【歴史】NIKEのエアジョーダン誕生秘話!映画『AIR/エア』が描くソニー・ヴァッカロの凄さ

目次

はじめに

この記事で取り上げる映画

出演:マット・デイモン, 出演:ベン・アフレック, 出演:ヴィオラ・デイヴィス, 監督:ベン・アフレック, プロデュース:Ben Affleck, プロデュース:Madison Ainley, プロデュース:Jason Michael Berman, プロデュース:Alex Convery, プロデュース:Matt Damon, プロデュース:David Ellison, プロデュース:Gigi Fouquet, プロデュース:Dana Goldberg, プロデュース:John Graham, プロデュース:Don Granger

この映画をガイドにしながら記事を書いていきます

この記事の3つの要点

  • ナイキはかつて「ランニングシューズで儲けていた会社」であり、バスケ部門は解体寸前だった
  • ドラフト3位という評価だったマイケル・ジョーダンは、「ナイキとだけは契約しない」と明言していた
  • 契約にこぎつけたソニー・ヴァッカロ、そしてとんでもない契約を結ばせたジョーダンの母親のどちらも凄まじい

シェア3位のナイキだったからこそ捨て身で闘えたのだろうし、その姿勢が良い方向に転がったと言える、信じがたい実話

自己紹介記事

どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください

記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません

ナイキがバッシュの後発だったなんて信じられるか?エアジョーダン誕生秘話を描く映画『AIR/エア』はメチャクチャ面白い!

もの凄く面白い作品だった。これが実話だっていうのがホントに凄まじい。なにせ、観れば観るほど信じがたい描写が次々と出てくるのだ。バスケットシューズのシェアで、あのナイキが3番手だったっていうんだから、その時点で驚きだろう。

とても残念なのは、私たちはこの映画を「マイケル・ジョーダンがナイキと契約した」という事実を知った上で観るしかないということだ。結末は分かっている。もちろん、それでも十分過ぎるほど面白い。ただ、知らなければもっと面白かっただろう。そう考えると、当時この件に直接的に絡んでいた人たちは、毎日ヒリヒリするような状況にいたのだろうなとも思う。

いや、でもそれも違うのか。マイケル・ジョーダンがナイキと契約する前の時点で、エアジョーダンがこれほど凄まじい売れ方をするとは、誰も予想していなかったのだから。

1984年当時の、「ナイキ」「マイケル・ジョーダン」の扱われ方

私たちからすれば、「ナイキ」も「マイケル・ジョーダン」もあまりに偉大な存在であり、そしてだからこそ、昔からずっとそうだったのだろうと考えてしまいがちだ。しかし、この映画の舞台となる1984年時点では、現在とは評価がまったく異なっていたのである。

冒頭で、1984年時点における「バッシュ」のシェア割合が表示された。そもそも意外だったのが、バッシュのシェアトップがコンバースで、全体の半分以上である54%を占めていたということだ。コンバースに「バッシュ」のイメージなんかまったくないだろう。それに続いて、アディダスが29%、そしてナイキが17%だった。あのナイキが、40年前は3番手だったのである。

実は、当時のナイキは「ランニングシューズ」の会社だった。バッシュの世界ではまったくの劣勢だったのだ。映画の中で、

ランニングシューズはピカソで、バスケはマンガ。

みたいなセリフが出てくるのだが、これはポスターの話である。それぐらい、販売にかけられる予算がまったく違ったというわけだ。バスケ部門はそもそも、閉鎖さえ噂されるほどの状況にあった。

さてそんなバスケ部門では今まさに、選手の選定が行われている。これが、映画の最初の場面というわけだ。使える年間予算は25万ドル。あまりにも少ないこの予算を、有望な3選手に振り分けようと話し合いをしている。会議室のホワイトボードには、その年の有力選手の写真が貼られ、ドラフト順位順に並べられていた。もちろん、その中にマイケル・ジョーダンもいる

しかしなんと彼は、ドラフト3位予想だったのだ。3位でも十分高いだろうが、その後の活躍を知っている私たちからすれば、NBAデビュー前の評価は「低い」と感じるのではないかと思う。

これが、「ナイキがマイケル・ジョーダンと契約を交わす以前」の両者の状況だった。劇中でもこの点はちゃんと描かれるが、『AIR/エア』を理解する上で非常に重要なポイントと言っていいだろう。

さて当然だが、ドラフト3位という高順位に位置していたマイケル・ジョーダンとの契約は、コンバースもアディダスも狙っていた。これだけでも、シェア3位のナイキにとっては不利な状況だ。しかし実は、そんな状況を遥かに凌ぐ圧倒的劣勢の立場にナイキはいた。

