目次
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この本をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- 「証明」というプロセスは、古代ギリシャ人だけが発展させた
- 「無理数」の発見に恐怖し「証明」が生まれた
- 「無限」を回避するために「背理法」という特異な証明が誕生した
「証明」がなぜ・どのように生み出され、それが「数学の『正しさ』」とどう関係するのかが語られる
自己紹介記事
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本書のテーマについて、著者はこんな風に書いている。
「数学をカチコチの論理という臆見から解放する」こと。一般の人々が数学に対しているような「頭の硬い人々が理屈をこね回してでっちあげる机上の空論」という印象をぬぐい去ること。これらもまた、この本の基層に流れる主要テーマの一つである
つまり、「数学という学問の捉えられ方」を変えたい、というのが著者の大きな動機だというわけである。そして、それを実現するために著者が選んだ本書の”核”というのが、「数学の『正しさ』とは何か」である。
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この問いについては、数学への関心度によって印象が変わるだろう。数学に興味がない人は、「そもそも何を言っているのか分からない」となるだろうし、数学に興味がある人は、「数学って正しいんじゃないの?」と感じることだろう。
さて、より具体的に書けば、本書のテーマは「証明」である。数学における「証明」という技法が、「なぜ」「どのように」生まれたのかを、数学史を紐解きながら追っていく作品だ。
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学生時代、数学の試験で「証明問題」に苦しんだという方も多いだろう。私も、理系の人間だが、やはり計算問題より証明問題の方が苦手だった。
好き嫌いはともかく、数学と言えば「証明」、みたいな印象はきっと誰もが持っているだろうし、数学が好きな人なら、「数学は、正しいと証明されなければほとんど意味がない」と理解しているだろう。数学の中には、「まだ正しいとは証明されていないが、非常に重要とされている予想」というものもあり、証明されていないから無意味というわけでは決してない。ただやはり、「証明されているかどうか」は、数学において非常に重要な要素だ。
しかしこの「証明」という手法、長い長い数学の歴史においては、非常に特異で異端な存在なのである。
「証明」は、古代ギリシャでしか発展しなかった
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本書に、こんな記述がある。
実際、我々が後に第8章で行うように、時代性・地域性という観点から「証明」という行いを見たとき、数や図形を論じる際に<正しさ>を確信させる方法として演繹的証明を採用するという流儀は、むしろ極めて特異なものに見える。それは古代ギリシャで生まれたものであるが、むしろ古代ギリシャでしか生まれなかったということの方が重大だ
まずこの意味を説明していこう。
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「数学」という学問は、世界中の様々な地域で独自に発展していった。有名なところだけ挙げても、「中国」「インド」「アラビア」「ギリシャ」「エジプト」「日本」と地域は多様だ。次第に1つの学問として統一されていくことになるが、それまでは、数学の研究には地域差があったのである。
たとえば有名な話でいえば、「0」という数字を発見したのはインドである。また、「位取り記数法」という手法を生み出したのはアラビアだ。他の地域にそれらの発見が伝わるまでは当然、「0」や「位取り記数法」を使わずに数学が行われていたのである。
そして同じように、「証明」というスタイルはギリシャでしか発展しなかった。
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ギリシャ以外の地域では主に、「計算」が重視されていたという。例えば円周率の計算などは有名だろう。手計算で力づくで計算する者もいれば、観察によって法則性を見抜き計算を進めた者もいる。いずれにせよ、ギリシャ以外では「いかに計算するか」こそが重要であり、「証明」などという論証スタイルが生まれることはなかった。
それではなぜギリシャは、「証明」を発明できたのだろうか?
