目次
はじめに
この記事で取り上げる本
著:ルトガー・ブレグマン, 翻訳:野中香方子
¥1,528 (2021/05/16 09:13時点 | Amazon調べ)
ポチップ
この本をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- 私たちが豊かさを感じるためには、社会全体が豊かである必要がある
- ベーシックインカムは貧困解決の最も有効な方法だ
- 仕事の選択は、給料ではなく「どう生きたいか」で決めるべき
これといった不満はない、でも楽しくないし満足もできない、という感覚は、誰もが持ってるんじゃないでしょうか
『隷属なき道』が指摘するのは、「豊かなのに『ベッドから起きたい理由』が見つからない社会」。我々はどうしたら「豊かさ」を感じられるのか?
データからは、我々が生きる世界の「豊かさ」がはっきりと示される
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初めに少しばかり歴史の授業を。
そう、昔は、すべてが今より悪かった。
ほんのつい最近まで、ほとんどの人は貧しくて飢えており、不潔で、不安で、愚かで、病を抱え、醜かった、というのが世界の歴史の真実である。
私は元々理系で、歴史には疎いのだが、歴史雑学のような話は結構好きだ。そういうものの一つに、「中世ヨーロッパではおまるのようなものに排泄して、窓から中身をポイ捨てしていた」というようなものがある。「ベルサイユのばら」で描かれるような綺羅びやかなイメージがあるパリでさえも、そういう状況だったと聞いて驚いたことがある。
生まれてくる子どもが亡くなる確率も高かっただろうし、今では死に至ることはない様々な病で多くの人が命を落としていたことだろう。そこまで昔に遡るわけではなく、割と最近まで世界はそういう場所だった。
そんな時代と比べれば、現代人は桁違いの豊かさを享受していると言っていいだろう。
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もちろん世界には様々な課題が未だに残っているし、格差が拡大したことによって問題がより広がったものもある。とはいえ少なくとも日本に生きていれば、どうしようもない貧困や明日命を落とすかもしれないという危機に直面することはほとんどない。コロナウイルスの蔓延は社会を一変させたが、それでも、一昔前の人よりは、あらゆる指標が「豊か」であることを示しているだろう。
我々は、「『豊か』だが『幸せ』を感じられない時代」に生きている
しかし我々は、「豊か」であっても「幸せ」を実感することができない。それを本書では、
ここでは、足りないものはただ一つ、朝ベッドから起き出す理由だ
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と表現している。もう少し明確に、
この時代の、そしてわたしたち世代の真の危機は、現状があまり良くないとか、先々暮らしぶりが悪くなるといったことではない。
それは、より良い暮らしを思い描けなくなっていることなのだ
と書いている。
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このような感覚はまさに、現代人の多くが共通して抱いているものではないかと思う。
私自身がそうだ。同時代を生きる人と比べて、特別辛い環境にいるわけでも、特別豊かな生活をしているわけでもない。平均よりも下だとは思うし、遠い将来の自分の生活が成り立つ気がしないという意味での不安はあるが、今具体的に視界に入っている問題や不安は特別存在しない。
ただ、とにかくつまらない。「先々こんなことをしたい」と思えることもないし、「ここに向かうためのチャレンジをしよう」という意欲もない。読書や映画鑑賞は「暇つぶし」だと思っているし、何かに熱中するということがない。
これらは私の性格の問題でもあると思うが、時代の問題でもあるはずだ。
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わたしたちは有り余るほど豊かな時代に生きているが、それは何とつまらないことだろう。フクヤマ(※フランシス・フクヤマ)の言葉を借りれば、そこには「芸術も哲学もない」。残っているのは、「歴史の遺物をただ管理し続けること」なのだ
