目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
監督:石井岳龍, プロデュース:小西啓介, プロデュース:関友彦, Writer:いながききよたか, Writer:石井岳龍, 出演:永瀬正敏, 出演:浅野忠信, 出演:白本彩奈, 出演:佐藤浩市, 出演:渋川清彦, 出演:中村優子, 出演:川瀬陽太
¥500 (2025/04/22 06:13時点 | Amazon調べ)
ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- 「箱を被る」というシンプルな発想から、現代性すら感じさせる「匿名性」を現出させた安部公房の洞察力に驚かされる
- 「お札」や「ブランド物」が持つ「素材・製法が同じであることは『本物』の条件にはなり得ない」という性質から、「本物の箱男」について考えてみる
- 「安部公房の小説は映画化不可能」とまで囁かれていた中で実現にこぎつけた石井岳龍監督の執念
全体的には理解不能だったものの、興味深い作品であることは確かで、観て良かったなと思う
自己紹介記事
あわせて読みたい
ルシルナの入り口的記事をまとめました(プロフィールやオススメの記事)
当ブログ「ルシルナ」では、本と映画の感想を書いています。そしてこの記事では、「管理者・犀川後藤のプロフィール」や「オススメの本・映画のまとめ記事」、あるいは「オススメ記事の紹介」などについてまとめました。ブログ内を周遊する参考にして下さい。
あわせて読みたい
【全作品読了・視聴済】私が「読んできた本」「観てきた映画」を色んな切り口で分類しました
この記事では、「今まで私が『読んできた本』『観てきた映画』を様々に分類した記事」を一覧にしてまとめました。私が面白いと感じた作品だけをリストアップしていますので、是非本・映画選びの参考にして下さい。
どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
安部公房『箱男』がついに映画化!SNSが無かった時代には驚異的と言うほかない「匿名性」への洞察に圧倒されてしまった
予想通り、という表現が正しいのかは何とも言えないが、やはりよく分からない映画だった。ただ、「理解できる作品ではきっとないだろう」と思いながら観に行ったので、そのこと自体は大した問題ではない。「そりゃそうだろう」という感じである。
あわせて読みたい
【違和感】映画『コントラ』は、「よく分かんない」が「よく分かんないけど面白い」に変わる不思議な作品
ほぼ内容を知らないまま観に行った映画『コントラ』は、最後の最後まで結局何も理解できなかったが、それでもとても面白い作品だった。「後ろ向きに歩く男」が放つ違和感を主人公・ソラの存在感が中和させており、奇妙なのに可能な限り「日常感」を失わせずに展開させる構成が見事だと思う
さて、私はどうやら、安部公房が書いた原作小説『箱男』を読んでいるようだ。「ようだ」と書いたのは、まったく記憶がないからである。別のブログに感想がアップされているので、読んでいることは間違いない。今から20年ほど前のことである。「読んだ」という事実を含め、内容も何もかもまったく覚えていない。
そんなわけで、私は観ながら「『箱男』ってこんな話だっけ?」と思っていた。まあ、記憶がないから比較のしようもないのだが。それにしても、映画という形で改めて触れてもまったく記憶が喚起されないほど何も覚えていないことに驚く。というわけで、この記事では原作小説との比較はしていない。
映画『箱男』の内容紹介
本作の物語には、途中までしかまともについていけなかったので、私が何となく理解できた範囲で内容紹介をしておこうと思う。
あわせて読みたい
【感想】湯浅政明監督アニメ映画『犬王』は、実在した能楽師を”異形”として描くスペクタクル平家物語
観るつもりなし、期待値ゼロ、事前情報ほぼ皆無の状態で観た映画『犬王』(湯浅政明監督)はあまりにも凄まじく、私はこんなとんでもない傑作を見逃すところだったのかと驚愕させられた。原作の古川日出男が紡ぐ狂気の世界観に、リアルな「ライブ感」が加わった、素晴らしすぎる「音楽映画」
主人公の「わたし」はある時、別の人物が担っていた「箱男」の座を奪った。「箱男」になったのだ。その生活は「完璧な孤立」と「完璧な匿名性」を有し、さらに「自分だけの暗室・洞窟」を支配出来るため、「わたし」は大層満足していた。とはいえ、まったく悩みが無いわけではない。理由は分からないが、執拗に追いかけてくるカメラマンがいる(もしかしたらこいつも、「箱男」の座を狙っているのだろうか?)。あるいは、乞食が仕掛けてくる意味不明な攻撃。そういったややこしさに日常生活を脅かされながらも、「わたし」は「箱男」として概ね満たされた日々を送っていた。
そんなある日のこと。「近くに病院があります」と言いながら、女性が箱の中に地図を入れてきた。これはなんだ? 罠なのか? まあ、そう判断するのが自然だろう。しかし「わたし」は、「この罠には乗っかってみてもいいかもしれない」と考える。そして彼は、「箱」を脱ぎ捨てた姿で病院を訪れることに決めた。
一方、その病院で治療に当たっている「ニセ医者」は、葉子という看護師と共に病院を回しつつ、謎の「白髪の男」の世話もしている。「白髪の男」はどうも、何か犯罪の計画を持っているようなのだが、それが何なのかはよく分からない。そして「ニセ医者」は、彼の計画に協力するような素振りを見せつつ、どうもそんなつもりはなさそうだ。
あわせて読みたい
【抵抗】映画『熊は、いない』は、映画製作を禁じられた映画監督ジャファル・パナヒの執念の結晶だ
映画『熊は、いない』は、「イラン当局から映画製作を20年間も禁じられながら、その後も作品を生み出し続けるジャファル・パナヒ監督」の手によるもので、彼は本作公開後に収監させられてしまった。パナヒ監督が「本人役」として出演する、「ドキュメンタリーとフィクションのあわい」を縫うような異様な作品だ
さて、「わたし」を病院へと誘ったのはもちろん看護師の葉子である。「わたし」は彼女に惹かれていく。しかし葉子は「ニセ医者」と親しい。であれば、彼女が「わたし」を窮地に追い詰める悪魔だという可能性も出てくる。
そんな思考に囚われている内に、「わたし」は次第に「本物の箱男」を巡る争いに巻き込まれることになり……。
