目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
今どこで観れるのか?
公式HPの劇場情報をご覧ください
この記事の3つの要点
- 「掃除」や「給食の配膳」など「教育以外の活動」を児童が行わない諸外国では、「日本式教育」は特異的に見えているらしい
- 「コロナ禍の小学校に密着する」という超ハードルの高い撮影をやり切って生み出された作品
- 地域や世代の違いによっても「当たり前」は異なるはずなので、観た人同士でそういう会話をするのも面白いだろう
日本の公立小学校に通い、中学高校はインターナショナルスクールに、そしてアメリカの大学に進学した監督が「日本式教育」をじっくりと描き出す
自己紹介記事
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
「私たちが経験したごく当たり前の小学校生活」を映し出すだけの映画『小学校~それは小さな社会~』は、日本以外の国の人には「衝撃的」に見えるらしい
日本で生まれ育った者には「当たり前」過ぎる日常を捉えた本作『小学校~それは小さな社会~』は、一体何が評価されているのだろうか?
本作『小学校~それは小さな社会~』は、ごくごく一般的な公立小学校の日常風景を捉えただけの作品である。私も含め、日本で生まれ育ってきた人(国籍に限らず)にとっては正直、「当たり前の光景」でしかないと思う。後で触れるが、コロナ禍に撮影が行われたこともあり多少の例外はあるものの、そのことは別に大した問題ではないはずだ。映し出されている大枠の日常、つまり、「掃除」「給食の配膳」「運動会の練習」などは、地域や年代によって多少の違いはあるにせよ、「大体こんな感じだったよね、小学校って」と誰もが感じるのではないかと思う。
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しかしそんな映画が、フィンランドではたった1館での上映から始まって20館にまで拡大、4ヶ月に渡るロングランを記録しており、さらに、他にも様々な国で公開され、評判を集めているのだそうだ。では一体、この「当たり前でしかない光景」の何に反応しているのだろうか?
さて、私は鑑賞後に本作の公式HPを見て初めて知ったのだが、「TOKKATSU」という英語が存在するのだという。もちろん日本語由来なのだが、元の言葉が何か分かるだろうか? これは「特活」、つまり「特別活動」から来ているのだそうだ。ではそもそも「特別活動」とは何なのか。それは「教科・学科外の活動」であり、分かりやすいところで言えば「掃除」や「給食の配膳」などを指している。
そうどうやら、「児童が自ら掃除や給食の配膳をする」というのは、世界的に見るととても珍しいことなのだそうだ。全然知らなかった。「TOKKATSU」という単語が生まれるくらい、「教科・学科外の活動も行う」という「日本式教育」は世界的に注目されているのである。そのため、「私たちには当たり前だった日常」がただ映し出されているだけの映画が、色んな国で評価されているというわけだ。
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そんな映画を撮影したのが、監督の山崎エマである。彼女はイギリス人の父を持つハーフなのだが、日本で生まれ育ち日本の公立小学校を卒業した。しかし、中学・高校はインターナショナルスクールに通い、さらにアメリカの大学に進学したのだそうだ。そんな彼女を紹介する文章が公式HPに掲載されており、本作の制作動機にも関わってくると思うので紹介しておくことにしよう。
ニューヨークに暮らしながら彼女は、自身の“強み”はすべて、公立小学校時代に学んだ“責任感”や“勤勉さ”などに由来していることに気づく。
「6歳児は世界のどこでも同じようだけれど、12歳になる頃には、日本の子どもは“日本人”になっている。すなわちそれは、小学校が鍵になっているのではないか」との思いを強めた彼女は、日本社会の未来を考える上でも、公立小学校を舞台に映画を撮りたいと思った。