マイケル・ジョーダンはなんと、「ナイキとだけは契約したくない」と明言していたのだ。

作中である人物が、「ジョーダンから直接聞いたこと」として、こんなセリフを口にする場面がある。

25万ドルと赤いベンツをくれた会社とならどことでも契約する。ナイキ以外なら。

正直、映画『AIR/エア』を観ているだけでは、マイケル・ジョーダンが何故ナイキを嫌っていたのかはよく分からなかったのだが、とにかく、「ナイキは嫌だ」というスタンスは明確だった。ジョーダンの代理人も、本人と家族の意向を踏まえた上で「ナイキを交渉のテーブルにつかせるつもりはない」と宣告するし、当然、代理人を通さずにジョーダンと直接交渉する手段があるはずもない

こんな風にナイキは、最初の時点で「勝負さえさせてもらえない」みたいな状況に置かれていたのである。とても勝ち目があるとは思えないだろう。

こんな状況から、最終的には契約にまでこぎつけてしまうのだから、その展開はやはり凄まじいと感じる。

最大の立役者ソニー・ヴァッカロは、いかにしてマイケル・ジョーダンを説き伏せたのか

さて、そんな無謀とも言える契約をまとめた功労者が、ナイキのバスケ部門に所属していたソニー・ヴァッカロである。アメリカではよく知られた人物なのか、映画の中では彼の経歴がちゃんと説明されるような場面はないが、劇中の様々なシーンで情報が小出しにされていく。ナイキのCEOは彼を「バスケの師(グル)」と呼んでおり、とにかく高校バスケに関する知識が深い優れた選手を見抜く目に信頼が置かれているようだ。また、そのCEOとのやり取りから、創業当時からナイキに関わっていたという感じがする。細かなことはよく分からなかったが。また、顔が広い人物だろうから当然かもしれないが、マイケル・ジョーダンの代理人とも知った仲であるようだ。仲はとても悪そうだったが。

さてこのように説明されると、ソニーは優秀で才能ある人物みたいに感じられるだろうが、映画での描かれ方を見ていると、とにかく「組織に馴染まないタイプ」である。CEOと古い仲だからこその関係性なのだと思うが、ソニーはCEOの言うことさえまともに聞かない。また、冒頭で描かれる会議では、「25万ドルを3選手に振り分ける」という方針で話が進んでいたにも拘わらず、彼が「マイケル・ジョーダンに25万ドルをつぎ込む」という博打に打って出る決断をするのだ。状況的に、もしジョーダンと契約が出来なかったら、バスケ部門は解体である。そうなれば、彼だけではなく、バスケ部門の社員全員が失業することになるはずだ。そんな無謀な賭けに、独断で突き進んでいくのである。ホント、契約できたから良かったものの、そうじゃなかったらと思うと恐ろしい。とてもじゃないが、まともな組織では扱いきれない存在だろう。

ところで、確かに有能な選手だと思われていたとはいえ、当時はドラフト3位という評価に過ぎなかったマイケル・ジョーダンに、ソニーは何故全ベットするような決断が出来たのだろうか? 実はソニーには、マイケル・ジョーダンに入れ込むきっかけとなった試合が存在するのだ。映画の中で、その実際の映像が何度か流れるこの試合に関する話がなかなか興味深かった

先述の通り、ソニーは高校バスケを見続けてきた人物であり、知識も経験も判断力も備わっている。しかしそんな彼が、「何度も何度も同じシーンを見返してようやく気づいた」という発見が、この映像に映し出されているのだ。

確かに、その映像を見ながらソニーの解説を聞くと、ドラフト3位なんかでは収まらないマイケル・ジョーダンの凄さが見えてくるような気もする。しかしだとしても、彼が社運を賭ける判断材料にしたのがその映像だけなのだ。少なくとも、映画の中ではそのように描かれている。その判断はなかなかクレイジーだろう

決め手となったその映像は、何も考えずに見ていれば、「味方からパスをもらい、シュートを決めた場面」でしかない。しかしソニーはそこに、マイケル・ジョーダンの「凄まじさ」を読み取ったのだ。そして、その一点のみでもって、無謀とも言える賭けに挑戦したのだから、度胸が凄いというのか、信じがたいというのか、とにかく驚かされてしまった。

さて、ソニーがどのようにマイケル・ジョーダンを口説いたのかについては、この記事では触れない。その凄まじい過程は、是非映画を観て確かめてほしい。ただ一点、どれほどジョーダンの心を動かしたのかは分からないものの、ナイキが非常に面白い決断をした場面がとても興味深かったので、その点には触れておきたいと思う。少なくともこの映画の中では、「ジョーダンの決断にとって凄く重要だったわけではない」みたいな扱いなので、書いてしまってもいいだろう。

