目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
今どこで観れるのか?
公式HPの劇場情報をご覧ください
この記事で伝えたいこと
広瀬すず、仲野太賀などの有名俳優が出演し、生方美久、蓮見翔らが脚本を担当した自主制作映画
このレベルで「自主制作映画」を名乗るのはちょっとズルい気がする
この記事の3つの要点
- 本当に何も知らずに観に行ったので、冒頭の物語で広瀬すずが出てきてひっくり返ったし、エンドロールに蓮見翔の名前を見つけてぶっ飛んだ
- 同じ映画を2回観ることはほぼない私が、久々に2回観に行った作品
- 第2話「回らない」は、蓮見翔の脚本はもちろん、岸井ゆきの、岡山天音、荒川良々の演技も見事で、とにかく素晴らしすぎた
「何も知らずに観に行って、そのクオリティに衝撃を受ける」という出会い方も含め、私にとっては完璧な鑑賞体験だった
自己紹介記事
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映画『アット・ザ・ベンチ』はちょっと衝撃的な作品だった!ベンチのみという固定された舞台で展開される会話劇があまりにも素敵すぎる
タイトルとメインビジュアル以外何も知らずに観に行ったので、役者にも脚本にも驚かされっぱなしの鑑賞だった
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マジで、「超マイナーな自主制作映画」だと思って観に行ったからね
自主制作映画だってのは確かみたいけど、それにしては豪華すぎた
本当に何も知らなかったので、まず冒頭で広瀬すずが登場したことに「えっ?」となりました。勝手に「知らない役者ばかりが出てくる映画」だと勘違いしていたので、それだけでも衝撃だったのです。さらにそれからも、仲野太賀、岸井ゆきの、岡山天音、荒川良々、今田美桜、森七菜、草彅剛、吉岡里帆、神木隆之介など錚々たる役者が出てきます。本作が自主制作映画なのだとして、この豪華さは一体何なのでしょう?
しかも、エンドロールを観てさらに驚かされました。脚本家が凄まじかったのです。
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本作は、4つの物語が収録されたオムニバス映画で(第1話と第5話は同じ世界観の物語なので1つとカウント)、各話毎に脚本を担当した人が異なります。そして、私が最も面白いと感じた第2話「回らない」の脚本を書いたのが、ダウ90000の蓮見翔だったのです。私は、蓮見翔の演劇やコントをちゃんと観たことはないのですが(テレビでたまにコントを目にする機会があるぐらい)、「プレバト!!」(TBS系列)での俳句査定なんかを見たりしていて、以前から「凄い才能の持ち主だな」と思っていました。結果として今回、初めて彼の「コントではない作品」に触れることになったわけですが、その脚本が圧倒的に面白かったのです。4つの物語はどれもそれぞれに魅力的でしたが、私は蓮見翔の脚本が一番好きでした。本当に、よくもまあこんな「3人がただダラダラ喋っているだけの物語」が、観客をクスクス笑わせるぐらい面白い展開になるものだなと思います。ちょっと信じられないぐらいでした。
正直、第2話を観るだけでも十分価値があるって感じするよね
少し前までは、配信で1話と2話だけ無料で観れたっぽいけど、今は無料じゃなさそう
さらに、鑑賞後に公式HPを見ていて驚かされたこともあります。第1話「残り者たち」と第5話「さびしいは続く」を書いたのが生方美久だったことです。エンドロールがローマ字表記で、「MIKU UBUKATA」が「生方美久」とは結び付かなかったこともあり、エンドロールを見ている段階では気づきませんでした。生方美久と言えば、『Silent』『いちばんすきな花』『海のはじまり』など、社会現象と言っていいレベルで話題になった作品を生み出した脚本家です。そんな彼女が本作で書いたストーリーは、広瀬すずと仲野太賀がただベンチで喋るだけの話なのですが、本当に素晴らしかったです。蓮見翔の脚本は「コメディ」という感じでしたが、生方美久の方は「しっとり」という印象で、幼馴染である2人の絶妙過ぎる距離感を見事に描いているなと思います。
