目次
はじめに
この記事で取り上げる本
著:デイヴィッド・イーグルマン, 翻訳:大田直子
¥1,078 (2021/11/17 06:19時点 | Amazon調べ)
ポチップ
この本をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- 「人間の限界」を知り、避けがたいエラーを回避するために本書を読むべき
- 我々の言動のほとんどは、「意識以外のもの」によって支配されている
- 犯罪行為」は「脳の異常」の証拠であり、責任を問うべきではない
「脳科学」の知見から、「人間とは何か?」という哲学的な問いに対する答えに近づこうとする
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本書は「脳」についての本だが、もう少し詳しく言えば「『意識』と『意識以外のもの』は我々の活動にどう関係しているのか」という内容である。
さてまず、言葉の使い方について注意書きをしておこう。この記事では「無意識」ではなく「意識以外のもの」という表記を使う。「無意識」と書くと、「『無意識」というものがあると私たちは意識できている』というようなニュアンスになるだろう。しかし本書の核となる主張は、「人間には『意識することが不可能な領域』が存在する」である。「無意識」という名前を与えてしまえば、「意識することが不可能」という感覚と少しずれてしまうだろう。
だからこそ「意識以外のもの」と表記する。意味的には一般的にイメージする「無意識」と同じようなものだと思ってもらっていいのだが、「その存在を、私たちは意識することができない」というのが決定的に重要だ。この点をきちんと捉えておいてほしい。
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本書では「意識以外のもの」が我々の思考や行動をどれほど支配しているのかが語られる。それは本当に驚くべき事実だ。
当たり前だが、私たちは「意識」しか意識できない(変な日本語だが、こう書くしかない)。だから「意識」が行う思考・判断が私たちの言動のほとんどを司っていると感じてしまうだろう。
しかし実際はそうではない。我々の言動のほとんどは「意識以外のもの」によって支配されているのだ。
本書はそのことを様々な事例から明らかにしていく作品でる。そしてなぜ本書を読むべきなのかと言えば、「人間の限界」を知っておく必要があるからだ。
以前『錯覚の科学』についての記事でも同じことを書いた。
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人間には避けられないエラーが存在し、それが錯覚を生み出し、そのせいで誤った言動を取ってしまうことがある。脳も「意識以外のもの」によって支配されているために、自分の「意識」でコントロールできる領域はごく僅かしかない。それは、避けられないエラーが存在するのと同じと言っていいだろう。
自分の言動は自分の意思でコントロールできる、と多くの人は思っているはずだが、脳科学の研究からそうではないということが分かっている。人類が抱え込んでしまっている宿命的なエラーを理解することで過ちを可能な限り避けることが大事なのだ。
本書を読んで、人間の限界がどこにあるのか正しく理解しよう。
人間はいかに「意識以外のもの」の存在を理解してきたのか?
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「我思う故に我あり」「人間は考える葦である」などが示唆するように、私たちは「思考する」ことによって特異な存在となっていった。そしてその「思考」を生み出すのが「脳」なのだから、「脳」を正しく理解しさえすれば、我々自身についての理解も進むはずだ、と考えたくなるだろう。
しかし、決してそうではない。
自分たちの回路を研究してまっさきに学ぶのは単純なことだ。すなわち、私たちがやること、考えること、そして感じることの大半は、私たちの意識の支配下にはない、ということである。ニューロンの広大なジャングルは、独自のプログラムを実行している。意識のあるあなた――朝目覚めたときにぱっと息づく私――は、あなたの脳内で生じているもののほんの小さなかけらにすぎない。人の内面は脳の機能に左右されるが、脳は独自に事を仕切っている。その営みの大部分に意識はアクセス権をもっていない。私は入る権利がないのだ
「私たちがやること、考えること、そして感じることの大半は、私たちの意識の支配下にはない」とはっきり書かれている。
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つまりこういうことだ。「脳」は「意識」と「意識以外のもの」を生み出すが、その中で「意識」が関わる領域はほんの僅かしかない。「脳」の機能の大半が「意識以外のもの」によって支配されているのだが、我々はその「意識以外のもの」へのアクセス権を持っていないのだ。「意識以外のもの」を理解できないのであれば、「脳」のほとんど理解できないことになる。
つまり「脳」を理解することなどできない、ということだ。
このことを、ホテルで喩えることができる。ホテルの一室を予約している場合、自分の部屋と、トイレや食堂、ロビーなど共有スペースを利用することができる。しかし他の部屋に入ることはできない。他の部屋に誰がいて、どんなことが行われているのかを知る余地はない。
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「脳」というのはこのホテルのようなものだ。自分が予約した部屋と共有スペースが「意識」であり、それ以外の入れないすべての部屋が「意識以外のもの」だ。そして、ホテルのほとんどの場所に入れないのと同じように、脳内のほとんど場所に「意識」はアクセス権を持たないのである。
二〇世紀半ばまでに思想家たちは、人は自分のことをほとんど知らないという正しい認識に到達した。私たちは自分自身の中心ではなく、銀河系のなかの地球や、宇宙の中の銀河系と同じように、遠いはずれのほうにいて、起こっていることをほとんど知らないのだ。
なかなかイメージできないが、現代科学ではこのように考えられている。
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「意識以外のもの」の存在を少しは感じてみる
それでは具体的な例を挙げて、「意識以外のもの」の存在を実感してみよう。
私はもう何年も運転をしていないが、車の運転をする人であれば、何か危険を察知して急ブレーキを踏むようなことがあるだろう。例えば子どもが飛び出してきたとしたら、あなたは咄嗟にブレーキを踏むはずだ。
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さてこの場合の自分の行動について少し振り返ってみてほしい。どのように「急ブレーキを踏む」という行動に至っているだろうか?
