目次
はじめに
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ポチップ
この記事で伝えたいこと
本当の自分は探したってどこにもいないから、「なりたい自分の仮面」をかぶるしかない
この記事の3つの要点
- 「良い子」としてしか見られないのは辛い
- 本当は「良い子」じゃないことを知っているから苦しい
- 本当の自分を受け入れてもらえるか怖い
この記事で取り上げる本
「わたしをみつけて」(中脇初枝)
自己紹介記事
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私は子どもの頃、ずっと「良い子」のフリをしていました。親に何も言われなくても勉強をし、親の言うことは聞き、反抗せず、学校でもほとんど問題を起こさず、非常に優等生的な振る舞いだったと思います。
でも自分では、これは違うなぁとずっと感じていました。
自分がほんとはいい子なんかじゃないことを、わたしは知っていた。
いい子のふりをしていただけ
自分が良い子ではないことは、自分だけははっきりと理解していました。しかし、良い子として振る舞えば振る舞うほど、当たり前ですが、周りからはそういう人だと見られます。
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子どもの頃は特に、「お前はこういうキャラだしな」みたいなイメージに支配されるよね
それを、自分自身に向けてやってたから、私は余計に辛かった
「良い子」という枠組みから抜け出すことがどんどん難しく感じられるようになり、そのことにもの凄く苦しさを抱きながら生きていました。
自分が何を怖がっていたのか、思い出せない
この作品の主人公は捨て子で、そのせいで、また捨てられるのではないかという恐怖から逃れられずにいます。
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そんなこと知っていた。一度だけ、ほんとの気持ちを言ってみただけだった。
その一度きりで、自分がいい子じゃなければ、受け入れてもらえないことを知った。
だからこわかった。
わたしがほんとはいい子じゃないとわかっても、おとうさんとおかあさんは、わたしを捨てないでいてくれるんだろうか。
いい子じゃなくても、わたしのことを捨てない?
私はどうだったんだろう? 別に捨て子ではないと思うし、身体的に辛い経験も別にありませんでした。「良い子にしていなければならない」と感じてしまうような外的要因はなかったと言っていいでしょう。だから今振り返ってみると、不思議に感じます。
今はむしろ、「良い人」に見られないように意識してるし
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ただ、恐らく初めは、「褒められたら嬉しい」みたいなところからスタートしたと思います。
准看だけど、しっかりしてる。
准看だけど、仕事ができる。
わたしを形容する言葉はいつも同じ。
弥生ちゃんは捨て子だけど、いい子ね。
弥生ちゃんは捨て子だけど、優しいね。
こどものころは、いつもそう言われていた。
初めは「嬉しい」からスタートしても、「良い子」であることが当たり前になると今度は、当たり前から外れた時にだけ何か言われてしまいます。たぶんそれが怖かったのでしょう。それまでは、何かすれば「良い子」だと言われていたのに、途中からは、「良い子」の枠から外れた時にしか言及されなくなることが、恐ろしかったんだと思います。
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私には恐らく、子どもを育てる機会はないと思いますが、もしそんな可能性があるなら、この点には気をつけようと思っています。「褒めること」は確かに子どもを伸ばす力になると思いますが、その一方で、子どもの足枷になってしまう可能性もあるでしょう。自分の経験から、「褒めること」は慎重にやらないとな、と感じています。
大人になってからも「褒めること」の難しさを実感する機会は結構あるんだけどさ
「褒められても嬉しくない」みたいなことを言う人に結構出会ってきたよね
自分のことで精一杯になってしまう
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「良い子」として見られることの苦しさの一つが、「他人のことなんて大して考えてないのに、考えてるように受け取られること」です。
わたしは口にしなかっただけ。みんながささやく以上に、冷ややかに神田さんを見ていたのに。
わたしのどこを探したって、そんな優しい気持ちなんかない。
「良い子」だと思われることで、「他人にも優しい、気遣いができる人」という風に扱われることが多くなります。しかし、「良い子」の枠組みにとらわれているだけの人は、実際は自分のことで精一杯です。自分がどうやったら「良い子」の枠から外れずにいられるのかを日々考えてしまうので、他人のことなんか考えてる余裕はありません。
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結局、ひとなんてみんな同じ。
自分のことしか考えていない。
「良い子」に見られるために、誰かのことを考えているフリをすることは得意になっていきます。しかし内心では、全然相手のことなんか考えていません。そして、「自分が優しくないことに気づいている」のに「周りから優しいと見られる」ことに苦しさを感じるようになります。
まあそれって、自分の行動で自爆してるだけだと思うけどな
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自分の「本当」を見せることの怖さ
「良い子」に囚われてしまうことで、どんどんと、「本来の自分を見せること」に怖さを抱いてしまいます。自分は「良い子」だからここで受け入れてもらえている。じゃあ、自分が心の底から感じている、「良い子」なんかじゃ全然ない感覚を表に出したらどうなる? それでも受け入れてもらえる? そういう恐怖にも囚われるのです。
同じような感覚を持つ人に、大人になってから結構出会ってきました。
そういう人たちは大体、表向きとても明るく、元気に、楽しそうに振る舞っていることが多いです。しかし、深く話を聞いてみると、本当の自分は全然そうじゃない、と話してくれたりします。
今まで出会った人では、大勢の輪の中で楽しそうに混じれているように、なんなら中心にいるようにさえ見える人でも、「毎日しんどい」「テンションが高い人は辛い」みたいに言っていました。
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だから、初対面の印象では人を判断しないように意識してるんだよね
そう。ただもちろん、我が妹のように、表も裏もメッチャ楽しい! みたいな人も世の中にたくさんいるんだけどさ
