目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:マイルズ・テラー, 出演:J・K・シモンズ, 出演:ポール・ライザー, 出演:メリッサ・ブノワ, 出演:オースティン・ストウェル, 出演:ネイト・ラング, 出演:クリス・マルケイ, Writer:デイミアン・チャゼル, 監督:デイミアン・チャゼル, クリエイター:ジェイソン・ライトマン, クリエイター:ゲイリー・マイケル・ウォルターズ, クリエイター:クーパー・サミュエルソン, クリエイター:ジャネット・ヴォルトゥルノ=ブリル
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ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
この記事で伝えたいこと
才能を開花させるために、極限まで追い込む環境は本当に必要なのか?
そういう環境が無くなったら、「傑作」は生まれなくなるのだろうか?
この記事の3つの要点
- SNSのなかった時代と現代とでは、極端に環境が異なる
- 「追い込む指導者」の存在を否定はしきれない
- マンガ雑誌の「読者アンケート」など、私たち自身も「追い込む環境」に加担している
「夢破れた者たち」の死屍累々なくして、表現・創作は「傑作」を生み出せないのだろうか?
自己紹介記事
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
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この映画では、「指導者が極限まで追い込む環境」が描かれます。それによって指導者は、才能を開花させたいと考えているのです。
しかし、本当にそのやり方が正解なのでしょうか? 私は「そんなはずがない」と信じたい気持ちを捨てきれません。
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「完璧な部品を目指すこと」と「自分らしくいられること」
「何者かになりたい」と考える時、そこに行き着くための道筋をどう選び取るのかはなかなか難しい問題だと思います。選択肢としては、「誰かの理想に合わせて、完璧な部品を目指す」か、「自分らしさがきちんと発揮できる環境を目指す」かになるでしょう。
前者の考え方は、チームで行うものには大体当てはまると言っていいと思います。スポーツ・音楽・ダンスなど、チームが1つとなって高みを目指す場合、全体の一部となることが求められるはずです。あるいは、絵を描いたり将棋を指したりする個人プレーであっても、有名な学校や指導者の元で学ぶのは、前者のスタイルだと言っていいでしょう。
とにかく「完璧な部品を目指す」場合は、監督やプロデューサーなど指導者的な存在がいて、その人が理想とするものを実現する、というスタイルになると思います。そしてその理想を実現するために、「自分らしさ」を抑え込んででも、チームの中で完璧な部品になることを目指すわけです。
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一方で後者の方は、表現・創作などを1人で行うか、あるいは自身がリーダー的な立場となって他の人を率いていくようなイメージになります。自分の名前で表に出ているアーティストや、バンドで作詞作曲を担当している人などが該当するでしょう。
どちらのスタイルが良いかは人それぞれだとは思いますが、「何者かになりたい」と願っている人はやはり、後者のような生き方を望むことが多いだろうと思います。しかし、「自分らしさを発揮しながら表現・創作を行う」ことは、努力だけでは実現できないでしょう。他を圧倒するとんでもない天才なら話は別でしょうが、普通はかなり「運」も必要になるはずです。
特に一昔前はそれが顕著だったでしょう。「自分に何ができるのか」をアピールする機会が、現代と比べれば極端に限られていたのだから当然です。そんなわけで、前者のような「完璧な部品を目指す」生き方を選ぶ人の方が多かったのではないかと思っています。
もちろん今だって、「完璧な部品を目指す」生き方は全然普通だと思うけど
誰もが後者のような生き方に向いてるわけじゃないしね
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SNSの登場で状況は大きく変わった
そんな状況を、SNSが大きく変えたと言っていいでしょう。誰もが、「自分に何ができるのか」を自由に発信できるようになったのです。発信の数が膨大になったので、その中で一歩抜け出すのは容易ではないだろうと思います。しかし現代では、ネット発のアーティストが多数生まれており、一昔前とは比べ物にならないぐらい「見つけてもらえる可能性」は高まったと言っていいはずです。
ネット上での発信は、まさに「自分らしさを発揮する」ことに向いていると言えるでしょう。そして、その「自分らしさ」がそのまま評価されるならば、「自分らしさを発揮したまま表現・創作を続けていける可能性」もかなり高くなるはずです。一昔前だったらあまりにも狭すぎて検討することさえ難しかった道筋が、今はかなり開けていると言えるでしょう。
さて、そんな世の中にあって、この映画が問いかけているのは次のような疑問です。
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「完璧な部品」になるように指導者が厳しく追い込む環境は、まだ必要だと言えるだろうか?