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というわけで本当に、何も知らずに観に行った人間にはちょっと情報量が多すぎたし、それでいて物語は基本的に「ベンチでただ喋る」というシンプルを極めたような内容で、そのギャップにも驚かされました。久々に「メチャクチャ良いモノを観たなぁ」という気分になれたし、こういう出会いがあるからこそ、「良く知らないまま映画を観る」のは止められないなとも思います。
もちろん、役者とか脚本家を知った上で観に行ったとしても面白いと感じただろうけどね
ってか、私は2回観に行ったから、2回目はそういう状態で鑑賞したわ
あまりの衝撃に2回観に行ったのだが、2度目も実に面白かった
そんなわけで私は、本作『アット・ザ・ベンチ』を2回観に行きました。私は普段、同じ映画を2回以上観ることはありません。思い出せる限り挙げると、『TENET』『心が叫びたがってるんだ。』『君の名は。』ぐらいだと思います。「作品の良し悪し」だけではなく、「日常生活のに余裕があるか」とか、あるいは「その時の自分の気分との親和性」など色んな要素が絡んでくるので一概には言えませんが、やはり「作品に衝撃を受けた」という要素が無いとなかなか2回観ようとは思わないし、本作『アット・ザ・ベンチ』にはそう感じさせられたというわけです。
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先ほど触れた通り、最初に観た時は「まったく何も知らない状態」だったわけですが、2度目はもちろん、役者も脚本家も物語の展開もすべて知った上で鑑賞しました。本作を観る上での「自分の前提」が大きく変わったので、また違った見方が出来るんじゃないかと考えていたようにも思います。
そういう意味では、映画『TENET』を2回観た時の感覚に近いかもね
初見ではマジで意味不明だったけど、自分なりに考えてから、さらにネタバレサイトを見まくった上で2回目を観に行ったからなぁ
さて、やはり2度目も面白かったです。物語の筋を含め何もかも全部分かっているわけですけど、やっぱり「会話の雰囲気」が染みるんだよなぁ。「会話」って、内容よりもむしろ「その場の雰囲気」の方が大事な気がしてるんだけど、役者が作り出すその「雰囲気」がやはり素敵なんですよね。物語などで「素敵な会話」に出会うと、「自分もそこに混ざりたい」という気分になりますが、本作に対してもそんな風に感じました。いや、自分が会話に混ざってしまうと肝心の「雰囲気」が変わってしまうはずなので、「その場にいて会話を聞いていたい」と言うべきでしょうか。
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そしてその上で私は、本作を観ながら改めて「脚本にしか興味がないんだな」と感じました。先ほど触れた通り、「役者が作り出す雰囲気」なんかにも興味があるわけですが、それは私の中では「脚本の延長線上の要素」みたいなものです。そしてそうではない要素、例えば「音楽」「衣装」「照明」みたいなものには、どうしても興味が向きません。とにかく、脚本が面白くて、さらにその脚本をちゃんと具現化してくれる役者が演じていれば、物語を満足に受け取れてしまうというわけです。
そういう意味では本当に、「映画」じゃなきゃいけない理由はないって感じだよね
今はたまたま映画ばっかり観てるけど、昔は小説ばっかり読んでたし、今後はどうなるかな
本作はとにかく、「何もない広い空間に置かれたベンチ」だけが舞台で、さらにほとんどストーリーが「ベンチに座って、あるいはその周辺でただ喋っているだけ」です(第3話「守る役割」だけは「喋る」という感じではありませんが)。光は恐らく自然光がほとんどだろうし、ちゃんとは覚えていませんが音楽もほとんど(あるいはまったく)挿入されなかった気がします。特別衣装に凝っているような感じもなかったので、とにかく「脚本だけで勝負している」みたいな作品でした。そういう潔さみたいな部分も、強く惹かれたポイントと言えるかもしれません。
