目次
はじめに
この記事で取り上げる映画

「いもうとの時間」公式HP
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
今どこで観れるのか?
公式HPの劇場情報をご覧ください
この記事の3つの要点
- 「名張毒ぶどう酒事件」はどのように発生し、奥西勝は何故死刑判決を受けるに至ったのか?
- 奥西勝の逮捕前後で証言を大幅に変えた住民、そして再審請求を否決し続ける名古屋高裁の裁判官
- 「袴田事件」を通じても明らかになった「再審請求の問題点」については、早急に法改正が必要なはずである
「名張毒ぶどう酒事件」に限らずだが、司法は「過去の過ち」と真摯に向き合い、その上で前進していくべきだと思う
自己紹介記事
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というわけで、この記事ではまず事件の概要から触れていくのだが、その前に2つ言及しておきたいことがある。
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1つ目は、「名張毒ぶどう酒事件」の犯人として逮捕され死刑が言い渡された奥西勝は既に亡くなっているということだ。2015年10月14日に、死刑囚のまま病死したのである。また本件においては、1973年からずっと再審請求(裁判のやり直しを求める請求)が続けられてきたのだが、映画公開時点においてもまだ再審の扉は開いていない。
再審請求は基本的に「判決を受けた当人」が行うものだが、2015年以降も請求は続けられている。法律上、再審の請求権者(再審を請求する権利を持つ者)は「配偶者、直系親族、兄弟姉妹」とされており、そして「名張毒ぶどう酒事件」における唯一の請求権者が、奥西勝の妹・岡美代子というわけだ。もし彼女が亡くなれば、本件の再審請求を行うことは不可能となり、真相は永遠に闇の中となってしまうだろう。そういう状況を踏まえた上で制作されたドキュメンタリー映画なのである。
そして2つ目は、本作では「袴田事件」にも触れられているということだ。「袴田事件」に関しては以下にリンクした記事を読んでほしいが、日本における恐らく最も有名な「冤罪が疑われていた事件」であり、そして長年の再審請求が実り、2024年、ついに無罪判決が出た事件でもある。判決では「捜査機関による証拠捏造の可能性」にも言及されており、かなり踏み込んだ判断だったなと思う。
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本作『いもうとの時間』で「袴田事件」が扱われているのは当然、「『袴田事件』で無罪判決が出たのだから、『名張毒ぶどう酒事件』でも同様の判断になってもおかしくない」という想いが込められているのだろう。このままであれば、表現はともかく、司法は「逃げ得」になる。そうならないためにも、私たちが関心を持たなければならないのだと思う。
「名張毒ぶどう酒事件」の概要
それではここからはしばらく、本作『いもうとの時間』で描かれていた内容を踏まえ、「名張毒ぶどう酒事件」の概要についてざっと説明しておきたいと思う。
事件は1961年3月28日に起こった。三重県と奈良県の県境にある葛尾という村が舞台である。葛尾の正式な所在地は「三重県名張市」であり、そこから「名張毒ぶどう酒事件」という名前が付いた。村の懇親会で振る舞われたぶどう酒に毒物が混ざっており、女性5人が死亡する大惨事となったのだ。
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事件発生から6日後には、既に奥西勝は逮捕されている。というのも、会長宅に置かれていた酒を隣接する公民館へと運んだのが奥西勝だったのだ。取り調べの中で、奥西勝は犯行を自供。「三角関係を精算するためだった」と動機まで話していた。これにより、奥西家は葛尾村で村八分にされ、墓さえも集落外に移されたという。
しかしその後の裁判では一転、奥西勝は「刑事に自白を強要された」と話し、無罪を主張するようになった。というわけでここからは、後に行われた調査で判明した事実も踏まえつつ、奥西勝の主張の検証をしていこうと思う。
