そのあまりの遠さに目が眩んでしまうこともあるでしょう。そんな人に向けて、「才能がない」という言葉に逃げずに前進する勇気と、「仕事をする上で大事なスタンス」について『羊と鋼の森』をベースに書いていきます
また、先程触れた話の繰り返しにもなるが、
いまの将棋と昭和の将棋をくらべたときにも、また違った部分はある。いまの将棋はAIによって出された解を記憶しておくことが大切になるが、昭和の将棋はそうではなかった。「その場で考える」ということが、より大きな意味を持っていた。(渡辺明)
とも書いている。
あわせて読みたい
【勝負】実話を基にコンピューター将棋を描く映画『AWAKE』が人間同士の対局の面白さを再認識させる
実際に行われた将棋の対局をベースにして描かれる映画『AWAKE』は、プロ棋士と将棋ソフトの闘いを「人間ドラマ」として描き出す物語だ。年に4人しかプロ棋士になれない厳しい世界においては、「夢破れた者たち」もまた魅力的な物語を有している。光と影を対比的に描き出す、見事な作品
だからこそ渡辺明は、「『人間同士が対局する将棋』のレベル」は、以前の方がより高かったのではないかと言う。
十年ほど前に羽生世代の棋士たちとタイトルを争っていた頃には”知性と思考力で勝負をしていた感覚”が強かった。いまの勝負はやはり事前の準備にかかるウェイトが大きくなりすぎているというのが私の実感だ。
人間同士が行う将棋の技術としてどちらのレベルが高かったかといえば、私などは十年前だったのではないかと思うのだ。(渡辺明)
あわせて読みたい
【天才】写真家・森山大道に密着する映画。菅田将暉の声でカッコよく始まる「撮り続ける男」の生き様:…
映画『あゝ荒野』のスチール撮影の際に憧れの森山大道に初めて会ったという菅田将暉の声で始まる映画『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい』は、ちゃちなデジカメ1つでひたすら撮り続ける異端児の姿と、50年前の処女作復活物語が見事に交錯する
それでもやはり、十年ほど前のタイトル戦のほうが将棋のレベルが高く、満足度が高かったというのが、偽りのない感覚である。
だからこそ、AIが将棋を変化させたことは間違いがなくても、それが進化とは言い切れない面がある。(渡辺明)
AIは間違いなく将棋界を変えたが、それが「良い変化」と言えるものなのかは判断しかねるというわけだ。
しかし、面白いことに、
だが、皮肉なことに私には、どうやら現代の将棋に適性があるようだ。(渡辺明)
とも語っている。彼は一時期スランプに陥ったのだが、「情報収集を主体とした現代的な研究スタイル」を意識的に取り入れた結果、また勝率が上がるようになったそうだ。渡辺明はこれまで、スタイルを変えてうまくいったことがほとんどないそうで、そんなこともあり、彼は「現代将棋の方に適性がある」と自覚するに至ったのである。「将棋界全体」にとって「良い変化」だったかはなんとも言えないが、「渡辺明」という一個人にとっては「良い変化」だったというわけだ。
あわせて読みたい
【人生】日本人有名プロゲーマー・梅原大吾の名言満載の本。「努力そのものを楽しむ」ための生き方とは…
「eスポーツ」という呼び名が世の中に定着する遥か以前から活躍する日本人初のプロゲーマー・梅原大吾。17歳で世界一となり、今も一線を走り続けているが、そんな彼が『勝ち続ける意志力』で語る、「『努力している状態』こそを楽しむ」という考え方は、誰の人生にも参考になるはずだ
著:加藤一二三, 著:渡辺明
