目次
はじめに
この記事で取り上げる本
著:チャブリス,クリストファー, 著:シモンズ,ダニエル, 原著:Chabris,Christopher, 原著:Simons,Daniel, 翻訳:博江, 木村
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この本をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- 著者らが考案した「衝撃の実験」をYoutubeで体感する
- 全人類に配布すべき、生きる上での教科書
- 人間の知覚や記憶は容易にミス・エラーを起こす
「努力で避けられない人間の欠陥」を知っておくことで、致命的なトラブルを回避できるようになるはずだ
自己紹介記事
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致命的なミスをしないために知っておくべき「人間が避けられない失敗のクセ」が記された『錯覚の科学』
心理学の世界に衝撃を与えた実験を、Youtubeで体感する
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本書の著者2人は、後に教科書にも載ることになったある実験を行い、心理学の世界に衝撃を与えた。本書ではそんな著者らが、心理学的な知見を紹介し、人間がどのようなエラーを起こしやすいか、どんなミスをしてしまい得るかについて、様々な実例を挙げながら紹介していく。
まずは、著者らが行い、心理学界をザワつかせた実験をYoutubeの動画を使って体感してみよう。
以下のYoutubeのリンクをクリックすると、ある動画が流れる。英語で指示が表記されるので、まずその指示を以下に日本語で書いておこう。
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動画には6人の女性が登場する。3人が白いTシャツを、3人が黒いTシャツを着ている。彼女たちが、2つのバスケットボールのパス回しをするので、「白いTシャツを着た3人のパス回しの回数」を正確にカウントしてほしい。
やることはそれだけだ。では、以下の映像を見てみよう。
結果についてはここでは触れないが、著者らの実験でも、その後別のグループが行った追試でも、被験者の半分は「衝撃を受ける」そうだ。かくいう私も、「衝撃を受けた側」である。
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被験者の半分は「衝撃を受けない」そうなので、もしかしたらあなたも「衝撃を受けなかった側」かもしれないが、だからといって他の「エラー」や「ミス」も回避しやすい、というわけでは決してない。本書で指摘されていることはきちんと理解しておこう。
全人類が読むべき「人生の教科書」
大げさかもしれないが、本書は、世界中の人々に配られるべきではないかと思う。本書そのものでなくとも、その要約を図示したようなものでもいい。
本書は、日常の様々な場面で、「人間はこんなエラーを犯しがち」とあらかじめ警告してくれる。先程の動画で「衝撃を受けた側」の人であれば、この意味がより強く理解できるだろう。ちゃんと見ていると思っても見えていないし、ちゃんと覚えていると思っても覚えていない。人間には残念ながら、そのような欠陥がもともと備わっているのだ。
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本書を読めば読むほど、自分の知覚や記憶への信頼感を失っていくだろう。そして、「知覚や記憶は信頼が置けないものだ」という事実は、社会の共通認識であるべきだとも感じた。だからこそ、社会に生きるすべての人が読むべき本だと思うのだ。
あとで紹介するが、「自分が明確に記憶していること」が、有無を言わさず誤りだったと判明する事例がある。つまり人間は、「自分の都合の良いように記憶を書き換えてしまう生き物」というわけだ。そして、このことが共通認識として存在しなければ、「私の記憶ではそうなっている」という誰かの主張をどうやっても突き崩せないことになってしまう。
私たちはもちろん、知覚や記憶を通じて他人や社会と関わっている。そして自分が感じたこと、覚えていることを、疑う機会はなかなかない。しかし、自分が「正しい」と信じていることが、実はまったくの間違いでしかない可能性もあるということなのだ。
日常の中でこのことを実感する機会があるとすれば、既に何か大きなトラブルが引き起こされてしまっている可能性が高いだろう。そうならないためにも、あらかじめ私たちは、「人間が避けられない失敗のクセ」を知り、ゼロにはできないにせよ、事前に注意を向けておくという姿勢が重要ではないかと思うのだ。
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それでは以下では、各章の章題を見出しにしながら、どのような事例が紹介されるのかに触れていこうと思う。
