目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:ジョージ・マッケイ, 出演:ディーン=チャールズ・チャップマン, 出演:ベネディクト・カンバーバッチ, 出演:コリン・ファース, Writer:サム・メンデス, Writer:クリスティ・ウィルソン・ケアンズ, 監督:サム・メンデス, プロデュース:サム・メンデス, プロデュース:ジェイン=アン・テングレン, プロデュース:カラム・マクドゥガル, プロデュース:ピッパ・ハリス, プロデュース:ブライアン・オリバー
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ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- どうやって撮っているのか想像できないシーン満載の、「撮影手法」だけに注目しても衝撃的な映画
- 「全編ワンカット風」という撮影手法が、重圧を背負った伝令2人が感じているだろう緊迫感をリアルに体感させる
- セットの作り込みを含め、制作者たちの「熱量」に満ち溢れた素晴らしい映画
これ以上シンプルには出来ないと感じるほどシンプルなストーリーなのだが、圧倒させられてしまった
自己紹介記事
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有名なので知っている人も多いだろうが、本作は「全編ワンカット風」に撮られている。実際にワンカットで撮影したわけではないそうだが、そういう風にしか見えない作品というわけだ。そんな構成の映画だから当然、「過去の回想シーン」など一切ないし、先述したミッションに関わらないサイドストーリーもほぼ描かれない。とにかく映画で描かれるのは、「ついさっきまで敵陣だった場所を突っ切って、様々な困難を乗り越えながら、伝令として課されたミッションを遂行すること」だけなのである。
そんなストーリーそのものももちろん良かった。しかし『1917』ではそれ以上に、「全編ワンカット風」という撮影手法が、物語の受け取り方に影響を与えているように感じられた。
まずはその辺りの話に触れていきたいと思う。
「全編ワンカット風」という撮影手法ががもたらす、戦場の緊迫感・臨場感
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私は以前書店で働いており、当時は「ちょっと目新しい本の売り方」を色々と考案しては実行していた。本をただ並べているだけではなかなか売れないため、目を惹く仕掛けや興味を喚起するような工夫を施して売り場で展開していたのだ。
その際、かなり意識していたのが、「その本に見合った売り方をすること」である。つまり、「必然性があるか」というわけだ。どれだけ奇抜で斬新な売り方を思いついたとしても、それがその本を届ける手法として見合っていなければなかなか上手くいかない。これは私のポリシーの話なのではなく、「本の中身」と「売り方」が合っているかが売上に影響するのである。
何故こんな話をしているのか。それは、映画『1917』における「全編ワンカット風」という撮影手法が、作品の内容に見合っているのかについて考えたいからだ。そして結論から書けば、「物語の中身」と「撮影手法」がとてもよく響き合っていると私には感じられた。もし、「何か斬新なことをやってやろう」という発想だけで「全編ワンカット風」という撮影手法を採用したのだとすれば、ここまで感動をもたらす作品に仕上がったかは分からない。私はこの点、つまり「『物語の中身』と『撮影手法』が見合っていること」が、まず素晴らしい点だと感じた。
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映画の設定にもう少しだけ触れておこう。物語が始まるのは1917年4月6日の昼頃から。そしてそこから翌朝に掛けての1日に満たない時間軸の中でストーリーが展開されていく。詳しい内容には後で触れるが、伝令たちが置かれた状況はかなり厳しい。一分一秒でも早く行動し、伝えるべきことを伝えなければ、多くの命が喪われてしまうかもしれないのだ。そんな重要なミッションを、たった2人でやりきらなければならないのである。
時間は限られている。進むべき道はかなり険しい。たった2人で遂行するミッション、失敗は許されない。戦場なのだから、このような極限状況はむしろ「当然」と捉えるべきだろうか。しかしそんなこと、2人の伝令には関係ない。彼らは、個人が抱えるにはあまりにも大きな重圧にプレッシャーを感じ、それでもどうにか、共に戦う者たちのために歩みを進めていくのである。