本件においては、「奥西勝が毒を混ぜた」ことを示す直接的な証拠は存在しない。そこで、裁判でも重要な争点となったのが、「奥西勝以外に犯行の機会は存在しなかったか?」ということだ。そして、このことについて考える上で重要になってくるのが、「奥西勝の逮捕前後で村人の証言が変わっている」という事実である。そこでまずは、奥西勝が逮捕される以前の住民の証言を押さえておくことにしよう。
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酒を買い出しに行ったのは役場の職員である。彼は几帳面にも、「役場を出た時間」「酒屋に着いた時間」「会長宅に酒を届けた時間」をメモしており、それぞれ「14:00」「14:05」「14:15」と書かれていた。一方、酒屋の店主は「14:30から15:00頃に酒を買いに来た」と証言しており、多少のズレはあるものの、両者の証言は概ね一致していると言える。
しかし奥西勝が逮捕された後、2人の証言は大きく変わった。役場の職員は、自身が書いたメモの映像を突きつけられても「覚えていない」の一点張り。さらに酒屋の店主は、「職員は16:00頃に買い出しに来た」とまったく異なる証言をしたのである。この店主は後に、記者からの取材に対して「(奥西勝逮捕前後で)証言を変えたこと自体覚えていない」みたいに話していた。
この時点で大分怪しいというか、「疑義が生じている」と言えるのではないかと思う。
では、これらの「証言変更」は一体何を意味しているのか。重要なのは、「奥西勝が会長宅から公民館へと酒を運んだ時間」が「17:20」とはっきり確定しているという点である。その後、17:30頃から宴会が始まり、そしてすぐに参加者が倒れ、事件が発覚したという流れだったと思う。
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さて、住民による当初の証言通り「14:15に会長宅に酒が届けられた」としたらどうなるだろうか? 酒は、17:20に奥西勝が会長宅にやってくるまで、およそ3時間も「無防備な状態」で置かれていたことになる。となれば、この間に奥西勝以外の人間が毒を入れた可能性を否定することは難しくなるだろう。検察は「奥西勝は、会長宅から公民館に酒を運んだ際に毒を入れた」という筋書きを描いているのだから、「奥西勝以外に毒を混入することは不可能だった」と主張するためには、「会長宅に酒が置かれている時間が短い」方がいい。つまり、「役場の職員が17:20に近い時間帯に会長宅に酒を運んだ」という状況がどうしても必要だったのだ。恐らくそのために、警察が住民に証言の変更を迫ったのではないか。本作ではそのように示唆されているのである。
というわけで裁判に話を戻すが、このような証拠を踏まえた上で、津地方裁判所で行われた一審では「無罪判決」が出された。裁判官は、「検察が相当の努力を行い、住民の証言を変えさせた」とかなり踏み込んだ指摘をした上で、「奥西勝の自白は信用できない」と判断したのである。こうして奥西勝は釈放され、社会復帰(と言えるようなものではなかったと思うが)を果たした。
しかし、検察が控訴し行われた名古屋高裁での二審では一転、「死刑判決」が下される。検察が新たに提出したのは「王冠の写真」だった。検察は「公民館で奥西勝は、自身の歯でぶどう酒の王冠を開けた」と主張し、後日、同じぶどう酒の瓶を使って比較実験を行ったのだ。二審ではどうやらこれが決定的な証拠と判断されたらしく、さらに「自白は信用できる」と何故か判断が覆り死刑判決に至ったようである。
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しかし本作を観ても、「奥西勝が歯で王冠を開けたとして、それが何なんだ?」という点がそもそも私には理解できなかった。恐らくだが、「酒瓶を開封する必要はなかったのに、奥西勝はわざわざ酒瓶を開けた。それは毒を入れるためだった」みたいな理屈なんだと思うが、「酒瓶を開けた」からといって「毒物を混入した」ことにはならないだろう。これが決定的な証拠とされた理由が私にはまったく理解できなかった。さらに本作ではこの点に関して、2000年に入って以降明らかになった新事実が紹介されているのだが、この記事ではその点には触れずにおくことにしよう。
