目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:黒木華, 出演:柄本佑, 出演:金子大地, 出演:奈緒, 出演:風吹ジュン, Writer:堀江貴大, 監督:堀江貴大
ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
この記事で伝えたいこと
ただの「不倫」を、ここまで面白い物語に仕立てられるのかという驚き
「マンガ」という設定を絶妙に活かした構成が見事です
この記事の3つの要点
- 夫の不倫を”知っている”妻が描くマンガの恐怖
- 妻のネームを盗み見る夫がヤキモキする「妻が浮気しているかもしれない問題」
- 映画のタイトルと呼応する”クライマックスシーン”の美しさ
柄本佑が醸し出す「ダメ夫感」こそが、ギリギリのバランスで成立している物語の良いバランサーだと感じました
自己紹介記事
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「マンガ家」っていうのを超絶妙に活かした構成が見事だったね
ラスト付近のあのシーンも、まさに「マンガ家」ならではだしね
映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』の内容紹介
マンガ家の早川佐和子は、連載中の原稿の最終話を描き上げた。原稿を待っていた担当編集者・桜田千佳に渡す。夫の俊夫もマンガ家だが、自分の作品は長く描いておらず、今は佐和子のアシスタントのようなことをしている。
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千佳が帰ろうとするタイミングで、佐和子が俊夫に「駅まで送ってあげたら?」と声を掛ける。2人は、(なんでそんなこと言うんだろう?)という雰囲気で顔を見合わせた。2人がドアから出た後、しばらくそのまま待っていた佐和子は、ドアを開けて外の様子を伺おうとする。しかしまさにそのタイミングで電話が鳴った。
佐和子の母親が、事故で足を怪我したという連絡だ。車に乗れないと不便な場所で生活する母のサポートのため、佐和子は夫と共に母親が住む家へと向かう。2人でしばらく、母親の元に住むことにしたのだ。
連載が一段落ついている佐和子は、ちょうどいいタイミングだし車の免許でも取ろうかと考える。いつも俊夫に送ってもらってばかりで申し訳なく思っていたのだ。ただ、人気作家である佐和子にはゆっくり休んでいる余裕はない。次回連載のネームを考えなければならないのだ。
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なんとなく考えていたのは「農業ファンタジー」だったのだが、ある日ふと思いついて一気に描き上げたネームはまったく別の話だった。教習所へと向かう車の中で、俊夫に次回作のテーマを聞かれた佐和子。
うーん、不倫、かな。
と答える。その言葉で何かを察した俊夫は、留守中の佐和子の部屋へと入り、ネームを盗み見ることにした。するとそこには、俊夫を驚愕させる物語が描かれていたのだ。
マンガ家が、連載中の原稿の最終話を描き上げた。原稿を待っていた担当編集者に渡す。夫もマンガ家だが、自分の作品は長く描いておらず、今は妻のアシスタントのようなことをしている。
編集者が帰ろうとするタイミングで、マンガ家が夫に「駅まで送ってあげたら?」と声を掛ける。2人は、(なんでそんなこと言うんだろう?)という雰囲気で顔を見合わせた。2人がドアから出た後、しばらくそのまま待っていた彼女は、ドアを開けて外の様子を伺おうとする。しかしまさにそのタイミングで電話が鳴った。
彼女の母親が、事故で足を怪我したという連絡だ……。
まさに、ついこの間の出来事が、そのままマンガに描かれていたのだ。
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それから俊夫は、佐和子の留守中にネームを盗み見るようになった。2話目の物語も衝撃的なだ。なんと、マンガ家が教習所のイケメン教官に惚れていくのである……。
とにかく構成が見事な物語
とても面白いと感じました。「妻の意図がまったく理解できない」という状況の中、”負い目”のある俊夫がひたすらに翻弄される展開で、絶妙なすれ違いを「マンガ」というモチーフを上手く使いながら描き出していると思います。
ホントに、「佐和子が何を考えてるのか全然分からない」っていうのがポイントだよね
さらに編集者もなかなかぶっ飛んでるから、とにかく俊夫だけがオロオロしてる(笑)
