目次
はじめに
著:窪美澄
¥722 (2024/07/03 14:51時点 | Amazon調べ)
ポチップ
この記事で伝えたいこと
「生きてさえいればなんとかなる」は、すべての人に当てはまるわけじゃない
「前進することを諦めたっていい」と言ってあげる方が適切な場合もあると思ってます
この記事の3つの要点
- 「家族」は自分では選べないから厄介
- 目の前に「不正解」しかない場合、「正解」を選べる可能性はあるか?
- 目指すべきゴールが、常に「前」にあるとは限らない
「母親」というのは特に、子どもの人生を否応なしに左右する存在だと思います
この記事で取り上げる本
「晴天の迷いクジラ」(窪美澄)
自己紹介記事
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窪美澄『晴天の迷いクジラ』が丁寧に掬い取る、「家族に対する違和感」と「生きることのしんどさ」
哺乳類なのに海で泳ぐクジラ
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もちろん、外からそう見えなかったというだけで、当時私の周りにも、苦しかった人はいたでしょう。私にしたって恐らく、外から見ていれば、普通に楽しそうに生きているように見えたはずです。
ただ当時は、自分だけが大変なように感じられていました。
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しかしホント、子どもの頃には、「自分と感覚似てるかも」って思える人、いなかったなぁ
大人になって当時のことを思い出すと、自分だけ、哺乳類なのに海で生活しているクジラのようなものだったかもしれない、と感じます。
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私も海の中にいて、他の魚と一緒に泳いでいる。でもなぜか自分だけ、時々息苦しくなって、海面に顔を出さなければいけない。そうしなければ生きていけない。
そんな風に考えると、イメージとして凄くしっくりくるなぁ、と思います。
大人になった今でも、自分がクジラであることには変わりません。ただ、「私は哺乳類だから、呼吸のために水面に顔を出さなければならない」と理解できていることは大きいなと感じます。子どもの頃は、その理由が分からなかったのでキツかったですが、今は、少なくとも理由だけは分かるので、その分楽になっていると思います。
あと、大人になって、息を止めていられる時間が長くなった、みたいなこともあるかな
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家族に対するしんどさ
子どもの頃、「家族ってしんどい」とずっと感じていました。ただ、大人になって、少し考え方が変わります。息苦しさの理由が分からなかったから、その原因を、自分のすぐ近くにいる「家族」のせいにしていたのだろうと考えるようになりました。
「自分が悪い」って感じたくない心理もあっただろうね
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「家族」のせいで自分はこんなにも苦しいんだ、と思い込むことによって、自分の生きづらさの本質的な部分に目を向けないようにしていたんだろうな、と。
まあ、シンプルに言って、親にも問題はあったと思うけど
大学進学と同時に、物理的に家族と距離が離れたことによって、「家族と離れたって結局しんどい」「物理的に距離が離れれば、家族に対する感覚は緩む」と理解しました。そこから少しずつ時間を掛けて、「これは自分の問題なんだなぁ」と考えるようになっていった、というわけです。
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今ではなるべく、「家族との葛藤を抱えていた」という形で過去の自分を捉えないようにしています。
だから、この作品の登場人物たちに「共感する」と書いてしまうと、ちょっと嘘になるのかもしれません。私は、彼らほどしんどい「家族関係」の中にはいなかったからです。
「母親」という厄介な存在
本書の主人公である由人・野乃花・正子の3人はみな、特に「母親」との関係に難しさを抱えています。
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由人は、母親にあまりかまってもらえない子どもでした。母親の愛情はまず兄に強く向かいます。その後、愛情を注ぐ対象はコロコロと変わるのですが、結局それが由人に向くことはありません。この事実は、由人の人生に大きな影響を与えました。
野乃花は、自分が母親になることで、母親という存在の困難さを否が応でも自覚することになります。子どもを産むなんて想像もしていなかったタイミングで子どもを授かりますが、野乃花はとても孤独な環境での子育てを強いられることになります。周りにどれだけ人がいても、野乃花の助けにはなってくれません。自分という存在と、母親という役割の間で、野乃花は大きな困難に直面します。
正子にとって母親というのは、立ちはだかる大きな壁でした。最初からそう理解できていたわけではありませんが、次第に、正子が「向こう側」に行くことを大きく阻む壁だと感じるようになります。その圧迫感に気づいてしまえば、母親を飛び越してその反対側になど行き着けないように思えるのです。正子にとって母親は、ありとあらゆることを諦めさせる負の装置として働きました。
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悲しい事情があるとはいえ、親だからって子どもの人生を縛る権利はないよね
私は男なので、生物学的にどうやっても「母親」にはなれませんし、「母親」側からの難しさを実感することもできません。その上で敢えて書きますが、「ハズレの母親」に当たってしまうと子どもは本当に辛いだろうな、と感じます。
もちろんそれは父親も同じなのですが、母親と父親というのはやはり違うと感じます。父親も育児をする時代になっているとはいえ、まだ日本の社会においては、「子育てにおいて父親は”存在ゼロ”になりうる」でしょう。男が「父親」として機能しなくても、子育てにおいては致命傷にはならないのではないか、という意味です。
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しかし母親の場合は違うと感じます。女性が「母親」として機能しないと、子育てに大きな支障をきたすでしょう。そして「母親」というのはそういう存在だからこそ”存在ゼロ”にはなれず、結果的にその針はプラスかマイナスのどちらかに大きく振れることになる、と私は考えています。
だから、「ハズレの母親」だとかなりしんどい、というのが私の結論です。
問題は、自分が子どもの頃に、「自分の母親はハズレだ」となかなか気づきにくいってことだよね
大人になって振り返ってやっと分かる、みたいなことも多いだろうからなぁ
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人生に「可塑性」はあるのか?