この映画では、上述の問いに迷わず「YES」と返す指導者が登場します。
英語でもっとも危険な言葉は、この2語だ。「上出来(Good job)」
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彼はそんな風に言います。まさに、「お前を褒めるつもりなんかこれっぽっちもない」という宣言でしょう。彼は、とにかく徹底的に厳しく追い込むことでこそ才能が開花するのだと、心の底から信じているのです。
皆を期待以上のところまで引き上げたかったんだ。
私は、どんな教師でも出来ないほど必死の努力をした。それを謝るつもりはない。
そんな彼は、自分の指導法の正しさを示そうと、ジャズミュージシャンのチャーリー・パーカーのエピソードを持ち出します。「バード」という愛称で知られた彼の話はこのようなものです。
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チャーリー・パーカーはある演奏でミスをし、シンバルを投げつけられる。その夜、彼はベッドの上で号泣した。翌日、彼はどうしたか。練習したのだ。そうやって彼は「バード」になった。もし、シンバルを投げつけられていなかったら、そしてそれに奮起して練習しなければ、「バード」が生まれることはなかったのだ。「Good job」と言われていたら、「バード」は生まれなかった。
個人的にはそもそも、たった1人の例から一般論を導き出そうとする人は好きになれないんだよね
チャーリー・パーカーはそうだった、ってだけの話だからなぁ
当然ですが、こんな疑問を口にする人が出てきます。
でも、次のチャーリーを挫折させたのでは?
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当たり前のことですが、それがどれほど素晴らしい手法だとしても、すべての人に当てはまるわけではありません。チャーリー・パーカーに通用したやり方が、他の人を挫折させる可能性は当然あるでしょう。
しかしそれに対してこの指導者は、
どんなことがあっても、次のチャーリーは挫折しない。
と答えるのです。この返答は、私には「信念」ではなく「狂気」に聞こえるのですが、皆さんはいかがでしょうか?
目の前にいるのが「確実に『次のチャーリー』になる人」なら何の問題もありません。追い込むだけ追い込んで、その才能を開花させてあげればいいでしょう。問題は、「目の前にいるのが『次のチャーリー』である保証などどこにもない」ということです。
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となると、この指導者は、「目の前にいるほとんどの人の才能を潰したとしても、『次のチャーリー』を1人でいいから見つけられればいい」と考えているのだと理解するしかないでしょう。それなりに才能を持っているだろう人物がこれだけいるのだから、中に1人くらい「次のチャーリー」がいるだろう、そいつが生き残ってくれればあとはどうでもいい、というわけです。
どのみちあんたは、「何者かになりたい」なんて思ってないだろうから大丈夫だよ
そんな環境は、「次のチャーリー」じゃない人間にとっては地獄でしかありません。しかし誰だって、自分こそは「次のチャーリー」だと考えたいでしょうし、その可能性を信じて踏ん張ってしまうでしょう。
そんな厳しい環境が本当に必要とされているのか、私は疑問に感じてしまうのです。
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それでも、「追い込む指導者」を完全には否定しきれない
「追い込む指導者」の存在に違和感を抱きつつも、一方で完全には否定しきれない自分もいます。
人にもよるでしょうが、やはり、極限状況に追い込まれるからこそ生まれる「何か」もあるはずです。というか、そう信じたい気持ちがある、という言い方が正しいでしょうか。「今の自分は未熟だが、自分の中の『本当の才能』が引き出されれば闘える。そしてそれは、極限状況に追い込まれることで表に出てくるはずだ」という、ある種祈りのような気持ちを持ってしまう人もいると思います。そう考えることで、「今はまだ未熟な自分」を許容しつつ努力に打ち込めるのであれば、「追い込む指導者」の存在は決して悪いものではないでしょう。
あるいは、私たち自身が「追い込む指導者」の一端を担っている場合さえあります。
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例えば、マンガ雑誌の連載などがそうでしょう。多くの人がマンガ雑誌での連載を目指しますが、ほんの僅かしか勝ち残れません。そして、その「合否」を決めるのが、多くの場合「読者アンケート」でしょう。「読者アンケート」の結果次第で連載が続くかどうかが決まり、「選ばれなかった者たち」によって死屍累々の山が築かれるわけです。
私たちが面白いマンガを読めるのは、その背後に山ほどの「夢破れた者」がいるからだといえます。膨大な挑戦者を「読者アンケート」という大なたでぶった切ることで、ごく一部の「次のチャーリー」を私たちが決めているのです。ある意味では私たちが「追い込む指導者」のような存在になっていると言っていいでしょう。
「追い込んでやろう」という意思があるかないかの違いだけで、この映画の指導者と、マンガを評価する私たちは、基本的に同じことをしていると言えます。私たちはそのことに無自覚ですが、間接的に「追い込む指導者」の片棒をかついでいるのだし、それによって「面白いマンガ」が生み出される環境を共に作り出しているわけです。