それは、バッシュに関するNBAのあるルールについてだ。今も同じルールが存在するのかは知らないが、当時は「シューズの51%以上は白色でなければならない」と定められていたという。そして、このルールに違反すると、試合の度に罰金を払わなければならなかったのだ。

さて、ソニーは自社の設計者に「革新的なシューズを作ってくれ」と頼み、試作品を作ってもらった。しかしソニーは、ジョーダンの所属チームであるシカゴ・ブルズのチームカラーの赤色が足りないと感じ、設計者に「赤色を足してくれ」と伝えるのだが、「それは出来ない」と言われてしまう。ソニーは51%ルールのことを知らなかったのだ。

しかし、その場面に同席していた、バスケ部門のマーケティング責任者であるロブが、「いや、赤を足そう」とソニーの提案に乗った罰金問題はどうするのか。ロブには考えがあった。「その罰金を、ナイキが代わりに払う」のである。そうすれば宣伝にもなると考えてのことだ。こうしてナイキは、「履く度に罰金を支払わなければならないシューズ」でプレゼンに挑んだのである。

このような無謀なチャレンジは、シェア17%の3番手だからこそ出来たのかもしれない。もし1984年時点でナイキのシェアがトップだったら、きっと未来は大きく変わっていたのだろうと思う。

マイケル・ジョーダンの母親が凄まじい

さて、映画の冒頭から示唆されていたことではあるのだが、マイケル・ジョーダンとの契約には「母親の決定」が大きく関わっていた。マイケル・ジョーダン本人以上に、母親の意向が強く打ち出されていたというわけだ。まあ、当時のジョーダンは高校生だったのだから、母親の決定権が強いのは当然と言ってもいいかもしれない。

しかし、この母親がとにかく凄かった。最後の最後に彼女が突きつけたある提案が、スポーツの世界に留まらない影響を社会にもたらすことになったのである。その点についてこの記事では具体的には触れないが、現代を生きる私たちにとっては「当然のこと」が、実は40年前は「あり得ないこと」であり、その「あり得ないこと」を呑む形で、ソニーは契約を取り付けたというわけだ。

ここでの重要なポイントは、「マイケル・ジョーダンとその母親が、何に最上級の価値を置いていたのか」である。恐らく、当時の他のアスリートとはまったく違う捉え方をしていたはずだ。特に母親は、「息子がそれを実現出来るように協力してくれるところと契約する」というスタンスを明確に持っていた。そういう意味で、母親がナイキを選んだのは正解だったかもしれない。恐らく、コンバースもアディダスも、彼女の提案を受け入れなかっただろうからだ。

そして何よりも凄いと感じたのは、「息子はそれだけのことを成し遂げられる人物だ」と母親が信じていたことだと言えるだろう。私たちは、マイケル・ジョーダンという人間がどれだけ凄いプレーヤーだったのか知っている。しかしナイキと契約した時点では、マイケル・ジョーダンは単なる「ドラフト3位選手」でしかなかったのだ。

それでも、母親も本人も、「世界を変えるほどの成果を生み出す未来」を信じて疑わなかった。だからこそ、当時としては「あまりに非常識」な要求を押し通すことにも成功したのだ。確かにこの映画は、マイケル・ジョーダンとの契約を実現に導いたソニー・ヴァッカロの物語ではあるのだが、同時に、息子の成功や世界を変えるビジョンを信じ抜いた母親の物語と言ってもいいだろうと思う。

ホントに、あらゆる要素が奇跡的に絡まり合って生まれた、現実にはそうそう起こり得ないような凄まじい展開だったと言っていいだろう。

出演:マット・デイモン, 出演:ベン・アフレック, 出演:ヴィオラ・デイヴィス, 監督:ベン・アフレック, プロデュース:Ben Affleck, プロデュース:Madison Ainley, プロデュース:Jason Michael Berman, プロデュース:Alex Convery, プロデュース:Matt Damon, プロデュース:David Ellison, プロデュース:Gigi Fouquet, プロデュース:Dana Goldberg, プロデュース:John Graham, プロデュース:Don Granger

最後に

映画のラストでは、メインで描かれる者たちの「その後」について簡単に触れられていた。また、マイケル・ジョーダンと契約を果たしたナイキのその後の躍進についても、「ある会社の買収」というインパクトのある形で示される。この事実も知らなかったので、メチャクチャ驚かされてしまった。

さて、それらに混じって、ニューヨーク・タイムズがソニー・ヴァッカロを評した次のような言葉も紹介されていた。

スポーツ史上、最高の改革者

これは決して、マイケル・ジョーダンの獲得を指しての評価ではない。その後彼は、また別の領域で、スポーツ史上に残る凄まじい功績を残しているのである。

本当に、とんでもない人間がいるものだと感じさせられた。

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