【正義?】FBIが警告した映画『HOW TO BLOW UP』は環境活動家の実力行使をリアルに描き出す

目次

はじめに

この記事で取り上げる映画

監督:ダニエル・ゴールドハーバー, 出演:アリエラ・ベアラー, 出演:サッシャ・レイン, 出演:ルーカス・ゲイジ, 出演:クリスティン・フロセス, 出演:フォレスト・グッドラック
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この映画をガイドにしながら記事を書いていきます

この記事の3つの要点

  • 「名画にトマトスープを投げつける環境アクティビスト」に対して私が抱いている感覚について
  • 「気候変動に対処するため石油パイプラインを爆破する」という行動を許容するための理屈は存在し得るか?
  • 爆破計画に”関わらざるを得なかった”者たちの背景を織り交ぜながら、エンタメ作品として見事に着地させている

テーマも物語も実に興味深く、シンプルながら奥行きのある物語がとても見事だった

自己紹介記事

どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください

FBIが「テロを助長する」と警告した映画『HOW TO BLOW UP』は、環境活動家のリアルな抵抗をエンタメとして描き出す良作

実に面白い物語だった。もちろんテーマが興味深かったのも良かった点なのだが、何よりもシンプルにストーリーが面白かったのだ。決して長くはない物語なのだが、情報の提示の仕方などが絶妙で、重厚な作品を観たような気分になれた

さて、本作『HOW TO BLOW UP』は「FBIが警告を発した映画」としても話題になった作品である。「この映画を観た人間が、同じようなテロをやりかねない」と懸念したというわけだ。観る前は正直、「宣伝文句としてちょっと大げさに使っているのだろう」ぐらいに思っていたのだが、観終えて「なるほど、確かにな」と感じさせられた。日本には「石油パイプライン」はあまりないはずだし、なかなか身近に見ることもないので実感しにくいと思うが、本作を観ると、「テロのターゲット」として「石油パイプライン」を選ぶ合理性が理解できる砂漠地帯を通るパイプラインはむき出しの箇所もあるので、狙いやすいのだ。

また、爆弾の作り方だって、今どきいくらでもネットで拾えるだろう。もちろん、作中である人物が言っていたように、「爆弾を自作する奴の半分は、作っている時に爆破させる」そうなので、決して簡単ではないだろうが、可能ではあると思う。となれば、本作で提示されたのと同じテロを実行に移すことは、案外簡単なのかもしれないとも感じた。「FBIが警告した」というのも誇張ではなく、割と現実的な指摘だったのだろう

リアリティを保ちながら、エンタメとしても非常によく出来た作品というわけだ。

「過激な環境活動家」に対する私のスタンス

最近、「環境活動家」「環境アクティビスト」といった単語を目にするようになってきた。よく報じられるのは、「美術館に展示されている名画にトマトスープやマッシュポテトを投げる」といった活動で、「気候変動」への関心を抱かせようと奮闘する人たちのことである。「『名画を汚すこと』がどう環境に関係するのだろう」とも思うが、恐らく、「『軽犯罪程度で済む話題性のある行為』によって注目を集め、自分たちの主張を聞いてもらおうとしている」のだと思う。あるいは、「『資本主義の象徴』として『バカみたいに値段が高いもの』を標的にしている」なんて意図もあるのかもしれない

さてそんなわけで、ここではまず「そのような活動に効果があるのか」という点を検証してみたいと思う。

まず「良いか悪いか」の話をするなら、そりゃあ悪いに決まっているだろう。恐らく何らかの犯罪行為には該当するはずだ。またそうではないのだとしても、「名画」は気候変動に対して何の罪もない「本質的な意味で『悪』とは言えない対象」をターゲットにしているわけで、倫理的に許容されるはずがないと思う。

ただこうも考えられる。名画はガラスなどで保護されているわけだから、実質的な被害はほとんどないと言っていいだろう。そしてその上で、「注目を集めて自説を訴える」ことによって考えが変わる人がいるなら、「最小のコストで可能な限りのリターンを得ている」ということになる。だとすれば、倫理的に許容されないとしても、認め得る余地がどこかにあるのではないか、と考えることも可能だ。

このように、なかなかシンプルには判断できない問題なのである。そこで私は、この問題に対して分かりやすい基準を設けたいと思う。それは、「彼らの仲間になりたいかどうか」だ。気候変動などの環境問題が喫緊の課題であることは間違いないのだから、「『彼らの考えに賛同する人』が増えること」は喜ばしいはずである。なので、「彼らの活動の結果、『仲間になりたい』という人が増えれば『善』、増えなければ『悪』」という基準を設けることは妥当だと思う(もちろん、「考えには賛同するが仲間にはなりたくない」という意見も存在するとは思うが、とりあえずそれは無視している)。

