【勝負】実話を基にコンピューター将棋を描く映画『AWAKE』が人間同士の対局の面白さを再認識させる

目次

はじめに

この記事で取り上げる映画

出演:吉沢亮, 出演:若葉竜也, 出演:落合モトキ, 出演:寛 一 郎, 出演:馬場ふみか, 出演:川島潤哉, 出演:永岡佑, 出演:森矢カンナ, 出演:中村まこと, Writer:山田篤宏, 監督:山田篤宏
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いか

この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ

この記事で伝えたいこと

プロ棋士の夢を諦めた元奨励会員が、コンピュータ将棋の旗手としてかつてのライバルと闘う

犀川後藤

完全に実話というわけではないものの、王道マンガのようなストレートな物語に胸打たれるでしょう

この記事の3つの要点

  • 同じ年に奨励会入りしたが、一方はプロ棋士となり、もう一方は夢破れて将棋とは関係のない生活を送っていた
  • 将棋ソフトの黎明期を舞台に、実際に起こった「衝撃的な対局」を魅力的な物語に仕立て上げている
  • 「勝者の物語」も良いが、「敗者の物語」もまた素敵である
犀川後藤

将棋にさほど詳しくなくても面白く観られる作品だと思います

自己紹介記事

いか

どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください

実際に行われたコンピュータ将棋の対局をモデルにした映画『AWAKE』は、夢破れた者の挑戦と悲哀を描き出す

『AWAKE』というタイトルだけを見て何の映画なのかすぐに分かった人は、恐らく将棋ファンでしょう。私は、将棋のことは好きですが、詳しいというほどではなく、だから「AWAKE」のことは知りませんでした。

犀川後藤

それにしても将棋の世界は面白い話が色々あるよなぁ

いか

まあ、どんなジャンルのファンの人も、同じことを言うだろうけどね

この映画のモデルとなった対局を知らないのなら、知らないまま映画を観た方がいい

映画の冒頭で表記されますが、映画『AWAKE』は実際の対局をベースに描かれます。2015年に行われた、阿久津主税棋士と「AWAKE」という将棋ソフトの勝負です。先述した通り、私はこの対局のことを知らないまま観たのですが、同じく知らないという方は、何も調べずに映画を観ることをオススメします。知った上で観ても十分に面白いと思いますが、ラストの展開を知らないままの方がずっと面白いはずです。

というわけでまずは、この映画を観る前に私が知っていた「コンピュータ将棋周辺の話」について触れておきたいと思います。

コンピュータ将棋の世界は、プロ棋士の世界とはまったく別のところで発展してきました。プログラミングが好きで将棋も好きという人たちが趣味で「将棋ソフト」を開発し、同好の士が集まってその優劣を決める大会を行っていたのです。初めこそプロ棋士の棋力にはまったく及びませんでしたが、その後急激に進化、やがて「プロ棋士に対抗できるほどの力をつけているのではないか」と言われるようになっていきます。そこで、将棋連盟とドワンゴが主催となり、プロ棋士と将棋ソフトの直接対決が行われることが決まったのです。2015年というのは、そういう時代でした。

犀川後藤

リアルタイムで観てたわけじゃないけど、世間的にも結構盛り上がってた印象がある

いか

直接対決なんて、普通にはまず実現しないだろうから、ファンに限らず注目したんだろうね

また、そのような「大会用の将棋ソフト」が、「一般向けの将棋ソフト」として普及していきます。今では藤井聡太を始め、特に若い世代の棋士たちが、自身の将棋研究に当たり前のように将棋ソフトを取り入れているのです。将棋研究と言えば長らく「棋譜並べ」「詰将棋」でしたが、そこに「将棋ソフト」という選択肢も加わることになりました。

さて、私が知っていた知識はこの程度のことです。先に紹介した阿久津主税棋士と「AWAKE」の対局は大いに話題になったそうですが、私はその存在さえまったく知りませんでした。結果としてそのお陰で、この映画のラストの展開にはハラハラドキドキさせられたので良かったです。なので、詳しいことを調べずに映画を観ることをオススメします。この記事でも、ラストの展開には触れません

プロ棋士になるためのあまりに高いハードルと、夢破れた者たちの悲哀

2015年に行われた対局については知らない方がいいですが、映画『AWAKE』を観る上で知っておいた方がいい情報もあります。それが、「プロ棋士になるための壮絶な道筋」です。そんなのもう知っている、という方は読み飛ばして下さい。

