目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
監督:萩原健太郎, Writer:吉田玲子, 出演:眞栄田郷敦, 出演:高橋文哉, 出演:板垣李光人, 出演:桜田ひより
¥500 (2025/03/14 22:57時点 | Amazon調べ)
ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
この記事で伝えたいこと
「生きてる実感」を抱きつつ生きられるのは素敵なことだと思う
しかしそれは同時に、「『抜け出せない沼』にハマり続ける人生」でもある
この記事の3つの要点
- 「生きてる実感」を得られずにいた高校生が、「絵」に引きずり込まれるようにして人生が激変していく過程を鮮やかに描き出す
- 「『好き』を突き詰めざるを得ない者たち」の葛藤もリアルに映し出されていく
- 藝大入試まで620日しかない中で受験を決断した主人公・矢口八虎は、他の人と比べて何に優れていたのか?
私のように芸術・アートに詳しくない人間でも惹き込まれる「情熱の物語」だった
自己紹介記事
あわせて読みたい
ルシルナの入り口的記事をまとめました(プロフィールやオススメの記事)
当ブログ「ルシルナ」では、本と映画の感想を書いています。そしてこの記事では、「管理者・犀川後藤のプロフィール」や「オススメの本・映画のまとめ記事」、あるいは「オススメ記事の紹介」などについてまとめました。ブログ内を周遊する参考にして下さい。
あわせて読みたい
【全作品読了・視聴済】私が「読んできた本」「観てきた映画」を色んな切り口で分類しました
この記事では、「今まで私が『読んできた本』『観てきた映画』を様々に分類した記事」を一覧にしてまとめました。私が面白いと感じた作品だけをリストアップしていますので、是非本・映画選びの参考にして下さい。
どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
最難関・東京藝術大学の入試に挑む若者たちを描く映画『ブルーピリオド』は、「生きてる実感が得られない人生」を吹き飛ばす爽快さがある
「『生きてる実感』が抱ける人生」を生きられるなんて羨ましいなと思う
ここ数年、毎年「藝祭」に行っています。東京藝術大学の学園祭です。藝大から割と近いところに住んでいることもあり、毎年金曜日にわざわざ有休を取り、学生たちが神輿を担いでいる姿を見学しています。その後、もちろん構内の展示も眺め、「若者たちの活気と芸術に触れる一日」として有意義に過ごしているのです。
あわせて読みたい
【アート】「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」(森美術館)と「美術手帖 Chim↑Pom特集」の衝撃から「…
Chim↑Pomというアーティストについてさして詳しいことを知らずに観に行った、森美術館の「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」に、思考をドバドバと刺激されまくったので、Chim↑Pomが特集された「美術手帖」も慌てて買い、Chim↑Pomについてメッチャ考えてみた
何なら、あのお神輿の練り歩きに付いて歩いてる時間は、1年の中でもかなりテンションの上がる瞬間なんだよなぁ
どうしてそうなるのか分からないけど、なんかウキウキしちゃうよね
まあ、だからと言って別に、「芸術・アートのことが理解できる」などと言いたいわけではありません。むしろ、「全然分からない側の人間」だと思います。というかむしろ、「『よく分からないなー』という感覚を得るために芸術・アートに触れている」とさえ言ってもいいでしょう。美術展などにも時折足を運びますが、やはり「全然分からん」という感じだし、そして「それで全然良い」と個人的には思っているのです。
ただ、芸術・アートそのものはよく分かっていないものの、様々な作品に触れることで毎回感じることがあります。それは、「この作者は、この作品・表現に自らの人生を注ぎ込んでいるんだ」ということです。そして私はいつも、そのことに強く羨ましさを感じています。
あわせて読みたい
【革新】天才マルタン・マルジェラの現在。顔出しNGでデザイナーの頂点に立った男の”素声”:映画『マル…
「マルタン・マルジェラ」というデザイナーもそのブランドのことも私は知らなかったが、そんなファッション音痴でも興味深く観ることができた映画『マルジェラが語る”マルタン・マルジェラ”』は、生涯顔出しせずにトップに上り詰めた天才の来歴と現在地が語られる
42歳にもなって、未だに「人生面白くないなぁ」ってずっと思ってるよね
子どもの頃から、この感覚がしがみついて離れないから困る
そして本作『ブルーピリオド』の主人公・矢口八虎も、割と似たような感覚を抱いているのです。
あの青い絵を描くまで、生きてる実感が持てなかった。
今、俺の心臓は動き出した気がした。
傍目には、彼の人生はとても充実しているように見えるでしょう。友人たちと毎晩のように渋谷でオールしてから学校に行き、大した勉強もしていないのに学年で4位という好成績を保っています。また、普段つるんでいる仲間以外のクラスメートたちとも上手くやっているみたいです。こういう言い方は好きではありませんが、かなり「勝ち組」的な生き方だと言っていいように思います。
あわせて読みたい
【驚嘆】映画『TAR/ター』のリディア・ターと、彼女を演じたケイト・ブランシェットの凄まじさ
天才女性指揮者リディア・ターを強烈に描き出す映画『TAR/ター』は、とんでもない作品だ。「縦軸」としてのターの存在感があまりにも強すぎるため「横軸」を上手く捉えきれず、結果「よく分からなかった」という感想で終わったが、それでも「観て良かった」と感じるほど、揺さぶられる作品だった
