目次
はじめに
この記事で取り上げる本
河出書房新社
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ポチップ
この本をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- 日本では、社会が善悪を判断するため、そのことが悪事の抑止力となっている
- 「女性専用車両」という解決策に見る、「変革」と「世直し」の違い
- 日本では、宗教による対立という緊張が起こらずに済んでいる
本書を読むと、フランスには住みたくないかも、って感じてしまうのではないかと思います
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まず、本書の結論と言えるような文章から引用してみよう。
しかし、一部の改善は考慮するとしても、これらの統計が示しているのは、日本人もフランス人と同じほど気分が落ち込み、さらには絶望し、ときに暴力に出るということだ。それでも、共同体、社会、国家としては、フランスより団結しているように見える。これは事実なのだろうか、そしてもし事実だとしたら、なぜなのだろう?
なんとなくのイメージだが、日本に住んでいる日本人からすると、フランスの方が国家として「レベルが高い」感じがしないだろうか? 「フランス革命」が起こった国であり、人権意識も高く、民主主義国家として日本よりもずっと洗練されているのではないか? と。
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しかし、日本在住20年以上のフランス人である著者は、フランスと日本を徹底的に比較した結果、欧米の理屈からすると理解できない部分もあるが、しかしそれらもひっくるめた上で、日本というのは結果的に上手くやっている国なのではないか、と主張する。
その背景には、
しかし私たち(※フランス人)は自由をふりかざすあまり、国家の権力を低下させているのではないだろうか?
という感覚があるようだ。この辺りについてはおいおい触れていく。
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さて、少し長くなるが、本書の著者がどんな人物であるのかが、本書巻末の訳者あとがきにまとまっているので引用しようと思う。
著者のジャン=マリ・ブイス氏は、1950年パリ生まれ。歴史家で専門は現代日本。フランスのグランゼコールを代表する名門パリ高等師範学校(ENS)出身。1975年、リセ・フランコ・ジャポネ・ド・東京(現在の東京国際フランス学園)に赴任する(1979年まで)ために初来日。その後、東京大学をはじめとする日本の著名大学で教鞭をとり、現代日本の政治や経済政策についての書物を数多く発表する。1982年から1984年まで、東京日仏学院(現在のアンティテュ・フランセ東京)付き研究員をつとめ、ついで九州日仏学館(げんざいのアンティテュ・フランセ九州)の館長となる(1984年から1989年)。
1990年、やはりグランゼコールの名門、パリ政治学院研究科長に就任するためにフランスに帰国。日本とフランスの大学の橋渡し役として日仏を往復するほか、各種の大学で教鞭をとる。2013年、パリ政治学院日本代表に就任して再来日、現在に至っている。日本在住歴は20年以上、その間、日本の政治、経済、社会、外交から漫画、ポップカルチャーまでの幅広い研究に加え、本書でも触れられているように、再来日後は、日本女性の妻と子どもを通して女性問題や子育て問題など、さらに研究のフィールドワークを広げている。
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本書を読めば分かるが、著者はかなり日本の生活の中に入り込んでいる。幼稚園ではかなり煩雑な作業が要求されて大変だとか、地域の祭りで神輿をかついだことがあるとか、かなり様々な経験をしている。「ヤクザに鑑定書を書くよう頼まれたことがある」という話も、なんというか尋常ではない。
もちろん、日本人が読むと「その記述は的外れだ」と感じる箇所ももちろんある。日本の編集者と共に日本人向けに作った本であればそういう違和感は制作過程で無くなったでしょう。しかし本書は元々、フランス人向けに書かれた本の翻訳なので、やはりそういう違和感は残ってしまう。
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しかし、それらが全然些末な問題だと感じられるほど、全体としては、日本に関する鋭い観察と指摘に溢れた内容だと思う。
「善悪を決めるのは社会」という日本の特異さ
本書を読んで、最も納得させられたのが、「善悪を決めるのは社会」という主張だ。そして、日本はこのような社会通念が存在するからこそ、モヤモヤする部分もありながらも、全体としては上手くいくのだ、と書く。
著者はまず、フランスと日本における「自由」の違いについて触れる。フランスの人権宣言では、
自由は「消滅することのない自然な権利」(第二条)で、「他人を害しないすべてのことをなしうる」(第四条)と、きわめて広く定義されている。法的に禁止されているのは「社会に有害な行為のみ」(第五条)である。
と定められている。つまり、「社会に有害な行為」以外だったら何をしてもいい、というのが、フランスにおける自由である。
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本書には、不倫した山尾志桜里議員や乙武洋匡、覚醒剤所持のASKA、暴言の豊田真由子議員など日本のニュースを騒がせた人たちが取り上げられる。そしてその後で、
これらの報道内容は何一つ、フランスなら罰せられないだろう。
と書いている。不倫も覚醒剤も暴言も、「社会に有害」とは判定されないから、個人の自由、ということなのだろう。
本書にはフランスの例として、
未成年の買春でスキャンダルを起こしたフランス・テレビ界の大物司会者(ジャン=マルク・モランディーニ)は、不起訴になったのを幸い、テレビ局社長の後押しを受け、その後も堂々と自分の看板番組に出演している
というエピソードが紹介されている。なるほど私も、「不倫」はどうぞ勝手にやってくださいと思っているが、「未成年の買春」にはそうは思えない。フランス人の「自由」の概念は、思ったよりも広い。本書には、こんな記述さえある。
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フランスでは、このようなことが社会の団結に貢献することはない。なぜなら政治家の感情的、性的な異常行為は、伝統的に職務につきものと見なされてきたからである
凄まじい発言である。それでいいのだろうか?
