目次
はじめに
この記事で取り上げる本・映画
著:高山 一実
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ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
この記事で伝えたいこと
「著者=主人公」という受け取られ方を巧みに回避できる設定・描写がとても上手い
しかしそれでいて、「現役アイドル作」という強みを随所で発揮している点も流石だと思う
この記事の3つの要点
- 「可愛い子はみんなアイドルになりたいはず」という歪んだ思考を持つ変わった主人公をメインに据えた物語
- 「現役アイドルが書いている」からこその説得力や意外性が随所に散りばめられている
- 「生きていく上で何を最も重視するか?」という問いがナチュラルに突きつけられる作品
まさに高山一実にしか書けなかっただろう物語で、小説としてのクオリティも高くて驚かされた
自己紹介記事
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で、アニメ映画もとても良い作品でした。原作を読んでから大事時間が経っていたので、小説と比べて内容がどうだったのかみたいな比較は出来ないのですが、内容がちょっと変わっていたような気もします。エンドロールによると、原作者の高山一実が監修も行っているそうなので、内容の改変も全然あり得るでしょう。
高山一実は既に乃木坂46を卒業してるけど、小説連載・出版時は現役アイドルだったよね
メチャクチャ忙しかったはずだから、よく書いたなって思う
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そんな疑問について考える際に、私がよく思い出す文章があります。それは、桜庭一樹の小説『少女七竈と七人の可愛そうな大人』の中の一節です。
異性からちやほやされたくもなければ、恋に興味もなく、男社会をうまく渡り歩きたくもなければ、他人から注目されたくもないのに、しかし美しいという場合、その美しさは余る。過剰にして余分であるだけの、ただの贅肉である。
しかも、その悩みは誰にも打ち明けることが出来ない。過剰に持つものの羨ましい悩みであるとしか捉えられず、かえって非難を浴びることであろう。本人としては、真面目に思っているのだ。美しさに寄り添った人生など不要だ、と。しかし、周囲はそれを理解しない。美しさに付随するありとあらゆるを羨ましがり、それを活かそうともしない人間を軽蔑することであろう。
桜庭一樹『少女七竈と七人の可愛そうな大人』
本当にその通りだなと思います。
でも、本当にそう感じてたとしても、マジで言えないよね
「恵まれた者の悩みでしかない」みたいに受け取られちゃうからなぁ
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私は男ですが、女性と関わる方がしっくり来るタイプで、だから異性の友達の方が多いです。そしてその中には、やはり一定数「恋愛的なものにそこまで興味はない」という人がいます。もちろんその中にも色んなタイプがいて、「恋愛はしたいけど苦手」とか「恋愛とかどうでもいい」とか「自分が好きな相手に振り向いてもらえるのは嬉しいけど、不特定多数から興味を抱かれるとかどうでもいい」など様々です。まあ、そりゃあそうでしょう。誰もが恋愛体質なわけではないし、「恋愛よりも趣味や仕事の方が大事」みたいな人はいくらでもいるはずです。
そしてそういう人からすれば、「美人である」という事実はむしろ「ややこしさ」をもたらすことが多くなると言えるでしょう。実際に、女友達から直接そんな話を聞いたこともあります。私が男だから言えたのだと思いますが(恐らく同性には言えないでしょう)、「化粧もせずにダサい格好で大学に行き、目立たないように静かにしていたのに、構内を追いかけ回されたりした」「そういう状況を『羨ましい』と思う女性から妬まれ、恋愛とは関係ない様々な場面でも足を引っ張られ続けた」みたいな話を聞いたことがあるのです。
私もよく「イケメンじゃなくて良かった」って考えるんだよなぁ
もしイケメンだったら、「異性と友達になる」とか難しかった気がするからね
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もちろん繰り返しにはなりますが、「美人として生まれたことにプラスを感じながら生きている人」もたくさんいるでしょう。そして私は、そういう人に対しては何も言及していません。あくまでも「美人として生まれたことにマイナスを感じてしまう人」に対して「大変だなぁ」と思っているだけです。自分的にはプラスは無いのに、「めちゃくちゃプラスがあるはずだ」と受け取られている状況はめんどくささしかないでしょう。それに、ストーカーや性犯罪などの被害にも相対的に遭いやすくなるだろうし、結果として「マイナスだらけ」みたいな感覚になっても仕方ないような気がするのです。
主人公が抱く、「アイドルになりたくない女の子なんているんですか?」という発想について
さて、どうして私はそんな話を冒頭でしたのか。それは、本作の主人公・東ゆうが次のような発言をするからです。
アイドルになりたくない女の子なんているんですか?
