目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
監督:ダニエル・ゴールドハーバー, 出演:アリエラ・ベアラー, 出演:サッシャ・レイン, 出演:ルーカス・ゲイジ, 出演:クリスティン・フロセス, 出演:フォレスト・グッドラック
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この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
「名画にトマトスープを投げつける環境アクティビスト」に対して私が抱いている感覚について 「気候変動に対処するため石油パイプラインを爆破する」という行動を許容するための理屈は存在し得るか? 爆破計画に”関わらざるを得なかった”者たちの背景を織り交ぜながら、エンタメ作品として見事に着地させている
テーマも物語も実に興味深く、シンプルながら奥行きのある物語がとても見事だった
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FBIが「テロを助長する」と警告した映画『HOW TO BLOW UP』は、環境活動家のリアルな抵抗をエンタメとして描き出す良作
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さて、本作『HOW TO BLOW UP』は「FBIが警告を発した映画」としても話題になった作品 である。「この映画を観た人間が、同じようなテロをやりかねない」と懸念した というわけだ。観る前は正直、「宣伝文句としてちょっと大げさに使っているのだろう」ぐらいに思っていた のだが、観終えて「なるほど、確かにな」と感じさせられた 。日本には「石油パイプライン」はあまりないはずだし、なかなか身近に見ることもないので実感しにくいと思うが、本作を観ると、「テロのターゲット」として「石油パイプライン」を選ぶ合理性が理解できる 。砂漠地帯を通るパイプラインはむき出しの箇所もあるので、狙いやすい のだ。
また、爆弾の作り方だって、今どきいくらでもネットで拾える だろう。もちろん、作中である人物が言っていたように、「爆弾を自作する奴の半分は、作っている時に爆破させる」そうなので、決して簡単ではない だろうが、可能ではあると思う。となれば、本作で提示されたのと同じテロを実行に移すことは、案外簡単なのかもしれない とも感じた。「FBIが警告した」というのも誇張ではなく、割と現実的な指摘だったのだろう 。
リアリティを保ちながら、エンタメとしても非常によく出来た作品 というわけだ。
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「過激な環境活動家」に対する私のスタンス
最近、「環境活動家」「環境アクティビスト」といった単語を目にする ようになってきた。よく報じられるのは、「美術館に展示されている名画にトマトスープやマッシュポテトを投げる」といった活動 で、「気候変動」への関心を抱かせようと奮闘する人たち のことである。「『名画を汚すこと』がどう環境に関係するのだろう」とも思うが、恐らく、「『軽犯罪程度で済む話題性のある行為』によって注目を集め、自分たちの主張を聞いてもらおうとしている」のだと思う 。あるいは、「『資本主義の象徴』として『バカみたいに値段が高いもの』を標的にしている」なんて意図もあるのかもしれない 。
さてそんなわけで、ここではまず「そのような活動に効果があるのか」という点を検証してみたい と思う。
まず「良いか悪いか」の話をするなら、そりゃあ悪いに決まっている だろう。恐らく何らかの犯罪行為には該当するはず だ。またそうではないのだとしても、「名画」は気候変動に対して何の罪もない 。「本質的な意味で『悪』とは言えない対象」をターゲットにしているわけで、倫理的に許容されるはずがない と思う。
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ただこうも考えられる 。名画はガラスなどで保護されているわけだから、実質的な被害はほとんどない と言っていいだろう。そしてその上で、「注目を集めて自説を訴える」ことによって考えが変わる人がいるなら、「最小のコストで可能な限りのリターンを得ている」 ということになる。だとすれば、倫理的に許容されないとしても、認め得る余地がどこかにあるのではないか 、と考えることも可能だ。