¥1,463 (2022/09/12 21:01時点 | Amazon調べ)
ポチップ
あわせて読みたい
【全作品読了済】私が読んできたノンフィクション・教養書を色んな切り口で分類しました
この記事では、「今まで私が読んできたノンフィクションを様々に分類した記事」を一覧にしてまとめました。私が面白いと感じた作品だけをリストアップしていますので、是非本選びの参考にして下さい。
最後に
AIがもたらした変化についてかなり大局的に考察を続けた渡辺明は、今後の展開についても冷静に指摘している。
あわせて読みたい
【偉業】「卓球王国・中国」実現のため、周恩来が頭を下げて請うた天才・荻村伊智朗の信じがたい努力と…
「20世紀を代表するスポーツ選手」というアンケートで、その当時大活躍していた中田英寿よりも高順位だった荻村伊智朗を知っているだろうか?選手としてだけでなく、指導者としてもとんでもない功績を残した彼の生涯を描く『ピンポンさん』から、ノーベル平和賞級の活躍を知る
元々AIによる将棋ソフトは、「プロ棋士に勝つこと」を目標に開発が続けられてきた。そして、ソフトとプロ棋士の対局が何度か行われた結果、「ソフトはプロ棋士並の実力を持つ」ということが明らかになったのである。そしてそれを1つの区切りとして、ある時点からソフトとプロ棋士の対局は行われなくなった。
あわせて読みたい
【能力】激変する未来で「必要とされる人」になるためのスキルや考え方を落合陽一に学ぶ:『働き方5.0』
AIが台頭する未来で生き残るのは難しい……。落合陽一『働き方5.0~これからの世界をつくる仲間たちへ~』はそう思わされる一冊で、本書は正直、未来を前向きに諦めるために読んでもいい。未来を担う若者に何を教え、どう教育すべきかの参考にもなる一冊。
今も将棋ソフト同士の優劣を競う選手権は開催されており、有志がその闘いに向けて開発を続けているのが現状だ。しかし、この選手権さえ開催されなくなれば、「将棋ソフトを開発する動機」が消えてしまい、新たなソフト開発が行われなくなるだろう、と渡辺明は考えている。
そしてそうなった時、将棋界がどのような変化を迎えるのかは誰にも分からない、と指摘するのだ。確かにその通りだろう。
あわせて読みたい
【革命】観る将必読。「将棋を観ること」の本質、より面白くなる見方、そして羽生善治の凄さが満載:『…
野球なら「なんで今振らないんだ!」みたいな素人の野次が成立するのに、将棋は「指せなきゃ観てもつまらない」と思われるのは何故か。この疑問を起点に、「将棋を観ること」と「羽生善治の凄さ」に肉薄する『羽生善治と現代』は、「将棋鑑賞」をより面白くしてくれる話が満載
AIによる研究は、ソフト開発の進歩を前提にしている。それが止まった時、AIを軸に研究してきた棋士の進歩も止まってしまいかねない。そしてそのような時代を迎えたとすれば、一昔前の棋士のような、「考える力」で闘いを挑んできた者たちがまた台頭してくる可能性もあるだろう。将棋の世界はまだまだ変化し得るだろうし、あまり詳しくはない私としても、その変化を楽しみにしたいと思う。
さて最後に、加藤一二三の変な話に触れて終わりにしよう。加藤一二三が「棋譜の研究などほとんどしなかった」と語ったことを受けて、渡辺明が「家でどのような研究をされていたんですか?」と問うのだが、それに対して加藤一二三はこんな風に答えるのである。
あわせて読みたい
【驚嘆】映画『TAR/ター』のリディア・ターと、彼女を演じたケイト・ブランシェットの凄まじさ
