目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:イーサン・ホーク, 出演:ノオミ・ラパス, 出演:マーク・ストロング, 監督:ロバート・バドロー, Writer:ロバート・バドロー
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この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- 「ストックホルム症候群」の名前の由来になった銀行強盗がモデルの映画
- 映画を観れば、「犯人に好意・共感を抱く理由」が理解できるかも
- どんな人間であっても「良いところ」はあるはずだ
人質とちょっとクセの強い犯人とが織りなす奇妙な関係性には、「確かにこんなこともあり得るかも」と思わされる
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
映画『ストックホルムケース』は、「ストックホルム症候群」の由来となった実話を元に、「人間はなぜおかしな判断をするのか?」を描き出す作品
「ストックホルム症候群」の衝撃
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「ストックホルム症候群」と呼ばれる状態をご存知だろうか? 人間の判断が、時に奇妙なものになる好例としてよく知られている。定義としてはこうだ。
精神医学用語の一つ。誘拐や監禁などにより拘束下にある被害者が、加害者と時間や場所を共有することによって、加害者に好意や共感、さらには信頼や結束の感情まで抱くようになる現象。
コトバンク
初めてこの存在を知った時、私はたぶん驚いたはずだ(ちゃんと覚えていないが)。なにせ、「自分に危害を加えている(あるいは加えようとしている)人物に好意・共感を抱く」というのだから。「そんなバカな」と感じる人も多いのではないかと思う。
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しかし、何か事件が起こった際にこのような関係性が生じうることは知られており、我々も条件が揃えば同じ感情を抱くかもしれないのだ。
さて、「ストックホルム」というのはスウェーデンの首都である。なぜこのような名前がついているのか? それは、1973年にストックホルムの銀行で起こった強盗事件がきっかけで知られるようになったからだ。
そしてこの映画はまさに、この強盗事件をモデルにした作品なのである。
映画を観ると、「確かにな……」となるかもしれない
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「ストックホルム症候群」は、説明の字面だけ見ていてもなかなか納得できるものではない。本当に、そんなこと起こりうるんだろうか? と感じてしまうだろう。
しかしこの映画を観ると、なるほど確かにありえなくもない、と感じるかもしれない。
映画の予告で流れるシーンに、こんな場面がある。説得を試みる警官は、犯人と直接ではなく、人質の一人を介してやりとりしている。警察と人質が電話でやり取りしている最中、警察が電話口の人質に、
犯人を信用できますか?
と聞く。これに対する人質の返答がなかなか奮っている。
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警察よりはね
確かに、「警察を信用できるのか」という問題は常に存在する。日本の警察はそれなりに信頼できると思うが、しかしやはり失態や醜聞ももちろんある。外国の警察の場合、市民から賄賂を要求したり、自ら悪徳な行為を行っていたりすることもあるようだ。1973年当時のスウェーデンの警察が国民からどう思われていたのか知らないが、「人質が警察に好感を抱いていなかった」という可能性もあるかもしれない。
直接的に警察に不満があるというよりは、「公権力全般」への不信を抱いているなんてこともあり得る。政治への不満が警察不信として現れる、ということもあるだろう。
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しかし、それらはあくまで可能性の話であり、この映画では「人質がことさらに警察に不信感を抱いている」という設定にはない。あくまでも焦点は、犯人と人質の関係性にある。
そして、「この人がしている行為は悪いことだけれど、決して悪い人間じゃない」と感じられる場合、犯人への共感が生まれる余地はあるだろう。ましてその犯人が、「民衆の不満を集めやすそうな組織(銀行も、金をたくさん保管しているという意味で、悪者扱いされがちな組織だろう)」を攻撃しているとすれば、なおさら加担したい気持ちが生まれるかもしれない。
人間は多面的で実に複雑である
ここからはもう「ストックホルム症候群」と直接的には関係がない話になるが、私は常に「他人の捉え方は自分次第だ」と考えている。当たり前のことを言っていると感じる方も多いかもしれないが、このような感覚を持たない人もいると思う。つまり、「自分が悪と感じることは、誰もが悪と感じるはずだ」という認識の人もいると思うのだ。
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有名な話だが、瓶に半分ワインが入った状態を見て、「まだ半分も残っている」と考えるか「もう半分しかない」と考えるかは人によって違う。他人の捉え方も同じで、その人の言動を「良い」と感じる人もいれば「悪い」と感じる人もいる。
しかし人によっては、「この瓶にはワインが半分しか残っていない」という見方しか許容しない人もいるし、誰かの言動を「悪い」と感じたら、他の人も同じように感じるべきだ、と考える人もいる。
