目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
この記事で伝えたいこと
この3人だからこそ成立した関係性が、この3人だからこその帰結を迎えてしまったのだと思う
「名前の付かない関係性」であるが故の「脆さ」が悪い方に働いてしまった感じがある
この記事の3つの要点
- 小さな世界の中での小さな恋を丁寧に描き出す芳醇な物語
- 「フィギュアスケート」というモチーフの絶妙さ、そして、この3人だからこそ生まれ得た奇跡的な関係性
- 映像・音楽・演技を含め、すべての要素が「美しさ」に繋がっている
予告を観て漠然とイメージしていた雰囲気とは違った感じがあり、その点を含めて全体的にとても素敵だった
自己紹介記事
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映像や音楽を含めた全体の雰囲気から、「綺麗な物語なんだろうなぁ」って想像出来るような予告だったよね
綺麗なのは間違いないんだけど、「そうか、そういう要素も入ってくるのか」みたいな部分がビックリだったんだよなぁ
「フィギュアスケート」というモチーフの絶妙さと、予告編で示唆された「3つの恋」の話
本作においては、まず何よりも「フィギュアスケート」というモチーフが絶妙だったなと思います。ある人物が作中で、「フィギュアスケートは女のスポーツ」と口にするのですが、そういう印象を上手く織り込んだ物語だったからです。ちなみにですが、本作の主人公であるコーチの荒川は二つ折りの携帯電話を持っていました。これは、「荒川はスマホに手を出さないタイプの人間だ」という描写の可能性もありますが、それよりも「ガラケーが主流だった時代の物語」と捉える方が自然でしょう。そしてそうだとすれば、「フィギュアスケートは女のスポーツ」という印象は、今よりももっと強かったと言っていいはずです。
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フィギュアスケート以外にも「『女性向け』という印象のスポーツ」はあるでしょうが、その上で「男がやっても不自然ではないもの」はそう多くないように思います。「シンクロナイズドスイミング(アーティスティックスイミング)」や「新体操」なども「女のスポーツ」という印象は強いものの、「男がやるには少し不自然」な感じがするでしょう。なので、本作の物語を成立させられるスポーツは「フィギュアスケート」ぐらいしかなかったんじゃないかと思います。
映画『ウォーターボーイズ』だって、「男がシンクロナイズドスイミングを始めるのは意外」って前提があるからこそ成立するんだしね
本作では、「男も案外自然にそのスポーツに関われる」って要素は欠かせないからなぁ
さて、本作の予告編では、「3つの恋が描かれる」と示唆されていました。確かナレーションで、「雪が積もってから溶けるまでの、3つの恋の物語」みたいなことを言っていた気がします。しかし本編を観ながら私は、「予告編で『3つの恋』って言及してくれてなかったら、描かれているすべての『恋』に気付けなかったかもしれない」と感じていました。「どこに3つも?」と思っていたのです。
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まず、冒頭からはっきりと分かる「恋」が1つあります。それは、小学6年生のタクヤがフィギュアスケートの練習をするさくらに向けるものです。誰が見たってこれは「恋」だと分かるでしょう。
でもホント、しばらくはこれしか捉えられてなかったよね
「3つの恋」ってのが頭になかったら、「あと2つ」みたいにも思わなかったはずだし、スルーしてた可能性は全然ある
さて、しばらくしてもう1つの恋も理解出来ました。こちらについても、冒頭から人物やその関係性は描かれます。にも拘らずしばらく気づかなかったのは、単に「家族と暮らしている」みたいに考えていたからです。まあこの関係性に関しては、しばらく観ていれば確実に分かっただろうし、見逃すことはなかったはずだと思います。
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問題は3つ目です。この点については本当に、「3つの恋」という事前情報があったからこそ気づけたという感じです。「気づけた」というか、「消去法で考えれば、これ以外にはない」みたいな認識でしょうか。確かに、「そうだとすればあの状況も納得」みたいなシーンを思い出すことも出来るわけですが、ただ正直なところ、「『恋』だと言われなければ、そうとは気づかなかった可能性の方が高い」と思います。
