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オススメ記事一覧(本・映画の感想・レビュー・解説)
本・映画の感想ブログ「ルシルナ」の中から、「読んでほしい記事」を一覧にしてまとめました。「ルシルナ」に初めて訪れてくれた方は、まずここから記事を選んでいただくのも良いでしょう。基本的には「オススメの本・映画」しか紹介していませんが、その中でも管理人が「記事内容もオススメ」と判断した記事をセレクトしています。
この記事で取り上げる本
著:ローレンス・M・クラウス, 翻訳:吉田三知世
¥1,210 (2021/09/06 06:18時点 | Amazon調べ)
ポチップ
この本をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- アインシュタイン、ホーキング並に著名なファインマンは、科学者以外のエピソードも非常に有名
- 「新しく危険な領域が好き」「他人の研究に興味がない」という性格が科学にどんな貢献をもたらしたか
- あまりに時代を先駆けすぎた天才故の自己評価の低さ
「科学者」のイメージを軽々と超越する別次元の天才が、「科学者」として何を残したのかを知ることができる
自己紹介記事
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ファインマンについて、一般的に最も知られているだろう事実は、「チャレンジャー号爆発事故の調査」だろう。スペースシャトルの爆発事故の調査を依頼されたファインマンは、Oリングと呼ばれる小さな部品に不備があったことを突き止めた。
『ご冗談でしょう、ファインマンさん』という自伝は世界的な大ベストセラーとなり、陽気でイタズラ好きで妻を愛した「人間」としてのファインマン像は広く知られている。ロスアラモスでの原発開発中に金庫破りに精を出したとか、ブラジルでボンゴという打楽器を練習し人前で披露するようになったとか、ストリップバーの片隅で研究をしていたなど、普通の科学者ではあり得ないエピソードが満載の人物であるが故に、書籍ではそれらの面白話ばかりが取り上げられる傾向にある。
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私も本書を読むまで、「ファインマンという科学者が、一体どのような業績を残したのか」を網羅的に知る機会はなかった。
「くりこみ理論」でノーベル賞を受賞したとか、自身の名がついた「ファインマン・ダイアグラム」を生み出したなど、断片的な情報は知っていたが、それら全体像を理解できる一般向けの書籍はあまりないと思う。
本書の訳者も、こんな風に書いている。
そんなクラウスが「ファインマンの科学上の業績を通して、彼の人物像を映し出すような本」を書いてほしいともちかけられたのに応えて目指したのは、天才科学者ファインマンの成果、それが20世紀の物理学に及ぼした影響、21世紀の謎を解明するうえでどんな刺激になるかを、一般の読者にもなるべくわかりやすい文章で示すことだった。一般読者向けの科学書として、ファインマンの物理学をその広い範囲にわたって、ここまで詳しく説明しようとしたのは、本書が初めてではないかと思われる
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これほどまでに名前が知られ、多岐にわたるエピソードで有名な科学者の「業績」が知られていないというのも不思議な話ではある。
ファインマンの業績をまとめた本はほとんどないものの、カルテク(カリフォルニア工科大学)での講義をまとめた『ファインマン物理学』本は、これまた世界的に広く知られている名著であり、物理学者になろうとするすべての人の必読本であるそうだ。
こんな逸話が知られている。
ファインマンはカルテクで、学部生向けの講義を頼まれた。講義など経験のなかったファインマンだが、1年目からその講義は大いに話題を呼んだ。なんと、学部生向けの講義を、大学院生や教授まで聞きに来るようになったのだという。
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ファインマンの講義は正直なところ、学部生にはレベルが高かったようだが、しかしめっぽう面白いと評判で、噂が噂を呼んで他の教授まで聴講に訪れるようになったのである。難解な物理学の世界を、一般向けに分かりやすく説明する能力は圧倒的だったようで、これもまた、第一線で活躍した科学者には非常に珍しいと感じる。そして、その講義をまとめた本も名著と評されることになるのである。
さてそんなわけで本書は、一般的には「面白いエピソード」ばかりが描かれるファインマンの「業績」に焦点を当てる珍しい作品だ。