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というわけでざっくり内容の紹介をしようと思いますが、会話劇であり、全体の「雰囲気」まで伝えるのはほぼ不可能です。特に、生方美久と蓮見翔の脚本を文字で紹介するのは相当難しいと思います。さらに言えば、「残り者たち/さびしいは続く」の場合、「会話に内容がない」というメタ的な情報こそ2人の関係性を示す重要な要素なので、かいつまんで内容を紹介しようとしてもまったく面白さは伝わらないでしょう。その辺りのことを理解しつつ読んでほしいと思います。ちなみに、第5話「さびしいは続く」の内容は紹介しません。
蓮見翔の「回らない」も、面白さを端的に伝えるのは不可能だよね
こっちの場合は「会話に内容がある」んだけど、その内容があまりにも「スキマ」すぎて短くは伝えられない
映画『アット・ザ・ベンチ』の内容紹介
第1話「残り者たち」
普段行かないスーパーからの帰り道、リコはあることに気がつく。かつて公園だったはずの場所が、ベンチ1台だけを残し、遊具も何も無くなってしまっているのだ。これは大変だ。急いでノリくんを呼ばないと。そしてリコは、ベンチに座りノリくんを待つ。
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しばらくしてノリくんがやってきた。リコは「公園がベンチになってたから呼んだだけ」と言って、そこから何てことない会話を繰り広げていく。2人は幼馴染らしく、ノリくんはリコの母親とも仲が良いようだ。リコは勤務先の保育園での仕事が大変で、ノリくんは残業ばかりしている。そして、もやしが安く、見たことのないお菓子ばかり売っている「もやしマート」の話。
会話はやがて、「自分たちはいつの間にか『残り者』だった」という流れになっていく。とはいえ別に、会話がどこかに行き着くわけでもない。少しずつ日が沈んでいく中、2人はずっと、何てことのない会話を続けていく。
第2話「回らない」
1台のベンチに向かってカップルが歩いている。ホームセンターで突っ張り棒を買ったみたいだ。ベンチに座った2人は、スーパーで買ったお昼ご飯を食べる。女性はパン、そして男はパック寿司だ。男は女性が飲んでいるペットボトル飲料が気になったようで、「一口ちょうだい」と言って口をつけないようにして飲む。そんな彼は、凄く個性的で特徴的な帽子を被っている。まるでバイク乗りみたいな。
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ベンチで話していると、女性が唐突に「別れてみる?」と口にした。男は、何の脈絡もなく出てきた話に驚き、狼狽する。「別れたくはない」と言った男に対し女性は、「別に怒ってるわけじゃないんだけど、カンタがそれでいいならそれでいいよ」と返す。男はもちろん、スルーしたままには出来ない。ただ、「『怒ってるわけじゃないんだけど』って、絶対怒ってるじゃん」「こういう言い方、癖になっちゃってるから」みたいなやり取りになり、別れ話から少し脱線していく。
しばらくして、男が「別れたいって?」と話を戻す。女性としては、この話はもう終わったつもりでいたのだが、男としてはそのままにはしておけない。そう言って食い下がると、女性は、男が食べている「寿司」を喩えに使って、自分が普段抱えている不満を話し始めるのだが……。
第3話「守る役割」
雨がそぼ降る中、2人の若い女性が大声を上げながら喧嘩している。どうやら姉妹のようだ。汚らしい服を着た姉が、追いかけてくる妹を振り払いながら手近なものをポンポン投げている。姉のことを心配した妹がわざわざ上京してきたのだが、そんな妹の行動を姉は不快に感じているのだ。
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大声で怒鳴り合う2人のやり取りから、次第に状況が分かってくる。地元にいた頃、姉は薬局で働くごく普通の人だったのだが、ある男性と付き合い始めてから豹変、そしてその男性を追いかけるように東京へとやってきた。それ以降の消息は妹にもよく分かっていないようだが、結果として姉は今何故かこのベンチを根城にホームレスのような生活をしているのだという。そりゃあ妹も心配するはずだ。
姉は「今の自分は幸せだ」と言うのだが、妹はそんなはずがないと思う。だってホームレスである。それのどこが幸せなのか。姉が追いかけてきた男性がこの状況を知っていて放置しているなら信じられない話だし、知らないのであれば余計どういう状況なのか分からない。だから妹は姉に「説明して!」と詰め寄るのだが、姉は「言いたくない!」と逃げ続ける。