天才女性指揮者リディア・ターを強烈に描き出す映画『TAR/ター』は、とんでもない作品だ。「縦軸」としてのターの存在感があまりにも強すぎるため「横軸」を上手く捉えきれず、結果「よく分からなかった」という感想で終わったが、それでも「観て良かった」と感じるほど、揺さぶられる作品だった
若い頃は、対局前には闘志を持続しなければいけないと思って、イギリスのウィンストン・チャーチルという人がノーベル文学賞を取った『第二次大戦回顧録』を買ってきて読むという習慣がありましたね。(加藤一二三)
もはや将棋とは関係ないとしか思えないが、彼としては真剣な回答なのだろう。やはり色んな意味で「異次元」の棋士なのだと改めて実感させられた。
あわせて読みたい
【価値】レコードなどの「フィジカルメディア」が復権する今、映画『アザー・ミュージック』は必見だ
2016年に閉店した伝説のレコード店に密着するドキュメンタリー映画『アザー・ミュージック』は、「フィジカルメディアの衰退」を象徴的に映し出す。ただ私は、「デジタル的なもの」に駆逐されていく世の中において、「『制約』にこそ価値がある」と考えているのだが、若者の意識も実は「制約」に向き始めているのではないかとも思っている
次におすすめの記事
あわせて読みたい
【感想】映画『ルックバック』の衝撃。創作における衝動・葛藤・苦悩が鮮やかに詰め込まれた傑作(原作…
アニメ映画『ルックバック』は、たった58分の、しかもセリフも動きも相当に抑制された「静」の映画とは思えない深い感動をもたらす作品だった。漫画を描くことに情熱を燃やす2人の小学生が出会ったことで駆動する物語は、「『創作』に限らず、何かに全力で立ち向かったことがあるすべての人」の心を突き刺していくはずだ
あわせて読みたい
【価値】レコードなどの「フィジカルメディア」が復権する今、映画『アザー・ミュージック』は必見だ
2016年に閉店した伝説のレコード店に密着するドキュメンタリー映画『アザー・ミュージック』は、「フィジカルメディアの衰退」を象徴的に映し出す。ただ私は、「デジタル的なもの」に駆逐されていく世の中において、「『制約』にこそ価値がある」と考えているのだが、若者の意識も実は「制約」に向き始めているのではないかとも思っている
あわせて読みたい
【奇妙】映画『鯨の骨』は、主演のあのちゃんが絶妙な存在感を醸し出す、斬新な設定の「推し活」物語
映画『鯨の骨』は、主演を務めたあのちゃんの存在感がとても魅力的な作品でした。「AR動画のカリスマ的存在」である主人公を演じたあのちゃんは、役の設定が絶妙だったこともありますが、演技がとても上手く見え、また作品全体の、「『推し活』をある意味で振り切って描き出す感じ」もとても皮肉的で良かったです
あわせて読みたい
【映画】『キャスティング・ディレクター』の歴史を作り、ハリウッド映画俳優の運命を変えた女性の奮闘
映画『キャスティング・ディレクター』は、ハリウッドで伝説とされるマリオン・ドハティを描き出すドキュメンタリー。「神業」「芸術」とも評される配役を行ってきたにも拘わらず、長く評価されずにいた彼女の不遇の歴史や、再び「キャスティングの暗黒期」に入ってしまった現在のハリウッドなどを切り取っていく
あわせて読みたい
【驚嘆】映画『TAR/ター』のリディア・ターと、彼女を演じたケイト・ブランシェットの凄まじさ
天才女性指揮者リディア・ターを強烈に描き出す映画『TAR/ター』は、とんでもない作品だ。「縦軸」としてのターの存在感があまりにも強すぎるため「横軸」を上手く捉えきれず、結果「よく分からなかった」という感想で終わったが、それでも「観て良かった」と感じるほど、揺さぶられる作品だった
