目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:長谷川博己, 出演:竹野内豊, 出演:石原さとみ, 出演:高良健吾, 出演:松尾諭, 出演:市川実日子, 出演:余貴美子, 出演:國村隼, 出演:平泉成, 出演:柄本明, 出演:大杉漣, Writer:庵野秀明, 監督:庵野秀明(総監督), 監督:樋口真嗣
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ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- 「ゴジラ」の設定をなんとなく知っている程度の知識しかなく、特撮とは無縁の人生だった
- 「政治の世界の鈍重さ」と「不合理な世界で奮闘する官僚」をリアルに描き出す
- 「ゴジラ」は、人類が太刀打ちできない「自然災害」的な存在として描かれる
凄まじいテンポで展開される圧倒的な物語世界に釘付けにさせられた
自己紹介記事
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
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私は人生で、テレビでも映画でも「ゴジラ作品」をちゃんと観たことがないと思う。もちろん、「ゴジラ」は様々な場面で取り上げられ、TVシリーズや映画の一場面を目にする機会は結構あるので、なんとなく見知っている気にはなっている。ただ、1話あるいは1作品まるまる観たことはたぶんない。
そんな私が『シン・ゴジラ』を観ようと思ったのは、やはり「庵野秀明」が監督だからだ。そして、「ゴジラ」に関する知識など皆無で、ほぼ監督への興味ぐらいで劇場に足を運んだ私でも、もの凄く面白いと感じる映画だった。
怪獣映画に限らず、特撮やSFをそもそもそこまで好んで観ない。しかし『シン・ゴジラ』は、「ゴジラ」の存在以外がすべてリアルに描かれる点が見事で、だから私も楽しめたのだと思う。
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「もし東京にゴジラが現れたら」という「もしもの世界」を、圧倒的なリアリティで描き出していく、メチャクチャ面白い作品だ。
映画『シン・ゴジラ』の内容紹介
官邸に、東京湾を貫くアクアトンネル内で浸水が起こったと報告が届く。原因は不明だが、海底火山の噴火か新たな熱噴射口の発生だと考えるのが妥当と思われた。一方、内閣官房副長官である矢口は、既存の原因では上手く説明がつかないこの現象について、「謎の巨大生物の可能性がある」と何度も進言するが、彼の意見は一顧だにされない。しかしそれも仕方ないことではある。もしその可能性を検討するなら、東京都民の避難という現実的な対応を検討しなければならないからだ。
しかし矢口の忠告通り、それは巨大生物の仕業だと判明する。巨大な尻尾が視認されたのだ。
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しかし、対策を打とうにもあまりに情報が少ない。生物学の専門家によれば、その巨大生物が上陸することなどあり得ないという意見だった。それほど巨大な海棲生物が上陸した場合、自重で潰れて死んでしまうからだ。その意見を受けて総理は記者会見を開くが、その直後、謎の巨大生物はあっさりと首都・東京への上陸を果たす。街を壊滅させながら、あらゆる場所で大混乱を引き起こしていった。
政府には為す術もない。
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政府は、戦後初となる「武力行使命令」の発動を決定し、さらに、国会での承認を事後に回して自衛隊の防衛出動を要請した。しかし、巨大生物に対してまともな作戦を展開できないまま撤退せざるを得なくなってしまう。
その後、巨大生物は海へと戻る。混乱は一時収まったが、たった2時間で東京は破壊的な被害を受けてしまった。いつまた奴が現れるかも分からない。打てる手は打っておく必要がある。
政府は通常の手続き通り、特別法の立法や関係各所との調整を行い、正攻法で巨大生物との対応に必要な準備を進めていった。その一方で、矢口を中心とした特別対策チームも編成される。各部署のはみ出し者や異端的な専門家などが集まったこのチームは、官僚的な縦割りの指揮系統を一切排除し、それぞれの立場に関係なくありとあらゆる可能性を検討するよう命じられた。対策チームは、映像から分かるごく僅かな情報から手立てを見つけなければならない。
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その後アメリカから、ある情報がもたらされる。巨大生物の出現を予測していた生物学者がいたというのだ。彼の名は、ゴロウ・マキ。現在姿を消している。対策チームは、彼が残した遺書とも取れる文章を手がかりにして、「凍結プラン」という作戦をなんとか導き出した。
そして、ゴロウ・マキに倣う形で、彼らを苦しめる巨大生物の名前も決まる。
「GODZILLA/ゴジラ」である。
「官僚」のリアルさ
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一般的に『シン・ゴジラ』がどのような評価を受けているのか、私はあまり詳しく知らない。往年の特撮ファンの中には、「政治家や官僚があーだこーだやってるばっかりでちっとも面白くない」なんて感じている人もたぶんいるのだろう。
ただ私としては、まさにその点がメチャクチャ面白いと感じた。
