目次
はじめに
この記事で取り上げる本
著:大栗 博司
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ポチップ
この本をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- 科学に関する本を結構読んでいる私は、本書の記述の大半を元々知っていた。つまり「その分野の基本情報を的確に押さえている」と言えるだろうと思う
- 量子力学も超弦理論もとても難しいのだが、現役の研究者が「高校時代の同級生に説明する」ことを想定して書いているので、とても分かりやすい
- 「机上の空論」と批判されることもある「超弦理論」の来歴と、著者が関わったブラックホールに関する難問について
最先端の学問分野は大体難しいものだが、本書のような入門書がその理解のハードルを少しは下げてくれていると思う
自己紹介記事
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大栗博司『重力とはなにか』は、相対性理論・量子力学の説明も分かりやすいが、やはり専門である超弦理論の話が抜群に面白い1冊
本作『重力とはなにか』の著者である大栗博司の著作については、当ブログ内にも『大栗先生の超弦理論入門』の記事がある。科学の話が好きな私にはとても面白い作品だったが、一般書としてはかなり難しい部類に入るだろう。タイトルにもある「超弦理論」は、大栗博司の専門分野であるかなり最先端の理論物理学であり、スパッと理解できるような話ではない。
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そういう意味で言えば、本作『重力とはなにか』の方がかなり易しいと言えるだろう。「重力とはなにか」という問いは実はなかなか難しく、その説明のために相対性理論や量子力学の知識が必要になるのだが、著者はそれらについてもかなり平易な説明を行いながら、さらに自身の専門分野である超弦理論にも話を広げていくのである。相対性理論も量子力学も一筋縄ではいかない理論なのでもちろん簡単なわけではないが、科学に多少なりとも関心を持つ人であれば読み通せる本ではないかと思う。
さて、本書はかなり「基本的」な記述が多いため、正直なところ私は、内容の大半を知っていた。しかし、だからといって「つまらなかった」などと言いたいわけではない。「知っていること」と「理解していること」にはやはり大きな差があるからだ。大学では理系学部に所属してはいたものの、専門課程に進む前に中退したので、科学についてきちんと学んだことはない。あくまでも、一般書を読んで分かった気になっているだけだ。だから何度でも同じ内容を頭に入れ、どんどんと「理解」に近づきたいと思っている。
じゃあ何が言いたいのかというと、「私が元々知っていたことが多い」ということは、「各分野の『押さえておくべき基礎知識』がまとまっている」と考えていいのではないかということだ。「科学の興味深い話の入口」みたいな作品と言えると思うので、本作を読んだ上で、惹かれた分野についてさらに掘り下げていくみたいな感じもオススメである。
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それでは内容に触れていくことにしよう。
量子力学は大変難しい
本作では、物理学における様々なジャンルの話が触れられているわけだが、その中でもやはり「量子力学」は群を抜いて難しいと私は思う。科学の話とは思えないようなインパクトのある主張が非常に多く、雑学として頭に取り込む分にはとても楽しい分野だと思うが、いざ真剣に理解しようとすると「マジで何言ってるわけ?」と混乱してしまうだろう。
当ブログでも、量子力学を扱った本をいくつか紹介している。とりあえず、2つだけリンクを貼っておこう。
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この記事では量子力学そのものの説明はしないので、興味がある方は先の記事を読んでみてほしい。
さてしかし、「量子力学がいかに難しいのか」については触れておこうと思う。
まずは、ファインマンという物理学者の言葉から。彼については以下の記事で紹介しているが、様々な逸話を持つ天才物理学者で、一般的な知名度で言っても、アインシュタイン、ホーキング博士に次ぐぐらいの知名度があるように思う。また、量子力学に関する功績でノーベル賞も受賞しており、量子力学についてもかなり詳しい人物である。というか、あまりにも天才すぎて「専門分野が無い」と言われたぐらい、様々な領域で活躍した物理学者なのだ。
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そんなファインマンは量子力学について、「『量子力学のことが分かっている』なんて奴に会ったら、そいつは嘘をついている」みたいなことを言ったそうである。つまり、「量子力学に関して誰もが認めるだけの素晴らしい功績がある人物」でさえ、「量子力学のことなんか分からない」と口にしているのだ。となれば、凡人に理解できるはずもないだろう。