豊かではなかった時代には、「頑張れば豊かになれる」という希望を抱けただろうし、その過程で様々な新しいもの(芸術なり哲学なり様々なもの)が生まれたことだろう。
しかし今はどうだろう。もちろん、テクノロジーの進化などによって、まだまだ予想外のものが生み出されたり、未知の経験に直面したりすることはあるだろう。しかし、豊かではなかった時代に新しいものが生み出されるのと、豊かな時代に新しいものが生み出されるのでは、意味は大きく変わる。
豊かであるがゆえに、新しい何かが生み出されても「歴史の遺物をただ管理し続けること」だと感じられてしまう。本書ではまず、そんな今の時代の問題点を明確にしていく。
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解決策は「社会全体を豊かにすること」しかない
未来のユートピアを描き出せなくなった私たち現代人に対して著者は、「ベーシックインカム」「富の創造」「移民政策」という解決策を提示する。個々の具体的な話は後で書くとして、著者がこれらによって何を目指しているのかにまず触れよう。
それは「全体の利益を底上げすること」だ。著者は、豊かであるのに幸せを感じられないのは、社会全体が豊かではないからだ、と主張するのである。
どういうことだろうか。本書にはこんな文章がある。
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しかし、おそらく最も興味をそそられる発見は、不平等が大きくなり過ぎると、裕福な人々さえ苦しむことになることだ。彼らも気分が塞いだり、疑い深くなったり、その他の無数の社会的問題を背負いやすくなるのだ
貧富の格差を小さくするというベーシックインカムの社会実験において、上述のような結論が導き出されているという。
確かにこれは、コロナウイルスのパンデミック下にいる私たちには理解しやすいことかもしれない。例えばアメリカで、アジア人に対するヘイトクライムが頻発しているとよくニュースなどで報じられる。
これは格差が原因というよりも、「アジア人がコロナを広めた」というような誤解から生まれているものだろうが、原因はともかくとして、こういうヘイトクライムが起こっていると知れば、アジア人がアメリカに行きにくいと感じるようになるだろう。
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こんな風に、因果関係を具体的にイメージできるものばかりではないかもしれないが、とにかく、社会の不安や緊張が高まることによって、豊かさを享受しているはずの人までダメージを負うということは十分に起こりうる。
また著者は、より実際的なプラス効果も挙げている。例えばオランダで行われた、ホームレスに無償で家を提供するという社会実験。これによって、たった数年で大都市の路上生活者の問題が65%解消した。そしてこの政策によって、社会が得た経済的利益は、投入した金額の2倍に上ったという。
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どういうことか。ホームレスに家を無償で提供するにはもちろんお金が掛かる。これに仮に10億円掛かったとしよう。一方で、路上生活者がいなくなることで、これまで路上生活者向けに行われていた様々な支援にお金を掛ける必要がなくなる。この浮いたお金を仮に20億円だとしよう。
すると、投入した金額の2倍の経済的利益を社会が得たということになる。この浮いた10億円が別の支出に回されれば、裕福な人の恩恵に繋がる可能性だってある、というわけだ。
このような社会実験は世界中で行われており、概ね同じ結果、つまり、社会課題に対する間接的な支援を行うよりも、社会課題そのものを直接的に解決してしまう方が、心理的にも金銭的にもプラスであることが明らかになっているのである。
豊かさが蔓延した社会でユートピアを描き出すことは簡単ではないが、しかし具体的な実験によって既に成果が明確になっているものも多い。それらについて理解することで、私たちがこれから進んでいくべき道がクリアになるのではないかと考えている。
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「ベーシックインカム」とは何か?