このように、なかなかシンプルには判断できない問題 なのである。そこで私は、この問題に対して分かりやすい基準を設けたい と思う。それは、「彼らの仲間になりたいかどうか 」だ。気候変動などの環境問題が喫緊の課題であることは間違いないのだから、「『彼らの考えに賛同する人』が増えること」は喜ばしいはず である。なので、「彼らの活動の結果、『仲間になりたい』という人が増えれば『善』、増えなければ『悪』 」という基準を設けることは妥当だと思う(もちろん、「考えには賛同するが仲間にはなりたくない」という意見も存在するとは思うが、とりあえずそれは無視している)。
そして私個人は、「名画にトマトスープを投げるような集団」の仲間なんかには絶対になりたくない 。だから、私だけの話で言えば「悪」だし「逆効果」でしかない というわけだ。ただあくまでもこれは私の感覚であり、一般的にどうなのかは分からない 。もしも「名画にトマトスープを投げることで『仲間になりたい』という人が増えている」のであれば、彼らの活動を許容せざるを得ない だろうと考えている。まあ実際のところ、彼らが賛同を集めているのかは何とも分からない のだが。
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「他に代替手段が無い」のなら許容せざるを得ない
さて、先程した「仲間になりたいかどうか」という話とは別に、この問題に対してはもう1つ感じること がある。それは「世代ごとの感覚の違いが大きい 」ということだ。
若い世代ほど環境問題に関心が高く、実際に行動を起こしているのも彼らである 。若い世代の方が明らかに「より長く地球に住む」ことになる し、子どもを生み育てることまで考えれば、「自分の死後も『住める地球』を残したい」と考えている と思う。一方で、年代が上がれば上がるほど、「自分はどうにか逃げ切れるだろう」という考えから、環境問題への関心は薄くなっていく はずだ。
さて、少なくとも今の日本においては、「社会構造を変えるような力を持つ者」は大体年寄り である。つまり、「年寄りの考えを変えなければ社会は変わらない 」というわけだ。そのように考えるとやはり、「名画にトマトスープを投げる」というやり方では上手くいかないだろう 。年寄りはむしろ、「野蛮な連中だ」「あんな野蛮な奴らの言うことなど聞くものか」と、余計に意固地になってしまう かもしれない。
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そして本作『HOW TO BLOW UP』の登場人物たちは、そのような感覚を抱いているが故に「石油パイプラインを爆破する」という実力行使に打って出る のである。「決定権を持つ者の目を見開かせる」みたいなことをやらなければ何も変わらないし、意味がない というわけだ。「名画にトマトスープを投げる」と比べたら、被害も損失も比較にならないぐらいの行動の背景には、「ぬるいことなんかやってられない」という明確な意思が潜んでいる のである。
では、「石油パイプラインを爆破する」という行為の是非 について考えてみよう。「良いか悪いか」で言えば、もちろん議論の余地なく「悪い」 である。明確な犯罪行為だし、被害額も相当なものになる はずだからだ。また、ただの映画でしかない本作に対してFBIが警告を発した ことを考えれば、実際に石油パイプラインを爆破するテロが起こる可能性も、後に続く者が現れる可能性も十分あり得るのだろう 。そのようなことを様々に考え合わせれば、許容出来る余地はないよう に思える。
さて、ここで少し「法を犯すこと」そのものについて考えてみよう 。私は基本的に、「どんな理由があれ『法を犯すこと』は避けるべき 」だと思っている。それがどれだけ理不尽な法だとしても時間を掛けて「法改正」を目指すべき だし、その選択肢が存在している以上は、「法を犯すこと」が許容される余地はない というのが基本的なスタンスだ。
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ただやはり、「法改正なんて悠長なことを言っていられない」みたいな状況もあるはず だし、そのような場合、「『法を犯す』以外の代替手段が存在しない」という可能性だってある だろう。そして私は、「そういう状況であれば『法を犯すこと』も止むなし」と考えている のだ。もちろん、法を犯したのであれば処罰されなければならないし、それを免除しろなんて話では決してない のだが、私個人としては「そのような状況で法を犯した人を許容したい」 と思っている。
