目次
はじめに
著:よしながふみ
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ポチップ
この記事で伝えたいこと
「女性であることの窮屈さ」は、男には理解することができない
私も男なので、この作品に描かれていることを正しく理解できている自信はありません
この記事の3つの要点
- かつて衝撃を受けた、「選択肢のない環境で結婚したい」と語った女子大生の話
- 男が気づけない「声を上げにくい問題」を抱える女性の息苦しさ
- 闘って権利を獲得することで、さらに「窮屈さ」が増してしまうという悪循環
女性が読めば、「悩んでいるのは自分だけではない」と、同志を見つけたような気分になれるでしょう
この記事で取り上げる本
著:よしながふみ
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自己紹介記事
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よしながふみ『愛すべき娘たち』の内容紹介
第1話
雪子は、母・麻里をとても美しいと思う。しかし、決して自身の美しさを認めない人でもある。母親は再婚することもなく、これまで2人で生活を続けてきた。
その母が再婚を決めたという。母は、癌を患っていた。「これからは好きなように生きるの」と口にする母に対して、雪子は「これまでだって好きなように生きてきたくせに」と内心思う。
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第2話
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その後もその女子学生は、研究室にやってきては口で処理をして帰っていく。彼女との会話の端々から、まともな恋愛をしてこなかったのだということが分かる。本人は、そんな風には微塵も思っていないのだけれど。
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第3話
雪子は、大学時代の友人2人と飲んでいる。1人は、作家の唐沢。もう1人は、建築士である祖父の仕事を継いだ莢子である。
話題は結婚の話だ。唐沢は結婚相手に求める条件が絶妙に高く、それもあって結婚できないでいる。雪子は、「綺麗なのにあんな十人並みの男と結婚するのね」と茶化された。
そんな2人の不思議は、莢子が結婚できないこと。女から見ても、非の打ち所がないほど「清楚で優しい女」なのだ。男なら放っておくはずがないと思うのだが、未だに結婚していない。
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莢子は、身辺が落ち着いたこともあり、お見合いを始めることにした。しかし、どんな相手にも結局断りの電話を入れてしまう。
あの人に出会うまでは。
第4話
雪子は中学時代の女友達のことを思い出していた。牧村と佐伯。牧村は、「結婚したら男が家事をしなくなるのは当然だ。女が闘うしかない。私は、後々の女性のために、民間で定年まで勤め上げる」と言っていた。中学生のセリフとは思えない。雪子は、唐突にそんな記憶を蘇らせ、牧村と佐伯に結婚を報告する手紙を認める。
高校進学を機に、雪子は2人とは別の高校に進んだが、牧村と佐伯は同じ高校に入学し、その後も関係を続けた。佐伯は、牧村の言い分がどんどん変わっていく様を間近で見ている。そして、「編集者になりたい」と言っていた牧村の代わりなんてつもりはないのだが、佐伯の方が今は出版社の派遣社員として働いている。
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最終話
雪子は、ひいばあちゃんの葬式に参列した。祖母が号泣している様子を、母・麻里は冷徹に眺めている。
麻里は思う。私は、あなたが死んだって泣かないわよ、と。
母・麻里は子どもの頃、祖母から容姿について悪し様に言われ続けた。彼女は今でもそれを引きずっている。再婚相手の大橋の褒め言葉も、母にはまともに届かない。
客観的に見ても、母の容姿はとても美しいと思うのに。
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どうして祖母は、母にそれほど厳しく当たったのだろうか。
窮屈にならざるを得ない「女性性」の呪縛を描き出す
私は、ほぼ女友達しかいないと言っていいくらい、日常的に関わるのは女性ばかりです。基本的には、女性と話している方が気が合うし楽だと感じます。女性の側もたぶんそう感じてくれているはずです。お互いにあまり性差を意識しないような関わり方が出来ていると自分では思っています。