登場人物が少ないから「消去法」で判断出来たんだけどね
本作はそんな風に、「フィギュアスケート」という絶妙なスポーツをモチーフにしつつ「小さな恋」を描き出す物語です。
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「小さな恋」のあまりにも絶妙な関係性
さて、この「3つの恋」は実に興味深い形で展開されていきます。「興味深い」という書き方をしたのはあくまでもネタバレを避けるための表現であり、別に「面白い」という意味ではありません。「3つの恋」は、実に思いがけない形へと収束していくのです。
すべてのきっかけは「タクヤがさくらを好きになったこと」だと言っていいでしょう。本作の物語の起点であり、また、「3つの恋の『結末』」が始まる起点でもあります。
もちろん、「タクヤがさくらを好きになったこと」自体は何も悪くなんかないんだけどね
ただ、結果が分かった状態だと、「難しいものだなぁ」って感じちゃうんだけど
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物語はとにかく、「タクヤの恋」を起点にして静かに静かに展開していきます。「作中のどこかで、何か音を立てるようにして物語が一気に動き出す」なんてことはありません。いや、そういうシーンはあるのですが、それは「下り坂」での出来事であり、「恋が進展していく過程」は、「上り坂」であることにさえ気づかないような緩やかな勾配をゆっくり歩いていくみたいな感じで進んでいくのです。
しかも、すべてのことが「タクヤの恋」から始まっているにも拘らず、様々な状況の変化に対して、タクヤはある種「傍観者」的な立ち位置に追いやられてしまいます。タクヤ視点で状況を追っていたら、「意味不明」としか感じられないでしょう。タクヤには預かり知らぬところで色んなことが起こっていて、だから彼は、「何でこんなことになっているんだろう?」みたいに思うしかありません。恐らくタクヤは、「すべての起点が自分にある」ということにも気づいていなかったはずです。まあそのこと自体は、タクヤにとって悪くないだろうと思いますが。
「この状況は、実は全部自分のせいだった」みたいに感じちゃうとしたらしんどいからね
でも、「何がどうなってるんだか分かんない」ってモヤモヤの方が嫌だって人もいるかもなぁ
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本作で描かれるのは、「タクヤ・さくら・荒川の3人だったから辿り着けた関係性」だと思うのですが、しかし同時に、「『この3人だったからこそ崩れてしまった』という矛盾を孕んだ関係性」であるとも言えます。「本作のような帰結を回避できた可能性はあるだろうか?」と考えたくもなりますが、「3人共が自身の価値観に正直に生きる」という選択をする以上、このような結末は恐らく避けがたかったでしょう。
そして、そんな事実がとても淋しいことに感じられるのです。
「奇跡的な関係性」だと思えるからこそ、「その奇跡がずっと続いてほしい」って思ってしまった
「こんな奇跡は続きはしないんだぞ」みたいに突きつけられている感じがあって、悲しかったよね
また、「もしもフィギュアスケートじゃなかったら?」とも考えてみました。ただ、「女のスポーツ」という印象のことは無視出来たとしても、フィギュアスケートじゃない場合、本作においてはとても重要な「アイスダンス」も無くなってしまいます。だとすればやはり、「この3人があれほどの多幸感を醸し出す関係性を築き上げることはなかっただろう」と思えてしまうのです。やはりフィギュアスケートでなければならなかったし、でも、フィギュアスケートだったからこそこうなってしまったとも言えるでしょう。
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私はいつも「名前が付かない関係性」に惹かれます。物語世界に限らず、リアルの世界でも私は「名前が付かない関係性」を希求しているし、「自分が築く関係性はすべからくそうであってほしい」と思っているタイプです。そして、本作『ぼくのお日さま』で描かれる3人の関係性には、結果として名前が付くことはありませんでした。普段なら、そのことにある種の「尊さ」を感じるはずなのですが、本作に限ってはそうとも言い切れない部分があります。
というのも、「名前さえ付いていれば、彼らの関係性は保存されたかもしれない」みたいに感じるからです。「名前が付かない関係性」は、「名前が付いていない」という性質ゆえに脆く、その脆さが良いと私は思っているのですが、タクヤ・さくら・荒川に関しては、「たとえ『脆さ』を失ったとしても、名前が付くことで、もう少し強固な関係性になっていてほしかった」みたいな気持ちにもなりました。でもやはり、彼らの関係性には「名前が付いていないからこその良さ」があるんだよなぁ。本当に難しいなぁと思います。