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ファインマンが活躍した「量子力学」という分野は、この分野そのものが非常に難解であり、私には正直理解が及ばない部分も多々ある。ファインマン自身も、
量子論を理解しているというやつがいたらそいつは嘘つきだ
という有名な言葉を残しているほどだ。
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さらに本書を読んで理解したのは、「ファインマンはあまりにも時代を先駆けていた」ということだ。ファインマンの業績は、現在の視点で捉えても、非常に常軌を逸した斬新な視点やアイデアを提示していると言えるのだそうだ。つまり、ファインマンと同時代の科学者にはほとんど理解できなかったに違いないほど彼は先んじていたそうだ。
このような理由から、「ファインマンの業績を説明する」という仕事は私の能力を遥かに超えるのだが、私が理解できた範囲でまとめていこうと思う。
学生時代に、アインシュタインの前で発表を行う
当然と言えば当然ではあるが、ファインマンは学生時代からずば抜けて天才だったようだ。
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こんな話がある。MIT(マサチューセッツ工科大学)に入学した彼の元には、出願していないのに何故かハーバード大学から奨学金が与えられた。理由は、とある数学コンテストで優勝したからだ。物理学科所属だったにも関わらず、数学科のチームに入ってくれと頼まれて参加したところ、圧倒的な得点差で優勝してしまったのだという。
しかしその後、ファインマンはハーバード大学には行かず、プリンストン大学に進む。その理由を著者は、「そこにアインシュタインがいたからだろう」と推測している。プリンストン大学は、アインシュタインが最後に腰を落ち着けた場所である。
しかしプリンストン大学でファインマンは、思ってもいなかった人物と関わることになる。それが、ホイーラーである。「ビッグバン」の名付け親として知られ、多彩な業績を持ち、非常に豊かな想像力があった、歴史的にも非常に有名な科学者の一人である。ファインマンはこのホイーラーととても話が合ったのだ。
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ファインマンがプリンストン大学に入った当時、物理学の世界では「自己エネルギー」に関する問題が知られていた(ただし、この問題は私には理解できなかったので説明しない)。この問題について考えていたファインマンは、ある常軌を逸した解決策を思いつき、ホイーラーに自説を話に行った。
するとホイーラーは即座にそのアイデアの欠陥を指摘してみせた。さらにホイーラーはそこで、ファインマンのアイデアを遥かに上回るぶっ飛んだアイデアを提示したという。それが、「粒子が時間を遡って作用する」というものだ(これももはや、何を言っているのか私には理解できない)。ファインマンはこのアイデアを独自に深め、自分なりの考えをまとめていくことになる。
このように、ホイーラーとのやり取りはファインマンにとって非常に有意義だったようだ。
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そして、ただの大学院生でしかなかったファインマンはなぜか、アインシュタインやノイマン、パウリといった時代を彩るスター物理学者たちの前で自分のアイデアを発表しなければならなくなった。ファインマンがどれだけ天才で、どれだけ期待されていたのかが伝わるエピソードだろう。
さて、ホイーラーとファインマンが考えたアイデアは、結局間違っていた。この点に関して本書には、「科学」というものの捉え方を改めさせるようなこんな文章が載っている。
だとすると、これだけ熱心に取り組んだ研究に、どんな意味があったのだろう? それはこういうことだ――科学では、重要な新しいアイデアはほとんどすべて間違っているのだ
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科学の歴史においては、「あまりにも斬新すぎて、発表した当時はまったく受け入れられなかった」などというエピソードは山ほど存在する。しかしそのような斬新で理解不能なアイデアにも一定数正しいものがあり、そのぶっ飛んだアイデアがブレイクスルーとなって科学が進展していくことも多い。
そしてまさにファインマンは、ぶっ飛んだアイデアにしか興味がない人物だった。本書にも、「新しく危険な領域に突き進むのが好きだった」というようなことが書かれている。
そして、彼が「分かりやすく評価される成果」を残さなかった理由の1つがこのスタンスにあると言える。
ファインマンは「まとまった成果」を残さない科学者だった
ファインマンにはもう1つ、特徴的な点がある。それは、「他人の業績に興味を持たなかった」ことだ。そう考える根本について、著者はこんな風に書いている。