まあ、実は陰でボロクソ言われてるかもしれないけどねぇ
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逆に、男の世界にいると違和感を覚えることがとても多いです。男と喋っていると、「ん???」と感じてしまうことが多く、さらにその違和感を言語化して伝えても相手がまったく理解しない、という状況に度々遭遇してきました。
そういう、男に共感されない意見の1つが、「男は『男として生きている』というだけで女性にマイナスを与えている」という考えです。私は普段からそう感じていて、だから女性と関わる際には、「自分がマイナスを与え得る存在だ」ということをきちんと意識するようにしています。社会やルールや常識の多くが、基本的には「男に有利なように作られている」のであって、女性はそのハンデを常に意識させられながら生きているわけです。しかし男の側には、自分が「優位に立っている」という自覚がなく、だから「客観的に見て男女が『平等』に思えても、それは本当の意味での『平等』ではない」ということが理解できません。
そういう現実に直面する度に、「男女平等はまだまだ遠いなぁ」と感じさせられます。
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もう10年以上前だと思いますが、当時同じ職場で働いていたアルバイトの女性から聞いた話は、メチャクチャ衝撃的でした。彼女は、「昔のように『選択肢のない環境』で結婚できればいいのに」と言っていたのです。
あの時以来、似たような発言を直接聞いたことはないけど、この時は驚いたなぁ
その子は、容姿が綺麗で楽しげに人生を生きられる側の人に見えるから、余計にね
当時20歳前後、容姿的にかなり恵まれた側だった彼女の主張はこうです。一昔前の女性は、「親が決めた相手と結婚しなければならない」など、かなり選択肢が制約された環境で生きなければなりませんでした。しかし、今と比べれば、彼女にとってはその「選択肢のない環境」の方がマシだというのです。
その理由は、「現代は、ただ単に選択肢が増えただけ」だからです。確かに一昔前と比べれば、結婚相手を自由に選べるようにはなったでしょう。しかし、誰もが「理想の結婚」に辿りつけるわけではありません。特に「結婚」のような、相手との相性など様々な要素が関係してくるものであればあるほど、もの凄く努力したり、運を引き寄せたりでもしない限り、「理想」にはたどり着けないはずです。
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そして、「結局のところ『理想』にたどり着けない人の方が多いだろうし、だとすれば自分はきっとそっち側だろう」と彼女は考えます。そうだとすれば、一昔前のように「選択肢のない環境」の方がマシだ、と思っているというわけです。
その理由は、「選択肢が増えたのに理想にたどり着けないのは、自分が悪いですよね?」という見られ方にあります。「選択肢のない環境」であれば、上手く行かなかったとしても、少なくとも自分では「自分のせいじゃない」と思っていられるでしょう。しかし、「選択肢が広がった世界」では、失敗は自己責任でしかありません。そんな風に思わされるくらいなら、選択肢などない方がいい、というわけです。
私も「選択肢がない方がいい」って感じることあるから、凄い分かるわ
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男の中には、「結婚における女性の選択肢が増えた」という事実を以って「この点では男女平等だ」と考える人もいるかもしれません。しかしそんなはずはないでしょう。社会における他の様々な部分が連動して変わっていかなければ、総合的には判断できないはずです。そしてさらに、「選択肢があるんだから、ダメなら自己責任だ」という見られ方にもなってしまうのであれば、「そんな選択肢要らない」と感じることも仕方ないのかもしれません。
この話は「結婚」に限るものではなく、本書の登場人物たちもまた、「社会の中で女として生きること」の困難さを様々に体現しています。
雪子は、まさか自分よりも年下の義父と生活することになるとは思わなかった。
研究室にやってくる女子学生は、これまでに付き合ってきた男たちに吹き込まれたのであろう「明らかに間違った価値観」をすべて信じて生きている。
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莢子は、「結婚」について強く意識しなければきっと見えなかっただろう真実に気づいてしまい、身の振り方に悩んでいる。