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もしもマンガ雑誌が存在せず、生み出されるすべてのマンガが一切選別されることなくすべてインターネットにアップされる世界だとしたら、『ワンピース』や『スラムダンク』は生まれたでしょうか? 生まれたかもしれませんが、やはり、「死屍累々の世界だからこそ生まれ得た」と私は考えてしまいます。
「死者」側にはなりたくないけど、大体の人が「死者」側なんだよね
それを覚悟でみんな飛び込んでいくんだろうから、凄い世界だと思う
だとすれば、私たちは映画『セッション』で描かれる世界を否定できないはずです。もちろん、「追い込む指導者」がいなくても才能は開花し、傑作が生まれるのかもしれません。ただ、もしかしたら、「真に素晴らしいもの」が出てこない可能性もあるでしょう。そういう疑念を、私たちは捨てきれないように思います。
否定したいけど否定しきれない。そんなモヤモヤした感情を抱かせる作品だと感じました。
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映画『セッション』の内容紹介
アメリカ最高峰のシェイファー音楽院に通う19歳のアンドリュー・ニーマン。彼は日々ドラムの練習に明け暮れる青年だ。
一方、シェイファー音楽院のフレッチャー教授は、学内最高のバンドと評される「スタジオ・バンド」を率いており、フレッチャーは常に学内を歩き回り、才能のある人物をメンバーに引き入れようと考えている。そしてニーマンは、そんなフレッチャーの目に留まり、最年少メンバーとして加入することになった。
「スタジオ・バンド」の練習は過酷を極める。フレッチャーにはたどり着くべき「理想」があり、その理想からほんの僅かでも外れると、幾度となくやり直しさせられるのだ。ニーマンは、スティックを握り両手から血が滴り落ちるまで自分を追い込んでいく。
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すべては、フレッチャーにとっての「完璧な部品」を目指すためだ。そして彼の理想を体現できない者は容赦なく辞めさせられる。
ニーマンを始め、バンドメンバーは皆必死でフレッチャーの”指導”に食らいつく。しかし、どれだけ努力しても、フレッチャーからボロクソに言われてしまう。殴られ、貶められてばかりだ。でも諦めるわけにはいかない。フレッチャーに食らいつくことが、成功への道筋なのだと信じているからだ。ニーマンも、血だらけになった手を氷水に浸けながら延々と練習を続ける。
フレッチャーの「理想」の一部となるために。
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出演:マイルズ・テラー, 出演:J・K・シモンズ, 出演:ポール・ライザー, 出演:メリッサ・ブノワ, 出演:オースティン・ストウェル, 出演:ネイト・ラング, 出演:クリス・マルケイ, Writer:デイミアン・チャゼル, 監督:デイミアン・チャゼル, クリエイター:ジェイソン・ライトマン, クリエイター:ゲイリー・マイケル・ウォルターズ, クリエイター:クーパー・サミュエルソン, クリエイター:ジャネット・ヴォルトゥルノ=ブリル
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最後に
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正解のない世界だと思いますが、「何が正解だろうか」と考えてしまうのではないでしょうか。誰かに強制されているわけではなく、「フレッチャーの指導についていく」と決めているのは本人なので、他人がとやかく言う権利はありません。しかし個人的にはやはり、フレッチャーの指導を否定したいと感じてしまいました。
合う人には、本当に才能を伸ばせる魅力的な環境なんだろうけどね
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ラストのあの場面で、フレッチャーは一体何を考えていたでしょうか。自分の指導法は正しかったと再確認したのか、はたまた、ニーマンの中にある何かを感じ取ったのか。余韻を残す終わり方が印象的でした。
私たちの生活を豊かにしてくれるものの背後に、数え切れないほどの「死者」がいる。そんな現実を想像させる残酷さと、それでも「何者かになりたい」という気持ちを捨てない勇気が描かれる作品だと感じました。
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ルシルナ
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ルシルナ
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ルシルナは、4000冊以上の本と500本以上の映画をベースに、生き方や教養について書いていきます。ルシルナでは36個のタグを用意しており、興味・関心から記事を選びやすく…
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