【謎】恐竜を絶滅させた隕石はどこから来た?暗黒物質が絡む、リサ・ランドールの驚愕の仮説:『ダークマターと恐竜絶滅』

目次

はじめに

この記事で取り上げる本

著:リサ・ランドール, 監修:向山信治, 翻訳:向山 信治, 翻訳:塩原 通緒
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この本をガイドにしながら記事を書いていきます

この記事の3つの要点

  • 「隕石によって恐竜が絶滅したこと」は、ごく最近正式に認められた
  • 「ダークマター」は、見えないし触れられもしない物質
  • 恐竜を絶滅させた隕石がどこからやってきたのか明らかにする仮説「DDDM理論」

非常に高度な内容の本で、すべてを理解することはできなかったが、物凄く刺激的で面白い

自己紹介記事

どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください

恐竜を絶滅させた隕石は、一体どこからやってきたのか?現役科学者リサ・ランドールが『ダークマターと恐竜絶滅』でその謎を説明する

本書『ダークマターと恐竜絶滅』の構成と、著者リサ・ランドールについて

本書はタイトルの通り、「恐竜絶滅」と「ダークマター」に関する仮説の話だ。「ダークマター」については後で触れるが、「まだ存在するかどうか分かっていない未知の物質」ぐらいに今は理解しておいてほしい。そんな物質と「恐竜絶滅」を結びつけるというのだから、なかなかアクロバティックな話だ。

著者のリサ・ランドールは、基本的には「恐竜絶滅」とはまったく関係がない。第一線で活躍する素粒子物理学者であり、デビュー作である『ワープする宇宙』は、20世紀物理学を概説しながら宇宙に関するある仮説を提示するという野心的な作品だった。

そして本書では一転、宇宙の話と恐竜の絶滅を結びつける。本書では、著者らが「ダブルディスク・ダークマター(DDDM)理論」と名付けた理論が提示され、これが「恐竜絶滅」と関係しているのではないか、と示唆される。物理学の話だけではなく、古生物学に関する知見もふんだんに盛り込まれており、相変わらず知的好奇心が刺激される作品だ。

しかしなかなか難しい作品で、ついていけない箇所も多々あった。この記事では、あくまでも私が理解できた範囲内のことにしか触れられないのでご容赦いただきたい。

「隕石によって恐竜が絶滅した」と認められたのはごく最近のこと

本書を読んで最も驚いたのが、以下の記述だ

2010年3月に、古生物学、地球化学、気候モデル研究、地球物理学、堆積学の各分野の専門家41名が集まって、この20年以上のあいだに積み重ねられていた衝突―大量絶滅仮説のさまざまな証拠を検討した。その結論として、チクシュルーブ・クレーターをつくったのもK-Pg絶滅を生じさせたのも、確実に6600万年前の流星物質の衝突であり、そしてその最大の被害者が、かの偉大なる恐竜だったという見解に落ち着いた

恐竜を含めた多数の生物が絶滅した出来事には「K-Pg絶滅」という名前が付けられているのだが、要するに「恐竜が隕石によって絶滅したと確定した」と言っているわけだ。そしてそれが確定したのが2010年3月だったことに驚かされた。ついこの間じゃないか、と感じたのだ。

子どもの頃から、「恐竜は隕石の衝突で絶滅した」と理解していたと思う。図鑑などには、必ずそう書かれていたはずだ。しかし学問的にはあくまでそれは仮説に過ぎず、2010年にようやく、科学の統一見解として「恐竜は隕石で絶滅した」と確定したということなのだ。この点にはまず驚かされた。

さらに本書には、こんな記述もある。

1973年には地球化学者のハロルド・ユーリーが、溶けた岩石からできるガラス質のテクタイトを根拠に、流星物質の衝突がK-Pg絶滅の原因だったと提唱したが、その時点でもまだ大半の科学者はユーリーの考えを無視した

しかしながら、そうした先見の明のある鋭い考えも、アルヴァレズの説が発表されるまでは基本的に無視されていた。宇宙からの飛来物の衝突が絶滅を引き起こすという考えは、1980年代になってもなお過激と見なされ、ちょっと頭がおかしいのではないかという第一印象さえ持たれかねなかった

私は1983年生まれだが、私が生まれた頃でさえまだ、「恐竜が隕石によって絶滅したと考えるのはおかしいんじゃない?」という考えが科学者の間では支配的だった、ということだ。一般的には非常に有名で馴染みのある見解だと思うが、科学的には長いこと疑問符の付く考え方だった、と知ることができた。