この作品を読んで、人生の「可塑性」について考えてしまいました。
「可塑性」というのは、
物質などが、外部からの入力に対応して変形適応すること。
weblio
という意味ですが、私は、「自分以外の原因でこんがらがってしまったものを、自分の力で良い形に変えられるか」みたいな意味で使っています。
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あくまで個人的な使い分けだけど、「やり直し」は問題の原因が自分、「可塑性」は問題の原因が自分以外、って感じかな
親や生まれた環境などによって、人生というのは大きく変わります。それはまさに「自分以外の原因」です。そしてそこから、人生を自分の力でなんとか良い形に持っていけるのかどうか、というのが、私がこの作品を読んで考えたことであり、同時に、ふとした瞬間にいつも考えてしまうことでもあります。
私は、「生きていくこと」は「徐々に可塑性を失っていくこと」だと感じています。そして、だからこそしんどいのです。
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日本に限りませんが、今世の中は格差が広がっています。格差が広がることの一番の怖さは、生きていく階層が固定されてしまうことでしょう。例えば、お金持ちの方が子どもに良い教育を与えることができ、そのお陰で子どもも良い人生を送れるようになります。
このように「格差」というのは、「生まれながらに固定されていること」を「自力で振り払えなくなる」という意味で、可塑性を失っていると言えるだろうと思います。
日本の大学入試は、「試験一発で逆転のチャンスがあるから、格差社会においては非常に公平」って有能な人がテレビで言ってた
確かに受験って、かなり分かりやすく逆転が可能な珍しい機会だよね
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人生は、自分が望んだわけでもなく始まりますし、どこを目指せばいいのかもよくわからないまま走らされ続けます。そして、時間が経つにつれいつの間にか可塑性がどんどん失われていき、そのせいで結局、走っても走ってもどこにもたどり着けません。
これは辛いなぁ、と思います。
「生きてさえいればいい」への反論
私は、「生きてさえいればなんとかなる」というような言説にいつも違和感を覚えてしまいます。その理由は、先程の「可塑性」で説明できるでしょう。
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もし人生の「可塑性」がきちんと存在する世の中であるなら、「生きてさえいればなんとかなる」は正しいと思います。どんな環境で生まれ育とうとも、自分がきちんと動けば過去のマイナスを振り払えると”誰もが”信じられる社会であれば、そりゃあ私だって「生きてさえいればなんとかなる」と言うでしょう。
しかし、普通に生きているだけで「可塑性」が失われてしまう社会なのであれば、その主張には無理があります。このまま生きていたって、さらに可塑性が失われるだけです。もちろん、何らかの幸運によってその状況を脱することができる人は出てくるでしょう。でも、”誰もが”それを信じられる世の中ではない、と思います。
そんな社会で、「生きてさえいればなんとかなる」と言われたって、「奇跡が起こるを待ってればいいわけ?」としか感じられないでしょう。
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こういう話題の時の、ポジティブな人間の態度には、羨ましさと苛立ちを同時に覚えちゃう
「こう生きられたら楽だよな」と「お前に何が分かるんだ」が一気にやってくるよね
私は、自分が幸運だったと感じています。子どもの頃は辛さを感じていたとはいえ、客観的に判断して、生まれや育ちが極度にしんどいわけではありません。人生において、様々に紆余曲折がありましたが、それでもなんとか、「ここからはもう這い上がれないだろう」と感じてしまうような地点には足を踏み入れずにここまでやってこれています。
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しかしそれは本当に、ただ運が良かっただけです。ほんの少し何かが違っていれば私も、この作品で描かれる登場人物のようにキツい環境に身を置くことになったでしょう。そうリアルに想像できるからこそ、私は、彼らのことを他人事だとは思えません。
人生振り返ってみても、よくもまあここまで生きてこられたもんだっていつも思う
作中では、「座礁したクジラを助けるべきか」が話題に上ります。
そのクジラの一生にずっと付き添っていくわけではない我々が、「このままだと可哀相だからクジラはなんとか海に返してあげるべきだ」と主張するのは簡単です。でも、それは本当に、クジラにとって幸せな決断なんでしょうか? 浜辺に打ち上げられたクジラを、もし海に返すことができたとしても、傷ついたクジラは生き続けられないかもしれません。
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「可能性はゼロじゃない」という根拠だけで、私たちは前進し続けなければならないのでしょうか? 進むことを諦めてしまうことは「悪」でしょうか? 「前にしかゴールはない」という考えは、ただの思いこみに過ぎないのではないでしょうか?