えひめ丸はなぜ沈没したのか? 注意の錯覚
この章で扱われるのは、「視界に入っているのに『見えていない』」という事例である。章題にある「えひめ丸」はアメリカ海軍の原子力潜水艦に衝突されて沈没したのだが、潜水艦の艦長は明らかに視界の先に存在したはずの「えひめ丸」を「見えなかった」と証言したのだ。
別の事例として、偽証罪で起訴されたアメリカの警官が取り上げられる。その警官は、逃走中の被疑者を追跡中だったのが、同じ頃、別の警官がある行き違いからその被疑者と誤認され、警官仲間にボコボコにされていた。起訴された警官はその現場を目撃したはずなのに、「自分は見なかった」と証言し、偽証罪に問われた。
このように、「視界に入っていること」と「見えていること」は決してイコールではないことが、様々な事例を通じて示されるのだ。
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他にも、我々の生活にもっと身近な話題も取り上げられる。
私は車を運転しないのでほとんど経験はないが、車を日常的に運転する人であれば、「バイクが突然飛び出してくる」という状況に遭遇することがあるだろう。これはもちろん、ドライバーの確認不足というケースもある。しかし、「視界には入っているが『見えていない』」場合もある。
なぜそうなってしまうのか。それは「バイクが自動車の形に似ていないから」だという。ドライバーにとって「車」は馴染みの存在だが、「バイク」はそうではない。人間というのは、「そこにあると予期できるもの」は見落とさないが、「そこにあると予期しにくいもの」は、視界に入っていても見落としてしまうということのようだ。
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これは、歩行者と自転車に関しても同じことが言える。都市部ほど自転車での移動が頻繁なので、事故も多くなると予想するかもしれない。しかし実はアメリカでは、歩行者と自転車の事故は、都市部で最も少ないという結果が出ている。これについては、歩行者が自転車の存在を見慣れているために、視界に入った自転車をすぐに「認識する」ことができるからだろうと考えられているようだ。
しかし不思議に思わないだろうか? こんな「注意の錯覚」を抱えながら、人類はどうしてここまで生き残ってこられたのか、と。
実は、この「注意の錯覚」が現れるようになったのは最近のことだという。つまり、現代社会の生活があまりに複雑であり、「人間の注意の限界」まで達してしまっている、ということなのだ。
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人類が進化してきた過程では、人類の生活環境は今ほど複雑ではなかった。船に乗っていたら潜水艦が下から突き上げてくることも、車に乗っていたら横からバイクが突然飛び出してきたりすることなど起こらなかったのである。だから「注意力」をそこまで酷使せずに済んだ。
しかし現代社会は、人類が進化の過程で手に入れたものを遥かに超える注意力が要求される環境であるが故に、「エラー」がて現れてしまっているのだと指摘されている。
捏造されたヒラリーの戦場体験 記憶の錯覚
この章では、「人間の記憶はいかに曖昧か」の実例が紹介される。ヒラリー・クリントンが繰り返し語っていた「戦場体験」は真っ赤な嘘だったと判明したのが、本人にとっては「正しい記憶」だった可能性があるというわけだ。
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この章で非常に印象的な話は、バスケットボールのコーチに関するエピソードである。
バスケットボール選手の1人がある時、「コーチに首を締められた」と訴え、その時の状況を事細かに語った。しかし、その場にいた他の選手は、コーチが首を締めたなどという事実はなかった、と証言する。
決定的な証拠がなく、両者の言い分は平行線のままだったが、その数年後、その時の状況を映したビデオが偶然発見された。そして、首を締められたという選手の証言は誤りだと判明したのだ。しかしその後もその選手は、「自分の記憶では、コーチに首を締められたことに間違いない」と主張し続けたという。
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もちろん、この選手が嘘をついている可能性はゼロではないが、この章では他にも、人間の記憶がいかに曖昧なものであるかを示す実験が紹介されている。
例えばこんな実験がある。ごく一般的な「研究室」に案内された被験者に、30秒間その部屋に留まってもらう。そして別室に移動した後で、唐突に「研究室には何がありましたか?」と質問される。被験者は、「本」「ファイルキャビネット」などがあったと答えるのだが、それらは実際には「研究室」には存在しなかった。これはどう説明されるだろうか?
