【革命】電子音楽誕生の陰に女性あり。楽器ではなく機械での作曲に挑んだ者たちを描く映画:『ショック・ド・フューチャー』

目次

はじめに

この記事で取り上げる映画

出演:アルマ・ホドロフスキー, 出演:フィリップ・ルボ, 出演:クララ・ルチアーニ, 出演:ジェフリー・キャリー, Writer:マーク・コリン, 監督:マーク・コリン

この映画をガイドにしながら記事を書いていきます

この記事の3つの要点

  • 一度知ってしまえば、「知らなかった自分」にはもう戻れない
  • 「オタク感」を強く感じさせる主人公・アナの雰囲気がとても良い
  • ざらっとした画質や、基本的に部屋の中で展開される構成など、設定そのものからもテーマが滲み出る

全体的にとても雰囲気の良い映画で、特別何が起こるわけでもない物語に惹きつけられてしまう

自己紹介記事

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「未来の音楽」を目指した女性たちの奮闘を描く映画『ショック・ド・フューチャー』から、「新しいものが生み出される瞬間」を体感する

私たちは、「知らない自分」に戻ることはできない

この映画で描かれるのは「未来の音楽」だ。しかしそれは同時に、私たちにとって聞き馴染みのある音楽でもある。というのも、この映画で描かれる「未来の音楽」は「電子音楽」だからだ。

「電子音楽」、つまり「楽器を使わない音楽」は私たちの日常に溢れている。私には音楽の経験がないので詳しくは分からないが、最終的に楽器で演奏する場合でも、作曲時は楽器を使わないという人もいるのではないかと思う。「音楽の作り方」は根本的に変わったのだ

私たちはもう「電子音楽」を知ってしまった。それ故に、「電子音楽」が人々に与えた影響を実感することはできない。「『電子音楽』が当たり前の世界」に生きているからだ

以前、映画『七人の侍』を観た時のことを思い出す

出演:三船敏郎, 出演:志村喬, 出演:稲葉義男, 出演:宮口精二, 出演:千秋実, 出演:加東大介, 出演:木村功, 出演:津島恵子, Writer:黒澤明, Writer:橋本忍, Writer:小国英雄, 監督:黒澤明, クリエイター:本木荘二郎
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監督・黒澤明監督 主演・三船敏郎」ぐらいの知識しかないまま映画館で観たので、途中で休憩があったことにも驚かされた。そんなに長い映画だとさえ知らなかったのだ。

『七人の侍』を観て私は、「この映画の何が凄いのだろうか?」と感じた。正直、評価されている理由がまったく理解できなかったのだ。しかしその後何かで、「私たちが知っている『映画の当たり前』を作ったのが『七人の侍』だ」という話を耳にして納得した。私たちは、『七人の侍』が起こした革命に続く世界に生きている。『七人の侍』が、「映画の当たり前」を平準化したのだ。だから『七人の侍』の凄さがイマイチ分からなかったのだろうと納得したのである。

映画『ショック・ド・フューチャー』の中で、主人公のアナが「楽器を使わない音楽」を巡って、プロデューサーとやり合う場面はとても印象的だった

アナは、「電子音楽が世界を変える」と力説する。ロックは衰退するのだと。これからロックは、ジャズと同じように富裕層がソファで聞く遺物のような音楽になるのだから、ロックミュージシャンは、汚いライブハウスに籠もってないで、大自然に機材を置いてもっと音響を体感できるようにしたらどう? そんな風に、年配の男性プロデューサーに詰め寄るのだ。

しかしプロデューサーは、「大自然の中でロボットが音楽を奏でるって、そんなライブ誰が来るっていうんだ」とバカにする。電子的に音楽を作るだけで、ロボットは関係ないのだが、それさえ理解できないでいるのだ。

ただ、時代が大きく動く時というのはそういうものだろう。「YouTuber」も「ボーカロイド」も「歌い手」も「eスポーツ」も、今では社会の中で一定以上の地位を得ていると思うが、一昔前はまったくそんなことはなかったはずだ。多くの人から「何それ?」「それのどこがいいの?」「全然理解できない」みたいに言われながらも、自分が「良い」と思う未来を信じて突き進んだことで、新しい時代が切り開かれたのである

そして、そう考えた時、今私たちが「何それ?」「それのどこがいいの?」「全然理解できない」と感じているものが、次の時代を作っていくのだろうと思う。

今よりももっと変化が緩やかで、同時に、偏見や男女差別が酷かった時代。そんな時代に、「電子音楽」の可能性を信じて突き進んだ「女性先駆者」たちの日常に、もしかしたら”あったかもしれない”「とある1日」を描いた映画である。

映画『ショック・ド・フューチャー』の内容紹介

舞台となるのは、1978年のパリ。この街でアナは、たった1人巨大な装置と向き合って「新しい音楽」を創り出そうとしていた

インドに行ったきり長いこと帰ってこない友人ミシェルの部屋をそのまま借りているアナは、その部屋にある巨大なシンセサイザーで曲作りをしている。プロデューサーが「コックピット」と呼ぶほどの大きさで、壁面を埋め尽くしていた。彼女は、ミシェルの友人だというそのプロデューサーからCM曲を頼まれており、数カ月間部屋に籠もりきりで作業しているのだが、なかなかピンと来るものが創れないでいる。既に締め切りはとうの昔に過ぎており、プロデューサーから「明日には絶対に納品しなければならない」と厳命されている、そんな1日の物語だ