『トラペジウム』(高山一実/KADOKAWA)
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私、可愛い子を見るたび思うのよ、アイドルになればいいのにって。でもきっときっかけがないんだと思う。だから私が作ってあげるの。
『トラペジウム』(高山一実/KADOKAWA)
「現役アイドルがこれを書いている」って要素も含めると余計興味深いなって思う
彼女にとって「アイドル」というのは「絶対的な善」なのでしょう。だからこそ「誰もが目指すべきもの」だと思えるわけです。さらに、「人生を賭けて挑戦する価値がある」と感じられるものであり、そのためなら何だって出来るとも考えています。なにせ彼女は、次のようにも感じているのです。
初めてアイドルを見た時思ったの。人間って光るんだって。
『トラペジウム』(高山一実/KADOKAWA)
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彼女がどれだけ「アイドル」に思い入れを抱いているのかが分かるセリフでしょう。
しかし東ゆうは、「誰もがそう考えているわけではない」ということを失念しています。「可愛いならアイドルになるべき」というのは彼女にとってある種の「憲法」みたいなもので、疑う余地がありません。本当はそんなはずはありませんが、彼女は無条件でそれを信じていられるわけです。だからこそ「猪突猛進」と呼んでいいような振る舞いが出来るのだし、そして同時に、それ故に失ってしまうものも多くありました。
まあ、東ゆうがそういう性格じゃないと成立しない物語ではあるんだけどね
「主人公がそこはかとなく嫌なヤツ」っていうのが、絶妙に面白いんだよなぁ
では、この東ゆうのような生き方について、「美人であること」と絡めて考えてみることにしましょう。
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「アイドルを目指せる」ということは、ある程度は「美人であること」と相関するだろうと思います。そしてそれは、「選択肢が広がる」とも表現できるでしょう。つまり、「美人はそうではない場合と比べて、選択肢が多い」と言っていいはずです。
ただ、東ゆうを見ていても理解できるように、「選択肢が多いこと」と「その選択肢を実際に選べること」は違います。彼女はずっとアイドルを目指してきましたが、作中のある場面で「オーディションに全部落ちた」と話していました。確かに可能性は広がるでしょう。しかし、その可能性を掴み取れるかはまた別の話です。特に、競争率の高い世界ではなおさらでしょう。
しかしこの点に関しても、「乃木坂46の1期生として凄まじい倍率を勝ち抜いた」っていう著者の経歴が説得力を生むんだよね
ホント、色んな意味で「高山一実にしか書けない小説」と言っていいんじゃないかと思う
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となれば、「選択肢が多いこと」が「プラス」だと言えるのかは人によって捉え方が変わってくるでしょう。「可能性があってそれを目指せる」という事実を「プラス」に感じられる人はいいですが、「可能性があったって、結局実現は難しいんでしょ」と思ってしまう人には「選択肢が多いこと」は「プラス」には感じられないはずです。また、例えばアイドルの世界であれば、「結果として『夢破れる人』の方が多い」わけで、「夢破れる側」だと確定した時にはやはり、「そもそも可能性が無ければ良かったのに」みたいに感じてしまう人だっているんじゃないかと思っています。
さらに、東ゆうが抱いている「可愛い子はみんなアイドルになればいい」という発想は、「美人は美人に相応しい生き方をすべき」みたいな”圧力”であるとも捉えられるでしょう。例えば、凄く美人なのに結婚していない人がいた場合、「どうして結婚しないの?」と、何か悪いことをしているように見られたりもするはずです。単に「結婚に興味がないだけ」であっても、「結婚出来ないぐらい何かマズい部分があるんじゃないか?」みたいに受け取られてしまうこともあるでしょう。そういう見られ方は本当に「ウザい」だろうなと思います。
「可愛い子はみんなアイドルになるべき」という「憲法」を掲げて生きる東ゆうを見ながら、そんなことを考えさせられました。
『トラペジウム』の内容紹介
高校1年生の東ゆうは、「アイドルになりたい!」と強く願っている。そこで彼女は、ある計画を立てた。彼女が住む城州という地域にいる「東西南北の美少女」を集めて仲間にしようというのである。「東」は東ゆう、自分だ。そして残りの西・南・北を事前の調査で見つけ出していた。それから、それぞれの学校に忍び込むことで、お嬢様学校・聖南テネリタス女学院の華鳥蘭子、そして西テクノ工業高等専門学校の大河くるみの2人と無理やり仲良くなることに成功する。さらに、かつての同級生・亀井美嘉と偶然再会を果たし、彼女も計画に加えることにした。
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こうして東ゆうは、「アイドルになる」という目標に向けての第一歩を踏み出す。もちろん彼女は、他の3人に「アイドルを目指そう」などと言ってはいない。あくまでも「良い感じの流れ」から「自然にアイドルを目指す雰囲気を作ろう」と考えていたのである。