人間は、「予期できるものを記憶することが多い」という。つまり、「研究室だったらこんなものがあるだろうと予期できるもの」を「思い出す」ということだ。思い込みによって、記憶が書き換わったしまうというわけである。
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また、こんな長期に渡る実験も行われている。「フラッシュバブル記憶」とは、物凄く印象的な出来事が起きた日のことは他の日よりも鮮明に記憶していることを指すのだが、その「フラッシュバブル記憶」さえ改ざんされてしまうことを示す実験だ。
アメリカで、9.11のテロ直後に、「9.11の時、あなたはどこで何をしていましたか?」と様々な人に質問をし、その答えを記録した。そして数年後、同じ人に再び同じ質問をし、その答えを記録する。
なんと、時間をおいた2つの回答が食い違う被験者が多かったという。さらに被験者に、「数年前、9.11直後のあなたはこう答えていますよ」と記録した答えを見せても、被験者の多くは、「今の自分の記憶の方が正しい」と感じるのだという。どう考えても9.11直後に答えた方が正しい可能性が高いはずだが、昔の記憶よりも上書きされてしまった今の記憶の方を正しいと感じるというのは、印象的だった。
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また、実験の話ではないが、映画の話題も取り上げられる。映画ではよく、単なるミスによって前後の繋がりがおかしな場面がある。例えば、『プリティ・ウーマン』で有名なのは、ジュリア・ロバーツがクロワッサンをつまんだ直後、口にパンケーキを入れる場面に変わるミスだという。
しかし人間は、このような映像を見てもあまり違和感を覚えない。それは「変化の見落とし」と呼ばれている。予期していない変化には気づけないことの方が多いし、また、「自分が見落としをするはずがない」という思い込みもその見落としを助長するのだという。
私にも、こんな話がある。私は子どもの頃、足の骨を3度ほど折り、松葉杖をついて学校に通った記憶がある。しかし両親とも、「そんな事実はない」というのである。1度もない、というのだ。両親いわく、「足を折ったら、学校に送り迎えをしなければならないが、そんなことをした記憶はない。だからお前は足を折っていない」ということのようだ。
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この記憶の食い違いは、未だに決着がついていない。どちらかが間違っている(あるいは両方間違っている)のだが、真相が判明する機会は果たして来るだろうか。
冤罪証言はこうして作られた 自信の錯覚
この章では、自信と能力と信頼の関係性が描かれる。
こんな状況について考えてみてほしい。これは著者の1人の実体験だそうだ。
病院に行き医師の診察を受ける時、その医師があなたを診断しながら参考書も見ているとしよう。あなたはきっとこう感じるに違いない。参考書を見ながら診断するような医師を信頼して大丈夫だろうか? と。
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確かに想像してみると、私も著者と同じように不安を抱くかもしれない。一方で、自信満々な態度で診断をする医師に当たれば、信頼感を抱くだろうと思う。
しかし当たり前だが、自信と能力に関係はない。しかも心理学的には、「能力が低い者ほど自信過剰になる」という実験結果が複数存在するのだという。
確かに考えてみればそのことは理解できるだろう。
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知識や経験があればあるほど、様々なケースを知ることになるし、やるべきこと・対処しなければならないことが膨大だと理解していることになる。知識や経験があればあるほど能力も高いと言っていいだろうが、一方で、直面する状況の難しさを知っているが故に自信は低くなっていくかもしれない。
一方、知識や経験が無ければ無いほど、知らないことが多い。そして性格にもよるだろうが、「知らないからこそ臆することなく自信を持って臨める」というタイプの人も存在するだろう。だからこそ、「能力が低い者ほど自信過剰になる」という状況が生まれてしまう。