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日本で生まれずっと生活していると、「日本の小学校が特殊だ」と感じる機会はなかなかないだろう。しかし彼女は、後に「日本的教育」から離れたことで「日本的教育」の特殊さに気づくことが出来たのである。そんなわけで、本作のようなドキュメンタリーが生まれたというわけだ。
彼女はもちろん日本的な感覚を持っているので、日本で生まれ育った人が本作を観た場合には「当たり前だよね」という感想になる。しかし彼女は同時に外国人視点も持っているので、恐らくだが「外国人には奇妙に見えるポイント」も熟知しているのだと思う。そのため、日本人(今後もこの記事においては、「日本人」という表記は「日本で生まれ育った人」という意味に受け取ってほしい)にはまったく違和感のない映像に外国人は違和感を抱きまくる、みたいなことになっているんじゃないだろうか。
私は今ここで説明してきたようなことをまるで知らないまま本作を観たわけだが、知った上で観る方がより興味深く鑑賞できるかもしれない。
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コロナ禍に膨大な時間カメラを回し続けて作られた作品
先ほど少し触れた通り、本作の撮影はコロナ禍の真っ只中に行われている。「意図的にコロナ禍を狙った」なんてことはまずあり得ないと思うので、不可抗力でそうなってしまっただけだろうが、ある意味ではそのことによって、日本人にとっても興味深さがプラスされていると思う。コロナ禍のまさに規制が厳しかった時期に小学生の子どもを育てたりしていない限り、「コロナ禍における学校生活」を知る機会などなかなかないはずだからだ。
しかし本当に、コロナ禍の子どもたちは大変だっただろうなと思う。みんなマスクしているのは当然として、「給食の時間はシールドを立てて黙食」みたいなことも知識としては知ってはいたが、「入学式の校歌斉唱の際に『心の中で歌って下さい』とアナウンスがあったこと」にはかなりビックリした。「確かにそういう対策しかないか」と思いつつも、「心の中で歌う」というフレーズの響きがちょっと異様な感じがしてしまい、驚かされてしまったのだ。
また、クラスを半分に分けて「登校組」と「リモート組」に分けるなどの対策も行われていたが、「小学生のリモート授業」なんてメチャクチャ大変だっただろうなと思う。子どもや親も慣れない状況に四苦八苦しただろうが、先生も相当苦労したはずだ。そんなわけで本作では、「概ね当たり前の日常」が映し出されつつ、「観客の誰も経験したことがない小学校生活」も垣間見えるわけで、表現が適切ではないかもしれないが、そういう部分はかなり興味深く観れるのではないかと思う。
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そしてさらに言えば、どう考えたって死ぬほど大変だっただろうコロナ禍の時期に、ある意味で「余計な仕事」でしかない「撮影スタッフの受け入れ」を決断した小学校もやはり凄い。この企画は、撮影をOKしてくれる小学校が見つからなければ始まらないわけで、まずはその部分でメチャクチャ苦労したんじゃないかという気がする。また公式HPには本作へのコメントが多数掲載されているのだが、その中に、「ジャーナリスト・フジテレビ解説員 鈴木款」という人が、次のように書いている文章があった。
「よくこんな映像が撮れたなあ」学校の取材は難しい。この作品ができたのは監督スタッフの熱意が先生や子どもたち、保護者に伝わり信頼関係がつくられたからだ。
恐らくだが、「学校の取材は難しい」というのは、実際に取材をしたことがあるからこその実感なのだと思う。ただでさえ学校の取材は難しいのに、さらにコロナ禍だったのだ。先ほど「コロナ禍を狙ったわけではないはず」という推測に触れたが、そうだとすれば「企画を立ち上げ、資金を集め、色々準備をしていたらコロナ禍になってしまった」みたいなことなのだと思うし、だとすれば、通常の何倍もの労力が必要になったのではないかという気がする。そんな想像を抱かせる作品だった。