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彼は、彼自身の方法を使って第一原理から自分で導き出したものでなければ、どんなアイデアも絶対信用しなかった
科学者というのは、先行する研究を理解し、「ここまでは既に分かっている」というスタートラインに立った上で、じゃあそこに自分が何を付け足せるか? と考えながら研究を進めていくのが普通ではないかと思う。しかしファインマンは、とにかく他人の研究を知ろうとしなかったという。何でも自分で導き出せてしまう天才ゆえだろう。
そしてこれらの、「新しく危険な領域に進みたい」「他人の業績に興味がない」という性格ゆえに、「ファインマンの業績はこれだ」という明確なものが残らなかったと著者は指摘している。
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例えば本書では、「超電導」に関するファインマンの貢献が説明される。彼は「超電導」の問題を把握し、その問題について「どのような指針で進んでいけばいいのか」について思考を巡らせた。そして、ファインマンが立てたその指針は最終的に、
この分野に取り組む物理学者たちが彼らのテーマをどう考えるかを、いかに変えてしまったか
というほどの影響を与えることになったという。
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しかしファインマンは結局、方針だけ立てて、「超電導」の謎を解き明かすことはしなかった。その理由を著者は、
この分野におけるそれまでの研究を一通りでも調べようとしなかった
からだと指摘している。
つまり、ファインマンが先行研究を調べ、「超電導」に関する研究の現状を理解してさえいれば、ファインマン自身が「超電導」の謎を解き明かしたに違いない、ということだ。しかし彼は、第一原理から自分で考えたいタイプであり、他人の業績を調べることにも興味がなく、さらに常に新しく危険な領域に惹かれ続けたために、結果として「超電導」の謎と真剣に向き合うことはなかったのである。
もしかしたら、彼がもっと他人に耳を傾け、周りの人々から学ぼうとし、さらに、絶対にすべてを自力で発見するんだと、徹底的にこだわったりしなかったなら、彼はさらに多くのことを成し遂げられたかもしれない。しかし、達成は彼の目的ではなかった。彼の目的は、世界について学ぶことだった。彼は、楽しみは何かを発見することにこそあると感じていた――たとえそれが、彼以外の世界中の人々がすでに知っていることだったとしても。
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「たとえそれが、彼以外の世界中の人々がすでに知っていることだったとしても」というのは、まさにファインマンの研究を理解する上で重要だろう。ファインマンにとって重要だったのは、「誰も見つけていない新たな真理にたどり着くこと」ではなく、「既に研究され尽くしていることでも、自分が楽しいと思えるものを見つけ、それについて自分なりに考えること」だった、というわけだ。
これは要するに、「自力で家を建てる」と決めた時、本も読まず、ネットでも調べず、専門家の助けも借りずに、木の切り方から電気の配線の仕方、水道設備の設置、耐震補強の方法などをすべて0から自分で考えて実行しないと気がすまない、というようなものだろう。
ファインマンが、そんなスタンスを手放し、「未発見・未解決の謎を解決する」というスタンスを取っていてくれたら、もっと数多くの難問が解き明かされていたかもしれない。凡人の私からすれば、とても残念なことに感じられる。
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また、本書にはこんなエピソードも紹介されている。
ファインマンは液体ヘリウムについて考えている内に、あるアイデアを思いついた。そして、ファインマンにしては非常に珍しいことに、それをテーマに論文を書いた。ファインマンはとにかく、他人に説明するために論文を書くことを億劫がる人物であり、自発的に論文を書くことは稀だったという。
しかしその後、まったく同じテーマについて2人の若手物理学者が論文を発表したばかりだと知る。既に名を知られる存在だったファインマンが、ここで論文を発表してしまっては、ファインマンの論文にばかり注目が集まることになる。
そう考え、結局ファインマンは自身が執筆した論文を発表しなかったという。ファインマンも気づいていたその現象は無事、2人の物理学者の名前を取って「コスタリッツ―サウレス転移」と呼ばれている。
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このエピソード1つとっても、規格外の科学者だと感じさせられる。