しばらくして2人は、大声を出しながら動き回ったことで疲れ果ててしまう。そして、妹が少し折れ、姉の話をもう少し真摯に聞こうと態度を改めた。それを受けて姉も本心を語り始めるのだが……。
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第4話「ラストシーン」
2人の男女が、ベンチを前にあれこれと話をしている。どちらも市役所の職員らしく、どうやら目の前にあるベンチを撤去するかどうか検討しているようだ。
しかし、2人の会話はまったく噛み合わない。というか、男性の受け答えが酷かった。酷いというか、ちょっとおかしな感じである。女性に何度指摘されても東西南北の判別がつかなかったり、「幅」と「奥行き」を間違えたりするのだ。2人はただ確認作業をしているだけなのに、遅々として進まない。さらに女性は、男性のセクハラ的な言動にも苛立っているようである。
2人はそんな噛み合わないやり取りを続けながら、目の前にあるベンチが「対象物」であると確認した上で、「撤去すべきかどうか」の検討を進めていく。しかしその後、思いもよらない展開になり……。
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映画『アット・ザ・ベンチ』の感想
やはり、第2話「回らない」が天才的に面白かった
とにかく私は、蓮見翔が脚本を担当した第2話「回らない」に衝撃を受けたので、主にこの物語について色々と書いていこうと思います。客席から何度も笑い声が上がっていて、もちろん私も笑わされました。別に「芸人のネタみたいな面白さ」というわけではなく、「ちょっと変わってはいるものの、どこかでカップルがしてそうな会話」の範囲内で、笑えるやり取りが続いていくというわけです。
冒頭で「回らない」って表記されて「?」ってなるけど、「なるほど、寿司の話になっていくのか」みたいに思うよね
ってかホント、寿司の話があんなに全開で出てくるのもヘンテコだよなぁ
話題の中心は、「『別れたい』と言い出した女性が、彼氏のどこに不満を抱いているのか」です。これ自体は、カップルの会話としては別に突飛ではないでしょう。しかし、そこに「寿司」が絡んでくるからおかしな話になっていくのです。「寿司」で喩えなければもっとシンプルに話せるわけですが、ただそこには、「こんなせせこましい話を真面目にやり取りしたくない」という女性側の感覚もあるし、もっと言えば、「そもそも指摘するような不満じゃないんだよなぁ」みたいな気分でもあるわけで、「寿司」の喩えは結構必然性を感じさせます。さらに、「寿司」なんかの話をしているからこそ、カップルとは無関係な第三者が絡んでくる余地も生まれるわけで、そういう意味でも重要な要素と言っていいでしょう。
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さて、この「寿司」の喩えは結局、「寿司桶がいっぱいになってしまった」みたいな話に繋がっていくわけですが、「この感覚、分かるなぁ」って人、結構いるんじゃないかと思います。女性は彼氏に対する不満を色々と抱えているわけですが、それら1つ1つは正直、大したものではありません。目盛りが1~100まであるとして、「不快指数1」程度のものなのです。だから、「その内の1つだけを取り上げて文句を言おう」なんて風にはなりません。ただ、そんな「不快指数1」の不満が50個もあったらどうでしょう? 本作ではこれを「寿司桶がいっぱいになってしまった」と表現し、「そのことが不快なんだ」と伝えようとしているというわけです。
さて、女性は「不快指数1の不満」の具体例を彼氏に伝えるわけですが、彼はそれに対して「その時その時で指摘してくれたら直すのに」と言っていました。ただそれは正直難しいでしょう。1つ1つは「不快指数1」なので、「ちょっと蚊に刺された」ぐらいの嫌さでしかありません。それなのに「止めてほしい」みたいなことを言うと、「『不快指数10』ぐらいに感じているのか」みたいに思われそうな気がして言いにくいと感じるんじゃないかと思います。だから、「それら1つ1つを指摘しよう」なんて発想にはならないでしょう。ただ、放置すると寿司桶に溜まってしまうわけで、そうなってくると「あ、ちょっと耐え難いかも」みたいになっていくというわけです。