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本作の制作にあたって、監督は現場で4000時間を過ごしたそうだ。仮に1日10時間と計算しても1年以上である。恐らくそうやって、教員や児童たちと信頼関係を築いていったのだろう。さらに、実際の撮影は1年の内の150日間、カメラを回した時間は700時間に及んだという。
相当な労力が費やされたわけだし、そしてそんな作品が「ごく一般的な日本人には『当たり前』に見える」というのも、面白いポイントと言えるかもしれない。
「当たり前」の中にいくつかあった、私が驚かされた描写について
さて、私が本作で最も好きなのは、「教師が児童を泣かせるぐらい怒っていたシーン」である。この学校では毎年、「新1年生を迎える演奏会」を行っており、「楽器を演奏する児童は挙手制、希望する人が複数いればオーディションを開く」というやり方をしているようだ。そして「オーディションで選ばれたにも拘らず、普段から練習しているようには思えない女の子が、そのことについて教師から厳しく問い詰められる」みたいなシーンがあったのである。
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正直私の中には、「教師は親からのクレームを恐れて、子どもたちを厳しく指導しない」みたいな印象があったし、さらにこの状況はカメラで撮影されてもいるわけで、そういう色んな要素が絡まり合って「ちゃんと怒るんだなぁ」という感覚になった。個人的にはとても良いことだと思う。作中にはこのシーンに限らず、「教師が児童に厳しく接するシーン」が随所に存在する。そしてそのことは、「教師と児童、そして教師と保護者の間に信頼関係がきちんとあること」を示していると思うので、そういう意味でも素敵だなと感じた。
さらに作中には、「先生たちの本気」が垣間見える場面もある。「厳しい指導」がしにくい時代になっているような印象を持っていたが、やはり教師には「厳しくすべき場面では厳しくしないと」という感覚があるようで、その線引きについて話し合っていたのだ。さらに、修学旅行なのか林間学校なのか分からないが、旅館のような場所で先生たちが「指導とは?」みたいな議論を熱く行っているシーンがあったりと、「教育に対する熱量」が感じられたのも凄く良かったなと思う。
あと、これは私が通っていた学校にはなかったので驚いたのだが、「下駄箱への靴の入れ方を児童が採点する」なんてシーンがあった。たぶん日々当番が決まっていて(あるいは、それ専用の係があったりするのだろうか?)、「◯◯さんは花マル、◯◯さんは三角」みたいな評価をチェックシートに書いていたのだ。さらに最終的に、靴箱の様子をタブレットで撮影までしていた。
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そしてそんなチェックがされているからだろう、子どもたちには、自分の靴だけじゃなく、自分の靴箱の近くの靴の入れ方も直してあげるみたいな習慣が身についているようだ。この小学校だけの独自のスタイルなのかもしれないが、こんなチェックをしているなんてちょっとビックリしてしまった。
さらに、何となく知識として知ってはいたものの、子どもたちが「男女関係なしの『さん』付け」で呼び合っていたことも、個人的にはとても印象的だったなと思う。先生が「さん」付けで呼ぶのはもはやルールとして決まっているのだと思うが、児童同士も「さん」付けなのは決まり事だったりするのだろうか? もちろん、先生が「さん」付けで呼んでいれば、児童同士も自然とそうなるとは思う。ただ、小学校に入る前から知っている幼馴染みたいな存在もいるはずだし、そういう場合はどうなるんだろうか。もしも「児童同士も『さん』付け」がルールとして決まっているなら、「学校外では『くん・ちゃん』付けで呼ぶ」みたいなことになるのかもしれないが、さすがにそれは不合理過ぎるように思う。あるいは、幼稚園とか保育園でももはや「さん」付けがデフォルトで、子どもたちはもう「くん・ちゃん」で呼び合ったりしないんだろうか?
