【友情】セリフの無い映画『ロボット・ドリームズ』は、そのシンプルさ故に深い感動へと連れて行く

目次

はじめに

この記事で取り上げる映画

いか

この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ

この記事で伝えたいこと

「セリフが無い」ことによって、「物語がシンプル過ぎること」をすんなり受け入れられる

犀川後藤

そしてそれ故に、「幼児向けの絵本」のような物語にメチャクチャ感動できる

この記事の3つの要点

  • 「言葉」は存在するようだが、作中に登場するキャラクターは一切喋らない
  • 「浜辺に取り残されたロボット」と「ロボット不在による寂しさを紛らわせようとするドッグ」の想いが交錯する
  • 寂しさに耐えかねたドッグがした「ある決断」とは?
犀川後藤

シンプルさのお陰で、誰もが「良い話だ」と感じられる内容に仕上がっていると思う

自己紹介記事

いか

どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください

セリフが一切無いアニメ映画『ロボット・ドリームズ』は、実にシンプルな物語にも拘らず、深い感動をもたらす作品である

なかなか素敵な映画でした。ストーリーだけ抜き出したらとにかくシンプルで、そして恐らく、そのシンプルさ故にグッと来たのだと思います。客席から微かな泣き声や鼻をすすりあげる音が聞こえてきたので、胸を打たれた人が多かったようです。私はそこまではいかなかったのですが、「これは確かに良い物語だなぁ」と思いながら観ていました。

いか

しかし、よくもまあセリフの無い作品を作ろうなんて思ったよね

犀川後藤

「制約がある方が何かを生み出しやすい」って側面もあるとは思うけど

普通ならまず成り立たない物語だと思うが、「セリフが一切無いこと」で成立している

さて本作の物語は正直なところ、普通は映画として成立しないと思います。何故なら「幼児向けの絵本」みたいな内容だからです。物語だけをシンプルに捉えたら、「メチャクチャつまらない作品」だと思います。

しかし、そんな物語が感動作に仕上がっているのはやはり、「セリフが無いから」でしょう。

音楽(劇伴)があったのかちゃんとは覚えていませんが、作中で流れる「音」は、「ラジカセから流れる音楽」や「街のざわめき」、「鳥の鳴き声」「車の走行音」みたいなものだけでした。本作は「動物を擬人化したキャラクターが住む世界」で展開される物語で、テレパシーみたいなものでコミュニケーションを取っているのか、誰も喋りません。というわけで、これも正確には覚えていませんが、「言葉が音声として登場する」のは、「テレビ番組」だけだった気がします(テレビ番組内で言葉が出てきたのかもはっきりとは覚えていませんが)。「文字」は存在する(街中には看板もある)のにどうして誰も喋らないのかは謎ですが、とにかくそういう世界で展開される物語というわけです。

犀川後藤

制作側は「登場人物が喋らない理由」を設定していたのかな?

いか

まあ、別に大した問題じゃないけどね

では、「セリフが無い」とどうなるのでしょうか? 重要なのは、「『ストーリーをシンプルにしないと伝わらないよね』という感覚が、観客全員に共有される」ことだと私は思います。ストーリについて、「なんかシンプル過ぎない?」ではなく、「セリフが無いんだから、シンプルにするしかないよね」のような受け取り方になるというわけです。だからこそ、「幼児向けの絵本」みたいな物語でも違和感なく受け入れられるし、さらに、それぐらいシンプルで普遍的な物語だからこそ、誰もが「良い物語」だと感じられるんじゃないかと思います。

ただ、「セリフが無い物語」と言っても色々で、少し前に観た『ゴンドラ』という映画はまたちょっと違うタイプでした。本作同様、セリフが一切無い映画でしたが、『ゴンドラ』は「ストーリーがシンプル」なわけではありません。というか、凄まじく奇妙な物語で、「よくもまあこんな訳の分からないストーリーをセリフ無しで作ったものだな」と感じさせられました。「セリフが無い」という構成でも、やり方は色々あるというわけです。

いか

映画『ゴンドラ』はホントに奇妙で、冒頭からしばらくの間かなり意味不明だったよね

犀川後藤

途中から「なるほどそういう感じか」って分かったけど、冒頭の展開はちょっと理解力が試されたわ

さてそんなわけで、本作はとにかく凄まじいぐらいシンプルなのですが、途中途中でちょっと変わった演出がなされ、「視覚的な面白さ」もあったりします。『ロボット・ドリームズ』というタイトルの通り、作中には「ロボットが見ている夢(妄想)」みたいなシーンがかなり挿入されていたのです。そこには「否応なしに離れ離れになってしまった人にどうしても会いたい」という強い気持ちが詰まっていて、そういう観点で捉えれば「必然性のあるシーン」といえるでしょう。ただそれはそれとして、そのシーン単体で捉えた場合にはかなり奇妙な雰囲気があって、全体の中で上手くアクセントとして機能しているなと感じました。

特に面白かったのが、「メタ的」という表現で合っているのか、「ロボットがスクリーンから出てくる」みたいな演出です。言葉で説明するのはちょっと限界があるので詳しくは触れませんが、こんな風に色んな趣向で観客の興味を惹きつける構成も上手かったなと思います。

