目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- アメリカは、裁判長の目を盗んで、「天皇の戦争責任を回避する」ために奔走した
- パル判事(パール判事)は、「日本は悪くない」などと主張してはいない
- 戦勝国の弁護士が、敗戦国の被告のために公正な裁判を実現しようと奮闘した
5時間に及ぶ映画は直接的にそう主張はしないが、やはり「戦争はすべきでない」と実感させられる
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私は基本的に、歴史に関する全般的な知識がない。理系の人間だったので、歴史の教科を一切履修しなかったのだ。結構前に大きな社会問題となり、それ以降ルールが変わったはずだが、私が高校生の頃は、「日本史・世界史・地理・政経」の中からどれか1つを選べばよく、私は「政経」を選択した。
今では、学生時代に歴史をもっと学んでおけば良かった、と思う。基本的な知識さえないのはやはり大人として恥ずかしいし、本や映画に触れる際にも理解の障害となることは多い。
太平洋戦争や東京裁判についても、基本的にはあまり詳しく知らない。大人になってから本で読んだり、映画で観たりした知識はあるが、大体そういう作品は、「教科書で習うような内容はある程度知ってるよね?」という前提で物語が進んだりするので、やはり基本的な知識は得られないままだったりする。
この記事は、そういう歴史に無知な人間による感想だ、ということを理解してほしい。恐らく、的はずれなことを書いている箇所もあろうかと思うが、それは、私の知識不足によるものである。
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「天皇の戦争責任を追及しないためのアメリカの闘い」が繰り広げられる
この映画は、実際の「東京裁判」の記録映像をベースに、A級戦犯とされた被告らの様々な映像を組み合わせながら作られている作品だ。
映画を観て最も驚いたのは、アメリカのスタンスだ。彼らは「天皇の戦争責任を追及しない」という姿勢を貫くのである。
もちろんさすがの私でも、戦争犯罪における昭和天皇の責任が認定されなかったことは知っている。また、大人になってから読んだ本には、アメリカは占領政策を有利に進めるために天皇の存在を利用したとも書かれていた。しかしそのアメリカの国策のために、東京裁判において「どうにかして天皇の責任が糾弾されないように誘導する」なんてことを積極的に行っていたことは知らなかった。
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東京裁判というのは、連合国(戦勝国)による裁判であり、当然、アメリカ一国の思惑で動くものではない。そういう状況の中で、あの手この手を尽くして天皇の戦争責任を回避しようとする姿は非常に印象的だった。
映画では、マッカーサーが昭和天皇に対して抱いた印象についても触れられていた。
昭和天皇は戦後、自らマッカーサーの元へ行き、「自分はどうなっても構わないから、国民に食料を配ってほしい」と直訴したという。その会話の中で、戦争は自分の責任だという趣旨の発言もあったとされる。
当時のアメリカ世論は、天皇の責任を糾弾すべきという声が多かったし、米軍内でもそのような意見は当然あった。しかしマッカーサーは昭和天皇との対面によって、同情的な感覚さえ抱くようになったらしい。マッカーサーが昭和天皇に抱いた好意的な印象が、その後の裁判や占領政策にどの程度影響したかは不明だが、事実としてその後アメリカは、天皇の責任を糾弾しない方向で裁判を進め、天皇を利用した占領政策を進めていく。
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天皇の扱いと併せて、映画を観て驚かされたのは、東京裁判が実に厳格に行われたという点だ。私の勝手な印象では、戦勝国が行う裁判は、ルールを捻じ曲げてでも無理を通して自国に有利なように進めるイメージだったのだが、まったく違った。きちんと正しい手続きに則って進行されており、非常にフェアだと感じた。
東京裁判の裁判長を担ったのは、オーストラリア出身のウェッブという人物だ(映画では「ウェッブ」という表記で、この記事でもそれを踏襲するが、ウィキペディアでは「ウェブ」となっている)。そして彼は、「天皇の責任を追及すべきだ」という明確な立場を取っていた。ルールに基づいて厳格に行われた裁判において、天皇の責任を追及しようとしている裁判長の目を盗んで、アメリカは自分たちが望む進行を目指した、ということだ。よほど強い意思で、天皇の戦争責任を回避しようとしたというわけである。
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例えばこんなやり取りだ。
東京裁判で主席検察官を務めたアメリカのキーナンは、天皇の側近だったある被告への尋問で、このような聞き方をする。
あらゆる決定は、誰かがしたものを天皇が承認しただけなのか、あるいは天皇が決定したのか
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要するに、「誰かが決めたものを天皇が認めただけって答えればいいんだぞ」とアシストをしている、ということだ。それ以降も、
天皇はただ承認しただけなんだろう?