あわせて読みたい
【実話】福島智とその家族を描く映画『桜色の風が咲く』から、指点字誕生秘話と全盲ろうの絶望を知る
「目が見えず、耳も聞こえないのに大学に進学し、後に東京大学の教授になった」という、世界レベルの偉業を成し遂げた福島智。そんな彼の試練に満ちた生い立ちを描く映画『桜色の風が咲く』は、本人の葛藤や努力もさることながら、母親の凄まじい献身の物語でもある
あわせて読みたい
【勝負】実話を基にコンピューター将棋を描く映画『AWAKE』が人間同士の対局の面白さを再認識させる
実際に行われた将棋の対局をベースにして描かれる映画『AWAKE』は、プロ棋士と将棋ソフトの闘いを「人間ドラマ」として描き出す物語だ。年に4人しかプロ棋士になれない厳しい世界においては、「夢破れた者たち」もまた魅力的な物語を有している。光と影を対比的に描き出す、見事な作品
あわせて読みたい
【衝撃】自ら立ち上げた「大分トリニータ」を放漫経営で潰したとされる溝畑宏の「真の実像」に迫る本:…
まったく何もないところからサッカーのクラブチーム「大分トリニータ」を立ち上げ、「県リーグから出発してチャンピオンになる」というJリーグ史上初の快挙を成し遂げた天才・溝畑宏を描く『爆走社長の天国と地獄』から、「正しく評価することの難しさ」について考える
あわせて読みたい
【偉業】「卓球王国・中国」実現のため、周恩来が頭を下げて請うた天才・荻村伊智朗の信じがたい努力と…
「20世紀を代表するスポーツ選手」というアンケートで、その当時大活躍していた中田英寿よりも高順位だった荻村伊智朗を知っているだろうか?選手としてだけでなく、指導者としてもとんでもない功績を残した彼の生涯を描く『ピンポンさん』から、ノーベル平和賞級の活躍を知る
あわせて読みたい
【挑戦】手足の指を失いながら、今なお挑戦し続ける世界的クライマー山野井泰史の”現在”を描く映画:『…
世界的クライマーとして知られる山野井泰史。手足の指を10本も失いながら、未だに世界のトップをひた走る男の「伝説的偉業」と「現在」を映し出すドキュメンタリー映画『人生クライマー』には、小学生の頃から山のことしか考えてこなかった男のヤバい人生が凝縮されている
あわせて読みたい
【驚嘆】「現在は森でキノコ狩り」と噂の天才”変人”数学者グリゴリー・ペレルマンの「ポアンカレ予想証…
数学界の超難問ポアンカレ予想を解決したが、100万ドルの賞金を断り、フィールズ賞(ノーベル賞級の栄誉)も辞退、現在は「森できのこ採取」と噂の天才数学者グリゴリー・ペレルマンの生涯を描く評伝『完全なる証明』。数学に関する記述はほぼなく、ソ連で生まれ育った1人の「ギフテッド」の苦悩に満ちた人生を丁寧に描き出す1冊
あわせて読みたい
【革命】観る将必読。「将棋を観ること」の本質、より面白くなる見方、そして羽生善治の凄さが満載:『…
野球なら「なんで今振らないんだ!」みたいな素人の野次が成立するのに、将棋は「指せなきゃ観てもつまらない」と思われるのは何故か。この疑問を起点に、「将棋を観ること」と「羽生善治の凄さ」に肉薄する『羽生善治と現代』は、「将棋鑑賞」をより面白くしてくれる話が満載
あわせて読みたい
【挑戦】相対性理論の光速度不変の原理を無視した主張『光速より速い光』は、青木薫訳だから安心だぞ
『光速より速い光』というタイトルを見て「トンデモ本」だと感じた方、安心してほしい。「光速変動理論(VSL理論)」が正しいかどうかはともかくとして、本書は実に真っ当な作品だ。「ビッグバン理論」の欠陥を「インフレーション理論」以外の理屈で補う挑戦的な仮説とは?