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その後2人は、古典電磁気学に関する研究をまとめ、さらに、量子力学を組み込むことが可能かについて研究することになった。
さて、当時の状況を理解しよう。既に量子力学の世界では「シュレディンガー方程式」が知られており、さらにディラックが量子力学に特殊相対性理論を組み込んだ「ディラック方程式」を作り上げていた。これらの先行研究を理解すれば、「古典電磁気学に量子力学を組み込む」という研究がしやすくなるというわけだ。
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しかしファインマンは先述した通り、独自のやり方で進めなければ納得できなかった。そこで彼は、高校時代に知った「ラグランジュの最小作用の原理」を軸に、量子力学をまったく新しい発想で捉えられないだろうかと模索するのである。
そのアイデアを、とあるパーティーに来ていたヨーロッパの物理学者・イエラに話したところ、天才・ディラックが発表したある論文にヒントがあるかもしれない、と示唆を受けた。ファインマンはそれを聞き、即座に図書館へと駆け込みディラックの論文を読んだ。そしてイエラが驚愕するほどのスピードで計算を行い、自らの考えの正しさを理解するに至ったという。
そんなディラックも、量子力学を語る上で外せない天才として知られているが、非常に人付き合いの悪い、科学者の中でも相当に変人でもあったようだ。本書には、ユージン・ウィグナーという科学者のこんな言葉が紹介されている。
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ファインマンは第二のディラックだ。唯一の違いは、今度のディラックは人間だというところだ
知能レベルは同等だが、非人間的だったディラックとは違い、ファインマンはすこぶる人間的だ、という意味である。ファインマンの人付き合いの良さも科学者としては特異だと感じるが、いかにディラックが難しい人間と捉えられていたのかも分かる言葉である。
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そして、プリンストン大学を選んだ時と同じく、この選択はファインマンに思いがけない出会いをもたらすことになる。後にファインマンの人生において決定的に重要な役割を果たすことになるダイソンがいたのだ。天才と認められていた彼は元々ケンブリッジ大学にいた。そして、「わくわくするような科学の最新の展開に追いつくにはどこに行くのがいいか」と数人の物理学者に相談したところ、その全員が、コーネル大学のベーテのグループと答えたのだ。
そんなわけでベーテのグループにいたダイソンと、ファインマンは出会うことになる。
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先述した通り、量子力学に特殊相対性理論を組み込んだ方程式をディラックが考え出していた。であるならば、QEDにも特殊相対性理論を組み込めるはずである。そして研究の末、ファインマンはついにそのやり方を編み出したのだ。彼は、この業績でノーベル賞を受賞することになる。
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「ファインマン・ダイアグラム」は量子力学の捉え方を一変させたわけだが、しかし初めから理解されたわけではない。
というか「ファインマン・ダイアグラム」は、発表当初まったく理解されなかった。
ファインマンは直観的に思考する人物であり、先述した通り、そもそも論文を書くのを嫌った。彼の頭の中では、自ら生み出した「ファインマン・ダイアグラム」の有用性は明らかだったのだ。しかし、「ファインマン・ダイアグラム」について量子力学の重鎮たちに説明をしても、まったく理解されなかった。
そこでファインマンは、「しょうがない、嫌だけど論文でも書くか」と考えるようになった。しかし、図で表すという視覚的なアイデアを、どのように言葉で納得させればいいのかについて非常に苦心したという。
そんな状況をファインマンから聞いたダイソンは、「ファインマン・ダイアグラム」について説明する論文をファインマンが発表するよりも先に、「シュウィンガー、朝永振一郎、ファインマンの手法は、どれも数学的には同じ」だと示す論文を発表した。この論文のお陰で、「ファインマン・ダイアグラム」は一気に物理学の世界に浸透することになる。
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もちろんダイソンの論文がなかったとしても、「ファインマン・ダイアグラム」はいずれ広まっただろうが、もっとずっと時間を要したことだろう。
ファインマンが科学に対して成した貢献
さて、「ファインマン・ダイアグラム」の有用性を理解していたファインマンだったが、しかし自身のこのアイデアへの評価は決して高くはなかった。