では、環境問題はどうだろうか? これはなかなか判断が難しい 。「今すぐ対策を打たなければ手遅れになる」という話はよく聞くが、それが本当なのかは何とも判断しがたい からだ。もちろん「早いに越したことはない 」わけだが、「法改正を待てないぐらい猶予がない」のかについては何とも言えない ように思う。
ただ環境問題の場合は、「『資本主義社会における経済成長』と密接に結びついているために、法改正や規制がなかなか進みにくい」という側面もあるはず だ。「環境を守るためには経済成長を犠牲にしなければならない」という主張は、特に社会の強者(その中には「決定権を持つ者」も多いだろう)には受け入れがたいのではないか と思う。であれば、「まともなやり方では社会の変革は望めない 」と言っていいのかもしれない。
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そんな風に考えると、「『石油パイプラインを爆破する』という手段もやむを得ないのかもしれない」みたいにも思わされてしまう のだ。実に難しい問題 だなと思う。
「NOを突きつける存在」は評価されるべきだと思う
さて、また少し違う話 をしようと思う。
インターネットやSNSが当たり前の世の中になってから、「炎上」がよく目につく ようになったように思う。私が本作を観た時期は、Mrs.GREEN APPLEの『コロンブス』という曲のMVが炎上 しており、メディア等で大きく取り上げられていた。私はその報道を見て、「コロンブスに対する人物評価がいつの間にか変わっていたのだな」と驚かされた のだが、それはともかく、確かにMVの映像は「不用意だった」と思う 。あそこまで炎上するような内容なのかは何とも言えないが、「適切ではないものを世間に公開した」という意味で批判は仕方なかった のかなという感じはする。
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さて、このMVの問題がテレビで取り上げられた際、コメンテーター的な人が「関係者はどうして誰も指摘しなかったのだろう?」みたいなことを言っていた のが印象的だった。確かに私も、こういう話題が出る度に一瞬そのような考えが頭を過ぎる が、次の瞬間には「そりゃあ誰も指摘なんかしないわな 」という考えに変わる。そんなことをしても、何のメリットもない からだ。
今回のMVについては、世に出る前の時点で「100%確実に炎上する」と判断できた人はいないのではないか と思う。もちろん、「ちょっと危ういことをしているな」と感じていた人はいただろう が、その程度のレベルだったはずだ。「絶対に炎上するから止めた方がいい!」と強く言えるほどの映像では無かった と私は考えている。
ただ、仮に「絶対に炎上する」と分かっていたとしても、やはり指摘するのは難しかっただろう と思う。アーティストのMVは、何ヶ月も前から準備がなされ、多くの人手とお金が費やされているのだから、世に出す前の段階で「絶対に炎上するから止めた方がいい!」と口に出すことは相当勇気が要る 。「大金を費やしたものを捨てる」と決断させることは大きな責任が伴う し、また、仮に「世に出さない」という判断に至ったとしても評価はされない だろう。「トラブルを解決した」のなら評価されるだろうが、「起こる”かもしれない”トラブルを未然に防いだ」というのは、「本当にそのトラブルが起こったのか」が分からない以上評価が難しい 。
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だからそんな「損な役回り」を引き受ける人間はそうそういない だろうし、だから今回のMVも表に出てしまった のだと私は思う。
さて、どうしてこんな話をしたのかというと、環境問題にも同じことが当てはまると考えている からだ。
私は、人類が今のままの生活を続ければ、そう遠くない未来、地球に住めなくなることは確実だと思っている 。しかしそれは「起こるかもしれないトラブル」でしかなく、実際には起こらないかもしれない 。どれだけコンピューターでシミュレーションしたところで、そうならない可能性は常に残る だろう。
さらに前述した通り、「環境問題に対処しましょう」という提案は概ね、「経済活動に制約を加えましょう」みたいな話に終着する 。となると、「100%起こるか分からない未来のために、『経済を停滞させる』なんてリスクを取るのか?」みたいな気持ちを抱く人も出てくる はずだ。そしてそんな風に手をこまねいている内に、人類は地球に住めなくなってしまう のである。まさに『コロンブス』のMVが世に出てしまったのと同じ理屈 と言えるだろう。