一応書いておくと、私は政治の世界や霞が関の論理に詳しいわけではない。ニュース・小説・映画などで映し出される断片からなんとなくイメージしているだけだ。そして、私がなんとなくイメージする「官僚」の世界が、この映画ではもの凄くリアルに描かれている。
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映画を観て、「もし日本に本当にゴジラが現れたら、官僚はこんな風に事態に対処していくのだろうな」と思わされた。「ゴジラ」という完全にフィクショナルな存在を描きながら、作品世界はとんでもなくリアルなのだ。そのギャップが見事な作品だと思う。
官僚の仕事は、遅々として進まない。必要性をあまり理解できない形式的な会議を経なければ記者会見さえ開けないのだ。新法を制定すべきと理解していても、責任の押し付け合いや縄張り争いからまったく進まない。自衛隊の防衛出動の規定の解釈や、総理大臣から末端の自衛隊員までのうんざりする指揮系統の遠さなどなど、「鈍重」と評したくなってしまう仕事の遅さが描かれていく。登場人物の1人もさすがに、「こんなことやってる場合じゃないだろ」と呟いてしまうほどだ。
しかしこの映画では、「官僚が悪い」という描き方にはなっていない。「様々な制約がある中で、それでも状況に対処するために出来る限りのことをやっている」という見え方になっているのだ。そして普段から私も、なんとなくだが「官僚」という人々にそんなイメージを持っている。
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ニュースなどでは大体「悪いことをした官僚」ばかりが取り上げられるし、どんな仕事も大臣の手柄となって実際に貢献した人の名前が表に出ることはほとんどないので、「官僚」は悪く見られがちだと思う。確かに悪い奴もいるだろう。しかし大体の人が、不合理な環境の中で激務をこなしているのだと私はイメージしている。
恐らく、官僚たちが最大限にパフォーマンスを発揮するためには、明確なルールが存在した方がいいのだと思う。もちろん、改善の余地は多々あるとは思うが、しかしどれだけ鈍重だろうが、正しい手続きに則って、的確な意図で正確な指揮系統によって仕事が進むことで、普通には対処不可能な状況に立ち向かえるようになるのだろう。「鈍重さ」が目立つことになってしまうが、様々なことを総合的に勘案すると、結果としてそれが最速なのだと思う。
また、映画の中で描かれる「鈍重さ」は、まさに私たちが民主主義国家に生きていることを実感させてもくれるだろう。トップの決断で物事が一気に動く方がもちろん楽だろうが、しかしそれは独裁国家と変わらない。義務と権利、制約と自由の関係は非常に難しいが、「ある程度以上の自由」が存在するということは、「ある程度以上の制約」もまた存在するということになるはずだ。だから、この「鈍重さ」は、我々が民主主義国家に生きていることの証だとも感じる。
また、以前読んだ『日本霊性論』という本に、「医療や司法は、『変化が遅くなる』ようにあらかじめ設計されているのであり、その点こそが重要だ」というようなことが書かれていた。詳しくは以下の記事を読んでほしいが、「鈍重さ」が失われれば、別の不都合が引き起こされてしまうのである。「鈍重」だからといって批判一辺倒になるのも正しくないというわけだ。
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今の日本の現状はともかくとして、基本的にマスコミは「権力を監視する」という機能を持つものであるし、だからこそ、「権力側に向ける視線」は厳しくなる。それゆえ、官僚立ちが日々どのような仕事をし、どのように日本という国を支えてくれているのか見える機会は少なくなってしまうだろう。恐らく私たちが生きている現実でも恐らく、官僚や自衛隊など公の仕事をしている人たちが日々、縁の下の力持ちとなって様々な貢献をしてくれているのだと思う。
礼は要りません。仕事ですから。
ある場面で自衛隊員がそう口にする。安全で穏やかな私たちの日常は、彼らの奮闘によって生み出されているのだと改めて実感させられるのではないかと思う。
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対策チームの描き方もとてもリアル
この映画では、官僚が事態にどう立ち向かうかと同時に、対策チームの奮闘も描かれる。両者のやり方は対極だ。官僚が「鈍重」「形式的」としか表現しようのない歩みで前に進んでいくのに対し、はみ出し者ばかりの対策チームは、まどろっこしさゼロの「現実主義的なスタンス」で突っ走っていく。
とにかく、「実際に行うことが可能で、効果がある可能性のある対策」を作り上げられるなら、誰がどう関わってもいいという姿勢が明快だ。ほぼノーヒントの状況にあって、それぞれが個々の知見を総動員し、諦めることなく不可能を可能にするための細い道を突き進んでいく。
対処法があまりに異なる、官僚と対策チームのその極端すぎる差異が同時に進んでいく展開もとても面白い。
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官僚も対策チームも、ある時点から「ゴジラ」以外の脅威にも追い立てられることになる。それは明確なタイムリミットを突きつけるもので、「前門の虎、後門の狼」というまさに絶体絶命の状況だ。官僚側が持てる最大の力は「自衛隊」だが、自衛隊ではまったく太刀打ち出来なかった。だから、そんな不可能状況を打破できる可能性があるとすれば、この異端児の寄せ集めからなる対策チームだけなのだ。
