目次
はじめに
この記事で取り上げる本
著:落合陽一
¥631 (2021/08/20 23:22時点 | Amazon調べ)
ポチップ
この本をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事で伝えたいこと
コンピュータは「ツール」ではない、と理解しなければ生き残れない
というか、生き残ることを諦めてもいいんじゃないか、と私は感じました
この記事の3つの要点
- 落合陽一は現状を、「映像による強制から解放された時代」と捉えている
- 分化する価値観を繋ぎ止める要素としてコンピュータが存在している
- そんな世の中で必要とされる「言語化する能力」と「専門性」
デジタルネイティブ世代こそ、どこに「欠落」があるのかに気づける作品だと思います
自己紹介記事
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本書は、「現代の魔術師」と称されるメディアアーティスト・落合陽一が、コンピュータとインターネットが激変させる未来社会をどう生き抜くべきかについて、若い世代と、その若い世代に教育を行う立場の人に向けて提言をする作品だ。本書では、「クリエイティブ・クラス」として生き残るために、どんな能力を身につけるべきかについて、かなり具体的なことが書かれていく。
さてその上で、本書の読み方の注意を先にしておきたいと思う。それは、「ほとんどの人間にとって、『クリエイティブ・クラス』を目指すことは不可能だろう」ということだ。あくまで私の個人的な感想だが、本書を読むとそう感じてしまう。
つまり本書は、「『クリエイティブ・クラス』として生き残ることを諦める」ために読むべきではないか、と思うのだ。
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著者は、
そのためこれからは、人間が「人工知能のインターフェイス」として働くことが多くなるでしょう
と、我々の未来を予測する。これは要するに、「人工知能が判断し、その判断に基づいて人間が動く」というイメージだ。今でも、例えば物流倉庫などでは、「AIが作業員に、ピックアップするルートと品物を指示し、人間がその指示通りに動く」というようなシステムが存在する。そしてこのようなシステムが社会全体に広まっていき、あらゆる場面で「AIの指示に人間が従う」という世の中になっていくだろう、と指摘するのだ。
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そして著者が言う「クリエイティブ・クラス」というのは、AIに使われる人材ではなく、AIを動かす側の人材である。もちろん、そういう存在として生き残れればいいが、恐らく、ごく一部の天才がいれば「クリエイティブ・クラス」というのは事足りてしまうだろう。
だから本書は、我々が直面することになるだろう未来の姿をイメージし、そしてその中で「AIに使われる人材」として生きていく覚悟を決める、という読み方をする方がいいのではないか、と私は感じている。
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また本書は、「明らかに誤った方向に進まない」という点でも読む価値があると言えるだろう。
本書には、こんな記述がある。
ですから若い世代は、いま自分がどんな時代に生きているのかを過去と比較して知ることも大事です。昔は何ができなくて、いまは何ができるのかを知らなければ、解決すべき問題を発見することも、そこに文脈をつけることもできません。生まれたときからパソコンもインターネットもスマートフォンもあると、「昔は何ができなかったのか」を直観的には理解しにくいものですが、それがわからないと、二十年後、三十年後にまた別の時代が訪れることも想像できないのです。
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著者は繰り返し、「『昔は何ができなかったか』を知ることも大事だ」と語る。どうしても我々は、これからの未来ばかり見ようとしてしまいがちだ。しかしそれでは、本当の意味で未来を理解することはできない。
私は、インターネットが存在していない時代のことをリアルに経験しているから、インターネットが社会をどう激変させたかを理解できている。しかしデジタルネイティブと呼ばれる世代は、インターネットが当たり前の世界に生きているからこそ、過去にどんな激変が起こったかを知らない。それは即ち、未来にどんな激変が起こりうるかを明確にイメージできない、ということでもあるのだ。それを正しく理解しなければ、明らかに誤った方向に進む可能性も高くなるだろう。
著者の主張は、読む者を熱くさせるに違いない。特に若い世代であればあるほど、自分たちがこれからどんな経験ができるのかとワクワクするかもしれない。しかしある意味本書は劇薬であり、「誰もが『クリエイティブ・クラス』として残れるわけではない」という厳しい現実を突きつける作品でもあると感じる。
だからこそ、本書をこれから読もうという人は、「『クリエイティブ・クラス』を諦める」「明らかに誤った方向に進まない」という目的意識でページをめくってみるのもいいだろうと思う。
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「クリエイティブ・クラス」として生き残らなければ人間としてダメなんだとしたら、未来はあまりに辛すぎる。
落合陽一は世界の現状をどう捉えているのか?