3人はそれぞれ、とても個性的だった。縦巻きロールにお嬢様言葉の蘭子、NHKのロボコン大会で優勝したことで一躍有名になったくるみ、そしてボランティア活動に熱心に取り組む美嘉。そして東ゆうは日々、それぞれの個性や資質を上手く活かしながら、状況をどう展開させればアイドルになれるのかばかり考えていた。
そんな中彼女は、千載一遇となるかもしれない機会を見出し、そこで僅かなチャンスをものにした。こうして、アイドルとしてのデビューが決まったのだが……。
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『トラペジウム』の感想
主人公・東ゆうが「嫌なヤツ」であるという設定が絶妙
さて、先程少し触れましたが、本作ではまず何よりも、「主人公が絶妙に嫌なヤツ」という設定がとても上手く利いていると思います。なにせ本作は、「東ゆうが、自分のことだけを考え、仲間を”利用する”ようにしてアイドルを目指す」という物語であり、彼女が「嫌なヤツ」でなければ成り立たないのです。
「可愛い子は機会がないだけで、みんなアイドルになりたいと思ってる」って信じてるから、彼女にはきっと悪気はないんだけどね
とはいえ、「自分はむしろ良いことをしている」って思ってるはずだし、それも含めて「絶妙に嫌なヤツ」って感じがする
ただ、この「嫌なヤツ」という印象はしばらくの間、観客にしか伝わりません。東ゆうは「アイドルになる」という大目標のため、表向きはとても良い印象を振りまいていて、だから悪く見られたりしないのです。その食い違いもとても面白いと言えるでしょう。
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そして、「嫌なヤツなんだけど、表向きは良い人」という見せ方のお陰で、「騙し討ちのようにしてアイドルデビューする」という展開が割と無理なく描かれている感じがあって、この点も上手かったなと思います。もちろん「都合の良い展開」もあるわけですが、それはフィクションだから別にいいでしょう。個人的には、「結構むちゃくちゃなことをやっている割に、アイドルデビューまでの流れを上手く描いているなぁ」と感じました。
「オーディションを受けてアイドルを目指す」っていうシンプルな展開じゃないのがいいよね
ただ、「東ゆうはそれまでにオーディションに落ちまくっていた」って事実が分かるまでは、「なんでそんな戦略?」ってメチャクチャ疑問だったわ
さて、「主人公が嫌なヤツ」という話とはちょっと違うんですが、私は『トラペジウム』の小説を読み始めた時、「文章が少し下手かもしれない」と感じました。例えば最初の方で、東ゆうの内心として、
首尾よく任務を遂行し、さっさと帰宅したいものだ。
『トラペジウム』(高山一実/KADOKAWA)
という文章が出てきます。女子高生の心理描写としてはちょっと違和感を抱かせるような「硬さ」が感じられないでしょうか? 個人的には「あれ?」と感じてしまいました。
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もちろん、「現役アイドルが書いた小説」っていう先入観も関係しているんだけど
デビュー作だし、力量が分からなかったから、ちょっと怪しみながら読んでたところはあるよね
ただ読み進めていく内に、その違和感は消えていきました。というのも、「東ゆうはちょっと変わった女の子だ」ということが次第に分かってきたからです。彼女は「アイドルになる」ことをずっと目標にしてきたため、SNSもやらないし恋愛もしないし、地毛が茶色なのにわざわざ黒く染めてもいます。また他人との関わり方も割と独特で、そういう「変わったキャラクター」を描き出すのに、「違和感を抱かせる硬い文体」が絶妙に合うように感じられたのです。意図的な書き方なのかはなんとも言えませんが、意図的だとしたらかなり高度なことをしているなと思います。
「『現役アイドル』が書いた物語」という特異さ
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さて、この点については既に何度か言及していますが、本作はやはり「現役アイドルが書いている」という点に特異さがあると言えるでしょう。もちろん「話題性」という意味でも重要なのですが、決してそれだけではありません。まずは何よりも、「『アイドル』についての物語を『現役アイドル』が書いている」という説得力が、この作品を成立させているのだと私は感じました。
加藤シゲアキとか、あとは卒業した松井玲奈とか前例はあるけどね
それにしても、「アイドル」ってテーマをド直球に書くのは珍しい気がする
一応先に書いておきますが、私は基本的に「『誰が書いているか』で物語を評価すべきではない」と考えています。「著者の属性」と「物語」は切り離して捉えるべきというわけです。ただ本作の場合は、「現役アイドル」が「アイドル」について書いているので、そこを完全に分けて考えるのも難しいでしょう。また後で詳しく触れますが、「著者=主人公」という捉えられ方を意識して書いているような描写もあるので、余計にそう感じます。
