【実話】映画『ダム・マネー ウォール街を狙え!』は「株で大儲けした」だけじゃない痛快さが面白い

目次

はじめに

この記事で取り上げる映画

監督:クレイグ・ギレスピー, 出演:ポール・ダノ, 出演:ピート・デヴィッドソン, 出演:ヴィンセント・ドノフリオ, 出演:アメリカ・フェレーラ, 出演:セバスチャン・スタン, 出演:シャイリーン・ウッドリー
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この映画をガイドにしながら記事を書いていきます

この記事の3つの要点

  • 「確実に値上がりするはず」という信念を持って、全財産を「ゲームストップ株」に注ぎ込んだYouTuber
  • 「空売り」によって企業を次々に倒産させてきたファンドに対する「一般市民の怒り」が集約された出来事
  • 巨大資本が対抗策として打ち出したあまりにもあくどいやり方

コロナ禍に起こったこの出来事によってウォール街が激変したそうで、とにかく信じがたい実話だった

自己紹介記事

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とんでもない実話を基にした映画『ダム・マネー ウォール街を狙え!』は、「個人投資家の逆襲」と言っていい痛快な物語だった

思いがけない展開を見せる、個人投資家たちの奮闘の物語

メチャクチャ面白い映画だった。とにかく、「この物語が実話である」という事実に驚かされてしまう

本作で扱われる「ゲームストップ株」については、なんとなく耳にした記憶がある。ただ、本当にその程度の知識だけで本作を観に行ったので、「こんなことが現実に起こったのか!」と驚愕させられたのだ。同じ物語を完全に「フィクション」として描いたら、まず成立しないだろう「そんなことになるはずがない!」と受け取られてしまうはずだからだ。「実話である」という下支えあってようやく成り立つような、そんな無茶苦茶な物語なのである。

というわけでまず、本作で描かれる最も驚くべきポイントについて触れておくことにしよう。主人公のローリング・キティ(これは通称で、本名はキース・ギル)は、「ボロ株」としてまったく見向きもされていなかった「ゲームストップ株」に全財産を注ぎ込み、その上で、YouTubeでの配信を通じて数多くの個人投資家たちを”煽りに煽りまくり”、株価を凄まじいほどに”釣り上げる”ことに成功したのである。なんと最大で1000倍だ。5万ドルで買った株が、4700万ドルまで膨れ上がったのである。

しかし、ただそれだけの話だったら物語にはならないだろう。実際、レアケースなのは確かだが、こういう「株で個人が大金を儲けた」みたいな話はある。だから、単にそれだけでは映画化されたりしないはずだ。

では何が凄いのか。その説明の前に、まずは訂正をしておこう。私は先程、「煽りに煽りまくり」「釣り上げる」という表現を使ったが、これはまったくの嘘である。キティはそんな「株価操作」的なことは全然していない(まあ、これは見方次第ではあるのだが、少なくとも「違法」ではないことは確かだろう)。そして、「煽って釣り上げたわけでもないのに、1000倍もの株価上昇が起こった」という事実にこそ「驚きポイント」があるというわけだ。

さて、そのについて直接的に説明する前にまず、作品全体のテーマに関連するあるエピソードに触れておくことにしよう。本作に登場する「10万ドルの奨学金返済を抱えながら大学に通う女子学生」の話である。

彼女は、同性の恋人と思われる人物に父親の話を始めた。彼女の父親は「ショップコ」というコストコのような小売店で働いており、下働きから店長に出世するほど評価されていたそうだ。しかしある時、ウォール街のファンドの連中がショップコの株に目を付け、散々っぱら利益を吸い上げた。そして結局ショップコは、そのまま倒産してしまったのである。父親は年金も失い、死ぬまで働くしかなくなってしまった。そしてそのせいで、この話をしている女性もまた、借金を抱えながら大学に通わなければならなくなったのである。

