【感想】B級サメ映画の傑作『温泉シャーク』は、『シン・ゴジラ』的壮大さをバカバカしく描き出す

目次

はじめに

この記事で取り上げる映画

「温泉シャーク」公式HP
いか

この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ

この記事で伝えたいこと

日本発の「超B級サメ映画」を堪能してみて下さい

犀川後藤

不思議だけど、「サメ映画」だけは何故か、低クオリティの作品も受け入れられている印象があります

この記事の3つの要点

  • 「他人に勧めたくなる”酷さ”」に満ちた、超バカバカしい「サメ映画」が爆誕
  • 「軟骨魚類」「ロレンチーニ器官」などサメの性質を絶妙に利用した設定が見事
  • ある意味で『シン・ゴジラ』的と言っていいような壮大な展開を、超低予算で仕上げているところも面白い
犀川後藤

クラウドファンディングで「1支援につき1匹、登場するサメを増やす」とアピールしたなんて話も興味深かったです

自己紹介記事

いか

どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください

超B級サメ映画『温泉シャーク』は、良い意味で”メチャクチャ酷い”映画で、そのぶっ飛んだバカバカしさが面白かった

「人に勧めたくなる”酷い”映画」を観に行ったのは、「サメ映画好きの友人」がいたから

ホントに、超絶クソ酷い&面白い映画でした(褒めてるつもりです!) 本作『温泉シャーク』は本当に、「人に話したくなる」「人に勧めたくなる」要素が詰まっているように思います。予算の問題もあるはずですが、それ以上に「酷いなぁ!」ってツッコまれるのを待ってるみたいな描写が多く、「酷い!」というのが褒め言葉になる珍しいタイプの映画だと感じました。

犀川後藤

かなりふざけ倒してる感じだもんなぁ

いか

でもメチャクチャ面白かったよね!

しかも本作は、最終的に映画『シン・ゴジラ』みたいな展開になっていきます。「何言ってんだ?」って感じでしょう。どんな話なのかは是非映画を観てほしいですが、「低予算映画でこんな展開にしたら、そりゃあ”酷く”もなるわ」という感じの物語で、そのバカバカしさには称賛の気分さえ抱かされました

ただ、ストーリー自体は結構ちゃんと作っていて、随所に「あの描写は、この展開のための伏線だったのか」みたいな要素が出てきます。しかも、「サメを倒すため」という理由でとんでもなく壮大な展開になっていくこともあり、設定やストーリーだけ抜き出したら『シン・ゴジラ』的と言えるんじゃないかと(まあさすがに、人物描写的な部分は弱いですが)。特に物語後半、なかなかの窮地に陥った面々が「なるほどそんな風に状況を打破していくのか!」というやり方で困難を突破していく感じはなかなか面白かったなと思います。

犀川後藤

褒めすぎかな?

いか

ちょっとね(笑)

さて、普段の私なら恐らく本作『温泉シャーク』を観ていません。「ドキュメンタリー」や「実話を基にしたフィクション」をメインで観ている私には、ちょっと守備範囲外の作品という感じです。にも拘らず観ようと考えたのには、ある友人の存在が関係しています彼女は「サメ映画が好き」らしく、しかも「Z級のサメ映画」が大のお気に入りだと言っていました。B級やC級ではなくZ級だそうで、とにかく「凄まじくクオリティの低いサメ映画」が好きなのだそうです。

彼女とは普段そこまで連絡を取り合う感じではないので、「『今話題のサメ映画』を観てきたよ』と連絡するために本作を観てみた」みたいなところはあります。そんな動機で観た映画が思いのほか面白かったのでちょっと得した気分になりました。

いか

結構変わってる子だよね

犀川後藤

もうちょっと頻繁に連絡を取る感じになれるといいんだけど、なかなか

さて映画の世界には、「洋画が全体的に面白く感じられるのは、クソみたいな洋画が太平洋を渡って来ないからだ」みたいな話があったりしますが、しかし「サメ映画」に限ってはそうではないようです。その友人も「Z級」と表現するような凄まじく低レベルな「サメ映画」を結構観ているそうで、「サメ映画だけはクソ映画も太平洋を渡ってくる」のだとか。ただ、ネットで調べると、「それでも日本で観られるサメ映画はまだマシな方だ」なんて話もあったりします