というのは、「便利な方法を見つけただけで、本質的な発見ではない」と考えていたからだ。
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1965年に業績を評価されてノーベル賞を受賞したまさにその瞬間に至るまで、そして、この受賞のときも含め、じつに長い年月にわたってファインマンは、自分の方法は単に便利なだけで、深さはないと感じていた。量子電磁力学から無限大を一掃するような、自然が持つ何か根本的な性質を新たに暴露したわけではなく、それらの無限大を無視しても他に支障が出ないような方法を見つけただけだった。ほんとうの望み――経路積分によって、自然の根底についてわれわれが持っている理解が刷新されて、相対論的量子力学が抱えてきた病が治癒されるという望み――は叶わなかったのだと彼は感じたのだ
しかし、ファインマンのこの自己評価は間違っている。本書を読んでも上手く理解できなかったので、説明も十分には出来ないのが残念ではあるが、「ファインマン・ダイアグラム」は単なる「便利なやり方」ではなく、「量子力学の本質的な部分を掴み取る大発見だった」と現在では評価されているようだ。
他にも、そのすさまじい直観力で、ファインマンは、彼が生きていた時代には知られていなかった宇宙に関する事実を、それが発見・観測される以前に予言していたのだという。
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驚くべきことに、ファインマンが研究を行なった時代には、宇宙の最も大きな尺度について今日科学者たちが知っているほとんどすべてのことが、まだ知られていなかったのである。それでも、多数の重要な領域に関する彼の直観は、一つの例外を除いてどれもみな正しかった。そして、観測的宇宙論の最先端での実験が、重力子を重力場の基本量子であるとする彼の描像が正しいという、最初の証拠をまもなく提供してくれるだろうと期待される
ここで「一つの例外」と書かれているのが「重力波」に関するものである。そして本書の発売後に「重力波」は見事観測され、宇宙に関するファインマンの予測はすべて正しかったことが明らかになっている。
「新しく危険な領域」が大好きだったファインマンは、結局、つまみ食いするように様々な分野に関わった。そして、専属の研究者がたどり着けなかった独創的な発想や計算手法を編み出し、「ファインマンの業績」という形では評価できない様々なレベルで、科学に対して大いなる貢献を成したのである。
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彼は、新しい領域を探っては、そこで使える極めて独創的な数学手法を創出し、また、その分野の物理学の洞察を新たにもたらした。これらのものは、その後ほかの者たちが成し遂げる重要な展開――やがては、たくさんの大発見につながり、実質的に現代理論・実験物理学のほとんどすべての領域を推進した展開である――に大いに貢献した。これは、彼の凝縮系物理学の研究から、わたしたちが共有している弱い相互作用と強い相互作用の理解、現在の量子重力や量子コンピュータの研究に至るまでの広い範囲にわたる。だが、彼自身は、発見をすることもなければ、賞を取ることもなかった。この意味で、彼は現代の科学者ではほとんど並ぶ者のないほど物理学を前進させ、新しい研究領域を拓き、鍵となる洞察をもたらし、それまで何もなかったところに関心を引き起こしたが、後方、あるいは、せいぜい側面から指揮をとるという傾向があった
結果的にファインマンには、「くりこみ理論」や「ファインマン・ダイアグラム」などの目立つ業績も残ったが、仮にそれらがなかったとしても、ファインマンが科学に対して成した貢献はとてつもなく大きかった、ということだろう。
改めて、凄まじい科学者だと感じた。
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冒頭で書いた通り、ファインマンという科学者は、科学的な業績以外のエピソードの方が有名だ。そのような逸話を扱った作品はたくさんあるので、是非読んでみてほしい。
そしてさらに本書で、ファインマンがどのような貢献を成したのかが理解できる。そして本書を読めば、その特異な研究スタイルによって、「ファインマンはこのような功績を残した」と簡単には説明できない、ということも分かるだろう。
アインシュタインやホーキングと比べると、特に日本での知名度は低いかもしれないが、逸話のぶっ飛び度で言えば引けを取らない。むしろ上回っているとさえ言えるかもしれない。業績はともかく、ファインマンの面白エピソードには、何らかの形で是非触れてほしいと思う。
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