目次
はじめに
著:大鐘 良一, 著:小原 健右
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この記事で伝えたいこと
「得意な部分がある」ことより「欠点がない」ことが重視される「最強の就活」
求められる能力が目に見えづらいこともあり、見極めるために過酷な環境に置かれる
この記事の3つの要点
- 独自取材が困難なJAXAの扉を、長い長い交渉の末に打ち破ったNHK
- 閉鎖空間に1週間閉じ込められ、困難な課題が課される1次試験
- NASAでの2次試験では、意外なことに「面接」が何よりも重視される
「100点はなくてもいいが、50点があってはいけない」という選抜の過酷さに驚かされます
この記事で取り上げる本
著:大鐘 良一, 著:小原 健右
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自己紹介記事
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「宇宙飛行士への転職」という、「最強の就活」と評される難関を、NHKが独自取材したノンフィクション『ドキュメント宇宙飛行士選抜試験』
2021年、JAXA(日本宇宙航空研究開発機構)は13年ぶりとなる宇宙飛行士の募集を行いました。つい先日、205人が0次試験に合格したと発表され、今後さらなる選抜が行われていくことになります。
応募規定に達していないと分かった上で、福井県の小学1年生が挑戦したってニュースも話題になったよね
志望動機とか実績も本人なりにちゃんと書いてて、熱意って凄いなって思った
さて本書は、その13年前に行われた宇宙飛行士選抜試験が扱われる作品です。2008年に10年ぶりに行われた5回目となる宇宙飛行士選抜試験の様子を映し出したドキュメンタリー番組をNHKが制作したのですが、それを書籍化したのが本書になります。
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長い長い交渉の末に許可を得た取材
マスコミ各社の間では、JAXAは「独自取材の難しい組織」として有名なのだそうです。だから、宇宙飛行士選抜試験のドキュメンタリーがNHKで放送された直後、マスコミや記者から苦情の電話が殺到したと本書には書かれています。それまでの経験から、独自取材など不可能だと考えていたマスコミ各社は、「10年ぶりの宇宙飛行士選抜試験」という話題性を理解しつつも、JAXAにアプローチしていなかったのです。マスコミの中には、「密着取材できると教えてくれればうちの社も申し出た」と不満を口にするところもあったと言います。
彼らの憤りがまったく理解できないわけではありませんが、しかしやはりそれは、お門違いの文句だと私は感じました。NHKにしても、無理かもしれないと分かった上で長い長い交渉を行い、どうにか独自取材の許可を勝ち取ったのですから。
「教えてくれれば……」みたいに言っちゃうのは、ちょっと「恥ずかしい」って感じする
「NHKだから取材許可が下りた」って面もあるかもだけど、やっぱり、動かないと何も進まないからね
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NHKのディレクターである著者は、JAXAが10年ぶりに宇宙飛行士を募集すると知ってすぐに交渉に入りました。もちろんJAXAが難敵であることは理解していましたが、彼らは「宇宙に行くことに誰も驚かなくなった時代だからこそ、選抜試験に人生を懸ける若者の姿を世に訴える必要があるはずだ」と力説します。
JAXAは内閣府・総務省・文部科学省・経済産業省が共同で所管する組織であり、国立研究開発法人格の組織としては最大規模の存在だそうです。つまり、それだけ多額の税金が使われているということでもあります。それなのに、億単位の税金を使って宇宙に行った飛行士たちが、寿司を握ったり書き初めをして遊んだりしている映像ばかり見せられるのです。それでは宇宙開発の重要性は伝わらないだろうし、だからこそ、その選抜の過程を示すことには大きな価値があるとプレゼンしていきます。
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長い交渉の末、ようやくNHKは取材許可を取り付けました。この時の取材では、NASAの施設で行われた試験の様子にも密着しているわけですが、NASAでの宇宙飛行士選抜試験の公開も、50年の歴史の中で初だそうです。彼らは書類選考の段階からカメラを回し、落選はしたけれども注目すべき応募者にも光を当てていきます。そして最終的には、2次審査にまで進んだ10名の最終候補者たちが直面する「壮絶な選抜試験」の様子を目の当たりにするのです。
マンガ『宇宙兄弟』で選抜試験の様子を知ったって人もいるかもだけど、やっぱり実際の様子が分かるのはいいよね
私は映像を見てなくて本書を読んだだけだけど、映像も興味あるなぁ
著:小山宙哉
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選抜試験では一体何が行われているのか?