あわせて読みたい
【秘話】15年で世界を変えたグーグルの”異常な”創業エピソード。収益化無視の無料ビジネスはなぜ成功し…
スマホやネットを使う人で、グーグルのお世話になっていない人はまずいないだろう。もはや「インフラ」と呼んでいいレベルになったサービスを生み出した企業の創業からの歴史を描く『グーグル秘録』は、その歩みが「無邪気さ」と「偶然」の産物であることを示している。凄まじいエピソード満載の信じがたい企業秘話
あわせて読みたい
【狂気】日本一将棋に金を使った将棋ファン・団鬼六の生涯を、『将棋世界』の元編集長・大崎善生が描く…
SM小説の大家として一時代を築きつつ、将棋に金を注ぎ込みすぎて2億円の借金を抱えた団鬼六の生涯を、『将棋世界』の元編集長・大崎善生が描くノンフィクション『赦す人』。虚実が判然としない、嘘だろうと感じてしまうトンデモエピソード満載の異端児が辿った凄まじい生涯
あわせて読みたい
【教育】映画化に『3月のライオン』のモデルと話題の村山聖。その師匠である森信雄が語る「育て方」論:…
自身は決して強い棋士ではないが、棋界で最も多くの弟子を育てた森信雄。「村山聖の師匠」として有名な彼の「師匠としてのあり方」を描く『一門 ”冴えん師匠”がなぜ強い棋士を育てられたのか?』から、教育することの難しさと、その秘訣を学ぶ
あわせて読みたい
【日常】難民問題の現状をスマホで撮る映画。タリバンから死刑宣告を受けた監督が家族と逃避行:『ミッ…
アフガニスタンを追われた家族4人が、ヨーロッパまで5600kmの逃避行を3台のスマホで撮影した映画『ミッドナイト・トラベラー』は、「『難民の厳しい現実』を切り取った作品」ではない。「家族アルバム」のような「笑顔溢れる日々」が難民にもあるのだと想像させてくれる
あわせて読みたい
【具体例】行動経済学のおすすめ本。経済も世界も”感情”で動くと実感できる「人間の不合理さ」:『経済…
普段どれだけ「合理的」に物事を判断しているつもりでも、私たちは非常に「不合理的」な行動を取ってしまっている。それを明らかにするのが「行動経済学」だ。『経済は感情で動く』『世界は感情で動く』の2冊をベースにして、様々な具体例と共に「人間の不思議さ」を理解する
あわせて読みたい
【感想】映画『竜とそばかすの姫』が描く「あまりに批判が容易な世界」と「誰かを助けることの難しさ」
SNSの登場によって「批判が容易な社会」になったことで、批判を恐れてポジティブな言葉を口にしにくくなってしまった。そんな世の中で私は、「理想論だ」と言われても「誰かを助けたい」と発信する側の人間でいたいと、『竜とそばかすの姫』を観て改めて感じさせられた
あわせて読みたい
【生と死】不老不死をリアルに描く映画。「若い肉体のまま死なずに生き続けること」は本当に幸せか?:…
あなたは「不老不死」を望むだろうか?私には、「不老不死」が魅力的には感じられない。科学技術によって「不老不死」が実現するとしても、私はそこに足を踏み入れないだろう。「不老不死」が実現する世界をリアルに描く映画『Arc アーク』から、「生と死」を考える
あわせて読みたい
【驚愕】これ以上の”サバイバル映画”は存在するか?火星にたった一人残された男の生存術と救出劇:『オ…
1人で火星に取り残された男のサバイバルと救出劇を、現実的な科学技術の範囲で描き出す驚異の映画『オデッセイ』。不可能を可能にするアイデアと勇気、自分や他人を信じ抜く気持ち、そして極限の状況でより困難な道を進む決断をする者たちの、想像を絶するドラマに胸打たれる
あわせて読みたい
【葛藤】正義とは何かを突きつける戦争映画。80人を救うために1人の少女を殺すボタンを押せるか?:『ア…
「80人の命を救うために、1人の少女の命を奪わなければならない」としたら、あなたはその決断を下せるだろうか?会議室で展開される現代の戦争を描く映画『アイ・イン・ザ・スカイ』から、「誤った問い」に答えを出さなければならない極限状況での葛藤を理解する