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さてその一方で、「現役アイドル」が「アイドル」について書くことの難しさもあるでしょう。それこそ、「著者=主人公」という捉えられ方が過剰になり過ぎることで、「アイドル・高山一実」にとってのダメージになってしまうような可能性だって考えられると思います。アイドルというのはある種「ファンタジーを売る存在」だと思うので、余計その点に難しさが生まれるはずです。
さらに高山一実は、アイドルグループのトップと言っていい乃木坂46にいたからね
余計に「小説として何を書くか」の判断は難しかったんじゃないかと思う
しかし本作では、「可愛い子はみんなアイドルになるべき」という、ちょっと変わった主義を持つ女の子を主人公に据えることで、「付随し得るややこしさを回避しながら、さらに『現役アイドルである』という特性を活かしやすくなっている」と言えるんじゃないかと思います。実際にアイドルになりその環境に身を置いているからこそ、「可愛い子はみんなアイドルになるべき」という主張にも説得力が出るし、さらにその上で、アイドルとしての大変さも理解しているからこそ、「アイドルになりたいなんて思ってはいない人」の気持ちも想像しやすくなるのではないかという気がするのです。
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そんなわけで、「リスクを避けつつ、『現役アイドルのメリット』を上手く活かせる設定」になっていると感じたし、そういう設定にしたことが本作にとって何よりも重要だったと言えるだろうと思います。
例えば「芸能界の闇を暴く」的な設定だったら、「現役アイドル」って要素が悪い方に強く働いちゃうだろうしね
とはいえ、単に「アイドルを目指す」みたいな話だと、「現役アイドル」って要素を上手く活かしきれないし
また、「現役アイドルが書いている」となると、どうしても「小説としてのクオリティ」が気になるでしょうが、正直びっくりするぐらい文章が上手くて、デビュー作とは思えないレベルだったことに驚かされました。もちろん、「現役アイドル」には最初から「優秀な編集者」が付いてくれるだろうし、そういう意味では「普通に作家デビューを目指す人」とは条件が違うかもしれませんが、それにしたって、本人の実力がなければ小説のクオリティを上げることは難しいはずです。
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そんなわけで、「アイドルとしての活動が忙しい中でも連載を続け、その上で物語として高いクオリティのものを提示した」という意味でも、実に見事な作品だと思います。
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さて先述した通り、本作は「ちょっと変わった女の子・東ゆうを主人公にした物語」です。そしてそのことによって、「著者=主人公」という図式になりにくいはずだと指摘しました。
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例えばこれが「芸能界」を直接的に描くような物語なのだとしたら、「著者=主人公」という受け取られ方は避けられないと思います。それが事実かどうかに関係なく、「小説の中で主人公がしていること・考えていることは、著者のそれと同じだ」という解釈は当然生まれるはずです。
小説家って表に出ない人も多いから、「そんな風にしてでもパーソナリティを捉えたい」って思う人が多いのかもなぁ
そして、もしも「著者=主人公」と受け取られてしまえば、書けることにかなりの制約が生まれてしまうでしょう。「主人公にこんな言動をさせたい」と思っても、「それが『私』の言動として受け取られるかもしれない」と感じてしまえば、アイドルを卒業しているならまだしも、現役アイドルとしては「書くべきじゃない」と判断せざる得なくなるだろうと思います。
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今回は可愛く撮らなくていいんだよ。ボランティアやってるっていう証拠が必要なだけなの。そういう活動してるとさ、なんかいい人っぽいじゃん。
『トラペジウム』(高山一実/KADOKAWA)
ここまで年寄りたちに囲まれると、いよいよ寿命を吸い取られるのではないかと心配になってくる。
『トラペジウム』(高山一実/KADOKAWA)
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東ゆうの「絶妙に嫌なヤツ」って感じがよく出てるよなぁ
こういう発言を「アイドル・高山一実」がするわけにはいきませんが、「著者=主人公」という図式が成り立ちにくい本作では、東ゆうがこういう発言をしても問題ありません。これは本作において非常に大きなポイントだと感じました。
しかし一方で、本作は「現役アイドル・高山一実」が書いているわけで、やはり「著者=主人公」という図式が完全になくなるわけではありません。というか、「著者=アイドル=主人公」みたいに、間に「アイドル」というワンクッションを挟んで「著者」と「主人公」が繋がるみたいなイメージでしょうか。そして、そのような図式を上手く利用して「意外性」を演出しているかのような文章も、本作には多数登場するのです。
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なんだろう、この漂う童貞感は。