さて、このような主張は本書『重力とはなにか』にも書かれている。作中に「反粒子」について説明する箇所があるのだが、その記述に先立って著者は、別の本から引用をしつつ次のように書いているのだ。
これは、カブリIPMUの村山斉機構長の著書『宇宙は何でできているか』(幻冬舎新書)に、
あまりまじめに考えると頭が混乱して気持ち悪くなるので(笑)、「そういうものか」とファジーに受け止めたほうがいいでしょう。私もあまりまじめに考えないことにしています。
と書いてある話です。
著:村山斉
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「カブリIPMU」というのは大栗博司が所属する研究機関である。そしてそのトップである村山斉もまた、「まじめに考えると混乱する」と言っているのだ。
なので、本書に限る話ではないが、量子力学の知識に触れる際には、「天才だって全然分かってないんだから、自分ごときが理解できるはずがない」と思っておくぐらいでちょうどいいだろう。理解しようとさえしなければ、そのあまりに奇妙な世界に惹きつけられてしまうはずだ。是非入門書などに触れてみてほしいと思う。
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さて、量子力学は大変難しいわけだが、本書『重力とはなにか』の記述は、量子力学の説明に限らずとても易しいと感じた。その理由の一端については、あとがきで次のように触れられている。
本書を書くときに思い浮かべたのは、卒業以来会っていない高校の同級生でした。(中略)
久しぶりに会ったので、一緒に勉強をした高校の理科から話を初めます。しかし、説明を簡単にするためにごまかしをしてはいけない。大切だと思うことはきちんとわかってもらえるように、少しぐらい話が長くなっても丁寧に説明しました。
「もし高校の同級生に再会したら、自分の研究分野についてどう説明するか?」を頭に思い浮かべながら書いたというわけだ。もちろん、学問分野そのものがかなり難解なので、易しく説明するにも限界があるわけだが、その中でも著者は、相当に努力して理解しやすい説明をしてくれていると思う。サイエンスライターではなく現役の研究者が書いているのだから、内容もお墨付きと言っていいだろう。「重力」というテーマも非常に身近なものなので、「最先端の理論物理学」に触れるのに本書はかなり最適と言えるのではないかと思う。
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また本書の場合、例を使った説明もとても上手い。例えば、「光電効果」。この現象は発見された当初、「どうしてこのようなことが起こるのか誰も説明できない」というほど奇妙なものだった。その後、この奇妙な現象の理屈を、かのアインシュタインが「光量子仮説」によって説明し解決に導いたのだが、その「光電効果」についての説明がとても上手いのだ。「囚人」と「100円玉」という身近なものを使って、かなり直感的に説明してくれるのである。私は「光電効果」についても色んな本で読んだことがあるのだが、本書のような説明を目にしたことはないので、恐らく著者のオリジナルではないかと思う。
このように、「馴染みのない人にもいかに分かりやすく説明するか」という点をかなり突き詰めていると感じるので、「科学に興味はあるけど、難しいのはちょっと……」という方にこそ手にとってもらいたいと思う。
さて、科学の一般書の宿命ではあるのだが、科学の世界では常に「新たな発見」や「理論の更新」が続くので、どうしても本の内容は古びていく。本書は著者初の一般向けの科学解説書であり、2012年に発売された。そして2012年以降も当然、新たな発見が相次いでいる。例えば本書では、「重力波」も「ヒッグス粒子」も共に未発見となっているのだが、本書発売後にどちらも発見された。このように、どうしても記述に「意図せぬ誤り」が混じることはある。
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ただ、「相対性理論や量子力学の理論自体に大きな変更が加えられた」みたいなことは今のところないはずなので、そういう理論についての説明はそのまま受け取っても大丈夫だろう。その辺りのことを意識しつつ読んでいただければと思う。
「超弦理論」とは何か、そしてその研究が進展してきた過程について
それではまず、「超弦理論」についてざっくりと説明しておこう。
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そもそもだが、科学の世界には「弦理論」と呼ばれるものが存在していた。この理論を生み出したのが、天才として名高い南部陽一郎である。彼の基本的な発想は、シンプルではあるが異端的なものだった。素粒子を「点」ではなく「弦(ひも)」として捉えようというのである。
素粒子というのは、とりあえず「原子」のことだと思ってもらえればいい(実際は違うのだが、その方が分かりやすいだろう)。つまり「物質の最小単位」のことだ。また、「原子」については「球体みたいなもの」と教わったはずだし、それはつまり「『小さな点』みたいに扱える」ことを意味する。これが従来的な発想だ。