佐伯は、威勢が良かった中学時代の牧村のことを思い出し、女性が社会の中で仕事をすることの辛さを噛みしめる。
麻里は、自身ではどうにもしようがないコンプレックスの呪縛に囚われながら生きている。
彼女たちの苦しさは、男には理解できないでしょう。
だから、「分かってる風の雰囲気は出さない」ってのは気をつけてるよね
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「女である」ということの、どうしようもない「ややこしさ」
「男である」ということにも「ややこしさ」は付随していると思いますが、やはり「女である」ということの方が、社会の中で否応なしに「ややこしさ」を引き受けざるを得なくなる感じがします。
男性の育休取得や夫婦間の家事分担など、昔と比べれば変わっている、あるいは変わり始めている部分もあるでしょう。しかしやはり、「女性が『声を上げにくい問題』を抱えているにも拘わらず、そのことに男は気づかないか、気づいても重要視せず、まるで問題などないかのように扱われる」という状況は往々にして存在するはずです。私自身も気づいていないだろう問題も含めて、多くの女性が大変な状況にいると私は考えています。
一応私は、「何かあったら文句を言いやすい男」でいようと意識してはいる
教えてもらわないと「問題」に気づけないから、「教えてもらえるように振る舞う」ってことね
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女性は結局、闘っても闘っても「窮屈さ」から逃れられないのです。
「そんな状況とどう闘えばいいのか」についての答えが本書に書かれているわけではありません。ただ読めば、同志を見つけたような気分になれるだろうと思います。「そのことで悩んでいるのは自分だけではない」と感じられるかもしれません。
同じように思っている人がいるって知るだけでも、ちょっと救われた気持ちになれるよね
私も、そんな風にしてなんとかここまで生き延びてきたって感じかな
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私が本書で一番好きなのは、莢子が登場する第3話です。莢子が知り合いに非常に似ていて驚かされました。
莢子はとにかく美しく、誰に対しても平等で優しい女性です。サバサバしていますが、可愛げもあります。祖父の介護を母と2人でずっとやってきたため婚期を逃したのですが、彼女自身は人に尽くすことへの抵抗が一切ありません。他人の悪口を言ったりすることもない、まさに菩薩のような人物です。
そんな彼女がお見合いをしようと決めます。相手がすぐに見つかって当然……と感じるかもしれませんが、そうは行きません。読者は恐らく、莢子が抱く違和感をしばらくの間掴みきれないだろうと思います。私は読み始めてすぐ、莢子に似ている知り合いの存在が頭に浮かんだので、彼女の判断についてもなんとなく理解できました。
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まあでも、普通は、莢子の行動原理は理解できないだろうね
実際にそういう人も世の中にはいるんだ、っていうことを知っていないと、リアルには感じられないかも
莢子の物語はまさに、「女として生きることのややこしさ」が絶妙に詰め込まれた話だと感じました。
また、第4話も良かったです。牧村は中学時代、意気揚々と将来について語っていました。しかし大人になるにつれて、考えも行動もどんどん良くない方へと変わってしまうのです。中学生の頃には見えていなかった「現実」に直面したことで、どうしていいかわからなくなっていったのでしょう。
一方、昔から自発的に主張するようなタイプではなかったものの、佐伯は芯のある女性として描かれています。中学時代の牧村と大人になった佐伯はどことなく似ていると言っていいかもしれません。そんな佐伯のラストシーンはとても良かったです。ある一瞬が、それを引き起こした人間には想像もできないだろう強烈な変化をもたらす、その鮮やかな展開は素晴しいと感じました。
最終話の物語も印象的でした。母親によってコンプレックスを持たされた麻里と、麻里をそんな風に育てた母親。どちらにもその人なりの主張があり、それぞれを別々に聞けばどちらにも納得できてしまうでしょうが、しかしその2つの主張は決して混じりません。母娘という親子関係に生まれ得る「ややこしさ」にも、色んなことを考えさせられました。
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