というような話、だと思う。正直、自信はないが。
安部公房が大昔に見通した「匿名性」に対する驚きの洞察
安部公房が本作を発表した時には、「スマホ」の存在などまったく想像出来ていなかったはずだ。にも拘らず、本作の中心的なテーマである「匿名性」には、とても現代的な響きを感じるだろう。私たちは「インターネット」と「SNS」を手に入れたことで、「ほぼ完全な匿名性」が実現可能な社会に生きている。だから「匿名性」という概念もかなり身近に感じられると思う。しかし安部公房の時代には、そんな「匿名性」が成り立つ可能性など微塵も想像出来なかったはずだ。せいぜい「覆面作家として活動する」ぐらいが限界だったのではないかと思う。
あわせて読みたい
【斬新】映画『王国(あるいはその家について)』(草野なつか)を観よ。未経験の鑑賞体験を保証する
映画『王国(あるいはその家について)』は、まず経験できないだろう異様な鑑賞体験をもたらす特異な作品だった。「稽古場での台本読み」を映し出すパートが上映時間150分のほとんどを占め、同じやり取りをひたすら繰り返し見せ続ける本作は、「王国」をキーワードに様々な形の「狂気」を炙り出す異常な作品である
そんな時代に「箱を被る」という絶妙なアイデアで「匿名性」を実現させ、さらにそれを物語という形で昇華させた安部公房の手腕には、ちょっと驚愕させられてしまった。
そしてその上で、安部公房が提示する「匿名性」には少し違った特徴がある。作中では、「箱男」が街中に潜んでいる時の独白でそのことが指摘されていた。街中にでかいダンボールがドーンと置かれていても、誰もさほど注目しないだろう。ただ人によっては、「箱の中に人がいる」という事実に気づくかもしれない。しかしたとえそうだとしても問題はない。「わたし」の独白の言葉を借りるなら、
仮に私の存在に気づいたとしても、見て見ぬふりする。
からである。
あわせて読みたい
【天才】映画『Winny』(松本優作監督)で知った、金子勇の凄さと著作権法侵害事件の真相(ビットコイン…
稀代の天才プログラマー・金子勇が著作権法違反で逮捕・起訴された実話を描き出す映画『Winny』は、「警察の凄まじい横暴」「不用意な天才と、テック系知識に明るい弁護士のタッグ」「Winnyが明らかにしたとんでもない真実」など、見どころは多い。「金子勇=サトシ・ナカモト」説についても触れる
インターネットやSNSがもたらす「匿名性」は少し違う。最近は「バンクシー」や「Ado」などのように、顔出しせずに様々な活動を行うことが普通になっているが、そういう存在に対してはやはり「どんな人なんだろう?」という興味が湧いてくるはずだ。そしてその思いが過剰になれば「詮索」みたいな感じにもなっていく。つまり、「匿名性」こそが「詮索」を喚起しているというわけだ。
しかし「箱男」が有する「匿名性」はそうではない。仮にその存在に気づいたとしても、「そこにいないものとして扱う」みたいになるはずだからだ。それはたぶん、「匿名性」がリアルに染み出しているからだと思う。やろうと思えば、「箱男が被っているダンボールを無理やり取る」という形で、その「匿名性」を剥ぎ取ることは可能だ。しかし、その「匿名性」の陰から何が出てくるかは分からない。インターネットやSNS上の「匿名性」であれば、剥ぎ取ったところで自分には何の影響もないが、「箱男」の「匿名性」の場合は、剥ぎ取った自分に直接影響するのである。
であれば「それを避けたい」という気持ちになるのは当然だし、となれば、「仮に気づいたとしても無視するしかない」という感覚にもなるはずだ。
あわせて読みたい
【絶望】「人生上手くいかない」と感じる時、彼を思い出してほしい。壮絶な過去を背負って生きる彼を:…
「北九州連続監禁殺人事件」という、マスコミも報道規制するほどの残虐事件。その「主犯の息子」として生きざるを得なかった男の壮絶な人生。「ザ・ノンフィクション」のプロデューサーが『人殺しの息子と呼ばれて』で改めて取り上げた「真摯な男」の生き様と覚悟
「匿名性」という形で括るなら現代性との繋がりが連想されはするものの、描かれているのは私たちが馴染んでいるものとはやや異なる種類の「匿名性」であり、その普遍性と異様さみたいなものに惹きつけられたのだと思う。恐らくだが、「『箱男』が突きつける『匿名性』」に類似するようなものを、誰も思いつけないのではないかと思う。「『箱を被る』というシンプルさ故に奥深い『匿名性』の追究」が、まずは実に興味深いなと感じさせられた。
「本物とは何か?」という問いかけについて
本作でもう1つ突きつけられるのが、「本物とは何か?」という問いだ。この点については、私もよく考えることがある。
ではここで「お札」について考えてみよう。例えばだが、本物とまったく同じ素材・技術・機械を使って1万円札を印刷したとしても、「独立行政法人国立印刷局」が印刷したものでなければ「本物」とは認められない。もちろん現実には、「まったく同じ素材・技術・機械」を使えば区別がつかないものが出来上がるだろう。しかし今は、「見分けられるかどうか」の話はしていない。そうではなく、「何が『本物』の基準なのか」という話である。
あわせて読みたい
【正義】ナン・ゴールディンの”覚悟”を映し出す映画『美と殺戮のすべて』が描く衝撃の薬害事件
映画『美と殺戮のすべて』は、写真家ナン・ゴールディンの凄まじい闘いが映し出されるドキュメンタリー映画である。ターゲットとなるのは、美術界にその名を轟かすサックラー家。なんと、彼らが創業した製薬会社で製造された処方薬によって、アメリカでは既に50万人が死亡しているのだ。そんな異次元の薬害事件が扱われる驚くべき作品
また同じようなことは、「ブランド物」に対しても言えるだろう。例えば、グッチのバッグと同じ素材・技術・機械を使って何かバッグを仕上げたとしても、「グッチが作ったもの」でなければそれは「本物」ではない。つまり、「お札」にしても「ブランド物」にしても、「素材や製法が同じであること」は本質的な意味で「本物」の証にはなり得ないというわけだ。
普通はこのように、「『本物』であるための条件」を確認した上でその真偽を議論することになるだろう。では、本作で争われる「本物の箱男」とは一体なんだろうか? 何を以って「本物の箱男」と言えるのだろうか?