「見る」からの脱却のきっかけとなった「通約不可能性の発見」の衝撃
まず、「証明」が発明される以前の状況を見ていこう。
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古代ギリシャにおいて「何かが正しい」という主張は、当初は「見ること」によって行われていた。どういうことか。
たとえば、目の前に同じ大きさの三角形が2つあるとする。これらが「同じ」であることを示すためには、「辺の長さ」や「角度の大きさ」などを比べればいい。このように最初は、「見ること」によって「正しさ」を示していたということだ。ざっくばらんに言えば、「見たら分かるでしょ」という主張によって「正しさ」を示すことができる、という共通理解が存在したのである。
この「見る」ことで「正しさ」を示すというやり方が、「通約不可能性の発見」によって打撃を受けるのだが、その説明の前にまず「ピタゴラス教団」の話をしよう。
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古代ギリシャの数学研究において重要な存在だった「ピタゴラス教団」は、その名の通り「ピタゴラスの定理」でお馴染みのピタゴラスが率いた集団だが、これは「学問の研究機関」というよりむしろ「宗教的な集団」だったようだ。彼らは、「万物は数である」という思想を持っており、この考えを突き詰めた結果、他の地域では生まれなかった「数」に対するある幻想を抱くことになる。
それが、「この世には有理数しか存在しない」というものだ。「有理数」というのは要するに、「分数で表すことができる数」のことである。「ピタゴラス教団」は何故か、このような思想を抱くようになったのだ。
しかしやがて、なんと彼ら自身が有理数ではない数を発見してしまう。有名な「ピタゴラスの定理」は、ピタゴラスではなくピタゴラス教団の誰かが発見したものと考えられているが、まさにその「ピタゴラスの定理」を使うことで「無理数」が導き出されるのだ。
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一辺の長さが1の正方形の対角線の長さは、「ピタゴラスの定理」から√2と分かる。そしてこの「√2」が「有理数ではない」ことを彼らは証明してしまうのだ(一説によれば、「√2」を発見した人物は殺されてしまったと言われている。教団の思想に反する発見をしてしまったからだ)。
この「無理数の発見」は「通約不可能性の発見」とも呼ばれており、「万物は数である」という思想の下に数学の研究を行っていた当時の数学者に衝撃を与えた。そしてそのことが、「証明」の誕生のきっかけの1つとなる。
なぜ「通約不可能性の発見」が「証明」を生み出すことになるのか。それは、「見る」ことで「正しさ」を示すやり方に不備があると気づいたからだ。彼らがどのように「見る」ことの限界に気づいたのか説明していこう。
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算数や数学の授業で、「数直線」というのを習っただろう。真っ直ぐな線に「……-2,-1,0,1,2……」のようなメモリがついたものだ。
そして、「有理数しか存在しない」と考えていた「ピタゴラス教団」は要するに、「この数直線上にある数はすべて有理数だ」と考えていたということになる。
確かに、なんとなくのイメージでは、それもあり得るような気がしてくる。たとえば「0」と「1」の間について考えよう。この場合、「1」という数字を「2」「3」「4」……と様々な数字で割っていけば、それらはすべて「0と1の間にある有理数」となる。割る数は整数である必要はなく、「5.1」や「2.023689574」なんていう数字でもいい。
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そうやってイメージしていけば、「0」と「1」の間はすべて「有理数」だけで埋まっている、となんとなく考えてしまうだろう。「無理数」の存在が知られる前ならなおさらだ。
しかし「無理数」が発見されたことで、「数直線上には有理数だけではなく、無理数も存在する」ということが明らかになった。
古代ギリシャ人が危惧したのは、「数直線上に無理数が存在すること」は「見る」ことによっては確かめられない、ということだ。つまり彼らはこの時、「見る」ことの限界を感じ取ったと推定できる。
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無理数という、彼らのそもそもの数認識では到達不可能な数の世界が現実に広がっている以上、数のとりあつかいには極めて慎重にならざるを得なかった。いい加減なことをやっていると間違いをしでかすことになりかねない。このような心理的警戒感が、恐らく紀元前五世紀頃からのギリシャ数学には蔓延し始めていたのではないだろうか。そしてそのために、彼らは「見る」ことによる直感的な議論で物事を考えるよりも、ピタゴラス学派がやったように「見る」ことをできるだけ排除して演繹的に、そして儀式的に議論を進めるほうが<正しさ>を留保するためのより確実な方法と感じたのだ、と推察されるのである
このようにして、「通約不可能性の発見」は、古代ギリシャにおいて「目に見えるものはまやかしだ」という感覚をもたらすことになった。そして「見る以外の方法で正しさを示すこと(=証明)」を模索するようになり、やがてそれは「天上世界とアクセスするための儀式」と捉えられるようになっていく(いずれにせよ、宗教的な感覚は抜けなかったようだ)。
これが、ギリシャ人が「証明」へと向かっていった最初の動機である。ここから古代ギリシャの数学は、他の地域では生まれなかった「証明」という手法を用いて、「計算」を重視しない特異な方向に発展していくことになる。