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だからこそ私は、「『NOを突きつける人』は評価されるべき 」だと思っている。そして現代では、「環境問題に関して『NOを突きつける人』は「環境活動家」「環境アクティビスト」と呼ばれている というわけだ。そのような捉え方をすると、また見え方が変わってくる のではないかと思う。
「未然に防ごうとする人」はなかなか評価されにくい だろう。つまり、「名画にトマトスープを投げること」も「石油パイプラインを爆破すること」も良いとは思えないが、しかし、未来にはその評価も変わっているかもしれない というわけだ。そのようなことを考えていたため、「本作『HOW TO BLOW UP』で描かれる若者たちをどう評価すべきか」の難しさを感じながらの鑑賞 となった。
映画『HOW TO BLOW UP』の内容紹介
冒頭では、後に「石油パイプラインの爆破」に関わる様々な人物の「日常」 が短い断片によって切り取られていく。ほとんどが「顔見せ」程度のシーン であり、1人1人の状況をしっかりと把握できるほどの描写ではない 。ただ、「とにかく様々なタイプの人間が関わっているのだな」ということだけは理解できる だろう。
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そしてそんな彼らが、テキサス州に準備した「アジト」へと向かうところから物語が動き出す 。もちろん目的は「石油パイプラインの爆破」 である。しかししばらくの間、「爆弾を作る」「穴を掘る」などの準備がひたすら映し出されるだけ で、「彼らがどんな事情を抱えてここに集まっているのか」についてはほとんど描かれはしない 。
そんな準備シーンに少しずつ、登場人物たちの「過去」が挿入されていく 。様々な背景を持つ者が、何故「石油パイプラインの爆破計画」に加わることになったのか 、その経緯が断片的に描かれていくのである。
この計画を立案したのは、ソチとショーンの2人 。恐らく同じ大学に通っているのだろう彼らは、元々「投資撤退(ダイベストメント)運動」に関わっていた 。「ダイベストメント」とは「投資(インベストメント)」の逆 で、気候変動への影響が大きい化石燃料関連会社や石炭火力発電企業への投資を止めさせようとする行為 を指す。投資が集まらなければ企業活動が成り立たない わけで、結果として気候変動を食い止めるための一助になるのではないか 、というわけだ。
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しかし、石油プラントがある町に住んでいるソチは、つい最近「熱波」が原因で母親を亡くした こともあり、「そんなヌルいやり方では社会構造は変えられない」と考える ようになる。そこでショーンと2人で、より積極的で実現可能な活動が出来ないか探ることにした というわけだ。そうして生まれたのが、石油パイプラインの爆破計画 である。
さらにそこに、「石油プラント建設のために先祖伝来の土地を奪われたネイティブアメリカン 」や、「石油パイプライン建設のために強制的に立ち退きさせられた家族 」などが加わり、実際に行える計画として細部を練っていく のだが……。
映画『HOW TO BLOW UP』の感想
冒頭でも書いた通り、本作はテーマもストーリーも興味深く、さらにどちらも非常にシンプル である。にも拘らず、後半に進むにつれて、「そんな展開になるのか!!」という物語になっていく構成 であり、強く惹きつけられてしまった。とにかく脚本が見事 な映画で、エンタメ作品として非常に優れている と思う。
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また、冒頭からずっと爆弾作成などの準備シーンが続くので、「ノンフィクション的なリアルさで石油パイプライン爆破までの過程を描き出す作品なんだろう」と考えていた のだが、それが良い意味で裏切られた ことも印象的だった。確かに、途中途中で「ん?」と疑問に感じる場面が出てきはする 。しかし、大した違和感ではなかったためスルーしていたら、最後の最後にそれらの違和感がすべて綺麗に回収されていく のだ。なかなか鮮やかな物語 だったなと思う。