「わたし」は、「”前任”の箱男」から奪い取る形で「箱男」の座についた。これは分かりやすいと言えば分かりやすい。それまでは”前任”が「本物の箱男」だった。そしてその”前任”を追いやったのだから、「わたし」が「箱男」を名乗れば自ずと「本物の箱男」になれる、というわけだ。この辺の理屈は、ガチャピンをイメージすると分かりやすいだろうい。ガチャピンはスキージャンプやサーフィンなど様々なことにチャレンジしている。そしてそうだとすれば、「中の人が同じ」とはちょっと考えにくいだろう。しかし、「中の人」が誰だろうと、「外見がガチャピン」なら、それは「本物のガチャピン」である。皆そのように考えているはずだ。であれば「箱男」も同様に、「中の人」が誰であれ「箱男の箱」を被っている者が「本物の箱男」だと考えるのが自然だろう。
あわせて読みたい
【不思議】森達也が「オカルト」に挑む本。「科学では説明できない現象はある」と否定も肯定もしない姿…
肯定派でも否定派でもない森達也が、「オカルト的なもの」に挑むノンフィクション『オカルト』。「現象を解釈する」ことよりも、「現象を記録する」こと点に注力し、「そのほとんどは勘違いや見間違いだが、本当に説明のつかない現象も存在する」というスタンスで追いかける姿勢が良い
しかし、本作に登場する「『箱男』になろうとする者」は、どうも違うアプローチを取っていた。その人物はまず、「わたし」から「箱男の箱」を買い取ろうと考える。そしてそれが無理だと分かると、その後は「『箱男』が映っている映像を見ながら、自ら用意したダンボールに汚しを入れる」なんてことをし始めるのだ。
つまりこういうことである。「『箱男』になろうとする者」は「私」から「箱」を奪う(買い取る)ことで「『本物の箱男』の不在」という状況を作り出し、その上で「箱男の箱」を精巧に再現することにより、自分が「本物の箱男」になろうとしているというわけだ。
ここでもやはり、「『本物の箱男』を不在にする」というステップが必要とされているわけだが、それはそれとして、「だったら何故、『わたし』から買い取った箱をそのまま被るという判断をしなかったのか?」という点が気になるところである。「わたし」と同じやり方をすれば、「『本物の箱男』の不在」と「『本物の箱男』への就任」が同時に行えるだろう。それに、「お札」や「ブランド物」で検討した通り、「素材や製法が同じであること」は決して「本物」の条件にはならない。決して「わたし」のやり方を称賛したいわけではないのだが、しかし、「本物」という観点から考えればやはり、「わたし」のスタンスの方に軍配が上がるように思う。
あわせて読みたい
【感想】殺人事件が決定打となった「GUCCI家の崩壊」の実話を描く映画『ハウス・オブ・グッチ』の衝撃
GUCCI創業家一族の1人が射殺された衝撃の実話を基にした映画『ハウス・オブ・グッチ』。既に創業家一族は誰一人関わっていないという世界的ブランドGUCCIに一体何が起こったのか? アダム・ドライバー、レディー・ガガの演技も見事なリドリー・スコット監督作
そういう、「『箱男』になろうとする者」が持っているだろう理屈の捻じれみたいなものも実に興味深かった。
その他の感想と、本作『箱男』の映画化までのエピソード
内容紹介でも触れた通り、途中まではなんとなくついて行けたものの、最後に「わたし」が改めて病院を訪れてからの展開はなかなかに意味不明で、私には上手く捉えられなかった。役者たちは何をどんな風に理解して演じていたのだろう。その辺りも興味深い。
また本作では、謎の看護師が物語をかき乱していくのだが、この看護師が凄まじくエロさも醸し出していて、より一層「こんな話だったっけ?」みたいに感じさせられた。本当に、原作の記憶が全然ない。
あわせて読みたい
【天才】映画『ツィゴイネルワイゼン』(鈴木清順)は意味不明だが、大楠道代のトークが面白かった
鈴木清順監督作『ツィゴイネルワイゼン』は、最初から最後まで何を描いているのかさっぱり分からない映画だった。しかし、出演者の1人で、上映後のトークイベントにも登壇した大楠道代でさえ「よく分からない」と言っていたのだから、それでいいのだろう。意味不明なのに、どこか惹きつけられてしまう、実に変な映画だった
さて、先ほど「本物」に関する議論に触れたが、エンドロールでもそんな問いかけがなされていると言えるだろう。というのも、本作のエンドロールは「手書き」なのである。すべて異なる字なので、恐らくだが、全部「本人の直筆」なのだと思う。そして本作においては、「筆跡」もまた「本物か否か」を突きつける要素として扱われている。途中で出てくる謎の器具が、この点に関係しているのだと思う。
「お札」や「ブランド物」と同様、「筆跡」もまた「見た目が同じだとしても『本物』とは限らない」だろう。しかし、これも「お札」や「ブランド物」と同じだが、「見抜かれなければ『本物』として扱われる」こともまた確かである。本作ではこのような形でも「本物を巡る議論」が展開されており、それを踏まえた上でのエンドロールなのだと思う。なかなか興味深い演出だった。
