目次
はじめに
著:坂口恭平
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この記事で伝えたいこと
「土地に固定されていなければ『家』ではない」という発想から思考した「モバイルハウス」
「当たり前の常識」から抜け出してみることで、社会を新しい視点から捉えられる
この記事の3つの要点
- 法律や制度が定義する「家」の条件から外れれば、免許も税金も気にしなくていい
- 「都市空間の公共インフラ」をも「家」の概念に取り込むという発想
- 「観察」と「実験」を通じて常に社会を新たな視点で捉えようとする著者のスタンス
「こうでなければならない」「これが当たり前」という感覚に縛られずに生きるスタンスも示してくれる
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「家」に付随する様々な「常識」に疑問を抱き、「モバイルハウス」という提案を通じて思考を促す1冊
著者は、早稲田大学建築学科に所属していた時には既に次のような疑問を抱いていました。
大学で建築を学んでいるときから、「人間は土地を所有していいのか」という根源的な疑問ばかり考えてしまっていた。
建築をやっている人間としては一番考えてはいけないことである。
そんなことをしていたら、現行の建築の仕事なんて何一つすることができない。
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この時点で大分変わった人だと言えるでしょう。そう、著者の主張は基本的に、社会の大多数の人から「異端的」だと受け取られるだろうと思います。
割とムチャクチャなことを言ってるんだけど、「なるほど」と感じさせられる視点でもあるんだよね
大学を卒業した著者は、様々な活動に取り組んでいく中で、「家にまつわる疑問」にぶつかっていきます。「家賃を払うこと」や「家に莫大なお金を注ぎ込むこと」は社会では「当然のこと」のように受け取られていますが、果たして本当にそれしか手はないのだろうかと考えていくわけです。
今の住宅は、単純に頭で理解するということが困難なのである。マンションがなぜ三千万円もするのか、購入する人は何も分かっていない。ただなんとなく、家というのはそれぐらいするんだろうという思いこみで購入している。誰も、部材一つ一つの見積書なんて要求しない。完全にブラックボックスと化しているのである。
僕は建築業界のすべてを変えたいなどと思っているのではない。何千万円もする家を買いたい人、つまりお金を持っている人は買えばいい。しかし、借金をして買うのは馬鹿らしいのではないかと提案したい。
私も昔から、「借金をして家を買うのは間違っている」と考えてきたので、著者の主張には賛同する部分が多くありました。そんな著者が、「モバイルハウス」という提案を通じて、「物事の新たな見方」を提示する、そんな作品です。
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制度や法律を変えるのは時間が掛かりすぎる。だからこその「モバイルハウス」という提案
著者は、「家」という存在が持つ不可思議さについて考え、やはりこれは「システム」、つまり制度や法律の問題なのではないかと考えるようになっていきます。
しかしその一方で、制度や法律を変えるのにはあまりに時間が掛かり、個人の一存ではどうにもならないこともまた事実です。
法律やルールや制度やシステムや行政や貨幣制度などを変えようと、必死に同一平面上で行動するのではなく、全く別のレイヤー(層)に自らを置き、思考の変化だけでこの現状の固まった社会を新しく見直すのである。
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著者は、「物事の捉え方を変えること」によって、新しい現実を創出する感じがとても上手いと思う
「当たり前の考え」に凝り固まっていると否定したくなっちゃうけど、本質的には納得感を与える主張が多いよね
そんなわけで著者は「モバイルハウス」に行き着くことになります。発想は非常にシンプルで、「『家』はそもそもどのように定義されているのか?」という問いからスタートしたのです。基本的に「家」というのは「土地とくっついているかどうか」で判断されます。「不動産」と呼ばれるのも、そのような理由があるわけです。だったら、「土地とくっついていない家」、つまり「移動できる家」「車輪がついた家」であれば、法律や制度における「家」の概念からあっさりと抜け出せるのではないかと思考するに至ります。
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つまり、モバイルハウスを建てるには、建築士の免許も不要で、さらに申請をする必要もなく、不動産の対象にもならないので固定資産税からも自由である。
言われて見ればその通りでしょうが、著者の思考は非常に重要だと感じました。法律や制度で定義される「家」は、免許や税金の対象になります。では、その定義から外れる「家」は? そんなものは関係なくなるというわけです。
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そして著者は、「モバイルハウス」を「手作りのキャンピングカー」と称して駐車場に置かせてもらえるのではないかと、設置場所についても思考を進めます。そんな風にして、誰にでも作れる設計、誰にでも手に入れられる材料で「モバイルハウス」を作るという挑戦を始めていくのです。
思いついたらとりあえずやってみるっていうのも著者らしいよね
本書で「モバイルハウス」という発想を知って、私は「なるほど、それも1つの手ではあるな」と感じました。私の場合、「物理的な本」の蔵書数が多く、引っ越しの際にもこの本の存在が結構ネックになるわけですが、そこさえクリアできるなら、「モバイルハウス」でも全然生活できるような気がします。今はどうしても、「ミニシアター系の映画を映画館で観る」「美術展に足を運ぶ」などの文化的生活をまだ諦めきれないので、家賃の高い都市部に住むという選択を止められませんが、自分の感覚としてそこもクリアできるのであれば、「モバイルハウス」でもまったく問題ない気がしました。将来の選択肢の1つとして脳内に留めておこうと思います。
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完成させた「モバイルハウス」で実際に生活してみた著者は、「家」の概念を拡張させる思考を展開させていきます。
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きっかけになった大きな出来事の1つは、東日本大震災です。未曾有の災害により、多くの人が土地や家を奪われてしまいました。そのような災害時に、著者は「モバイルハウス」の可能性を見出します。壊れても修復が容易で、いつでも移動可能。そんな「家」が増えれば、災害の多い日本での「新たな生活」が見出されるのではないかと考えるのです。