しかし実際には、彼は「あまりの手応えの無さ」に絶望していました。八虎にとっては、「成績を上げること」も「友人との会話」も「ノルマをクリアする」みたいな感覚にしかなれず、そのあまりのつまらなさ故、高校生にして既に陰鬱な気分に沈んでいたのです。ある意味では、「優秀すぎるが故の退屈さ」みたいにも言えるかもしれません。
特に現代のような、「『与えられるもの』が安価で、それで十分楽しめてしまう世界」では余計にね
さて、私も八虎のような感覚は結構よく分かります。子どもの頃からずっと、「あー退屈」と思いながら生きてきたからです。確かに時々、「あ、もしかしたらこれなのか?」みたいに感じることもありました。「これこそが注力すべきことなのか?」みたいな感覚です。ただ、どうやら錯覚だったみたいで、結局この年になるまでずっと「生きている実感」らしきものに出会えたことはありません。
あわせて読みたい
【逃避】つまらない世の中で生きる毎日を押し流す”何か”を求める気持ちに強烈に共感する:映画『サクリ…
子どもの頃「台風」にワクワクしたように、未だに、「自分のつまらない日常を押し流してくれる『何か』」の存在を待ちわびてしまう。立教大学の学生が撮った映画『サクリファイス』は、そんな「何か」として「東日本大震災」を描き出す、チャレンジングな作品だ
なので、創作でもスポーツでも何でもいいのですが、「『そういう何か』に出会えている人」に羨ましさを感じてしまうのです。
八虎が衝動に突き動かされたのは「絵」でした。そして彼は、母親から「食べていけないでしょ」と言われようが、「自分より上手い奴はいくらでもいる」と常に自覚させられながら進まざるを得なかろうが、「空っぽの自分」を突きつけられるようなしんどい道だろうが、「これだ!」という確信と共に力強く進み続けるのです。
ホントに、「そういう何か」に出会えているのっていいよなぁ
「すべての人に『そういう何か』がちゃんと備わってるのかな?」って考えちゃうよね
もちろん、八虎が歩む道は遠く険しいだろうし、そのことは理解しているつもりですが、それでも、「『そういう何か』に突き動かされたい」と思うし、そういう意味で、八虎にも羨ましさを感じてしまいました。
あわせて読みたい
【希望】貧困の解決は我々を豊かにする。「朝ベッドから起きたい」と思えない社会を変える課題解決:『…
現代は、過去どの時代と比べても安全で清潔で、豊かである。しかしそんな時代に、我々は「幸せ」を実感することができない。『隷属なき道』をベースに、その理由は一体なんなのか何故そうなってしまうのかを明らかにし、さらに、より良い暮らしを思い描くための社会課題の解決に触れる
「好き」を突き詰めざるを得ないユカちゃん
さて、そんな風に「『好き』を突き詰めることに全力疾走する八虎」のような人物が描かれる一方で、本作には「『好き』を突き詰めたのに上手く行かなかった人物」も出てきます。
そもそも、本作が描き出す世界にいるのは、そんな人間ばかりだと言っていいでしょう。というのも、矢口八虎が目指す東京藝術大学絵画科は「日本一倍率が高い」と言われているからです。
東京藝術大学絵画科の倍率はなんと200倍。毎年5人程度の合格者枠を1000人ほどの受験生が争うというわけです。この事実を踏まえれば、毎年995人もの「『好き』を突き詰めたのに上手くいかなかった人」が生み出まれると言えるでしょう。しかも、絵画科だけでこの数字なのです。他の科も含めたら、東京藝術大学を目指す者たちは”死屍累々”と言ったところだと思います。
あわせて読みたい
【実話】さかなクンの若い頃を描く映画『さかなのこ』(沖田修一)は子育ての悩みを吹き飛ばす快作(主…
映画『さかなのこ』は、兎にも角にものん(能年玲奈)を主演に据えたことが圧倒的に正解すぎる作品でした。性別が違うのに、「さかなクンを演じられるのはのんしかいない!」と感じさせるほどのハマり役で、この配役を考えた人は天才だと思います。「母親からの全肯定」を濃密に描き出す、子どもと関わるすべての人に観てほしい作品です
しかし本作では、そういう「試験を突破できなかった」のとはまた違う形で、「『好き』を突き詰めたのに上手くいかなかった人」が描かれていました。その人物は、鮎川龍二。学校に女子の制服を着て登校していて、学校では「ユカちゃん」と呼ばれています。そして映画の冒頭、彼はその服装について教師から注意を受けるのですが、「私は自分のルールを守る」と言ってその注意をひらりとかわしていたのです。
特に私は、原作漫画を読まずに実写映画だけ観てるから余計にって感じ
彼の振る舞いは一見すると「反抗的な態度」にしか見えないでしょう。しかし物語を追っていく内に、徐々にそうではないことが分かってくるだろうと思います。彼はむしろ、「『好きを突き詰めること』で自分を守っている」のです。女子の制服を着て登校するのもその1つで、彼にとってはある種の「鎧」なのだと思います。
あわせて読みたい
【天才】タランティーノ作品ほぼ未見で観た面白ドキュメンタリー。映画に愛された映画オタクのリアル
『パルプ・フィクション』しか監督作品を観たことがないまま、本作『クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男』を観たが、とても面白いドキュメンタリー映画だった。とにかく「撮影現場に笑いが絶えない」ようで、そんな魅力的なモノづくりに関わる者たちの証言から、天才の姿が浮かび上がる
ユカちゃんについてはあまり詳しく描かれないのですが(映画はあくまでも矢口八虎に焦点が当たる構成です)、「『美しいもの』が大好きで、自分も『美しいもの』として存在したい」みたいに考えていることは間違いないでしょう。そして、彼のそんなスタンスは、家族にはまったく理解されていないようです。同級生からは受け入れられているものの、教師は彼のことを許容していないし、ユカちゃん自身も「自分は世間に広く受け入れられる存在ではない」と自覚しています。
そして、そんなしんどい世界で自分を守りながら生きていくために、彼は「『好き』を突き詰めざるを得ない」のです。