映画の中で人質の一人が、
誰にだって良いところはあるものよ
と言う場面がある。確かにその通りだと私も思う。たとえ、今まさに銀行強盗を行っているとしても、その人のどこかに「良いところ」を探すことはできる。
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「銀行強盗」という行為は確かに悪いし許されるものではないが、「銀行強盗をする人はその人格すべてが悪だ」という主張に私は賛同できない。その銀行強盗は、誰かにとっての「優しいパパ」かもしれないし、銀行強盗に及んだ理由が「誰かを助けるため」だったとしたら同情の余地はある。
私自身、可能な限りという注釈付きではあるが、できるだけ他人の良い面探そうと意識してはいる。「ストックホルム症候群」はそういう、「相手を良い人間として捉えたい」という、個人差の大きいだろう感覚によって生み出されているのかもしれない、とも感じる。
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映画『ストックホルムケース』の内容紹介
1973年、スウェーデン・ストックホルムにあるクレジット銀行に、アメリカ人の強盗が現れた。彼は、女性行員2名を残して、行内にいた人間を全員外に出し、そしてグンナー・ソレンソンを連れてこいと要求した。刑務所に収監されている、彼の仲間である。
強盗は行員たちとゲームをして時間を潰し、やがて釈放されたグンナーが銀行に連れてこられた。目的を達した強盗は脱出を試みるが、スウェーデンの首相が人質を連れての逃走を許可しないため、銀行内での籠城を決意する。
人質たちはこの状況に怯えているのだが、強盗と話をしている内にその振る舞いに優しさを見出し、次第に心を開いていく。それどころか彼女たちは、強盗の逃亡を手助けする作戦にも協力するようになるのだが……。
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映画『ストックホルムケース』の感想
「ストックホルム症候群」のモデルとなった事件が存在することは知っていたが、具体的なことは知らなかったのでそういう点でも興味深かったし、単純に映画としても面白かった。実話の割には、事件そのものはあまり有名ではないと思うので、映画がどんな展開を見せるのかには触れないでおこう。強盗と人質の関係の変化がなかなか予測不能であるという点こそ、この映画の面白さのポイントの一つなので。
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この映画は、なかなかキャラクターの魅力が強い作品だが(どの程度現実の事件に即しているのかは分からない)、中でも、女性行員であり人質になってしまったビアンカが非常に良い。予測不能な行動をする一方で、非常に理性的な人物でもあり、「相手は強盗犯なのに、そんな人間の逃亡を手助けしてしまっている」という、正義感との葛藤も浮き彫りにされる。夫も子どももいて、絶対に生きて帰らなければならないし、そのためには悪目立ちしない方がいいはずだ。しかしそれでも、何か信念があって自分なりの行動を貫いている姿がとてもいい。
強盗犯は決して知的ではなく、粗暴でお調子者という、実際に目の前にいたら好きになれないタイプだ。しかしこの映画では、まったくタイプの違う犯人と人質が交錯することで奇妙な物語が展開していくわけで、そういう意味では主人公のこの造形も重要だと感じた。
様々な要因が重なり合うことで、「犯人に協力する」という普通ではなかなかイメージでない状況が生まれるわけだが、そのことをあまり不自然さを感じさせずに見れるのは、この人質と強盗犯のちょっと変わったキャラクターによるところが大きいだろうと思う。
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出演:イーサン・ホーク, 出演:ノオミ・ラパス, 出演:マーク・ストロング, 監督:ロバート・バドロー, Writer:ロバート・バドロー
¥400 (2022/01/29 21:52時点 | Amazon調べ)
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最後に
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どんな理由があれ、法を犯した者は罰せられるべきだと思っている。しかしそれは、善悪の判断とは関係ない。映画『万引き家族』(是枝裕和監督)から、「国民の気分」によって「善悪」が決まる社会の是非と、「善悪の判断を保留する勇気」を持つ生き方について考える
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【矛盾】死刑囚を「教誨師」視点で描く映画。理解が及ばない”死刑という現実”が突きつけられる
先進国では数少なくなった「死刑存置国」である日本。社会が人間の命を奪うことを許容する制度は、果たして矛盾なく存在し得るのだろうか?死刑確定囚と対話する教誨師を主人公に、死刑制度の実状をあぶり出す映画『教誨師』から、死刑という現実を理解する
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【考察】映画『ジョーカー』で知る。孤立無援の環境にこそ”悪”は偏在すると。個人の問題ではない
「バットマン」シリーズを観たことがない人間が、予備知識ゼロで映画『ジョーカー』を鑑賞。「悪」は「環境」に偏在し、誰もが「悪」に足を踏み入れ得ると改めて実感させられた。「個人」を断罪するだけでは社会から「悪」を減らせない現実について改めて考える