「モバイルハウス用レンタル土地」みたいな商売が出てきたら面白いよなぁ
「モバイルハウス牽引サービス」で日本全国どこへでも引っ越しできる、とかね
また「モバイルハウス」での生活は、「家に生活を合わせる」のではなく、「生活に家を合わせる」という著者の従来の考え方をさらに補強することにもなりました。この点については、『TOKYO 0円ハウス0円生活』の記事で詳しく触れたので読んでみてください。
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また「モバイルハウス」での生活は、「都市空間を1つの居住空間と見立てる」という発想をも生み出しました。著者はこれを「一つ屋根の下の都市生活」と呼んでいます。
モバイルハウスと、これらの都市に散らばる生活要素を結びつけた生活。僕はそれを「一つ屋根の下の都市生活」と捉えている。今までは、家の中でどのように振る舞うかを考えていた全ての要素を、もっと広く都市全体に広げて考えてみることはできないか。
この説明では分かりにくいでしょうが、要するに「公共インフラを利用しましょう」ということです。水は公園から、トイレはコンビニで、洗濯はコインランドリーを、風呂は銭湯へなど、公共空間には利用可能な様々なものがあります。これらを「家」の中に詰め込もうとするからこそ、一定以上の空間が必要になるわけです。もしもこれらを「家」から取り除き、公共インフラを利用する生活に切り替えれば、「家」に対する考え方が大きく変わるでしょう。
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実際、「風呂がない物件」「洗濯機置場のない物件」なんかも存在してるわけだしね
現状でも、完全にとは言わないまでも、ある程度「公共インフラ」を代替して普通の生活が出来そうな気がする
これについても、もし「モバイルハウス」という発想が一般的になれば、それに付随してさらに「公共インフラ」が拡充される可能性もあるでしょう。もちろん、国としては経済成長的にも「家」を買ってほしいだろうし、「モバイルハウス用に公共インフラを拡充する」という可能性は低いでしょうが、決してゼロではないだろうと思います。
モバイルハウスの目的の一つは、家というものだけで暮らすのではなく、私有している「家」という空間を極限まで広げて、都市空間全体を生活要素と捉えることにもあるのだから、これはこれで、モバイルハウスの良い効果と言うことができるだろう。
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私たちは、「『家』とはこのようなものである」というイメージを当たり前のように持っていますが、著者のように思考することで、そうではない可能性を現実社会の解として提示することも可能なのです。もちろん、著者の主張する「モバイルハウス」が現状において主流になる可能性は相当低いでしょうが、「可能性を示す」という点は評価できるだろうと思っています。
常識に留まらない著者の発想力
著者が具体的に提示する「解」そのものに賛同できるかどうかはともかくとして、著者の思考や発想のスタンスは多くの人にとって参考になるのではないかと思います。冒頭で書いた通り、著者は、「『家』に関する法律や制度に問題がある」と考えているのですが、そこから「法律や制度を変えよう」と思考するのではなく、「『家』の定義に含まれないものについて考えよう」と発想するのです。
本書を読むまで正直、「『家』の定義はどうなっているのか?」なんて考えたことなかったもんなぁ
本質的な部分を突き詰めてみると別の世界が開けるっていうお手本のような発想だったね
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そしてその際の著者の手法が、「観察」と「実験」です。
著者はよく、「社会はいくつものレイヤー(層)に分かれている」というような主張をします。そして、自分が生きているレイヤーや、当たり前とされているレイヤーから外れ、別のレイヤーから物事を観察してみることで、常識的ではない社会の見方ができると示唆するのです。『TOKYO 0円ハウス0円生活』で示した通り、著者は、ホームレスの「観察」を通じて、まったく新しい世界を捉えることに成功しました。
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さらに著者はそこから「実験」を重ねます。「そもそも『モバイルハウス』なんか作れるのか」からスタートし、「自作した『モバイルハウス』を駐車場に置かせてもらうことは可能なのか」まで、とりあえずやってみるというスタンスを崩しません。既存の常識に縛られていると、行動に踏み出すことが難しかったりしますが、著者はそんな障害を感じさせずにスルリと新しい世界に分け入っていきます。その軽やかさが見事だと感じました。
このようにして著者は、「世の中の『当たり前』をどのように崩していけるか」について日々様々な挑戦をしているのです。例えばこんな言葉に対しても、「なるほど」と感じるのではないでしょうか。
僕は貨幣のことを「考えない技術」と呼んでいる。つまり、そのモノがどのような過程でできたのか考えなくても、貨幣を使えば購入することができる。それは一見、便利そうだが、実体は何も分かってはいないことに気をつけなくてはいけない。
すべてにおいて「消費する側」に回ってしまうと、ホントに何も考えなくなるよね
そう、だから、どこかで「生産する側」に立つ意識を持っていないといけないっていつも思ってる
本書は、「モバイルハウス」という発想から「家」に付随する問題を解体していく作品ですが、広く「思考力を刺激する作品」と受け取ってもいいのではないかと感じました。
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最後に
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ホームレスの方でもない限り、すべての人が「家」に住んでいるはずです。しかし、そんな「家」について私たちは知識もなければ思考を巡らせることもありません。著者の思考・主張は確かに極端ですが、極端に振り切ることで見えてくることもあるでしょう。自分が囚われている「当たり前」から抜け出すために読んでみてはいかがでしょうか。
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普通って何?【本・映画の感想】 | ルシルナ
人生のほとんどの場面で、「普通」「常識」「当たり前」に対して違和感を覚え、生きづらさを感じてきました。周りから浮いてしまったり、みんなが当然のようにやっているこ…
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