そもそも科学において、「隕石」という存在がなかなか厄介なものだったらしい。写真や映像などが存在せず、機械による科学分析もまだまだ難しかった時代には、「空から何か落ちてきた」という一般民衆の証言のみが頼りだったからだ。本書には、「隕石」の捉えられ方についてもこんな風に書かれている。

宇宙から飛来した物体が地球にぶつかるなんていう奇妙な現象は、とても信じがたいことのように思えるものだ。実際、かつての科学界はそんな主張をまったく真実だとは思わなかった

隕石が宇宙由来であるという考えがようやく正式に認められるにいたったきっかけは、1794年6月、シエナのアカデミーに不意にたくさんの石が落ちてきたことだった

科学の歴史は、その時代その時代における「常識」との闘いなのだが、「宇宙から石が飛んでくるはずがない」という考え方もまた、覆されるまでに時間が掛かった、ということだ。

「ダークマター」とは何か?

本書のもう一つの主役が「ダークマター」だが、一体これはなんだろうか?

これは、「目には見えない(ダーク)だが、存在すると仮定しないと説明がつかない物質(マター)」のことである。

ダークマターは、こんな風に”発見”された(この”発見”は”存在を仮定するに至った”という意味)。

科学者はある時、奇妙なことに気づいた。銀河の周縁部に存在している天体は、なぜ銀河から振り落とされないのだろうかという疑問を抱いたのだ。

例えばこんな想像をしてみてほしい。あなたはクルクル回る円盤の上に乗っている。円盤が回転すると、フィギュアスケーターのようにその場で回転し続けるのだ。さてその円盤の上にボウリングの球を抱えた状態で乗り、円盤を回転させよう。ボウリングを持ったあなた自身もクルクル回ることになる。

さてこの状態で、ボウリングの球を持った腕を少しずつ前に伸ばそう。ボウリングの球が身体からさほど離れていない時であれば、腕に掛かる力はそう大きくないが、腕をピンと伸ばし、自分の身体から遠く離れた場合にある時には、自分の腕にもの凄く大きな力が掛かることがイメージできるだろうか? 回転スピードが早くなればなるほど腕に掛かる力は大きくなり、ついには支えきれずにボウリングの球を離してしまうかもしれない。

銀河も実はこれと同じ状態にある。銀河の中心に近い天体はさほど大きな力を受けないのだが、銀河の周縁部に存在する天体はもの凄く大きな力を受ける。科学者の計算によると、銀河の周縁部にある天体は、あまりに大きな力を受けるため、普通に考えれば銀河に留まっていられずに飛び出してしまうはずという。

しかし実際にはそうならず、銀河の周縁部にある天体は銀河内に留まっている。不思議だ。どうしてそんなことが可能なのだろうか?

そこで科学者が考えたのが、目には見えない「ダークマター」である。

ここでもう一度、先程の回転する円盤の例に戻ろう。ここで、この円盤に乗るのがお相撲さんだとしよう(この例では、体重が重い=ボウリングの球を支える力が強い、とする)。普通の人では支えられない回転速度であっても、お相撲さんなら耐えられるかもしれない

銀河についてもこれと同じように考えることができる。「計算上、銀河を飛び出してしまう」というのは、「目に見える物質(の質量)」だけのことを考えている。もし、我々の目には見えない(つまり、光と相互作用しない)物質が存在していれば、計算が変わるのだ。

目に見える物質だけでは「ヒョロヒョロの男がボウリングの球を支えている」ようにしか考えられないが、実は「透明人間のお相撲さんも一緒にボウリングの球を支えている」とするなら理屈は合う。

そのような理由から、「宇宙には『透明人間のお相撲さん(ダークマター)』が存在するはずだ」と考えられるようになったのである。

さて先程、「ダークマターは光とは相互作用しない」と書いた。これは、我々の目には見えないということだ。さらに、仮に私たちの近くにダークマターが存在していても触れられないという。我々凡人には、どんなものか想像もつかない。

まだ「ダークマター」は発見されていない(つまり、科学者の妄想上の産物である)が、「ダークマターが存在するに違いない」という間接的な証拠は得られており、それらの証拠から、「ダークマターは重力としか相互作用しない」とも考えられている。