私は結婚していないし子どももいないので、こんなことをあーだこーだ考えているだけなのだが、こういう部分から時代の変化が感じ取れるのもまた面白いものだなと思う。
また、これは本作を観る前から知っていたことではあるのだが、小学校(中学校もだろうか?)の机と椅子の脚にテニスボールを履かせている光景は、最初あまりにも見慣れなくてビックリした。フィクション映画で初めてその光景を目にしたので、「このテニスボールはもしかして、何かの伏線なんだろうか?」と感じたほどである。実際には、「机や椅子を移動させる際の音や振動を軽減する」ために付けているらしく「へぇ」という感じだった。私が小学生の頃にはなかったものなので、どこかのタイミングで「当たり前の光景」に変わったのだと思うが、見た目のインパクトがとても強く、初めて見たた時は本当に驚かされたことを覚えている。
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こんな風に「当たり前」の中にもグラデーションがあるので、そういう部分を見つけて誰かと話してみるのも面白いかもしれない。
一切何の説明もしない構成と、「どんな風に撮影したんだろう?」という疑問
本作の特徴としては、「一切何の説明もしない」という点が挙げられるだろう。例えば、「教師が教室でルンバを走らせている」みたいな場面があるのだが、説明が無いので正直状況が良く分からなかった。なんとなく、「長期休みに入った後で大掃除を兼ねてルンバを走らせている」と受け取ったが、これが「学校のルール」なのか、あるいは「その教師が独自にやっていること」なのかもよく分からない。そもそも「教室にルンバ」というのもメチャクチャ違和感があったし、そういう部分も含めて印象的なシーンだった。
ただもしかしたら、「日本公開版では説明を省いている」みたいなことなのかもしれない。いや、そもそも「日本公開版」と「日本以外公開版」の2種類が存在するのかさえ知らないまま書いているのだが、「日本人には説明しなくたって大体分かるだろうし、説明があったらむしろ煩わしいんじゃないか」みたいな理由で説明を省いているみたいな可能性もあるんじゃないかと思う。ただ何となくだが、外国人に対しても説明なしで見せているような気もする。根拠は特にないが、「TOKKATSU」が注目されているのであればその理解はある程度広まっているとも考えられるし、あるいは、「日本式教育の良さって、説明しなくたって伝わるよね」みたいに監督が感じているとしたら、「敢えて説明を省く」みたいにした可能性もあるだろう。
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さて一方で、撮影そのものに対して不思議に感じる部分もあった。まずは「子どもたちがカメラに全然興味を示さないこと」だ。もちろん、「カメラ目線的なシーンは意識的にカットしている」のだろうし、またそもそも「長くカメラを回していれば、その存在が当たり前になってくる」という側面もあるとは思う。でも、本作は「1年間の小学校の様子」を映し出しているし、だとすれば「カメラにまだ慣れていない時期に撮った映像」だって使われているはずだ。それに、いくら慣れるといったって、小学1年生があんなにもカメラの存在を気にせずにいられるものなのかとも思う。また作中では度々、放送部の男女の姿が映し出されるのだが、この2人の雰囲気も凄く良かったし、この感じを「目の前にカメラがある」という状況で醸し出せているのは、個人的にはちょっと驚きだった。
また、「音声をどう録っているんだろう?」とも思う。「先生や児童にピンマイクでも付けているのか?」と思うぐらい、カメラから遠く離れた場所でのやり取りも記録されているのだ(もしかしたら、先生だけには付けている可能性はあるかもしれないが)。カメラに映らない場所でデカいガンマイクを構えているとも思えないし、そもそもそんなんじゃ拾えないぐらい遠くのやり取りもちゃんと録れている。これは、同種の密着系ドキュメンタリー映画でもよく感じることではあるのだけど、未だにどうやっているのかよく分からない。
そんなわけで、確かに「当たり前」が記録されている映画ではあるのだが、細かく見ていくと「どうなっているんだろう?」と感じるような場面もあり、興味深く鑑賞出来るのではないかと思う。
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最後に
私は以前、中学生に密着した『14歳の栞』というドキュメンタリー映画を観たことがある。こちらもとても良い作品だったのだが、映画『14歳の栞』は「人物」に焦点を当てていたのに対し、本作『小学校~それは小さな社会~』は「環境としての小学校」に着目している点が大きく違うと言えるだろう。
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そんなわけで本作は、「日本の小学校はどのような環境なのか」がとても良く伝わる内容になっているし、それ故に外国人も興味を示しているということなのだろう。「外国人は何に惹かれているのか」を想像してみると、また違った面白さが見えてくる作品ではないかと思う。
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【信念】凄いな久遠チョコレート!映画『チョコレートな人々』が映す、障害者雇用に挑む社長の奮闘
重度の人たちも含め、障害者を最低賃金保証で雇用するというかなり無謀な挑戦を続ける夏目浩次を追う映画『チョコレートな人々』には衝撃を受けた。キレイゴトではなく、「障害者を真っ当に雇用したい」と考えて「久遠チョコレート」を軌道に乗せたとんでもない改革者の軌跡を追うドキュメンタリー