さて最後に。映画鑑賞後に公式HPを読んだ知った、本作『箱男』映画化にまつわるエピソードに触れてこの記事を終えようと思う。
あわせて読みたい
【おすすめ】カンヌ映画『PERFECT DAYS』は、ほぼ喋らない役所広司の沈黙が心地よい(ヴィム・ヴェンダ…
役所広司主演映画『PERFECT DAYS』(ヴィム・ヴェンダース監督)は、主人公・平山の「沈黙」がとにかく雄弁な物語である。渋谷区のトイレの清掃員である無口な平山の、世間とほとんど繋がりを持たない隔絶した日常が、色んなものを抱えた者たちを引き寄せ、穏やかさで満たしていく様が素晴らしい
元々、小説『箱男』が発表されて以降、ヨーロッパやハリウッドで映画化の企画が何度も持ち上がっていたらしいのだが、その度に頓挫してしまったそうだ。そんな状況を繰り返す中で、1986年に安部公房本人が映画化権を最終的に託したのが、本作監督の石井岳龍だったのである。その後1997年に、日独共同制作として『箱男』映画化が正式に決定された。ドイツで撮影することが決まりし、スタッフ・キャストが現地入りしたのだが、クランクイン前日に事件が起こる。なんと、日本側の資金不足が理由で企画が頓挫してしまったのだ。
その後、映画化権はハリウッドなどに渡り、再び制作の話が持ち上がったりもしたが、結局誰も企画を実現させられなかった。そんな状況が続いたため、世界のマーケットでは、「安部公房原作の映画化は不可能」とまで囁かれるようになったという。しかし、石井岳龍は諦めていなかった。改めて企画を立ち上げ、映画化権を手に入れて、ようやく公開にこぎつけたというわけだ。企画頓挫の悲劇から27年、そして奇しくも、安部公房生誕100周年にあたる2024年の公開となった。さらに言えば、本作に出演している永瀬正敏、佐藤浩市は、27年前にもキャスティングされていたそうである。まさに「執念」と言っていいだろう。
本作『箱男』は、そのような経緯で完成に至った作品というわけだ。このような制作の裏話もまた、実に興味深いと言えるのではないだろうか。
あわせて読みたい
【あらすじ】映画『悪は存在しない』(濱口竜介)の衝撃のラストの解釈と、タイトルが示唆する現実(主…
映画『悪は存在しない』(濱口竜介監督)は、観る者すべてを困惑に叩き落とす衝撃のラストに、鑑賞直後は迷子のような状態になってしまうだろう。しかし、作中で提示される様々な要素を紐解き、私なりの解釈に辿り着いた。全編に渡り『悪は存在しない』というタイトルを強く意識させられる、脚本・映像も見事な作品だ
監督:石井岳龍, プロデュース:小西啓介, プロデュース:関友彦, Writer:いながききよたか, Writer:石井岳龍, 出演:永瀬正敏, 出演:浅野忠信, 出演:白本彩奈, 出演:佐藤浩市, 出演:渋川清彦, 出演:中村優子, 出演:川瀬陽太
¥500 (2025/04/22 06:26時点 | Amazon調べ)
ポチップ
あわせて読みたい
【全作品視聴済】私が観てきた映画(フィクション)を色んな切り口で分類しました
この記事では、「今まで私が観てきた映画(フィクション)を様々に分類した記事」を一覧にしてまとめました。私が面白いと感じた作品だけをリストアップしていますので、是非映画選びの参考にして下さい。
最後に
作品全体に対しては正直なところ、「よく分からない」という感覚の方が強かった。とはいえ、全体像をきちんと把握できていなくても思考が刺激されたし、また「幻惑的な世界観」も魅力的で、総合的には「観て良かった」と感じられる作品だったなと思う。悲願を成就した監督・役者には、「ご苦労さまでした」と言いたい気分である。
あわせて読みたい
Kindle本出版しました!「文章の書き方が分からない」「文章力がないから鍛えたい」という方にオススメ…
「文章の書き方」についてのKindle本を出版しました。「文章が書けない」「どう書いたらいいか分からない」「文章力を向上させたい」という方の悩みを解消できるような本に仕上げたつもりです。数多くの文章を書き、さらに頼まれて文章を推敲してきた経験を踏まえ、「文章を書けるようになるにはどうしたらいいか」についての私なりの考えをまとめました。
次にオススメの記事
あわせて読みたい
【異次元】リアリティ皆無の怪作映画『Cloud クラウド』は、役者の演技でギリ成立している(監督:黒沢…
映画『Cloud クラウド』(黒沢清監督)は、リアリティなどまったく感じさせないかなり異様な作品だった。登場人物のほとんどが「人間っぽくない」のだが、錚々たる役者陣による見事な演技によって、「リアリティ」も「っぽさ」も欠いたまま作品としては成立している。「共感は一切出来ない」と理解した上で観るなら面白いと思う
あわせて読みたい
【異様】映画『大いなる不在』(近浦啓)は、認知症の父を中心に「記憶」と「存在」の複雑さを描く(主…
「父親が逮捕され、どうやら認知症のようだ」という一報を受けた息子が、30年間ほぼやり取りのなかった父親と再会するところから始まる映画『大いなる不在』は、なんとも言えない「不穏さ」に満ちた物語だった。「記憶」と「存在」のややこしさを問う本作は、「物語」としては成立していないが、圧倒的な“リアリティ”に満ちている