そしてその上で、「それぞれの登場人物が『のっぴきならない事情』を抱えている」という背景描写もとても上手い と感じた。
当然のことながら、よほどの理由がない限りテロなんか計画・実行しない だろう。アメリカでは、「テロ行為」と認定されると、最低でも15年は刑務所に入れられる らしく、逮捕された場合のリスクが非常に大きい 。しかも銀行強盗などとは違って、計画が成功しても大金が入ってくるわけじゃない のだ。そういう中で、「この計画のためだけに集まった見知らぬ者同士」が「石油パイプラインの爆破」を成し遂げるのはなかなか難しい ように感じられるんじゃないかと思う。
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しかし登場人物にはそれぞれ、この計画に「関わりたい/関わらなければならない」理由が存在する 。その理由が準備シーンの合間に挿入される物語の中で描き出される のだが、これがとても良く出来ていた 。皆それぞれ色んな形で「石油関連企業に対する直接的な恨み」を抱いている のである。そのお陰で困難な状況でも団結でき 、さらに言えば、ラストの「そんな結末を迎えるのか!」という展開に対するリアリティにもなっていた と言えるだろう。様々な要素が有機的に繋がっており、シンプルな物語を演出でとても魅力的に見せている と感じさせられた。
作品のテーマ性などから、エンタメ作品であるようにはあまり見えないかもしれないが、かなりきっちりとエンタメしている印象 で、割と広く興味を持ってもらえる作品ではないかと思う。
監督:ダニエル・ゴールドハーバー, 出演:アリエラ・ベアラー, 出演:サッシャ・レイン, 出演:ルーカス・ゲイジ, 出演:クリスティン・フロセス, 出演:フォレスト・グッドラック
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最後に
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私は「映画監督」や「配給会社」などに詳しくなく 、「配給会社」で言えば「A24」ぐらいしかちゃんと認識出来ているところがない 。それで本作『HOW TO BLOW UP』は、『パラサイト 半地下の家族』『燃ゆる女の肖像』『TITANE/チタン』『落下の解剖学』などを手掛けた「NEON」が配給に関わっている とのことで、新たに覚えておこうと思った。先に挙げた映画はすべて観ているし、好き嫌いはともかく、尖った作品であることは確か だからだ。気になる映画を配給する会社である。
そんなわけで、実に興味深い作品だった なと思う。
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【真実】田原総一朗✕小泉純一郎!福島原発事故後を生きる我々が知るべき自然エネルギーの可能性:映画『…
田原総一朗が元総理・小泉純一郎にタブー無しで斬り込む映画『放送不可能。「原発、全部ウソだった」』は、「原発推進派だった自分は間違っていたし、騙されていた」と語る小泉純一郎の姿勢が印象的だった。脱原発に舵を切った小泉純一郎が、原発政策のウソに斬り込み、再生可能エネルギーの未来を語る
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【信念】凄いな久遠チョコレート!映画『チョコレートな人々』が映す、障害者雇用に挑む社長の奮闘
重度の人たちも含め、障害者を最低賃金保証で雇用するというかなり無謀な挑戦を続ける夏目浩次を追う映画『チョコレートな人々』には衝撃を受けた。キレイゴトではなく、「障害者を真っ当に雇用したい」と考えて「久遠チョコレート」を軌道に乗せたとんでもない改革者の軌跡を追うドキュメンタリー
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【爆笑】ダースレイダー✕プチ鹿島が大暴れ!映画『センキョナンデス』流、選挙の楽しみ方と選び方
東大中退ラッパー・ダースレイダーと新聞14紙購読の時事芸人・プチ鹿島が、選挙戦を縦横無尽に駆け回る様を映し出す映画『劇場版 センキョナンデス』は、なかなか関わろうとは思えない「選挙」の捉え方が変わる作品だ。「フェスのように選挙を楽しめばいい」というスタンスが明快な爆笑作
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【異常】韓国衝撃の実話を映画化。『空気殺人』が描く、加湿器の恐怖と解決に至るまでの超ウルトラC