その後最高裁に上告するも、最高裁は二審判決を支持、これによって1972年6月15日に死刑が確定した。これが、奥西勝が死刑囚となるまでの経緯である。実に酷い話だと感じないだろうか。
再審請求の過程、そして、その判断に関わった裁判官に対し思うこと
死刑判決が下った翌年の1973年には既に、再審請求が行われている。恐らく当初は奥西勝本人かその担当弁護士による請求だったのだと思うが、1977年からは再審請求のための弁護団が結成されたようだ。再審請求には「新規で明白な証拠」が必要とされるため、彼らは再審請求を行う度に新たな証拠を提出し続けたのだが、それでも再審請求は否決され続けた。
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再審請求の過程で弁護団は、様々な新事実を発見する。まず、二審で決定的な証拠とされた王冠を再度詳細に鑑定したところ、実際には「歯型はまったく一致しない」ことが分かり、さらにその過程で「警察による捏造」も判明した。また再検証の結果、「検出された毒物と奥西勝が証言した毒物が一致しなかった」ことも明らかになったそうだ。なぜ捜査の段階で分からなかったのかは不明だが、もしかしたら「当時の検出技術では、ぶどう酒に混入された毒物を正確に判別出来なかった」ということなのかもしれない。仮にそうだとすれば、「実際にぶどう酒に入れられた毒物が不明なまま、『奥西勝が証言した(自白させられた)毒物が混入されていた』という前提で裁判が行われた」ということになるわけで、技術的な限界があったなら仕方ない気もしなくはないが、ちょっと驚かされてしまいもする。
このように、毎回「新たな証拠」を用意して再審請求を続けているにも拘らず、未だに認められていない。再審請求は現在、第10次に及んでいるそうだ。
しかし実は、一度だけ再審の扉が開いたことがある。2005年4月5日、名古屋高裁が再審開始を決定したのだ。私は事件の経緯をまったく知らずに本作を観ていたこともあり、「なるほど、再審は行われているのか」と感じた。しかし、その捉え方は間違っていたようだ。というのも翌年2006年の12月に、再審開始の取り消しが決定したからだ。私は冤罪や再審について本や映画で結構触れてきたので、一般の人よりは知識があると思っているのだが、それでも、「再審開始の取り消し」など初めて聞いたので驚かされてしまった。
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「再審開始の決定」と「再審開始の取り消し」はそれぞれ別の裁判官による判断なのだが、どちらも名古屋高裁の所属である。そして、私の勝手な憶測でしかないが、恐らく「名古屋高裁内で色んな”もみ合い”みたいなものがあり判断が覆ってしまった」ということなのだと思う。さらに憶測を重ねるなら、「何らかの政治的な判断、あるいは忖度が働いたのではないか」とさえ感じさせられた。
まあどういう状況だったのかはっきりとは分からないものの、個人的に強く感じるのは、「再審を否決し続ける裁判官は、どんな気分でいるのだろうか?」ということだ。私は「名張毒ぶどう酒事件」について、本作『いもうとの時間』で描かれている事柄しか知らないわけで、名古屋高裁の裁判官と同じ情報を有しているとはとても言えない。しかしそれでも、以下のような点については「かなり明白な事実」と言っていいように思う。
- 「奥西勝がぶどう酒に毒を混ぜたこと」を示す客観的な証拠は存在しない
- 彼の犯行をはっきりと示す証拠は「自白」しか存在しないが、奥西勝は裁判で「自白を強要された」と主張している
- 再審請求のために弁護団が行った様々な科学鑑定によって、「奥西勝が犯行を行ったわけではない可能性」が強く示唆される
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これらからすぐに「奥西勝は無罪だ」と主張するのは難しいかもしれないが、しかし「再審の扉を開く」には十分なはずだ。「奥西勝が犯人ではない可能性」がかなり高まっているのだから、「裁判をやり直し、改めて判断を下す」という手続きを行うべきだろう。しかし実際にはそうなってはいない。