という露骨な聞き方さえしている。しかし、主席検察官からの誘導めいた尋問に、何か裏があると考えてしまったのだろうか。キーナンは被告から「天皇はただ承認しただけ」という回答を引き出せなかった。
そんな「失敗」があったからだろう。東条英機の尋問の際には、あらかじめ弁護士を通じて、「こちらには天皇の責任を追及する意図はないから、上手く返答してくれ」と密約していたというから驚きだ。
東条英機は当然了承する。天皇の責任が追及されてほしいはずがないからだ。
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しかし東条英機はある質問に対して、
日本国民が陛下の意思に反してなにかするなどということはあり得ない
というような返答をしてしまう。これはマズい。何故なら、この発言は明らかに「天皇がすべての決定者である」ことを示唆しているからだ。天皇の責任を追及したいウェッブは当然この発言を聞き逃さず、非常に危うい展開となる。
しかしいろいろとあって、最終的に天皇の不起訴が決まることになった。日本もホッとしただろうが、恐らくアメリカも安堵したことだろう。
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裁判長・ウェッブの抗議
ウェッブは、東京裁判の裁判長であるにも関わらず、東条英機の尋問の直前ぐらいまで本国に戻っており、東京裁判から離れていた。表向きは、オーストラリアで別の裁判があるということだったが、通常考えらない理由であり、関係者はざわつくことになる。
この動きには、まったく異なる2つの説があるようだ。
1つは、連合国側が天皇の責任を追及しないことへの抗議行動だ、というもの。そしてもう1つは、ウェッブの存在を疎ましく思った連合国側が、オーストラリアに働きかけて一時的に排除した、というものだ。
どちらが正しいのだとしても、ウェッブが裁判でいかに天皇の責任を明らかにしようとしていたのかが伝わるエピソードである。
またウェッブは、判決の読み上げ時にも独自の主張をした。
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そもそも判決文は全10章からなり、読み上げるだけで10日掛かるほどの分量があった。そして判決の言い渡しの際には、評決の過程で出た少数意見も披露しなければならないという決まりがあるのだという。
しかしウェッブは、少数意見の読み上げを省略すると決めた。少数意見だけでも読み上げるのに数日掛かる、というのがその理由だった。
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さて、実はその少数意見には、ウェッブ自身の意見も含まれていた。後に明らかになったところによれば、ウェッブは、
天皇を被告として、あるいはせめて証人としてこの裁判に引きずり出せなかったのだから、それ以外の被告たちを、死刑を許容する裁判において裁くことは合理的ではない
と主張したのだという。ウェッブが少数意見を読み上げないと決めた本当の理由は、この映画からは分からなかったが、いずれにしても、最後の最後までウェッブは納得していなかったということが伝わる話である。
パル判事の主張
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さて、ウェッブが読み上げなかった少数意見には、東京裁判の判事としてよく名前が上がるパルのものもあった(映画では「パル」だったが、ウィキペディアでは「パール」である。パール判事の方が一般的だろうが、この記事では映画に合わせて「パル」と表記する)。
パル判事は、東京裁判開廷時にはまだ日本におらず、途中参加となったが、裁判官の中で唯一、国際法に関する著作を持つ専門家でもあった。
パル判事は最終的に、英字で25万字、日本語で1219ページにも及ぶ意見書を提出した。少数意見だったため結果的に裁判では読み上げられなかった彼の主張とはどんなものだったのか。
その説明をする前にまず、「戦争」と「裁判」の関係について改めて整理しておこう。
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「戦争」というのは「国際法」によってそのルールが定められている。「戦争」はそもそも殺し合いであり、「人を殺す」というただそれだけで罪となるわけではない。どれだけ残虐な行為を行おうが、それが法律の範囲内に収まるのであれば合法なのだ。
では、「戦争」における「非合法」とは一体何か。それは「侵略か否か」である。「パリ不戦条約」や「ケロッグ=ブリアン協定」など、戦争に関する国際法はいくつかあるのだが、それらのルールに反する戦争は「侵略戦争」と見なされて「非合法」と判断される、ということだ。