まさに、日本の命運が託されたと言っていい。
そんな彼らは、ごく僅かな手がかりから推論を展開させ、最終的に、笑っちゃうくらい無茶苦茶で壮大な作戦を立案する。もちろんその作戦を実行するには、ありとあらゆる協力が不可欠であり、当然官僚との連携も欠かせない。SFやファンタジーなどでは普通描かれない、「あまりに無謀な計画を、現実世界でいかに実現するか」という背景がリアルに描かれるので、フィクションだと理解していても、「本当にゴジラが現れたら、実際にこの映画のような展開になるのではないか」と思わされた。
「ゴジラ」の存在以外をひたすら徹底的にリアルに描き切るというのが、この作品の凄まじい魅力に繋がっているのである。
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「ゴジラ」はただひたすら「不気味な存在」として描かれる
ありとあらゆる描写がリアルなこの映画において、唯一明確に描かれないのが「ゴジラ」だ。もちろん、「ゴジラが東京の街を歩くとどうなるのか」などの描写はリアルなのだと思うが、「なぜ東京にやってきたのか」など、その背景的な部分はほとんど謎のままである。どこで生まれ、なぜそのような仕組みを有しているのかなどについての推測が語られる場面はあるが、とにかく全体として「ゴジラ」そのものの具体的な描写は少ない。
恐らく、意図的にそうしているのだろう。
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もちろん、映画の尺という実際的な問題もあるとは思う。しかし私はそれ以上に、「ゴジラ」を「自然災害」的なものとして描く意図があるのだろうと感じた。
日本に生きていると、地震や台風、近年では線状降水帯や大雪など、様々な自然災害によって社会生活が大きな打撃を受ける。人類は文明を誕生させ、様々な技術を生み出してきたが、それでもまだ自然災害を克服するに至ってはいないし、恐らく今後もそれは望めないだろう。これからも私たちは、否応なしにやってくる「自然災害」と付き合い続けなければならないというわけだ。
そして、「人類の叡智を結集させても対処不能な存在」として「ゴジラ」を描き出すことで、「自然災害には太刀打ちできない人類の無力さ」みたいなものを実感させる意図があるのではないかと私は感じた。「自然災害」だからこそ、「ゴジラ」には行動の意図などないし、明確な対処法も存在しないというわけだ。
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私たちは、それがどんな理由で生まれどんな被害をもたらすものでも、起こってしまった「自然災害」とは付き合わざるを得ない。同じように、どこからなぜやってくるのか分からない、ただひたすらに「不気味」なだけの「ゴジラ」とも付き合っていかなければならないというわけだ。
ゴジラは、ビキニ環礁での水爆実験がきっかけで生まれた、という設定を耳にしたことがある。核戦争が起こるかもしれないという緊迫感を世界中の人が感じていただろう時代には、「ゴジラ」のそのような背景は良くも悪くも時代を反映したものと言えるだろう。それと同じように、『シン・ゴジラ』で描かれる「ゴジラ」が「自然災害」的であることは、良くも悪くも時代を反映したものだと感じるのだ。
これからもきっと、「ゴジラ」は時代の変化を取り入れて変貌していくのだろうと思う。
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「80人の命を救うために、1人の少女の命を奪わなければならない」としたら、あなたはその決断を下せるだろうか?会議室で展開される現代の戦争を描く映画『アイ・イン・ザ・スカイ』から、「誤った問い」に答えを出さなければならない極限状況での葛藤を理解する
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グローバル化した世界で「農業」がどんなリスクを負うのかを正しく予測し、その対策として「ジーンバンク」を設立した伝説の植物学者スコウマンの生涯を描く『地球最後の日のための種子』から、我々がいかに脆弱な世界に生きているのか、そして「世界の食」がどう守られているのかを知る
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『衆議院議員・小川淳也が小選挙区で平井卓也と争う選挙戦を捉えた映画『香川1区』は、政治家とは思えない「誠実さ」を放つ”異端の議員”が、理想とする民主主義の実現のために徒手空拳で闘う様を描く。選挙のドキュメンタリー映画でこれほど号泣するとは自分でも信じられない
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つい数十年前まで、飛行機は「死の乗り物」だったが、天才気象学者・藤田哲也のお陰で世界の空は安全になった。今では、自動車よりも飛行機の方が死亡事故の少ない乗り物なのだ。『Mr.トルネード 藤田哲也 世界の空を救った男』から、その激動の研究人生を知る
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『八月十五日に吹く風』は小説だが、史実を基にした作品だ。本作では、「終戦直前に原爆を落としながら、なぜ比較的平穏な占領政策を行ったか?」の疑問が解き明かされる。『源氏物語』との出会いで日本を愛するようになった「ロナルド・リーン(仮名)」の知られざる奮闘を知る
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