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この問題って何となく、「まだ名前が付いていない感覚」を炙り出しているみたいな気がします。世の中では日々新しい言葉が生まれていて、例えば「髪を乾かしたりするのがめんどくさくてしばらく風呂に入らない」みたいな状況が「風呂キャンセル界隈」なんて呼ばれたりしますが、これは、「多くの人が共有している感覚に、新たに名前が付いた」みたいに言えるでしょう。そしてこの「『不快指数1』の不満が少しずつ溜まって寿司桶がいっぱいになってしまう」みたいな感覚には、まだ名前が付いていない感じがします。蓮見翔は、そんな「名前が付いていないが故に可視化するのが難しい感覚」を見つけ、物語の題材とし、さらに面白い会話劇として昇華させているというわけです。
「プレバト!!」で披露する俳句でも、「そこを切り取るんだ!」みたいな驚きを感じさせるよね
「5巻がない」から始まる、コインランドリーの俳句は凄かったなぁ
さて、こんな感じで「回らない」の内容を説明してみたわけですが、文章で読んだところできっと全然面白くないでしょう。たぶんですが、本作の脚本をそのまま読んでも、そんなに面白くは感じられないんじゃないかとも思っています。だから、蓮見翔が「この脚本を役者が演じれば面白くなる」と考えて提出したことにそもそも驚かされるし、さらに、そんな脚本を本当に面白い作品に仕上げた役者も凄いなと感じさせられました。
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本作『アット・ザ・ベンチ』ではどの物語においても役者の演技は見事でしたが、「回らない」では岸井ゆきのが素晴らしかったです。もちろん、岡山天音も荒川良々も良いんですけど、やはり話の主導権を握っている岸井ゆきのの存在感が圧倒的だったなと思います。というか恐らく、彼女がリアリティのある演技をしなかったら、この話は成り立たなかったでしょう。
思い出せる限りでも、『神は見返りを求める』『ケイコ 目を澄ませて』『若き見知らぬ者たち』とかどれも良かったもんなぁ
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岸井ゆきのの役は、上手く演じないと「ただイチャモンを付けているだけ」にしか見えないかもしれません。そしてもしそうなっていたら、荒川良々が割り込んできて以降の展開も含め、あんなに面白いやり取りにはならなかったでしょう。さらに本作においては、「彼氏への文句を『寿司』に喩えて話す」という結構トリッキーな展開が存在するわけで、「そういうことを言い出しそうな女性」という雰囲気を短い時間で観客に納得させる必要もあります。そして岸井ゆきのは、その点にも成功していると感じました。「普段からこんな感じのことを言っちゃう人なんだろうな」という雰囲気が絶妙に醸し出されていたのです。
そしてもっと言えば、この話は「女性が口にしていることは本心だ」と会話の相手にも観客にも伝わらないと成立しません。「口ではこんな風に言っているけど、本心は違うんだろう」みたいに受け取られてしまったら、この軽妙で面白いやり取りの見え方が全然変わってしまうからです。例えば女性は、「『別れてみる?』って自分から言ったくせに、それをあっさり無かったことにして元の感じに戻ろうとする」わけですが、岸井ゆきのの演技からは「本当に『無かったこと』にして元の感じに戻ろうとしてるんだ」みたいな雰囲気が伝わってきました。「実は色々抱えているんだけど飲み込んだ」みたいなことではなくて、「あなた(彼氏)さえスルーしてくれたら元通りだよ」という印象になっていたというわけです。
かなり上手い役者じゃないと、こんな雰囲気は出せないんだろうね、きっと
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また、3人の掛け合いで言えば、岸井ゆきのの「ややこしいことをスラスラ口にする感じ」とか、岡山天音の「土俵にはちゃんと上がろうとしてみたものの、押し切られて煮えきらなくなってしまった感じ」とか、荒川良々の「全然関係ないのに割り込んできて、でも比較的自然に馴染んじゃう感じ」など、それぞれの雰囲気が上手く混ざり合っていて、脚本だけではなく、脚本を実現する役者の演技にも驚かされました。とにかく全体的にメチャクチャ良かったなと思います。
