目次
はじめに
この記事で取り上げる本
講談社
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ポチップ
この本をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- 「もつれ」は、それまでの科学の常識では理解できない意味不明な現象
- アインシュタインは量子力学を批判するために天才的な思考実験を思いついた
- アインシュタインの死後、アインシュタインの批判が正しかったのかどうか決着がつく
アインシュタインが絡むと科学の話は一気にドラマチックになりますが、量子力学はまさにその最高峰です
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本書は、「もつれ」と呼ばれる現象を中心にして、科学者たちによるどんな議論や発見があったのかを非常に詳細に記述していく作品だ。また、様々な文献から手紙の文面などを拾うことで、「かつて科学者たちはこんなやり取りをしていたに違いない」という“妄想の会話”をふんだんに再現するという、途方も無い労力を掛けている作品でもある。普通のノンフィクションではなかなかあり得ない「過去の科学者の会話の再現」については、是非本書で体験してほしい。
この記事では、本書に記述されている「もつれ」の説明とその発見の歴史について、ぎゅっと圧縮するような形で書いていこうと思う。
「もつれ」についてざっくり説明
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まず「もつれ」とは何であるかざっくり説明しておこう。
例えば、原子が2つあるとし、両者は仮に100億kmも離れているとしよう。そしてこの2つの原子が「もつれ」の状態にある場合、一方の原子に対して行った操作が、瞬時にもう一方へと伝わる。
このように、「たとえ100億km離れていても、この2つの原子は1つの物体であるかのように振る舞う」という状態が「もつれ」と呼ばれる。
なんのこっちゃ? という感じだろう。それで問題ない。
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というのも、このような「もつれ」という状態が存在することは認められているものの、未だになぜそんなことが起こるのか分かっていないからだ。科学者としても、「実験してみるとそうなるから、『もつれ』は受け入れなきゃいけないが、でもよく分からん」という状態なのである。
しかしこの「もつれ」、意味不明な現象ではあるのだが、我々人類の生活を大きく変えるものに使われる可能性がある。それが「量子コンピュータ」だ。現在のスーパーコンピュータとは計算速度が比べ物にならないと言われる量子コンピュータには、基本原理として「もつれ」の状態が関わっている。そういう意味で、我々とまったく無関係、というものでもないだろう。
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そもそも「量子力学」とは何か?
まず非常にざっくりとではあるが、「量子力学」という分野がどのように発展していったのか概観していく。
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1800年代終わり頃、科学の世界では「もうすべて解明された」という気分が支配的だったという。しかしその後、アインシュタインが「相対性理論」を生み出し、そして様々な科学者が寄り集まって「量子力学」が発展することになる。そしてその後、この2つの理論が科学を席巻するのである。
「量子力学」が生まれるきっかけとなったのは、「それまでの科学理論では説明がつかない現象」が発見されたことだ。科学者たちはあれこれ考えるが、全然上手くいかない。そこでプランクという科学者が「破れかぶれ」のアイデアを出す。「光のエネルギーは、とびとびの値を取る」と考えたのだ。
どういうことか。
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それまでエネルギーというのは、どんな値も取り得る、と考えられていた。しかしプランクは、彼が「プランク定数」と呼んだ定数の整数倍の値しか取ることができない、と考えたのだ。
例えばこういうことだ。まず、世の中に存在するすべてのリンゴが同じ重さ(100g)だとしよう。このリンゴを秤に載せていく場合、秤の表示は100g、200g、300g……という風に増えていくはずだ。リンゴを載せた時、284gなどと表示されることはない。必ず、100gの整数倍の表示になる。
これと同じように、光のエネルギーも、「プランク定数」の整数倍の値しか取れない、と考えたというわけだ。
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プランクとしては、他に方法がないから、とりあえず思いつきでそんな仮定をしてみただけだったそうだが、なんとこれが上手くいってしまった。それまでの科学では説明できなかった現象が、プランクの理屈で説明できてしまったということだ。
ここから「量子力学」が生まれることになる。
さて、プランクの説明は確かに現象をよく記述した。しかし一方で、「それがどういう意味なのか」はさっぱり分からなかった。
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ここで「粒子」と「波」の話が出てくる。そして、「光」はこの時点で「波」だと考えられていた。
「とびとびの値を取る」というのは「不連続量」であり、「粒子」と対応し、一方「どんな値でも取れる」というのは「連続量」であり「波」と対応する。
今まで「光」については「波」のようなものとして様々なことを説明してきたのに、今度はプランクが「粒子」のような性質を用いて謎めいた現象を説明してしまった。「光」は「波」でもあり「粒子」でもあるのか? それは一体どういうことだ?