アナは朝からハッパを吸いまくり、巨大なシンセサイザーの配線を繋ぎ直したりしながらあれこれ構想を練るのだが、やはり上手くいかない。その内にシンセサイザーが故障してしまい、作曲どころではなくなってしまう。仕方なく、とりあえず修理のために技術者に来てもらったのだが、アナはついていた。なんとその技術者が「リズムマシン ROLAND CR-78」を持っていたのである。500フランもする、パリに3台しかないという日本製の高級品だ。アナはひと目で気に入り、頼むからちょっとだけ貸してほしいと懇願する。

というのも今日、アナが主催するパーティーに、音楽界の大物がやってくる予定だからだ。元々は作ったCM曲をそこで流してアピールするつもりだったが、こんなとんでもない代物が手に入ったらもうCM曲なんか作ってる場合じゃない。アナはプロデューサーに「CM曲は作れない」と断りを入れた。そしてリズムマシンをフル活用して、頭の中からどうにか「未来の音楽」を引きずり出そうとする……

映画『ショック・ド・フューチャー』の感想

結構好きな映画だった。なんというか、特にこれと言って何も起こっていない場面でも画的に引力のある、物語ではない何かで飽きさせないように作られている映画なのだと思う。

先に書いておくと、アナに特定のモデルがいるわけではないそうだ。映画の最後に、電子音楽の黎明期を支えた女性作曲家の名前がずらりと表示される。つまりこの映画は、「彼女たちが過ごした”かもしれない”1日」を映し出しているということだろう。

電子音楽の先駆者に女性が多かった理由は、恐らく、既存の音楽のほとんどが男性に占められていたからだろう。女性アーティストもいただろうが、アナとプロデューサーのやり取りからもなんとなく、「音楽は男のものだ」という雰囲気が感じられるし、アナも「美人なんだから歌手になれば?」と言われてしまう。なにかにつけて「女だから」と言われることに嫌気が差したアナが、「男なら締切に遅れないわけ?」と問うと、自信を持って「そうだ」と答える始末だ。

そしてだからこそ、既存の世界に安住しようとする男性は電子音楽を批判し、なんとか音楽に関わろうとする女性は電子音楽の世界に飛び込んでいったのだと思う。このように、ジェンダー的な観点からも捉えられる作品だ

映画全体としては、やはりアナの存在感がとても良かった絶妙な「オタク感」が出ているのだ。とても美人だと思うし、パーティーに参加するために化粧した姿は別人かと思うほど綺麗だったが、普段の「メガネを掛けてヘッドホンをしている姿」が、「とにかく作曲にしか興味がない」という雰囲気を強く醸し出していてすごく良い。外見を取り繕ったり、社交的に振る舞ったりすることよりも、どうやって音楽を生み出すかにしか興味がない、というわけだ。そういう雰囲気は、この映画のストーリーにとても合っていた。

映画は、下着にTシャツを着ただけのアナが、ハッパを吸い、ゴロゴロしたり、音楽に合わせてストレッチしたりする場面から始まる。しばらくそのまま、特に何も起こらない。しかし、外見を含めたアナのキャラクターが、観客を飽きさせないのだと私は感じた。私だけの感覚かもしれないが、アナにはどことなく、何もしていなくても視線を集めてしまうような力がある

また、物語の9割近くがアナの部屋で展開される構成も興味深い。そこまで意図しているのか分からないが、部屋から出ないアナの姿は、「後に才能が認められるが、今はまだ時代のあれこれに絡め取られていること」「『電子音楽』という新しい扉が開かれる直前の時代であること」を示唆しているようにも感じられた。アナは決して「閉じ込められている」わけではないが、そこはかとない閉塞感みたいなものが時代の雰囲気を象徴しているようにも見えるのだ

映像的にも興味深い点があった。フィルムで撮影した昔の映画のような、ざらっとした質感の映像になっているのだ。画質そのものからも「古さ」みたいなものを感じさせることで、レコードやカセットテープ全盛の時代から電子音楽へと変わっていく過渡期であることを示しているとも感じた。さらにこのざらっとした質感が、アナの魅力をより引き立てているようにも思う。

とにかく、様々な要素を組み合わせることで、とても雰囲気の良い作品に仕上がっていると感じた。

出演:アルマ・ホドロフスキー, 出演:フィリップ・ルボ, 出演:クララ・ルチアーニ, 出演:ジェフリー・キャリー, Writer:マーク・コリン, 監督:マーク・コリン

最後に

何も起こらないと言えば何も起こらない映画なのだが、なんだか惹かれる部分のある作品だった。普段音楽を聞く習慣がなく、もちろん作曲などしたこともない私には遠い世界の話なのだが、新しいものが生み出される直前の熱気みたいなものは伝わるし、なかなか魅力的な映画だと思う。

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