ここまで考えれば、先ほどの「参考書を見ながら診断する医師」は、むしろ信頼できると考えていいはずだ。しかし直感的には、我々はなかなかそう考えることができない。
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また、自信を放つ人に信頼が集まる、という実験結果も多数存在する。確かにイメージできる話である。そしてその実例としてこの章では、章題にもなっている「レイプの冤罪事件」が取り上げられる。
被害女性はレイプされている間、犯人の顔を長時間見つめ完璧に記憶することに努めたという。そしてその後、レイプ犯と思われる容疑者が割り出され、その女性は法廷に証言者として立った。彼女は自信満々に堂々と、被告が自分をレイプした犯人だと証言したため、他の証拠は一切存在しなかったが、その被告の有罪が確定した。しかし10年以上も経ってから、冤罪であることが判明したのだという。
被害女性があまりにも堂々としていたからこそ、誰もがその証言を信頼したわけだが、それは誤りだと分かった。つまり、「自信があること」を能力や信頼の根拠として捉えるのは危険だということだ。
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リーマン・ショックを招いた投資家の誤算 知識の錯覚
この章では、「人間は自分の能力を過大に評価しがちだ」ということが指摘される。
冒頭で、ヒトゲノム(人間の遺伝子)研究に関するエピソードが取り上げられる。人間は他の生物と比べて知能が高いので、遺伝子も多いと考えられていた。「ヒトゲノム計画」と呼ばれる、人間の遺伝子をすべて明らかにするプロジェクトが始まった当初は、人間の遺伝子は10万個以上あると思われていたが、実際には2万5000個以下だと判明する。これは、イネ科の植物の遺伝子数より少ないし、ウニの遺伝子とほぼ同じらしい。
章題となっている投資家に関しては、このような実験結果が知られている。株取引を模した実験によって、「与えられた情報が少ないほど儲けが多い」という結果が出たのだ。一般的には、情報が多ければ多いほど正しい判断ができると考えられているだろうが、この思い込みは間違っていると言えそうだ。
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そして投資家の、「自分は多くの情報を有しているから正しい判断ができる」という思い込みが、結果としてリーマンショックを引き起こすことになったのだと指摘される。
このような「知識の錯覚」が無くならない要因の一つは、社会が専門家をもてはやすからだと著者は言う。専門家というのは「実際以上に知識があると思い込んでいる人物」であり、そういう人物が必要とされるからこそ、「知識の錯覚」が延々と再生産されてしまうことになるのだと。
専門家の意見を”安易に”求める風潮は改めるべきだと言えそうだ。
俗説、デマゴーグ、そして陰謀論 原因の錯覚
この章では、「人間はいかにデマに騙されやすいか」が描かれる。コロナワクチンに関するデマが出回っている(らしい)現代においては、まさに無視できない章と言えるだろう。
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冒頭では、「アメリカにおけるはしかの流行」が扱われる。これがどのように「デマ」と関係するのかは長い説明を要するので省略するが、要するに、「デマのせいではしかのワクチンを子どもに打たせない親が多いから」ということなのだ。アメリカでは、「はしかのワクチンを打つと自閉症になる」というデマが根強く存在するのだという。
デマに騙されてしまうのは、「相関関係」と「因果関係」を捉え間違えるからだ。人間は、前後に起こった出来事を「原因と結果」だと捉えてしまいがちだ。本書に載っている例ではないが、以前こんな話を読んだことがある。
どこかの団体が、「朝ごはんを食べれば子どもの成績が上がります。だから朝ごはんを食べましょう」というキャンペーンを行った。実際に、「朝ごはんを食べる子どもは、学校の成績がいい」という科学的なデータが存在する。しかしこのキャンペーンは誤りだ。何故だか分かるだろうか?
