目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
監督:黒沢清, Writer:黒沢清, 出演:菅田将暉, 出演:古川琴音, 出演:奥平大兼, 出演:岡山天音, 出演:荒川良々, 出演:窪田正孝
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この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- 「別の惑星で展開されている」のかと思うほど、「人間っぽさ」みたいなものが欠如した物語だった
- 「ネットを介しているから顔が見えない」というのとは少し違った「匿名性」が貫かれた物語は、観る者にそこはかとない異様さを突きつける
- これだけの役者陣が演じなければ成り立たなかっただろうと感じるほど、役者の演技ありきで成立した物語
「人間の物語ではない」と捉えれば受け入れやすくなるかもしれないと思うほど、とにかく普通ではない作品だった
自己紹介記事
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
黒沢清監督映画『Cloud クラウド』は、全然ありそうにない設定・展開の物語を役者の演技が成立させていた、とても異様な作品
「別の惑星で展開されている物語」みたいに感じられた
「どうせ理解できないだろう」みたいなスタンスで観に行ったので、全然想定通りなのだが、それにしてもやはり、まったく意味が分からなかった。
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というか、「『別の惑星で展開されている物語』みたいに思えた」と表現する方が正しいだろうか。
もちろん、登場人物は宇宙人やスーパーマンなどではなくごく普通の人間だし、というか、菅田将暉、古川琴音、窪田正孝、岡山天音、奥平大兼と「見知った俳優」が出てくるわけで、パッと見は「ごく普通の人間の物語」に思える。ただ、登場人物たちが「地球に住む人間の理屈」で行動しているようには見えないのだ。動機や行動原理が、まったく想像できなかった。だから「見た目が地球人そっくりな宇宙人」あるいは「意識を宇宙人に乗っ取られてしまった地球人」の物語に見えてしまったのである。
そう、本作『Cloud クラウド』には、人間がいないのだと思う。「人間の理屈」では、彼らの行動を捉えるのは難しいだろう。
ただ、そんな物語において個人的にちょっと興味深いと感じたのが、菅田将暉演じる吉井良介が、ラストのムチャクチャな展開において唯一「人間っぽい振る舞い」をしたことだ。一瞬だけ出てくるような人物はともかく、本作のメインの登場人物は大体、最後の最後まで人間っぽくない。ただ吉井良介だけは、「『ある物』を持って駆け回らなければならなくなった時点」から、急に人間らしくなったように思う。先述した「宇宙人に意識を乗っ取られた説」を採用するなら、「1人だけ目が覚めた」みたいな印象である。とはいえ、そのことがこの物語においてどんな意味を持つのか、それは私には何とも分からないのだけど。
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ちなみに、本作を観るよりも前に、菅田将暉が何かのバラエティ番組に出て話をしていたのをたまたま見ていたのだが、その中で、本作『Cloud クラウド』の黒沢清監督の話をしていた。そしてその際に披露していたエピソードは、「人間っぽくない」という要素に少しだけ繋がるものがあるんじゃないかと思う。
菅田将暉が言うには、多くの監督が「感情ベースで演出する」のだそうだ。つまり、「この場面でこの人物はこういう感情で云々」みたいな説明をするということだろう。しかし黒沢清はそうではないらしい。役者が「この時の役の感情は?」みたいなことを聞いても、「うーん、どうかなぁ、分かんない」みたいな反応になるのだそうだ。一方で、「動きの演出」はかなり明確に指示されるという。そして菅田将暉の感覚では、黒沢清が提示するその「動き」が、どうも「不気味さ」を増大させるようなものであるらしい。「普通の人間がするのとはちょっと違った動きの説明がされる」みたいなことも言っていた気がする。そういう話を踏まえると、私が感じた「人間っぽくない」という感覚も、あながち的外れではないのかもしれない。
「匿名性」や「『本当の自分』を隠す」といった要素が作品全体に通底している
本作は「クラウド」というタイトルからもイメージ出来るように、「匿名性」みたいなものが背景にある物語だ。主人公の吉井は、「転売ヤー」という社会に何も貢献しない仕事をしているのだが、そんな彼は売る際に「ラーテル」というハンドルネームを使っている。どこの誰なのか分からないように「匿名性」をまとっているというわけだ。また、彼はしばらくして何者かに「狩りの標的」にされてしまうのだが、彼が「標的」にされた過程や「狩り」を行う者たちの存在そのものにも「匿名性」が関わってくるのである。
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ただ本作の場合、タイトルや設定から容易に想像可能な「匿名性」という要素は、物語の表層にはあまり上がってこない。確かに、作品世界全体には間違いなく通底しているし、作中のあらゆる展開が、「見えない部分ではきっと、『匿名性』に関係する何かが関わっているのだろう」みたいに想像させはする。しかし、あくまでも「想像させる」程度のことであり、「匿名性」という要素が物語の中ではっきりと大写しされるみたいな状況にはならない。