2011年に韓国で実際に起こった「加湿器殺菌剤による殺人事件」をモデルにした映画『空気殺人』は、金儲け主義の醜悪さが詰まった作品だ。国がその安全を保証し、17年間も販売され続けた国民的ブランドは、「水俣病」にも匹敵する凄まじい健康被害をもたらした
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【性加害】映画『SHE SAID その名を暴け』を観てくれ。#MeToo運動を生んだ報道の舞台裏(出演:キャリ…
「#MeToo」運動のきっかけとなった、ハリウッドの絶対権力者ハーヴェイ・ワインスタインを告発するニューヨーク・タイムズの記事。その取材を担った2人の女性記者の奮闘を描く映画『SHE SAID その名を暴け』は、ジャニー喜多川の性加害問題で揺れる今、絶対に観るべき映画だと思う
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【衝撃】匿名監督によるドキュメンタリー映画『理大囲城』は、香港デモ最大の衝撃である籠城戦の内部を映す
香港民主化デモにおける最大の衝撃を内側から描く映画『理大囲城』は、とんでもないドキュメンタリー映画だった。香港理工大学での13日間に渡る籠城戦のリアルを、デモ隊と共に残って撮影し続けた匿名監督たちによる映像は、ギリギリの判断を迫られる若者たちの壮絶な現実を映し出す
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【解説】実話を基にした映画『シカゴ7裁判』で知る、「権力の暴走」と、それに正面から立ち向かう爽快さ
ベトナム戦争に反対する若者たちによるデモと、その後開かれた裁判の実話を描く『シカゴ7裁判』はメチャクチャ面白い映画だった。無理筋の起訴を押し付けられる主席検事、常軌を逸した言動を繰り返す不適格な判事、そして一枚岩にはなれない被告人たち。魅力満載の1本だ
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【執念】「桶川ストーカー事件」で警察とマスコミの怠慢を暴き、社会を動かした清水潔の凄まじい取材:…
『殺人犯はそこにいる』(文庫X)で凄まじい巨悪を暴いた清水潔は、それよりずっと以前、週刊誌記者時代にも「桶川ストーカー殺人事件」で壮絶な取材を行っていた。著者の奮闘を契機に「ストーカー規制法」が制定されたほどの事件は、何故起こり、どんな問題を喚起したのか
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【あらすじ】嵐莉菜主演映画『マイスモールランド』は、日本の難民問題とクルド人の現状、入管の酷さを描く
映画『マイスモールランド』はフィクションではあるが、「日本に住む難民の厳しい現実」をリアルに描き出す作品だ。『東京クルド』『牛久』などのドキュメンタリー映画を観て「知識」としては知っていた「現実」が、当事者にどれほどの苦しみを与えるのか想像させられた
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【差別】映画『チェチェンへようこそ ゲイの粛清』の衝撃。プーチンが支持する国の蛮行・LGBT狩り
プーチン大統領の後ろ盾を得て独裁を維持しているチェチェン共和国。その国で「ゲイ狩り」と呼ぶしかない異常事態が継続している。映画『チェチェンへようこそ ゲイの粛清』は、そんな現実を命がけで映し出し、「現代版ホロコースト」に立ち向かう支援団体の奮闘も描く作品
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【対立】パレスチナとイスラエルの「音楽の架け橋」は実在する。映画『クレッシェンド』が描く奇跡の楽団
イスラエルとパレスチナの対立を背景に描く映画『クレッシェンド』は、ストーリーそのものは実話ではないものの、映画の中心となる「パレスチナ人・イスラエル人混合の管弦楽団」は実在する。私たちが生きる世界に残る様々な対立について、その「改善」の可能性を示唆する作品
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【事件】デュポン社のテフロン加工が有害だと示した男の執念の実話を描く映画『ダーク・ウォーターズ』
世界的大企業デュポン社が、自社製品「テフロン」の危険性を40年以上前に把握しながら公表せず、莫大な利益を上げてきた事件の真相を暴き出した1人の弁護士がいる。映画『ダーク・ウォーターズ』は、大企業相手に闘いを挑み、住民と正義のために走り続けた実在の人物の勇敢さを描き出す