やはりイメージしにくいが、「目には見えないし、触ることもできないが、重力が存在すれば重力の影響を受ける物質」ということだ。

「ダークマター」は「暗黒物質」とも表記されるので注意しよう。また、「ダークマター」に似たものとして「ダークエネルギー」と呼ばれるものもあるが、両者はまったく別物である。ここでは詳しく説明しないが、この「ダークエネルギー」も、「まだ発見されていないが、存在を仮定しないとおかしなことになってしまうエネルギー」につけられた名前だ。

現在の科学では、宇宙は「ダークマター」「ダークエネルギー」「通常の物質(我々が知っている原子など)」で構成されていると考えられている。そしてその比率がなかなか衝撃的だ。「ダークマター」と「ダークエネルギー」を合わせて宇宙の96%を占め、「通常の物質」はたったの4%しかないと考えられている。つまり、これまでの科学では、宇宙全体の4%についてしか理解できていなかった、というわけだ。

「ダークマター」も「ダークエネルギー」もまだ発見すらされていない存在だが、本書では、「ダークマター」が存在すると仮定して、それがどんな性質を持つのかを研究した結果について様々に触れられている、ということである。

「DDDM理論」への道筋と、「恐竜絶滅」との関係性

さて、準備が整ったところで、本書のメインとなる主張についてざっくり触れていこう。

冒頭でも書いたが、本書は非常に高度な内容なので、すべてをきちんと理解できているわけではない。あくまでも、ざっくりとしか書けないが、それでも流れがなんとなく理解できるようには説明したいと思う。

著者と共同研究者は、別の研究者が提示したある数値に注目した。後に誤りだったと判明するのだが、その数値がまだ正しいと考えられている時期に著者らは、この数値が実現可能な何らかのモデル(仮説)を構築できないだろうか、と考えた。というのも、著者らが注目したその数値は、「ダークマターは対消滅によって生じたかもしれない」と示唆するものであり、仮にそれが正しいとすれば、ダークマターに関する新しい見方が可能だと考えられたからだ。

「ダークマター」に関しては、その存在の可能性が指摘されてから、「もし存在するとしたらどんなものなのか?」という研究が続けられてきた。なにせ、「目には見えず、触れられもせず、重力としか相互作用しない物質」である。かなり特異な性質だと言えるし、その候補に関しては様々な説が提案されていた。

しかし著者らは、「ダークマター」の候補探しに関して、研究者が無意識に排除している可能性に気づいた。それは、「ダークマターは1種類ではないかもしれない」という可能性だ。「ダークマター」の候補としては、「WIMP」「アクシオン」「ニュートリノ」などが示唆されていたが、著者らは、「これらのどれか1つを選ぶのではなく、複数のものがダークマターと関係していると考えてもいいのではないか」と発想したのだ。

これは、「通常の物質」に関する知見と照らし合わせても合理的な判断だと言える。「通常の物質」に関しては「標準モデル」と呼ばれる非常に精緻な理論が存在する。「ヒッグス粒子」の発見で最後のピースが埋まったことで完成したこの「標準モデル」では、様々な性質を持つ「素粒子」が関係して「通常の物質」が構成されている、ということが示されている。

だとすれば、「ダークマター」についても、複数の「ダークマター素粒子」が存在していると考えるのは自然な発想だろう。

そして著者らは、「ダークマター素粒子が複数存在するとしたらどうなるか?」という発想を突き詰めることで、これまで誰も想定したことのない構造物が銀河系に存在する可能性に気づき、それを「ダークディスク」と名付けた

これが本書で詳しく説明される「DDDM理論」の骨子である。

「ダークディスク」が存在するかは検証可能であり、観測によって見つかる(あるいは、想定した場所に見つからない)かもしれない。いずれその真偽が明らかになる日が来るだろう。

では、この「DDDM理論」はどのように「恐竜絶滅」と関係するのだろうか

著者のリサ・ランドールは、この研究の過程において、「恐竜絶滅」との関連性など考えたことはなかった。しかしある日、「DDDM理論」の原型となるアイデアを話すためにとあるディスカッションに参加した際、その主催者から、「もしかしたらあなたの考えが、恐竜絶滅のきっかけになったかもしれない」という話を聞いた。ここで初めて「DDDM理論」と「恐竜絶滅」が結びつくのだ。

実は古生物学の世界には、まったく解決不可能だと思われていた疑問があった。それは、「生物の絶滅には一定の周期があるように観察される」というものだ。もし生物の絶滅に周期が存在するとすれば、それは彗星や小惑星の動きと関連付けるしかないと考えられてはいたのだが、しかし既存のどんなモデルと照らし合わせてみても、生物の絶滅の周期を上手く説明するものは見つからなかったという。