さて、この話がどのようにキティの物語と結びつくのか。実は、キティの呼びかけに賛同してゲームストップ株を買った多くの個人投資家が「ウォール街の横暴さ」に苛立ちを覚えていたのである。そしてだからこそ、「ウォール街を倒す!」という共通の目的を共有することが出来たというわけだ。まさにこの点こそが、本作の物語の最も面白いポイントだと言えるだろうと思う。

「空売り」を仕掛ける巨大ファンドに立ち向かう個人投資家たちの奮闘

しかし、投資の知識に明るくない人には、「ゲームストップ株を買うこと」と「ウォール街を倒すこと」が結びつかないかもしれない。というわけでここで少し、「空売り」という仕組みについて説明しておこうと思う。もちろん、既に知っているという方はしばらく読み飛ばしてもらって構わない。

最も重要なポイントだけ先に書いておこう。「『空売り』を仕掛けている側は、『株価が下がるほど儲かる』」のである。

では、まず一般的な株式投資についておさらいしておこう。「株を買い、その株価が上がったタイミングで売れば利益に、下がったタイミングで売れば損益になる」という仕組みである。これはとてもシンプルな話だろう。では「空売り」とは一体何をするのか。これは、「保有していない株を売る」という投資手法である。私は一応「空売り」の理屈を理解しているつもりだが、正直、「一体誰がこんなことを考えたんだろう」と思う。実に意味不明な手法である。

さて、具体的に考えてみることにしよう。例えば、「1株100円」の株を10株「空売り」したとする。繰り返すが、この株を保有しているわけではなく、「持っていないのに売り注文を出す」というわけだ。さて、しばらくしてこの株が「1株85円」に下がり、そのタイミングで買い注文を出した(買い戻した)としよう。この場合、売り注文を出した時に「1000円(100円×10株)」が手に入り(ただし、「持っていない株を売っている」ので、この時点での利益1000円はあくまでも理論上のお金であり、買い注文を出すまで確定しない)、買い注文を出した時に「850円(85円×10株)」を支払うので、その差額の150円が利益として手元に残るというわけだ。

理解できただろうか? よく分からなければ、とにかく「空売りすると、株価が下がった時に利益が得られる」という点だけ押さえておけば問題ないだろう。

そしてウォール街のファンドは、この「空売り」を多用していたのである。「株価が下がれば下がるほど儲かる」のだから、理論上、「空売りした会社が倒産すれば利益が最大になる」はずだ。そのためファンドは、「株価が下がりそうな会社を見つけては空売りを仕掛け、容赦なく会社を倒産させる」というやり方を続けていたのである。そんなことをしていれば、そりゃあ嫌われても当然だろう。

さて先程、「持っていない株の売り注文を出せば(理論上)利益が出る」と説明したが、「そんな馬鹿な」と思った人もいるかもしれない「だったらみんな空売りすればいいじゃないか」と感じるのも当然だろう。もちろん、そこには制約もある。「株のレンタル料(貸株料)の支払い」や「6ヶ月以内の買い戻し」など色々あるようだが、中でも大きな要素は「証拠金が必要」という点だろう。「保有していない株を売却する」のだから、その取引金額の一定割合を「証拠金」として入金しなければならないようである(これはたぶん「空売り」に限らず、「信用取引」と呼ばれる仕組み全般に言えることだとは思うが)。

そしてそうだとすれば、「空売り」においては「多額の証拠金を入金できる者」こそが圧倒的強者として振る舞えるだろう。つまりウォール街のファンドは、その圧倒的な資金力に物を言わせて、「マネーゲーム的な空売り」を仕掛けまくっていたというわけだ。

このような背景が、本作には底流している。そしてだからこそキティは、個人投資家たちの「ファンド憎し」という感情を集約することが出来たのである。

前述した「ショップコの倒産」がファンドの空売りによるものなのかは分からない。ただ、恐らく当時のアメリカ人の頭の中では、「倒産=ファンドの空売り」みたいな図式が出来上がっていたのではないかと思う。そして、その煽りを食らっている側は苦しい生活を強いられているのに、マネーゲームを仕掛けているファンドの連中は莫大な資産を築いているのである。そりゃあ、「許せない」という気分が国民の間に充満してもおかしくないだろう。