『トラペジウム』(高山一実/KADOKAWA)
休みの日にボランティア活動をしている派手な顔立ちのキャラなんてギャルゲーには出てこなそうだが、もし仮にいようものならプレイヤーは「俺にもタダで奉仕してくれー!」と叶わぬ願いを叫ぶかもしれない。
『トラペジウム』(高山一実/KADOKAWA)
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『トラペジウム』(高山一実/KADOKAWA)
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これらはめちゃくちゃ踏み込んだ描写って感じしたよね
「著者=主人公」っていう図式が緩んでいるからこそだけど、それにしてもって思ったわ
これらはもちろん、「東ゆうの変さ」を示すための描写なのですが、それ以上に、「現役アイドルがこんなことを書くなんて!」という「意外性」としても機能していると言えるでしょう。そしてやはりそれは、「著者=主人公」という図式がチラつくからだと思います。
このように、絶妙な設定によって「著者=主人公」という捉えられ方を回避しつつ、「著者=アイドル=主人公」という図式を上手く利用して「意外性」を演出してもいる感じがして、その辺りもとても上手いなと感じました。設定だけではなく描写においても、「現役アイドル」という要素を上手に利用しているというわけです。
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「『好きなことで人と繋がる』のが好きではない」という私の感覚について
では、もう少し内容に踏み込んだ話をすることにしましょう。
作中には、ある人物が「ボランティア仲間」という言葉に違和感を覚えるシーンが出てきます。東ゆうがテレビの取材に対して、「私たちはボランティア仲間なんです」と説明するのですが、それに対して後で、「どうせボランティアでしか繋がれない関係だもんね」「友達って言ってほしかった」みたいに口にするのです。私は、「その感覚、凄く分かるなぁ」と感じました。
私は別に「友達って言ってほしかった」みたいに思ったりはしないんだけど
私の中には昔からずっと、「『好きなことで人と繋がる』のは嫌だな」という感覚があります。「好きなこと」というのは分かりやすく「趣味」と置き換えてもらってもいいのですが、「趣味が同じ」みたいな理由で他者と仲良くなるのは好きじゃないというわけです。
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というのも、「それを好きで居続けないと、その人との関係性を続けられない」みたいに感じられてしまうからです。例えば「映画を観るのが好き」という理由で関わるようになった人がいるとしましょう。そしてその場合、「映画を好きで居続けないと関係は継続しにくい」と感じられる気がします。もちろん、関わっていく中で「映画」以外の共通点が見つかるとか、趣味関係なく話が合うみたいなこともあるでしょうが、関係を築く前の時点ではそんなこと分かりません。だから私は、「なるべく『好き』で他者と繋がらない」ことを意識しているのです。
「『好き』で繋がるのが当たり前」みたいな雰囲気があるから余計にね
そんなわけで、「『ボランティア仲間』という言葉に引っかかりを覚えたシーン」に共感したわけですが、しかし同時に、「どうしてこんなシーンが組み込まれているんだろう」とも思いました。私には、ちょっと唐突に感じられたのです。しかし、その後の物語の展開を追うことで理解できるようになりました。この「ボランティア仲間」のくだりは、後で出てくる「『アイドルを目指す』という目標を共有出来なければ、私たちは友達じゃいられないの?」という展開の前段として描かれているのです。これもまた上手い描写だなと感じました。
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ここまでで何度も書いてきた通り、東ゆうは「アイドルになる」ためだったら何でも利用するスタンスで生きているので、「友達」でさえ「駒」みたいな認識しかしていません。とにかくメチャクチャ「嫌なヤツ」なのです。一方、彼女のそんな思惑などまったく知らずに知り合った他の3人は「ただ仲良くしたかっただけ」でした。この食い違いはしばらくの間見えてこないわけですが、「ボランティア仲間」という言い方で少し波風が立ち、その後、彼女たちの関係が本格的に悪化していくという流れになっていくというわけです。
それに、高山一実には「地元の友達を大事にするタイプ」みたいな印象があるから、彼女自身の葛藤から生まれた描写って感じもするんだよなぁ
さて、先ほどの「悪化」という表現はもしかしたら正しくないかもしれません。というのも、映画を観れば実感できるでしょうが、「悪化している」ように見えた彼女たちの関係性は、むしろ「健全になった」と言えなくもないからです。「東ゆうのせいで”健全ではなかった”関係性が様々な出来事を通じてまともに戻った」という風に展開していく感じがあって、全体的にはとても良い流れだったなと思います。そして、めちゃくちゃ色々あったわけだけど、最終的には「出会って良かった」と言える関係性になれたわけで、その辺りも素敵に感じられるポイントかもしれません。