そして「全編ワンカット風」という撮影手法が、その凄まじい緊迫感をリアルに観客に伝えてくれると私は感じた。
「全編ワンカット風」という撮り方は、その場その場における登場人物についての情報をすべて途切れることなく伝えてくれる。映像が編集される場合、その「切り取られた場面」に含まれていたはずの情報は観客には届かない。しかし『1917』では、伝令たちが見たもの、聞いたもの、触れたもの、嗅いだだろうもの、そのすべてを同じように経験できるのだ。メインとなる登場人物が2人しかいないのだから、彼らは大体常にカメラに映し出されている。つまり、彼らの体験がまるごと観客の体験になるような造りになっているというわけだ。それはまさに、「映像世界の中に入っているようなもの」だと言っていいだろう。
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そしてその上で、「全編ワンカット風」という撮影手法はさらに、特殊な「緊迫感」を観客にもたらしているように思う。これは、自分でも変な感覚だと思うのだが、カメラを長回しで撮っている映像をずっと観ていると、「役者が間違えて撮り直しになったりしないだろうか?」とドキドキしてくるのだ。
劇中には、「恐らくここで一旦カットを割っているのだろう」と想像できる箇所がいくつかある。たぶん、20~30分ぐらいのロングショットをいくつか繋いで1本の映画に仕上げているのだと思う。だとすれば、役者やスタッフは最低でも20分間は演技やカメラワークを間違えられないことになる。
「映画として完成している」のだから、「役者が間違えて撮り直しになる」はずがない。そんなことは分かっている。一方、先述した通りこの映画は、「映像世界の中に入っている」ような臨場感を与える作品だ。もちろんそれは、「自分が1917年当時の戦場にいる」という感覚なのだが、同時に「自分が映画『1917』の撮影現場にいる」という感覚も重なってくる。そして後者の感覚に付随して、「役者やスタッフが間違えて撮り直しになる可能性」が頭を過ぎるというわけだ。
そしてこの「取り直しになる可能性にドキドキする」という感覚が、あたかも「吊り橋効果」のように作用して、「自分は今、戦場の凄まじい緊迫感を体感しているんだ」という錯覚が増すことになる。この感覚は非常に面白いと感じた。
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もちろん、映画を観ている最中にそんな分析をしていたわけではない。後から考えて、「なるほど、映画を観ながら感じていたこの凄まじい緊迫感は、きっとこういう理屈で生まれていたのだろう」と思い至ったのである。まったく的はずれな分析かもしれないが、私はこんな風に考えて、自分なりにかなり納得した。
映像世界に没入させる体験に加えて、映画の撮影現場を見ているみたいな錯覚が「吊り橋効果」のような感覚を生み、そのことが緊迫感を倍増させている。そしてそれによって、物語をより効果的に伝えることが可能になっているというわけだ。まさに「物語の中身」と「撮影手法」が絶妙にマッチしていると言っていいだろう。私のこの受け取り方が、制作者たちの意図通りなのかどうか、それはまったく想像もつかないが、私は「全編ワンカット風」というこの映画の撮影手法に、強く「必然性」を感じさせられた。
何よりも、この点が素晴らしい映画だと思う。
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映画『1917』の内容紹介
1917年4月6日、上官から呼び出されたブレイクは、あるミッションを言い渡される。明朝までに、「攻撃中止」のメッセージを別部隊に伝えろというのだ。
少し前に、前線の向こう側にいるはずのドイツ軍が退去していることが判明した。その退去するドイツ兵を叩こうではないかと、マッケンジー大佐率いる第2大隊が彼らを追い、明朝に攻撃を仕掛けるという作戦が立案される。しかしその後、航空映像の解析により、一連の動きがドイツ軍の罠であることが判明した。このままでは、1600名もの兵士を擁する第2大隊が、その罠に嵌ってしまうかもしれない。だから、「攻撃するな」と伝えろというわけだ。
しかし、何故そんな重大なミッションが、一兵卒に過ぎないブレイクに託されたのか。その理由は明白だ。第2大隊には、ブレイクの兄がいるのである。この伝令を成功させなければ、兄の命が危うい。であれば、ブレイクは何が何でもミッションを成功させようとするはずだと期待されているのである。