ホントにいつも、「他人に迷惑を掛けていないなら好きにさせてくれればいいのに」って思ってる
そういうことを言うと、「視界に入ると不愉快で、私には迷惑なんだ」みたいな屁理屈をこねる奴が出てきたりするんだけどね
あわせて読みたい
【評価】のん(能年玲奈)の映画『Ribbon』が描く、コロナ禍において「生きる糧」が芸術であることの葛藤
のん(能年玲奈)脚本・監督・主演の映画『Ribbon』。とても好きな作品だった。単に女優・のんが素晴らしいというだけではなく、コロナ禍によって炙り出された「生きていくのに必要なもの」の違いに焦点を当て、「魂を生き延びさせる行為」が制約される現実を切り取る感じが見事
このように本作では、「全然違う形で『好き』を突き詰めようとする人物」が描かれます。それは決して、この2人に限りません。例えば、八虎が入部する美術部の先輩である森まるは、「私は好きなものしか描けないから、入試で作品の持ち込みが可能な美大を選んだ」みたいに言っていました。東京藝術大学の場合は、試験会場でお題が出され、その場で絵を描かなければなりませんが、「好きなものしか描けない」彼女には向いていないため、「好き」の方を優先したというわけです。あるいは、美大専門の予備校で出会った高橋世田介は、「『努力』と『戦略』で藝大入試を突破しようとしている八虎」に向かって、「芸術じゃなくても良かったくせに」と”嫌味”を言っていました。恐らく、「お前なんかより自分の方が、遥かに芸術を『好き』だぞ」と訴えたかったのだと思います。
本作はこんな風に「『好き』に囚われた者たち」を描き出す物語であり、そのややこしさを存分に詰め込んだ作品だと言えるでしょう。
「何かに突き動かされたい」って気持ちがあるのはホントなんだけど、でも「囚われるのはやっぱ嫌だな」とも思っちゃう
ほど良い距離感で……なんてわけには行かないだろうから、二律背反だよね
本作を観ていると、「『そういう何か』に出会えること」が幸せに繋がるのか、よく分からなくなってきます。出会ってしまったら最後、底なし沼のように抜けられなくなってしまうようにも思うからです。もちろん、それが「熱中している」ということなんでしょうが、「絵」に情熱を注ぐ彼らの姿を見ていると、「やっぱり自分には無理かー」という気にもなってきます。
あわせて読みたい
【評価】高山一実の小説かつアニメ映画である『トラペジウム』は、アイドル作とは思えない傑作(声優:…
原作小説、そしてアニメ映画共に非常に面白かった『トラペジウム』は、高山一実が乃木坂46に在籍中、つまり「現役アイドル」として出版した作品であり、そのクオリティに驚かされました。「現役アイドル」が「アイドル」をテーマにするというド直球さを武器にしつつ、「アイドルらしからぬ感覚」をぶち込んでくる非常に面白い作品である
私は今、彼らの側には立っていないので、結局のところ「隣の芝生が青く見えている」に過ぎないのでしょう。それでもやはり、退屈さに倦んでいた八虎の変化を見てしまうと、「彼らの側」が羨ましく思えるしまうこともまた確かです。
突然藝大を目指すことに決めた主人公が持っている「覚悟」
さて、そんな「『好き』に囚われた者たち」の中で、八虎が特に優れていた要素は一体何だったのでしょうか?
「いやいや無理でしょ!」をねじ伏せる何かを八虎が持っていないと物語が成立しないんだよなぁ
八虎は高校2年まで、「絵」とは無縁の生活をしていました。しかし、美術の時間に自ら描いた「青い絵」によって芸術の世界に引きずり込まれ、藝大受験までたった620日という地点から努力を始めたのです。繰り返しますが、彼が目指す絵画科の倍率は200倍にも達します。3浪4浪は当たり前の世界です。そんな狭き門を目指すことにした理由はシンプルで、「家庭の事情」でした。「国公立以外に通わせる余裕はない」と親から言われていたのです。であれば、芸術系の大学で唯一の国公立である東京藝術大学しか選択肢はありません。そんな理由で、「それまで絵など描いたことがない高校生」が、たったの620日間で200倍を突破しようというのが本作の物語なのです。
あわせて読みたい
【感想】才能の開花には”極限の環境”が必要か?映画『セッション』が描く世界を私は否定したい
「追い込む指導者」が作り出す”極限の環境”だからこそ、才能が開花する可能性もあるとは思う。しかし、そのような環境はどうしても必要だろうか?最高峰の音楽院での壮絶な”指導”を描く映画『セッション』から、私たちの生活を豊かにしてくれるものの背後にある「死者」を想像する
では、そんな八虎には一体、どんな「優れた点」があったのでしょうか?
そもそもですが、「何も知らなかったが故の強さ」みたいなものがあったことは間違いないでしょう。芸術の世界とは縁がなかった彼には、「東京藝術大学の頂きの高さ」が上手く理解できてはいなかったはずです。そしてその上で彼は、美術教師の佐伯や先輩の森から、「決して才能だけの世界じゃない」みたいなことを言われてもいました。「才能」で合否が決するなら、八虎はそもそも藝大を目指しはしなかったはずです。しかし「才能だけではない」と言われたことで、「自分にもチャンスはある」と思い込むことが出来たのだと思います。
それにしても、倍率200倍ってことは当然知ってたはずだから、よく踏み出したものだなって思うよね
高橋世田介みたいに「才能」に圧倒的な自信があるならともかく、八虎にはちょっと無謀すぎるよなぁ
さらにその上で、彼には「ずっと手を動かし続けられる」という才能がありました。もちろんこれは、「620日間しかないのだから、そうせざるを得なかった」と表現する方が正しいのかもしれません。しかし、どれだけ好きなことだとしても、気力・体力・メンタルなど様々な要因から「手を動かし続けられない状況」に陥ることはあると思います。八虎にしても、受験までの日々を疾走する中で、メンタルが大きくやられていたこともあったはずです。