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観客は割と早い段階で、
- 俊夫視点で描かれるパートは「現実」
- 佐和子視点で描かれるパートは「佐和子が描いたネーム(を俊夫が脳内で実写化している)」
という構成だと気づくでしょう。つまりこの映画は本質的に「俊夫視点」しか存在しないことになります。俊夫には、「佐和子が純粋に『不倫マンガ』を描きたいだけ」なのか、「妻が自分の不倫を糾弾しようとしている」のかが分かりません。結局は俊夫が悶々としているだけということになるのです。
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普段の佐和子は、それまでと変わらない態度なので、そのことが余計俊夫を混乱させます。さらにネームには、「佐和子が教習所で浮気をしているかもしれない」と予感させる描写があるわけです。俊夫は、自分の不倫を棚に上げて、妻の浮気にヤキモキします。しかしそもそも、「ネームを勝手に見ている」という負い目があるので、問い詰めるようなことはできません。俊夫はただひたすらモヤモヤした時間を過ごすことになるわけです。
俊夫のダメさ加減を、柄本佑が絶妙に演じるんだよねぇ
とにかく設定がとても絶妙な作品だと感じました。
俊夫が仮に不倫していないとしても、行動に不自然さが生まれないという設定の妙
物語的に、「俊夫は実は不倫していなかった」という展開はさすがに無理があるでしょう。だから「俊夫は不倫をしている」という前提で見ればいいと思います。ただ、映画が始まってしばらくの間、「俊夫が間違いなく不倫している」という決定的な描写は出てきません。佐和子が夫と編集者の仲を疑っていると示唆される場面はありますが、俊夫がその事実を認めるシーンはありません。「佐和子が描いたネーム」内では、2人がキスする場面が描かれるわけですが、あくまでこれは「ネームの内容を俊夫が脳内で実写化しているだけ」なので、観客としては「俊夫が不倫している証拠」と解釈するわけにはいきません。
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というわけで観客は、「俊夫が不倫していることは間違いないだろうが、確証はない」という状態で映画を観ることになるわけです。
そして絶妙な設定が、その見方を成立させていると思います。俊夫は佐和子がいないところではオロオロと動揺し、それでいて佐和子に対して強くは出られません。しかしこの振る舞いは、「俊夫が不倫している」わけじゃなくても説明はつきます。動揺しているのは「佐和子が教習所で浮気をしているかもしれない」と考えているからだし、強く出られないのは「ネームを勝手に盗み見ている」からです。また大前提として、長く自分の作品を描いておらず、生計を佐和子が担っているという力関係も影響していると言っていいでしょう。
女性からすれば、「強気に出れねぇ奴が不倫なんかすんなよ」って、余計イラつくポイントな気がする
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「俊夫は不倫しているのか?」という点さえ最初の内は確定的に描かない物語なので、細部に渡って「何がホントで何がウソなのか」がハッキリ分からないまま話が展開していきます。俊夫だけではなく、観客としてもかなりモヤモヤさせられる物語ではありますが、まさにこの点が映画の魅力だと言っていいでしょう。最終的に、結末も読者に委ねるような形になるのですが、それもまたこの映画らしい終わり方で、「マンガの内容を現実に組み込んでいく」という虚実入り混じる構成が素晴らしいと感じました。
「マンガの内容を現実に組み込んでいく」という点で見事なのは、映画の「クライマックス」と呼んでいいだろう場面です。佐和子の「ちょっと話いい?」という一言から始まる一連の流れは非常に見事だと感じました。「リアルの世界で2人の間で起こっていること」と「ネーム上で展開されていること」がリンクし、「ネーム上の文字を書き換える」ことによって物語をさらに展開させていくやり方はとても綺麗です。まさにこのシーンがタイトルの意味も説明する形になっており、設定・展開・タイトル含めてすべての要素がこの場面で見事に収斂していると感じました。
見事な構成だったと思います。
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佐和子は本当に不倫しているのか?