しかし「弦理論」では、物質の最小単位は「点」ではなく「輪ゴムのようなひも状のもの」と捉える。そして、「その『ひも状のもの』の振動の仕方によって様々な異なる性質が現れる」と考えるのだ。これが「弦理論」である。
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さて、素粒子(実際には「原子」ではなく「クォーク」と呼ばれるもの)には「ボソン」と「フェルミオン」という2種類が存在するのだが、南部陽一郎が生み出した「弦理論」では、実は「ボソン」しか扱うことが出来なかった。しかしその後、「超対称性」と呼ばれるものを「弦理論」に組み込むことで、「フェルミオン」も扱えることが判明したのである。そのため、「超対称性」から「超」を取り、「超弦理論」と呼ばれるようになったというわけだ。
では南部陽一郎はそもそも、何故「弦理論」などというものを生み出したのだろうか。そこには当時の科学界の混乱が関係している。当時実験室では、毎週のように「新しい素粒子」が発見されていた。いや、この表現は適切ではない。実際には「素粒子」ではなかったのだが、当時は「素粒子」だと思われていたというわけだ。ともかく、実験室では日々「未発見の素粒子みたいなもの」が見つかっていた。そのため当時の理論家には、「それら『素粒子みたいなもの』をどうまとめるのか」の理論構築が求められていたのである。そしてその過程で南部陽一郎が辿り着いた可能性が「弦理論」だったというわけだ。
しかし実はその後、それら「素粒子みたいなもの」の存在は別の理論で説明がつくことが判明し、「弦理論」「超弦理論」は用済みになってしまった。この時点で「弦理論」は科学の歴史から消え去ってもおかしくなかっただろう。しかし、シュワルツという物理学者だけが超弦理論にこだわり続けた。その理由が「重力子の予言」である。シュワルツは、超弦理論が予言する「謎の粒子」が、「重力波の粒子(重力子)」の性質を持つことに気づいたのだ。これはつまり、「超弦理論には、理論内部に『重力』が含まれている」ことを意味する。そして科学界にとって、この事実は非常に重要だったのだ。
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当時の理論物理学者にとっての最大の課題は、「一般相対性理論と量子力学の融合」だった。アインシュタインが生み出した「相対性理論」には、重力を含まない「特殊相対性理論」と、重力を含む「一般相対性理論」が存在する。そして、「特殊相対性理論」と「量子力学」は早い段階で融合されていたのだが、「一般相対性理論」と「量子力学」はとにかく相性が悪かったのだ。「量子力学に重力を組み込む」というのがあまりに難題で、その解決が強く望まれていたのである。
そういう状況にあって、「理論内部に初めから重力が含まれている超弦理論」は、「一般相対性理論と量子力学の融合」にとって有用ではないかとシュワルツは考えたのだ。そのような理由から「研究を続ける価値がある」と判断、彼はほぼたった1人で超弦理論の研究を続ける決断をし、その後次々に画期的な発見を成し遂げていったのである。
さて、超弦理論には色々と難点が存在したのだが、その1つに「次元の問題」があった。我々が生きる世界は、空間と時間を合わせて「4次元」だが、超弦理論はなんと「10次元」でしか成り立たないのだ。「そんな理論に何か意味があるのだろうか」と感じてしまうだろう。
その一方で、以前から行われていた「量子力学を4次元以上の高次元空間で解く」というアプローチがなかなか上手くいかないという問題も存在した。「量子力学」と「高次元」はとにかく相性が悪かったのだ。しかし研究によって、超弦理論を考慮することで、高次元空間内でも量子力学を扱いやすくなることが分かってきた。その理由が、超弦理論の本質である「弦」にある。
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またシュワルツは、「パリティの破れ」を超弦理論に組み込むことにも成功している。「パリティの破れ」が何なのかは説明しないが、「『標準模型』に必要な要素の1つ」ぐらいに認識してほしい。「標準模型」というのは「素粒子を分類するための理論」であり、量子力学はこの「標準模型」を基礎としている。また、この理論によって南部陽一郎の「弦理論」が不要になった。さて、一般相対性理論と量子力学を融合させるにあたって、「『標準模型』に必要な要素を揃えきれない」という問題も存在していた。そしてシュワルツは、その要素の1つである「パリティの破れ」を超弦理論に組み込むことに成功したのである。これによって、超弦理論が「一般相対性理論と量子力学を融合させるための理論」である可能性が一層高まったというわけだ。
このような発見が続いたことで超弦理論は注目を集めるようになり、たった1人で研究していたシュワルツに続く者が多く現れるようになった。そしてその1人が、大学院生だった著者というわけだ。このように超弦理論は「奇跡の復活」とでも言うべき変遷を辿りながら、今も熱く研究が進められているのである。