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【感涙】衆議院議員・小川淳也の選挙戦に密着する映画から、「誠実さ」と「民主主義のあり方」を考える…
『衆議院議員・小川淳也が小選挙区で平井卓也と争う選挙戦を捉えた映画『香川1区』は、政治家とは思えない「誠実さ」を放つ”異端の議員”が、理想とする民主主義の実現のために徒手空拳で闘う様を描く。選挙のドキュメンタリー映画でこれほど号泣するとは自分でも信じられない
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【漫画原作】映画『殺さない彼と死なない彼女』は「ステレオタイプな人物像」の化学反応が最高に面白い
パッと見の印象は「よくある学園モノ」でしかなかったので、『殺さない彼と死なない彼女』を観て驚かされた。ステレオタイプで記号的なキャラクターが、感情が無いとしか思えないロボット的な言動をする物語なのに、メチャクチャ面白かった。設定も展開も斬新で面白い
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【個性】統合失調症との関わり方を芸人・松本ハウスから学ぶ。本人と周囲の人間はどう対処すべきか:『…
「統合失調症だからといって病気だとは捉えず、ただの個性だと思う」と話す松本キックは、相方・ハウス加賀谷とどう接したか。そしてハウス加賀谷は、いかにして病気と向き合ったか。『統合失調症がやってきた』『相方は、統合失調症』から、普遍的な「人間関係の極意」を学ぶ
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【真実?】佐村河内守のゴーストライター騒動に森達也が斬り込んだ『FAKE』は我々に何を問うか?
一時期メディアを騒がせた、佐村河内守の「ゴースト問題」に、森達也が斬り込む。「耳は聴こえないのか?」「作曲はできるのか?」という疑惑を様々な角度から追及しつつ、森達也らしく「事実とは何か?」を問いかける『FAKE』から、「事実の捉え方」について考える
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【告発】アメリカに”監視”される社会を暴露したスノーデンの苦悩と決断を映し出す映画:『スノーデン』…
NSA(アメリカ国家安全保障局)の最高機密にまでアクセスできたエドワード・スノーデンは、その機密情報を持ち出し内部告発を行った。「アメリカは世界中の通信を傍受している」と。『シチズンフォー』と『スノーデン』の2作品から、彼の告発内容とその葛藤を知る
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フランスのテレビ局が行った「現代版ミルグラム実験」の詳細が語られる『死のテレビ実験 人はそこまで服従するのか』は、「権威」を感じる対象から命じられれば誰もが残虐な行為をしてしまい得ることを示す。全人類必読の「過ちを事前に回避する」ための知見を学ぶ
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ドラマ『半沢直樹』で一躍脚光を浴びた堺雅人のエッセイ『文・堺雅人』は、「ファン向けの作品」に留まらない。言語化する力が高く、日常の中の些細な事柄を丁寧に掬い上げ、言葉との格闘を繰り広げる俳優の文章は、力強く自立しながらもゆるりと入り込んでくる
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【誠実】想像を超える辛い経験を言葉にするのは不可能だ。それを分かってなお筆を執った作家の震災記:…
旅行者として東日本大震災で被災した小説家・彩瀬まるは、『暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出』でその体験を語る。「そんなこと、言わなければ分からない」と感じるような感情も包み隠さず記し、「絶望的な伝わらなさ」を感じながらも伝えようと奮闘する1冊
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【絶望】権力の濫用を止めるのは我々だ。映画『新聞記者』から「ソフトな独裁国家・日本」の今を知る
私個人は、「ビジョンの達成」のためなら「ソフトな独裁」を許容する。しかし今の日本は、そもそも「ビジョン」などなく、「ソフトな独裁状態」だけが続いていると感じた。映画『新聞記者』をベースに、私たちがどれだけ絶望的な国に生きているのかを理解する
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「自分の子どもなんだから、どんな風に育てたって勝手でしょ」という親の意見が正しいはずはないが、この言葉に反論することは難しい。虐待しようが生活能力が無かろうが、親は親だからだ。映画『MOTHER マザー』から、不正解しかない人生を考える
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【意外】東京裁判の真実を記録した映画。敗戦国での裁判が実に”フェア”に行われたことに驚いた:『東京…
歴史に詳しくない私は、「東京裁判では、戦勝国が理不尽な裁きを行ったのだろう」という漠然としたイメージを抱いていた。しかし、その印象はまったくの誤りだった。映画『東京裁判 4Kリマスター版』から東京裁判が、いかに公正に行われたのかを知る
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【実話】正論を振りかざす人が”強い”社会は窮屈だ。映画『すばらしき世界』が描く「正解の曖昧さ」
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