あわせて読みたい
【あらすじ】映画『憐れみの3章』(ヨルゴス・ランティモス)は意味不明なのに何故か超絶面白かった(主…
映画『憐れみの3章』(ヨルゴス・ランティモス監督)は、最初から最後まで「意味不明」と言っていいレベルで理解できなかったが、しかし「実に良い映画を観たなぁ」という感覚にさせてもくれる、とても素敵な作品だった。さらに、「3つの異なる物語を同じ役者の組み合わせで撮る」という斬新な構成が上手くハマっていたようにも思う
あわせて読みたい
【狂気】「こんな作品を作ろうと考えて実際世に出した川上さわ、ヤベェな」って感じた映画『地獄のSE』…
私が観た時はポレポレ東中野のみで公開されていた映画『地獄のSE』は、最初から最後までイカれ狂ったゲロヤバな作品だった。久しぶりに出会ったな、こんな狂気的な映画。面白かったけど!「こんなヤバい作品を、多くの人の協力を得て作り公開した監督」に対する興味を強く抱かされた作品で、とにかく「凄いモノを観たな」という感じだった
あわせて読みたい
【変態】映画『コンセント/同意』が描く50歳と14歳少女の”恋”は「キモっ!」では終われない
映画『コンセント/同意』は、50歳の著名小説家に恋をした14歳の少女が大人になってから出版した「告発本」をベースに作られた作品だ。もちろん実話を元にしており、その焦点はタイトルの通り「同意」にある。自ら望んで36歳年上の男性との恋に踏み出した少女は、いかにして「同意させられた」という状況に追い込まれたのか?
あわせて読みたい
【感想】B級サメ映画の傑作『温泉シャーク』は、『シン・ゴジラ』的壮大さをバカバカしく描き出す
「温泉に入っているとサメに襲われる」という荒唐無稽すぎる設定のサメ映画『温泉シャーク』は、確かにふざけ倒した作品ではあるものの、観てみる価値のある映画だと思います。サメの生態を上手く利用した設定や、「伏線回収」と表現していいだろう展開などが巧みで、細かなことを気にしなければ、そのバカバカしさを楽しめるはずです
あわせて読みたい
【解説】映画『スターフィッシュ』をネタバレ全開で考察。主人公が直面する”奇妙な世界”の正体は?
映画『スターフィッシュ』は、「親友の葬儀」とそれに続く「不法侵入」の後、唐突に「意味不明な世界観」に突入していき、その状態のまま物語が終わってしまう。解釈が非常に難しい物語だが、しかし私なりの仮説には辿り着いた。そこでこの記事では、ネタバレを一切気にせずに「私が捉えた物語」について解説していくことにする
あわせて読みたい
【狂気】押見修造デザインの「ちーちゃん」(映画『毒娘』)は「『正しさ』によって歪む何か」の象徴だ…
映画『毒娘』は、押見修造デザインの「ちーちゃん」の存在感が圧倒的であることは確かなのだが、しかし観ていくと、「決して『ちーちゃん』がメインなわけではない」ということに気づくだろう。本作は、全体として「『正しさ』によって歪む何か」を描き出そうとする物語であり、私たちが生きる社会のリアルを抉り出す作品である
あわせて読みたい
【常識】群青いろ制作『彼女はなぜ、猿を逃したか?』は、凄まじく奇妙で、実に魅力的な映画だった(主…
映画『彼女はなぜ、猿を逃したか?』(群青いろ制作)は、「絶妙に奇妙な展開」と「爽快感のあるラスト」の対比が魅力的な作品。主なテーマとして扱われている「週刊誌報道からのネットの炎上」よりも、私は「週刊誌記者が無意識に抱いている思い込み」の方に興味があったし、それを受け流す女子高生の受け答えがとても素敵だった
あわせて読みたい
【狂気】群青いろ制作『雨降って、ジ・エンド。』は、主演の古川琴音が成立させている映画だ
映画『雨降って、ジ・エンド。』は、冒頭からしばらくの間「若い女性とオジサンのちょっと変わった関係」を描く物語なのですが、後半のある時点から「共感を一切排除する」かのごとき展開になる物語です。色んな意味で「普通なら成立し得ない物語」だと思うのですが、古川琴音の演技などのお陰で、絶妙な形で素敵な作品に仕上がっています
あわせて読みたい
【天才】映画『ツィゴイネルワイゼン』(鈴木清順)は意味不明だが、大楠道代のトークが面白かった
鈴木清順監督作『ツィゴイネルワイゼン』は、最初から最後まで何を描いているのかさっぱり分からない映画だった。しかし、出演者の1人で、上映後のトークイベントにも登壇した大楠道代でさえ「よく分からない」と言っていたのだから、それでいいのだろう。意味不明なのに、どこか惹きつけられてしまう、実に変な映画だった
あわせて読みたい
【あらすじ】映画『悪は存在しない』(濱口竜介)の衝撃のラストの解釈と、タイトルが示唆する現実(主…
映画『悪は存在しない』(濱口竜介監督)は、観る者すべてを困惑に叩き落とす衝撃のラストに、鑑賞直後は迷子のような状態になってしまうだろう。しかし、作中で提示される様々な要素を紐解き、私なりの解釈に辿り着いた。全編に渡り『悪は存在しない』というタイトルを強く意識させられる、脚本・映像も見事な作品だ
あわせて読みたい
【あらすじ】映画『レザボア・ドッグス』(タランティーノ監督)はとにかく驚異的に脚本が面白い!
