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この記事の3つの要点
- 本書には、ガロアが遺した「群論」に関する記述はほとんどない
- 不運が結果的にプラスになることもあったが、最終的にはあまりの不運に人生を狂わされてしまった
- ガロアの死の真相は、未だにはっきりとは分かっていない
映画化されていないのが不思議なくらい、「激動」と感じられる人生を歩んだ人物です
自己紹介記事
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
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この記事の構成について
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本書は、数学史上に名を残す大天才・ガロアについての本だが、一般的な「ガロアに関する本」とは違い、ガロアが生み出した理論に関する描写はほとんどない。本書の著者は数学者であり、数学に関する著作も多い人物だが、本書は数学書というよりは歴史書である。
このブログでは、ガロア理論に関しての記事も書いているので、数学的な内容を知りたい方は是非以下の記事を読んでほしい。
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ガロアは「20歳の時に決闘で死んだ」という、学問の世界に名を残す人間としてはかなり特異と言える死に方をしている。しかし、あまりにも有名すぎるこのエピソード以外は、ガロアの人となりを伝える作品は多くない。
著者はガロアという人物に強い関心を抱いているようで、数学者による本としては珍しく、偉人の過去を掘り下げていく内容になっている。さらに著者が数学者であるため、普通には理解しにくい「ガロアの発見の凄さ」を数学者の実感として知ることができるという意味でも、「ガロアという天才数学者の実像」を的確に捉えやすい1冊になっていると言えるだろう。
本書の内容すべてを書いてしまわないように、この記事では、「ガロアが数学に目覚めたきっかけ」と「ガロアが革命思想に目覚めたきっかけ」を中心に触れていくつもりだ。
ガロアはどれほど天才だったのか
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本書では、数学的な記述はしないのだが、「ガロアはどれだけ天才なのか」に関する著者の実感はたびたび出てくる。
まずは、こんな文章からだけでも、ガロアの凄まじさが伝わることだろう。
彼は近代数学史上最大の発見と言っても過言ではない、巨大な業績を残しました。ただ単に何らかの問題を解いた、というだけにとどまりません。その業績は、それ以後の数学の歴史を根本から変えたのです。パラダイムを変えた、と言ってもいいでしょう。彼のもたらした原理や考え方は、現在でも数学研究の基層に生きていますし、数世紀先の未来でも同様でしょう
ガロアが生み出した「群論」という考え方は、現代数学のまさに基礎と言っていいものだ。「群論」無しでは現代数学の研究など行えないし、科学研究にも影響を及ぼすかもしれない。まさに「根本から変えた」発見なのだ。
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それを、弱冠20歳の青年が成し遂げてしまったことについては、こんな風に書いている。
現在の我々の状況に翻訳すれば、高校生が突如として現代数学において大発見をする、という感じになるでしょう。しかも、それは単なる発見ではなく、その後の歴史の数世紀分を変えてしまうような種類の巨大で深遠な金字塔なのです。そんなことが本当に可能なのか? と疑いたくなってしまうくらいです
例えば、「高校生ピッチャーが大リーグのデビュー戦で完全試合を達成する」みたいな感じだろうか。とにかく、マンガでも描けないようなとんでもない偉業を成し遂げた、と言っていいと思う。
ガロアが生み出した「群論」は、彼が生きた時代にはその考え方を記述する単語や概念が存在せず、ガロアはその当時存在した言葉だけでまったく新しい考えを説明する必要があった。例えるなら、「江戸時代に存在した言葉だけでスマートフォンの説明をする」みたいなものだろう。
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そのような障害があったために、「ガロアの第一論文」と呼ばれる、ガロアが死の間際に遺した論文は、非常に理解しにくいという。だからこそ、当時の数学者にはなかなか受け入れられなかった。
著者もこんな風に書いている。
もちろん、例えば筆者が1831年当時にこの論文を見ていたとして、これを理解できたとはちょっと思えない。
本書ではこのように、「現役の数学者が、当時のガロアの凄さを、数学者視点で語ってくれる」という意味で、その凄さを実感しやすい作品になっている。
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著者はガロアを絶賛しており、作中にはこんな文章もある。
数学という学問はこのような視点からも鳥瞰することができる。このことを二十歳のガロアは筆者に教えてくれた。それだけでも筆者は幸せだ!