あわせて読みたい
【実話】正論を振りかざす人が”強い”社会は窮屈だ。映画『すばらしき世界』が描く「正解の曖昧さ」
「SNSなどでの炎上を回避する」という気持ちから「正論を言うに留めよう」という態度がナチュラルになりつつある社会には、全員が全員の首を締め付け合っているような窮屈さを感じてしまう。西川美和『すばらしき世界』から、善悪の境界の曖昧さを体感する
あわせて読みたい
【実話】映画『イミテーションゲーム』が描くエニグマ解読のドラマと悲劇、天才チューリングの不遇の死
映画『イミテーションゲーム』が描く衝撃の実話。「解読不可能」とまで言われた最強の暗号機エニグマを打ち破ったのはなんと、コンピューターの基本原理を生み出した天才数学者アラン・チューリングだった。暗号解読を実現させた驚きのプロセスと、1400万人以上を救ったとされながら偏見により自殺した不遇の人生を知る
あわせて読みたい
【考察】アニメ映画『虐殺器官』は、「便利さが無関心を生む現実」をリアルに描く”無関心ではいられない…
便利すぎる世の中に生きていると、「この便利さはどのように生み出されているのか」を想像しなくなる。そしてその「無関心」は、世界を確実に悪化させてしまう。伊藤計劃の小説を原作とするアニメ映画『虐殺器官』から、「無関心という残虐さ」と「想像することの大事さ」を知る
あわせて読みたい
【歴史】ベイズ推定は現代社会を豊かにするのに必須だが、実は誕生から200年間嫌われ続けた:『異端の統…
現在では、人工知能を始め、我々の生活を便利にする様々なものに使われている「ベイズ推定」だが、その基本となるアイデアが生まれてから200年近く、科学の世界では毛嫌いされてきた。『異端の統計学ベイズ』は、そんな「ベイズ推定」の歴史を紐解く大興奮の1冊だ
あわせて読みたい
【貢献】飛行機を「安全な乗り物」に決定づけたMr.トルネードこと天才気象学者・藤田哲也の生涯:『Mr….
つい数十年前まで、飛行機は「死の乗り物」だったが、天才気象学者・藤田哲也のお陰で世界の空は安全になった。今では、自動車よりも飛行機の方が死亡事故の少ない乗り物なのだ。『Mr.トルネード 藤田哲也 世界の空を救った男』から、その激動の研究人生を知る
あわせて読みたい
【驚異】ガイア理論の提唱者が未来の地球を語る。100歳の主張とは思えない超絶刺激に満ちた内容:『ノヴ…
「地球は一種の生命体だ」という主張はかなり胡散臭い。しかし、そんな「ガイア理論」を提唱する著者は、数々の賞や学位を授与される、非常に良く知られた科学者だ。『ノヴァセン <超知能>が地球を更新する』から、AIと人類の共存に関する斬新な知見を知る
あわせて読みたい
【創作】クリエイターになりたい人は必読。ジブリに見習い入社した川上量生が語るコンテンツの本質:『…
ドワンゴの会長職に就きながら、ジブリに「見習い」として入社した川上量生が、様々なクリエイターの仕事に触れ、色んな質問をぶつけることで、「コンテンツとは何か」を考える『コンテンツの秘密』から、「創作」という営みの本質や、「クリエイター」の理屈を学ぶ
あわせて読みたい
【権威】心理学の衝撃実験をテレビ番組の収録で実践。「自分は残虐ではない」と思う人ほど知るべき:『…
フランスのテレビ局が行った「現代版ミルグラム実験」の詳細が語られる『死のテレビ実験 人はそこまで服従するのか』は、「権威」を感じる対象から命じられれば誰もが残虐な行為をしてしまい得ることを示す。全人類必読の「過ちを事前に回避する」ための知見を学ぶ
あわせて読みたい
【快挙】「暗黒の天体」ブラックホールはなぜ直接観測できたのか?国際プロジェクトの舞台裏:『アイン…
「世界中に存在する電波望遠鏡を同期させてブラックホールを撮影する」という壮大なEHTプロジェクトの裏側を記した『アインシュタインの影』から、ブラックホール撮影の困難さや、「ノーベル賞」が絡む巨大プロジェクトにおける泥臭い人間ドラマを知る
