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本・映画の感想ブログ「ルシルナ」の中から、「読んでほしい記事」を一覧にしてまとめました。「ルシルナ」に初めて訪れてくれた方は、まずここから記事を選んでいただくのも良いでしょう。基本的には「オススメの本・映画」しか紹介していませんが、その中でも管理人が「記事内容もオススメ」と判断した記事をセレクトしています。
この記事で取り上げる本
著:読書猿
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この本をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- 「アイデアを生み出せる人になりたい」という動機がなくても知的興奮を味わえる1冊
- 「やり方」だけ学んだところで意味がない理由
- 「先入観」を乗り越えなければ「まだこの世界には存在しないもの」にはたどり着けない
『独学大全』で世間を騒がせた読書猿氏のデビュー作であり、凄まじい1冊
自己紹介記事
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『アイデア大全』は、「アイデアをいかに生み出すか」というHow Toを「人文書」として読ませる「読書猿」の凄技である
『独学大全』という本がある。読書猿氏の本だ。
著:読書猿
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それもあって、一層驚かされた。内容が、物凄く面白かったからだ。
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「アイデアを生み出せる人になりたい」という動機から本書を読むのももちろん良い。しかしそれだけではなく、「読むことで自分の頭を鍛える」という意味でも役立つだろう。「知の深さ」を実感できるだけではなく、「知に対してここまで掘り下げることができるのか」という驚きを感じることができる1冊だと思うからだ。
「やり方」だけを学んでも意味がない理由
著者はまえがきでこんな風に書いている。
本書は、<新しい考え>を生み出す方法を集めた道具箱であり、発想法と呼ばれるテクニックが知的営為の中でどんな位置を占めるかを示した案内書である。
このために、本書は実用書であると同時に人文書であることを目指している。
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このような趣旨で書かれた本にこれまで触れたことがなかったので、まずその”発想”に驚かされた。本書は、「『発想法』を網羅した実用書」でありながら、「『発想法』はいかに生まれ、どのように発展していったのかを示す人文書」でもある、というわけなのだ。
「発想法」の背景を知ることは、「発想すること」にも影響を与える。
「発想法」や「アイデアの生み出し方」といった内容の本は、世の中に数多く存在するし、私も書店員時代にそのような本をたくさん見てきた。
しかし、「やり方」だけ知っていればそれを使いこなせるだろうか? そんなはずはないだろうと思う。
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その話をするために、人工知能に関する「中国語の部屋」という有名な話を取り上げよう。これは、「人工知能には意識があるのか」について考えることの難しさを示すものとして知られている。
中国語を理解しない被験者をある部屋に閉じ込め、物凄く分厚いマニュアルを渡す。そのマニュアルには、「こういう中国語の文字列に対しては、この日本語の文字列を書いて渡せ」というような指示が山ほど書かれているとする。この部屋の外にいる中国人が、この部屋に「中国語を書いた紙」を入れると、部屋の中から「その中国語が日本語に翻訳された紙」が出てくるという仕組みだ。
このやり取りを何度も繰り返すことで、部屋の外にいる中国人は、「この部屋には中国語を理解する人がいる」と考えるだろう。しかし被験者は中国語を理解していないのだから、その受け取り方は間違いである。
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これは、「仮に人工知能とコミュニケーションが取れたとしても、人工知能に意識があるという証拠にはならない」ということを示す思考実験なのだが、このような考え方はもっと広く応用できるはずだ。
例えばアイデアの場合、「アイデアの生み出し方」だけ真似しても、そのやり方でアイデアを生み出している人と同じレベルに達するのは難しいだろう。「やり方」だけ理解して真似するのは、「中国語の部屋」の中にいる被験者のようなものでしかないからだ。
料理を作る場合、「さ・し・す・せ・その順番で調味料を入れる」と覚えるのではなく、「砂糖の分子は大きくて染み込むのに時間が掛かるので、分子が小さい塩などよりも先に入れる」と理解しておく方が応用が利くはずだ。
「やり方」だけではなく、その背景にまで踏み込むことの重要性について、著者はこんな風に書いている。
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これまでにない新しい考え(アイデア)を必要としている人は、できるのはわずかであったとしても現状を、大げさに言えば世界を変える必要に迫られている。そのために世界に対する自身のアプローチを変える必要にも直面している。
この場合、必要なのは、ただ<どのようにすべきか>についての手順だけでなく、そのやり方が<どこに位置づけられ、何に向かっているのか>を教える案内図であろう。それゆえに本書は、発想法(アイデアを生む方法)のノウハウだけでなく、その底にある心理プロセスや、方法が生まれてきた歴史あるいは思想的背景にまで踏み込んでいる
なるほど、確かにその通りだ。「アイデア」という時にイメージされるのは「既存の考えを打ち破る、あるいは既存の考えにはない斬新な発想」だろうし、つまりそれは「まだこの世界には存在しないもの」というわけだ。「まだこの世界には存在しないもの」を生み出そうとしているのだから、「世界に対する自身のアプローチ」を変えなければ目指す場所にたどり着けないと考えるのは当然だと言える。
また、このようなスタンスだからこそ著者は、例えば「占い」も「発想法」として扱っている。現在では「発想法」などとは考えられていない「占い」も、歴史を辿れば「『まだこの世界には存在しないもの』を生み出そうとして誕生した手法」だと分かるし、であれば「発想法」という位置づけも妥当だろうと思う。
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読書猿氏が目指す「人文書としての発想法」
このように著者は、「アイデアの生み出し方」を「人文書」として提示しようと試みるのだが、では著者はそもそも「人文書」をどのように捉えているのだろうか?