みたいなことを、もう少し真剣に考えてみてもいいのではないかと思っています。
「諦めずに挑戦し続けて何かを成し遂げた人間」は、感動的な物語であればあるほど、よく取り上げられます。しかしその陰には、「諦めずに挑戦し続けて何も成し遂げられなかった人間」もたくさん存在しているはずです。
だから、諦めないことが何よりも大事だなんて、私には思えません。
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窪美澄『晴天の迷いクジラ』の内容紹介
ここで改めて本の内容を紹介します。
著:窪 美澄
¥737 (2021/06/18 07:22時点 | Amazon調べ)
ポチップ
由人は東京でデザイナーとして働いている。そう聞くと華やかな世界に感じられるが、実際にはブラック企業に近い環境で、ありえない労働環境の中で限界を感じつつある。
子どもの頃、母親の関心は常に兄に向けられていた。身体の弱かった兄を献身的に介護することで、母親は自分の存在意義を見出していたのだ。祖母は由人に優しくしてくれたが、由人の方はどうにも祖母の愛情に飛び込んでいけない。専門学校時代に付き合い始めたミカとは、仕事が忙しすぎて別れてしまう。
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由人が働く会社の女社長である野乃花は、東京から遠く離れた漁港で生まれ育った。子どもの頃から天才的な絵の才能があり、家は貧乏だったが、担任の先生の伝手もあり、県議会議員の息子の英則から絵を教われることになった。
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正子は成長するに連れて、自分の母親の異様さに気づくようになる。子どもへの干渉が激しいのだ。そのせいで、友達を家に呼ぶこともできず、門限があるせいでそもそも友達を作ることも難しかった。
とあるきっかけから仲良くなった人がいるのだが、その関係もすぐに終わってしまうことになる。
由人・野乃花・正子の三人は、座礁したクジラを見に行くことになった。なぜだろう。打ち上げられたクジラに、どこにも行けない自分たちの姿を重ねてしまう。
クジラ対策に駆り出されている人の家に、しばらく泊めてもらうことになった3人は、そこで「疑似家族」のような生活を送るようになる……。
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それぞれが別の形をした絶望を背負いながら、騙し騙しどうにか生きてきた中で、なぜか呼び合うように人生が交わることになります。そして、座礁したクジラを見ながら、それぞれが別々の思いを抱きながら自分の問題を溶かしていく過程が、実に見事に描かれていきます。
彼らはもの凄く特殊な環境にいるわけではないでしょう。誰だって、由人・野乃花・正子のような人生を歩む可能性があったと思えるはずで、日常感覚から外れた状況に置かれているわけではありません。しかしそれでも、それなりに真面目に生きてきたはずなのに、どうほどいたらいいか分からないくらいこんがらがってしまっています。
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著:窪 美澄
¥737 (2022/02/03 23:17時点 | Amazon調べ)
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最後に
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一度転落してしまえばほぼ這い上がれない社会ではなく、失敗してもダメなことがあっても生まれた環境が辛くても、せめて「普通」ぐらいまでは当たり前に戻ってこられる社会であるといいなといつも願っています。
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苦しい・しんどい【本・映画の感想】 | ルシルナ
生きていると、しんどい・悲しいと感じることも多いでしょう。私も、世の中の「当たり前」に馴染めなかったり、みんなが普通にできることが上手くやれずに苦しい思いをする…
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