実際はこうだ。成績の良い子どもは、家庭学習もきちんとしていることが多い。そして、家庭学習がちゃんと行われている家では、当たり前のように朝ごはんが出てくる(家庭環境がきちんとしている、という意味だ)。
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350年以上前に一人の数学者が遺した予想であり「フェルマーの最終定理」には、1995年にワイルズによって証明されるまでの間に、これでもかというほどのドラマが詰め込まれている。サイモン・シンの著作と「数学ガール」シリーズから、その人間ドラマと数学的側面を知る
つまり、「朝ごはんを食べるから成績が良い」のではなく、「成績が良い子の家では朝ごはんが出てくる」というわけなのである。因果関係を逆に捉えてしまっているというわけだ。
本書では、こんな例が紹介される。「アイスクリームの売上」が多い日は、「海難事故」が増えるのだが、「アイスクリーム」と「海難事故」に直接の関係がないことは誰でも分かるだろう。あなたはこれを説明できるだろうか?
要点は、「夏の暑さ」である。暑い日には「アイスクリーム」もたくさん売れるし、海に行く人が増えるから「海難事故」も多くなる。「アイスクリーム」と「海難事故」に関係があるのではなく、「夏の暑さ」と「アイスクリーム・海難事故」に関係がある、というわけだ。
気をつけていないと、原因と結果と捉え間違えたり、因果関係と相関関係を混同したりしてしまう。データや知識が正しくても、それを正しく解釈する方法を知らなければ、デマに騙されてしまうのである。この事実は、どれだけ気をつけても気をつけすぎということはないので注意しよう。
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自己啓発、サブリミナル効果のウソ 可能性の錯覚
この章では、「『人間の能力にはさらなる可能性がある』という主張を受け入れてしまう」という状況が描かかれる。
冒頭では、「モーツアルトを聞くと頭が良くなる」という俗説が取り上げられる。人間は、「自分にはまだ可能性がある」と信じていたいし、そして「その可能性が何か簡単な方法で開花したらいい」という淡い希望を持っている。だからこそ、「モーツアルトを聞けば頭が良くなる」という、まさにこの条件をピッタリ満たすような俗説が根強く残ってしまう、というわけだ。
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また本書では、心理学の実験として非常に有名な「サブリミナル効果」も取り上げられる。映画上映中に、人間には意識できない短いカットを差し込むことで、鑑賞後にコーラを飲みたい気分にさせることができる、というものだ。
しかしこの実験はなんと、いんちきだということが判明しているのだ。というか、実験を行ったという人物が、「仕事がうまくいかずにむしゃくしゃしていたから、実験をでっちあげた」と証言しているのだという。
しかし、「人間の可能性」に対する盲信が強いが故に、この「サブリミナル効果」も未だに広く信じられている(私も本書を読むまで信じていた)。
自分にとって都合の良い情報ほど、疑って掛かった方が良さそうだ。
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本書には、こんな風に書かれている。
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また、人類は進化の過程で、目の前の問題に対処するための様々な解決策を生み出してきた。それらの解決策は、該当する問題を処理するのには実に上手く働く。しかし同じ解決策が別の場面に適用されてしまうと、それがエラーとして表に出てしまう。先祖にとっては「便利な解決法」だったものが、複雑な現代社会に生きる我々にとっては「厄介なエラー」になってしまう、というわけだ。
人間社会は急激に進化したが、その変化に人類の遺伝子はまだ追いつけていない。我々は、このようなエラーを抱えたまま生きていくしかないだろう。
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だからこそ、どのような場面でどんなエラーが発動しやすいのかを知っておくことは重要だ。それによって、トラブルや人命の喪失を回避できる可能性があるのだから。
大げさではなく、全人類が読むべき一冊だと思う。
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