第1・5話「残り者たち/さびしいは続く」も実に素晴らしかった
さてやはり、生方美久が脚本を手掛け、広瀬すず・仲野太賀が演じた1話と5話も素敵でした。こちらも「回らない」と同様、最初から最後まで「ベンチに座って話をしているだけ」なのですが、何よりもまず、「2人の会話から、『彼らが積み重ねてきた時間の堆積』が感じられること」が良かったなと思います。
『Silent』は観てないけど、『いちばんすきな花』『海のはじまり』は観てたし、本作も「生方美久の本領発揮」って感じしたわ
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この話は、4つの物語の中で最も「演技をしている感」が無い作品で、本当に、「幼馴染がただ会話をしている」みたいな雰囲気でした。この雰囲気を、広瀬すずと仲野太賀がどんな風に作り上げていったのか気になるんだよなぁ。「空気感」みたいなものって、出そうと思って出せるようなものじゃない気がするから、凄いなと思いました。
さて、会話を聞いていれば「2人の仲の良さ」は伝わるはずですが、しかし、「仲の良さ」を客観的に伝えるのって実は難しいような気がしています。本作は86分の映画で、5等分すると1話17分。5話目は他の話より少し短かった印象があるので、「1話~4話が19分、5話が10分」ぐらいの配分でしょうか。となると、1話と5話で合計30分弱ぐらいではないかと思います。
で、そんな連ドラ1話の半分ぐらいの時間しかない中で観ている人に「仲の良さ」を伝えるとしたら、「他の人には打ち明けていない深刻な相談をする」とか、あるいは会話ではなくなりますが「一緒に旅行に行く」みたいな感じにするしかないでしょう。ただ本作では、ベンチから動かずに日常生活や仕事の話をただただ続けているだけです。もちろん、そういう「なんてことない会話」によって「仲の良さ」を描くみたいな方向性もありますが、やはり短い時間でそれを実現するのは難しいんじゃないかと思います。
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しかも本作の場合、第1話「残り者たち」のかなり早い段階で「この2人は仲が良いんだな」ってことが伝わってくるからね
もちろん役者の演技もあってのことだけど、やはり、そんな風に感じさせる会話運びが絶妙なんだろうなって思う
また個人的な話をすると、「異性との関係」として、本作における広瀬すず・仲野太賀のような関わり方が私の理想でもあったりするので(つまり、「恋愛」的ではない形で関わるということ)、そういう意味でも「良いなぁ」と感じながら観ていました。羨ましい。
あと、2回観て良かったのが、「残り者たち」に出てくる「義理」に関する話をちゃんと聞き取れたことです。1度目の時は何を言っていたのかよく分からなかったのですが、2人の「絶妙な距離感を感じさせる関係性」を踏まえた上でのメッチャ素敵なやり取りでした。「えっ?」「えっ?」「えっ?」みたいに言ってる感じも良かったもんなぁ。
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そういう部分も含め、会話がとにかく最高に素晴らしい作品でした。
「回らない」と「残り者たち/さびしいは続く」は、音声でいいからずっとループで聴いてたいよね
落語みたいに、同じやり取りをずっと聴いてても飽きなそうな気がするんだよなぁ
その他の感想
私にとってはやはり、蓮見翔・生方美久の脚本がとにかく圧倒的過ぎたので、どうしても他の2作は少し劣って見えてしまうのですが、とはいえ面白い作品だったことは確かです。
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蓮佛美沙子が、スキャンダルで落ちぶれ再起を賭ける女優を演じる映画『女優は泣かない』は、ミニマムかつシンプルな構成ながら、笑いあり涙ありのハートフルコメディだった。「やりたくはないが、やらねばならぬ」とお互いが感じているドキュメンタリー撮影を軸に、家族の物語を織り込む展開が素敵