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ブラックホールの話、そして「超弦理論研究の難しさ」について
さて、著者は研究によって、「トポロジカルな弦理論」という「超弦理論における計算法則」のようなものを共同で発見したそうだ。それ自体はちゃんとは理解できなかったが、この話は本書の最後で触れられる「ブラックホールの情報問題」に繋がっていく。
「ブラックホールの情報問題」は、車椅子の天才物理学者ホーキング博士が提唱したものである。これも難しい話で、こちらについてもちゃんとは理解できていないのだが、要するに「ブラックホールは情報を保存出来るのか?」という問いであるようだ。
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例えば、「本に火をつけて燃やす」ことを考えてみよう。この場合、「本に書かれた情報を復元する」ことは可能だろうか? もちろん、”現実的”には不可能だ。燃えたら灰になるだけで、それをどうこねくり回したところで、「本に書かれた情報」が読み取れるはずもない。
ただ、ここで問うているのは「”原理的”に不可能なのかどうか」だ。そして”原理的”には可能である。というのも、すべての物理法則は「時間の流れに拘束されない」ことが分かっているからだ。どういうことか。例えば「燃焼」というのは、私たちにとっては「物質が燃えて灰になる」という現象である。しかし”原理的”にはその逆、つまり「灰が物質に戻る」という現象が制約されているわけではない。私たちの世界では”何故か”そのような現象が起こらないだけで、”原理的”には「燃えカスの灰が本に戻る」という現象が起こってもおかしくないのだ。そのため、「”原理的”には燃えた本の情報を復元することは可能」ということになる。
では、これと同じことをブラックホールでも考えてみよう。つまり、「ブラックホールに本を投げ込んだ場合、“原理的”に本の情報を復元できるか」というわけだ。そしてホーキング博士は、「ブラックホールに吸い込まれた情報は消える」という「ブラックホールの情報問題」を提唱したのである。量子力学では「すべての情報は保存される」と考えられているので、この「ブラックホールの情報問題」は科学にとっての大問題とみなされているのだそうだ。
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そして、説明は難しくてよく分からなかったが、「著者らが生み出した『トポロジカルな弦理論』という計算法則がこの問題に上手く適用出来た」ということのようである。このように超弦理論は、様々に応用されるようにもなっているのだ。
しかし一方で、超弦理論には批判もある。著者は超弦理論の専門家なので、もちろん批判的なことを書いたりはしない。しかし私は、他の本も読んでいるので、「超弦理論には悪い評判もある」ということを知っている。専門外の人からは、「超弦理論は、実験で確かめることが不可能な机上の空論でしかない」と批判されることもあるのだそうだ。
というか、本作の中で著者がこのように書いていたりもする。
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いまのところ、この分野は理論が先行しており、それを検証する作業が追いついていません。そのため、「超弦理論は検証不能なのではないか」という疑問の声も聞かれます。
「素粒子が弦である」という主張を確かめるには、現存する素粒子加速器よりも遥かに高エネルギーな状態を作り出せる環境が必要だという話を聞いたことがある。そのため「検証不可能」と言われてしまうのだろう。
ただ、著者はそのような声を気にしていないようだ。その理由は、科学の歴史を振り返ってみれば理解できるだろう。例えば、「原子」はその存在が予測されてから直接の証拠が見つかるまでかなりの時間を要した。あるいは「ブラックホール」も、その実在が疑問視されていた頃から既に、理論面での研究がかなり進んでいたことで知られている。このように、科学研究は一筋縄ではいかないのだ。
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また著者は、次のようにも指摘している。
初期宇宙からの重力波を観測できるようになれば、超弦理論を使った宇宙論が直接検証されるようになるでしょう。
著者が本書を書いた時点ではまだ「重力波」そのものさえ発見されていなかったのだが、今ではもう「重力波」の観測自体は可能だ。となれば、「初期宇宙からの重力波」が捉えられる可能性も十分あると考えていいだろう。また、超弦理論から派生した「ホログラフィー原理」と呼ばれるものがあるのだが、そこから生まれたある予測が「クォーク・グルーオン・プラズマ」の実験によって実証されたとも書かれている。このような間接的な証拠からも、「超弦理論の正しさが検証される可能性」を実感出来るのではないかと思う。
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超弦理論が科学の世界でどのような存在になっていくのかはまだまだ未知数だ。しかし外野にいる人間としてはやはり、「華麗なる復活からの大ホームラン」みたいな展開を望んでしまうし、超弦理論がそのような存在になってくれたらいいなと思っている。