先に挙げたような状況を踏まえた上で「それでも奥西勝が犯人に違いない」と強く信じているのであれば、再審請求を否決し続けていても仕方ないだろう。しかしその感覚は、ちょっと人間としてどうかしているように思う。そしてもしも、「『奥西勝は無罪かもしれない』と思いつつも再審請求を否決し続けている」のであれば、それはかなり辛い状況なはずだ。名古屋高裁の裁判官がもし、「何らかの事情で『再審請求を否決しなければならない状況』に置かれている」のであれば、それはそれで同情心も湧いてくる。
もちろん、「再審の扉を開きたくない理由」ぐらい理解できるつもりだ。大分昔のこととは言え、死刑判決を下したのは名古屋高裁であり、もしもその判決がひっくり返る(というか「自らひっくり返す」が正しいが)とすれば、「名古屋高裁の沽券に関わる」みたいな気持ちになるのも当然だろう。また、そもそも日本では、「再審決定=無罪」みたいな構図が存在していることもあり(特に、死刑判決が下された事件に関してはそのすべてのケースでそうだったはず)、「再審開始を決断した時点で、自分たちの非を認めることになる」という部分を懸念してもいるのだと思う。そういう理由から再審の扉が開かないのだろう。
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「袴田事件」においては、無罪判決が確定した後、静岡地検の検事正(地方検察庁のトップ)が袴田巖に謝罪していた。「袴田事件」も相当前の事件であり、その検事正だって当然判決そのものには関わっていないはずだ(「再審請求の否決」には関わっていたかもしれないが)。もちろん、組織のトップとして謝罪する必要性があるとは思うが、「自分が死刑判決を下したわけじゃない」のだから、組織の体面云々なんかよりも、「不当な不利益を被っている人」(今回のケースなら死刑囚)の救済に尽力すべきだと思う。「名張毒ぶどう酒事件」においても、もし再審無罪となれば検察の謝罪ということになるだろうし、「検察との関係を考えて『そういう状況を避けたい』みたいに考えている名古屋高裁が否決し続けている」のかもしれない。まあ、もしもそんな理由だとしたら、本当にクズすぎるなと思うが。
再審に関する法改正の必要性、そして「特別面会人」という新たな制度
誤解していただきたくはないのだが、私は別に「奥西勝は無罪に決まっている」などと考えているわけではない。既に奥西勝は亡くなっているのだから、「もはやそんなこと誰にも分からない」と考えるのが妥当だろう。ただそれでも、新たに明らかになった事実を踏まえた上で、「奥西勝の犯行かどうか」に関する判断が大きく変わる可能性は十分にあるはずだと思っている。科学技術の進歩など特に大きな要素だと思うが、事件当時には分からなかったことが様々に判明しているのだから、それらを改めて精査し、「奥西勝は犯人か否か」について詳細な再検討が行われるべきではないだろうか。そして現行の制度では、その機会は「再審」しかない。それで、「まずは再審の扉を開くべき」だと考えているだけなのだ。
さて再審に関しては実は、「法的な規定が限られている」という問題がある。例えば、「袴田事件」においても指摘されていたが、「再審請求に際しての『検察による情報開示』が法律で規定されていない」のだ。というわけで、この点について少し詳しく説明したいと思う。
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先述した通り、再審請求を行うためには必ず「新証拠」が必要とされる。「裁判の時点では明らかになっていなかった事実が存在するので、裁判をやり直しましょう」というのが再審請求の役割だからだ。しかし当然のことではあるが、「証拠」のほとんどは検察が保管している。そして検察は、「再審請求のために証拠を開示してほしい」と弁護側が要求しても、それを拒否することがほとんどなのだ。つまり弁護側は、「検察が保管していない新証拠」を用意しなければならないのである。これは、裁判に詳しくない我々一般人が聞いても「無理ゲーでは?」と感じる状況ではないかと思う。
本来であれば、再審請求を目指す弁護士から「検察に対する証拠開示要求」が出されれば、裁判所が検察に「証拠を開示せよ」と命じて提出させるべきだろう。しかし法律上、裁判所にはその権限がないことになっている。そのため裁判所は、証拠開示要求を拒否する検察に対して、何のアクションも起こせないのだ。
