はじめに
この記事で取り上げる映画
この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
この記事で伝えたいこと
さっちゃんの「『始まってもいない恋』を終わらせるための儀式」がとにかく素敵すぎる



マジでこんなん「惚れてまうやろー!」って感じだった
この記事の3つの要点
- 自分の想いが絶望的なまでに届いていないことを自覚しながら、それでもぶつかっていくしかなかったさっちゃんの切実さ
- さらに、「私が今こうして気持ちを伝えていることが、相手にとって何の負担にもならないでほしい」という気持ちがビンビン伝わってきた
- もちろん、萩原利久・河合優実が演じた主人公2人の関係性も素敵である



河合優実目当てで観に行ったのだけど、実は伊東蒼演じるさっちゃんに全部持ってかれた映画でした
自己紹介記事




どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
映画『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』は、伊東蒼が長尺で独白するシーンがとにかく最高過ぎた!惚れてまうやろ、マジで!


本作は正直、「河合優実が主演を務めている」というだけの理由で観に行ったのですが、実際には河合優実が出てこないシーンにメチャクチャ感動させられました! それは、女の子がひたすら独白しているだけのシーンなのですが、ちょっと最高すぎるだろ、これは。ホント、ちょっと泣いちゃったもんなぁ。「言いたいことはちゃんと言うけど、相手にとって『不要』だろうものは取り除いておきたい」という、あまり使いたい言葉ではないけど「配慮」が完璧で、とにかく素敵だったなと思います。このシーンに至るまでの彼女の振る舞いもかなり好きだったのだけど、このシーンでホントに「惚れてまうわ!」みたいに感じさせられました。
このシーンだけ、いつでも観られるような状態にしておきたいよね



あるいは音声だけでもいいからずっと聞いていたい!


さっちゃんが全力で想いを伝えるメチャクチャ素敵なシーン
というわけでまずそのシーンの説明から始めましょう。本作の予告編でも十分示唆されていることなのでこれは書いてもネタバレではないと思いますが、本作の主人公・小西徹(萩原利久)のバイト仲間であるさっちゃん(伊東蒼)は小西のことが好きで、そしてある日勇気を振り絞ってその気持ちを伝えるのです。


2人は就業後の銭湯で清掃のアルバイトをしていて、とても気楽そうな関係に見えます。一方で、小西は大学で知り合った桜田花(河合優実)に惹かれていくのですが、彼女との関係は「気楽」とはほど遠い感じです。小西も桜田さんも、お互いに感覚や価値観が合うことが分かっている感じがしますが、それでも小西は、さっちゃんといる時みたいに「気楽」な感じにはなれません。
そしてさっちゃんには、その理由が分かっています。「小西くんが自分に気楽な感じで接してくれるのは、自分に興味がないから」だと理解できているのです。彼女はそれまでの様々なやり取りからそんな風に感じているのですが、観客にもそのことが分かりやすく伝わる描写があります。それが、スピッツの『初恋クレイジー』という曲に関するやり取りです。
さっちゃんの立場からするつとホント切ないよね



小西に悪意が無いのが余計に辛いんだよなぁ
バンド活動をしているさっちゃんはギターを弾いていて、それで小西くんに「スピッツの『初恋クレイジー』のイントロが世界最高だから是非聴いてほしい」とオススメしました。ただ、さっちゃんがその話を最初にした時の反応から、「たぶん小西は聴く気ないだろうなぁ」ということが伝わるだろうと思います。実際、さっちゃんはバイトで会う際に時々「『初恋クレイジー』聴いてくれた?」と聞くのですが、小西はそもそもタイトルさえ覚えていないという体たらくです。


ただ、これだけであれば「他人の言動に影響されない人」という捉え方も出来ると思います。しかし実際にはそういう解釈も難しいでしょう。
バイト中、小西はさっちゃんに「1週間前に知り合った女友達」の話をします。もちろん、桜田さんのことです。そしてそれに続けて、「彼女から『テレビの音量を最大にしてみたことある?』って聞かれて、実際にやってみた」という話をしていました。もちろん小西からすれば、当たり障りのない雑談のつもりだったでしょう。しかし当然のことながら、この話はさっちゃんにかなりのダメージを与えることになります。「私がオススメした曲は全然聴いてくれないのに、その友達の言ったことはすぐやるじゃん」みたいになるからです。
こういうことに気づかないものかねぇって感じだよね