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そして光に限らず、「波」と「粒子」の二重性は様々な場面で見え隠れすることが分かってきた。実は、アインシュタインのノーベル賞も、有名な「相対性理論」にではなく、「今まで波だと思われていた光を粒子だと考えれば、ある現象は簡単に説明できる」と明らかにした功績に対して与えられているのだ。
このように、「原子などの非常に小さな領域」に対しては、「波でもあり粒子でもあるという状態が現れる」というのが「量子力学」の特徴であり、未だにこの「波と粒子の二重性」がどんな状態なのかイメージできる科学者はいない。
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量子力学というのはとにかく不思議な主張が山ほど存在するジャンルで、先述したボーアは、
もし量子論について考えているときに目がくらむことがないのなら、本当に理解できてはいないのだ
という有名な言葉を残しているほどだ。
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アインシュタインが指摘した問題点
アインシュタインは死ぬまで量子力学に反対し続けたことで知られている。アインシュタインの言葉として非常に有名な「神はサイコロを振らない」も、ざっくり言えば「俺は量子力学なんか認めない」という主張である。
では、アインシュタインがどういう批判を展開したのかを見ていこう。
量子力学には、「シュレディンガー方程式」と呼ばれる方程式がある。これは、現実をよく記述したし、科学者は皆これを正しいと考えている。しかし一方で、この「シュレディンガー方程式」を解いた答えである「波動関数」が何なのかについてはしばらく分からないままだった。「波動関数が、現実の何と対応しているのか分からない」という意味だ。
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やがて「確率解釈」と呼ばれる考え方が出てくる。これは、「波動関数(の2乗)は、粒子がどの場所に存在するかの確率を示している」というものだ。
これがどれほどおかしな話なのか説明していこう。
例えば、「Aさんは12時に駅にいた」という文章は普通だろう。「ある人物(物体)」が「ある時刻」に「ある場所」に存在している、という主張は普通に可能だ。そして、だとするなら、「粒子」にも同じことが言えるはずだ。「ある時刻に粒子はある場所に存在していた」と観測できるというわけだ。当たり前だろう。
また、これまでの科学では、様々な方程式によって、物体がどのように運動するか計算できた。これはつまり、初期状態や速度などの情報が分かれば、方程式を解くことで「ある時刻における物体の位置」などが予測できる、ということだ。
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しかし量子力学の場合は違う。方程式を解いても、「ある時刻においてある場所に粒子が存在する確率」しか分からない、というのだ。観測すれば「ここにある」のに、量子力学の方程式を解いても「ここにあるかもしれない」としか教えてくれない、ということなのである。
それはなんかおかしいんじゃないの? と感じるだろう。その疑問は真っ当だと言える。まさにアインシュタインも「そんなのおかしいだろ」と批判したのだ。「神はサイコロを振らない」という言葉は、「確率しか分からないような科学としては不完全であり、我々が正しく理解すれば確率ではなく正確なことが分かるはずだ」という主張を端的に言い表したものなのである。
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しかし、当時の科学者は、アインシュタインのこの指摘をまともに受け取らなかった。そこにはいくつか理由がある。
一番大きな理由は、「生まれたての量子力学の研究に忙しかったから」だ。当時の科学者は、量子力学という新しい分野が急に出てきて、解くべき問題が山積みだったのである。
アインシュタインの指摘は、「波動関数の解釈はおかしい」と要約できるが、はっきり言って当時の科学者にとって「波動関数の解釈」なんかどうでも良かった。波動関数をどう解釈しようが、計算結果が変わるわけではないのである。アインシュタインの指摘は、「現実的な問題で忙しいんだから、そんな哲学的な指摘なんかどうでもいいんだよ」と言って退けられてしまったのだ。
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また、量子力学を先導した人物として知られるボーアが、「アインシュタインの相手は俺がするから、若い衆は研究に励め」みたいな振る舞いをしていたのだろう、と推測する本も読んだことがある。アインシュタインは一人で研究することを好んだが、ボーアはたくさんの若手を育てたことでも知られている。ボーア派の力は非常に強かったので、相対的にアインシュタインの主張が無視されてしまった、ということはあるだろう。
アインシュタインは、自分の疑問が量子力学において非常に重要だと見抜いていた(実際にその通りで、さすがの先見の明である)。しかしどうもこのままでは、他の科学者の目をこちらに向けることが難しい。そこでアインシュタインは、後に「EPR論文」として有名になる論文を、ポドルスキーとローゼンという2人の科学者と共著で発表した。
この論文こそが、科学者たちを「もつれ」という現象に目を向けさせるきっかけとなったのである。
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EPR論文はどんな役割を果たしたのか?