そしてそのようなタイミングでキティが現れたというわけだ。また、この「ゲームストップ株騒動」はコロナ禍での出来事(実に最近の話なのだ)だったことも、キティにとってはプラスに働いただろうと思う。いつも以上に人々が「疲弊感」を抱いており、鬱屈とした想いをどこかに吐き出さずにはいられなかったからだ。

このような背景を知ることで、「個人投資家を煽って株価を釣り上げた男の物語」ではなく、「巨大資本を倒すために個人投資家たちをまとめ上げて闘いを挑んだ男の物語」だと理解できるだろう。本当に、よくもまあこんなことが現実に起こったものだと思う。

映画『ダム・マネー』の内容紹介

本作は2021年1月31日、ゲームストップ株があり得ない急騰を見せ、ファンドの連中が慌てふためく場面から始まるのだが、物語はすぐに半年前に遡る。その時点でのゲームストップ株の株価は3.85ドル。確かに「ボロ株」と呼ばれても仕方ないような値段だったのである。

しかしキティはゲームストップ株に賭けることに決めた。恐らくもっと以前から少しずつゲームストップ株を買っていたはずだが、半年前のこの時点で、他のあらゆる金融資産をすべて売り払って、全財産を注ぎ込む決断をしたのである。その額5万ドル。冒頭でキティは、ウォール街で働く友人(だと思う)とカフェで話をしているのだが、その友人からは「イカれている」と言われてしまった。まあ、その感覚は実に真っ当だと思う。

ただ、キティには根拠があった。「ゲームストップ」というのはゲームなどを販売する小売店のことなのだが、彼は会社について調べた上で、「会社が持っているポテンシャルに比して、株価があまりにも安すぎる」と判断していたのである。さらにゲームストップ株は「空売り率100%」、つまり「売り注文のすべてが空売り」という普通には考えられない状況にあり、このこともキティの判断を後押しした。「こんな状態がずっと続くはずがない」というわけだ。

一方、そんなゲームストップ株に2014年からずっと空売りを仕掛け続けていたのが、「メルビン・キャピタル」を率いるゲイブ・プロトキンだった。彼はある時点でキティの存在を知ったのだが、「個人投資家に出来ることなどなにもない」と考え、空売りの方針を変えなかったのである。

さてキティはというと、レディットというオンライン掲示板に「WSB(ウォール・ストリート・ベッツ)」という名のフォーラムを開いていた。そして、自身のYouTubeチャンネルと連動させながら、個人投資家たちに「ゲームストップ株がオススメだ」とアピールしていたのである。しかしキティは、「ゲームストップ株の値段を釣り上げよう」とか「ウォール街の連中を倒そう」などと言っていたのではない。彼は心底ゲームストップ株が好きなようで、「自分はこの株が好きだし、割安だと信じている。これから値段が上がるはずだから、みんなも買わない?」ぐらいのテンションで配信を続けていたのである。

そんなゲームストップ株は、じわじわと株価を上げていた。そこには、「ロビンフッド」という個人投資家向けのサービスの広まりも関係している。手数料無料で株の売買が出来るこのサービスは、開始から半年で500万人ものユーザーを獲得したのだ。そしてその後は、2000万人が利用する、個人投資家にとっては不可欠とも言えるサービスに成長したのである。それまで投資をしてこなかった人も、「ロビンフッドの手軽さ」と「キティの配信」に感化されてゲームストップ株を買うようになり、それによって実際に株価が上がり始めたというわけだ。

さて普通なら、「株価が上がったから、利益確定のために売却しよう」という動きが出てきてもおかしくないだろう。しかし多くの個人投資家が、ゲームストップ株を売らずにホールドする決断をした。キティはしばらくしてその動きに気づき、また自身の影響力が思いの外大きくなっていることも知ったこともあり、ここでようやく「ウォール街に対抗しよう!」と呼びかけ始めたのである。

