目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:シドニー・フラニガン, 出演:タリア・ライダー, 出演:セオドア・ペレリン, 出演:ライアン・エッゴールド, 出演:シャロン・ヴァン・エッテン, Writer:エリザ・ヒットマン, 監督:エリザ・ヒットマン, プロデュース:アデル・ロマンスキー, プロデュース:サラ・マーフィー
ポチップ
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この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
この記事で伝えたいこと
「中絶のためにニューヨークに行く」という設定だけで見事な映画を撮り切った
男女問わず、彼女たちが置かれた現実をリアルに知るべきだと思う
この記事の3つの要点
『Never Rarely Sometimes Always』という原題は、「中絶そのものに焦点を当てる」という宣言だと感じた 2人の少女が沈黙のまま展開が進む道中が非常にリアル 主人公の親友の存在感も非常に気になってしまう
淡々としたカウンセラーの質問に主人公が涙しながら答える場面がやはり非常に印象的だった
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この映画の内容は、「望まない妊娠をしてしまった17歳の少女オータムが、中絶のためにニューヨークまで行く」という一文で要約できます 。それぐらい、この1点のみに焦点を当てていると言える作品です。これはなかなかチャレンジングな挑戦 だったでしょうが、素晴らしい映画として成立していると感じました。
中絶”だけ”を徹底的に描き出す凄さ
物語の中で「望まない妊娠」を扱うとすれば普通、「親の反応やその後の関係性」「孕ませた男性側の話」なども描かれるのが当然だろう と思います。そのような様々な要素を組み込むことで、「妊娠・中絶」をより様々なレイヤーで描き出せるからです。
しかしこの映画では、そのような要素は一切描かれません 。オータムは親に内緒でニューヨークへと向かいますし、相手の男の話はまったく登場しないのです。とにかく、「中絶という現実に直面した少女」だけをひたすらに捉え続けます 。
これはなかなか勇気の要る構成 だと言えるでしょう。しかし、その難しい道に敢えて進み、見事な作品として成立させていると思います。そのことがまず、何よりも素晴らしいと感じました。
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まあ私はいつものごとく、この映画が「中絶」の話だということさえよく知らないまま観に行ったのだけど
普段なら観ないタイプの映画だろうけど、なんか気になったんだよね
中絶”だけ”に焦点を当てるという意図は、映画のタイトルからも感じ取ることができるでしょう 。
この映画、邦題は『17歳の瞳に映る世界』ですが、原題は『Never Rarely Sometimes Always』です 。原題を知らなかったので、映画の冒頭でこれが表示された時、タイトルではない何か、例えば映画によくある「実話に基づく物語」のような説明的な何かだと思っていました。ただその後、映画の中で「Never」「Rarely」「Sometimes」「Always」が登場し、映画の最後に再び表示されたことで、これが原題なのだと理解できたわけです。
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「Never」「Rarely」「Sometimes」「Always」が登場する場面は、映画全体の中でもかなり印象的なシーン だと言っていいでしょう。これらは、カウンセラーからの質問に答える際の「選択肢」として用意されるものです。
アメリカにおける中絶の仕組み・現場について知っているわけではありませんが、少なくともこの映画では、「保護者の同意なしに中絶が可能」という状況を描いています 。彼女が住むペンシルベニア州にはそのような仕組みがないのか、あるいは州内では噂が広がると考えてニューヨークまで行ったのかは判断できませんが、とにかく彼女は、保護者の同意なしに中絶が可能な状況にいるわけです。
保護者の同意が不要だからなのか、あるいは誰であっても同じ手続きを取るのか、それさえ分かりませんが、オータムはカウンセラーから様々な質問に答えるように言われます。そして、その質問に対する回答を、「Never(まったくない)」「Rarely(ほとんどない)」「Sometimes(たまに)」「Always(いつも)」のいずれかで答えるように促されるのです 。
これが原題だと知って、この場面はきっと「中絶前のやり取り」を忠実に再現してるんだろうって私は思った
経験した人は、このタイトルから「中絶」の話だって気づくんだろうね
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この場面が、内容的にも映像的にも、最も印象に残りました 。
カウンセラーに対するオータムの返答から、それまで観客にはほぼ伝わっていなかった「彼女はなぜ妊娠したのか?」という背景が、はっきりとではありませんが垣間見えます。この映画は全体的に、セリフも説明的な描写も非常に少ないです。私は映画を観始めてからしばらくの間、「彼女は家出するつもりなのだろう」と考えていたほどで、それくらい状況を捉えるための情報がありません。そんな中で、このカウンセリングのシーンは、オータムが置かれた状況を理解するという意味でまず重要だと言える でしょう。