第3話「守る役割」は、話の筋よりも役者の演技に圧倒されました。今田美桜と森七菜がお互いをひたすら罵倒し続けるのですが、そのやり合いが圧倒的だったのです。物語が始まった瞬間から喧嘩をしているので、観客は彼女たちのやり取りを聞く中で状況を把握することになるわけですが、初めこそ、姉を心配して上京した妹の言っていることの方が「正論」に聞こえるんじゃないかと思います。いやもちろん、最後の最後まで妹の言っていることは正しいのですが、しかし途中から、それまでまったく意味不明だった姉の主張が少しずつ理解できるようになっていくのが面白かったです。
「あの姉の奇行にそんな理屈をつけるのか!」みたいな面白さがあったんだよなぁ
姉は当初、「私のことは放っておいて!」とコミュニケーションを頑なに拒むようなスタンスだったわけですが、しばらくして自身の振る舞いについて「狂わないために精一杯頑張っているんだ」みたいな形で説明していて、個人的には「なるほど」と感じました。私も、状況こそ彼女とはまるで違いますが、「狂わないために精一杯頑張っている」という感覚は凄く理解できます。他人から見れば「とてもまともとは思えないような振る舞い」でも本人にはちゃんと理屈があって、「そうせざるを得ない」みたいな感覚に突き動かされているなんてことはいくらだってあるでしょう。そんなわけで、「他人の理屈を思い込みで判断しちゃいけないな」と改めて実感させられもしました。
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さて、第4話「ラストシーン」は、それまでの3作とはまた全然違ったテイストの作品です。短い物語の中で、「そんな展開になるんだ!」みたいな感覚に3回ぐらい襲われます。正直なところ、本作はそこまで好きな作品ではなく、もし本作だけを単体で観ていたら良い評価は出来なかったでしょう。ただ4作のオムニバス映画の中で全然違う味わいの物語が出てきたことで、全体のバランスという観点からは良かったと言えるかもしれません。
しかも途中まで、どういう方向に進んでいくのか全然分からないし
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最後に
繰り返しになりますが、第2話「回らない」がとにかく圧倒的に好きで、そして第1・5話「残り者たち/さびしいは続く」も素晴らしかったという感じです。この2作品だけでも、観る価値があると思います。
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しかしホントに、「ベンチのみを舞台にし、そこでの会話だけで物語を生み出す」という、ほとんど何もないと言っていいような設定の中、これほどバリエーション豊かな物語が生み出せるのかと驚かされたし、さらに、それぞれの脚本の良さを引き出す役者の演技にも圧倒されてしまいました。今はどうか知りませんが、公開当初は上映している映画館も少なく、そのこともあって「知らない役者が出てくるマイナーな映画」だと思い込んでいたわけですが、今思えば、私にとってはそういう出会い方で良かったなと思います。というのも、もしも鑑賞前の時点で、「広瀬すずや仲野太賀など有名俳優が多数出る映画」という事実を知っていたら、本作を観なかったかもしれないからです。
比較的、「メジャーな作品を観ない」って傾向があるよね
観ないわけじゃなくて、優先順位が低くなるだけなんだけど、結果的に観ないことが多くなるのは確か
そんなわけで、出会い方も含めて私にとっては何もかも素晴らしかった映画で、色んな意味で衝撃的な作品でした。もし機会があるなら、是非観てほしいなと思います。
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ルシルナ
普通って何?【本・映画の感想】 | ルシルナ
人生のほとんどの場面で、「普通」「常識」「当たり前」に対して違和感を覚え、生きづらさを感じてきました。周りから浮いてしまったり、みんなが当然のようにやっているこ…
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