さて、この映画の感想をチラ見した際に、「どこまで真実か分からない」というような意見を目にしました。要するに、「佐和子は実際に不倫していたのか」に関する疑問です。この点については、物語上では確定的な結論は提示されず、観客の判断に委ねられる形になっているのですが、私はその答えは明白だと考えています。
早川佐和子が不倫しているはずがないでしょう。
ってか、「佐和子が不倫してる」って可能性を考える思考が私にはなかった
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映画を観ていると混乱してくるかもしれませんが、改めて整理すると、「佐和子視点のパートはすべて、佐和子が描いたネーム内の話」です。ネーム上で何が行われていても、それは佐和子の浮気を意味しません。俊夫はなんとか佐和子の様子を探ろうと、教習所内にいる佐和子の姿を追い続けるわけですが、それでも決定的な光景を目撃することはありませんでした。
そもそもですが、佐和子が用意した「結末」を踏まえれば、彼女が「自分は夫と同じ土俵に立つわけにはいかない」と決意したと考えるのが妥当でしょう。佐和子がマンガに描くことなく隠れてコソコソ浮気しているのならともかく、「夫の目に間違いなく触れるネームに自身の浮気について描いている」のだから、マンガ通りのことが起こっているはずがありません。
後半、家にやってきたイケメン教官が、
佐和子さんと外で会ったのは今日が初めてです。
と言うのですが、これは言葉通りに受け取るべきでしょう。虚実入り混じる構成だからこその混乱ではあるのですが、シンプルに考えるべきだろうと思います。
「自分は何か騙されているんじゃないか?」っていう感覚にさせるのが上手いよね
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しかし確信犯的だと感じたのは、「ネーム上の物語」として、佐和子の母親が、
最初から許すつもりなんてなかったんでしょう?
と聞く場面が挿入される点です。これはマンガ内の話なので「現実」ではありませんが、その境界を曖昧にして、「佐和子が浮気をしていた可能性」を示唆しようとしているのだと思います。
「ネーム上の物語」を「俊夫の脳内妄想」という形で実写化しているため、リアルとマンガの境界が曖昧になり、それ故に多様な解釈が生まれうる構成になっている点は見事だと感じました。
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出演:黒木華, 出演:柄本佑, 出演:金子大地, 出演:奈緒, 出演:風吹ジュン, Writer:堀江貴大, 監督:堀江貴大
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物語の設定の時点で「勝ち」という感じの作品ですが、その設定を巧みに活かして、単なる「不倫」からハラハラドキドキさせる展開を生み出しているのが見事だと思います。黒木華の「何を考えているのか絶妙に分からない感」も、柄本佑の「絶妙なダメ夫感」も素晴らしかったです。
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映画『窓辺にて』(今泉力哉監督)は、稲垣吾郎演じる主人公・市川茂巳が素晴らしかった。一般的には、彼の葛藤はまったく共感されないし、私もそのことは理解している。ただ私は、とにかく市川茂巳にもの凄く共感してしまった。「誰かを好きになること」に迷うすべての人に観てほしい
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【あらすじ】ムロツヨシ主演映画『神は見返りを求める』の、”善意”が”悪意”に豹変するリアルが凄まじい
ムロツヨシ演じる田母神が「お人好し」から「復讐の権化」に豹変する映画『神は見返りを求める』。「こういう状況は、実際に世界中で起こっているだろう」と感じさせるリアリティが見事な作品だった。「善意」があっさりと踏みにじられる世界を、私たちは受け容れるべきだろうか?