あわせて読みたい
【快挙】「チバニアン」は何が凄い?「地球の磁場が逆転する」驚異の現象がこの地層を有名にした:『地…
一躍その名が知れ渡ることになった「チバニアン」だが、なぜ話題になり、どう重要なのかを知っている人は多くないだろう。「チバニアン」の申請に深く関わった著者の『地磁気逆転と「チバニアン」』から、地球で起こった過去の不可思議な現象の正体を理解する
あわせて読みたい
【映画】『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 劇場版』で号泣し続けた私はTVアニメを観ていない
TVアニメは観ていない、というかその存在さえ知らず、物語や登場人物の設定も何も知らないまま観に行った映画『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 劇場版』に、私は大号泣した。「悪意のない物語」は基本的に好きではないが、この作品は驚くほど私に突き刺さった
あわせて読みたい
【挑戦】社会に欠かせない「暗号」はどう発展してきたか?サイモン・シンが、古代から量子暗号まで語る…
「暗号」は、ミステリやスパイの世界だけの話ではなく、インターネットなどのセキュリティで大活躍している、我々の生活に欠かせない存在だ。サイモン・シン『暗号解読』から、言語学から数学へとシフトした暗号の変遷と、「鍵配送問題」を解決した「公開鍵暗号」の仕組みを理解する
あわせて読みたい
【使命】「CRISPR-Cas9」を分かりやすく説明。ノーベル賞受賞の著者による発見物語とその使命:『CRISPR…
生物学の研究を一変させることになった遺伝子編集技術「CRISPR-Cas9」の開発者は、そんな発明をするつもりなどまったくなかった。ノーベル化学賞を受賞した著者による『CRISPR (クリスパー) 究極の遺伝子編集技術の発見』をベースに、その発見物語を知る
あわせて読みたい
【研究】光の量子コンピュータの最前線。量子テレポーテーションを実現させた科学者の最先端の挑戦:『…
世界中がその開発にしのぎを削る「量子コンピューター」は、技術的制約がかなり高い。世界で初めて「量子テレポーテーション」の実験を成功させた研究者の著書『光の量子コンピューター』をベースに、量子コンピューター開発の現状を知る
あわせて読みたい
【嫉妬?】ヒッグス粒子はいかに発見されたか?そして科学の”発見”はどう評価されるべきか?:『ヒッグ…
科学研究はもはや個人単位では行えず、大規模な「ビッグサイエンス」としてしか成立しなくなっている。そんな中で、科学研究の成果がどう評価されるべきかなどについて、「ヒッグス粒子」発見の舞台裏を追った『ヒッグス 宇宙の最果ての粒子』をベースに書く
あわせて読みたい
【課題】原子力発電の廃棄物はどこに捨てる?世界各国、全人類が直面する「核のゴミ」の現状:映画『地…
我々の日常生活は、原発が生み出す電気によって成り立っているが、核廃棄物の最終処分場は世界中で未だにどの国も決められていないのが現状だ。映画『地球で最も安全な場所を探して』をベースに、「核のゴミ」の問題の歴史と、それに立ち向かう人々の奮闘を知る
あわせて読みたい
【危機】遺伝子組み換え作物の危険性を指摘。バイオ企業「モンサント社」の実態を暴く衝撃の映画:映画…
「遺伝子組み換え作物が危険かどうか」以上に注目すべきは、「モンサント社の除草剤を摂取して大丈夫か」である。種子を独占的に販売し、農家を借金まみれにし、世界中の作物の多様性を失わせようとしている現状を、映画「モンサントの不自然な食べもの」から知る
あわせて読みたい
【解説】テネットの回転ドアの正体を分かりやすく考察。「時間逆行」ではなく「物質・反物質反転」装置…