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【天才】映画『Winny』(松本優作監督)で知った、金子勇の凄さと著作権法侵害事件の真相(ビットコイン…
稀代の天才プログラマー・金子勇が著作権法違反で逮捕・起訴された実話を描き出す映画『Winny』は、「警察の凄まじい横暴」「不用意な天才と、テック系知識に明るい弁護士のタッグ」「Winnyが明らかにしたとんでもない真実」など、見どころは多い。「金子勇=サトシ・ナカモト」説についても触れる
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【爆笑】ダースレイダー✕プチ鹿島が大暴れ!映画『センキョナンデス』流、選挙の楽しみ方と選び方
東大中退ラッパー・ダースレイダーと新聞14紙購読の時事芸人・プチ鹿島が、選挙戦を縦横無尽に駆け回る様を映し出す映画『劇場版 センキョナンデス』は、なかなか関わろうとは思えない「選挙」の捉え方が変わる作品だ。「フェスのように選挙を楽しめばいい」というスタンスが明快な爆笑作
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【実話】福島智とその家族を描く映画『桜色の風が咲く』から、指点字誕生秘話と全盲ろうの絶望を知る
「目が見えず、耳も聞こえないのに大学に進学し、後に東京大学の教授になった」という、世界レベルの偉業を成し遂げた福島智。そんな彼の試練に満ちた生い立ちを描く映画『桜色の風が咲く』は、本人の葛藤や努力もさることながら、母親の凄まじい献身の物語でもある
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映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』は、私にグサグサ突き刺さるとても素晴らしい映画だった。「ぬいぐるみに話しかける」という活動内容の大学サークルを舞台にした物語であり、「マイノリティ的マインド」を持つ人たちの辛さや葛藤を、「マジョリティ視点」を絶妙に織り交ぜて描き出す傑作について考察する
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【衝撃】自ら立ち上げた「大分トリニータ」を放漫経営で潰したとされる溝畑宏の「真の実像」に迫る本:…
まったく何もないところからサッカーのクラブチーム「大分トリニータ」を立ち上げ、「県リーグから出発してチャンピオンになる」というJリーグ史上初の快挙を成し遂げた天才・溝畑宏を描く『爆走社長の天国と地獄』から、「正しく評価することの難しさ」について考える
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【挑発】「TBS史上最大の問題作」と評されるドキュメンタリー『日の丸』(構成:寺山修司)のリメイク映画
1967年に放送された、寺山修司が構成に関わったドキュメンタリー『日の丸』は、「TBS史上最大の問題作」と評されている。そのスタイルを踏襲して作られた映画『日の丸~それは今なのかもしれない~』は、予想以上に面白い作品だった。常軌を逸した街頭インタビューを起点に様々な思考に触れられる作品
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【異様】西成のあいりん地区を舞台にした映画『解放区』は、リアルとフェイクの境界が歪んでいる
ドキュメンタリー映画だと思って観に行った『解放区』は、実際にはフィクションだったが、大阪市・西成区を舞台にしていることも相まって、ドキュメンタリー感がとても強い。作品から放たれる「異様さ」が凄まじく、「自分は何を観せられているんだろう」という感覚に襲われた
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【執念】「桶川ストーカー事件」で警察とマスコミの怠慢を暴き、社会を動かした清水潔の凄まじい取材:…
『殺人犯はそこにいる』(文庫X)で凄まじい巨悪を暴いた清水潔は、それよりずっと以前、週刊誌記者時代にも「桶川ストーカー殺人事件」で壮絶な取材を行っていた。著者の奮闘を契機に「ストーカー規制法」が制定されたほどの事件は、何故起こり、どんな問題を喚起したのか
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【驚異】甲子園「2.9連覇」を成し遂げた駒大苫小牧野球部監督・香田誉士史の破天荒で規格外の人生:『勝…
「田中将大と斎藤佑樹の死闘」「37年ぶりの決勝戦再試合」「驚異の2.9連覇」など話題に事欠かなかった駒大苫小牧野球部。その伝説のチームを率いた名将・香田誉士史の評伝『勝ちすぎた監督』は、体罰が問題になった男の毀誉褒貶を余すところなく描き出す。しかしとんでもない男だ
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【あらすじ】ムロツヨシ主演映画『神は見返りを求める』の、”善意”が”悪意”に豹変するリアルが凄まじい
ムロツヨシ演じる田母神が「お人好し」から「復讐の権化」に豹変する映画『神は見返りを求める』。「こういう状況は、実際に世界中で起こっているだろう」と感じさせるリアリティが見事な作品だった。「善意」があっさりと踏みにじられる世界を、私たちは受け容れるべきだろうか?