あわせて読みたい
【実話】映画『イミテーションゲーム』が描くエニグマ解読のドラマと悲劇、天才チューリングの不遇の死
映画『イミテーションゲーム』が描く衝撃の実話。「解読不可能」とまで言われた最強の暗号機エニグマを打ち破ったのはなんと、コンピューターの基本原理を生み出した天才数学者アラン・チューリングだった。暗号解読を実現させた驚きのプロセスと、1400万人以上を救ったとされながら偏見により自殺した不遇の人生を知る
まあ、そりゃあメンタルもやられるでしょう。親からは「私立には行かせられない」と言われているし、さらに「浪人は避けてほしい」という雰囲気も感じる中で「倍率200倍」に挑もうとしているわけです。また、いくら「才能だけの世界じゃない」と信じて進んだ道だとしても、受験に至る過程で「圧倒的な才能を持つ者たち」とも関わるわけで、自身の実力の無さに落ち込みもします。さらに八虎は「目の前にあるモノしか描いたことがない」ため、予備校で出された「縁」というお題に苦労してもいました。そんな時には、自分の引き出しの無さ、底の浅さみたいなものに打ちのめされもしたでしょう。
「自分の出来なさ」に直面させられるのはホント嫌だよね
まあ、そんなこと言ってる人間は、「創作」の世界ではやっていけないんだろうなって思うけど
しかし八虎は、そんな状況でも「手を動かし続ける」ことだけは止めませんでした。これはある種の「才能」と言っていいでしょう。そしてユカちゃんは、そんな八虎に対して「覚悟」という言葉を使っていました。「藝大は、お前のように『覚悟』を決めた人間が行くべき場所だ」と。この言葉は逆説的に、「才能があったとしても、『覚悟』が無ければ藝大の壁を突破できない」とも読み替えられるでしょう。そして、予告編でも使われていましたが、八虎は「俺は天才じゃない。だから、天才と見分けがつかなくなるぐらいまでやるしかない」と考えているし、まさにこれこそが八虎の「覚悟」なのだろうと思います。
あわせて読みたい
【天才】諦めない人は何が違う?「努力を努力だと思わない」という才能こそが、未来への道を開く:映画…
どれだけ「天賦の才能」に恵まれていても「努力できる才能」が無ければどこにも辿り着けない。そして「努力できる才能」さえあれば、仮に絶望の淵に立たされることになっても、立ち上がる勇気に変えられる。映画『マイ・バッハ』で知る衝撃の実話
そんな八虎の姿は、「努力が才能に打ち克つ可能性」をリアルに信じさせてくれるし、そんなところもグッと来るポイントに感じられました。
映画としては正直物足りなさを感じたが、「原作を読みたい」と思わせる作品であることは確か
さて、そんなわけで色々と書いてきましたが、正直なところ、実写映画版『ブルーピリオド』は、メチャクチャ良いとは言い難い作品かなと思います。その理由ははっきりしていて、2時間じゃ足りないからです。個人的にはやはり、勇気を持って前後編にすべきだったと思います。興行的に前後編にするハードルがあることは理解しているつもりですが、やはり2時間で描くにはちょっと無理がある物語でしょう。せめて2時間半ぐらいにはすべきだったように思います。
あわせて読みたい
【評価】映画『ゴジラ-1.0』(山崎貴監督)は面白い!迫力満点の映像と絶妙な人間ドラマ(米アカデミー…
米アカデミー賞で視覚効果賞を受賞した映画『ゴジラ-1.0』(山崎貴監督)は、もちろんそのVFXに圧倒される物語なのだが、「人間ドラマ」をきちんと描いていることも印象的だった。「終戦直後を舞台にする」という、ゴジラを描くには様々な意味でハードルのある設定を見事に活かした、とても見事な作品だ
さすがにちょっと、物語が駆け足で進みすぎた感じがある
そもそも私は、主人公の矢口八虎に対してさえ、「もう少し掘り下げた方が良いのでは?」と感じました。さらに本作には、鮎川龍二(ユカちゃん)、森まる、高橋世田介と、主役級の存在感を持つ人物が出てくるわけで、当然彼らの描き方も「浅い」という印象になります。ユカちゃんはそれでも描かれている方だと思いますが、森まると高橋世田介は「それだけしか出てこないの?」と感じたくらいで、ちょっともったいない気がしました。私は原作漫画を読んでいませんが、恐らく使えるエピソードはたくさんあるでしょう。なので、全体的にもう少し深堀りした物語であってほしかったなと思います。
ただ、「そう感じたからこその話」ではあるのですが、逆に言えば「原作を読みたくなる映画」とは言えるでしょう。観れば「面白い世界観の物語だ」ということはもちろん伝わるので、「じゃあ原作を読んでみよう」みたいになる人は多かったんじゃないかと思います(まあ普通は、原作を読んだ人が映画を観に行くのかもしれませんが)。私は普段から漫画を読む機会がないので、恐らく実際には本作も読むことはないでしょうが、「何か機会があれば読んでみよう」ぐらいには考えているところです。
あわせて読みたい
【考察】『うみべの女の子』が伝えたいことを全力で解説。「関係性の名前」を手放し、”裸”で対峙する勇敢さ
ともすれば「エロ本」としか思えない浅野いにおの原作マンガを、その空気感も含めて忠実に映像化した映画『うみべの女の子』。本作が一体何を伝えたかったのかを、必死に考察し全力で解説する。中学生がセックスから関係性をスタートさせることで、友達でも恋人でもない「名前の付かない関係性」となり、行き止まってしまう感じがリアル
現実的には、「漫画喫茶に行ったら」みたいな感じになるかな
あとは、なかなかそんな機会もないけど、「友人宅に行って、本棚に並んでたら」とかね
そんなわけで、もしも本作が「観た人に『原作を読みたい』と思わせること」に主眼を置いて作られたとすれば、それは成功していると言っていいと思います。まあでも、「映画を作る人が、そんな思惑で映画制作するとは思えないよなぁ」みたいに感じたりもするし。その辺りの「制作側の意図」次第で、作品の評価がちょっと揺れる気もします。