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【現実】権力を乱用する中国ナチスへの抵抗の最前線・香港の民主化デモを映す衝撃の映画『時代革命』
2019年に起こった、逃亡犯条例改正案への反対運動として始まった香港の民主化デモ。その最初期からデモ参加者たちの姿をカメラに収め続けた。映画『時代革命』は、最初から最後まで「衝撃映像」しかない凄まじい作品だ。この現実は決して、「対岸の火事」ではない
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【貢献】社会問題を解決する2人の「社会起業家」の生き方。「豊かさ」「生きがい」に必要なものは?:『…
「ヤクの毛」を使ったファッションブランド「SHOKAY」を立ち上げ、チベットの遊牧民と中国・崇明島に住む女性の貧困問題を解決した2人の若き社会起業家の奮闘を描く『世界を変えるオシゴト』は、「仕事の意義」や「『お金』だけではない人生の豊かさ」について考えさせてくれる
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【不安】環境活動家グレタを追う映画。「たったひとりのストライキ」から国連スピーチまでの奮闘と激変…
環境活動家であるグレタのことを、私はずっと「怒りの人」「正義の人」だとばかり思っていた。しかしそうではない。彼女は「不安」から、いても立ってもいられずに行動を起こしただけなのだ。映画『グレタ ひとりぼっちの挑戦』から、グレタの実像とその強い想いを知る
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【信念】水俣病の真実を世界に伝えた写真家ユージン・スミスを描く映画。真実とは「痛みへの共感」だ:…
私はその存在をまったく知らなかったが、「水俣病」を「世界中が知る公害」にした報道写真家がいる。映画『MINAMATA―ミナマタ―』は、水俣病の真実を世界に伝えたユージン・スミスの知られざる生涯と、理不尽に立ち向かう多くの人々の奮闘を描き出す
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【衝撃】『殺人犯はそこにいる』が実話だとは。真犯人・ルパンを野放しにした警察・司法を信じられるか?
タイトルを伏せられた覆面本「文庫X」としても話題になった『殺人犯はそこにいる』。「北関東で起こったある事件の取材」が、「私たちが生きる社会の根底を揺るがす信じがたい事実」を焙り出すことになった衝撃の展開。まさか「司法が真犯人を野放しにする」なんてことが実際に起こるとは。大げさではなく、全国民必読の1冊だと思う
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【抽象】「思考力がない」と嘆く人に。研究者で小説家の森博嗣が語る「客観的に考える」ために大事なこ…
世の中にはあまりに「具体的な情報」が溢れているために、「客観的、抽象的な思考」をする機会が少ない。そんな時代に、いかに思考力を育てていくべきか。森博嗣が『人間はいろいろな問題についてどう考えていけば良いのか』を通じて伝える「情報との接し方」「頭の使い方」
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【凄絶】北朝鮮の”真実”を描くアニメ映画。強制収容所から決死の脱出を試みた者が語る驚愕の実態:『ト…
在日コリアン4世の監督が、北朝鮮脱北者への取材を元に作り上げた壮絶なアニメ映画『トゥルーノース』は、私たちがあまりに恐ろしい世界と地続きに生きていることを思い知らせてくれる。最低最悪の絶望を前に、人間はどれだけ悪虐になれてしまうのか、そしていかに優しさを発揮できるのか。
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【生き方】人生が虚しいなら映画『人生フルーツ』を見ると良い。素敵な老夫婦の尖った人生がここにある
社会派のドキュメンタリー映画に定評のある東海テレビが、「なんでもない老夫婦の日常」を映画にした『人生フルーツ』には、特に何が起こるわけでもないのに「観て良かった」と感じさせる強さがある。見た目は「お年寄り」だが中身はまったく古臭くない”穏やかに尖った夫婦”の人生とは?