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「生きていく上で、一番大事なことは何か?」という問いかけ
さて、本作は「アイドル」がストーリーの核となる物語ですが、より本質的には、「自分の人生において、何を最も重視するか?」が描かれているとも言えるでしょう。
note(ノート)
生きてるのがしんどいしつまらないしめんどくさいしダルい。どうしたらいいんだろうね、ホント|犀川後藤
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東ゆう以外の3人は別に、「アイドルになりたい」などとは考えていませんでした。特に、ロボコン出場経験者である大河くるみは、他人から注目されるのがあまり得意ではないタイプです。東ゆうは「可愛い子はみんなアイドルになりたいはず」という信念を持っているので突き進むのですが、彼女以外の3人はどんどんついていけなくなってしまいます。
そしてそれ故に彼女たちは、「生きていく上で、最も大事なことは何か?」について考え始めるのです。
「人前に出てチヤホヤされつつ、多くの人に元気を与える」みたいなことが「アイドル」の役割でしょう。そして、そういう生き方が向いている人も間違いなくいると思います。でも当然ですが、みんながみんなそういうわけではありません。大河くるみは分かりやすいですが、彼女は機械をいじったり新しく何かを作り出したりすることの方に楽しさを感じるタイプです。当然、そういう人だっているでしょう。そして彼女たちは、「アイドル」を経験したことをきっかけに、「自分が最も大切にすべき価値観は一体何だろうか?」と考えるようになっていくのです。
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一般的な感覚にはなかなか馴染めなかったから、自分の内側を探索しながら言語化していくしかなかったわ
さて、映画を観ながら私は、以前雑誌で読んだ齋藤飛鳥のある言葉を思い出しました。齋藤飛鳥も高山一実と同じく乃木坂46の1期生ですが、高山一実とは違って加入初期はさほど人気が出ず、割と不遇の時期を経験してきたアイドルです。そんな齋藤飛鳥が、「坂道グループ」の合同オーディション希望者向けのセミナーに登壇した際の話を振られて、次のように発言していたことがあります。
皆さん乃木坂46に対して憧れの気持ちを持っているでしょうし、加入したいと思ってくれるのはすごく光栄なこと。「そうなんです、我々のグループ、超良いんですよ!」と言いたい気持ちももちろんあるんですけど、それと同じくらい「入ったら人生が変わります。決して楽しいことばかりではないけど大丈夫?」という気持ちもあって。どうしても良いところばかりが見えるかもしれないけど、あまり幻想ばかりを抱いたまま入ってほしくなかったんです。
「日経エンタテインメント 2018年11月号」
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齋藤飛鳥のこの発言は、決して「アイドル」に限った話ではないと思います。東ゆうを除く3人も、「アイドル」に対してプラスのイメージを抱いていたからこそ挑戦してみることに決めたわけですが、やはりそう簡単な世界ではありませんでした。そして「アイドル」に限らずどんな世界でも、同じように「思っていたのと違った」みたいなことは起こり得るはずです。
東ゆうは逆に、「どんなにしんどくても、絶対『アイドル』になるんだ」って考えてただろうけどね
そう考えると、東ゆう以外の3人にとっても「アイドルを目指した経験」は意味があったと言えるでしょう。というのも、「アイドル」の道に踏み出さなかったらまだまだ考える機会がなかったかもしれない「人生で何を重視すべきか?」という問いに、早くから向き合うことが出来たからです。もちろんそれは、東ゆうにとっても大事な経験でした。「可愛い子はみんなアイドルになりたいと思っている」という感覚を捨てられたはずだし、さらに、「どれだけ大変でも、やはり自分は『アイドル』を目指したい」という気持ちを再確認できたはずだからです。
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だからこそ、そんな彼女の次のような感覚は、とても素敵なものに感じられるかもしれません。
それ以来ずっと自分も光る方法を探してた。周りには隠して、嘘ついて。でも自分みたいな人、いっぱいいると思うんだよね。みんな口に出せない夢や願望を持っていて、それについて毎日考えたり、努力してみたり。勉強してないって言ってたのに100点取る人と一緒でさ。
でもそういう奴ってかっこいい。
『トラペジウム』(高山一実/KADOKAWA)
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映画のその他感想
それでは最後に少し、映画全体の感想に触れて終わろうと思います。