それよりも目立っていたのが、「対面している相手に『本当の自分』を隠している」みたいなスタンスである。これも、ある意味では「匿名性」と言えるかもしれない。ただ、一般的に「匿名性」というのは「ネットなどを介しているため顔が見えない」みたいな状況を指すように思うが、本作ではそうではなく、「対面していても相手の心が見えない」みたいな状況が描かれている。本作の場合、全体としてはそういう要素の方が強く滲み出ていたように思うし、「匿名性」とは少し異なる感じがした。
先ほどは「宇宙人に意識を乗っ取られた」みたいな話をしたが、そうではなく本作を「人間の物語」と捉えた場合、「『見せている自分』と『本当の自分』は違っていて、『本当の自分』は相手から見えないように隠している」なんて見方も出来るだろう。またその描かれ方も様々で、登場人物の中には、「これは絶対に『見せている自分』で、『本当の自分』を出してはいないな」と感じられる人もいるのだが、その一方で、「『見せている自分』なのか『本当の自分』なのか何とも判断できない」みたいな人もいる。吉井や、その恋人である秋子などは後者のタイプと言っていいだろう。
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吉井を演じた菅田将暉は意識的に「アホみたいな喋り方」をしている感じだったし、秋子を演じた古川琴音はかなり過剰に「ミステリアス感」を醸し出しているような気がした。恐らく、監督からの指示なのだろう。そして彼らの雰囲気からは、「吉井・秋子は別に『鎧』のつもりでそんな振る舞いをしているわけではない」のだと伝わってくるし、そのこともとても印象的だった。
「『本当の自分』を守るために『見せている自分』を『鎧』として機能させる」みたいな話はとても分かりやすいし、意識的か無意識的かはともかく、そういう振る舞いをしている人は結構いるんじゃないかと思う。ただ、吉井からも秋子からもそのような雰囲気はまったく感じられなかった。だから、「『本当の自分』を隠すための『見せている自分』があるのかどうか」も分からないし、「その言動に意図や理屈があるのかどうか」も見えてこないというわけだ。
それ故に本作は、「共感を完全に排除している」みたいな雰囲気をまとっているのだと思う。「共感」を何よりも重視するという人には向かない作品だと思うが、「共感なんか微塵も与えるつもりがない」と理解した上で観ればかなり受け入れやすくなるだろう。そんな尖ったスタンスを貫き続けているところは、凄く好感が持てた。
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しかしそれにしても本作には、行動の理屈が想像出来ない人物が多すぎるなと思う。もちろん、「人間の行動原理なんて普通分からない」なんてことは理解しているし、そういう複雑性があるからこそ人間は面白いのだが、そうだとしたって本作での人間の描かれ方はなかなかイカれている。特に謎だったのは、物語のかなり早い時点で「君はそういう人間じゃない」と吉井に言っていた人物。このシーンにおける「他人の気持ちを想像する力が皆無な雰囲気」も凄まじかったが、その後の「こいつはどうしてここにいるんだ?」みたいな感じもかなり異様だった。ただその人物も、どちらかと言えばだが、後半の方が「人間っぽい」雰囲気があったなとは思う。これもまた、実に奇妙な感覚ではあるのだが。
そんなわけで、果てしなく狂気的な物語だったなと思う。決して嫌いではないし、観て良かったとも思っているのだが、最初から最後までまったく意味が分からなかったし、その異様な雰囲気がとても印象的な作品だった。
監督:黒沢清, Writer:黒沢清, 出演:菅田将暉, 出演:古川琴音, 出演:奥平大兼, 出演:岡山天音, 出演:荒川良々, 出演:窪田正孝
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最後に
本作においてはやはり、なんと言っても役者の上手さが際立つだろう。物語がしっかりしている作品なら役者の演技が多少下手でも観れると思うが、本作のようにストーリーらしいストーリーが存在しないような映画の場合には、役者の演技が下手だと致命的である。
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その点本作の場合は、メインの役者が皆とにかく上手い。ストーリーは無いし、人間っぽくない人物ばかり出てくる物語なのに、全体としては成立している感じがある。さらに、「人間っぽくない」という見え方は、ともすれば「感情が見えない下手な演技」と受け取られてもおかしくないのだが、役者たちの技量によって下手には見えない。この点も重要だったなと思う。特に菅田将暉は、「吉井良介」という不可解な人物をギリギリ成立させるための絶妙な綱渡りを成功させた感じがする。いやむしろ、「菅田将暉が演じている」という事実こそが「吉井良介」を成立させたとさえ言えるかもしれない。
また同じようなことは、奥平大兼が演じた佐野という役にも言えるだろう。作中の登場人物の中でも群を抜いてリアリティの無い人物である。しかしそれでも、奥平大兼は「リアルの世界にもギリギリ存在するかもしれない」と思わせるライン上の演技をしていた感じがあって、見事だったなと思う。佐野は本当に難しかっただろうなぁ。いやもちろん、本作の役者全員に対して同じことが言えるわけだが、菅田将暉と奥平大兼に対してはより強くそう感じさせられた。
そんなわけで、「共感」を求めても仕方ないし、「納得」や「爽快感」なんかも一切ない。ただ、「なんだかよく分からないけど凄いものを観たような気がする」みたいな気分になりたい人にはオススメ出来る作品だ。なんとも変な紹介の仕方だが、変な映画なのだから仕方ない。
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