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「脆いのに崩れていない」っていうのが、「名前が付かない関係性」の最大の魅力だからね
やっぱりどうしても、そういう関係性に惹かれちゃうんだよなぁ
そして本作が凄いのは、そんな複雑なモヤモヤを、「フィギュアスケート・アイスダンスの練習を行う日常」だけでほぼ描き出しているという点です。その「巧みさ」に驚かされました。「舞台設定」も「メインで描かれる登場人物の数」も実にミニマムながら、とても奥行きの広い物語に仕上がっています。雰囲気としては何となく、映画『PERFECT DAYS』に近い感じがしました。「はっきりとは何も描いていないのに、そんな描写の連続によって何かが明確に浮かび上がってくる」みたいな印象で、凄く良かったです。
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音楽・映像も実に素敵だった
さて、私は映画を観る際、「映像」や「音楽」には普段あまり意識が向きません。「映像が綺麗だった」「音楽が映像にメチャクチャ合っていた」みたいな感想があまり浮かばないし、浮かんだとしても、それが作品全体の評価にはあまり繋がらないのです。
いつも書いてることだけど、基本的には「物語そのもの」とか「ストーリー展開」にしか興味が持てない
そういう意味では、「映画でなければならない」みたいなことは全然ないんだよね
ただ本作では、そんな私が反応するくらい、「映像」「音楽」も素敵でした。
まず本作では、ドビュッシー『月の光』が随所で流れます。荒川が選手時代に、この曲でよく踊っていたのだそうです。そしてこの『月の光』が、作品全体にとてもマッチしていました。「氷の上を優雅に滑っている感じ」や「3人の関係性がゆったりと進展していく雰囲気」が上手く表現されているという感じです。また、とてもスローテンポな曲調なので、雪降る冬の北海道のゆったりとした雰囲気にも合っているし、さらに言えば、「3人の関係性が遅々として進まない」みたいな状況をゆるりと包容していく印象もあって、凄く良かったなと思います。
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また音楽の話で言えば、湖に向かう途中の車内で掛かっていた曲がそのまま連続的に湖のシーンでも使われていて、この演出もとても良かったです。「曲の雰囲気」と「3人の関係性」の感じが凄く合っていたのは当然として、さらに、「それまでどうにもぎこちなさが抜けなかった3人が、この瞬間を境に、殻を脱ぎ捨てたかのように親密になった」みたいな感じも伝わってきました。音楽を含め(どんな曲だったのかは忘れてしまったが)、とても良いシーンだったなと思います。
しかし『月の光』って、なんであんなに良い曲に聴こえるんだろうね
さて、映像の話でまず印象的だったのは、画面が「1:1の正方形」だったことです。始まってすぐは気づかなかったのですが、「なんかいつもと違うな」と思ってその違いに目が向きました。
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逆に言えば、「どうして『正方形の映像』に馴染みがないのか」は不思議だけどね
映像じゃないけど、思いつくのはポラロイドカメラの写真ぐらいかなぁ
さて、先ほど私は、「荒川がガラケーを使っていたから、舞台設定は少し前かもしれない」と書きましたが、逆に言えば「そうとでも考えないと時代設定を絞り込めない」とも言えるでしょう。作中に「はっきりと時代設定を確定できる要素」は出てこなかったはずだし、恐らくそれは制作側の意識的な選択によるものだと思います。「正方形の映像」を選択したことも含め、「現在でも過去でも未来でもない」みたいな雰囲気を醸し出そうとしたとも考えられるでしょう。
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また、これは自分で気づいたことではなく、Filmarksの感想をチラ見していて「確かに」と感じたことなのですが、本作は「自然光」が使われているシーンが多いと思います。そしてやはり、そういうシーンの方が「映像的な美しさ」は強くなるでしょう。どのシーンも大体美しい映像に仕上がっていたのですが、言われてみると確かに、スケートリンクなどの室内よりも外のシーンの方が美しかった印象で、「なるほど、自然光を上手く使っているからなのか」と感じました。