本作では、弁護側が作成した興味深いリストについて触れられていた。検察が保管している証拠にはすべて番号が振られており、裁判で証拠を提出する際にもその番号が示される。そこで弁護側は、これまでの裁判で検察側が提出した証拠すべての番号をリストアップしてみることにした。すると、ところどころに「欠番」があったのだ。例えば、裁判で「証拠1」から「証拠20」までが提出されたとした場合、「証拠8」と「証拠13」が出てきていない、みたいなことである。番号は「裁判に提出する順」ではなく、「捜査の過程で見つかった順」、あるいは「検察が管理しやすい順」に付けられているはずで、だからこのような形で「裁判に出てこなかった証拠」を炙り出せるというわけだ。
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それらの証拠が裁判で使われなかったのは、もちろん「有罪の立証に役立たないから」という側面もあるだろうが、一方で「奥西勝の無罪の判断に有利に働くから」という理由もあるはずだと思う。検察が敢えてそんな証拠を裁判に出すはずがないだろう。そして弁護側は、まさにそういう証拠こそ必要としている。ただ現行の法律では、検察にその証拠を提出させる権限を裁判所さえ有していないのである。これは実に大きな問題であり、法改正が必要な状況と言えるはずだ。
さらにそもそもだが、「判決を下した裁判所が再審の判断を行う」というシステムにも無理があるように私には感じられる。どう考えたって「自身の非を認めたくない」という気持ちが働くわけで、「再審を認めないでおこう」という判断に傾くことは避けられないはずだからだ。なので個人的には、「検察審査会」に似た仕組みを用意すべきではないかと思う。「検察審査会」とは、「検察が不起訴と判断した事案を審査し、その妥当性を判断する組織」だ。無作為に選ばれた一般市民で構成されており、彼らが「不起訴処分は妥当ではない」と判断すれば再度検察に差し戻される、みたいな仕組みである。
「検察審査会」がどの程度まともに機能しているのかは別に知らない。ただ再審に関しても、一般市民から選ぶかどうかはともかく、「判決を下した裁判所」とは別の組織による判断によってその可否が判断されるべきではないだろうか? 十分機能するかは分からないが、そのような仕組みを用意して運用しなければ、「冤罪」を無くしていくのは難しいように思う。
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さて法改正の話で言えば、本作ではかなり興味深い事例が紹介されていた。本作を観るまで全然知らなかったのだが、死刑囚となった奥西勝には「特別面会人」と呼ばれる人が指定され、関われるようになっていたのである。
死刑囚は基本的に他者との面会が極端に制限され、確か親族と教誨師ぐらいしか面会が認められていなかったと思う。「ジャーナリストが死刑囚に取材する」みたいなケースもあるので、何か申請を行い許可が出れば面会は可能なのだろうが、いずれにしてもそこにはかなり制約が存在するのだ。
しかしそれでは様々に支障も出てくる。奥西勝は最終的に八王子刑務所で亡くなった。そして冒頭で紹介した通り、奥西勝の親族は妹の岡美代子しかおらず、彼女は葛尾村は出ているものの、その近くで暮らしている。親族しか会えないとなれば、差し入れなどするのに、彼女がわざわざ八王子まで出向かなければならない。それはあまりに負担だし、制度として問題がある。そう考えたある人物が立ち上がり、国会でも取り上げてもらって「特別面会人」という制度が生まれたのだという。本作には、奥西勝の2代目特別面会人を務めた人物が出演しているのだが、その先代が様々な活動をし、新たな制度の創設に関わったのだそうだ。
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このように法律というのは、手続きを踏んで正しく主張すれば変わる余地がある。再審に関しても、特に「袴田事件」によって一般の関心は高まったはずだし、問題も浮き彫りになったのだから、法改正が進む機運が高まっていると言えるかもしれない。今後、罪の無い人が冤罪に巻き込まれないように、そして巻き込まれたとしても対処可能なように、すぐに法改正をしてもらいたいものだなと思う。