アインシュタインはとにかく、「量子力学は不完全である」と示そうとしたのだが、EPR論文発表以前の主張は、ことごとくボーアに論破されてしまっていた(アインシュタインは思考実験を思いつく天才で、様々な思考実験をボーアにぶつけたが、敵もさる者で、ボーアはそれに的確に反駁し続けた)。そこでそれまでのやり方とは少し攻撃の方向性を変えることにしたのだ。それがEPR論文である。
アインシュタインがEPR論文を発表する以前から、「もつれ」という状態は理論的には知られていた(その時点ではまだ名前はついていなかったはずだが、後にシュレディンガーという科学者が命名した)。しかし、それがいかに奇妙な状態であるかは正しく理解されていなかったのだ。そしてアインシュタインは、「もつれという状態は実に奇妙であり、こんな状態が起こることを許容する量子力学は不完全だ」と主張したのだ。つまりアインシュタインは、「もつれなんていう現象はあり得ない」という立場だったのである。
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結果的にアインシュタインの主張は誤りであり、「もつれ」という状態は実際に存在することが、ボーアもアインシュタインも亡くなった後に判明することになる(技術的な制約があり、ボーアやアインシュタインが生きていた時代には、実際に実験を行うことは不可能だったのだ)。しかしアインシュタインがEPR論文を発表したことで「もつれ」への理解が深まり、「もつれ」こそが量子力学における非常に重要なポイントなのだと認識されるようになっていた。そういう意味で、アインシュタインが量子力学に果たした役割は非常に大きいと言えるだろう。
本書には、こんな風に書かれている。
もつれについて語ることは、量子物理学そのものについて語ることである。物理学者が初めてもつれの問題に直面したのは20世紀であった。それまで何世紀もの間、物理学は世界を完璧に理解しようとがむしゃらに進んできた。20世紀の初頭、量子論の気味悪さを疑うところからもつれの物語が始まった。その20世紀の夜明けは、我々にニュースをもたらした。物質と光の両方を探索すればするほど、謎が立ち現れたくるのだ、と。
EPR論文ではどんな主張がなされているのか?
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今、A・Bという2枚のスクラッチくじ(コインなどで銀色の部分を削ってアタリかハズレか確認するもの)があるとする。この2枚のくじは、「一方が当たりなら、もう一方は外れ」という関係にある。つまり、「A:アタリ B:ハズレ」か「A:ハズレ B:アタリ」のどちらかということだ。そして、スクラッチくじの銀色の部分を削ることを「観測する」と表現することにしよう。
さて、ごくごく普通に考えれば、このスクラッチくじは、「観測する」以前からアタリかハズレかどちらか決まっているはずだ。これが、アインシュタインの考えである。
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一方、ボーアは違う。ボーアは、「観測する」その瞬間まで、A・Bのスクラッチくじの結果は決まっていない、と主張していた(このようなボーア派の主張は「コペンハーゲン解釈」と呼ばれている)。ンなアホなと思うだろうが、とりあえず「ボーアがそう主張していた」と理解してほしい。ボーアは要するに、「Aを『観測』してアタリかハズレか判明した瞬間に、何らかの形でその情報がBに伝わり、Bがハズレかアタリか決まる」と言っているのである。とりあえず、そういうことにしておこう。
さて、アインシュタインがEPR論文でやろうとしたことは、「あなた方の主張に沿って考えると、こんな変なことが起きます。だからあなた方の考えは間違っているし、つまり量子力学は不完全だと言えるでしょう」と示すことだ。
ではアインシュタインはどう斬り込んでいったのか。
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ここで頭の中で、このA・Bという2つのスクラッチくじを、100億km離そう(物理的距離を遠ざける、ということ)。そして、Aを「観測した」すぐ後でBを「観測する」ことにする(現実的には不可能な設定だが、あくまで思考実験である)。
アインシュタインの考えならなんの問題も起こらない。しかしボーアの考えではおかしなことが起こる。100億kmも離れてしまうと、ボーアの理屈が上手くいくはずがないのだ。
繰り返すがボーアは、「観測する」まで結果は決まっていないと主張している。つまり、Aを「観測」してアタリだと分かった時点で、Bがハズレだと確定する、ということだ。
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しかし、「Aがアタリだった」という情報は、どのようにしてBに伝わるのだろうか?「観測するまで結果が決まっていない」のなら、「結果が決まったことがもう一方に伝わらなければならない」はずだが、ここに問題がある。
なぜなら、100億km進むには光の速度でも9.2時間掛かるからだ(私が計算で導いたが、もし間違っていたら指摘してほしい)。アインシュタインが生み出した「相対性理論」から、「光より速く移動できない(光速度不変の原理)」と分かっているので、9.2時間より速い移動は不可能である。
ボーアの考えでは、A・B間の通信は不可欠だが、100億km離してしまったら、その通信には最速でも9.2時間掛かる。しかし、Aを「観測した」すぐ後でBを「観測」しても、ちゃんとハズレという結果が出るはずだ。これはどう考えても矛盾だろう。