クエンティン・タランティーノ初の長編監督作『レザボア・ドッグス』は、のけぞるほど面白い映画だった。低予算という制約を逆手に取った「会話劇」の構成・展開があまりにも絶妙で、舞台がほぼ固定されているにも拘らずストーリーが面白すぎる。天才はやはり、デビュー作から天才だったのだなと実感させられた
あわせて読みたい
【天才】映画『笑いのカイブツ』のモデル「伝説のハガキ職人ツチヤタカユキ」の狂気に共感させられた
『「伝説のハガキ職人」として知られるツチヤタカユキの自伝的小説を基にした映画『笑いのカイブツ』は、凄まじい狂気に彩られた作品だった。「お笑い」にすべてを捧げ、「お笑い」以外はどうでもいいと考えているツチヤタカユキが、「コミュ力」や「人間関係」で躓かされる”理不尽”な世の中に、色々と考えさせられる
あわせて読みたい
【斬新】映画『王国(あるいはその家について)』(草野なつか)を観よ。未経験の鑑賞体験を保証する
映画『王国(あるいはその家について)』は、まず経験できないだろう異様な鑑賞体験をもたらす特異な作品だった。「稽古場での台本読み」を映し出すパートが上映時間150分のほとんどを占め、同じやり取りをひたすら繰り返し見せ続ける本作は、「王国」をキーワードに様々な形の「狂気」を炙り出す異常な作品である
あわせて読みたい
【抵抗】映画『熊は、いない』は、映画製作を禁じられた映画監督ジャファル・パナヒの執念の結晶だ
映画『熊は、いない』は、「イラン当局から映画製作を20年間も禁じられながら、その後も作品を生み出し続けるジャファル・パナヒ監督」の手によるもので、彼は本作公開後に収監させられてしまった。パナヒ監督が「本人役」として出演する、「ドキュメンタリーとフィクションのあわい」を縫うような異様な作品だ
あわせて読みたい
【痛快】精神病院の隔離室から脱した、善悪の判断基準を持たない狂気の超能力者が大暴れする映画:『モ…
モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』は、「10年以上拘束され続けた精神病院から脱走したアジア系女性が、特殊能力を使って大暴れする」というムチャクチャな設定の物語なのだが、全編に通底する「『善悪の判断基準』が歪んでいる」という要素がとても見事で、意味不明なのに最後まで惹きつけられてしまった
あわせて読みたい
【実話】映画『月』(石井裕也)は、障害者施設での虐待事件から「見て見ぬふりする社会」を抉る(出演…
実際に起こった障害者施設殺傷事件を基にした映画『月』(石井裕也)は、観客を作中世界に引きずり込み、「これはお前たちの物語だぞ」と刃を突きつける圧巻の作品だ。「意思疎通が不可能なら殺していい」という主張には誰もが反対するはずだが、しかしその態度は、ブーメランのように私たちに戻ってくることになる
あわせて読みたい
【狂気】映画『ニューオーダー』の衝撃。法という秩序を混沌で駆逐する”悪”に圧倒されっ放しの86分
映画『ニューオーダー』は、理解不能でノンストップな展開に誘われる問題作だ。「貧富の差」や「法の支配」など「現実に存在する秩序」がひっくり返され、対極に振り切った「新秩序」に乗っ取られた世界をリアルに描き出すことで、私たちが今進んでいる道筋に警鐘を鳴らす作品になっている
あわせて読みたい
【映画】『別れる決心』(パク・チャヌク)は、「倫理的な葛藤」が描かれない、不穏で魅惑的な物語
巨匠パク・チャヌク監督が狂気的な関係性を描き出す映画『別れる決心』には、「倫理的な葛藤が描かれない」という特異さがあると感じた。「様々な要素が描かれるものの、それらが『主人公2人の関係性』に影響しないこと」や、「『理解は出来ないが、成立はしている』という不思議な感覚」について触れる
あわせて読みたい
【倫理】アート体験の行き着く未来は?映画『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』が描く狂気の世界(…
「『痛み』を失った世界」で「自然発生的に生まれる新たな『臓器』を除去するライブパフォーマンス」を行うソール・テンサーを主人公にした映画『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』は、すぐには答えの見出しにくい「境界線上にある事柄」を挑発的に描き出す、実に興味深い物語だ
あわせて読みたい
【驚嘆】映画『TAR/ター』のリディア・ターと、彼女を演じたケイト・ブランシェットの凄まじさ
天才女性指揮者リディア・ターを強烈に描き出す映画『TAR/ター』は、とんでもない作品だ。「縦軸」としてのターの存在感があまりにも強すぎるため「横軸」を上手く捉えきれず、結果「よく分からなかった」という感想で終わったが、それでも「観て良かった」と感じるほど、揺さぶられる作品だった
あわせて読みたい
【あらすじ】映画『非常宣言』(ソン・ガンホ主演)は、冒頭から絶望的な「不可能状況」が現出する凄ま…
「飛行中の機内で、致死性の高い自作のウイルスを蔓延させる」という、冒頭から絶体絶命としか言いようがない状況に突き落とされる映画『非常宣言』は、「どうにかなるはずがない」と感じさせる状況から物語を前進させていくえげつなさと、様々に描かれる人間ドラマが見事な作品だ