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「背理法」という”おかしな”証明方法
その後ギリシャ人は、「背理法」という証明を生み出すことになる。
文系の人はあまり触れるきっかけがなかったかもしれないが、理系の人間であれば間違いなく学生時代に多用した証明法だろう。しかしこの背理法、「よくもまあこんなやり方を思いついたものだ」と感じるほど、物凄く”おかしな”証明なのだ。
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例えばどんな風に使われるのか。「背理法」の証明として非常に有名な、「最大の素数は存在しない」という命題で説明しよう。
今あなたが、「最大の素数は存在しない」、つまり、「『これが最も大きな素数だ』と言える素数は存在しない」ということを示さなければならないとしたら、どうすればいいだろうか? これはなかなか難しいだろう。何から手をつけたらいいかよく分からないはずだ。
そこで「背理法」の出番である。「背理法」ではまず、「最大の素数は存在しない」という命題の「逆」(正確な表現は「対偶」)を考える。つまり、「最大の素数は存在する」と仮定するのだ。そして、
「最大の素数は存在する」と仮定して議論を進めることで、議論に矛盾が生じること
を示す。これによって、
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矛盾が生じたのは、最初の仮定が誤っていたからだ。つまり、「最大の素数は存在する」という仮定が間違っているということであり、これによって「最大の素数は存在しない」という結論に達する
と主張する。
これが「背理法」の仕組みである。
この「背理法」は非常に便利であり、「背理法」を使わなければ証明できない命題も多い。しかしよくよく考えてみると、なぜこんな奇妙な証明を思いついたのだろう、とも感じる。
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実はこの「背理法」誕生の背景には、「通約不可能性」と並んで古代ギリシャ人を怯えさせた「無限」の存在があるのだ。
古代ギリシャ人は「無限」を回避したかった
「ゼノンのパラドックス」という名前を耳にしたことはあるだろう。いくつか種類があり、一番有名なのが「カメとアルキメデスの競争」だが、「矢の逆理」と呼ばれるものもある。まずこれについて説明していこう。
ゼノンは「矢の逆理」というパラドックスにおいて、「飛んでいる矢は止まっている」ということを示した。ゼノンの主張はこうだ。飛んでいる矢は、瞬間瞬間で切り取れば静止している。飛んでいる矢を写真に撮れば、すべての矢は止まっているだろう。どの瞬間で切り取っても矢は止まっているのだから、つまり「飛んでいる矢は止まっている」ということになる。
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これはとてもおかしな結論だ。しかし上述の結論は実は、「空間と時間は無限に分割できる」ことを前提にしている。もしかしたら、この前提がおかしいのかもしれない。
それでは、「空間と時間は無限には分割できない(それ以上分割することはできない<単位>から成り立っている)」と考えた場合はどうなるだろうか?
ゼノンはこの点に関して「競技場の逆理」というパラドックスで示している。説明が煩雑になるのでここでは省略するが、「空間と時間は無限には分割できない」ことを前提にしても、やはりおかしな状況に陥ってしまうのである。
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つまりこういうことだ。「空間と時間は無限に分割できる」ことを前提にした「矢の逆理」も、「空間と時間は無限には分割できない」ことを前提にした「競技場の逆理」も、共にパラドキシカルな状況に陥ってしまう。「矢の逆理」も「競技場の逆理」も共に「運動」に関する話であり、つまり、「空間と時間を無限に分割できるとしても、無限には分割できないとしても、運動は不可能である」という結論になってしまう。
しかし我々は、「運動」がきちんと行われていることを知っている。であれば、議論の中におかしな点がある、ということになる。
そして古代ギリシャ人は、「『無限』なんてものについて考えるからおかしなことになるのだ」と結論するようになったのだという。
このようにして彼らは、パラドックスに陥らないために、「無限」をいかに回避するかという発想をするようになっていく。
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「円の面積」については、普通は、「無限に分割したものを足し合わせる」という考えをするしかない。しかし「無限」を回避したかったギリシャ人は、「無限に分割する」というステップをどうにかして行わずに「円の面積」を計算したかった。そこでアルキメデスが生み出したのが「取り尽くし法」なのである。
「取り尽くし法」そのものの説明はここではしないが、「取り尽くし法」の非常に重要なポイントには触れておこう。それは、「与えられたどんな量よりも小さくできる」という考え方だ。
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何かを分割することを考えよう。「分割を繰り返す」と1つの領域はだんだん小さくなっていく。そして、「1つの領域の大きさが0になるまで分割する」のが「無限回の分割」である。しかしアルキメデスはこの「無限回の分割」を回避したい。さて、どうすればいいだろうか?