ただ、視覚・聴覚の反応は弱いからどうにもならないんだよなぁ
俳優陣について
それでは最後に、本作に出演している俳優陣の話に触れてこの記事を終えることにしましょう。
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「この人が出てると観ちゃうランキング」に入りつつある
さらに、タクヤを演じた越山敬達が「4歳からフィギュアスケートを習っていた」という事実にも驚かされました。というのも、タクヤは「スケートがまったく滑れない」ところからスタートするからです。「本当は滑れる人間が滑れない演技をする」というのは結構難しいんじゃないでしょうか。それは、「自転車に乗れるのに乗れない演技をする」みたいに考えるとイメージしやすいかもしれません。滑れない演技、上手かったなと思います。
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池松壮亮は、映画『ベイビーわるきゅーれ』のアクションにも驚かされたよね
本格的なアクションはやったことがないって言ってたから、余計びっくりした
さて、役者の話で言うと、エンドロールを見てびっくりしたことがあります。「若葉竜也」の名前がクレジットされていたからです。彼の名前を目にした瞬間、「えっ? どこに出てた」と思ったのですが、すぐに「なるほど、あいつか!」と分かりました。でもホントに最後まで、あの役を「若葉竜也」だとはまったく認識出来ていなかったので、エンドロールを見て本当に驚かされたというわけです。菅田将暉もそうなんですけど、若葉竜也も、「メインどころじゃない役を演じていても違和感がないタイプ」であり、そしてそういう場合には本当に気付けません。いつもビックリさせられてしまいます。
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というわけで、映像も音楽も役者もとても素晴らしい作品でした。
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最後に
本作『ぼくのお日さま』は、2024年カンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクションとして唯一選ばれた日本映画なのだそうです。監督の奥山大史は、大学在学中に撮った映画『僕はイエス様が嫌い』でデビューし、本作が2作目の長編映画なのだそう。ホント、凄い才能だなと思います。羨ましい。
とにかく、実に素敵な作品でした。
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巨匠パク・チャヌク監督が狂気的な関係性を描き出す映画『別れる決心』には、「倫理的な葛藤が描かれない」という特異さがあると感じた。「様々な要素が描かれるものの、それらが『主人公2人の関係性』に影響しないこと」や、「『理解は出来ないが、成立はしている』という不思議な感覚」について触れる
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2006年発売、2021年文庫化の『私を見て、ぎゅっと愛して』は、ブログ本のクオリティとは思えない凄まじい言語化力で、1人の女性の内面の葛藤を抉り、読者をグサグサと突き刺す。信じがたい展開が連続する苦しい状況の中で、著者は大事なものを見失わず手放さずに、勇敢に前へ進んでいく
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西加奈子の同名小説を原作とした映画『炎上する君』(ふくだももこ監督)は、「多様性」という言葉を安易に使いがちな世の中を挑発するような作品だ。「見えない存在」を「過剰に装飾」しなければならない現実と、マジョリティが無意識的にマイノリティを「削る」リアルを描き出していく
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「ゲイの男性が、拘置所から出所した20歳の男性と養子縁組し、親子関係になる」という現実を起点にしたドキュメンタリー映画『二十歳の息子』は、奇妙だが実に興味深い作品だ。しばらく何が描かれているのか分からない展開や、「ゲイであること」に焦点が当たらない構成など、随所で「不協和音」が鳴り響く1作