我々が何らかの行動を取る時、基本的には「何かをしよう」と「意識」してからそれを行うだろう。しかし、急ブレーキを踏む時に、そんなことをしているだろうか? 「子どもが飛び出してきたから危ない」と「意識」し、「急ブレーキを踏まなきゃ」と考えてからブレーキを踏んでいるだろうか?
そんなはずがないだろう。そういう時は、「急ブレーキを踏まなきゃ」などと頭の中で考えるよりも先に足が動きブレーキを踏んでいるはずだ。
「思考」よりも先に「行動」が起こっているのだから、これは「意識」の仕業ではない。となれば「意識以外のもの」が関わっていると考えるしかないだろう。
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もっと身近な事柄について検証を行ったこんな実験が知られている。
被験者は、「好きなタイミングで指を上げてください」と指示される。被験者の脳には電極がつけられており、被験者はその数値を見ることができる仕組みだ。そして、「『指を動かそう』と思った瞬間の数値を報告する」ように求められる。つまり、「指を動かそうと思ったタイミング」と「指を実際に動かしたタイミング」を同時に測定しようというのだ。
結果は、当然と言えば当然だが、「指を動かそうと思った」後で「実際に指を動かす行動」を取った。指を動かそうと思ってから4分の1秒後に指が動いたそうだ。
さて面白いのはここからだ。実は実験者は、被験者の脳波も同時に測定していた。つまり、「どのタイミングで脳内活動が生じるのか」を調べようというわけである。そしてその結果、「指を動かそうと思う」よりも前に「指を動かすための脳内活動が生じている」ということが分かったのだ。
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つまり順番としては、「指を動かすための脳内活動が生じる(意識以外のもの)」→「指を動かそうと思う(意識)」→「実際に指を動かす(行動)」ということになる。私たちが「指を動かそう」と「意識」するよりも先に、「意識以外のもの」が「指を動かすことを決めている」というわけなのだ。
信じられないかもしれないが、信じてもらうしかない。このような実験については別の本でも読んだことがあり、繰り返し検証されているようだ。
この実験結果を受け入れるとすれば、我々に「自由意志」など存在しないことになる。そして現代科学では、「人間に自由意志など存在しない」と結論が出ているのだ。
我々が「自分の意思」でしていると思っている言動は実は、我々の「意識」が生み出したものではないのであり、そうである以上、それは「自分の意思」によるものではない、ということになるのである。
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なぜ「意識以外のもの」がこれほど強いのか
科学は「意識」よりも「意識以外のもの」の方が重要であることを明らかにしてきたわけだが、しかしそのように進化してきたのは何故なのだろうか? それについてはこんな風に書かれている。
あなたの内面で起こることのほとんどがあなたの意識の支配下にはない。そして実際のところ、そのほうが良いのだ。意識は手柄をほしいままにできるが、脳のなかで始動する意思決定に関しては、大部分を傍観しているのがベストだ。わかっていない細かいことに意識が干渉すると、活動の効率が落ちる。ピアノの鍵盤のどこに指が跳ぼうとしているのか、じっくり考え始めると、曲をうまく弾けなくなってしまう
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これらのプログラムにアクセスできないのは、それが重要ではないからではなく、きわめて重要だからである。意識が干渉しても何も良くならない
子どもの頃、自転車に乗る練習をしたことだろう。初めは上手く乗れず、何度も失敗を繰り返すが、乗れるようになってくると、「自分がどんな風に自転車に乗っているのか」を意識しなくなる。そして、そうなる方が人間にとって良いというわけだ。意識しなければできないことが、意識しなくてもできるようになることで、より効率的に行えるようになる。むしろ、「どうやっているのか」を意識すると途端にやり方が分からなくなってしまうこともあるだろう。