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最後に
本作『いもうとの時間』を観ていて個人的に驚かされたのが、妹・岡美代子の夫・岡忠三の存在である。2人は恐らく、奥西勝の逮捕前には既に結婚していたのだと思うが、事件が発覚してからも夫は離婚を申し出なかっただけでなく、義理の兄である奥西勝の無実を信じて一緒に闘い続けたというのだ。そんな岡忠三が獄中の奥西勝に宛てて書いた手紙が作中で紹介されるのだが、その内容がとにかく素晴らしかった。結局奥西勝は獄死してしまったわけだが、義理の弟の存在は彼にとって、かなり大きな支えになったんじゃないだろうか。
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あと、これは大した話ではないのだが、仲代達矢によるナレーションがちょっと大仰に思え、個人的には「合わない」と感じてしまった。ただ公式HPによると、本作を制作した東海テレビが「名張毒ぶどう酒事件」を映画で扱うのは4度目らしく、そのすべてで仲代達矢がナレーションを務めているのだという。まあそういう事情があるなら仕方ないかと思うが、ナレーションの存在感がちょっと強すぎて、特にドキュメンタリー映画には向いていない気がしてしまった。
最後に。違法な捜査やムチャクチャな取り調べによる冤罪は未だに生まれているが、それでも、昔と比べれば大分改善してきてはいるのだと思う。ただそうだとしても、「『過去の過ち』を無かったことにしていい」ということにはならないだろう。いや、「過ち」と確定したわけではないが、そうであるかを判断する場(=再審)をそもそも設けないのだから、「過ち」と認めているようなものだと私は思う。
「名張毒ぶどう酒事件」に限る話ではないが、司法はあらゆる形で「過去の過ち」と向き合って精算し、その上で未来へと歩みを進めていくべきではないだろうか。改めてそのように感じさせられた。
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たった4館から100館以上にまで上映館が拡大した話題の映画『どうすればよかったか?』を公開2日目に観に行った私は、「ドキュメンタリー映画がどうしてこれほど注目されているのだろうか?」と不思議に感じた。統合失調症を発症した姉を中心に家族を切り取る本作は、観る者に「自分だったらどうするか?」という問いを突きつける
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【異様】映画『大いなる不在』(近浦啓)は、認知症の父を中心に「記憶」と「存在」の複雑さを描く(主…
「父親が逮捕され、どうやら認知症のようだ」という一報を受けた息子が、30年間ほぼやり取りのなかった父親と再会するところから始まる映画『大いなる不在』は、なんとも言えない「不穏さ」に満ちた物語だった。「記憶」と「存在」のややこしさを問う本作は、「物語」としては成立していないが、圧倒的な“リアリティ”に満ちている
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【思想】川口大三郎は何故、早稲田を牛耳る革マル派に殺された?映画『ゲバルトの杜』が映す真実
映画『ゲバルトの杜』は、「『革マル派』という左翼の集団に牛耳られた早稲田大学内で、何の罪もない大学生・川口大三郎がリンチの末に殺された」という衝撃的な事件を、当時を知る様々な証言者の話と、鴻上尚史演出による劇映画パートによって炙り出すドキュメンタリー映画だ。同じ国で起こった出来事とは思えないほど狂気的で驚かされた
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【変態】映画『コンセント/同意』が描く50歳と14歳少女の”恋”は「キモっ!」では終われない
映画『コンセント/同意』は、50歳の著名小説家に恋をした14歳の少女が大人になってから出版した「告発本」をベースに作られた作品だ。もちろん実話を元にしており、その焦点はタイトルの通り「同意」にある。自ら望んで36歳年上の男性との恋に踏み出した少女は、いかにして「同意させられた」という状況に追い込まれたのか?