この疑問に関して、進むべき方向性は2つある。1つは「生物の絶滅に周期が存在するという見方が間違っており、その考え方を捨てる」であり、もう1つが、「まだ知られていない何らかの現象によって、生物の絶滅の周期が説明できる」というものだ。

そこに、リサ・ランドールの「DDDM理論」が登場した。著者は「絶滅」に関するこの疑問を知った上で、再度「DDDM理論」を検討し、「DDDM理論は、絶滅の周期を説明できる可能性がある」と結論づけることになる。

これが、「ダークマター」と「恐竜絶滅」を結びつける、本書の主張のざっくりした説明だ。

「絶滅」に関する意外な話

ここまでの記述で、この記事本来の趣旨は終了だが、最後に、本書で触れられていた「絶滅」に関する興味深い話を取り上げて終わろうと思う。

まずはこんな引用から。

絶滅という概念は比較的新しい。フランスの博物学者で、のちに貴族にもなったジョルジュ・キュヴィエが、完全にこの惑星から消えてしまっている種があるという証拠に気づいたのが、ようやく1800年代初めのことだ。キュヴィエ以前にも、過去の動物の骨が発見されてはいたが、発見者は決まってそれらを現存する種と結びつけようとした。もちろん当時としては、まずそう考えるのが常識だったのだろう。たしかにマンモスとマストドンとゾウは別のものだが、それほど大きく違っているわけでもないのだから、最初はそれらを混同してもおかしくないし、少なくともそれらの化石を結びつけたくなるに違いない。これを解きほぐしたのがキュヴィエであって、彼の研究により、マストドンとマンモスは現在生きているどんな動物の直系祖先でもないことが実証された。キュヴィエは引き続き、ほかの多くの絶滅種も特定した。
だが、絶滅の概念はいまでこそしっかり確立しているが、種全体が消滅して二度と戻ってこないという考えは、最初は多くの抵抗にあった。

先程、「科学の歴史は、その時代その時代における『常識』との闘い」と書いたが、「絶滅」という概念についても認められるまでに時間が掛かったのである。我々が当たり前だと感じている考え方も、長い論争を経て「常識」となったということだ。

そしてこのような歴史を知ることによって、さらにこのような気づきを得ることができる。それは、「現在多数の賛同を得られていない考え方であっても、未来には当たり前の常識になるかもしれない」ということだ。自分が生きている時代だけを見ていると、なかなかこのことに気づきにくい。歴史を知るということの大事さを改めて実感させられる。

またもう1つ、「絶滅」に関して興味深い記述があった。

現在、多くの科学者は、現在まさに第六の大量絶滅が進行しつつあると考えている。しかも今回の絶滅は、もともと人間が引き起こしたものなのだ。(中略)推定は確定ではないが、現在のペースではことによると平均の何百倍も速い

「絶滅」という言葉は、あまり身近なものには感じられないし、自分とは関係がないものに感じられる。確かに、「メダカは絶滅危惧種だ」みたいな話を聞くこともあるが、あくまでもそれらは「一部の生物の話」だと考えてしまうし、我々がまさに今生きているこの瞬間に「絶滅」を意識することはあまりないだろう

しかし実は、過去のどの「絶滅」と比べても、今進行中の「絶滅」は驚異的なスピードで起こっているのだそうだ。そしてそれは間違いなく我々「人類」のせいだという。

この問題について、個人にできることはなかなか多くはないかもしれないが、自分の存在が他の生物種の絶滅に大きく関わっているというのは、罪悪感を抱かせる事実だなと感じさせられる。

著:リサ・ランドール, 監修:向山信治, 翻訳:向山 信治, 翻訳:塩原 通緒
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最後に

本書は、元々理系の人間で科学的な知識に関心がある私でもかなり高度な内容だと考えたので、「ちょっと面白そうだから読んでみよう」という感じで手を出せる作品ではないかもしれない。しかし、リサ・ランドールは難解な概念でもかなり噛み砕いて説明してくれるし(現役の科学者でこれだけ分かりやすく描写できるというのは凄い能力だと思う)、知的好奇心をバリバリと刺激してくれるのでチャレンジしてみる価値はあるだろう。

「まだ科学者の妄想の産物でしかないダークマターという物質」が、「ようやく隕石によるものと確定した恐竜絶滅」と関わっているというのも興味深い構図で、科学の奥深さを改めて実感させられる作品だった。

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