落合陽一は、「映像」というキーワードで、「過去」と「今」を区別しようとする。
二十一世紀が来て十六年、今世紀のすでに六分の一を消費したいま、僕はやっと「ほんとうの二十一世紀」がやってきたような気がしています。ここで「ほんとうの二十一世紀」という言葉を使った意味は、前世紀の人類を支配していたパラダイム、映像によって育まれてきた共通の幻想を基軸としたパラダイムがようやく抜け落ちてきた、または変化してきたなという実感があるからです
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これまでの世の中は、「映像」によって統一的なモノの見方・考え方が強制されていた、と著者は語る。著者がいう「映像」というのは、主に「テレビ」のことを指すだろう。様々な価値観が「テレビ」を通じて発信され、それを誰もが当たり前のものとして受け取ってきた、ということだ。
そしてその状況が、インターネットによって変わってきたと語る。インターネットの登場で統一的な価値観が解体され、人間の思考や見方はどこまでも分化していく。これは、生き方や価値観が細分化し、ロールモデルと呼べるような存在が成立しなくなった現代をまさに表現している。
価値観が分化し続ける状態を「社会」というまとまりのあるものとして捉えることは難しい。そして、このバラバラな価値観を「社会」という形で繋ぎ止めているものこそコンピュータだと著者は語る。かつては単なるツールでしかなかったものが、現在では、「社会」を構成する上で不可分の存在になった、と指摘するのだ。
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だからこそ、
コンピュータという大きなものの文化的性質を知らずに生きていくことは、貧困の側に回り、それが再生産されていく温床になりかねません。
と危機感を表明する。
そして、この主張を背景として、「教育」への問題を指摘するのだ。
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ところが、彼らに将来の指針を与える立場にある親の世代が、いまコンピュータやインターネットのもたらす技術的変化や文化的変化によって具体的に何が起こるのか、それがどういう意味を持つのかを理解していません。そのため多くの親が、子供に見当違いの教育を与えているような気がします
この観点は、親や教育者が常に意識しておくべきことだろう。コンピュータは、やはりまだ多くの人に「ツール」だと考えられているはずだ。しかしその捉え方だけでは社会を正しく捉えられない。社会構造と不可分に結びついたものであり、単なるツールではない、ということを、教育の過程で教えるべきなのだろうと感じる。
「コンピュータと共存する」という、落合陽一の未来予測
本書では、かなり具体的な記述で、未来がどう変わっていくのかが描かれていく。しかし、その一つ一つを紹介していても
キリがない。だからこそ、落合陽一の未来の捉え方を大づかみで理解できる記述を引用しよう。
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そこを鍛えなければ、どんなに英語を学んでも、プログラミングを学んでも、シンギュラリティやマルチラリティ以降の世界に通用する人間にはなれないでしょう。それは、「コンピュータと人間が相互に補完しあってそれ以前の人類を超えていく時代」だからです
つまり、「どう使う」「どう使われる」という観点ではなく、「共存」してどう変化していくかが重要だ、という指摘だ。
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これを著者は、人間とミトコンドリアの関係に喩えている。
ミトコンドリアという生物は、人間(だけではないが)の細胞内に存在する。しかし元々は、ミトコンドリアは生命の体内に存在せず、別々に生きていた。進化の過程で、生命はその細胞内にミトコンドリアを取り込んだのだ。それは、生命にとってもミトコンドリアにとっても利益をもたらすことだったからだ。
このようにして人間とミトコンドリアは「共存」して、両者を高め合うことになった。
人間とコンピュータも同じような関係になっていく、と著者は言う。その融合がどのようなものかは分からないが、既に世界には、身体の一部をサイボーグ化している人もいるし、あるいは、身体の中にミクロなコンピュータを入れて体調を整えるアイデアも存在する。
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両者が共存することでお互いが補完することが重要なのであり、著者はさらに、
コンピュータは電化製品ではなく、我々の第二の身体であり、脳であり、そして知的処理を行うもの、たんぱく質の遺伝子を持たない集合型の生物です。
と、コンピュータを生物と同等に扱っている。
そんな未来に、どんな能力を身につけるべきか?