「無限回の分割」は「1つの領域の大きさを0」にするのだから、「1つの領域は限りなく小さいが0ではない」とすれば無限を扱わずに済みそうだ。そうやって、「与えられたどんな量よりも小さくできる」という発想に行き着くのである。
これをもう少し具体的に説明してみよう。
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今1kgの砂があるとする。そしてこの砂を半分ずつ取り除いていくことを考えよう。取る量は、500g、250g、125g……と半分ずつになっていくというわけだ。この作業をしばらく繰り返していけば、いずれ取る量が「1g」を下回るだろう。
そしてここで重要なことは、「1g」を下回るまでに砂を取り去る回数は「有限回」だということだ。これは「1g」でなくても同じだ。「0.01g」でも「0.00000000000001g」でもいい、「与えられた量」がどんな数であっても、必ず「有限回の操作」でその量を下回ることができる。
これが「取り尽くし法」の肝となる考え方であり、「無限」を回避するためにアルキメデスが編み出した手法である。
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そしてこの「取り尽くし法」において重要な要素として使われているのが「背理法」なのである。つまり、「無限」を回避するために「背理法」が生まれた、と言っていいだろう。
このように古代ギリシャでは、「通約不可能性」と「無限」に恐怖したが故に「証明」やその一種である「背理法」が生まれたのである。
「微分積分」は「取り尽くし法」と発想は同じ
ここまでで、「証明」というプロセスがいかに生まれたのかを概観してきたが、ここからは「数学の『正しさ』」の話に移ろう。
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微分積分は、「正しさを示す」という意味で革命的な発明だ。ここまでの説明で触れたように、古代ギリシャでは「計算よりも証明が重視され、証明しなければ正しさが保証できない」と考えられていた。しかし微分積分は「計算」の手法であり、「計算」によって「正しさ」を示すことが可能なアプローチとして受け入れられていく。。
しかし一方で、やはり「無限」の問題は残る。古代ギリシャ人が嫌った「無限」は、17世紀においても同様の受け取られ方をされており、「微分積分で正しい計算ができる。しかし『無限に分割したものを足し合わせる』などはオカルトのようなものだ」と捉えられていたというのだ。微分積分は確かに正しい結果を導くが、論理的な基盤が脆弱であり、完全にはしきれなかったのである。
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そこで微分積分にきちんとした土台を与えようと動きが出てくるようになり、やがて「イプシロン―デルタ法」と呼ばれる考え方によってきちんとした基盤が作られることになる。
さてこれで一安心、と考えるのはまだ早い。というのは、この「イプシロン―デルタ法」は、アルキメデスが考えた「取り尽くし法」と、基本的に同じ内容だからだ。
つまりこういうことである。アルキメデスは「無限を回避するため」に「取り尽くし法」を生み出した。しかし後の数学者は、「無限を扱う微分積分に論理的な基盤を与えるため」に「イプシロン―デルタ法」を使っているのだ。無限を回避するための手法と無限を扱うための手法が同じ、というのは、何かおかしいと感じられる。
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このような問題を提示した上で、著者は「数学における『正しさ』」の話を展開していく。
数学において「正しい」とはどういうことか?
著者はここから、「正しい」という意味の捉えられ方の変化について触れていくことになる。
まず、古代ギリシャにおける「正しさ」について触れていこう。「万物は数である」という思想からも分かるように、この当時の「正しさ」というのは「絶対的な正しさ」のことだった。これは要するに、私たちが「正しい」という言葉を思い浮かべる時にパッとイメージするものだと考えていい。「いつどんな場合でも間違いなく正しい」という意味で「正しい」という言葉を使っている。
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そして「絶対的な正しさ」を追い求めていたからこそ、彼らにとって「無限」は非常に厄介な存在だった。「絶対的に正しい」と主張する際、「無限」のような、自分たちで上手く処理できないものを扱わなければならないのはマズい。だからこそ「無限」を回避し、「絶対的な正しさ」を追い求められるようにした。
しかし現代数学における「正しさ」は少し異なる。それは、「ある条件の下では正しい」という「科学的精神」と関係している。
科学には、「一般相対性理論」と「量子力学」という非常に重要な2つの理論が存在し、使われる領域が明確に異なっている。「一般相対性理論」は天体など非常に大きなものに、そして「量子力学」は原子など非常に小さなものに適用されるのだ。「一般相対性理論」を原子に当てはめても上手くいかないし、逆も同じだ。
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科学の究極の目標は、唯一の理論ですべての現象を説明することである。しかしそこに到達するまでは、「あるモデルを想定し、そのモデルの範囲内で正しいかどうかを判定する」という手法を取っているというわけだ。
そして、現代数学も同じだと著者は言う。「微分積分」はどんな場合でも絶対的に正しいのではなく、「イプシロン―デルタ法」という枠組みの中では正しいと言える、という主張である。
このように本書では、「数学」は「絶対的な正しさ」を追い求めることから、「決まった範囲内で正しさ」を追究する学問へと変化していった、ということが示されるのだ。
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著:加藤 文元
¥1,870 (2022/01/29 21:47時点 | Amazon調べ)
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数学は好きだが決して詳しいわけではない私は、「数学はどんな場合でも正しい」という「絶対的な正しさ」で捉えていた。しかし本書を読んで、決してそういうわけではないということが理解できた。
数学が「モデルによる正しさ」を目指しているということは、数学という学問には、「設定されたモデルを信じるかどうか」という人間の判断が入り込む余地がある、ということになる。
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実際、本書で書かれている例ではないが、「カントールの対角線論法を信じない」と記述されている本を読んで驚いたことがある。「実無限」と「可能無限」という、「無限」をどう捉えるかの異なる「モデル」が存在し、どちらを信じるかによって「正しさ」が変化してしまう、というわけなのだ。
数学の見方が変わる一冊だと言える。
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