犀川後藤

昔聞いて驚いたのは、ある人が「俺はプロ棋士になれないから東大に入ったんだ」みたいに発言したことがあるっていうエピソード

いか

年に4人しかプロ棋士になれないから当然と言えば当然だけど、にしても「東大」より難しいってのはビックリだよね

プロ棋士になるためのファーストステップは、棋士の養成所「奨励会」に入ることです。当然ですが、誰もが入れるわけではありません。奨励会に入るには、プロ棋士の推薦が必要になります。つまり、プロ棋士から推薦がもらえるほどの棋力を、奨励会に入会する時点で持っていなければならないというわけです。入会時期は人によって様々ですが、早ければ小学生から入る子もいます。ちなみに、映画『AWAKE』の冒頭で主人公2人が奨励会に入った年は、160名が所属していました。全国から集った精鋭揃いの160名というわけです。

その後、奨励会員同士で対局を繰り返して級位・段位を上げていき、三段に上がると恐怖の「三段リーグ」が始まります。ざっくり説明すると、半年に一度総当たり戦を行い、その上位2名が四段になれるという仕組みです。「四段への昇段=プロ棋士になること」なので、色んな例外はあるものの、基本的には「年に4人しかプロ棋士にはなれない」ということになります。

いか

「強い人だらけの年」だと上手く昇段出来なかったり、逆に「あんまり強くない人ばかりの年」に運良く上がれたりみたいなことはあるだろうね

犀川後藤

「羽生世代」って呼ばれる棋士たちはメチャクチャ強くて、前の世代をぐんぐん追い抜いていったらしいから、たまんなかっただろうなぁ

ハードルはそれだけではありません。さらに、年齢制限も設けられているのです。「満21歳の誕生日までに初段」「満26歳の誕生日を含むリーグ終了までに四段」に上がれないと、その時点で退会となり、基本的にはプロ棋士への道は断たれてしまいます。実際には特例措置もあり、一度奨励会を退会になりながらプロ棋士になった者もいるのですが、当然、この特例措置の方が遥かに狭き門です。ざっと調べた限り、奨励会を退会後、特例によりプロ棋士になったのは、たった4人だけのようです。最近では、女流棋士の里見香奈がプロ棋士編入試験を受けたことでも話題になりました。

このように、プロ棋士になる道のりは果てしなく遠いのです。プロ棋士になろうとする人間のほとんどが夢破れてしまうとも言えるでしょう。なかなか、年に4人しか合格・採用に至らない世界もないだろうと思います。とんでもなく厳しい世界だというわけです。

犀川後藤

そんな「夢破れた者たち」を扱ったノンフィクション『将棋の子』(大崎善生)も面白かった

いか

大崎善生は小説家になる前、雑誌『将棋世界』の編集長だったんだよね

著:大崎善生
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本作には、元奨励会員である新聞記者が、こんな風に語る場面があります。

将棋しかなかったのに、辞めるしかない。何もする気になれないし、何をしていいかも分からなかった。

人生のすべてを懸けたと言っていいほどに努力してきた者たちの多くが敗れ去っていく世界。そんな残酷な世界だからこそ、様々な物語が生まれ得るとも言えるでしょう。

映画『AWAKE』は、実際の出来事をベースにしてはいますが、すべてが事実なわけではありません。ただ、「本作で描かれるような物語が、実際に起こってもおかしくはない」と感じさせるくらい、将棋界では魅力的なドラマが数多く知られています。ちょっと変な表現かもしれませんが、「私たちが生きている世界ではたまたま起こらなかった現実」という印象です。

その凄まじいリアリティを体感して下さい

映画『AWAKE』の内容紹介

2003年、清田英一と浅川陸は共に同期として奨励会入りを果たす。清田は父との対局から将棋に目覚め、プロ棋士を目指すようになった。奨励会からの帰り道にも、詰将棋の本を懐中電灯の明かりで照らしながら解き続けるほどの熱心さである。

しかし清田は、なかなか奨励会を抜け出すことができない。奨励会入りから数年が経ち、同年代の若者が飲み会やカラオケを楽しんでいる間も、彼は一人黙々と将棋の鍛錬を続けている。

そんな清田にとって、同期の浅川はずっとライバルだった。後にプロ棋士となる浅川は、1年目で新人王を獲得するなど、実力派の棋士として頭角を現すことになる。そしてその浅川が、清田に引導を渡すことになった。「ここが勝負」と決めて臨んだ浅川との対局に敗れたことをきっかけの1つとして、清田は奨励会を去る決断を下したのだ。