さらに、映像的にも力強さを感じました 。オータムをワンショットで正面から映し出し、恐らくオータムと正対しているのだろうカウンセラーの声が寒々しく響いています。敢えて感情を込めていないのか、あるいは流れ作業的になっているのか分かりませんが、とにかくあまりに”機械的”なカウンセラーの質問が淡々と続く中、質問内容が想起させた過去、そしてまさに今自分が直面している現実に対して思うところがあったのでしょう、オータムは静かに涙を流すのです 。
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全体的に、状況も感情もあまり見えない作品だからこそ、明らかに感情を露わにするオータムの振る舞いに心が動いてしまいます 。また、「中絶」という現実のありとあらゆる側面があのシーンに凝縮されている ようで、そんな現実の一端に関わってしまっている、自分を含めた「男性性」に対して静かに怒りを覚えもしました。
恐らく『Never Rarely Sometimes Always』というタイトルは、中絶を経験した人にはそうと伝わるものでしょうし、そうでなくても非常に特異なタイトルなので、経験がない人にもザラッとした違和感を与えるだろうと思います。「作品のタイトル」として非常に秀逸 だと思うし、このタイトルを付けたという事実が、まさに「『中絶』だけを前面に描くのだ」という決意の表れ であると感じました。
原題の直訳ではさすがにどんな話か分からなすぎるから躊躇しちゃったんだろうなぁ
「会話がほぼ存在しないこと」の良さ
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この映画の主人公は、妊娠してしまったオータムと、彼女の唯一の親友であるスカイラーの2人です 。同じバイト先で働く2人は、共に長距離バスに乗りニューヨークへ向かいます。スカイラーは付き添いとして、オータムと共に行動するのです。
しかしこの2人、映画の中でほぼ喋りません 。全体敵に極度にセリフの少ない作品ですが、映画のほとんどをオータムとスカイラーの場面が占めるにも関わらず、この2人は全然喋らないのです。
そしてこの点が、映画を非常にリアルなものにしている と感じました。
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映画でも小説でも、「家族同士、あるいは長年の友人同士が、今更そんな会話をするだろうか? 」みたいに感じてしまうことが結構あります。設定や状況を登場人物の口から語らせようとするあまり、非常に不自然な描写になってしまうのです 。物語を理解してもらうために一定程度必要な不自然さだとはいえ、上手く処理しないと違和感を与えることになってしまうでしょう。
「脚本家や作者の都合で喋らされている」って思っちゃうと、途端に「物語を動かす駒」にしか見えなくなるよね
上手い作家は、本当なら不自然なはずの会話でも、そう感じさせなかったりするから凄い
一方、『17歳の瞳に映る世界』では、設定や状況を観客に伝えることよりも、リアルな描写の方を優先している と感じました。先程も書いた通り私は、オータムとスカイラーが2人で家出するのだと思い込んでいたほど、途中まで「ニューヨークに中絶に行く」という設定を理解していませんでした 。そんなことさえ理解させないぐらい、2人の会話は皆無に近いのです。
一方で、実際にオータムやスカイラーのような状況になれば、この2人のような雰囲気こそ自然だろう とも感じました。仮に私が女性だとして、望まぬ妊娠をしてしまったオータムの側だったら何も喋りたくない だろうし、親友の中絶に付き添うスカイラーの側だったとしたら、何を喋ればいいか分からなくて沈黙してしまう だろうと思います。
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そういう意味で2人の沈黙は非常にリアルだと感じました 。しかし、主人公2人がほぼ沈黙したまま物語を展開させるのは勇気が要ったでしょう 。しかも、経験豊富な名優ならともかく、主人公2人は恐らく、役者としての経験がさほどないはずだと思います。そんな2人を沈黙させたままほぼ全編を展開させる構成は、非常にチャレンジングだと感じました。
また、映像的なことで言えば、オータムの旅路にスカイラーが付き添う展開には大きな意味がある と思います。その最大のポイントは、「オータムの沈黙に様々な意味が生じること 」です。
オータムがスカイラーと共にニューヨークへ向かい、その道中で沈黙し続けることで、観客はそこに様々な意味を読み取る だろうと思います。「気心知れた仲だから、話さなくても気持ちは通じる 」とも、「友人だからこそ話せないことがある 」とも解釈できるでしょう。
そもそも「沈黙でも成立する」っていうのが親友たる証って感じもするし
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さらに映画では、友人がほぼいないオータムにとって、スカイラーは唯一心を許せる存在 だということが示唆されます。だから、「唯一の親友だからこそ話せないことがある 」と受け取ることも可能かもしれません。