一方、日本ではどうか。
日本では、自由は自然な権利でも、絶対的な価値でもない。憲法では全体的な定義は何も示されていないのだ。定義としてもっとも適当と思われるのは「避けたほうがよい混乱を社会に引き起こさないことをする権利」だろうか。そのため、法律を破らない行為で、とくに誰かに有害ではなくても、通常の社会的規範から見た許容度によって、厳しく条件づけられる可能性が生じることになる
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ワイドショーや週刊誌で不倫が取り上げられることに対して、私のようにうんざりした気持ちを抱く日本人もきっと多いと思う。そんなの個人の勝手だろ、と感じることに対してまで、社会全体で非難する風潮はおかしいと思う。まさにこれは、日本の社会では、著者が指摘する「避けたほうがよい混乱を社会に引き起こさない」というスタンスが重視されている、と判断せざるを得ないだろう。
そして、このような「社会的制裁」が当たり前のように存在することが「日本人の団結」を生み出している、と著者は書く。
彼らが受けた制裁は不当に厳しいと見ることはできるが、これらの象徴的な処分は法はおろか、社会の些末な批判も乗り越えられないという気持ちをすべての日本人のあいだに高め、維持することに貢献している。彼らは、不品行は割に合わないことを(少なくとも、代償を払わずには済まないことを)、人目を引く形で示している。そうしながらも、週刊誌は彼らなりのやり方で、日本社会の団結に一役買っているのである。
確かにこれはその通りだろう。私は、いわゆる「有名税」と呼ばれるような、「有名人だから、悪事の際には一層叩かれる」みたいな風潮は好きではないが、しかし、そういう風潮のお陰で悪事が一定の枠組みの中に収まっている、とも言えるだろう。
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特に現代では、YouTuberやインスタグラマーなど、いわゆる「芸能人」とは違う枠組みの「有名人」も増えている。そういう「有名人」が、「自分が悪事を働いたら制裁がヤバい」と考えて悪事から遠ざかり、そしてそのことが、「有名人だってやってるんだから」的な発想を引き起こさないという意味で悪事の抑制に繋がっている、とも感じる。
モヤモヤは決して消えない。でも確かに、未成年の買春を行ってもまだテレビに出続けられるフランスより、日本の方がずっとマシかもしれないなぁ、と感じもするのだ。
このように、
善と悪の問題は、日本では社会が状況に応じて決めるもので、それ自体、国家のアイデンティティの重要な要因の一つとなっているのである
という日本の独特の社会通念が自然にストッパーとなり、おのずと良い方向に進むようにしているのだ、と著者は主張する。
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「女性専用車両」へのフランス人女性の反応
本書を読んで、「なるほど、言われてみればその通り」と強く感じたのが、「女性専用車両」に関する記述だ。
電車に限らないが、日本では痴漢などの対策のために、「女性だけ別にする」という方向の対策が取られることも多くある。
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これらの対策に対して著者は、
しかし、現に実行されているところを見ると、日本女性はこの措置を圧倒的に支持しているようなのである
と、納得のいかない意見を含ませながら理解している。私はまだこの時点では、著者が何を言いたいのか理解できていなかった。「女性専用車両」は、現実的な対応策として、決して悪いものではないと思っていたからだ。
しかし、日本のこのような対策についてフランス人女性に話すと、こんな反応になるのだという。
フランス人の女性の友人にこのことを話すと、多くは反対の叫び声をあげる。いわく「解決法は、女性を男性の手の届かないところに閉じ込めることではなく、女性に敬意を払うように男性に教えることよ!」、「女性専用車両は形を変えた女性差別です!」。原則的な視点では、私もそれに賛成だ
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なるほどそういうことか、と納得した。
確かに私も、原則的な意味で言えば「女性専用車両が根本的な解決策ではない」と理解している。
ただ、「痴漢を無くす」ことは、現実的に相当難しいだろう。だったら、とりあえずの対応策として女性を別にするのは、そう悪い話ではないはずだ。
私は男なので女性の感覚まではっきりは分からないが、恐らく日本人女性の多くも、この「女性専用車両」という考えに、満足かどうかはともかくとして、批判する人は多くはないだろう。