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【あらすじ】有村架純が保護司を演じた映画『前科者』が抉る、罪を犯した者を待つ「更生」という現実
映画『前科者』は、仮釈放中の元受刑者の更生を手助けするボランティアである「保護司」を中心に据えることで、「元犯罪者をどう受け入れるべきか」「保護司としての葛藤」などを絶妙に描き出す作品。個別の事件への処罰感情はともかく、「社会全体としていかに犯罪を減らしていくか」という観点を忘れるべきではないと私は思っている
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【幻惑】映画『落下の解剖学』は、「真実は誰かが”決める”しかない」という現実の不安定さを抉る
「ある死」を巡って混沌とする状況をリアルに描き出す映画『落下の解剖学』は、「客観的な真実にはたどり着けない」という困難さを炙り出す作品に感じられた。事故なのか殺人なのか自殺なのか、明確な証拠が存在しない状況下で、憶測を繋ぎ合わせるようにして進行する「裁判」の様子から、「『真実性』の捉えがたさ」がよく理解できる
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【正義】ナン・ゴールディンの”覚悟”を映し出す映画『美と殺戮のすべて』が描く衝撃の薬害事件
映画『美と殺戮のすべて』は、写真家ナン・ゴールディンの凄まじい闘いが映し出されるドキュメンタリー映画である。ターゲットとなるのは、美術界にその名を轟かすサックラー家。なんと、彼らが創業した製薬会社で製造された処方薬によって、アメリカでは既に50万人が死亡しているのだ。そんな異次元の薬害事件が扱われる驚くべき作品
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【真相】飯塚事件は冤罪で死刑執行されたのか?西日本新聞・警察・弁護士が語る葛藤と贖罪:映画『正義…
映画『正義の行方』では、冤罪のまま死刑が執行されたかもしれない「飯塚事件」が扱われる。「久間三千年が犯行を行ったのか」という議論とは別に、「当時の捜査・司法手続きは正しかったのか?」という観点からも捉え直されるべきだし、それを自発的に行った西日本新聞の「再検証連載」はとても素晴らしかったと思う
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【赦し】映画『過去負う者』が描く「元犯罪者の更生」から、社会による排除が再犯を生む現実を知る
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【実話】映画『キリング・オブ・ケネス・チェンバレン』が描く、白人警官による黒人射殺事件
映画『キリング・オブ・ケネス・チェンバレン』は、2011年に起こった実際の事件を元にした作品である。何の罪もない黒人男性が、白人警官に射殺されてしまったのだ。5時22分から始まる状況をほぼリアルタイムで描き切る83分間の物語には、役者の凄まじい演技も含め、圧倒されてしまった
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【日本】原発再稼働が進むが、その安全性は?樋口英明の画期的判決とソーラーシェアリングを知る:映画…
映画『原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち』では、大飯原発の運転差し止め判決を下した裁判長による画期的な「樋口理論」の説明に重点が置かれる。「原発の耐震性」に関して知らないことが満載で、実に興味深かった。また、農家が発案した「ソーラーシェアリング」という新たな発電方法も注目である
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【問題】映画『国葬の日』が切り取る、安倍元首相の”独裁”が生んだ「政治への関心の無さ」(監督:大島新)
安倍元首相の国葬の1日を追ったドキュメンタリー映画『国葬の日』は、「国葬」をテーマにしながら、実は我々「国民」の方が深堀りされる作品だ。「安倍元首相の国葬」に対する、全国各地の様々な人たちの反応・価値観から、「『ソフトな独裁』を維持する”共犯者”なのではないか」という、我々自身の政治との向き合い方が問われているのである
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【驚愕】映画『リアリティ』の衝撃。FBIによる、機密情報をリークした女性の尋問音源を完全再現(リアリ…
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【衝撃】映画『JFK/新証言』(オリヴァー・ストーン)が描く、ケネディ暗殺の”知られざる陰謀”
映画『JFK/新証言』は、「非公開とされてきた『ケネディ暗殺に関する資料』が公開されたことで明らかになった様々な事実を基に、ケネディ暗殺事件の違和感を積み上げていく作品だ。「明確な証拠によって仮説を検証していく」というスタイルが明快であり、信頼度の高い調査と言えるのではないかと思う
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実話を基にした映画『私はモーリーン・カーニー』は、前半の流れからはちょっと想像もつかないような展開を見せる物語だ。原発企業で従業員の雇用を守る労働組合の代表を務める主人公が、巨大権力に立ち向かった挙げ句に自宅で襲撃されてしまうという物語から、「良き被害者」という捉え方の”狂気”が浮かび上がる