私なら絶対に言わないし、最悪の場合でも、喋っている途中に「やべっ」って気づくと思う


さっちゃんは後の独白シーンでも、「小西くんが私に興味ないんだなってはっきり分かったエピソード」について語っていましたが、そちらもまた非常に悲しい話で、ホント小西の愚鈍ぶりが浮き彫りになる感じがしました。


ただこの話も、「さっちゃんからの好意に気づいていた小西が、やんわりと彼女を遠ざけようとした振る舞い」という解釈も出来なくはないでしょう。そしてもしそうであれば、ある意味でそれは「優しさ」と言えなくもありません。ただ本作では、その可能性を封じる描写があるのです。そしてこちらもまた、絶妙な感じで小西の「無邪気な残酷さ」を浮き彫りにするものだと言っていいでしょう。
さて、その話の前段として、小西がさっちゃんにピンチヒッターを頼む場面の説明をしておきます。清掃のバイトは1人態勢の日もあり、その日は小西だけが出勤の予定だったのですが、どうしても早く帰りたかった小西は、店主に頼んでさっちゃんを呼び出してもらいました。さっちゃんは、「明日の授業が早いから」という小西のお願いを快く引き受けるのですが(もちろんさっちゃんは、どんな理由であれきっと代わってあげたと思います)、実際には、小西は翌朝桜田さんとの待ち合わせがあり早く帰りたかったのです。その事実を知っている観客は、益々さっちゃんに同情してしまうでしょう。
さすがにこのシーンでは、さっちゃんは小西の発言を言葉通り受け取ってるだろうからね



まさか他の女性との予定のために呼び出されたとは思ってないだろうなぁ


その後、小西はさっちゃんに「この前代わってもらった埋め合わせに、ご飯ごちそうするよ」という話をします。これはまあ、自然な流れでしょう。ただ、2人は今日まで銭湯でのバイト中にしか顔を合わせたことがありません。それで小西はさっちゃんに、「外で会うのとか、ちょっと照れるな」と口にしたのです。
この瞬間私は心の中で、「小西、それはダメだぞ!」と叫びました。こんな風に言っているということは、小西はやはりさっちゃんからの好意に気づいていないわけで、だから小西としては「特段これといった意味を込めずに口にしただけ」なのでしょう。しかし、言われたさっちゃんは当然期待してしまうはずです。観ていてホントに、残酷なシーンだなと感じました。そしてこの時点で、「小西がさっちゃんからの好意に気づいていて、それをやんわり遠ざけようとしている」という可能性はゼロになったと言えます。このシーンが無ければ、まだ小西を擁護する余地もあったわけですが、完膚なきまでにアウトでした。



まあでも、小西がさっちゃんからの好意に気づいていないとしたら、非難されるべき言動じゃないんだけどさ
ただ、「好意に気づかなかった」ってのがセーフかどうかって問題が別途出てくるけどね
そしてそれからなんやかんやとあって、ある日、バイトが終わった後の帰り道で、さっちゃんが小西に「もしその子に告白して失恋したら、私が拾ったるから」と口にするという流れになります。いよいよ、さっちゃんの独白シーンの幕開けです。この発言に対して小西は、ちょっと冷たい声で「変な冗談止めて」みたいに返していました(この時の小西の言い方もなんか凄く嫌な感じだったんだよなぁ)。しかしさっちゃんは「冗談ちゃうよ」と言い、そこからひたすらに喋り倒すというわけです。


さっちゃんの、泣けてくるほど完璧すぎる「配慮」
さて、この独白シーンでさっちゃんが言っていることは結構メチャクチャな感じに聞こえるんじゃないかと思います。ただそれは、相反する2つの気持ちが彼女の内側でせめぎ合っているからです。彼女はまず、「小西くんのことがとにかく大好きだし、『好き』だってことをもっと早く伝えたら良かった」みたいな気持ちを強く持っています。しかしそれと同時に、「小西くんが私に興味ないことはずっと分かってたし、そんな状態で『好き』って伝えるのもなんか違うかも」みたいな理性的な感覚も抱いているのです。「『好き』って伝えたい/でもそんなの迷惑なはず」という葛藤が渦巻いているが故に、「支離滅裂」みたいに表現してもいいくらい、結構ハチャメチャな言い方になってしまったのでしょう。