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しかし、人権に敏感なフランスでは、「女性専用車両」は「差別」だと判断される。繰り返すが、もちろん私も、原則的にはその考え方には賛成だ。しかし、「一時しのぎの、現実的な対応策」としても認めてもらえないというのは、なかなか厳しいと感じる。
この点に関して著者は、日本語の「世直し」という言葉を取り上げながら、「変革」のフランスと「治療」の日本を対比する。
社会問題に対して、フランス人と日本人のアプローチは正反対である。フランス人は変えることを望むのに対し、日本人は治療を望む。私たちフランス人は、(中略)害悪は完全に排除するか、または再教育して、社会を解放しようと闘うのである。
いっぽうの日本人は、機械を直す、間違いを正す、病気を治療する、悪い習慣を取り除くのと同様の動詞を使う。「生活、社会、世界」を立て直すときは、それら全体を一言にして「世」を立て直すという言い方をする。悪というよりは、機能不全に陥った共同体全体を立て直すという意味で、壊すのではなく、再出発するために活力を取り戻すという意味だ
確かに著者のこの表現には、納得感がある。その対処法がベストかどうかはともかく、日本人は確かに「現実的な対症療法」を選択することが多いだろう。
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そのスタンスは時に、「いやいや、根本的な原因を取り除かないとどうにもならないでしょ」という感覚を抱かせもする。しかし、実際問題、根本的な解決が難しい場合も多い。だからこそ、「まずは現実的に可能な範囲で対応しましょう」というところで落ち着くのではないかと思う。
しかしフランスでは、「問題は根本的に解決すべき!」という圧力が強いようだ。確かにそれは、素晴らしい姿勢だと感じる。しかし、なかなかハードな道のりでもある。何故なら、根本的な解決には時間が掛かる上に、解決に至る道筋ではそれまで以前よりもさらに苦しい状況に置かれる場合も多いだろうからだ。それでもフランスでは、「闘争」が選択されるのだという。
長い目で見れば当然、根本的な解決を目指す方がベストなことが多いだろう。しかしだからといって、「常に根本的な解決しか許さない!」という社会に生きるのも大変そうだ。この点でも日本は、フランスと比べて悪くはないのかもしれない、と感じる。
欧米とは異なり、宗教は「善悪の基準」にならない
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欧米と比べて日本がある種の緊張から解き放たれているのは、「宗教の役割」の違いも大きいと語る。
欧米では、宗教が善悪の基準になる。だからこそ常に、異なる宗教間で対立が生まれてしまう。しかし先程触れた通り、日本では善悪を決められるのは唯一「社会」だけだ。
そもそも日本は、国民の半数以上が「無信仰」と答える国だが、現実には様々な宗教が入り混じっている。しかしそれでも、欧米のような宗教間の対立が起こらないのは、
日本では、社会が神の役割を担っている
という共通理解がなされているからだという。なるほどという感じである。確かに、「宗教が善悪を決める」となれば、永遠に対立構造は解消されないだろうし、そんな社会は常に緊張感と隣合わせだろうとも思う。
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また、宗教の話に関連して、政教分離も取り上げられる。日本でも建前上、政教分離は原則とされているが、”周知の通り”守られていない。しかしそれでも、表立ってそれを問題視する人はあまりいないだろう。しかしフランスでは、
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という。なるほど、これは大変だ。宗教が善悪を決めるという社会通念があるからだろうが、「政教分離」を厳密にしなければ争いが起こる、という社会は、ちょっとめんどくさいと感じてしまう。
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また、こんな記述もある。
しかし日本はこの種の緊張からは免れている。新年には、地区の交番は何の問題もなく、習慣上欠かせないからと神道の飾りをつけている。仏陀の誕生日には、私が利用するスーパーマーケットは毎年、売り場の中央に供物台を設置するのだが、客は誰一人、不快には思っていないようだ。むしろ逆。お盆には、ほぼ全員が果物の入った供物用の籠を買っているのは、家の仏壇の前に置くのだろう。この光景を見て、意識の自由がないがしろにされ、さらには違いを認められる権利が踏みにじられていると、不満を述べる人はほとんどいないのである