これを踏まえた上で、パル判事の主張を理解しよう。彼は、「『この戦争が侵略戦争だったか否か』という議論が何故なされないのか」と疑問を呈した。つまり、裁判の進め方に問題がある、という指摘だ。
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「戦争」が「非合法」と認められるためには、「侵略戦争だった」という認定が必要不可欠である。しかし東京裁判では、「太平洋戦争は侵略戦争だった」ということが揺るぎない前提として進められている。これは合理を欠いた裁判であり、そんな裁判で審議されてきた被告らは全員無罪である、と主張したのである。
東京裁判におけるパル判事の主張は、「日本は悪くなかった」という内容だと説明されることが多い気がする。実際に私も、そういう理解をしていた。しかしパル判事は、そんなことは一言も言っていない。それどころか、被告らの行為を正当化する必要はない、とまで明言しているのだ。
被告らの行為は誤りだと考えるが、手続き上の不備があるのだから裁判そのものが無効である、という主張なのであり、このような主張をする裁判官がいたこともまた、東京裁判が実にフェアに進行されていたことの現れであるように感じられた。
裁判を公正に行おうとするアメリカの弁護士たち
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先程私は、「裁判が厳格に進行されて驚いた」と書いたが、その印象は、A級戦犯の弁護を担当することになったアメリカ人弁護士たちの行動によるところが大きい。
まずこの東京裁判は、当時の日本の法律ではなく、英米法を基に行われた。それは当然だろう。しかし日本には、英米法に詳しい者はほとんどいない。このままでは、ルールさえよく分からないまま裁判が進行してしまうことになる。
そこで日本側はマッカーサーに、英米法に詳しい人物による弁護が必要だと訴えた。それを受けてマッカーサーは本国に問い合わせ、アメリカ人弁護士がそれぞれの被告につくことになるのである。
しかし、戦勝国の弁護士が、敗戦国のA級戦犯をフェアに弁護してくれるだろうか? と日本側は疑念を抱く。当然の心配だろうが、それはまったくの杞憂に終わることになる。アメリカ人弁護士たちはまず、先のパル判事の主張と同じく、この裁判の在り方そのものに疑義を突きつけるところから始めたのだ。
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結局、弁護団によるこれらの主張は、大して議論もされないまま裁判は進んでいく。しかしこれらの姿は日本側にとって、アメリカ人弁護士は公正な弁護をしてくれるだろう、という印象に繋がっただろうと思う。
私の漠然とした印象とはまったく異なり、アメリカの「天皇の戦争責任を追及しない」という思惑を進行させつつも、裁判として非常に公正さを保とうと苦心する者たちの闘いが記録されていると感じた。正直、戦勝国がもっと雑に裁いていたと勝手なイメージを抱いていたので、その点に関しては申し訳ない気持ちだ。
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5時間にも及ぶ超大作であり(私が映画館で観た際は、休憩が1度あった)、内容としては裁判の話に留まらない。戦争に関係する衝撃的な映像や、被告らが映った様々な場面での映像が組み合わされ、東京裁判前後の日本の姿を切り取ろうとする。当時の映像がここまでしっかり残っているものなのかという驚きと共に、知らなかった話が満載で、非常に興味深く観た。
日本は、主権国家として初めて「戦争の放棄」を憲法に盛り込んだ国だ。確かに日本は、直接的には戦争をしていない。しかし、戦争をしている国とは関わっているし、憲法を変えることで、戦闘行為に参加できるようにしようとする動きも感じる。そして、今も世界のどこかで戦争が起こっている。
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理想論を口にするだけでは何も解決しないと分かっているが、それでも私は常に、地球上から戦争は無くなるべきだと思っているし、機会があるごとに主張していきたいと思う。
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【デモ】クーデター後の軍事政権下のミャンマー。ドキュメンタリーさえ撮れない治安の中での映画制作:…
ベルリン国際映画祭でドキュメンタリー賞を受賞したミャンマー映画『ミャンマー・ダイアリーズ』はしかし、後半になればなるほどフィクショナルな映像が多くなる。クーデター後、映画制作が禁じられたミャンマーで、10人の”匿名”監督が死を賭して撮影した映像に込められた凄まじいリアルとは?