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【感想】湯浅政明監督アニメ映画『犬王』は、実在した能楽師を”異形”として描くスペクタクル平家物語
観るつもりなし、期待値ゼロ、事前情報ほぼ皆無の状態で観た映画『犬王』(湯浅政明監督)はあまりにも凄まじく、私はこんなとんでもない傑作を見逃すところだったのかと驚愕させられた。原作の古川日出男が紡ぐ狂気の世界観に、リアルな「ライブ感」が加わった、素晴らしすぎる「音楽映画」
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二村ヒトシ『すべてはモテるためである』は、タイトルも装丁も、どう見ても「モテ本」にしか感じられないだろうが、よくある「モテるためのマニュアル」が書かれた本ではまったくない。「行動」を促すのではなく「思考」が刺激される、「コミュニケーション」と「居場所」について語る1冊
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【感想】綿矢りさ原作の映画『ひらいて』は、溢れる”狂気”を山田杏奈の”見た目”が絶妙に中和する
「片想いの相手には近づけないから、その恋人を”奪おう”」と考える主人公・木村愛の「狂気」を描く、綿矢りさ原作の映画『ひらいて』。木村愛を演じる山田杏奈の「顔」が、木村愛の狂気を絶妙に中和する見事な配役により、「狂気の境界線」をあっさり飛び越える木村愛がリアルに立ち上がる
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【母娘】よしながふみ『愛すべき娘たち』で描かれる「女であることの呪い」に男の私には圧倒されるばかりだ
「女であること」は、「男であること」と比べて遥かに「窮屈さ」に満ちている。母として、娘として、妻として、働く者として、彼女たちは社会の中で常に闘いを強いられてきた。よしながふみ『愛すべき娘たち』は、そんな女性の「ややこしさ」を繊細に描き出すコミック
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【あらすじ】映画『流浪の月』を観て感じた、「『見て分かること』にしか反応できない世界」への気持ち悪さ
私は「見て分かること」に”しか”反応できない世界に日々苛立ちを覚えている。そういう社会だからこそ、映画『流浪の月』で描かれる文と更紗の関係も「気持ち悪い」と断罪されるのだ。私はむしろ、どうしようもなく文と更紗の関係を「羨ましい」と感じてしまう。
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【正義】復讐なんかに意味はない。それでも「この復讐は正しいかもしれない」と思わされる映画:『プロ…
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他の様々な要素を一切排し、「望まぬ妊娠をした少女が中絶をする」というただ1点のみに全振りした映画『17歳の瞳に映る世界』は、説明もセリフも極端に削ぎ落としたチャレンジングな作品だ。主人公2人の沈黙が、彼女たちの置かれた現実を雄弁に物語っていく。
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ともすれば「エロ本」としか思えない浅野いにおの原作マンガを、その空気感も含めて忠実に映像化した映画『うみべの女の子』。本作が一体何を伝えたかったのかを、必死に考察し全力で解説する。中学生がセックスから関係性をスタートさせることで、友達でも恋人でもない「名前の付かない関係性」となり、行き止まってしまう感じがリアル
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厳しい受験戦争、壮絶な格差社会、残忍ないじめ……中国の社会問題をこれでもかと詰め込み、重苦しさもありながら「ボーイ・ミーツ・ガール」の爽やかさも融合されている映画『少年の君』。辛い境遇の中で、「すべてが最悪な選択肢」と向き合う少年少女の姿に心打たれる
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私は「腐男子」というわけでは決してないのですが、周りにいる腐女子の方に教えを請いながら、多少BL作品に触れたことがあります。その中でもダントツに素晴らしかったのが、水城せとな『窮鼠はチーズの夢を見る』です。その映画と原作の感想、そして私なりの考察について書いていきます
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生きていると、「常識的な考え方」に囚われたり、「普通」「当たり前」を無自覚で強要してくる人に出会ったりします。そういう価値観に合わせられない時、自分が間違っている、劣っていると感じがちですが、そういう中で一歩踏み出す勇気を得るための考え方です
ルシルナ
苦しい・しんどい【本・映画の感想】 | ルシルナ
生きていると、しんどい・悲しいと感じることも多いでしょう。私も、世の中の「当たり前」に馴染めなかったり、みんなが普通にできることが上手くやれずに苦しい思いをする…
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