あわせて読みたい
【あらすじ】アリ・アスター監督映画『ミッドサマー』は、気持ち悪さと怖さが詰まった超狂ホラーだった
「夏至の日に映画館で上映する」という企画でようやく観ることが叶った映画『ミッドサマー』は、「私がなんとなく想像していたのとはまるで異なる『ヤバさ』」に溢れる作品だった。いい知れぬ「狂気」が随所で描かれるが、同時に、「ある意味で合理的と言えなくもない」と感じさせられる怖さもある
あわせて読みたい
【違和感】映画『コントラ』は、「よく分かんない」が「よく分かんないけど面白い」に変わる不思議な作品
ほぼ内容を知らないまま観に行った映画『コントラ』は、最後の最後まで結局何も理解できなかったが、それでもとても面白い作品だった。「後ろ向きに歩く男」が放つ違和感を主人公・ソラの存在感が中和させており、奇妙なのに可能な限り「日常感」を失わせずに展開させる構成が見事だと思う
あわせて読みたい
【実話】ポートアーサー銃乱射事件を扱う映画『ニトラム』が示す、犯罪への傾倒に抗えない人生の不条理
オーストラリアで実際に起こった銃乱射事件の犯人の生い立ちを描く映画『ニトラム/NITRAM』は、「頼むから何も起こらないでくれ」と願ってしまうほどの異様な不穏さに満ちている。「社会に順応できない人間」を社会がどう受け入れるべきかについて改めて考えさせる作品だ
あわせて読みたい
【考察】ヨネダコウ『囀る鳥は羽ばたかない』は、BLの枠組みの中で「歪んだ人間」をリアルに描き出す
2巻までしか読んでいないが、ヨネダコウのマンガ『囀る鳥は羽ばたかない』は、「ヤクザ」「BL」という使い古されたフォーマットを使って、異次元の物語を紡ぎ出す作品だ。BLだが、BLという外枠を脇役にしてしまう矢代という歪んだ男の存在感が凄まじい。
あわせて読みたい
【驚愕】一般人スパイが北朝鮮に潜入する映画『THE MOLE』はとてつもないドキュメンタリー映画
映画『THE MOLE』は、「ホントにドキュメンタリーなのか?」と疑いたくなるような衝撃映像満載の作品だ。「『元料理人のデンマーク人』が勝手に北朝鮮に潜入する」というスタートも謎なら、諜報経験も軍属経験もない男が北朝鮮の秘密をバンバン解き明かす展開も謎すぎる。ヤバい
あわせて読みたい
【おすすめ】江戸川乱歩賞受賞作、佐藤究『QJKJQ』は、新人のデビュー作とは思えない超ド級の小説だ
江戸川乱歩賞を受賞した佐藤究デビュー作『QJKJQ』はとんでもない衝撃作だ。とても新人作家の作品とは思えない超ド級の物語に、とにかく圧倒されてしまう。「社会は『幻想』を共有することで成り立っている」という、普段なかなか意識しない事実を巧みにちらつかせた、魔術のような作品
あわせて読みたい
【あらすじ】ムロツヨシ主演映画『神は見返りを求める』の、”善意”が”悪意”に豹変するリアルが凄まじい
ムロツヨシ演じる田母神が「お人好し」から「復讐の権化」に豹変する映画『神は見返りを求める』。「こういう状況は、実際に世界中で起こっているだろう」と感じさせるリアリティが見事な作品だった。「善意」があっさりと踏みにじられる世界を、私たちは受け容れるべきだろうか?
あわせて読みたい
【感想】阿部サダヲが狂気を怪演。映画『死刑にいたる病』が突きつける「生きるのに必要なもの」の違い
サイコパスの連続殺人鬼・榛村大和を阿部サダヲが演じる映画『死刑にいたる病』は、「生きていくのに必要なもの」について考えさせる映画でもある。目に光を感じさせない阿部サダヲの演技が、リアリティを感じにくい「榛村大和」という人物を見事に屹立させる素晴らしい映画
あわせて読みたい
【純愛】映画『ぼくのエリ』の衝撃。「生き延びるために必要なもの」を貪欲に求める狂気と悲哀、そして恋
名作と名高い映画『ぼくのエリ』は、「生き延びるために必要なもの」が「他者を滅ぼしてしまうこと」であるという絶望を抱えながら、それでも生きることを選ぶ者たちの葛藤が描かれる。「純愛」と呼んでいいのか悩んでしまう2人の関係性と、予想もつかない展開に、感動させられる
あわせて読みたい
【感想】湯浅政明監督アニメ映画『犬王』は、実在した能楽師を”異形”として描くスペクタクル平家物語
観るつもりなし、期待値ゼロ、事前情報ほぼ皆無の状態で観た映画『犬王』(湯浅政明監督)はあまりにも凄まじく、私はこんなとんでもない傑作を見逃すところだったのかと驚愕させられた。原作の古川日出男が紡ぐ狂気の世界観に、リアルな「ライブ感」が加わった、素晴らしすぎる「音楽映画」
あわせて読みたい
【無謀】園子温が役者のワークショップと同時並行で撮影した映画『エッシャー通りの赤いポスト』の”狂気”
「園子温の最新作」としか知らずに観に行った映画『エッシャー通りの赤いポスト』は、「ワークショップ参加者」を「役者」に仕立て、ワークショップと同時並行で撮影されたという異次元の作品だった。なかなか経験できないだろう、「0が1になる瞬間」を味わえる“狂気”の映画
あわせて読みたい
【衝撃】映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』凄い。ラストの衝撃、ビョークの演技、”愛”とは呼びたくな…