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ベーシックインカムに関する実験はこれまでも様々に行われており、
すでに研究によって、フリーマネーの支給が犯罪、小児死亡率、栄養失調、十代の妊娠、無断欠席の減少につながり、学校の成績の向上、経済成長、男女平等の改善をもたらすことがわかっている
と結論が出ている。
ベーシックインカムが実施されないのは「我々の思い込み」にある
そんなに有効な手段ならすぐにでも実施すればいいのではないか、と思うだろう。しかしそうもいかない。その理由は、私たちが持っている「イメージ」にある。
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ベーシックインカムの実験というのは基本的に、貧困層を対象に行われる。貧しい生活をしている人たちに、使い道を指定しないフリーマネーを与えるのだ。
さてこう聞いたとき、私たちはどう感じるだろうか。「そんな人たちにフリーマネーを渡したら、酒やギャンブルに使ってしまうのでは?」と考えるのではないか。しかし、事実はまったく違う。
貧しい人々がフリーマネーで買わなかった一群の商品がある。それは、アルコールとタバコだ。実のところ、世界銀行が行った大規模な研究によると、アフリカ、南アメリカ、アジアで調査された全事例の82%で、アルコールとタバコの消費量は減少した。
さらに驚くべき結果が出た。リベリアで、最下層の人々に200ドルを与える実験が行われた。アルコール中毒者、麻薬中毒者、軽犯罪者がスラムから集められた。三年後、彼らはそのお金を何に使っていただろう?食料、衣服、内服薬、小規模ビジネスだ。「この男たちがフリーマネーを無駄に使わないのだとしたら」、研究者の一人は首をかしげた。「いったいだれが無駄に使うだろう?」
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これは、きちんとした手続きに則って行われた研究の結果だ。だから素直に受け入れるべきだろう。しかし何故、現実とは違うイメージを私たちは持ってしまうのだろう?
それは私たちが、「怠惰な人間だから貧しいに違いない」と思い込んでしまうからだ。そう感じる理由は分からないでもない。そこには、「あの貧しい人たちと自分は違うのだ」と思いたい心理があるはずだ。
例えば何か凶悪犯罪が起こった時、多くの人がその動機を知りたがる。そしてその動機が異常なものだと安心する。何故なら、「あんな凶悪犯罪を犯すのは人間的に劣っているからであり、私はそうはならない」と感じられるからだ。貧困についても同じだ。「あの人が貧困なのは、怠惰だからだ。私は怠惰ではないから貧困にはならない」と安心したいのである。
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しかし実際は、
貧しい人々は、フリーマネーを受け取ると、総じて以前より仕事に精を出すようになる
ということが研究で分かっている。怠惰だから貧困なのではなく、なんらかの理由で貧困になってしまったがために、怠惰であると受け取られる行動にならざるを得ないだけなのだ。
「ベーシックインカム以外の貧困対策」が機能しない明確な理由
そしてこの点、つまり、「貧困だから怠惰にならざるを得ない」というのが、ベーシックインカム以外の対策がうまくいかない理由でもあるのだ。
では、具体的に、貧困はどのくらい人を愚かにするのだろう。
「その影響は、IQが13から14ポイント下がるのに相当した」とシャファーは言う。「これは、一晩眠れないことやアルコール依存症の影響に匹敵する」
貧しい人に教育を与えるという対策が行われることもあるだろう。しかしそれは、「アルコール中毒の人」に教育しているのと変わらないのだという。教育を与えるにしてもまず、貧困状態から脱しなければ意味がないというわけだ。
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このように、どんな対策もまず「貧困線を越える」ことから始めなければ意味がない。貧困であるがゆえに尽きない悩みに思考が取られ、長期的な視野が持てないという指摘(この状態を「精神的バンドウィズ」と呼ぶらしい)には確かに納得感がある。
私も、貧困とは違うが、引きこもって鬱々としていた時の思考力はもの凄く低かったと記憶している。頭の中で悩みがグルグルと回転していくばかりで、それ以外のことが考えられなかった。何をするにせよ、まずは悩みの少ない状態にいられなければ何も始まらないのだ。
そして、ベーシックインカム以外の対策が機能しないもう一つの理由が、貧しい人々が何を必要としているのか支援者が理解できない、という点にある。
これを私は、被災地でのエピソードに重ねて理解した。
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このように、「困っている人が必要としているもの」と「支援として届けられるもの」がミスマッチを起こすことはよくある。そしてそれは、貧困の現場でも同じだ。支援というのは大体の場合、具体的なモノ(教育なども含め)が与えられることだろう。しかしそれが、貧しい人が今まさに欲しているものなのかどうかは分からない。