考えずとも自転車に乗れるように「意識以外のもの」が複雑なプログラムを組んでいるのだが、その詳細を「意識」は知らない。知る必要がないし、知らない方がいいのだ。こういう仕組みがあるからこそ、人間はどんどんと複雑なことを行えるようになったのである。
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有名な話だと思うが、本書には「ヒヨコ雌雄鑑別士」の例が紹介されている。
ヒヨコのオス・メスの区別は非常に難しいとされているのだが、ある日本人が「肛門鑑別法」という手法を開発したことで的確に行えるようになり、世界中の人がそれを学んでいるという。
しかし非常に奇妙なことに、この「肛門鑑別法」を教えられる人は存在しないらしい。意味が分からないだろう。
プロの雌雄鑑別士は、ヒヨコの肛門を見ればオス・メスを区別できる。しかし、自分が肛門のどこを見て何を判断しているのかは伝えられない。とにかく見れば、オス・メスの区別だけが分かるのだ。
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だから、「肛門鑑別法」を伝授する際にも実践で行うしかない。実習生の後ろに指導者が立ち、実際に雌雄鑑別をやらせてみる。そして、指導者が正解・不正解を判別する内に、実習生も次第にオス・メスの区別ができるようになる、というのだ。
不思議な話ではないだろうか? 誰もヒヨコのオス・メスの違いを言葉では説明できない。これは、「意識」ではその差を理解することができない、ということを意味している。しかし実際にオス・メスの判断はできているのだから、「意識以外のもの」が何か差を感じ取り判別しているとしか考えられないだろう。
このように「意識以外のもの」が「意識」を凌駕することによって、複雑なことが行えるようになっているというわけなのだ。
「意識以外のもの」が強いことによる悪影響
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また、我々の行動が「意識以外のもの」に支配されているという点が、AIの開発の障害にもなっているという。
私たちは、「友人を識別する」「行きつけのバーの場所を思い出す」「小さな足先で上背のある身体のバランスをとって直立する」というようなことを、「意識」せずに行うことができる。これは、「意識以外のもの」が複雑なプログラムを組んで、自動的に行えるようにしてくれているからだ。そして「意識」はその複雑なプログラムにアクセスできない。
つまり我々は、上述のようなことをどのように実現しているのか理解していないし、理解していないからこそAIに学習させることも難しい、というわけなのだ。
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他にも本書では、「G婦人」と呼ばれる患者の例が載っている。脳のある箇所に損傷を負った女性だ。
こんな奇妙な状態に陥ることがある。
G婦人に鏡の前に座ってもらい、「両目を閉じて下さい」と指示する。G婦人はその指示に正確には従わず、片目だけ閉じ、もう一方は開けたままの状態だった。しかし彼女自身は、「両目を閉じる」という指示に従った、と自覚している。
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その後こんなやり取りが行われた。
「両方の目を閉じていますか?」
「はい」
「ご自分が見えますか?」
「はい」
私は穏やかに言った。「両目を閉じている場合、鏡のなかの自分が見えると思いますか?」
沈黙。結論は出ない。
「あなたは片目を閉じているように見えますか、それとも両目を閉じているように見えますか?」
沈黙。結論は出ない。
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G婦人の受け答えはまともではないが、彼女は決して嘘をついているわけではない。ではG婦人の中で何が起こっているのだろうか?