映画は上映時間が90分程度と割と短めです。でも、「メンバー集めからスタートし、アイドルデビューのきっかけを掴んだ後に色々大変なことになる」という一連の展開をきちんと描いていて、構成がとても上手かったなと思います。しかも、それぐらいぎゅっとまとまった作品なのに、「テレビ番組内でデビュー曲を歌うシーン」では、1曲丸々歌わせる演出になっていました。このシーンのカメラワークは「テレビの音楽番組風」で、それをアニメで表現するのは結構大変だったんじゃないかと思います。また、彼女たちが歌った楽曲はそもそもアニメ化に合わせて作られたはずなので、「力入ってるなぁ」という感じでした。
映像化する時は、こういうところまでやらないといけないから大変だよねぇ
小説で音楽を描く場合は、歌詞だけあれば形になるはずだからなぁ
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ちなみに本作には、彼女たちの新曲として「方位自身」という曲が出てきます。東ゆうが「自分たちで作詞をします」と言って持ち帰ったにも拘らずなかなか上手くいかなかったため、「公式にお披露目される曲」として登場するわけではないのですが、ある場面で彼女たちがこの曲を歌うシーンが映し出されました。そしてこの曲の歌詞を原作者の高山一実が担当しているようです。彼女は今回のアニメ化にあたって、色んなことに挑戦したみたいですね。
またエンドロールでは、声優として「高山一実、西野七瀬、内村光良」の3人が表示されていて、「えっ? どこかに出てきたっけ?」となったのですが、後で調べてわかりました。どうやら、「城を管理するボランティアのお爺さん3人」を担当したのだそうです。確かに「お爺さんっぽくない声だなぁ」と思っていたのですけど、これで納得できました。高山一実と西野七瀬だったんですね。
でも、だったらもう1人も乃木坂46のメンバーにしたら良かったのにね
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そんなわけで、原作小説もアニメ映画も、どちらもとても面白い作品でした。高山一実は『トラペジウム』以降小説を発表していないみたいですが、また書いてほしいなと思います。
著:高山 一実
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最後に
以前、乃木坂46の2期生・伊藤かりんが雑誌のインタビューで、高山一実のことを次のように評していました。
人当たりはいいけど、距離が縮まらない。
「EX大衆2017年5月号」
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才能がある人だと思うので、小説でも脚本でも何でもいいので、また何か物語を生み出してほしいなと願っています。
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日本の「戦国時代」さながらの内戦状態にあるソマリア共和国内部に、十数年に渡り奇跡のように平和を維持している”未承認国家”が存在する。辺境作家・高野秀行の『謎の独立国家ソマリランド』から、「ソマリランド」の理解が難しい理由と、「奇跡のような民主主義」を知る
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【助けて】息苦しい世の中に生きていて、人知れず「傷」を抱えていることを誰か知ってほしいのです:『…
元気で明るくて楽しそうな人ほど「傷」を抱えている。そんな人をたくさん見てきた。様々な理由から「傷」を表に出せない人がいる世の中で、『包帯クラブ』が提示する「見えない傷に包帯を巻く」という具体的な行動は、気休め以上の効果をもたらすかもしれない
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【感想】「献身」こそがしんどくてつらい。映画『劇場』(又吉直樹原作)が抉る「信頼されること」の甘…
自信が持てない時、たった1人でも自分を肯定してくれる人がいてくれるだけで前に進めることがある。しかしその一方で、揺るぎない信頼に追い詰められてしまうこともある。映画『劇場』から、信じてくれる人に辛く当たってしまう歪んだ心の動きを知る
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【正義】マイノリティはどう生き、どう扱われるべきかを描く映画。「ルールを守る」だけが正解か?:映…
社会的弱者が闘争の末に権利を勝ち取ってきた歴史を知った上で私は、闘わずとも権利が認められるべきだと思っている。そして、そういう社会でない以上、「正義のためにルールを破るしかない」状況もある。映画『パブリック』から、ルールと正義のバランスを考える
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【情熱】常識を疑え。人間の”狂気”こそが、想像し得ない偉業を成し遂げるための原動力だ:映画『博士と…
世界最高峰の辞書である『オックスフォード英語大辞典』は、「学位を持たない独学者」と「殺人犯」のタッグが生みだした。出会うはずのない2人の「狂人」が邂逅したことで成し遂げられた偉業と、「狂気」からしか「偉業」が生まれない現実を、映画『博士と狂人』から学ぶ
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【差別】「女性の権利」とは闘争の歴史だ。ハリウッドを支えるスタントウーマンたちの苦悩と挑戦:『ス…