そして私個人は、「名画にトマトスープを投げるような集団」の仲間なんかには絶対になりたくない。だから、私だけの話で言えば「悪」だし「逆効果」でしかないというわけだ。ただあくまでもこれは私の感覚であり、一般的にどうなのかは分からない。もしも「名画にトマトスープを投げることで『仲間になりたい』という人が増えている」のであれば、彼らの活動を許容せざるを得ないだろうと考えている。まあ実際のところ、彼らが賛同を集めているのかは何とも分からないのだが。

「他に代替手段が無い」のなら許容せざるを得ない

さて、先程した「仲間になりたいかどうか」という話とは別に、この問題に対してはもう1つ感じることがある。それは「世代ごとの感覚の違いが大きい」ということだ。

若い世代ほど環境問題に関心が高く、実際に行動を起こしているのも彼らである若い世代の方が明らかに「より長く地球に住む」ことになるし、子どもを生み育てることまで考えれば、「自分の死後も『住める地球』を残したい」と考えていると思う。一方で、年代が上がれば上がるほど、「自分はどうにか逃げ切れるだろう」という考えから、環境問題への関心は薄くなっていくはずだ。

さて、少なくとも今の日本においては、「社会構造を変えるような力を持つ者」は大体年寄りである。つまり、「年寄りの考えを変えなければ社会は変わらない」というわけだ。そのように考えるとやはり、「名画にトマトスープを投げる」というやり方では上手くいかないだろう。年寄りはむしろ、「野蛮な連中だ」「あんな野蛮な奴らの言うことなど聞くものか」と、余計に意固地になってしまうかもしれない。

そして本作『HOW TO BLOW UP』の登場人物たちは、そのような感覚を抱いているが故に「石油パイプラインを爆破する」という実力行使に打って出るのである。「決定権を持つ者の目を見開かせる」みたいなことをやらなければ何も変わらないし、意味がないというわけだ。「名画にトマトスープを投げる」と比べたら、被害も損失も比較にならないぐらいの行動の背景には、「ぬるいことなんかやってられない」という明確な意思が潜んでいるのである。

では、「石油パイプラインを爆破する」という行為の是非について考えてみよう。「良いか悪いか」で言えば、もちろん議論の余地なく「悪い」である。明確な犯罪行為だし、被害額も相当なものになるはずだからだ。また、ただの映画でしかない本作に対してFBIが警告を発したことを考えれば、実際に石油パイプラインを爆破するテロが起こる可能性も、後に続く者が現れる可能性も十分あり得るのだろう。そのようなことを様々に考え合わせれば、許容出来る余地はないように思える。

さて、ここで少し「法を犯すこと」そのものについて考えてみよう。私は基本的に、「どんな理由があれ『法を犯すこと』は避けるべき」だと思っている。それがどれだけ理不尽な法だとしても時間を掛けて「法改正」を目指すべきだし、その選択肢が存在している以上は、「法を犯すこと」が許容される余地はないというのが基本的なスタンスだ。

ただやはり、「法改正なんて悠長なことを言っていられない」みたいな状況もあるはずだし、そのような場合、「『法を犯す』以外の代替手段が存在しない」という可能性だってあるだろう。そして私は、「そういう状況であれば『法を犯すこと』も止むなし」と考えているのだ。もちろん、法を犯したのであれば処罰されなければならないし、それを免除しろなんて話では決してないのだが、私個人としては「そのような状況で法を犯した人を許容したい」と思っている。

では、環境問題はどうだろうか? これはなかなか判断が難しい「今すぐ対策を打たなければ手遅れになる」という話はよく聞くが、それが本当なのかは何とも判断しがたいからだ。もちろん「早いに越したことはない」わけだが、「法改正を待てないぐらい猶予がない」のかについては何とも言えないように思う。

ただ環境問題の場合は、「『資本主義社会における経済成長』と密接に結びついているために、法改正や規制がなかなか進みにくい」という側面もあるはずだ。「環境を守るためには経済成長を犠牲にしなければならない」という主張は、特に社会の強者(その中には「決定権を持つ者」も多いだろう)には受け入れがたいのではないかと思う。であれば、「まともなやり方では社会の変革は望めない」と言っていいのかもしれない。