通常「脳」は、「いくつかの矛盾する情報」を処理する過程で「矛盾が発生しない現実」を選び取る。情報同士を比べて仲裁を行う仕組みが備わっているというわけだ。これは当然「意識」ではなく「意識以外のもの」が動かすシステムである。
しかしG婦人の「脳」では、この仲裁システムが正しく機能していない。だから、「両目を閉じている(と彼女は思っている)」と「鏡の中の自分が見える」という矛盾する情報が処理されず、現実を正しく認識することが出来ずに沈黙してしまうのだ。
G婦人は嘘をついているわけではない。本来働くべき仲裁システムが彼女の脳内では停止しているだけなのだ。
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脳の特定の部位に損傷を負ったこの女性の実例からも、「意識以外のもの」が普段どのような働きをしており、それ無しではいかに不都合が生じるかが理解できるだろう。
「意識以外のもの」に支配されている現実を踏まえた上で、犯罪者をどう扱うべきかを考える
さて本書は、基本的には「科学エッセイ」という趣きの作品なのだが、後半の大部分を占める「犯罪者の扱い方」に関するパートは社会問題を提起するような内容になっている。著者の主張に対しては議論百出だと思うが、無視せずに議題に載せるべき観点であると私は感じた。
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著者の基本となる主張はこうだ。
私が言いたいのは、どんな場合も犯罪者は、ほかの行動をとることができなかったものとして扱われるべきである、ということだ。現在測定可能な問題を指摘できるかどうかに関係なく、犯罪行為そのものが脳の異常性の証拠と見なされるべきだ
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「測定可能な問題を指摘できるかどうか」について補足しておこう。現在でも「精神鑑定」などによって、責任能力の有無を判定する手続きが存在する。この手続きは要するに、「脳に障害を持つ人物なので、刑事罰を与えるのに適切ではない」という判断を行うということだ。
そして「脳に障害を持つかどうか」という判定について、「測定可能な問題を指摘できるかどうか」と言及している。精神鑑定の現場においてどのような手順で判定が行われるのか私は知らないが、何らかの基準があり、それに則って判定が行われるのだろう。しかしその「基準」は、測定技術の向上や医学の新たな知見によっても変化するはずだ。つまり、今は指摘できなくても、100年後には「障害あり」と判定されるかもしれない、ということだ。
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そういう意味で著者は、「現在測定可能な問題を指摘できるかどうかに関係なく」という表現をしている。そして、個別に障害の有無を判定して刑事責任を問えるか判断するのではなく、すべての犯罪者が「犯罪行為を行ったという理由で、脳に異常が存在すると判断されるべき」だと主張しているというわけである。
著者は、
したがって、有責性を問うのはまちがっていると思われる。
とも書いている。
この主張に対しては、受け入れがたいと感じる人が多いだろう。現在でさえ、「精神鑑定で責任能力なしと判定されること」に対して何かモヤモヤしたものを感じてしまう人は結構いるのではないかと思う。著者はそれを一気に拡大させ、「犯罪者は全員脳の異常なのだから責任を問うのは誤りだ」と主張しているのだ。なかなか過激な言い分だと言っていいだろう。
ただし、著者が犯罪者をどう扱おうとしているのかという提言を知ると、少し印象は変わるかもしれない。
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裁判官席の前に引き出された脳には複雑きわまりない過去があるかもしれないが、最終的に私たちが知りたいのは、人が将来どういう行動をとる可能性があるか、それだけだ
この観点に対しては、確かにその通りだと感じないだろうか?
私たちは、それが当たり前だと思っているので、「過去の犯罪行為に対して罰則を課す」という思考に慣れてしまっているが、本当に重要なのは、「その犯罪者が再び犯罪を行うかどうか」だろう。そして犯罪者を隔離して罰を与えるだけでは、その犯罪者の「脳」は変わりようがない。
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「犯罪行為」が「脳の異常」を示す証拠であるならば、犯罪者に対しては「脳の矯正」が検討されるべきだろう。そして「そうやって将来的に犯罪行為に手を染めない『脳』に変える方が社会全体にとっても有益ではないか」という主張には説得力があると感じた。
もちろん、言うのは簡単だが実行は難しい。「脳を適切に矯正する」などということが本当に実現できるのか分からないし、何より著者も指摘している通り、市民感情を無視するわけにはいかない。犯罪者に対して「許せない」「罰が与えられて当然だ」という感情はどうしても湧き出てしまうし、それを無視して「脳の機能」の話だけに帰着させるわけにはいかないだろう。
とはいえ、合理的に考えれば「犯罪者に罰を与える」よりは「二度と犯罪を行わない『脳』に変える」方が社会に対するプラス効果は大きいはずだし、「脳科学」の知見が社会を大きく変革するアプローチともなるだろう。実現はしなさそうだが、アイデアとしては非常に興味深いと感じた。
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しかし一方で、「意識以外のもの」に決断や選択のほとんどを委ねるシステムを構築したお陰で、人間は人間らしい営みを行えるのだとも実感できる内容だ。
「人間とは何か?」という、本来は哲学の領域だったはずの問いは、「脳」という不可思議な器官についての知見が増えることで科学の領域へと移ってきた。果たしてその科学は、我々が意識することができない「意識以外のもの」について、どこまで斬り込んでいくことができるだろうか?
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『重力とはなにか』(大栗博司)は、科学に馴染みの薄い人でもチャレンジできる易しい入門書だ。相対性理論や量子力学、あるいは超弦理論など、非常に難解な分野を基本的なところから平易に説明してくれるので、「科学に興味はあるけど難しいのはちょっと……」という方にこそ読んでほしい1冊
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