本書を読んで初めて知ったこと
さて、私はこの記事の冒頭で、「本書の内容については大体知っていた」と書いたが、もちろん知らないこともあった。最後に、いくつかそれらに触れて終わろうと思う。
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まずは「ハイゼンベルグの不確定性原理」について。これは量子力学を学ぶ上で避けては通れない基本中の基本みたいな話であり、当然その存在は知っていた。しかし、私が知らなかったのは、この「ハイゼンベルグの不確定性原理」とは別に、単に「不確定性原理」と呼ばれているものが別に存在するという事実である。これまで色んな本を読んできたが、この2者の区別はまったく付いておらず、まずそのことに驚かされてしまった。ちなみに、よく分かってはいないものの、本書を読む限り、「不確定性原理」は「現象そのものに関する原理」、そして「ハイゼンベルグの不確定性原理」は「観測に関する原理」であるようだ。
さらに、量子力学において絶対的なルールだとばかり思っていた「ハイゼンベルグの不確定性原理」に疑義が生じているとも書かれており、そのことにも驚かされた。「ハイゼンベルグの不確定性原理」は、「測定精度の限界」に関する制約だ。つまり、「『ハイゼンベルグの不確定性原理』が示す測定精度以上の観測は不可能」という主張である。しかし既に、「ハイゼンベルグの不確定性原理」の測定精度を超えるような観測が存在しているのだそうだ。そのため今では、小澤正直という物理学者による「『ハイゼンベルグの不確定性原理』を拡張した新たな不等式」が知られているという。この話もまったく知らなかった。
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他にも、雑学ネタ的な話で初耳だったこともある。例えば、「科学史上最も美しい実験」の話。量子力学の世界には、「二重スリット実験」と呼ばれる凄まじく有名な実験がある。そして「その中でも、日立製作所の外村彰のグループが行った実験が最も有名で、『科学史上最も美しい実験』の1位に選ばれたこともある」という事実は元々知っていた。しかし、そのランキングの2位に選ばれたのが、ガリレオが行ったとされる「ピサの斜塔の実験」だというのは本書で初めて知った事実である。これは一般的にもよく知られているだろう有名な実験だが、実際に行われたかどうかの真偽は不明なのだそうだ。そのような実験がランキングの2位に位置しているというのもなかなか興味深い話だと思う。
また、「特殊相対性理論を生み出したアインシュタインは、『時間の同時性』について考えを巡らし理論に行き着いた」みたいな話はなんとなく知っていたのだが、「時間の同時性」について考えを巡らすきっかけについては本書で初めて知った。アインシュタインは実は、特許局という役所で仕事をしながら科学研究を行っていたのだが、「特許局に『時計の時刻を合わせる技術に関する特許』の申請書が山のように届いていたことが『時間の同時性』について考えるきっかけになったかもしれない」という説があるのだそうだ。このような話も、とても興味深いものに感じられた。
こんな風に、様々な本を読みながら少しずつ「知らなかった」を減らしていくのが楽しいのである。
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さて最後に、本書冒頭で紹介されているこんなエピソードに触れて終わりにしよう。超弦理論や相対性理論・量子力学とは全然関係ないのだが、エピソードとしてはとても興味深いはずだ。
1969年、フェルミ国立加速器研究所の初代所長であるロバート・ウィルソンが米国議会に呼ばれた。呼ばれた理由は「加速器の建設計画」にある。これはアメリカ原子力委員会による事業の一環として検討されていたものなのだが、この委員会は原爆を生み出したマンハッタン計画にルーツがあった。そのため、加速器そのものは素粒子物理学の研究で使われるのだが、建前上「国防」に関係する目的が求められたのである。
そのような理由からウィルソンは、議会の場で「加速器の建設は、わが国の防衛にどのように役に立つか」と問われた。そしてこの時のことについて、本書には次のように書かれているのである。
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「この加速器は、直接には国防の役には立ちません。しかし、わが国を守るに足る国にすることに役立ちます」
ウィルソンの答え方も立派なら、これで納得して計画を通した議会も立派だと思います。
つまり、「加速器の建設によって素粒子物理学の研究が盛んになれば、アメリカという国家がより一層『守るに値する国』になる」と主張したわけだ。なんというのか、プレゼンの上手さみたいなものも滲み出るやり取りだなと感じた。
こういうエピソードも散りばめられた、非常に読みやすい「科学の入門書」である。
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