そんな風に考えると、「『石油パイプラインを爆破する』という手段もやむを得ないのかもしれない」みたいにも思わされてしまうのだ。実に難しい問題だなと思う。

「NOを突きつける存在」は評価されるべきだと思う

さて、また少し違う話をしようと思う。

インターネットやSNSが当たり前の世の中になってから、「炎上」がよく目につくようになったように思う。私が本作を観た時期は、Mrs.GREEN APPLEの『コロンブス』という曲のMVが炎上しており、メディア等で大きく取り上げられていた。私はその報道を見て、「コロンブスに対する人物評価がいつの間にか変わっていたのだな」と驚かされたのだが、それはともかく、確かにMVの映像は「不用意だった」と思う。あそこまで炎上するような内容なのかは何とも言えないが、「適切ではないものを世間に公開した」という意味で批判は仕方なかったのかなという感じはする。

さて、このMVの問題がテレビで取り上げられた際、コメンテーター的な人が「関係者はどうして誰も指摘しなかったのだろう?」みたいなことを言っていたのが印象的だった。確かに私も、こういう話題が出る度に一瞬そのような考えが頭を過ぎるが、次の瞬間には「そりゃあ誰も指摘なんかしないわな」という考えに変わる。そんなことをしても、何のメリットもないからだ。

今回のMVについては、世に出る前の時点で「100%確実に炎上する」と判断できた人はいないのではないかと思う。もちろん、「ちょっと危ういことをしているな」と感じていた人はいただろうが、その程度のレベルだったはずだ。「絶対に炎上するから止めた方がいい!」と強く言えるほどの映像では無かったと私は考えている。

ただ、仮に「絶対に炎上する」と分かっていたとしても、やはり指摘するのは難しかっただろうと思う。アーティストのMVは、何ヶ月も前から準備がなされ、多くの人手とお金が費やされているのだから、世に出す前の段階で「絶対に炎上するから止めた方がいい!」と口に出すことは相当勇気が要る「大金を費やしたものを捨てる」と決断させることは大きな責任が伴うし、また、仮に「世に出さない」という判断に至ったとしても評価はされないだろう。「トラブルを解決した」のなら評価されるだろうが、「起こる”かもしれない”トラブルを未然に防いだ」というのは、「本当にそのトラブルが起こったのか」が分からない以上評価が難しい

だからそんな「損な役回り」を引き受ける人間はそうそういないだろうし、だから今回のMVも表に出てしまったのだと私は思う。

さて、どうしてこんな話をしたのかというと、環境問題にも同じことが当てはまると考えているからだ。

私は、人類が今のままの生活を続ければ、そう遠くない未来、地球に住めなくなることは確実だと思っている。しかしそれは「起こるかもしれないトラブル」でしかなく、実際には起こらないかもしれない。どれだけコンピューターでシミュレーションしたところで、そうならない可能性は常に残るだろう。

さらに前述した通り、「環境問題に対処しましょう」という提案は概ね、「経済活動に制約を加えましょう」みたいな話に終着する。となると、「100%起こるか分からない未来のために、『経済を停滞させる』なんてリスクを取るのか?」みたいな気持ちを抱く人も出てくるはずだ。そしてそんな風に手をこまねいている内に、人類は地球に住めなくなってしまうのである。まさに『コロンブス』のMVが世に出てしまったのと同じ理屈と言えるだろう。

だからこそ私は、「『NOを突きつける人』は評価されるべき」だと思っている。そして現代では、「環境問題に関して『NOを突きつける人』は「環境活動家」「環境アクティビスト」と呼ばれているというわけだ。そのような捉え方をすると、また見え方が変わってくるのではないかと思う。

「未然に防ごうとする人」はなかなか評価されにくいだろう。つまり、「名画にトマトスープを投げること」も「石油パイプラインを爆破すること」も良いとは思えないが、しかし、未来にはその評価も変わっているかもしれないというわけだ。そのようなことを考えていたため、「本作『HOW TO BLOW UP』で描かれる若者たちをどう評価すべきか」の難しさを感じながらの鑑賞となった。

映画『HOW TO BLOW UP』の内容紹介

冒頭では、後に「石油パイプラインの爆破」に関わる様々な人物の「日常」が短い断片によって切り取られていく。ほとんどが「顔見せ」程度のシーンであり、1人1人の状況をしっかりと把握できるほどの描写ではない。ただ、「とにかく様々なタイプの人間が関わっているのだな」ということだけは理解できるだろう。

そしてそんな彼らが、テキサス州に準備した「アジト」へと向かうところから物語が動き出す。もちろん目的は「石油パイプラインの爆破」である。しかししばらくの間、「爆弾を作る」「穴を掘る」などの準備がひたすら映し出されるだけで、「彼らがどんな事情を抱えてここに集まっているのか」についてはほとんど描かれはしない