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モノではなくフリーマネーを与えることで、何に使うかを貧しい人自身が考えることができる。それこそが、最も必要なものを最も必要な人に届ける手段というわけだ。
しかし先程も触れた通り、「貧しい人=怠惰」という私たちのイメージが強いがために、貧困対策に最も有効と明らかになっているベーシックインカムが実現しない。私たちの認識から変えていく必要があるということだろう。
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「ブルシットジョブ」という言葉を最近耳にするようになった。これは、「ムダで無意味な仕事」というような意味だ。コロナウイルスの蔓延をきっかけに在宅勤務が増えたことで、それまで自分がやっていた仕事が実は無意味・無駄だと気づかされた、という高給取りの人が多くいる、というネットの記事を読んだこともある。
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本書で指摘される「富の移転」は、もう少し狭い範囲のことを指す。例えば本書ではそういう仕事として、ロビイスト・ソーシャルメディアのコンサルタント・テレマーケター・高頻度トレーダー・銀行業務の一部などを挙げている。
奇妙なことに、最も高額の給料を得ているのは、富を移転するだけで、有形の価値をほとんど生み出さない職業の人々だ。実に不思議で、逆説的な状況である。社会の繁栄を支えている教師や警察官や看護師が安月給に耐えているのに、社会にとって重要でも必要でもなく、破壊的ですらある富の移転者が富み栄えるというようなことが、なぜ起こり得るのだろう?
確かに、世の中で高給とされている仕事の中には、有形の価値をほとんど生み出さないものも多い。社会活動において絶対的に必要で、大いに価値を生み出している人たちがたくさんのお金をもらえずにいる社会は、実に不思議だ。
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本書には、非常に印象的なエピソードが2つ載っている。
1つは、アイルランドの銀行の話。1970年にとある銀行で行員がストライキを行い、一夜にして国内の支払準備金の85%が動かせなくなったという。今とは違って電子決済など普及していない時代である。学者たちは、銀行員のストライキによって国民の生活は行き詰まると予測した。
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もう1つはニューヨークの話。1968年にニューヨークのゴミ収集作業員が一斉にストライキを行った。ニューヨークで一切のゴミ収集が行われなくなったのだ。ニューヨークはたった2日で、膝の高さまでゴミが積み上がった。ストライキから9日目、積み上がったゴミが10万トンに達した時、市長は折れた。
本書では、このストライキが直接の原因かどうかについて明言はしていないが、ニューヨークのゴミ収集作業員は今では、誰もが羨む報酬を得る人気の職業になったという。
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「富の創造」に有能な人間が集まれば世の中は変わる
このように現状を整理した上で著者は、有能な人間が「富の移転」ではなく「富の創造」に集まれば世の中はもっと変わるはずだ、と説く。
この指摘は、なるほど確かに、と思えるものだった。
有能な人間というのは、その有能さゆえに、どんな職業にもある程度適正を示すだろう。そして、「富の移転」の方が給料が高いのだから、そちらに流れるのは当然だ。しかしそういう有能な人間が、「富の創造」の仕事に就いてくれれば、テクノロジーも社会制度ももっと変わるかもしれない。
銀行が1ドル儲けるごとに経済の連鎖のどこかで60セントが失われている計算になる。しかし、研究者が1ドル儲けると、5ドルから、往々にしてそれを遥かに上回る額が、経済に還元されるのだ。
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このようなことをそれまで考えたことはなかったが、有形の価値を生まない「富の移転」は、結果的に社会全体の利益を損ねているということが理解できる。このような負のサイクルに取り込まれてしまえば、確かにより良い未来を思い描くのは難しいだろう。
「富の創造」に有能な人間を集める方法として著者は、給料が高い人の税金をさらに上げることを提案している。給料が高くても税金も多く取られるということであれば、仕事のやりがいなどの面から「富の創造」の仕事に有能な人が向かう可能性があるのではないか、という意味だ。
また、本書に書かれていた例ではないが、以前何かで、「アメリカの若者は、大企業の内定を蹴ってNPOに就職する」というような記述を読んだことがある。給料ではなく、社会的意義で仕事を選ぶという選択を行う若者が増えている、という内容だったと思う。
SDGsが注目されているが、社会や企業は今まで以上に、社会的責任みたいなものを重視せざるを得なくなっている。そういう社会全体の流れからも、変革は進んでいくかもしれない。
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このような時代に「教育」が成すべき役割は何か?