仮にオータムが1人でニューヨークへ向かっていたら、彼女の沈黙にここまでの意味を掬い取ることは難しかったでしょう 。映画は沈黙に包まれたまま展開されるわけですが、しかしスカイラーがいることで、その沈黙にも様々な深みが生じるというわけです。「雄弁は銀、沈黙は金」という言葉がありますが、まさにこの映画はそれを地で行く作品だと言っていいでしょう。
さて、映画では当然オータムに焦点が当てられる わけですが、あまりにシンプルな物語構成と、沈黙が支配する展開によって、逆にスカイラーの方が気になる存在として浮かび上がる 感じもあります。ある意味でオータムは、「望まぬ妊娠をしてしまった者として、取るべき行動を取っている」と言えるでしょう。しかしスカイラーの方は、必ずしもそうとは言えないと感じます。親に相談した方がいいとアドバイスするなど他にも選択肢がありそうですが、「バイトを休んでオータムについていき、沈黙と共に寄り添っていく」とあっさり決断するスカイラーの行動は、必ずしも「当然のもの」とは言えないでしょう 。
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スカイラーへの違和感は、そもそも私が「オータムとスカイラーが家出しようとしてる」って勘違いしてたからってのもあるんだけど
「妊娠してしまったオータムはともかく、スカイラーはなんてあっさり家出を決意するんだ」みたいなね
また、映画全体のテーマとはそこまで関係しないと思いますが、スカイラーはバイト先で、店長らしき人物からセクハラ的な扱いを受けています 。しかし、どうもそんな理不尽な状況を「仕方ないと受け入れている」ように見えるのです 。田舎町では他に働き口を探すのが難しいのか、あるいはスカイラー自身の性格によるものなのか、こちらも具体的な情報がないのでなかなか考えるのが難しいですが、オータムという絶対的な主役の陰で、どことなく異彩を放つ雰囲気のスカイラーもまた興味深い存在 だと感じました。
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フィクションの中で「望まぬ妊娠」や「中絶」を描く時、どうしてもそこに「啓蒙」的なメッセージが見え隠れするように思います 。もちろん、それは一面では良いことでしょう。「望まぬ妊娠」や「中絶」を客観的に捉えて「良くないこと」として描くような、そんなテイストになることが多いのではないかと感じます。
ただこの作品には、そんな「啓蒙」的な雰囲気はありません 。どちらかと言えば、「望まぬ妊娠」や「中絶」を主観的に捉えて「サイテーなこと」として描くようなニュアンスを感じます。
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それも結果的には「啓蒙」に繋がるでしょうが、それよりも、「厳しい状況に陥った若い女性のリアルな感覚」をそのままぶつけることにすべてを費やしている 、そんな映画だと感じました。
男の私にはなかなか理解が及ばない部分もあるとは思いますが、女性が直面する「サイテー」を男性も理解し、「妊娠させてしまうこと」の罪悪を正しく受け取る、という意味でも価値のある作品 と言えるかもしれません。
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遊郭で生まれ育った石巻の医師が声を上げ、あらゆる障害をなぎ倒して前進したお陰で「特別養子縁組」の制度が実現した。そんな産婦人科医・菊田昇の生涯を描き出す小説『赤ちゃんをわが子として育てる方を求む』には、法を犯してでも信念を貫いた男の衝撃の人生が描かれている
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小学5年生から統合失調症を患い、社会の中でもがき苦しみながら生きる卯月妙子のコミックエッセイ『人間仮免中』はとんでもない衝撃作。周りにいる人とのぶっ飛んだ人間関係や、歩道橋から飛び降り自殺未遂を図り顔面がぐちゃぐちゃになって以降の壮絶な日々も赤裸々に描く
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「女であること」は、「男であること」と比べて遥かに「窮屈さ」に満ちている。母として、娘として、妻として、働く者として、彼女たちは社会の中で常に闘いを強いられてきた。よしながふみ『愛すべき娘たち』は、そんな女性の「ややこしさ」を繊細に描き出すコミック
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私は「見て分かること」に”しか”反応できない世界に日々苛立ちを覚えている。そういう社会だからこそ、映画『流浪の月』で描かれる文と更紗の関係も「気持ち悪い」と断罪されるのだ。私はむしろ、どうしようもなく文と更紗の関係を「羨ましい」と感じてしまう。
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生きていると、「常識的な考え方」に囚われたり、「普通」「当たり前」を無自覚で強要してくる人に出会ったりします。そういう価値観に合わせられない時、自分が間違っている、劣っていると感じがちですが、そういう中で一歩踏み出す勇気を得るための考え方です
ルシルナ
不安・絶望・虚しい【本・映画の感想】 | ルシルナ
将来が不安だったり、目の前の現実に絶望したり、自分の置かれた状況に虚しさを感じてしまうことがあるでしょう。私も、気分が落ち込んで眠れないと感じたり、色んなことを…
ルシルナ
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