映画『ロボット・ドリームズ』の内容紹介

主人公のドッグ2本足で立つ犬。作中世界では、様々な動物が街中で人間のように暮らしている)は日々、あまりにも退屈な日常を過ごしていた。ゲームのコントローラーを両手で持って1人で対戦ゲームをやったり、興味の持てないテレビ番組をザッピングしたり、毎日代わり映えのしないものを食べたりと死んだような目で生きていたのだ。

そんなある日のこと、何となく観ていたテレビに「Are you alone?(あなたは孤独?)」と表記され、ドッグは注目する。どうやら、「友人ロボット」のCMらしい。こんな日常を変えたいと思ったドッグはすぐに電話で購入し、数日後には宅配便で家に届いた。イケアの家具のように、自分で組み立てる方式のようだ。黙々と作業しスイッチを入れると、無事にロボットが起動した

こうして、それまでとはまるで違う楽しい日々が始まる。毎日くすんだような日々だったのが嘘みたいだ。買い食いしたり、ローラースケートで遊んだり、地下鉄に乗ったりと大したことをしているわけではないが、「隣に誰かいる」というだけで気持ちが全然違う日常が一変したような感じで、ドッグとロボットはお互い、すぐにかけがえのない存在となったのである。

ある日、ドッグはロボットをビーチへと連れて行った。海に入ってはしゃぎ、さてそろそろ帰ろうかと思った頃、思いがけない出来事が起こる。海に入ったせいで恐らく錆びてしまったのだろう、浜辺に寝転がっていたロボットが起き上がれなくなってしまったのだ。ドッグは必死にロボットを起こそうとするが、家で組み立てた時も、電源を入れるまでまるで動かせなかった代物である。ドッグの力でどうにかなりそうな気配はまったくなく、結局その日はビーチにロボットを残して家に帰るしかなかった

そして翌日。工具を携え、途中でロボット修理の本を買って再び海岸へと向かったのだが、ドッグはなんとビーチに入れなかったビーチの開放は昨日までだったようで、浜辺に横たわるロボットを残したまま、ビーチは鉄の柵で閉鎖されていたのだ。看板には「6/1まで」との表記。来年まで待たなければならないようだ。ドッグはそんなに待ってられないと思い、鍵を壊して無理やり入ろうとするのだが、そのまま警察に捕まってしまった

これはもうどうにもならない一旦諦めよう。ドッグは冷蔵庫に「6/1 ロボット救出!」というメモを貼り、ロボットのいない日常へと戻った

こんな風にして2人は離れ離れになってしまったのだが……。

映画『ロボット・ドリームズ』の感想

物語は基本的に、ドッグとロボットが離れ離れになったままの状態で続いていくため、ロボットの方は「夢(妄想)」の話が中心になります。まったく動けないのだから当然でしょう。ただ実は「夢(妄想)」以外の展開もありますただひたすら横になっているだけのロボットの方にも、ちゃんと現実世界で展開される物語が存在するわけで、そんな構成もなかなか面白いと感じました。

いか

ビーチは完全に封鎖されてるから、誰もロボットには近づけないはずなんだけどね

犀川後藤

そこを上手いこと展開させていくんだよなぁ

そんなわけで、物語は全体として、動けるドッグの話が中心になります。そしてそのストーリーは、とにかく「お前がいなくて寂しい(I miss you)」を描き出していくのです。くすんでいた日常に彩りをもたらしてくれたロボットと離れ離れになったドッグは、また以前のようなつまらない日々に逆戻りしてしまいます。

ただ、今度のドッグは少し違いました。「このままじゃいけない」と考えたのです。確かに来年になれば、ロボットを助けに行ってまた楽しい日々を過ごせるわけですが、「それまでの間だって楽しく過ごすべきだ」と思うようになったのでしょう。そのためドッグは、「ロボットの代わりになるような友人」を見つけて楽しもうとします。スキー教室に参加してみたり、凧揚げしているアヒルの女性と仲良くなったりと色々チャレンジしていました。ただ、やはりそうそう上手くはいきません。そして、そんな日々を過ごしていた末にドッグはある決断をするのですが、その話には触れないでおきましょう。

犀川後藤

「まあ、そりゃそう考えもするよね」って思ったりはする

いか

それに、そういう展開があるからこそ、物語のラストの方の流れも良く思えた気がするしね

というわけで本作では、「ドッグと会いたい気持ちを持ちつつも身体がまったく動かないロボット」と、「ロボットとの楽しい日々が忘れられずに色んな他者と関わるものの全然上手くいかないドッグ」の想いが交錯していくような展開になるというわけです。そんな「絆の強さ」みたいな部分にグッと来るのではないかと思います。

最後に

最後にどうでもいいことを1つ。「マルバツゲームって外国にもあるんだな」と感じました。映画『PERFECT DAYS』(ヴィム・ベンダース監督)にも「マルバツゲーム」が出てきて、「外国人にも理解できるのか?」と思ったのだけど、あんなシンプルなゲームなのだから日本オリジナルなわけないですよね。ちなみに英語では「tic-tac-toe」という名前らしいです。

そんなわけで本作は実にシンプルな物語で、本来的にはそのシンプルさはマイナスに働いてもおかしくない気もしますが、本作の「セリフが無い」という性質によりむしろプラスに転嫁されているように感じました。そしてだからこそ、その「シンプルさ」がとてつもなく強力に作用し、誰にでも響く物語に仕上がっているのだと思います。

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