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【危険】遺伝子組換え作物の問題点と、「食の安全」を守るために我々ができることを正しく理解しよう:…
映画『食の安全を守る人々』では、世界的バイオ企業「モンサント社」が作る除草剤「ラウンドアップ」の問題を中心に、「食の安全」の現状が映し出される。遺伝子組み換え作物や輸入作物の残留農薬など、我々が口にしているものの「実態」を理解しよう
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【危機】シードバンクを設立し世界の農業を変革した伝説の植物学者・スコウマンの生涯と作物の多様性:…
グローバル化した世界で「農業」がどんなリスクを負うのかを正しく予測し、その対策として「ジーンバンク」を設立した伝説の植物学者スコウマンの生涯を描く『地球最後の日のための種子』から、我々がいかに脆弱な世界に生きているのか、そして「世界の食」がどう守られているのかを知る
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【実話】権力の濫用を監視するマスコミが「教会の暗部」を暴く映画『スポットライト』が現代社会を斬る
地方紙である「ボストン・グローブ紙」は、数多くの神父が長年に渡り子どもに対して性的虐待を行い、その事実を教会全体で隠蔽していたという衝撃の事実を明らかにした。彼らの奮闘の実話を映画化した『スポットライト』から、「権力の監視」の重要性を改めて理解する
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【情熱】映画『パッドマン』から、女性への偏見が色濃く残る現実と、それを打ち破ったパワーを知る
「生理は語ることすらタブー」という、21世紀とは思えない偏見が残るインドで、灰や汚れた布を使って経血を処理する妻のために「安価な生理用ナプキン」の開発に挑んだ実在の人物をモデルにした映画『パッドマン 5億人の女性を救った男』から、「どう生きたいか」を考える
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【貢献】働く上で大切にしたいことは結局「人」。海士町(離島)で持続可能な社会を目指す若者の挑戦:…
過疎地域を「日本の未来の課題の最前線」と捉え、島根県の離島である「海士町」に移住した2人の若者の『僕たちは島で、未来を見ることにした』から、「これからの未来をどう生きたいか」で仕事を捉える思考と、「持続可能な社会」の実現のためのチャレンジを知る
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【絶望】権力の濫用を止めるのは我々だ。映画『新聞記者』から「ソフトな独裁国家・日本」の今を知る
私個人は、「ビジョンの達成」のためなら「ソフトな独裁」を許容する。しかし今の日本は、そもそも「ビジョン」などなく、「ソフトな独裁状態」だけが続いていると感じた。映画『新聞記者』をベースに、私たちがどれだけ絶望的な国に生きているのかを理解する
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【情熱】「ルール」は守るため”だけ”に存在するのか?正義を実現するための「ルール」のあり方は?:映…
「ルールは守らなければならない」というのは大前提だが、常に例外は存在する。どれほど重度の自閉症患者でも断らない無許可の施設で、情熱を持って問題に対処する主人公を描く映画『スペシャルズ!』から、「ルールのあるべき姿」を考える
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【ゴミ】プラスチックによる環境問題の実態を描く衝撃の映画。我々は現実をあまりに知らない:映画『プ…
プラスチックごみによる海洋汚染は、我々の想像を遥かに超えている。そしてその現実は、「我々は日常的にマイクロプラスチックを摂取している」という問題にも繋がっている。映画『プラスチックの海』から、現代文明が引き起こしている環境破壊の現実を知る
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我々の日常生活は、原発が生み出す電気によって成り立っているが、核廃棄物の最終処分場は世界中で未だにどの国も決められていないのが現状だ。映画『地球で最も安全な場所を探して』をベースに、「核のゴミ」の問題の歴史と、それに立ち向かう人々の奮闘を知る
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「遺伝子組み換え作物が危険かどうか」以上に注目すべきは、「モンサント社の除草剤を摂取して大丈夫か」である。種子を独占的に販売し、農家を借金まみれにし、世界中の作物の多様性を失わせようとしている現状を、映画「モンサントの不自然な食べもの」から知る
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【意外】思わぬ資源が枯渇。文明を支えてきた”砂”の減少と、今後我々が変えねばならぬこと:『砂と人類』
「砂が枯渇している」と聞いて信じられるだろうか?そこら中にありそうな砂だが、産業用途で使えるものは限られている。そしてそのために、砂浜の砂が世界中で盗掘されているのだ。『砂と人類』から、石油やプラスチックごみ以上に重要な環境問題を学ぶ
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日本は、死を覚悟して福島第一原発に残った「Fukushima50」に救われた。東京を含めた東日本が壊滅してもおかしくなかった大災害において、現場の人間が何を考えどう行動したのかを、『死の淵を見た男』をベースに書く。全日本人必読の書
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