監督:萩原健太郎, Writer:吉田玲子, 出演:眞栄田郷敦, 出演:高橋文哉, 出演:板垣李光人, 出演:桜田ひより
¥500 (2025/03/14 23:00時点 | Amazon調べ)
ポチップ
あわせて読みたい
【全作品視聴済】私が観てきた映画(フィクション)を色んな切り口で分類しました
この記事では、「今まで私が観てきた映画(フィクション)を様々に分類した記事」を一覧にしてまとめました。私が面白いと感じた作品だけをリストアップしていますので、是非映画選びの参考にして下さい。
最後に
さて本作は、「絵を描くシーンを吹き替え無しで行った」ことでも注目されています。主役級の人物を演じた眞栄田郷敦、高橋文哉、桜田ひより、板垣李光人は、超一流の指導者に教えてもらいながら、「プロが見ても違和感を与えない動き」を叩き込まれたそうです。
あわせて読みたい
【あらすじ】天才とは「分かりやすい才能」ではない。前進するのに躊躇する暗闇で直進できる勇気のこと…
ピアノのコンクールを舞台に描く『蜜蜂と遠雷』は、「天才とは何か?」と問いかける。既存の「枠組み」をいとも簡単に越えていく者こそが「天才」だと私は思うが、「枠組み」を安易に設定することの是非についても刃を突きつける作品だ。小説と映画の感想を一緒に書く
私自身は全然詳しくないので、彼らの手の動かし方を見ても「本物っぽい」みたいに感じられるわけではないのですが、こういう外的な情報を知った上で観ることで、より一層「圧倒的なリアリティ」を感じられるんじゃないかと思います。中でも板垣李光人は、自身もアート作品を発表するアーティストの一面もあるため、天才として描かれる「高橋世田介」役がしっくりきていたなと感じました。
しかしホント、こういう話を聞く度に、「役者ってのは凄いな」って思うよね
医師やピアニストの動きを習得するみたいな、「役を演じる」ための努力は本当に凄まじい
あと、「ユカちゃん」を演じた高橋文哉の脚が細くてメチャクチャ驚いたのですが、なんと8kgも減量して撮影に臨んだそうです。根性だなぁ。
あわせて読みたい
Kindle本出版しました!「文章の書き方が分からない」「文章力がないから鍛えたい」という方にオススメ…
「文章の書き方」についてのKindle本を出版しました。「文章が書けない」「どう書いたらいいか分からない」「文章力を向上させたい」という方の悩みを解消できるような本に仕上げたつもりです。数多くの文章を書き、さらに頼まれて文章を推敲してきた経験を踏まえ、「文章を書けるようになるにはどうしたらいいか」についての私なりの考えをまとめました。
次にオススメの記事
あわせて読みたい
【才能】映画『トノバン』が描く、「日本の音楽史を変えた先駆者・加藤和彦」のセンス良すぎる人生(「♪…
「♪おらは死んじまっただ~」が印象的な『帰って来たヨッパライ』で知られる加藤和彦の才能と魅力を余す所なく映し出すドキュメンタリー映画『トノバン』を観て、まったく知らなかった人物の凄まじい存在感に圧倒されてしまった。50年以上も前の人だが、音楽性や佇まいなどを含め、現代でも通用するだろうと思わせる雰囲気が凄まじい
あわせて読みたい
【現在】ウーマンラッシュアワー村本大輔がテレビから消えた理由と彼の”優しさ”を描く映画:『アイアム…
「テレビから消えた」と言われるウーマンラッシュアワー・村本大輔に密着する映画『アイアム・ア・コメディアン』は、彼に対してさほど関心を抱いていない人でも面白く観られるドキュメンタリー映画だと思う。自身の存在意義を「拡声器」のように捉え、様々な社会問題を「お笑い」で発信し続ける姿には、静かな感動さえ抱かされるだろう
あわせて読みたい
【興奮】超弩級の韓国映画『THE MOON』は、月面着陸挑戦からの遭難・救出劇が凄まじい(出演:ソル・ギ…
韓国映画『THE MOON』は「月に取り残された宇宙飛行士を救助する」という不可能すぎる展開をリアルに描き出す物語だ。CGを駆使した圧倒的な映像体験だけではなく、「5年前の甚大な事故を契機にわだかまりを抱える者たち」を絶妙に配することで人間関係的にも魅せる展開を作り出す、弩級のエンタメ作品
あわせて読みたい
【感想】映画『ルックバック』の衝撃。創作における衝動・葛藤・苦悩が鮮やかに詰め込まれた傑作(原作…
アニメ映画『ルックバック』は、たった58分の、しかもセリフも動きも相当に抑制された「静」の映画とは思えない深い感動をもたらす作品だった。漫画を描くことに情熱を燃やす2人の小学生が出会ったことで駆動する物語は、「『創作』に限らず、何かに全力で立ち向かったことがあるすべての人」の心を突き刺していくはずだ
あわせて読みたい
【SDGs】パリコレデザイナー中里唯馬がファッション界の大量生産・大量消費マインド脱却に挑む映画:『…
映画『燃えるドレスを紡いで』は、世界的ファッションデザイナーである中里唯馬が、「服の墓場」と言うべきナイロビの現状を踏まえ、「もう服を作るのは止めましょう」というメッセージをパリコレの場から発信するまでを映し出すドキュメンタリー映画である。個人レベルで社会を変革しようとする凄まじい行動力と才能に圧倒させられた
あわせて読みたい
【幻惑】映画『フォロウィング』の衝撃。初監督作から天才だよ、クリストファー・ノーラン
クリストファー・ノーランのデビュー作であり、多数の賞を受賞し世界に衝撃を与えた映画『フォロウィング』には、私も驚かされてしまった。冒頭からしばらくの間「何が描かれているのかさっぱり理解できない」という状態だったのに、ある瞬間一気に視界が晴れたように状況が理解できたのだ。脚本の力がとにかく圧倒的だった
あわせて読みたい
【実話】さかなクンの若い頃を描く映画『さかなのこ』(沖田修一)は子育ての悩みを吹き飛ばす快作(主…
映画『さかなのこ』は、兎にも角にものん(能年玲奈)を主演に据えたことが圧倒的に正解すぎる作品でした。性別が違うのに、「さかなクンを演じられるのはのんしかいない!」と感じさせるほどのハマり役で、この配役を考えた人は天才だと思います。「母親からの全肯定」を濃密に描き出す、子どもと関わるすべての人に観てほしい作品です