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アインシュタインはこのようにして、「もつれという現象を許容するなら、科学的に理屈に合わない現象が起こってしまう」と指摘したのだ。
これがERPパラドックスと呼ばれている、アインシュタインの思考実験(の私なりの説明)である。
ボーアの反応とその後の驚愕の展開
アインシュタインのこの指摘に対して、ボーアは何か反論をしたらしい。その反論は、あまり要領を得ないものだったようだが、当時の科学者たちは、「これまでもボーアがアインシュタインを反駁し続けてきたのだから、今回もきっとボーアの反論が正しいのだろう」と納得したようだ。
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実は、今でこそ重要な指摘だと認められているEPR論文は、アインシュタインの存命中にはあまり大きく注目されなかった。だから、議論の細部があまり検討されないまま、「ボーアが勝った」という印象で終わっているのだ。
EPR論文に再び注目が集まるきっかけを作ったのが、ボームとベルという2人の科学者である。
ボームが行ったことを非常に手短に説明すると、「『隠れた変数理論』を作り出したこと」だ。ざっくり言えば、アインシュタインの主張をより具体的に示したと言える。アインシュタインは、「量子力学は不完全であり、不完全ではない別の理論があるはずだ」と主張していたが、ボームは、「アインシュタインが言うような不完全ではない理論がもし存在するなら、恐らくこういうものだろう」という理論を提示したである。
「隠れた変数理論」というのは、「人類がまだ気づいていない要素が存在し、その要素に気づいていないから不可思議に見える現象が、その要素に気づきさえすれば当たり前に感じられる」というような類のものだ。
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分かりにくいと思うので具体例で説明しよう。例えば人類が「温度」という要素に気づいていないとする。この場合、「手のひらで氷が溶ける現象」は不思議で仕方ないだろう。しかし「温度」という要素に気づきさえすれば不思議でもなんでもなくなるというわけである。
そしてボームは、「このような未発見の要素が存在すると仮定するなら、量子力学は不思議ではなくなる」という理論を作ってみせた、ということだ。
そして、ボームが作り上げた「隠れた変数理論」に触発されたのがベルである。ベルもまた「隠れた変数理論」を信じていた一人であり、ボームの論文を読んで勇気づけられた。
実はこの時代に活躍した天才数学者であるフォン・ノイマンが、「量子力学において隠れた変数理論はあり得ない」という論文を発表していたのだ。「フォン・ノイマンは絶対に間違えない」と絶大な信頼を集めていたので(実際には、フォン・ノイマンの証明には穴があり、後に誤りだと判明する)、「フォン・ノイマンが言うなら隠れた変数理論なんてあり得ないんだろう」という空気が多勢を占めていた。そういう中で「隠れた変数理論」への支持を表明するには勇気が要るだろう。
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「ベルの不等式」については、
21世紀初めまでにベルの論文が物理学に激変をもたらしたのは間違いない
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同論文は世界を揺るがしたアインシュタインの輝かしいすべての業績のなかでもずば抜けて引用回数の多い論文となり、また20世紀後半の物理学の主要誌「フィジカル・レビュー」で最も多く引用された論文となったのである
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さて、ボーアやアインシュタインが生きていた時代には、EPR論文で提示された実験を実際に行うことは不可能だったが、技術の進歩や発想の転換により可能となった。そしてついに、「ベルの不等式」が成り立っているかどうかかを判定する実験が行われることになった。
結果はどうだったか。
なんと、「ベルの不等式」は成り立っていないことが判明した。つまりアインシュタインの負けということだ。アインシュタインは、「もつれなどという奇妙な現象が起こると考える量子力学は間違っている」と主張していたのだが、この主張が誤りだと証明されたということになる。つまり、「もつれ」という状態は実際に存在するし、「隠れた変数理論」は成り立たないということだ。
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しかしこの実験は、ボーア派の主張が正しいことを示しているわけではない。「アインシュタインの解釈は正しくない」と判明したにすぎないのだ。量子力学の解釈は「アインシュタインの解釈」「ボーアの解釈」の他にも様々に存在する。「アインシュタインの解釈」が否定されたからといって、「ボーアの解釈」の正しいことにはならない、というわけだ。
このようにアインシュタインの功績により「もつれ」の重要性は認められるようになり、今では量子コンピュータの基礎として実用的に使われるまでになっている。
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