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ブレイクは上官の元へと向かう際、たまたま傍にいたスコフィールドにも声を掛けていた。そのためスコフィールドは、単なる成り行きでこの困難なミッションに駆り出されてしまう。上官は「ドイツ軍は前線から退去している」と言うが、それとて正確な情報かは分からない。スコフィールドは夜になるのを待つべきだと忠告するが、危機的状況にある兄の身を案じるあまり、ブレイクは明るいうちから行動を開始する。
距離的には、時間が掛かったとしても8時間もあれば第2大隊の拠点までたどり着けるはず。明朝までには、十分時間はあるはずだが……。
映画『1917』の感想
繰り返しになるが、この映画は物語も素晴らしい。しかしやはり映画の感想としては、「全編ワンカット風」という撮影手法に対する驚きが勝ってしまう。
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本当に、どんな風に撮影したのかまったく分からない場面ばかりでビックリした。映画を観ながら何度も、「これどうやって撮ってるんだ?」と呟いていたと思う。
先述した通り、「きっとここでカットを割っているのだろう」と感じる箇所はある。爆発直後など、「画面全体が真っ暗になる場面」がいくつかあり、恐らくそこで一度カメラが止まっているのだと思う。また恐らく、川に飛び込む場面でも一旦区切られているような気がする。
そういう「区切りの箇所」でカットを割っているのだとしても、20分程度のロングカットを成功させなければならない。それは相当大変なことに思える。役者の演技、カメラワーク、カメラに見切れないためのスタッフの動線などすべての要素を20分間ミス無く進めなければ、この映像は撮影できないはずだ。恐らく、そういう「関わった人間がメチャクチャ頑張った」みたいな泥臭さで成立しているのだと思うが、なんとも驚くべきことだと感じる。
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しかもこの映画は、「全編ワンカット風」で撮ろうと考えたことが信じられないくらい、かなり動的に物語が展開していく。戦場が舞台の映画なのだから当然と言えば当然かもしれないが、全力で走る人間をカメラが追いかけたり、川の激流に流され身動きが取れなかったり、ある場面では戦闘機が墜落してきたりする。また、赤ちゃんやネズミなどの動物といった、コントロールが容易ではない要素も出てくるのだ。そういうものをすべてミス無く差配していくのは、並大抵のことではないだろう。本当にどうやっているのか分からない。
また、ちょっとだけネタバレになってしまうかもしれないが、「ある人物の顔色が急激に悪くなるシーン」にも驚かされた。これもどんな風に撮っているのかかなり謎だ。確かにその人物は、顔色が悪化するちょっと前に少しだけカメラのフレームから外れた。恐らくその間に何かをしたのだろう。しかし、その短い時間で何をどうすればあんな風に顔色を変化させられるのか分からない。このように、場面場面で不思議で仕方ない状況が多々現出する(CGを使っていないという想定で書いているが、実はCGなのだろうか?)。
また、凄かったのは決して撮影手法だけではない。例えばセット。もはや「セット」と呼んでいいのかさえよく分からないのだが、「塹壕」や「爆撃を受けた建物」などが非常にリアルなのだ。もちろん私は「本物の戦場」など見たことないのだが、以前観た『彼らは生きていた』というドキュメンタリー映画で映し出された光景とそっくりだった。『彼らは生きていた』は、第一次世界大戦中に撮影された白黒フィルムをカラー化して再構成した作品であり、まさに映画『1917』と同時代の「戦場のリアル」が映し出されていると言っていいだろう。
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このように、撮影手法だけでなく、リアリティを再現しようとする熱意みたいなものも素晴らしかった。「全編ワンカット風」という撮影手法は、技術の進歩によって成し得た部分も大きいだろうが、決してそれだけで実現したわけではないはずだ。役者を含む制作者たちの異常なまでの「熱量」あってのものだろうし、それが、撮影手法に限らず映画のあらゆる部分に通底していたように感じられた。
