目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:原田芳雄, 出演:大谷直子, 出演:大楠道代, 出演:藤田敏八, 出演:麿赤兒, 出演:樹木希林, 出演:真喜志きさ子, 監督:鈴木清順, プロデュース:荒戸源次郎, Writer:田中陽造
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この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- 出演者の1人だった大楠道代にさえ「理解不能」な物語であり、監督以外の関係者全員が”よく分からないまま”映画を撮っていたという
- 原田芳雄演じる主人公・中砂糺の異様な存在感が圧倒的な作品
- 脚本をまったく無視してしまう鈴木清順監督の凄まじいエピソードの数々
よく分からないなりに映画そのものも楽しめたが、それ以上にトークイベントが面白く、良い鑑賞体験となった
自己紹介記事
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
鈴木清順監督作『ツィゴイネルワイゼン』はまったく訳の分からない映画だったが、上映後に行われた大楠道代のトークイベントが実に面白かった
正直なところ、映画としてはまったく意味不明だった。最初から最後まで割とちゃんと観たのだが(後半、若干寝てしまったが)、何が描かれているのかさっぱり理解できなかったのだ。しかしそれは、あながち間違った感想ではないようである。というのも、本作に出演している女優・大楠道代が、上映後のトークイベントの中で「よく分からない作品」と言っていたからだ。出演している女優が「よく分からない」と言っているのだから、一般の観客が理解できるはずもないだろう。
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さてそんなわけで、内容的には全然意味が分からない作品だったのだが、思いの外観れてしまいもした。最後の方で少しウトウトしてしまったものの、全体的には「意味不明だが、どことなく惹かれる部分もあるなぁ」という感覚で観れたのである。そういう意味でも、変わった映画だなと思う。ただ、観終わった今も結局、「どういう要素からそのように感じたのか」はよく分からないままである。
それでは、ざっくりとではあるが、まずは内容の紹介をしておこう。
映画『ツィゴイネルワイゼン』の内容紹介
物語は、風来坊の如く全国をフラフラ歩き回っているらしい中砂糺が警察に捕まりそうになる場面から始まる。その日海で死体が上がったのだが、その女を殺したとして疑われてしまったのだ。そこにたまたまやってきたのが、陸軍士官学校の教授・靑地豊二郎である。彼がどうにか、その場を丸く収めた。
2人はそのまま、うなぎでも食おうと店に入り芸者を呼ぼうとしたのだが、出払っているらしい。しかしそこへ、自殺した弟の弔いを終えたばかりの芸者・小稲がたまたま戻ってきた。中砂は「弔い帰りの芸者もいいじゃないか」と無茶苦茶なことを言って座敷へと呼び寄せる。そして彼らは、窓の外に見えた盲目の旅芸人の関係性を邪推したりしながら、しばらく時を過ごすのである。
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それからしばらく月日が過ぎ、靑地は中砂が結婚したという話を聞きつけたので、家を訪ねてみることにした。すると、良家の出身だというその細君は、なんと小稲と瓜二つだったのだ。中砂は何も考えていないのか、細君の前で靑地に「似てるだろ」と口にする。妻の園は当然、「誰に似てるんですか」と靑地に問う。もちろん、「芸者」だなどと答えるわけにはいかない靑地は、口をつぐむしかなかった。しかし、親友のそんな気遣いなどお構いなしに、中砂自身が「芸者の小稲だよ」と口にしてしまう。それを聞いた園は、ひたすらにこんにゃくを千切り続けるのだった。
中砂は結婚してからも、相変わらずあちこちをフラフラと旅している。そしてその旅先にはなんと、呼び出したのだろう小稲もいて、2人はそのまま関係を続けていく……。
撮影現場で大楠道代が驚いた様々な話
物語はとにかく、「中砂が無茶苦茶なことをして、彼の周りにいる靑地、小稲、園がひたすらに振り回される」という形で展開していく。まあ「展開」なんていうほど物語の筋があるようには感じられないのだが、とりあえずそのように進んでいくのである。中砂は「生まれてこの方、俺がまともだったことなど一度もない」と啖呵を切っていたほどで、「普通じゃない」という自覚は持ってはいるようだ。そんな中砂の存在感は圧倒的で、「何をしでかすか分からない」という危険な雰囲気が作中にずっと漂っていた。この点は、観客を惹きつける大きな要素と言っていいだろう。
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さて本作の物語には、靑地の妻・周子も関わってくるのだが、この周子を演じたのが大楠道代である。そして、「4Kデジタル完全修復版」の公開を記念したトークイベントに、彼女が登壇したというわけだ。
そもそも私は、「鈴木清順の代表作である3部作が4Kで劇場公開される」ことを映画館で観た予告映像で知った。あいも変わらず、私は「鈴木清順」という監督については名前を知っていた程度だったが、その予告映像のインパクトがかなり強かったので、これは観てみようと思ったのである。
そしてそんな予告映像の中に、「ある女性が男性の目玉を舐める」というシーンがあったのだ。予告は3作品らの映像を繋ぎ合わせていたため、それがどの作品のものなのか知らなかったのだが、本作『ツィゴイネルワイゼン』の中でそのシーンが出てきた。周子が、入院中の妹の病室で、「目にゴミが入った」と口にする中砂の目玉を舐めるという場面である。