クリストファー・ノーラン監督の映画『TENET/テネット』は、「陽電子」「反物質」など量子力学の知見が満載です。この記事では、映画の内容そのものではなく、時間反転装置として登場する「回転ドア」をメインにしつつ、時間逆行の仕組みなど映画全体の設定について科学的にわかりやすく解説していきます
あわせて読みたい
【能力】激変する未来で「必要とされる人」になるためのスキルや考え方を落合陽一に学ぶ:『働き方5.0』
AIが台頭する未来で生き残るのは難しい……。落合陽一『働き方5.0~これからの世界をつくる仲間たちへ~』はそう思わされる一冊で、本書は正直、未来を前向きに諦めるために読んでもいい。未来を担う若者に何を教え、どう教育すべきかの参考にもなる一冊。
あわせて読みたい
【天才】諦めない人は何が違う?「努力を努力だと思わない」という才能こそが、未来への道を開く:映画…
どれだけ「天賦の才能」に恵まれていても「努力できる才能」が無ければどこにも辿り着けない。そして「努力できる才能」さえあれば、仮に絶望の淵に立たされることになっても、立ち上がる勇気に変えられる。映画『マイ・バッハ』で知る衝撃の実話
あわせて読みたい
【驚嘆】人類はいかにして言語を獲得したか?この未解明の謎に真正面から挑む異色小説:『Ank: a mirror…
小説家の想像力は無限だ。まさか、「人類はいかに言語を獲得したか?」という仮説を小説で読めるとは。『Ank: a mirroring ape』をベースに、コミュニケーションに拠らない言語獲得の過程と、「ヒト」が「ホモ・サピエンス」しか存在しない理由を知る
あわせて読みたい
【奇跡】ビッグデータに”直感”を組み込んで活用。メジャーリーグを変えたデータ分析家の奮闘:『アスト…
「半世紀で最悪の野球チーム」と呼ばれたアストロズは、ビッグデータの分析によって優勝を果たす。その偉業は、野球のド素人によって行われた。『アストロボール』をベースに、「ビッグデータ」に「人間の直感」を組み込むという革命について学ぶ
あわせて読みたい
【諦め】「人間が創作すること」に意味はあるか?AI社会で問われる、「創作の悩み」以前の問題:『電気…
AIが個人の好みに合わせて作曲してくれる世界に、「作曲家」の存在価値はあるだろうか?我々がもうすぐ経験するだろう近未来を描く『電気じかけのクジラは歌う』をベースに、「創作の世界に足を踏み入れるべきか」という問いに直面せざるを得ない現実を考える
あわせて読みたい
【恐怖】SNSの危険性と子供の守り方を、ドキュメンタリー映画『SNS 少女たちの10日間』で学ぶ
実際にチェコの警察を動かした衝撃のドキュメンタリー映画『SNS 少女たちの10日間』は、少女の「寂しさ」に付け込むおっさんどもの醜悪さに満ちあふれている。「WEBの利用制限」だけでは子どもを守りきれない現実を、リアルなものとして実感すべき
あわせて読みたい
【不満】この閉塞感は打破すべきか?自由意志が駆逐された社会と、不幸になる自由について:『巡査長 真…
自由に選択し、自由に行動し、自由に生きているつもりでも、現代社会においては既に「自由意志」は失われてしまっている。しかし、そんな世の中を生きることは果たして不幸だろうか?異色警察小説『巡査長 真行寺弘道』をベースに「不幸になる自由」について語る
この記事を読んでくれた方にオススメのタグページ
ルシルナ
才能・センスがない【本・映画の感想】 | ルシルナ
子どもの頃は、自分が何かの才能やセンスに恵まれていることを期待していましたが、残念ながら天才ではありませんでした。昔はやはり、凄い人に嫉妬したり、誰かと比べて苦…
タグ一覧ページへのリンクも貼っておきます
ルシルナ
記事検索(カテゴリー・タグ一覧) | ルシルナ
ルシルナは、4000冊以上の本と500本以上の映画をベースに、生き方や教養について書いていきます。ルシルナでは36個のタグを用意しており、興味・関心から記事を選びやすく…
コメント