変化は自然には起こらない。これから社会に出る学生の意識を変えるためには、教育も重要になってくるだろう。
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今の教育は、「必要とされる、雇用される人間になるために、どんな知識・スキルが必要か」という観点から成されていると著者は指摘する。欧米と日本では、企業の採用スタイルが全然違うとはいえ、日本でも欧米型が求められつつあるように思う。
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しかし著者は、既にその問いは間違いだ、と指摘する。今後は、「どのように生計を立てたいか」を軸に考えるべきだ、と。
今世紀のうちに全ての人がより豊かになることを望むなら、すべての仕事に意味があるという信条を捨てるべきだ。合わせて、給料が高ければその仕事の社会的価値も高いという誤った考えを捨てようではないか
今は、「給料の高い仕事に就くために何を学ぶべきか」を皆が考える。しかし、「給料の高い仕事=価値が高い」というわけではない。だったら、「自分がどんな仕事をして生計を立てたいのか」をベースに知識・スキルを蓄えていくべきだ、と考えた方がいい。学生には、そんな視点を持てるような教育を与えるべきではないか、というのが著者の指摘である。
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データからは、「移民を受け入れた方が雇用は増える」ことが明らか
移民に関しては少しだけ触れて終わろう。
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上記の引用からも分かる通り、移民を受け入れることもまた、社会全体の豊かさに繋がり、それは私たちがより良い未来をイメージできるかどうかにも繋がっていくことになる。
もちろんデメリットがないわけではないし、それは本書でも指摘されている。しかし、よく言われるような「移民が仕事を奪う」というイメージは変えていかなければならないだろう。
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著者はこれまで、本書に書かれているようなアイデアを訴え続けてきたが、まったく受け入れられなかったという。
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そもそも、このアイデアを世間に真剣に受け止めてもらうことからして非常に難しいのだ。わたし自身、それを痛感した。この三年間、わたしはユニバーサル・ベーシックインカム、労働時間の短縮、貧困の撲滅について訴えてきたが、幾度となく、非現実的だ、負担が大きすぎると批判され、あるいは露骨に無視された
確かに著者の主張は、無謀に感じられることも多い。簡単には実現しないだろう。しかし我々は、簡単には実現しないと思われてきた様々な社会変革の歴史を知っている。
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奴隷制度の廃止、女性参政権、同性婚…。いずれも、当時主張する人々は狂人と見られていた、と。何度も、何度も失敗しながらも、偉大なアイデアは必ず社会を変えるのだ、と
確かにその通りだ。誰もが不可能だと考えていた時代に、敢えて声を上げ、無謀な挑戦を続けてきた先人のお陰で今がある。社会は急激には変わらないが、「どうせ無理だよ」と言って諦めていれば何も起こらない。
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奴隷制度に対しては誰もが、「そんな酷いことをよくやってたね」と感じるはずだ。100年後、本書を読んだ未来人が、「100年前の社会ってこんなに野蛮だったんだ」と感じるかもしれない。そういう可能性を、社会全体で共有する必要があるだろう。
誤解しないでいただきたい。豊穣の地の門を開いたのが資本主義であるのは確かだ。だが、資本主義だけでは、豊穣の地を維持することはできないのだ。進歩は経済的繁栄と同義になったが、21世紀に生きるわたしたちは、生活の質を上げる別の道を見つけなければならない。
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豊かさの中で幸せを実感できないでいる私たちにとって、本書は、ユートピアへの可能性を信じさせてくれるものだと言えるのではないかと思う。信じてみるところからしか始まらない、と思って、著者の主張に耳を傾けてみてはどうだろうか。
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