数学者ではない私には正直、「群論」の強力さはあまり理解できないのだが、数学者がこんな風に語ってくれるお陰で、その凄まじさを間接的に実感できている。
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”留年”のお陰で出会えた教科書
ガロアが生まれる少し前のフランスでは、「教育」の重要性があまり認識されていなかったという。その状況を変えたのがフランス革命であり、ナポレオンである。ナポレオンは「リセ」と呼ばれる高等中学校を設置し、教育に力を入れた。
そんな「リセ」の中でも特に超名門校として知られるのが「ルイ・ル・グラン」だ。ガロアはここに入学し、その中でも非常に優秀な成績を収める生徒だったという。
しかし一方でこの「ルイ・ル・グラン」は、超スパルタの学校としても有名だった。ガロアはここでの学校生活を通じて、「専制」や「圧制」を肌で実感する。これらは、後のガロアの革命に対する考えの基盤となったと考えられているという。さらに、ガロア自身が関わったわけではないが、「聖シャルルマーニュ祭の乾杯事件」なるものが起こり、その事件の顛末がガロアの中で「専制が強権を振り回した出来事」として記憶されることにもなった。
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ガロアは優秀だったのだが、進級に関してゴタゴタに巻き込まれてしまう。一度進級するのだが、元の学級に戻されてしまったのだ。しかし結果的にこの出来事は、ガロアが数学に興味を持つ大きなきっかけとなった。戻った学級で使われていた、ルジャンドルの「幾何学原論」という教科書に出会えたからだ。
マスターするのに通常2年は掛かると言われる難解な本だが、ガロアはたった2日で読んでしまったという伝説がある。その真偽はともかく、ガロアはもう数学しか目に入らなくなり、これまでの大数学者たちの著作を読んで独学するようになっていくのだ。
”受験の失敗”のお陰で出会えた先生と、数学者・コーシーの評価
その後ガロアは、「エコール・ポリテクニーク(高等理工科学校)」を目指すことになる。そこがパリの一流数学者たちの<住処>であり、パリはヨーロッパの学問の中心でもあったので「数学界の中心」と呼んでもいい場所だったからだ。
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ガロアは一刻も早く「エコール・ポリテクニーク」に入学したかったので、1年早く受験するのだが、試験に落ちてしまう。この不合格については、「試験が形骸化していた」「能力は十分だったが、ガロアの態度に問題があると判断された」など様々な説が存在するようだが、ガロア自身は「公正さを欠いた試験だった」と受け取っていたそうだ。
ガロアはその後も、この時に感じたような「自分は正当に扱われていない」という感覚を抱くことになる。そしてそのような不満の積み重ねが、社会への反抗思想へと繋がっていくことになるのである。
しかしこの時もまた、受験の失敗は決してマイナスにはならなかった。失意と共に「ルイ・ル・グラン」に戻ったガロアはそこで、リシャール先生と出会うことになったからだ。
リシャール先生は非常に有能な数学教師であり、さらに人間的にも優れていたために、ガロアは初めて「自分の才能をきちんと理解し、正当に評価してくれる人に出会えた」と感じたという。そしてこの出会いをきっかけとして、ガロアは学生の身分でありながら、専門誌への論文掲載が認められる。さらに、アカデミーにも論文提出を果たすまでになっていくのだ。
しかしこのアカデミーへの論文提出には有名なエピソードがある。提出した論文が紛失してしまったのだ。
当時のガロアが考えていたことは、まさに現在「群論」と呼ばれているものであり、リシャール先生はガロアの論文を読んでその先駆性・重要性をすぐに理解したという。そこでアカデミーへの論文提出を目指し、最終的に、当代随一と呼ばれる数学者・コーシーに論文を渡すことができた。
しかしコーシーに渡ったはずの論文は、どこかで紛失してしまう。しかもコーシーは、ガロアの論文に対してさほど関心を抱いていなかったとされている。一般的に、ガロアの物語に登場するコーシーは「ガロアの論文を雑に扱った人物」として描かれることが多いのだ。
しかし、著者はこの点に関して一般的なイメージと異なる見解を示している。
著者いわく、コーシーが遺した様々な文書を辿ることで、「コーシーがガロアの論文の重要性を正しく理解していた」と分かるのだという。ではなぜ、「コーシーはガロアの論文に関心を抱かなかった」という印象になっているのか。著者はそれを、「コーシーがガロアの論文の内容を完全に理解してしまったからではないか」と指摘している。これはまさに数学者ならではの捉え方だと言えるだろう。
数学者に限らないだろうが、研究者というのは常に自分の研究のことで頭が一杯だから、「一度理解してしまった事柄」への関心が薄れるのは仕方ない、と著者は主張している。つまり、「コーシーがガロアの論文に無関心のように見える」のは「彼がガロアの論文を完璧に理解した」からであり、「完璧に理解しようと思えるほど重要な内容だと判断していた」はずだ、と著者は考えているようである。
非常に納得感のある捉え方だと思う。本書でコーシーに対する印象は変わった。
しかしそれは後年の視点である。当時のガロアの視点に立てばやはり、「自分は正当に扱われていない」という印象が増す経験だったことだろう。本当に不運としか言いようがない。
ガロアに不運が続いていく