男性以上に危険で高度な技術を要するのに、男性優位な映画業界で低く評価されたままの女性スタントたちを描く映画『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』。女性スタントの圧倒的な努力・技術と、その奮闘の歴史を知る。
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【驚異】プロジェクトマネジメントの奇跡。ハリウッドの制作費以下で火星に到達したインドの偉業:映画…
実は、「一発で火星に探査機を送り込んだ国」はインドだけだ。アメリカもロシアも何度も失敗している。しかもインドの宇宙開発予算は大国と比べて圧倒的に低い。なぜインドは偉業を成し遂げられたのか?映画『ミッション・マンガル』からプロジェクトマネジメントを学ぶ
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【能力】激変する未来で「必要とされる人」になるためのスキルや考え方を落合陽一に学ぶ:『働き方5.0』
AIが台頭する未来で生き残るのは難しい……。落合陽一『働き方5.0~これからの世界をつくる仲間たちへ~』はそう思わされる一冊で、本書は正直、未来を前向きに諦めるために読んでもいい。未来を担う若者に何を教え、どう教育すべきかの参考にもなる一冊。
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【あらすじ】「愛されたい」「必要とされたい」はこんなに難しい。藤崎彩織が描く「ままならない関係性…
好きな人の隣にいたい。そんなシンプルな願いこそ、一番難しい。誰かの特別になるために「異性」であることを諦め、でも「異性」として見られないことに苦しさを覚えてしまう。藤崎彩織『ふたご』が描き出す、名前がつかない切実な関係性
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【考察】世の中は理不尽だ。平凡な奴らがのさばる中で、”特別な私の美しい世界”を守る生き方:『オーダ…
自分以外は凡人、と考える主人公の少女はとてもイタい。しかし、世間の価値観と折り合わないなら、自分の美しい世界を守るために闘うしかない。中二病の少女が奮闘する『オーダーメイド殺人クラブ』をベースに、理解されない世界をどう生きるかについて考察する
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【現代】これが今の若者の特徴?衝撃のドキュメンタリー映画『14歳の栞』から中学生の今を知る
埼玉県春日部市に実在する中学校の2年6組の生徒35人。14歳の彼らに50日間密着した『14歳の栞』が凄かった。カメラが存在しないかのように自然に振る舞い、内心をさらけ出す彼らの姿から、「中学生の今」を知る
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【感想】人間関係って難しい。友達・恋人・家族になるよりも「あなた」のまま関わることに価値がある:…
誰かとの関係性には大抵、「友達」「恋人」「家族」のような名前がついてしまうし、そうなればその名前に縛られてしまいます。「名前がつかない関係性の奇跡」と「誰かを想う強い気持ちの表し方」について、『君の膵臓をたべたい』をベースに書いていきます
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【感想】努力では才能に勝てないのか?どうしても辿り着きたい地点まで迷いながらも突き進むために:『…
どうしても辿り着きたい場所があっても、そのあまりの遠さに目が眩んでしまうこともあるでしょう。そんな人に向けて、「才能がない」という言葉に逃げずに前進する勇気と、「仕事をする上で大事なスタンス」について『羊と鋼の森』をベースに書いていきます
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【葛藤】部活で後悔しないために。今やりたいことをやりきって、過去を振り返らないための全力:『風に…
勉強の方が、部活動より重要な理由なんて無い。どれだけ止められても「全力で打ち込みたい」という気持ちを抑えきれないものに出会える人生の方が、これからの激動の未来を生き延びられるはずと信じて突き進んでほしい。部活小説『風に恋う』をベースに書いていく
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メガネファストファッションブランド「オンデーズ」の社長・田中修治が経験した、波乱万丈な経営再生物語『破天荒フェニックス』をベースに、「仕事の目的」を見失わず、関わるすべての人に存在価値を感じさせる「働く現場」の作り方
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才能・センスがない【本・映画の感想】 | ルシルナ
子どもの頃は、自分が何かの才能やセンスに恵まれていることを期待していましたが、残念ながら天才ではありませんでした。昔はやはり、凄い人に嫉妬したり、誰かと比べて苦…
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