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トークイベントでは、このシーンについての言及もあった。なんと、この「目玉を舐めるシーン」が「撮影初日」だったというのだ。しかも、台本には元々「目玉を舐める」などとは書かれていなかったという。現場入りして初めて、そんな指示を受けたと語っていた。鈴木清順というのはそういうタイプの監督だったようだ。彼女は、他にも色んな指示を撮影当日にされたという話を披瀝していた。
こんな風に、トークイベントで大楠道代が語っていたエピソードは、なかなかにぶっ飛んだ話ばかりで面白い。「台本に書かれていない」に関係する話で言えば、こんなエピソードもある。彼女は3部作のどの作品での出来事だったのか忘れてしまったようだが、試写会の際に、脚本を担当した田中陽造の隣に座ったことがあるそうだ。そして試写会が始まってしばらくして、「俺はこんなホンを書いてない!」と怒って試写室を飛び出してしまったのだという。このエピソードだけでも、「鈴木清順がいかに脚本を無視する監督であるか」が理解できるだろう。
さて、トークイベントにはインタビューアーもいたのだが、彼が大楠道代に「映画『ツィゴイネルワイゼン』に出演するきっかけは?」と質問する場面があった。それに対して彼女は「脚本が面白かったから」と返す。インタビューアーは当然、「映像で観てもこれだけ難解なのに、よく脚本の時点でその面白さが理解できましたね」と聞き返した。すると彼女は、次のように答えたのである。
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脚本はもっとわかりやすくて面白かったの。
あの脚本を読んで、こんな難解な話になるなんて思わなかった。
この話もまた凄まじいものではないだろうか。脚本の存在意義が問われそうなエピソードだが、しかし、そんな風にして脚本を無視して作り上げた作品が大いに評価されているのだから、創作の世界というのは本当に複雑だなと思う。
誰も何も理解できていないのに、皆が惹きつけられてしまう作品
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大楠道代は、「鈴木清順作品の撮影中は、役者もスタッフも、『一体何をしているのかさっぱり分からない』という状態にある」みたいに言っていた。彼女は、「恐らく、鈴木さんの頭の中にはかっちりしたものがあったと思う」と推測を述べていたが、監督は自身の頭の中にあるイメージを具体的には説明せず、漠然とした指示だけで役者に演じさせていたという。そのため、映画に関わった全員が、出来上がった映像を観て初めて「こんな作品になったんだ」と感じるのだそうだ。そしてその上で、「観ても結局よく分からない」という感想で一致するのだという。
しかし、そのような映画にも拘らず、作品が持つ「人を惹きつける力」はとても強いようだ。大楠道代は、「様々な機会に関わりを持った映画の撮影スタッフの中にも、『鈴木清順の映画を観てこの世界に入った』みたいな人が結構いた」と話していた。また、「『ラ・ラ・ランド』の人もそれでアカデミー賞獲ったしね」とも口にしており、海外のクリエイターにも多大な影響を与えてきたことが伝わってくる。凄いものだ。
さて、トークイベントでは、彼女が出演した3部作の内の1つ『陽炎座』についても話をしていた。一番印象的だったのは、主演を務めた松田優作に関する話。アクション俳優として人気だった彼に監督が「動くな」と指示し続けたため、松田優作はいつもホテルに帰ってから暴れていたそうだ。また、大楠道代は元々役作りをしないタイプらしく、鈴木清順のやり方には合っていたそうだが、松田優作は真面目で、あらかじめきちっと役作りをするタイプだったから、「そのプランが現場で監督によって潰されてしまう」という状況についても、「大変そうだった」と語っていた。
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さて、映画『陽炎座』に関しては、「あれってCGなんでしょ?」と皆から聞かれるシーンがあるという。誰も信じないから「CGだよ」と答えているそうだが、実際にはCGを使ってはいないそうだ。その話が気になって、後日『陽炎座』も観てみたのだが、確かになかなか綺麗な場面だった。撮影は実に大変だったそうだ。大楠道代は、「あの時にだけ撮れた奇跡的なシーン」みたいな表現をしていた。鈴木清順というのは「持ってる人」なのだなと思う。
出演:原田芳雄, 出演:大谷直子, 出演:大楠道代, 出演:藤田敏八, 出演:麿赤兒, 出演:樹木希林, 出演:真喜志きさ子, 監督:鈴木清順, プロデュース:荒戸源次郎, Writer:田中陽造
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「ツィゴイネルワイゼン」というのは曲名のようだが、何故これが映画のタイトルになっているのかはよく分からなかった。確かに「ツィゴイネルワイゼン」という曲に言及するシーンはあるのだが、「だから何?」という感じである。まあそういうことも含めて謎の多い作品だし、そういう「訳の分からなさ」みたいなところに惹かれてしまうのだろうなとも思う。
時にはこういう、「身体の内側に入れてみたはいいが、まったく消化できないもの」に触れてみるのもいいものである。
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