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【あらすじ】嵐莉菜主演映画『マイスモールランド』は、日本の難民問題とクルド人の現状、入管の酷さを描く
映画『マイスモールランド』はフィクションではあるが、「日本に住む難民の厳しい現実」をリアルに描き出す作品だ。『東京クルド』『牛久』などのドキュメンタリー映画を観て「知識」としては知っていた「現実」が、当事者にどれほどの苦しみを与えるのか想像させられた
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【不謹慎】コンプライアンス無視の『テレビで会えない芸人』松元ヒロを追う映画から芸と憲法を考える
かつてテレビの世界で大ブレイクを果たしながら、現在はテレビから完全に離れ、年間120もの公演を行う芸人・松元ヒロ。そんな知る人ぞ知る芸人を追った映画『テレビで会えない芸人』は、コンプライアンスに厳しく、少数派が蔑ろにされる社会へ一石を投じる、爆笑社会風刺である
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【生き方】改めて『いま、地方で生きるということ』を考える。「どこで生きる」は「どう生きる」に直結する
東日本大震災やコロナ禍などの”激変”を経る度に、「どう生きるべきか」と考える機会が増えるのではないだろうか。『いま、地方で生きるということ』は、「どこででも生きていける」というスタンスを軸に、「地方」での著者自身の生活を踏まえつつ、「人生」や「生活」への思考を促す
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【誇り】福島民友新聞の記者は、東日本大震災直後海に向かった。門田隆将が「新聞人の使命」を描く本:…
自身も東日本大震災の被災者でありながら、「紙齢をつなぐ」ために取材に奔走した福島民友新聞の記者の面々。『記者たちは海に向かった』では、取材中に命を落とした若手記者を中心に据え、葛藤・後悔・使命感などを描き出す。「新聞」という”モノ”に乗っかっている重みを実感できる1冊
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SDGsが広がる世界で、「生活スタイルを変えなければならない」と理解していても、それをどう実践すべきかはなかなか難しいところでしょう。『月3万円ビジネス』で、「『仕事』と『生活』を密着させ、『お金・エネルギーの消費を抑える過程を楽しむ』」生き方を知る
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早稲田大学建築学科在籍中から「建築物の設計」に興味を持てなかった坂口恭平が、「ホームレスの家」に着目した『TOKYO 0円ハウス0円生活』には、「家」に対する考え方を一変させる視点が満載。「家に生活を合わせる」ではなく、「生活に家を合わせる」という発想の転換が見事
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【衝撃】『殺人犯はそこにいる』が実話だとは。真犯人・ルパンを野放しにした警察・司法を信じられるか?
タイトルを伏せられた覆面本「文庫X」としても話題になった『殺人犯はそこにいる』。「北関東で起こったある事件の取材」が、「私たちが生きる社会の根底を揺るがす信じがたい事実」を焙り出すことになった衝撃の展開。まさか「司法が真犯人を野放しにする」なんてことが実際に起こるとは。大げさではなく、全国民必読の1冊だと思う
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【民主主義】占領下の沖縄での衝撃の実話「サンマ裁判」で、魚売りのおばぁの訴えがアメリカをひっかき…
戦後の沖縄で、魚売りのおばぁが起こした「サンマ裁判」は、様々な人が絡む大きな流れを生み出し、最終的に沖縄返還のきっかけともなった。そんな「サンマ裁判」を描く映画『サンマデモクラシー』から、民主主義のあり方と、今も沖縄に残り続ける問題について考える
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【感想】映画『野火』は、戦争の”虚しさ”をリアルに映し出す、後世に受け継がれるべき作品だ
「戦争の悲惨さ」は様々な形で描かれ、受け継がれてきたが、「戦争の虚しさ」を知る機会はなかなかない。映画『野火』は、第二次世界大戦中のフィリピンを舞台に、「敵が存在しない戦場で”人間の形”を保つ困難さ」を描き出す、「虚しさ」だけで構成された作品だ
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日本の「難民認定率」が他の先進国と比べて異常に低いことは知っていた。しかし、日本の「難民」を取り巻く実状がこれほど酷いものだとはまったく知らなかった。日本で育った2人のクルド人難民に焦点を当てる映画『東京クルド』から、日本に住む「難民」の現実を知る