そんな準備シーンに少しずつ、登場人物たちの「過去」が挿入されていく様々な背景を持つ者が、何故「石油パイプラインの爆破計画」に加わることになったのか、その経緯が断片的に描かれていくのである。

この計画を立案したのは、ソチとショーンの2人。恐らく同じ大学に通っているのだろう彼らは、元々「投資撤退(ダイベストメント)運動」に関わっていた。「ダイベストメント」とは「投資(インベストメント)」の逆で、気候変動への影響が大きい化石燃料関連会社や石炭火力発電企業への投資を止めさせようとする行為を指す。投資が集まらなければ企業活動が成り立たないわけで、結果として気候変動を食い止めるための一助になるのではないか、というわけだ。

しかし、石油プラントがある町に住んでいるソチは、つい最近「熱波」が原因で母親を亡くしたこともあり、「そんなヌルいやり方では社会構造は変えられない」と考えるようになる。そこでショーンと2人で、より積極的で実現可能な活動が出来ないか探ることにしたというわけだ。そうして生まれたのが、石油パイプラインの爆破計画である。

さらにそこに、「石油プラント建設のために先祖伝来の土地を奪われたネイティブアメリカン」や、「石油パイプライン建設のために強制的に立ち退きさせられた家族」などが加わり、実際に行える計画として細部を練っていくのだが……。

映画『HOW TO BLOW UP』の感想

冒頭でも書いた通り、本作はテーマもストーリーも興味深く、さらにどちらも非常にシンプルである。にも拘らず、後半に進むにつれて、「そんな展開になるのか!!」という物語になっていく構成であり、強く惹きつけられてしまった。とにかく脚本が見事な映画で、エンタメ作品として非常に優れていると思う。

また、冒頭からずっと爆弾作成などの準備シーンが続くので、「ノンフィクション的なリアルさで石油パイプライン爆破までの過程を描き出す作品なんだろう」と考えていたのだが、それが良い意味で裏切られたことも印象的だった。確かに、途中途中で「ん?」と疑問に感じる場面が出てきはする。しかし、大した違和感ではなかったためスルーしていたら、最後の最後にそれらの違和感がすべて綺麗に回収されていくのだ。なかなか鮮やかな物語だったなと思う。

そしてその上で、「それぞれの登場人物が『のっぴきならない事情』を抱えている」という背景描写もとても上手いと感じた。

当然のことながら、よほどの理由がない限りテロなんか計画・実行しないだろう。アメリカでは、「テロ行為」と認定されると、最低でも15年は刑務所に入れられるらしく、逮捕された場合のリスクが非常に大きい。しかも銀行強盗などとは違って、計画が成功しても大金が入ってくるわけじゃないのだ。そういう中で、「この計画のためだけに集まった見知らぬ者同士」が「石油パイプラインの爆破」を成し遂げるのはなかなか難しいように感じられるんじゃないかと思う。

しかし登場人物にはそれぞれ、この計画に「関わりたい/関わらなければならない」理由が存在する。その理由が準備シーンの合間に挿入される物語の中で描き出されるのだが、これがとても良く出来ていた。皆それぞれ色んな形で「石油関連企業に対する直接的な恨み」を抱いているのである。そのお陰で困難な状況でも団結でき、さらに言えば、ラストの「そんな結末を迎えるのか!」という展開に対するリアリティにもなっていたと言えるだろう。様々な要素が有機的に繋がっており、シンプルな物語を演出でとても魅力的に見せていると感じさせられた。

作品のテーマ性などから、エンタメ作品であるようにはあまり見えないかもしれないが、かなりきっちりとエンタメしている印象で、割と広く興味を持ってもらえる作品ではないかと思う。

監督:ダニエル・ゴールドハーバー, 出演:アリエラ・ベアラー, 出演:サッシャ・レイン, 出演:ルーカス・ゲイジ, 出演:クリスティン・フロセス, 出演:フォレスト・グッドラック
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最後に

私は「映画監督」や「配給会社」などに詳しくなく、「配給会社」で言えば「A24」ぐらいしかちゃんと認識出来ているところがない。それで本作『HOW TO BLOW UP』は、『パラサイト 半地下の家族』『燃ゆる女の肖像』『TITANE/チタン』『落下の解剖学』などを手掛けた「NEON」が配給に関わっているとのことで、新たに覚えておこうと思った。先に挙げた映画はすべて観ているし、好き嫌いはともかく、尖った作品であることは確かだからだ。気になる映画を配給する会社である。

そんなわけで、実に興味深い作品だったなと思う。

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