で、そんなグチャグチャな感情のまま喋っている中で、彼女はたぶん、「その葛藤に折り合いをつける」以外の一筋の光明を見出したんじゃないかと私は考えています。彼女のその気持ちは、「私を失敗例だと思って」という言い回しに強く滲み出ていたような気がしました。つまり、「今の私のこの『ダサさ』が、小西くんの新たな恋の手助けになるんじゃないか(なってほしい)」みたいな気持ちになっていったんじゃないかというわけです。



この辺りの捉え方は、かなり私の独断と偏見でお送りしてるけど
でも基本的に、物語の捉え方に「正解」なんか無いって思ってるから、「独断と偏見上等」って感じだよね


さて、さっちゃんが独白するシーンについてざっくりおさらいしておくと、「さっちゃんは小西くんに自分の気持ちを伝えるのだけど、それが小西くんに届かないことは分かっていて、それでも小西くんに向けてひたすら喋り続けている」という感じになります。で、これは普通に考えてかなり気まずい状況のはずです。小西はさっちゃんが喋り続けている間なにも口にしませんが、それでも、彼の返事が「NO」であることは明白でしょう。そしてそのことが分かっていながらさっちゃんは、それでもなお小西くんに何かを伝えたいという気持ちを持ち続けているわけです。
そしてそんな”気まずい”状況をさっちゃんなりに成立させるために、「ダサい私を失敗例だと思って」という方向に全振りする決断をしたんじゃないかと考えています。「『私の気持ちを知ってほしい』って思うけど、でもそんなの小西くんにとってはただの迷惑でしかない。だけど、『私みたいにはならないで』って話なら、今この場で喋り続けていても何とか成立するかもしれない」みたいな思考になったんじゃないかというわけです。「小西くんに気持ちを伝えたい」という想いと、「自己防衛したい」という本能が噛み合ってそんなギアが入ったのかもしれません。


で、さっちゃんが語るその「私みたいにはならないで」って話が、聞いててとにかく苦しいのです。彼女は徹底して、「私の『失敗』が少しでも小西くんのためになるなら」というスタンスで喋っていて、その気持ちの強さが窺えます。そして、その想いの真摯さに号泣させられてしまいました。「綺麗ごとだ」みたいに感じる人もいるとは思うけど、でも「そこに自分はいなくても、好きな人が幸せでいてくれたら嬉しい」って気持ちを持っている人はそれなりにいるはずだし、そういう人には、さっちゃんの真剣すぎるその想いが伝わりすぎるぐらいに伝わるんじゃないかと思います。



私も割とそんな風に感じるタイプなんだよなぁ
そりゃあ自分と一緒にいてくれて幸せなら最高だけど、そうじゃないなら、相手の幸せを優先しちゃうよね
さらにさっちゃんは、小西くんの思考を先読みするかのようにして、「小西くんの罪悪感」を薄れさせようともしていました。これも本当に素敵だったなと思います。例えば彼女は、「『次会う時メッチャ気まずいじゃん』って思ってるかもだけど、大丈夫。メッチャ普通にするから」みたいなことを口にしていました。さっちゃんは、限界まで水が溜まったコップが一気に溢れ出したみたいな感じで怒涛のように小西くんに自分の気持ちを伝えてしまうわけですが、それでも、彼女の冷静な部分が「このままじゃ小西くんに負担をかけるだけだ」と判断して、自分の言動が小西くんに与えてしまい得る影響を限りなく排除しようとするのです。ホント、さっちゃんの心が美しすぎて泣けます。そしてこれは割と若い世代に共通している印象なのですが、「『好きだ』と伝えることがある種の『暴力』にもなり得る」という感覚をさっちゃんは抱いているはずで、それ故の「配慮」なわけです。さっちゃんのその気持ちは理解できるつもりだけど、でもやっぱり、「『そんな風に振る舞わないと自分のことが許せなくなる』みたいな感覚になってしまう」なんて状況は悲しいよなぁと感じました。


またさっちゃんはこの独白の中で、「『初恋クレイジー』を聴いてほしい」って言った「本当の理由」についても明かしています。いや別に、「イントロが最高」ってのが嘘だってわけでは全然なくて、もうちょっと違う意図もあったんだよって話です。そんな訴えも凄く泣けました。いやホントそうことだよなぁって思うし、「そんなこと言わせちゃいかん」って感じです。