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【矛盾】死刑囚を「教誨師」視点で描く映画。理解が及ばない”死刑という現実”が突きつけられる
先進国では数少なくなった「死刑存置国」である日本。社会が人間の命を奪うことを許容する制度は、果たして矛盾なく存在し得るのだろうか?死刑確定囚と対話する教誨師を主人公に、死刑制度の実状をあぶり出す映画『教誨師』から、死刑という現実を理解する
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【実話】障害者との接し方を考えさせる映画『こんな夜更けにバナナかよ』から”対等な関係”の大事さを知る
「障害者だから◯◯だ」という決まりきった捉え方をどうしてもしてしまいがちですが、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』の主人公・鹿野靖明の生き様を知れば、少しは考え方が変わるかもしれません。筋ジストロフィーのまま病院・家族から離れて“自活”する決断をした驚異の人生
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【感涙】衆議院議員・小川淳也の選挙戦に密着する映画から、「誠実さ」と「民主主義のあり方」を考える…
『衆議院議員・小川淳也が小選挙区で平井卓也と争う選挙戦を捉えた映画『香川1区』は、政治家とは思えない「誠実さ」を放つ”異端の議員”が、理想とする民主主義の実現のために徒手空拳で闘う様を描く。選挙のドキュメンタリー映画でこれほど号泣するとは自分でも信じられない
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コンパクトシティの先進地域・富山市や、起業家精神が醸成される鯖江市など、富山・福井の「変革」から日本の未来を照射する『福井モデル 未来は地方から始まる』は、決して「地方改革」だけの内容ではない。「危機意識の共有」があらゆる問題解決に重要だと認識できる1冊
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【権利】衝撃のドキュメンタリー映画『ヤクザと憲法』は、「異質さを排除する社会」と「生きる権利」を問う
「ヤクザ」が排除された現在でも、「ヤクザが担ってきた機能」が不要になるわけじゃない。ではそれを、公権力が代替するのだろうか?実際の組事務所(東組清勇会)にカメラを持ち込むドキュメンタリー映画『ヤクザと憲法』が映し出す川口和秀・松山尚人・河野裕之の姿から、「基本的人権」のあり方について考えさせられた
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具体的には知らなくても、「日本の子どもの貧困の現状は厳しい」というイメージを持っている人は多いだろう。だからこそこの記事では、朝日新聞の記事を再編集した『増補版 子どもと貧困』をベースに、「『貧困問題』とどう向き合うべきか」に焦点を当てた
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『スクールセクハラ なぜ教師のわいせつ犯罪は繰り返されるのか』では、自分が生徒に対して「権力」を持っているとは想像していなかったという教師が登場する。そしてこの「無自覚」は、学校以外の場でも起こりうる。特に男性は、読んで自分の振る舞いを見直すべきだ
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教育現場では、「子どもたちが学びから逃走する」「学ばないことを誇らしく思う」という、それまでには考えられなかった振る舞いが目立っている。内田樹は『下流志向』の中で、その原因を「等価交換」だと指摘。「学ばないための努力をする」という発想の根幹にある理屈を解き明かす
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「常識的な捉え方」から逸脱し、世の中をまったく異なる視点から見る坂口恭平は、「より生きやすい社会にしたい」という強い思いから走り続ける。「どう生きたいか」から人生を考え直すスタンスと、「やりたいことをやるべきじゃない理由」を『独立国家のつくりかた』から学ぶ
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元気で明るくて楽しそうな人ほど「傷」を抱えている。そんな人をたくさん見てきた。様々な理由から「傷」を表に出せない人がいる世の中で、『包帯クラブ』が提示する「見えない傷に包帯を巻く」という具体的な行動は、気休め以上の効果をもたらすかもしれない
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私個人は、「ビジョンの達成」のためなら「ソフトな独裁」を許容する。しかし今の日本は、そもそも「ビジョン」などなく、「ソフトな独裁状態」だけが続いていると感じた。映画『新聞記者』をベースに、私たちがどれだけ絶望的な国に生きているのかを理解する
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