あわせて読みたい
【憧憬】「フランク・ザッパ」を知らずに映画『ZAPPA』を観て、「この生き様は最高」だと感じた
「フランク・ザッパ」がミュージシャンであることさえ禄に知らない状態で私が映画『ZAPPA』を観た私は、そのあまりに特異なスタンス・生き様にある種の憧憬を抱かされた。貫きたいと思う強い欲求を真っ直ぐ突き進んだそのシンプルな人生に、とにかくグッときたのだ。さらに、こんな凄い人物を知らなかった自分にも驚かされてしまった
あわせて読みたい
【価値】レコードなどの「フィジカルメディア」が復権する今、映画『アザー・ミュージック』は必見だ
2016年に閉店した伝説のレコード店に密着するドキュメンタリー映画『アザー・ミュージック』は、「フィジカルメディアの衰退」を象徴的に映し出す。ただ私は、「デジタル的なもの」に駆逐されていく世の中において、「『制約』にこそ価値がある」と考えているのだが、若者の意識も実は「制約」に向き始めているのではないかとも思っている
あわせて読みたい
【あらすじ】声優の幾田りらとあのちゃんが超絶良い!アニメ映画『デデデデ』はビビるほど面白い!:『…
幾田りらとあのちゃんが声優を務めた映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』は、とにかく最高の物語だった。浅野いにおらしいポップさと残酷さを兼ね備えつつ、「終わってしまった世界でそれでも生きていく」という王道的展開を背景に、門出・おんたんという女子高生のぶっ飛んだ関係性が描かれる物語が見事すぎる
あわせて読みたい
【斬新】映画『王国(あるいはその家について)』(草野なつか)を観よ。未経験の鑑賞体験を保証する
映画『王国(あるいはその家について)』は、まず経験できないだろう異様な鑑賞体験をもたらす特異な作品だった。「稽古場での台本読み」を映し出すパートが上映時間150分のほとんどを占め、同じやり取りをひたすら繰り返し見せ続ける本作は、「王国」をキーワードに様々な形の「狂気」を炙り出す異常な作品である
あわせて読みたい
【実話】英国王室衝撃!映画『ロスト・キング』が描く、一般人がリチャード3世の遺骨を発見した話(主演…
500年前に亡くなった王・リチャード3世の遺骨を、一介の会社員女性が発見した。映画『ロスト・キング』は、そんな実話を基にした凄まじい物語である。「リチャード3世の悪評を覆したい!」という動機だけで遺骨探しに邁進する「最強の推し活」は、最終的に英国王室までをも動かした!
あわせて読みたい
【映画】『キャスティング・ディレクター』の歴史を作り、ハリウッド映画俳優の運命を変えた女性の奮闘
映画『キャスティング・ディレクター』は、ハリウッドで伝説とされるマリオン・ドハティを描き出すドキュメンタリー。「神業」「芸術」とも評される配役を行ってきたにも拘わらず、長く評価されずにいた彼女の不遇の歴史や、再び「キャスティングの暗黒期」に入ってしまった現在のハリウッドなどを切り取っていく
あわせて読みたい
【映画】『街は誰のもの?』という問いは奥深い。「公共」の意味を考えさせる問題提起に満ちた作品
映画『街は誰のもの?』は、タイトルの通り「街(公共)は誰のものなのか?」を問う作品だ。そしてそのテーマの1つが、無許可で街中に絵を描く「グラフィティ」であることもまた面白い。想像もしなかった問いや価値観に直面させられる、とても興味深い作品である
あわせて読みたい
【改革】改修期間中の国立西洋美術館の裏側と日本の美術展の現実を映すドキュメンタリー映画:『わたし…
「コロナ禍」という絶妙すぎるタイミングで改修工事を行った国立西洋美術館の、普段見ることが出来ない「裏側」が映し出される映画『わたしたちの国立西洋美術館』は、「日本の美術展」の問題点を炙り出しつつ、「『好き』を仕事にした者たち」の楽しそうな雰囲気がとても魅力的に映るドキュメンタリー
あわせて読みたい
【天才】映画音楽の発明家『モリコーネ』の生涯。「映画が恋した音楽家」はいかに名曲を生んだか
「映画音楽のフォーマットを生み出した」とも評される天才作曲家エンリオ・モリコーネを扱った映画『モリコーネ 映画が恋した音楽家』では、生涯で500曲以上も生み出し、「映画音楽」というジャンルを比べ物にならないほどの高みにまで押し上げた人物の知られざる生涯が描かれる
あわせて読みたい
【伝説】映画『ミスター・ムーンライト』が描くビートルズ武道館公演までの軌跡と日本音楽への影響
ザ・ビートルズの武道館公演が行われるまでの軌跡を描き出したドキュメンタリー映画『ミスター・ムーンライト』は、その登場の衝撃について語る多数の著名人が登場する豪華な作品だ。ザ・ビートルズがまったく知られていなかった頃から、伝説の武道館公演に至るまでの驚くべきエピソードが詰まった1作
あわせて読みたい
【天才】タランティーノ作品ほぼ未見で観た面白ドキュメンタリー。映画に愛された映画オタクのリアル
『パルプ・フィクション』しか監督作品を観たことがないまま、本作『クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男』を観たが、とても面白いドキュメンタリー映画だった。とにかく「撮影現場に笑いが絶えない」ようで、そんな魅力的なモノづくりに関わる者たちの証言から、天才の姿が浮かび上がる
あわせて読みたい
【驚嘆】映画『TAR/ター』のリディア・ターと、彼女を演じたケイト・ブランシェットの凄まじさ
天才女性指揮者リディア・ターを強烈に描き出す映画『TAR/ター』は、とんでもない作品だ。「縦軸」としてのターの存在感があまりにも強すぎるため「横軸」を上手く捉えきれず、結果「よく分からなかった」という感想で終わったが、それでも「観て良かった」と感じるほど、揺さぶられる作品だった