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そんな未来に必要とされる能力について、短くまとまった箇所を引用しよう。
重要なのは、「言語化する能力」「論理力」「思考体力」「世界70億人を相手にすること」「経済感覚」「世界は人間が回しているという意識」、そして「専門性」です。これらの武器を身につければ、「自分」という個人に価値が生まれるので、どこでも活躍の場を見つけることができます
このそれぞれについて本書では詳しく書かれているが、この記事では、「言語化する能力」と「専門性」について触れようと思う。
まずは「言語化する能力」について。著者はこのように書く。
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また、ネットで知った知識をそのまま人に話しているようではダメ。思考体力の基本は「解釈力」です。知識を他の知識とひたすら結びつけておくこと。
したがって大事なのは、検索で知った答えを自分なりに解釈して、そこに書かれていない深いストーリーを語ることができるかどうか。自分の生きてきた人生とその答えはどうやって接続されていくのか。それを考えることで思考が深まり、形式知が暗黙知になっていくのです。
そういう能力は、考えたことの意味を「言葉で説明する」努力をすることで養われます。僕の東京大学大学院時代の指導教官である暦本純一先生(スマホなどで使われているマルチタッチのアイディアを世界で最初に作った人です)も「言語化は最高の思考ツールだ」と言っていました
これは、特にデジタルネイティブ世代には耳が痛い話ではないかと思う。
「ネットで検索すればなんでも分かるんだから知識なんか覚える必要がない」という主張がある。確かに、「覚える」必要はないかもしれない。しかし落合陽一の主張から、ネットで検索すれば分かるからいい、という態度では闘えない、とも理解できるだろう。何か知識に触れた時、そこに「思考」「解釈」が必要だし、それはまさに「言語化する能力」そのものである。
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これからの時代、コミュニケーションで大事なのは、語学的な正しさではなく、「ロジックの正しさ」です。
「コミュニケーション能力」について考える時、「ロジックの正しさ」は真っ先には頭に浮かばないだろう。しかし、人間相手のコミュニケーションはもちろん、AIが社会に組み込まれるほど、「ロジックの正しさ」は重要になっていく。なぜなら、ロジカルじゃない言葉や文章は、AIが正しく認識できないからだ。
あらゆる情報を検索して調べ、ほしい情報だけをソートし、大量の情報を処理するだけの世の中では、なかなか思考力は身につかない。だからこそ、言葉とロジックできちんと説明できる力をつけることは、これからの時代において一歩抜ける要素になるだろうと思う。
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また、「専門性」については、こんな風に書かれている。
だから、いまの小中学生が将来「コンピュータに駆逐されない自律的な仕事」をできるようになるのは、何でも水準以上にこなせるジェネラリストではなく、専門性を持つスペシャリストになることが必要です。
そしてさらに、この「専門性」については、このような条件がつく。
一般教養と違って、テクニカルな専門性というのはインターネットをクリックするだけで学習できるようなものではありません。みんながアクセスする知識に、専門性はないのです。
この「みんながアクセスする知識ではないこと」に専門性がある、という点が非常に重要だ。
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しかし重要なのは、そんな風に誰でもアクセスできる情報には大して価値がない、と理解することだ。著者は本書の中で「土器を作る能力」と呼んでいるが、需要がなさそうで、ネット上で探しても情報が見つからないような、特に何かに活かせそうにない能力にこそ「専門性」がある、と主張する。
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また、AIがより社会に組み込まれる時代で重要になるこんな指摘もある。
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コンピュータには「これがやりたい」という動機がありません。目的を与えれば人間には太刀打ちできないスピードと精度でそれを処理しますが、それは「やりたくてやっている」わけではないでしょう。今のところ、人間社会をどうしたいか、何を実現したいかといったようなモチベーションは、常に人間の側にある。だから、それさえしっかり持っていれば、いまはコンピュータを「使う」側にいられるのです
コンピュータには動機がないから、強い動機がある人間こそ勝てる可能性があるというのは、非常に納得感のある主張だろう。著者はそんな人間のことを、「秀才」でも「天才」でもなく「変態」と呼んでいる。「変態」こそが、これからの世の中で生き残れるのだ、と。
このことが理解できていないと、子どもが何か熱中するものを見つけても、「そんなことより勉強しなさい」と、その熱中を妨げるような教育をしてしまうだろう。そういう過ちを犯さないという意味でも、本書の主張は重要だと感じる。
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著:落合陽一
¥902 (2022/02/03 23:05時点 | Amazon調べ)
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最後に
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自己啓発・努力・思考【本・映画の感想】 | ルシルナ
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