この人文学を支えるのは、人間についての次のような強い確信である。すなわち、人の営みや信じるもの、社会の成り立ちがどれだけ変わろうとも、人が人である限り何か変わらぬものがある、という確信の上に人文学は成立する。
この確信があるからこそ、たとえば何百年も昔の人が書き残した古典にも真剣に向かい合うことができ、何かしら価値のあるものを受け取るかもしれないと期待することができる。
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これもまた、とても力強い言葉だと言っていい。「人が人である限り何か変わらぬものがある」という言葉には、「博覧強記の読書家」と評される読書猿氏の深い信念が横たわっているようにも感じられる。
そして著者は、「何かしら価値のあるものを与えられるかもしれない」と考え、自身も「人文書」を執筆しているのだろう。我々は素直にその恩恵を享受しようではないか。
さて、「発想法」を学問的に捉える著者らしく、本書にはこんな注意書きがある。
発想法とは、新しい考え(アイデア)を生み出す方法であるが、アイデアを評価するにはあらかじめ用意しておいた正解と比較する方法がとれない。というのも正解をあらかじめ用意しておけるのであれば、新しいとはいえず、アイデアでなくなってしまうからだ。
このことは、文章理解や問題解決に比べて、発想法の実験的研究が遅れをとった原因でもある。
アイデアとそれを生み出す技術の評価は、結局のところ、実際にアイデアを生み出し実践に投じてみて、うまくいくかどうかではかるしかない。
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指摘していることは当然のことだと言えるだろう。「まだこの世界には存在しないもの」を「アイデア」と呼ぶのであれば、その「アイデア」が「正しい/意味がある」かどうかを何かと比較して判断することなどできない。そしてだからこそ、「発想法」もその良し悪しを判定することは困難である、というわけだ。
著者としては、良し悪しの判定ができないものは学問として不十分だ、という思いがあったのかもしれないし、だとすればこれも「人文書」を目指すが故のスタンスだと言えるが、さすがにそこまで求めるのは厳しすぎるというものだろう。
著者が言うように、自分で試してみてその「やり方」の良し悪しを判定してほしい。
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取り上げられる42の手法には触れないので是非本書を読んでほしい
ここまでの説明で理解していただけたと思うが、本書に書かれている「やり方」だけを学んだところであまり意味はない。数多ある「発想法」の本と大差ない読書体験になってしまうだけだろう。
本書では、その「発想法」の背景なども含めて理解することで、他の本からは得られない強い意味を見出すことができるようになる。だから、ここでは具体的な手法には触れない。是非本書を読んでほしい。
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全体の構成には触れておこう。
本書では42個それぞれの「発想法」について、「具体的なやり方」と「そのやり方から生み出された実際のアイデア」が紹介される。そしてその後で、その「発想法」がどのような経緯で生まれ、どんな背景を持っているのかが語られていくというわけだ。まさに”博覧強記”である著者の様々な「知」と結びつけながら、「アイデアをいかに生むか」という人類の歴史を広く深く掘り下げていく。
42個の手法すべてに共通するわけではないが、その多くが「いかに先入観を乗り越えるか」に焦点を当てている、と感じた。「先入観」とは、「まだこの世界には存在しないもの」を追い求める上で足枷でしかない。本書では、そのような足枷を強制的に、無意識の内に乗り越えさせるような手法が多く紹介されており、アイデアを生み出す上でいかにそれが障害となっているのかが理解できるだろうと思う。
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著:読書猿
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再びアイデアを考える環境に置かれれば重宝するだろうし、そうでなくとも時々は読み返す本になるだろう。デビュー作から、凄まじい本を放つものだと感じさせられた。
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