言わずとしれた名作映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』を、ほぼ予備知識ゼロのまま劇場で観た。とんでもない映画だった。苦手なミュージカルシーンが効果的だと感じられたこと、「最低最悪のラストは回避できたはずだ」という想い、そして「セルマのような人こそ報われてほしい」という祈り
あわせて読みたい
【芸術】実話を下敷きに描く映画『皮膚を売った男』は、「アートによる鮮やかな社会問題風刺」が見事
「シリア難民の背中にタトゥーを彫り芸術作品として展示する」と聞くと非常に不謹慎に感じられるだろうが、彫ったのが国家間の移動を自由にする「シェンゲンビザ」だという点が絶妙な皮肉。実話をベースにした映画『皮膚を売った男』の、アートによる社会問題提起の見事な鮮やかさ
あわせて読みたい
【正義】復讐なんかに意味はない。それでも「この復讐は正しいかもしれない」と思わされる映画:『プロ…
私は基本的に「復讐」を許容できないが、『プロミシング・ヤング・ウーマン』の主人公キャシーの行動は正当化したい。法を犯す明らかにイカれた言動なのだが、その動機は一考の余地がある。何も考えずキャシーを非難していると、矢が自分の方に飛んでくる、恐ろしい作品
あわせて読みたい
【考察】映画『ジョーカー』で知る。孤立無援の環境にこそ”悪”は偏在すると。個人の問題ではない
「バットマン」シリーズを観たことがない人間が、予備知識ゼロで映画『ジョーカー』を鑑賞。「悪」は「環境」に偏在し、誰もが「悪」に足を踏み入れ得ると改めて実感させられた。「個人」を断罪するだけでは社会から「悪」を減らせない現実について改めて考える
あわせて読みたい
【逃避】つまらない世の中で生きる毎日を押し流す”何か”を求める気持ちに強烈に共感する:映画『サクリ…
子どもの頃「台風」にワクワクしたように、未だに、「自分のつまらない日常を押し流してくれる『何か』」の存在を待ちわびてしまう。立教大学の学生が撮った映画『サクリファイス』は、そんな「何か」として「東日本大震災」を描き出す、チャレンジングな作品だ
あわせて読みたい
【リアル】社会の分断の仕組みを”ゾンビ”で学ぶ。「社会派ゾンビ映画」が対立の根源を抉り出す:映画『C…
まさか「ゾンビ映画」が、私たちが生きている現実をここまで活写するとは驚きだった。映画『CURED キュアード』をベースに、「見えない事実」がもたらす恐怖と、立場ごとに正しい主張をしながらも否応なしに「分断」が生まれてしまう状況について知る
あわせて読みたい
【誤り】「信じたいものを信じる」のは正しい?映画『星の子』から「信じること」の難しさを考える
どんな病気も治す「奇跡の水」の存在を私は信じないが、しかし何故「信じない」と言えるのか?「奇跡の水を信じる人」を軽々に非難すべきではないと私は考えているが、それは何故か?映画『星の子』から、「何かを信じること」の難しさについて知る
あわせて読みたい
【排除】「分かり合えない相手」だけが「間違い」か?想像力の欠如が生む「無理解」と「対立」:映画『…
「共感」が強すぎる世の中では、自然と「想像力」が失われてしまう。そうならないようにと意識して踏ん張らなければ、他人の価値観を正しく認めることができない人間になってしまうだろう。映画『ミセス・ノイズィ』から、多様な価値観を排除しない生き方を考える
あわせて読みたい
【絶望】子供を犯罪者にしないために。「異常者」で片付けられない、希望を見いだせない若者の現実:『…
2人を殺し、7人に重傷を負わせた金川真大に同情の余地はない。しかし、この事件を取材した記者も、私も、彼が殺人に至った背景・動機については理解できてしまう部分がある。『死刑のための殺人』をベースに、「どうしようもないつまらなさ」と共に生きる現代を知る
あわせて読みたい
【驚嘆】人類はいかにして言語を獲得したか?この未解明の謎に真正面から挑む異色小説:『Ank: a mirror…
小説家の想像力は無限だ。まさか、「人類はいかに言語を獲得したか?」という仮説を小説で読めるとは。『Ank: a mirroring ape』をベースに、コミュニケーションに拠らない言語獲得の過程と、「ヒト」が「ホモ・サピエンス」しか存在しない理由を知る
あわせて読みたい
【考察】世の中は理不尽だ。平凡な奴らがのさばる中で、”特別な私の美しい世界”を守る生き方:『オーダ…
自分以外は凡人、と考える主人公の少女はとてもイタい。しかし、世間の価値観と折り合わないなら、自分の美しい世界を守るために闘うしかない。中二病の少女が奮闘する『オーダーメイド殺人クラブ』をベースに、理解されない世界をどう生きるかについて考察する
この記事を読んでくれた方にオススメのタグページ
ルシルナ
孤独・寂しい・友達【本・映画の感想】 | ルシルナ
孤独と向き合うのは難しいものです。友達がいないから学校に行きたくない、社会人になって出会いがない、世の中的に他人と会いにくい。そんな風に居場所がないと思わされて…
タグ一覧ページへのリンクも貼っておきます
ルシルナ
記事検索(カテゴリー・タグ一覧) | ルシルナ
ルシルナは、4000冊以上の本と500本以上の映画をベースに、生き方や教養について書いていきます。ルシルナでは36個のタグを用意しており、興味・関心から記事を選びやすく…
コメント