最終候補者10名は、自衛隊員・女医・ベンチャー企業のサラリーマン・パイロット・国際的な研究者など様々な経歴を持っていました。そして彼らは、給与が下がることを覚悟で宇宙飛行士を目指しているのです。
宇宙飛行士というのは、平たく言えば「JAXAの社員」でしかありません。月給も30万円ちょっとと、死と隣合わせの仕事にしては破格の安さだと言えるでしょう。宇宙飛行士に選ばれれば、当然、今の職は辞めることになるわけですから、大幅な給与ダウンになる方もいます。それでも彼らは、様々な理由を胸に宇宙飛行士を目指すのです。
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彼らは、2週間という長期休暇を取得しなければなりません。そして、最初の1週間はJAXAで、残りの1週間はNASAへと赴き、様々な試験が行われるのです。
JAXAでは「閉鎖環境適応訓練設備」と呼ばれる、国際宇宙ステーションを模した環境で1週間過ごすという課題が与えられます。その期間、一切外に出ることはできません。外界との接触は、マイクから聴こえる音声のみ。そんな環境の中で、15分刻みというハードスケジュールで困難な課題が次々に与えられます。
2008年当時、日本ではそんなには広まってなかっただろうけど、当然「スマホの持ち込み」もダメだろうね
今回行われる選抜試験では、「スマホに触れない」ってのが大きなネックになったりするかもね
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「閉鎖環境適応訓練設備」での試験は、本書の描写のメインとなります。課題は多岐に渡り、最後に残ったツワモノ揃いの10名でも、閉鎖空間で多大なストレスにさらされることで、普段の実力が発揮できず苦戦させられてしまうのです。商品として発売されているほど有名な、「なんの絵柄もない真っ白なジグソーパズルを完成させる」という課題など、通常の環境でも難しい作業を、とんでもないストレス環境で行わなければなりません。
その後、NASAへと場所を移してさらなる試験が行われます。意外だったのは、NASAでの試験で最も重視されるのが「面接」だという点です。技量などを見るのではなく、面接によって推し量れる部分を重視するというスタンスを取っています。
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こんな風に、最終的に宇宙飛行士が決定されるまでの流れを、最終候補者たちのこれまでの来歴などに触れながら描き出していく作品です。
宇宙飛行士選抜試験が「最強の就活」と評される所以
宇宙飛行士への“転職”は、「最強の就活」と呼ばれることもあるそうです。本書を読むとその理由が非常によく分かります。
そもそも「就活」を一度もしたことがない私には、普通に就活できる人も凄いって思っちゃうけど
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まず、求められる能力のレベルが非常に高いです。しかもその能力は、「天才的な頭脳」や「超人的な運動神経」と言った分かりやすいものではありません。むしろ、「宇宙という逃げ場のない環境でも耐えられる強い精神力」「国籍を越えて誰からも慕われ信頼される魅力」など、これまでの人生で培ってきた総合的な「人間力」が問われているのです。
しかも「評価の指標」もまた特殊です。それは、最終候補者10名に残った意外な人物のことを知るとより理解できるでしょう。ここでは具体的には触れませんが、宇宙飛行士にはおよそ向いているようには感じられない人物が残っているのです。
そこには、こんな背景があります。宇宙飛行士には「目立つ欠点」があってはならないのです。100点が無くても構わないけれども、50点があってはいけません。すべての要素で60点以上を取ることが求められているわけで、この評価軸もまた、宇宙飛行士になる上での大きなハードルだと感じました。
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一般的に就活って「得意」をアピールするってイメージだけど、宇宙飛行士は「欠点がありません」ってアピールなんだよね
なかなかそんな状況ないだろうし、闘い方も変わってくるんだろうなぁ