まあそんなわけで、映画『温泉シャーク』の公開情報を目にした時にその友人のことを思い出し、「これは観るしかないだろう」と足を運んだ次第です。ちなみに、私は公開2日目に観に行ったのですが、私が観た回は満員でした。劇場の券売機でチケットを買おうとしていた老夫婦が「えっ? 売り切れなの?」と残念そうに言っていたので間違いありません。また、かなりのロングラン上映だったようです。クラウドファンディングを利用した低予算映画としては、かなり健闘していると言えるのではないでしょうか。

いか

さすがに、昔大ヒットした映画『カメラを止めるな!』みたいにとは行かなそうだけどね

犀川後藤

『カメラを止めるな!』は例外中の例外だから比較するのは難しいけど

映画『温泉シャーク』の内容紹介

物語の舞台となるのは、「東洋のモナコ」と評される暑海市。現在、市長の万巻貫一が私財を投じて「スパリゾート暑海」という温泉施設を建設中で、観光客のさらなる誘致を目指している。目玉は、日本一だという「高さ120mの露天風呂」。なんとそこからバンジージャンプも楽しめるという。建設には建築用3Dプリンタを導入し、工期の大幅な短縮を目指していた。

しかしその一方で、暑海市には解決すべき喫緊の課題がある。理解しがたい怪事件が多発していたのだ。1つは、サメに食いちぎられたと思われる死体が度々浜辺で発見されること。そしてもう1つは、こちらも度々、温泉宿から宿泊客が消えることである。温泉から姿を消した者たちの服はロッカーに預けられたままになっていた。となれば、「裸のまま宿から姿を消した」ことになる。しかし、周辺の防犯カメラをいくら捜索しても、消えた人物はまったく映っていなかったのだ。

ただしばらくして、署長の束伝兵衛の“鋭い”推理により、2つの事件にある関連が見つかった。というのも、「温泉宿から失踪した人物」と「サメに食われ海岸に打ち上がった死体」が同一人物だと判明したのである。しかしそれが分かったところで何か進展するわけではない。彼らの足取りがまったく掴めない以上、どのようにして温泉宿から姿をくらまし、どこでサメに襲われたのかは不明なままなのだ。その後も警察は捜査を続けるが、手がかりは一向に見つからなかった

一方市民は、「住民がサメに襲われている」などと知られれば観光客数に影響すると考え、対策に乗り出す「インフルエンサーを集め、サメ退治の様子を発信してもらう」というPRを兼ねた企画も行ったのだが、より現実的な対策として、城南大学からサメの専門家を招集してもいたのだ。しかしなんと、その専門家もまた温泉宿から姿を消し、サメに食われた状態で発見されてしまった。そんなわけで、サメ対策の白羽の矢が立ったのは、サメに襲われて死亡した教授の研究室に所属している海洋生物学博士・巨勢真弓である。

彼女は残された歯型を見て、「現生種のものとは一致しない」、つまり「現在知られている限りの種とは異なる歯型を持つサメ」だと判断した。さらに、「サメは軟骨魚類であり、歯以外の化石が残ることはまずないくらい身体が柔らかいこと」「古代種に属するあるサメが温かい海に好んで生息していたこと」などを踏まえ、あるとんでもない仮説を導き出すのだが……。

「サメの知識を上手く利用した設定」と、「ムチャクチャとしか言いようがない状況・人物の設定」

映画は、始まって10秒ぐらいで早くもサメが登場し、その後しばらくの間、「暑海市の現状や登場人物の説明」などがかなりコンパクトに描写されていきます。その中で、暑海市で起こっている事件についても説明されるのですが、その時点で観客は「温泉宿から失踪した人がサメに食われているんだ」という繋がりを理解するはずです。しかし作中では、「一体何がどうなってるのかわからん!」みたいな反応がしばらく続き、その後ようやく、「温泉の中でサメに襲われている」という仮説が導かれることになります。