「良い子」に囚われている人だって、関わる相手を信頼したいと強く願っています。できることなら本来の自分を表に出したいのだけど、なかなか勇気が出ません。どうしても世の中は、「明るく元気に楽しそうに生きている人」の方が良く見られるし、そういう人の方が「正しい」感じがしてしまいます。だからどうしても、自分の感覚が通じるなんて思えなくなってしまうのです。
この作品には、菊池さんという初老の男性が登場します。
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わたしはこの年まで、まだ病院の厄介になったことがないんだよ。きみたちの商売に貢献できなくて、わるいねぇ。
菊池さんと出会うことで主人公は、少しずつ変わっていきます。
誰かのことを考えるフリをして自分のことばかり考えていた主人公と違って、菊池さんは常に他人のことばかり考える人です。自分と正反対の人生を歩む菊池さんの存在を知り、主人公は次第に、「菊池さんには嘘をつきたくない」と考えるようになります。そしてそのことによって、「良い子」に囚われていたために出せずにいた本来の自分の姿を、少しずつ出せるようになっていくのです。
「なりたい自分の仮面」をかぶる
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主人公は様々な人物との出会いによって変わっていきますが、看護師長の藤堂さんの存在も大きいものでした。読者は藤堂さんを「強い」と感じるでしょうし、その「強さ」は生来のものだと考えるだろうと思います。常に仕事に全力で、どんなことにでも強靭に立ち向かっていく姿に対し、主人公は、こんな風にはなれないという感覚を抱きます。
しかし、そんな藤堂さんがこんなことを言う場面があります。
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本当の自分はこうじゃないと思っていませんか? 本当の自分はこうじゃないんです、と、よくひとは言います。じゃあ、どういう自分になりたいのか。本当の自分はどこかに転がっていたりはしません。なりたい自分の仮面をかぶらないと、永遠に本当の自分はこうじゃないと思いつづけるだけになります。
これは、とても良い言葉だなぁ、と感じました。確かに、本当の自分はどこかに転がっていたりはしないでしょう。だからこそ、「なりたい自分の仮面」をかぶらなければなりません。ここでは触れませんが、藤堂さんの背景が明らかになることによって、この言葉はより深みを持つことになります。
主人公は、「良い子」の枠から逃れられず、本当の自分を知られたら受け入れてもらえないと感じて生きてきました。しかし同時に、「良い子」として見られるのではなく、本来の自分の姿で認められたいとも強く願っているのです。
そして、そのための指針を、藤堂さんから教わることができました。
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本当の自分なんて、探してもどこにもいない。だから、「なりたい自分の仮面」をかぶりなさい。
SNSの登場によって、「自分はどう見られているか」という問題がそれまでよりもずっと強く突きつけられることになりました。この作品はこの問題に非常に明快な答えを提示する作品でもあります。
中脇初枝『わたしを見つけて』の内容紹介
ここで改めて本の内容を紹介します。
著:中脇初枝
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山本弥生は、捨て子だ。3月生まれだからではなく、3月に捨てられていたから「弥生」。本当の両親も、名前も、誕生日も、何も分からない。ただ、「自分は捨てられたのだ」ということだけが、はっきり分かっている。
弥生はずっと施設にいた。施設ではずっと、「いい子」だと言われて育った。自分では違うと分かっていたけれど、「いい子」じゃなかったらまた捨てられてしまうかもしれない。その恐怖がこびりついて、抜け出せなかった。
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働きながら勉強をし、准看護師の資格を取得した。それからずっと同じ病院で働いている。病院には様々な人がいる。横柄な医師や腰掛けのつもりの看護師、気持ちを逆なでする患者。
しかし弥生は、ここで生きていくのだと決めた。捨て子だって、掛け算ができないって誰にも知られたくない。ここの他に、自分には居場所はない。ここで生きていくしかない。
中脇初枝『わたしを見つけて』の感想
辛い現実を切り取りながらも、優しさが沁みる作品です。特に、先程名前を出した菊池さんとのやり取りにはホッとさせられます。
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きっと見なくていいものもあるんだよ。津軽の雪みたいにね。津軽の雪はすべての上に降る。平等にね。りんごの木にも、くずれかけた茅葺きの家にも、うちのとうちゃんとかあちゃんの眠る墓にも
菊池さんのような存在を知ると、「菊池さんの辛さを受け止めてくれる人はちゃんといるんだろうか?」と余計なことを感じてしまいます。ただ本当に、菊池さんのような人が近くにいてくれるだけで、心が軽くなれたりするでしょう。菊池さんのようにはなれないと分かっているけれど、こういう存在でいられたらいいなと感じます。
でも、菊池さんみたいな振る舞いをしようとすると、嘘っぽくなっちゃうんだよねぇ
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著者は、短い描写で人間や情景を切り取るのがとても上手いと感じました。
わたしは、これまで何万回言ったかわからない言葉を、上着を持って、診療室を出ていく患者さんの背中に投げかけた。 言った回数の分だけ、薄まった言葉。これまで、すべてのひとに、均等に、平等に分け与えてきたから
自分一人では拭いきれない鬱屈みたいなものを抱えた弥生の内面を、直接的にではなく描き出していくのが上手いです。弥生が見ているもの、聞いているもの、感じているものに対し、弥生がどんなアクションをするかによって、現実の見え方がまったく変わってきます。
「良い子」の枠から外れないようにという緊張感と共にずっと生きてきた弥生の生き様と同様、風景や瞬間の切り取り方とそのつなぎ合わせ方によって、作品全体に心地よい緊張感が生み出されていると感じました。
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生きていると、しんどい・悲しいと感じることも多いでしょう。私も、世の中の「当たり前」に馴染めなかったり、みんなが普通にできることが上手くやれずに苦しい思いをする…
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