一方、NASAでは面接が重視されるという話も興味深いでしょう。しかもそれは並の面接ではなく、候補者たちは徹底的に深く掘り下げられることになります。NASAは、候補者たちの「これまでの生き様」をどうにかして理解したいと考えているようです。50年にも及ぶ経験から、NASAは最終的に「人間を深掘りし、核となる部分をきちんと掴めさえすれば、適切な選抜が行える」という結論に達したということでしょう。日本とアメリカでは、「宇宙飛行士に求めること」が異なるという理由もあるわけですが、日米における試験内容の差も興味深いと感じました。
本書では、候補者の人生やその家族にもスポットが当てられるのですが、なるほどと感じたのは、若くして機長になった白壁氏の妻・礼子さんの話です。
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もし夫が宇宙飛行士になった場合、「収入は減る」「死亡するリスクも上がる」「自宅を手放しアメリカへと移住しなければならない」など、様々な変化が起こり得ます。そこで取材クルーが「今の生活の方がいいのでは?」と彼女に問いかけるのですが、その際の返答が印象的でした。
夫は常に、お客様を乗せて飛行しています。1つ間違えれば、人様を巻き添えにしてしまう可能性がいつもあり、大きな責任を背負わなければなりません。しかし宇宙飛行士であれば、夫の命だけを心配すれば済むので、今よりも気が楽になるかもしれません。
この指摘には非常に納得させられました。確かに、「愛する夫が亡くなる」可能性は高くなるかもしれませんが、「人様を巻き添えにする」可能性はなくなるわけです。その方が気が楽だという感覚は、私も理解できました。
本人以外の人生も大きく左右する宇宙飛行士への”転職”の実際を初めて描き出す、非常に興味深い作品です。
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2022年に行われる予定の宇宙飛行士選抜試験の様子が、何らかの形で表に出てくるなら面白いですが、そうはならない可能性の方が高い気がしています。宇宙飛行士選抜試験で何が行われるのかを理解するためにも、本書を読むなり、NHKオンデマンドで放送を視聴するなりしてみてはいかがでしょうか?
NHKオンデマンド
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過疎地域を「日本の未来の課題の最前線」と捉え、島根県の離島である「海士町」に移住した2人の若者の『僕たちは島で、未来を見ることにした』から、「これからの未来をどう生きたいか」で仕事を捉える思考と、「持続可能な社会」の実現のためのチャレンジを知る
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350年以上前に一人の数学者が遺した予想であり「フェルマーの最終定理」には、1995年にワイルズによって証明されるまでの間に、これでもかというほどのドラマが詰め込まれている。サイモン・シンの著作と「数学ガール」シリーズから、その人間ドラマと数学的側面を知る
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8年のチェック期間を経て雑誌に掲載された「IUT理論(宇宙際タイヒミュラー理論)」は、数学の最重要未解決問題である「ABC予想」を証明するものとして大いに話題になった。『宇宙と宇宙をつなぐ数学』『abc予想入門』をベースに、「IUT理論」「ABC予想」について学ぶ
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どうしても辿り着きたい場所があっても、そのあまりの遠さに目が眩んでしまうこともあるでしょう。そんな人に向けて、「才能がない」という言葉に逃げずに前進する勇気と、「仕事をする上で大事なスタンス」について『羊と鋼の森』をベースに書いていきます
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メガネファストファッションブランド「オンデーズ」の社長・田中修治が経験した、波乱万丈な経営再生物語『破天荒フェニックス』をベースに、「仕事の目的」を見失わず、関わるすべての人に存在価値を感じさせる「働く現場」の作り方
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自己啓発・努力・思考【本・映画の感想】 | ルシルナ
私自身は、仕事や社会貢献などにおいて自分の将来をもう諦めていますが、心の底では、自分の知識・スキルが他人や社会の役に立ったらいいな、と思っています。だから、自分…
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