あわせて読みたい
【偉業】「卓球王国・中国」実現のため、周恩来が頭を下げて請うた天才・荻村伊智朗の信じがたい努力と…
「20世紀を代表するスポーツ選手」というアンケートで、その当時大活躍していた中田英寿よりも高順位だった荻村伊智朗を知っているだろうか?選手としてだけでなく、指導者としてもとんでもない功績を残した彼の生涯を描く『ピンポンさん』から、ノーベル平和賞級の活躍を知る
あわせて読みたい
【挑戦】手足の指を失いながら、今なお挑戦し続ける世界的クライマー山野井泰史の”現在”を描く映画:『…
世界的クライマーとして知られる山野井泰史。手足の指を10本も失いながら、未だに世界のトップをひた走る男の「伝説的偉業」と「現在」を映し出すドキュメンタリー映画『人生クライマー』には、小学生の頃から山のことしか考えてこなかった男のヤバい人生が凝縮されている
あわせて読みたい
【伝説】やり投げ選手・溝口和洋は「思考力」が凄まじかった!「幻の世界記録」など数々の逸話を残した…
世界レベルのやり投げ選手だった溝口和洋を知っているだろうか? 私は本書『一投に賭ける』で初めてその存在を知った。他の追随を許さないほどの圧倒的なトレーニングと、常識を疑い続けるずば抜けた思考力を武器に、体格で劣る日本人ながら「幻の世界記録」を叩き出した天才の伝説と実像
あわせて読みたい
【欠落】映画『オードリー・ヘプバーン』が映し出す大スターの生き方。晩年に至るまで生涯抱いた悲しみ…
映画『オードリー・ヘプバーン』は、世界的大スターの知られざる素顔を切り取るドキュメンタリーだ。戦争による壮絶な飢え、父親の失踪、消えぬ孤独感、偶然がもたらした映画『ローマの休日』のオーディション、ユニセフでの活動など、様々な証言を元に稀代の天才を描き出す
あわせて読みたい
【感想】湯浅政明監督アニメ映画『犬王』は、実在した能楽師を”異形”として描くスペクタクル平家物語
観るつもりなし、期待値ゼロ、事前情報ほぼ皆無の状態で観た映画『犬王』(湯浅政明監督)はあまりにも凄まじく、私はこんなとんでもない傑作を見逃すところだったのかと驚愕させられた。原作の古川日出男が紡ぐ狂気の世界観に、リアルな「ライブ感」が加わった、素晴らしすぎる「音楽映画」
あわせて読みたい
【あらすじ】映画化の小説『僕は、線を描く』。才能・センスではない「芸術の本質」に砥上裕將が迫る
「水墨画」という、多くの人にとって馴染みが無いだろう芸術を題材に据えた小説『線は、僕を描く』は、青春の葛藤と創作の苦悩を描き出す作品だ。「未経験のど素人である主人公が、巨匠の孫娘と勝負する」という、普通ならあり得ない展開をリアルに感じさせる設定が見事
あわせて読みたい
【評価】のん(能年玲奈)の映画『Ribbon』が描く、コロナ禍において「生きる糧」が芸術であることの葛藤
のん(能年玲奈)脚本・監督・主演の映画『Ribbon』。とても好きな作品だった。単に女優・のんが素晴らしいというだけではなく、コロナ禍によって炙り出された「生きていくのに必要なもの」の違いに焦点を当て、「魂を生き延びさせる行為」が制約される現実を切り取る感じが見事
あわせて読みたい
【対立】パレスチナとイスラエルの「音楽の架け橋」は実在する。映画『クレッシェンド』が描く奇跡の楽団
イスラエルとパレスチナの対立を背景に描く映画『クレッシェンド』は、ストーリーそのものは実話ではないものの、映画の中心となる「パレスチナ人・イスラエル人混合の管弦楽団」は実在する。私たちが生きる世界に残る様々な対立について、その「改善」の可能性を示唆する作品
あわせて読みたい
【無謀】園子温が役者のワークショップと同時並行で撮影した映画『エッシャー通りの赤いポスト』の”狂気”
「園子温の最新作」としか知らずに観に行った映画『エッシャー通りの赤いポスト』は、「ワークショップ参加者」を「役者」に仕立て、ワークショップと同時並行で撮影されたという異次元の作品だった。なかなか経験できないだろう、「0が1になる瞬間」を味わえる“狂気”の映画
あわせて読みたい
【貢献】社会問題を解決する2人の「社会起業家」の生き方。「豊かさ」「生きがい」に必要なものは?:『…
「ヤクの毛」を使ったファッションブランド「SHOKAY」を立ち上げ、チベットの遊牧民と中国・崇明島に住む女性の貧困問題を解決した2人の若き社会起業家の奮闘を描く『世界を変えるオシゴト』は、「仕事の意義」や「『お金』だけではない人生の豊かさ」について考えさせてくれる
あわせて読みたい
【人生】日本人有名プロゲーマー・梅原大吾の名言満載の本。「努力そのものを楽しむ」ための生き方とは…
「eスポーツ」という呼び名が世の中に定着する遥か以前から活躍する日本人初のプロゲーマー・梅原大吾。17歳で世界一となり、今も一線を走り続けているが、そんな彼が『勝ち続ける意志力』で語る、「『努力している状態』こそを楽しむ」という考え方は、誰の人生にも参考になるはずだ
あわせて読みたい
【感想】才能の開花には”極限の環境”が必要か?映画『セッション』が描く世界を私は否定したい
「追い込む指導者」が作り出す”極限の環境”だからこそ、才能が開花する可能性もあるとは思う。しかし、そのような環境はどうしても必要だろうか?最高峰の音楽院での壮絶な”指導”を描く映画『セッション』から、私たちの生活を豊かにしてくれるものの背後にある「死者」を想像する
あわせて読みたい
【妄執】チェス史上における天才ボビー・フィッシャーを描く映画。冷戦下の米ソ対立が盤上でも:映画『…
「500年に一度の天才」などと評され、一介のチェスプレーヤーでありながら世界的な名声を獲得するに至ったアメリカ人のボビー・フィッシャー。彼の生涯を描く映画『完全なるチェックメイト』から、今でも「伝説」と語り継がれる対局と、冷戦下ゆえの激動を知る
あわせて読みたい
【革新】映画音楽における唯一のルールは「ルールなど無い」だ。”異次元の音”を生み出す天才を追う:映…