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【信念】映画『ハマのドン』の主人公、横浜港の顔役・藤木幸夫は、91歳ながら「伝わる言葉」を操る
横浜港を取り仕切る藤木幸夫を追うドキュメンタリー映画『ハマのドン』は、盟友・菅義偉と対立してでもIR進出を防ごうとする91歳の決意が映し出される作品だ。高齢かつほとんど政治家のような立ち位置でありながら、「伝わる言葉」を発する非常に稀有な人物であり、とても興味深かった
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「BLは知的遊戯である」という主張には「は?」と感じてしまうでしょうが、本書『ボクたちのBL論』を読めばその印象は変わるかもしれません。「余白の発見と補完」を通じて、「ありとあらゆる2者の間の関係性を解釈する」という創造性は、現実世界にどのような影響を与えているのか
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【傑物】フランスに最も愛された政治家シモーヌ・ヴェイユの、強制収容所から国連までの凄絶な歩み:映…
「フランスに最も愛された政治家」と評されるシモーヌ・ヴェイユ。映画『シモーヌ』は、そんな彼女が強制収容所を生き延び、後に旧弊な社会を変革したその凄まじい功績を描き出す作品だ。「強制収容所からの生還が失敗に思える」とさえ感じたという戦後のフランスの中で、彼女はいかに革新的な歩みを続けたのか
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【挑発】「TBS史上最大の問題作」と評されるドキュメンタリー『日の丸』(構成:寺山修司)のリメイク映画
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ベトナム戦争に反対する若者たちによるデモと、その後開かれた裁判の実話を描く『シカゴ7裁判』はメチャクチャ面白い映画だった。無理筋の起訴を押し付けられる主席検事、常軌を逸した言動を繰り返す不適格な判事、そして一枚岩にはなれない被告人たち。魅力満載の1本だ
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ベネディクト・カンバーバッチが制作を熱望した衝撃の映画『モーリタニアン 黒塗りの記録』は、アメリカの信じがたい実話を基にしている。「9.11の首謀者」として不当に拘束され続けた男を「救おうとする者」と「追い詰めようとする者」の奮闘が、「アメリカの闇」を暴き出す
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【あらすじ】映画『1917』は、ワンカット風の凄まじい撮影手法が「戦場の壮絶な重圧」を見事に体感させる
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ナチスドイツナンバー2だった宣伝大臣ゲッベルス。その秘書だったブルンヒルデ・ポムゼルが103歳の時にカメラの前で当時を語った映画『ゲッベルスと私』には、「愚かなことをしたが、避け難かった」という彼女の悔恨と教訓が含まれている。私たちは彼女の言葉を真摯に受け止めなければならない
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第二次世界大戦で最も過酷な戦場の1つと言われた「前田高地(ハクソー・リッジ)」を、銃を持たずに駆け回り信じがたい功績を残した衛生兵がいた。実在の人物をモデルにした映画『ハクソー・リッジ』から、「戦争の悲惨さ」だけでなく、「信念を貫くことの大事さ」を学ぶ
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歴史・文明・人類【本・映画の感想】 | ルシルナ
現在、そして未来の社会について考える場合に、人類のこれまでの歴史を無視することは難しいでしょう。知的好奇心としても、人類がいかに誕生し、祖先がどのような文明を作…
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