さて、1年待ってガロアは再び「エコール・ポリテクニーク」の受験に挑む。しかし2度目の受験もなんと失敗に終わってしまう。
この2度目の不合格については、
この事件はフランス教育史上でも稀有の大スキャンダルとされた
というほど大問題として扱われた。それも当然だ。ガロアは学生という身分でありながら複数の論文が専門誌に掲載されている。しかも、結果的に紛失されてしまったものの、アカデミーへの論文提出まで果たしているのだ。それなのに不合格。現在では、学校側に何らかの不正、あるいは誤りがあったはずだ、という見解で一致しているという。
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これはガロアの人生を大きく狂わせる結果となった。何故なら「エコール・ポリテクニーク」の受験は2回までしか許されていないからだ。憧れていた学校への入学は、永遠に叶わないものとなってしまう。数学しか勉強せず、素行も悪い生徒だったガロアだが、様々な特例措置のお陰で、どうにか別の学校へ進学ということになった。
さらに不運は続く。
ガロアは、再びアカデミーへ論文を提出する。今度も偉大な数学者として知られていたフーリエに渡したのだが、その直後なんとフーリエは死亡してしまい、そのためにまた論文は行方知れずになってしまうのだ。ついてないにもほどがある。
さらに、ガロアを「革命」へと駆り立てる出来事が起こる。
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当時フランスでは「七月革命」の真っ最中だった。しかし、ガロアが通うことになった学校の校長は、自身の保身ゆえに、学生全員を学校の外に出さないと決断する。この時ガロアはこんな想いだったに違いない。もし「エコール・ポリテクニーク」に入学できていれば、今頃「七月革命」にも参加できていたのに、と。
さらに「七月革命」が収まりつつある中で、校長がまたも保身を考えて態度を変える様を見て、社会や制度などへの嫌悪感がいや増し、ガロアの気持ちは一層「革命」へと傾いていくことになる。
その後、3度目の正直とばかりにアカデミーへの論文提出を行う。さすがに3度も同じことは起こらず、この論文は現存している。しかし、やはりあまりに先駆的な内容だったためにガロアの論旨が十分理解されることはなく、「現代数学の礎」と言われるほど重要な論文が「不十分」という評価で終わってしまう。
この評価について著者はこんな風に書いている。まず、著者自身も「理解できなかったかもしれない」と書いていたように、やはり用語や概念が整っていない状態で「群論」について説明しなければならなかったために、主張が上手く理解されなかったのは仕方ない面もある、と擁護している。しかしその一方で、著者の判断では「コーシーはガロアの主張を正しく理解していた」のだから、「3度目の論文を査読したポアソンの理解力に問題があったのではないか」とも指摘している。
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いずれにせよ、何度もチャンスがありながらも、様々な不運の積み重ねにより、ガロアは生前評価されることがなかった。
その後「革命」にのめり込むことになる
自身の数学が理解されない中で、フランス国内は革命の色が濃くなっていき、「専制・圧制」の経験や「自分は正当に扱われていない」という感覚の積み重ねから、ガロアは革命家としての活動が強くなっていく。それゆえに、逮捕や裁判が繰り返されることになる。
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ある時ガロアは、元々収容されていた監獄から、衛生状態の良い療養所へと移されたことがあった。そしてその療養所で、運命の女性と出会った。その恋がどうやって始まり、どんな風に展開したのかを知る資料は存在しないが、最終的に上手くいかなかったことだけは間違いないそうだ。
それがきっかけになったのか、ガロアはその後これまでの自分の考え(後に「群論」として知られることになるもの)を大急ぎでまとめ、死を覚悟した手紙と共に親友のシュヴァリエに託した。ガロアの死後、このシュヴァリエがガロアの考えを数学者に認めさせようと奮闘したことで、ガロアの考えが失われずに残っているのだ。
それからガロアは、よく知られているように決闘で命を落とすことになる。この死に関しても、まだ謎は多いそうだ。「自殺説」「恋愛説」「陰謀説」など、いくつか仮説は提示されているようだが、どれも決定打に欠けるようで、その真相は判然としていない。
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ガロアの「群論」は、数学は好きだが得意と言えるほどではない私にとってはなかなか理解が難しく、すんなり理解できるものではない。しかし、そんな人物がどんな風に生き、その生涯を終えることになったのかという物語は、彼が遺した数学を理解できなくても興味深く知ることができる。
やはり未来を変える人間は、同時代には理解されないのだろうとも感じるし、そう思えば思うほど、その時代の価値観だけで物事を判断してしまうことの怖さも実感させられる内容ではないかと思う。
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ルシルナ
才能・センスがない【本・映画の感想】 | ルシルナ
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