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「他者に対して恋愛感情・性的欲求を抱かないセクシャリティ」である「アセクシャル」をテーマにした映画『そばかす』は、「マイノリティのリアル」をかなり解像度高く映し出す作品だと思う。また、主人公・蘇畑佳純に共感できてしまう私には、「普通の人の怖さ」が描かれている映画にも感じられた
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【共感】「恋愛したくない」という社会をリアルに描く売野機子の漫画『ルポルタージュ』が示す未来像
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「実は私は、恋愛的な関係を求めているわけじゃないかもしれない」と気づいた著者ムラタエリコが、自身の日常や専門学校でも学んだ写真との関わりを基に、「自分に相応しい関係性」や「社会の暴力性」について思考するエッセイ。久々に心にズバズバ刺さった、私にはとても刺激的な1冊だった。
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「キラキラした青春学園モノ」かと思っていた映画『君が世界のはじまり』は、「そこはかとない鬱屈」に覆われた、とても私好みの映画だった。自分の決断だけではどうにもならない「現実」を前に、様々な葛藤渦巻く若者たちの「諦念」を丁寧に描き出す素晴らしい物語
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【感想】おげれつたなか『エスケープジャーニー』は、BLでしか描けない”行き止まりの関係”が絶妙
おげれつたなか『エスケープジャーニー』のあらすじ紹介とレビュー。とにかく、「BLでしか描けない関係性」が素晴らしかった。友達なら完璧だったのに、「恋人」ではまったく上手く行かなくなってしまった直人と太一の葛藤を通じて、「進んでも行き止まり」である関係にどう向き合うか考えさせられる
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【感想】映画『窓辺にて』(今泉力哉監督)の稲垣吾郎の役に超共感。「好きとは何か」が分からない人へ
映画『窓辺にて』(今泉力哉監督)は、稲垣吾郎演じる主人公・市川茂巳が素晴らしかった。一般的には、彼の葛藤はまったく共感されないし、私もそのことは理解している。ただ私は、とにかく市川茂巳にもの凄く共感してしまった。「誰かを好きになること」に迷うすべての人に観てほしい
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涙腺がぶっ壊れたのかと思ったほど泣かされた映画『彼女が好きなものは』について、作品の核となる「ある事実」に一切触れずに書いた「ネタバレなし」の感想です。「ただし摩擦はゼロとする」の世界で息苦しさを感じているすべての人に届く「普遍性」を体感してください
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「片想いの相手には近づけないから、その恋人を”奪おう”」と考える主人公・木村愛の「狂気」を描く、綿矢りさ原作の映画『ひらいて』。木村愛を演じる山田杏奈の「顔」が、木村愛の狂気を絶妙に中和する見事な配役により、「狂気の境界線」をあっさり飛び越える木村愛がリアルに立ち上がる
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私は「見て分かること」に”しか”反応できない世界に日々苛立ちを覚えている。そういう社会だからこそ、映画『流浪の月』で描かれる文と更紗の関係も「気持ち悪い」と断罪されるのだ。私はむしろ、どうしようもなく文と更紗の関係を「羨ましい」と感じてしまう。
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厳しい受験戦争、壮絶な格差社会、残忍ないじめ……中国の社会問題をこれでもかと詰め込み、重苦しさもありながら「ボーイ・ミーツ・ガール」の爽やかさも融合されている映画『少年の君』。辛い境遇の中で、「すべてが最悪な選択肢」と向き合う少年少女の姿に心打たれる
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どう生きるべきか・どうしたらいい【本・映画の感想】 | ルシルナ
どんな人生を歩みたいか、多くの人が考えながら生きていると思います。私は自分自身も穏やかに、そして周囲の人や社会にとっても何か貢献できたらいいなと、思っています。…
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