21歳で大学に入学した清田は、興味の欠片もない経済学の講義をなんとなく聞き、誘われて適当に入ったゴルフ部の飲み会で問題を起こすなど、気力の湧かない日々を過ごしていた。そんなある日、清田の人生を大きく変える出来事が起こる。ベッドで目を覚ました時、機械の音声で将棋の駒の動きが読み上げられていたのだ。

リビングに行ってみると、父親が、最近買ったと思しきパソコンに向かっていた。どうやら、将棋ソフトで遊んでいるようだ。ソフトの手を注視していた清田は、定石に囚われない斬新な指し手とその強さに驚かされ、コンピュータ将棋についてすぐさま調べ始めた

そのままの勢いで、彼は大学の人工知能研究会に入部、そこで出会った磯野に渡されたプログラミング言語の本をひたすら暗記するような形で、まったくのゼロからプログラミングを学んでいく。やがて彼は将棋ソフトの開発に乗り出し、そのソフトに「AWAKE」と名付ける。「AWAKE」はコンピュータ将棋の大会で優勝するなど実力を発揮し、やがてネットの企画として行われるプロ棋士との対局に声が掛かった

将棋連盟が定めた対戦相手はなんと、かつてのライバル浅川陸だった……。

映画『AWAKE』の感想

シンプルに面白い物語でした。特に意外性があるストーリーというわけではないのですが、人間ドラマとしてかなり見応えがある作品だと思います。

犀川後藤

ただ、私が将棋のことを好きだから面白かったって可能性も捨てきれはしないんだよなぁ

いか

将棋にさほど興味がない人でも面白く観られる映画だと思うけどね

物語は、「夢破れた者」である清田がコンピュータ将棋の旗手として再び将棋界に戻り、かつてのライバルとの対決に挑むという、王道マンガのような展開になります。大体、イメージした通りの物語になると思っていいですが、それでも、ラストの展開はなかなか予想できないでしょう。この記事ではラストには触れませんが、私はかなり驚きました。この対局の展開は実際に起こった出来事の通りのようで、そりゃあ話題になるだろうという感じです。

映画『AWAKE』では、将棋ソフトそのものや将棋ソフトがどのように将棋界を変えたのかについての言及はあまりありませんが、私は様々な本を読んでその変化についてなんとなく知っています。このブログでも、『天才の考え方』『羽生善治と現代』などの記事で詳しく触れているので読んでみて下さい。

一番大きな変化は、「知識を持っているかどうかで勝敗が決してしまう」というケースが増えたことでしょう。かつては、ある棋士が革命的な打ち手を思いついた場合、それに対する有効な対策を講じるのにかなり時間が掛かるためり、考案した棋士の名前と共にその打ち手が記憶されるというのが普通でした。しかし今は、どれほど奇抜な手を試したところで、すぐに将棋ソフトが対策を見つけてくれます。つまり、「『将棋ソフトが示した対策』を知っているかどうか」が勝敗を大きく分けるという状況になっているのです。

いか

人間の力では想像も及ばなかった手が生まれるっていうのは、面白さに繋がるだろうけどね

犀川後藤

でもやっぱり、知力のぶつかり合いに対しては、「これを人間が生み出したのか!」っていう驚きを感じたいなって思う

そんな将棋ソフトの黎明期を、人間ドラマに重点を置いて描き出す本作は、将棋界が新たな道へと進んでいくまさに分岐点を記録したものだと言っていいだろうと思います。

出演:吉沢亮, 出演:若葉竜也, 出演:落合モトキ, 出演:寛 一 郎, 出演:馬場ふみか, 出演:川島潤哉, 出演:永岡佑, 出演:森矢カンナ, 出演:中村まこと, Writer:山田篤宏, 監督:山田篤宏
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最後に

将棋界には、羽生善治藤井聡太のような、将棋に詳しくない人でも名前ぐらいは絶対に知っているだろうスーパースターがいますし、そういう「勝者の物語」ももちろん魅力的でしょう。ただ、将棋に限る話ではないかもしれませんが、「敗者の物語」もまた素敵なものではないかと思います。

人生を懸けてぶつかり合う者同士だからこそ、勝者にも敗者にもドラマが生まれるのです。そんな真剣勝負を生きる者たちの人間ドラマを是非体感してみてください。

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