そして恐らくだが、そのような「熱量」は、「戦争なんか無くなるべき」というメッセージを届けようとする気持ちが生まれているはずだとも思う。映画を観ればきっと、誰もが気づかされるだろう。戦争のバカバカしさに。命を懸けることの無意味さに。
そのことをリアルに実感させるために、制作者たちはとんでもない奮闘をしたのだと感じた。
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そして、そんな印象の蓄積が、「『戦争を始めない』という決断」に繋がるかもしれない。そのような希望を抱かされる作品でもあった。
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2019年に起こった、逃亡犯条例改正案への反対運動として始まった香港の民主化デモ。その最初期からデモ参加者たちの姿をカメラに収め続けた。映画『時代革命』は、最初から最後まで「衝撃映像」しかない凄まじい作品だ。この現実は決して、「対岸の火事」ではない
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映画館で流れた予告映像だけで観ることを決め、他になんの情報も知らないまま鑑賞した映画『灼熱の魂』は、とんでもない映画だった。『DUNE/デューン 砂の惑星』『ブレードランナー 2049』など有名作を監督してきたドゥニ・ヴィルヌーヴの衝撃の出世作については、何も語りたくない
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アフガニスタンの山中で遭遇した羊飼いを見逃したことで、数百人のタリバン兵と死闘を繰り広げる羽目に陥った米軍最強部隊に所属する4人。奇跡的に生き残り生還を果たした著者が記す『アフガン、たった一人の生還』は、とても実話とは信じられない凄まじさに満ちている
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ノルウェーの警察が、自国在住のユダヤ人をまとめて船に乗せアウシュビッツへと送った衝撃の実話を元にした映画『ホロコーストの罪人』では、「自分はそんな愚かではない」と楽観してはいられない現実が映し出される。このような悲劇は、現在に至るまで幾度も起こっているのだ
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映画『アウシュヴィッツ・レポート』は、アウシュビッツ強制収容所から抜け出し、詳細な記録と共にホロコーストの実態を世界に明らかにした実話を基にした作品。2人が持ち出した「アウシュビッツ・レポート」こそが、ホロコーストについて世界が知るきっかけだったのであり、そんな史実をまったく知らなかったことにも驚かされた
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在日コリアン4世の監督が、北朝鮮脱北者への取材を元に作り上げた壮絶なアニメ映画『トゥルーノース』は、私たちがあまりに恐ろしい世界と地続きに生きていることを思い知らせてくれる。最低最悪の絶望を前に、人間はどれだけ悪虐になれてしまうのか、そしていかに優しさを発揮できるのか。
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【評価】映画『シン・ゴジラ』は、「もしゴジラが実際に現れたら」という”現実”を徹底的にリアルに描く
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【書評】奇跡の”国家”「ソマリランド」に高野秀行が潜入。崩壊国家・ソマリア内で唯一平和を保つ衝撃の”…
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インドの高級ホテルで実際に起こったテロ事件を元にした映画『ホテル・ムンバイ』。恐ろしいほどの臨場感で、当時の恐怖を観客に体感させる映画であり、だからこそ余計に、「逃げる選択」もできたホテルスタッフたちが自らの意思で残り、宿泊を助けた事実に感銘を受ける
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逃げたい・諦める【本・映画の感想】 | ルシルナ
私は、大学を中退し、就職活動から逃げ、今も将来に期待せず生きています。誰もが、「人生疲れたな」「もう限界だな」「頑張りたくないな」と感じる瞬間はあるでしょう。誰…
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