「無声映画」から始まった映画業界で、音楽の重要性はいかに認識されたのか?『JAWS』の印象的な音楽を生み出した天才は、映画音楽に何をもたらしたのか?様々な映画の実際の映像を組み込みながら、「映画音楽」の世界を深堀りする映画『すばらしき映画音楽たち』で、異才たちの「創作」に触れる
あわせて読みたい
【アート】「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」(森美術館)と「美術手帖 Chim↑Pom特集」の衝撃から「…
Chim↑Pomというアーティストについてさして詳しいことを知らずに観に行った、森美術館の「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」に、思考をドバドバと刺激されまくったので、Chim↑Pomが特集された「美術手帖」も慌てて買い、Chim↑Pomについてメッチャ考えてみた
あわせて読みたい
【創作】クリエイターになりたい人は必読。ジブリに見習い入社した川上量生が語るコンテンツの本質:『…
ドワンゴの会長職に就きながら、ジブリに「見習い」として入社した川上量生が、様々なクリエイターの仕事に触れ、色んな質問をぶつけることで、「コンテンツとは何か」を考える『コンテンツの秘密』から、「創作」という営みの本質や、「クリエイター」の理屈を学ぶ
あわせて読みたい
【あらすじ】天才とは「分かりやすい才能」ではない。前進するのに躊躇する暗闇で直進できる勇気のこと…
ピアノのコンクールを舞台に描く『蜜蜂と遠雷』は、「天才とは何か?」と問いかける。既存の「枠組み」をいとも簡単に越えていく者こそが「天才」だと私は思うが、「枠組み」を安易に設定することの是非についても刃を突きつける作品だ。小説と映画の感想を一緒に書く
あわせて読みたい
【奇跡】鈴木敏夫が2人の天才、高畑勲と宮崎駿を語る。ジブリの誕生から驚きの創作秘話まで:『天才の思…
徳間書店から成り行きでジブリ入りすることになったプロデューサー・鈴木敏夫が、宮崎駿・高畑勲という2人の天才と共に作り上げたジブリ作品とその背景を語り尽くす『天才の思考 高畑勲と宮崎駿』。日本のアニメ界のトップランナーたちの軌跡の奇跡を知る
あわせて読みたい
【実像】ベートーヴェンの「有名なエピソード」をほぼ一人で捏造・創作した天才プロデューサーの実像:…
ベートーヴェンと言えば、誰もが知っている「運命」を始め、天才音楽家として音楽史に名を刻む人物だが、彼について良く知られたエピソードのほとんどは実は捏造かもしれない。『ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく』が描く、シンドラーという”天才”の実像
あわせて読みたい
【驚愕】ロバート・キャパの「崩れ落ちる兵士」はどう解釈すべきか?沢木耕太郎が真相に迫る:『キャパ…
戦争写真として最も有名なロバート・キャパの「崩れ落ちる兵士」には、「本当に銃撃された瞬間を撮影したものか?」という真贋問題が長く議論されてきた。『キャパの十字架』は、そんな有名な謎に沢木耕太郎が挑み、予想だにしなかった結論を導き出すノンフィクション。「思いがけない解釈」に驚かされるだろう
あわせて読みたい
【感想】「献身」こそがしんどくてつらい。映画『劇場』(又吉直樹原作)が抉る「信頼されること」の甘…
自信が持てない時、たった1人でも自分を肯定してくれる人がいてくれるだけで前に進めることがある。しかしその一方で、揺るぎない信頼に追い詰められてしまうこともある。映画『劇場』から、信じてくれる人に辛く当たってしまう歪んだ心の動きを知る
あわせて読みたい
【差別】「女性の権利」とは闘争の歴史だ。ハリウッドを支えるスタントウーマンたちの苦悩と挑戦:『ス…
男性以上に危険で高度な技術を要するのに、男性優位な映画業界で低く評価されたままの女性スタントたちを描く映画『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』。女性スタントの圧倒的な努力・技術と、その奮闘の歴史を知る。
あわせて読みたい
【救い】耐えられない辛さの中でどう生きるか。短歌で弱者の味方を志すホームレス少女の生き様:『セー…
死にゆく母を眺め、施設で暴力を振るわれ、拾った新聞で文字を覚えたという壮絶な過去を持つ鳥居。『セーラー服の歌人 鳥居』は、そんな辛い境遇を背景に、辛さに震えているだろう誰かを救うために短歌を生み出し続ける生き方を描き出す。凄い人がいるものだ
あわせて読みたい
【諦め】「人間が創作すること」に意味はあるか?AI社会で問われる、「創作の悩み」以前の問題:『電気…
AIが個人の好みに合わせて作曲してくれる世界に、「作曲家」の存在価値はあるだろうか?我々がもうすぐ経験するだろう近未来を描く『電気じかけのクジラは歌う』をベースに、「創作の世界に足を踏み入れるべきか」という問いに直面せざるを得ない現実を考える
あわせて読みたい
【表現者】「センスが良い」という言葉に逃げない。自分の内側から何かを表現することの本質:『作詞少…
大前提として、表現には「技術」が必要だ。しかし、「技術」だけでは乗り越えられない部分も当然ある。それを「あいつはセンスが良いから」という言葉に逃げずに、向き合ってぶつかっていくための心得とは何か。『作詞少女』をベースに「表現することの本質」を探る
ルシルナ
文化・芸術・将棋・スポーツ【本・映画の感想】 | ルシルナ
知識や教養は、社会や学問について知ることだけではありません。文化的なものもリベラルアーツです。私自身は、創作的なことをしたり、勝負事に関わることはありませんが、…
ルシルナ
記事検索(カテゴリー・タグ一覧) | ルシルナ
ルシルナは、4000冊以上の本と500本以上の映画をベースに、生き方や教養について書いていきます。ルシルナでは36個のタグを用意しており、興味・関心から記事を選びやすく…
コメント