この引用で注目すべきは、最後の「この光景を見て、意識の自由がないがしろにされ、さらには違いを認められる権利が踏みにじられていると、不満を述べる人はほとんどいないのである」という部分である。
私たちは、それが宗教的な背景を持つ行事・しきたりなのだろうと理解しているものについて、社会全体が同じ雰囲気に染まるのを目にしても、特に不快には感じないだろう。もちろん、「国民の休日には国旗を掲げろ」と強制されるとすればそれは不愉快だが、別に強制されることはない(地域によっては強制もあるのかもしれないが)。
しかしフランスでは、強制されるかどうかに関係なく、「特定の宗教の行事・しきたりが当然のように社会の雰囲気を染めている状況」に対して「自由を侵害されている」と不満を抱くのだという。
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大変だ。
とはいえ著者は、「日本人が『強制されている』と感じていない」ということに対してさえも疑問を呈す。日本には季節ごとのイベントが毎月のようにあり、10月31日までハロウィンだったのに、11月1日になると”魔法のように”クリスマスに変わる、と著者は驚いている。そしてこれらの世の中の雰囲気が「圧力」として機能している、と書くのだ。
毎年毎年、祭りを連続させる小細工は、日本人が自分たちの時間の習慣や、感性までも先取りするよう仕向けている。社会的にも商業的にも連続する時間は、学校の時間と同じように詰め込み主義のようになっている。そうして、興味や行動の中心となるものに圧力を与え、フランスと比べて、個人が自由に使える暇な時間を取り上げている。この圧力は日本人に、全員が同じ時に同じことをしなければならないというイメージを押しつけている。その気のない者は隔離されたように感じ、さらには社会に不適合と見なされ、社会や仕事でもハンディになるのである
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まあ日本人からすれば、別にハロウィンやクリスマスやバレンタインなんかに積極的に参加していなくても、そこまで「不適合」とみなされないんじゃないかと思う。しかしこれは、大都市と地方の差や、仏教・神道的な行事であれば年代などによる差も大きいかもしれないので、一概には言えない。
いずれにせよ、我々日本人が「強制」と感じていないことであっても、フランス人には「強制」に感じられることがあるようで、まさにそれは「個人の権利」を強く考えるお国柄なのだろう、と思う。
「あなたは幸せですか?」という質問に「YES」と答えられない日本人
最後に、フランスとの比較というわけではないのだが、興味深い話題があるのでそれを取り上げて終わろうと思う。
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日本人に限らずアジアの国での傾向らしいが、「あなたは幸せですか?」と聞かれて「YES」と答えられない人が多いという。確かに私もそう聞かれたら「YES」という答えにはならないような気がする。そしてこの点に関して著者は、
一般的にいって、アジアの文化は、個人の幸せを安定した状態ととらえておらず、最終的な人生の目的にもしていない。
と書いている。「安定した状態ととらえておらず」ということはつまり、日本人にとって「幸せ」とは「点」あるいは「瞬間」だということだ。だから日本人は、「あなたは幸せを感じる瞬間がありますか?」と聞かれると「YES」と答えられるのだという。
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確かにこう言われると、納得感がある。私も、「瞬間がありますか?」と聞かれれば「YES」と言えると思う。
「あなたは幸せですか?」と聞かれて「YES」と答えられないというアンケート結果に対して、「日本は幸福度が低い」というような言われ方をすることもあるが、そういう言説にはどうもあまりしっくりくることがなかった。しかし、「日本人は幸せを瞬間で捉えているのだ」と指摘してくれると、確かに、と感じられる。
こういう発見が得られるという点でも、外からの目線というのはやはり大事だと感じる。
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『衆議院議員・小川淳也が小選挙区で平井卓也と争う選挙戦を捉えた映画『香川1区』は、政治家とは思えない「誠実さ」を放つ”異端の議員”が、理想とする民主主義の実現のために徒手空拳で闘う様を描く。選挙のドキュメンタリー映画でこれほど号泣するとは自分でも信じられない
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