いか

ただ観客も、この時点ではまだ「どうしてサメが温泉までやって来れるのか?」については分からないよね

犀川後藤

まあその説明もムチャクチャで面白いんだけど

さて、「温泉の中でサメに襲われている」というのはさすがに荒唐無稽に過ぎる状況設定だと感じるでしょう。ただこの辺りにはちゃんと、サメの生態を活かした説明がなされていました。先述した通り、サメは「軟骨魚類」で、歯以外の身体の組織が基本的にとても柔らかいという特徴を有しています。そしてこれが、「源泉から温泉にお湯を引く細い配管の中をサメが自在に移動している」という説明に繋がるわけです。まあもちろん「そんなわけないだろ!」という設定なんですが、ただ「サメに食われた者の死因」なんかもそれらしく設定していて、整合性は取れています。また別の場面でも、サメが持っている「ロレンチーニ器官」を使って理屈を通そうとしていました。ムチャクチャな展開ではあるけれども、ちゃんと辻褄を合わせようとしているところが良かったです。

というわけで、前半は「状況設定」と「『事件の真相』が明らかになるまでの流れ」が描かれるわけですが、後半に入ると一気に「パニック映画」的な話になっていきます。これが映画『シン・ゴジラ』っぽい展開というわけです。『シン・ゴジラ』では「自衛隊や米軍の攻撃がすべて無意味だった」ために、最終的に「巨災対」という寄せ集め集団に託されることになったわけですが、本作も大雑把に言えばそんな感じの展開になっていきます。しかも、暑海市がパニックに陥ってから「あぁもうダメだ!」みたいな状況に行き着くまで、私の体感では2~3分しかありませんでした。早すぎる。そしてそんな絶望的な状況から、「えっ? あなたたちだけで何とかしようとしてるわけ?」みたいな展開になっていくのです。このスピード感もなかなか面白かったなと思います。

いか

しかし、何度も名前を出してはいるものの、『シン・ゴジラ』とは全然違うよね

犀川後藤

そりゃそうだ(笑)

さらにそこからも、それまで作中に出てきた様々な要素が「伏線回収」的に登場するので、「なかなか上手いこと物語を作ってるものだなぁ」と感じました。

また、役者の演技に関しては、最初から期待していなかったというか、一般的な商業映画と比べればそりゃあ劣るという感じです。ただ、予算など様々な理由で「CGを含め、チープにしか作れない」ことが分かっていたはずなので、むしろ「チープさ」を強調するような作り方をしたんじゃないかと思います。だとすれば、「演技の拙さ」もまた「チープさを強調する要素」と捉えることが可能になるわけで、作品全体としてはむしろプラスと言ってもいいかもしれません。まあこの辺りは捉え方次第ではありますが。

さて本作には、「マッチョ」という人物が登場します。エンドロールでも「マッチョ」と表記されていました。そしてこの「マッチョ」がとにかく意味不明な存在で、それでいて随所で笑いをかっさらっていくのです。実に奇妙な存在でした。本作は「サメ」が主人公の映画と言っていいでしょうが、最優秀助演男優賞を選ぶとしたら「マッチョ」になるかもしれません

いか

割と早くに出てくるんだけど、最初から意味わかんないよね

犀川後藤

後半になるとさらに意味不明になってくるからなぁ

「マッチョ」はある種の「人外」的な存在として描かれていて、そんな「マッチョ」と共に「サメを撲滅する」という無謀な戦いに挑んでいくのです。普通に考えれば「マッチョ」のようなキャラクターは受け入れがたいでしょうが、本作は、あらゆる場面で「荒唐無稽さ」が染み出しているので、「マッチョ」の存在が際立っておかしくは映らないし、だから成立しているのだと思います。エンドロール直前のシーンも「マッチョ」がメインで描かれるし、まさかあんな場面で笑わされるとは思いませんでした

そんなわけで、まあとにかく変な映画で、「B級サメ映画」としてとても優れていると感じました。

最後に

本作はクラウドファンディングを利用して制作されたのですが、その中に、「1支援ごとに登場するサメが1匹増える」というプランがあったみたいです。そんなわけで最終的に、432匹ものサメが登場する作品になりました。楽しく作っているのが伝わってくるエピソードだし、だから観客も面白がって鑑賞できる作品に仕上がったのではないかと思います。

なかなかにふざけ倒した作品ではありますが、ストーリーそのものはかなりちゃんと作られている感じがするし、ディテールにこだわらなければかなり面白く観られる作品と言っていいでしょう。

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