しかしそれ以上に、個人投資家たちにとって行動の指針となる情報が存在した。キティがYouTube上で公開していた自身の資産状況である。キティもまた、含み益が凄まじい金額になっていたにも拘らず、ゲームストップ株を一切売らなかったのだ。そしてそのことを知った多くの個人投資家が、「キティが保有している限り売らないし、むしろ買う」というスタンスを貫き続けたのである。

やがて株価は凄まじい勢いで上がり始めた最高で483ドル。半年前に3.85ドルだったのだから、まさに急上昇と言っていいだろう。そしてこの株価上昇により、空売りを仕掛けていたメルビン・キャピタルは大打撃を受けた毎日10億ドルの損失が発生するという、常軌を逸した状況に陥っていたのである。

しかしウォール街の”悪魔”たちは、とんでもない手段でこれに対抗しようとし……。

映画『ダム・マネー』の感想

タイトルにもなっている「ダム・マネー」というのは、直訳だと「愚かな投資」という意味になるが、実際には「富裕層が『一般人のお金』を指す言葉として使われる」のだそうだ。つまり、「一般人の『愚かな投資』によって、富裕層はさらに富むことが出来る」みたいな意味が込められているのだろう。しかし、本作で描かれる「ゲームストップ株騒動」では、そんな「ダム・マネー」によって富裕層がぶっ倒されたわけで、まさに「痛快」と言うほかない

さて、上述の内容紹介では、後半で描かれる「ウォール街の反撃」については詳しく触れなかった。どんな手を使ってくるのかは是非映画を観てほしいが、まあ本当に酷いものだと思う。ウォール街のファンドは「ハゲタカ」とも称されるはずだが、まさに「ハゲタカのようなえげつなさ」であり、権力を持つ側のやりたい放題が過ぎると感じた。確かに、毎日10億ドルものお金が消えていくような状況では理性を保つことなど出来ないだろうが、それにしたってやって良いことと悪いことがあるだろうと思う。

まあそんなわけで、キティら個人投資家は反撃を食らうわけだが、それでも「大勝利」と言っていい結末を迎えたと考えていいだろう。その一端は、映画の最後に表示された字幕からも読み取れる。アメリカでは、このゲームストップ株騒動以降、なんと「空売り」が激減したというのだ。キティ1人で成し遂げたことではないものの、キティがいなければまず実現しなかった状況であり、「いち個人が成した成果」としてはかなりの規模のものと言えるのではないかと思う。実に素晴らしい。

さらに本作の良さは、「投資とはマネーゲームではなくファン投票である」という本来の姿を見せていることにあると思う。本作におけるキティの特異さは、「ゲームストップ株がとにかく好きだった」とまとめられるだろう。そして、好きだから自分でも買うし、人にも勧めるのだ。これこそまさに「『投資』という仕組みの本来的な役割」であり、「そんな『真っ当すぎるやり方』で巨大資本をぶちのめした」という事実が何よりも素晴らしい。キティのような成功を収めるのは難しいだろうが、少なくとも「『好きなものを買い、広める』というスタンスこそが『投資』の本質なのだと理解していれば『負けはない』」とは言えるだろう。「推しのグッズを買うこと」に「失敗」がないのと同じく、「好きな株を買うこと」にも「負け」はないというわけだ。

超ド級のエンタメ映画を観ながら、そんな「投資の本質」も理解できてしまう作品なのである。

監督:クレイグ・ギレスピー, 出演:ポール・ダノ, 出演:ピート・デヴィッドソン, 出演:ヴィンセント・ドノフリオ, 出演:アメリカ・フェレーラ, 出演:セバスチャン・スタン, 出演:シャイリーン・ウッドリー
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最後に

とにかくストーリーが凄まじく面白い作品だった。これが実話で、しかもつい最近起こった出来事だということに驚かされる。「投資」がテーマだと難しそうに思えるかもしれないが、理解に困るような描写はほぼないはずだ。また、「空売りをすれば、株価が下がった時に利益が出る」ことさえとりあえず覚えておけば、物語に置いていかれることはないだろう。

そんな、とんでもなく痛快な物語を是非体感してほしい

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