というわけで、さっちゃんにとっては「何も始まっていないのに終わってしまった」という感じでしょうが、そんな彼女の独白シーンは「儀式」みたいにも捉えられるでしょう。決してキレイな形ではないかもしれないけど、「ちゃんと終わらせるための彼女なりの儀式」というわけです。「そんな『儀式』を経なければ小西くんへの想いを断ち切れなかった」なんて風にも受け取れるんじゃないかと思います。
さっちゃんの「必死さ」「切実さ」がとにかくメチャクチャ伝わってくるよね



それでいて「抑えなきゃ!」って気持ちがちゃんと滲んでるところも凄く良かった
さらに言えば、さっちゃんの振る舞いには「私にとっては切実すぎる『儀式』が、小西くんにとってはどうかまったく無意味なものでありますように」という逆説的な想いが詰まりまくっていて、その点も素晴らしかったです。ホント、メチャクチャ良かったんだよなぁ。全体で評価をするならもっと良い作品は色々思い浮かぶけど、シーン毎の評価で言ったら、ここ数年観た映画の中でも突出して良かったかもしれません。また同じことを書くけど、このシーンだけいつでも観られる(聴ける)ように手元に置いておきたいなぁ、ホントに。


映画『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』のその他感想
というわけで、ここまでほぼさっちゃんのことしか書いていないので、もう少し主人公2人の関係性にも触れておこうと思います。
もちろんですが、小西徹と桜田花の関係もとても素敵でした。小西はとある事情で半年も大学を休んでいたのですが、久々に登校したその日に同じ授業に出ていた桜田さんに惹かれる、というところから物語が始まっていきます。その後、「無理やり」と言っていいようなきっかけで顔見知りになるのですが、そんなスタートラインから、2人がかなり親密な感じになっていくまでの「時間の短さ」に違和感を抱かせないのはとても上手いなと感じました。
「そうはならんやろ」って思われてもおかしくないようなスピード感だからね



それが自然な感じに展開されていくところは上手かったなって思う
これは、もちろん脚本の妙もあるのだろうけど、やはり主演の2人、萩原利久と河合優実の演技の上手さのお陰だろうなと思います。どちらも「友達が全然いない」みたいな役どころなのですが、萩原利久も河合優実も「この佇まいなら確かに、『友達がいない』って言われても納得かも」というような存在感を醸し出していたのです。で、そうであれば、そんな2人が仲良くなるのも時間が掛かりそうなものですが、「この2人なら急に仲良くなるのも不思議じゃない」みたいな雰囲気もあって、絶妙だなと感じました。


また、本作は後半に行くに従って「えっ、そんな展開になるの!?」みたいな、フィクションだとしてもさすがにツッコみたくなるような流れになるのですが、この点についても「セレンディピティ」という単語をセリフの中に自然と織り込むことで違和感を中和させている気がします。その辺りの構成もとても良く出来ているなと感じました。別に「『セレンディピティ』って言ってれば何でもOKになる」みたいに思っているわけではないんですが、本作では何故かそういう雰囲気が滲み出ていて、それで、普通なら「ちょっとあり得ないだろ」と感じられるような展開にも、あまり違和感を覚えずに済んでいるんだと思います。
あと、さっちゃんだけではなく、本作には桜田花の独白もあり、さっちゃんとはまた全然違う雰囲気ながら、やはり惹き込まれる感じがあって素敵でした。しんどかったはずの状況を淡々と口にする雰囲気に、逆に感情が詰め込まれている感じがあって、凄く良かったなと思います。ただ、その後の「さくら~」のくだりは「うーむ」って感じでしたけども。



何か意味があるシーンだったのかなぁ
ちょっと違和感ありすぎて、考察すべき何かがあるんだとしても、ちょっと上手く受け取れなかったよね




最後に
というわけで私としては、とにかく「さっちゃんの独白」が最高すぎて、メチャクチャ印象に残りました。素晴らしかったです。河合優実ももちろん素敵でしたが、本作ではさっちゃんを演じた伊東蒼が圧倒的な存在感を放っていたなと思います。シンプルに言って最高でした!
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