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映画『ヤジと民主主義 劇場拡大版』が映し出すのは、「政治家にヤジを飛ばしただけで国家権力に制止させられた個人」を巡る凄まじい現実だ。「表現の自由」を威圧的に抑えつけようとする国家の横暴は、まさに「民主主義」の危機を象徴していると言えるだろう。全国民が知るべき、とんでもない事件である
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実際に起こった障害者施設殺傷事件を基にした映画『月』(石井裕也)は、観客を作中世界に引きずり込み、「これはお前たちの物語だぞ」と刃を突きつける圧巻の作品だ。「意思疎通が不可能なら殺していい」という主張には誰もが反対するはずだが、しかしその態度は、ブーメランのように私たちに戻ってくることになる
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横浜港を取り仕切る藤木幸夫を追うドキュメンタリー映画『ハマのドン』は、盟友・菅義偉と対立してでもIR進出を防ごうとする91歳の決意が映し出される作品だ。高齢かつほとんど政治家のような立ち位置でありながら、「伝わる言葉」を発する非常に稀有な人物であり、とても興味深かった
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東日本大震災において、児童74人、教職員10人死亡という甚大な津波被害を生んだ大川小学校。その被害者遺族が真相究明のために奮闘する姿を追うドキュメンタリー映画『生きる』では、学校の酷い対応、出来れば避けたかった訴訟、下された画期的判決などが描かれ、様々な問題が提起される
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稀代の天才プログラマー・金子勇が著作権法違反で逮捕・起訴された実話を描き出す映画『Winny』は、「警察の凄まじい横暴」「不用意な天才と、テック系知識に明るい弁護士のタッグ」「Winnyが明らかにしたとんでもない真実」など、見どころは多い。「金子勇=サトシ・ナカモト」説についても触れる
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「#MeToo」運動のきっかけとなった、ハリウッドの絶対権力者ハーヴェイ・ワインスタインを告発するニューヨーク・タイムズの記事。その取材を担った2人の女性記者の奮闘を描く映画『SHE SAID その名を暴け』は、ジャニー喜多川の性加害問題で揺れる今、絶対に観るべき映画だと思う
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【解説】実話を基にした映画『シカゴ7裁判』で知る、「権力の暴走」と、それに正面から立ち向かう爽快さ
ベトナム戦争に反対する若者たちによるデモと、その後開かれた裁判の実話を描く『シカゴ7裁判』はメチャクチャ面白い映画だった。無理筋の起訴を押し付けられる主席検事、常軌を逸した言動を繰り返す不適格な判事、そして一枚岩にはなれない被告人たち。魅力満載の1本だ
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『殺人犯はそこにいる』(文庫X)で凄まじい巨悪を暴いた清水潔は、それよりずっと以前、週刊誌記者時代にも「桶川ストーカー殺人事件」で壮絶な取材を行っていた。著者の奮闘を契機に「ストーカー規制法」が制定されたほどの事件は、何故起こり、どんな問題を喚起したのか
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アメリカで死刑囚の支援を行う団体を立ち上げた若者の実話を基にした映画『黒い司法 0%からの奇跡』は、「死刑制度」の存在価値について考えさせる。上映後のトークイベントで、アメリカにおける「死刑制度」と「黒人差別」の結びつきを知り、一層驚かされた
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【現実】権力を乱用する中国ナチスへの抵抗の最前線・香港の民主化デモを映す衝撃の映画『時代革命』
2019年に起こった、逃亡犯条例改正案への反対運動として始まった香港の民主化デモ。その最初期からデモ参加者たちの姿をカメラに収め続けた。映画『時代革命』は、最初から最後まで「衝撃映像」しかない凄まじい作品だ。この現実は決して、「対岸の火事」ではない
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「戦後最大の誘拐事件」と言われ、警察の初歩的なミスなどにより事件解決に膨大な月日を要した「吉展ちゃん誘拐殺人事件」。その発端から捜査体制、顛末までをジャーナリスト・本田靖春が徹底した取材で描き出す『誘拐』は、「『犯罪』とは『社会の病理』である」と明確に示している
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タイトルを伏せられた覆面本「文庫X」としても話題になった『殺人犯はそこにいる』。「北関東で起こったある事件の取材」が、「私たちが生きる社会の根底を揺るがす信じがたい事実」を焙り出すことになった衝撃の展開。まさか「司法が真犯人を野放しにする」なんてことが実際に起こるとは。大げさではなく、全国民必読の1冊だと思う
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ルシルナ
事件・事故・犯罪・裁判【本・映画の感想】 | ルシルナ
私は、ノンフィクションやドキュメンタリーに多く触れますが、やはりテーマとして、トラブルなどが扱われることが多いです。単純にそれらに興味があるということもあります…
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